知財判決速報2011

2012年02月06日

小型USBフラッシュメモリ形態模倣事件(控訴審)−著作権 損害賠償請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

小型USBフラッシュメモリ形態模倣事件(控訴審)

知財高裁平成23.11.28平成23(ネ)10033損害賠償請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所 第1部
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官      東海林保
裁判官      矢口俊哉

*裁判所サイト公表2012.1.31
*キーワード:著作物性、複製、翻案、準拠法、商品形態模倣、営業秘密、一般不法行為

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■事案

小型USBフラッシュメモリの商品形態模倣性や設計図の著作物性が争点となった事案の控訴審

原告(控訴人) :電子機器製造販売会社(台湾法人)
被告(被控訴人):電子機器製造販売会社

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、21条、27条、不正競争防止法2条1項3号、7号、民法709条、通則法17条、22条



1 不競法2条1項3号該当性
2 不競法2条1項7号該当性
3 著作権侵害性
4 一般法行為の成否


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■事案の概要

『1 本件は台湾法人で一審原告である控訴人が,日本法人で一審被告である被控訴人に対し,被控訴人が平成18年12月1日から同19年11月30日までの間に小型USBフラッシュメモリを台湾の会社に製造委託してこれを日本に輸入して販売したことに関し,
(1)上記小型USBフラッシュメモリは控訴人が製造する商品の形態を模倣したものであって,被控訴人による上記輸入・販売は不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項3号の不正競争行為に該当する,
(2)上記小型USBフラッシュメモリは被控訴人が控訴人から示された営業秘密を不正に使用して製造されたものであって,不競法2条1項7号の不正競争行為に該当する,
(3)被控訴人による上記小型USBフラッシュメモリの製造は,台湾の著作権法上,控訴人の著作物である小型USBフラッシュメモリの設計図の著作権(翻案権)を侵害する,
(4)被控訴人による上記小型USBフラッシュメモリの製造・販売は,控訴人の技術情報を使用して行われたものであって,民法709条の不法行為に該当する,
を理由として(上記(1)ないし(4)は選択的併合),控訴人に生じた損害541億8000万円(逸失利益540億円及び弁護士費用1億8000万円)の一部である20億円(逸失利益19億円及び弁護士費用1億円)の賠償及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成20年2月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
2 平成23年3月2日に言い渡された原判決は,上記(1)ないし(4)の理由に該当する事実は認められないとし,控訴人の請求を棄却したので,これに不服の控訴人が本件控訴を提起した。
3 本件控訴は,上記本訴請求のうち,損害賠償1億円と平成20年2月2日からの遅延損害金の支払を求める限度でなしたものである(一部控訴)』(1頁以下)

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■判決内容

<争点>


1 不競法2条1項3号該当性
2 不競法2条1項7号該当性
3 著作権侵害性
4 一般法行為の成否


各争点について、控訴審でも原審の判断を維持してその成立を否定しています。
なお、控訴人は、不法行為の根拠として、被控訴人の信義則違反や契約締結上の過失をさらに主張しましたが、いずれも原判決認定の事実関係の下では前提事実自体が存在しないとして、その主張を容れていません(47頁以下)。

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■コメント

台湾の電子機器製造メーカーがソニーを訴えていた事案の控訴審判決ですが、結論は覆りませんでした。

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■過去のブログ記事

2011.6.6記事
小型USBフラッシュメモリ形態模倣事件

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2012年02月01日

テレビCM原版事件−著作権 損害賠償請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

テレビCM原版事件

東京地裁平成23.12.14平成21(ワ)4753損害賠償請求事件等PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 大須賀滋
裁判官      菊池絵里
裁判官      小川雅敏

*裁判所サイト公表 2012.1.17
*キーワード:映画の著作物、著作者、映画製作者、著作権の帰属

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■事案

テレビCM原版の著作権の帰属などが争点となった事案

原告:映像企画制作会社
被告:広告代理店、原告元取締役A

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法21条、2条3項、16条、2条1項10号、29条

1 本件各CM原版の著作権の帰属
2 被告らの損害賠償責任の成否

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■事案の概要

『本件は,原告が,(1)被告アドックに対し,<ア>原告が制作したケーズデンキの新店舗告知のテレビCM原版(新店舗名部分が空白の原版)について,被告アドックが無断で当該原版を使用して新たに新店舗告知のテレビCM原版(新店舗名を挿入した完成版)を制作し,そのプリント(CM原版のコピー)を作成した旨主張し,また,原告が制作した新店舗告知のテレビCM原版(上記と同様の完成版)について,被告アドックが無断でそのプリントを作成した旨主張し,著作権侵害(新店舗名部分が空白の原版の複製権侵害)を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求として,原告の利益相当額604万5500円(附帯請求として内金134万3000円〔CM原版5本65万円及びプリント42本69万3000円〕に対する訴状送達の日の翌日である平成20年11月1日から,内金470万2500円〔プリント285本470万2500円〕に対する訴えの変更申立書送達の日の翌日である平成21年1月23日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払を求めるとともに,<イ>原告が制作したブルボンの商品告知のテレビCM原版について,被告アドックが無断でそのプリントを作成した旨主張し,著作権侵害(当該テレビCM原版の複製権侵害)を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求として,原告の利益相当額300万3000円(附帯請求として訴えの変更申立書送達の日の翌日である平成21年1月23日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払を求め(第1事件),(2)原告の取締役であった被告Aに対し,上記,涼作権侵害を被告アドックと共同して行ったなどと主張して,不法行為又は債務不履行(取締役としての善管注意義務・忠実義務違反)に基づく損害賠償請求として,904万8500円(附帯請求として訴状送達の日の翌日である平成21年11月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払を求めた(第2事件)事案』(2頁以下)

<経緯>

H17.5 Bがケーズデンキに対してプレゼン。原告、被告会社がプレゼン案に関与
H17.11BがブルボンCMについて、撮影、編集等に原告を選定
H18   Bが代理店とのオリエンテーションに参加。代理店がケーズデンキCM制作受注
H18.6 ケーズデンキテレビCM原版(本件ケーズCM原版)制作
H19.6 ブルボンテレビCM原版(本件ブルボンCM原版)制作
H20.3 被告Aが原告会社の取締役を退任

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■判決内容

<争点>

1 本件各CM原版の著作権の帰属

裁判所はまず、テレビCM原版の制作の特徴として、広告主の意向を把握した上で原版制作作業を指揮できる立場にある者の役割の重要性について言及しています(18頁以下)。そして、大手広告代理店を退職し被告広告代理店の監査役に就任していたBがCM制作を総合的に指揮していたと判断しています。

(1)本件ケーズCM原版について

裁判所は、本件ケーズCM原版が映画の著作物(2条3項)であるとした上で、本件ケーズCM原版の著作者については、Bが本件ケーズCM原版においてその全制作過程に関与し、CMのコンセプトを定め、出演タレントを決定するとともに、CM全体の予算を策定し、撮影・編集作業の指示を行っていたとして、映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者(16条本文)にあたるとして、本件ケーズCM原版の著作者と認めるのが相当であると判断しています。

次に、本件ケーズCM原版の著作権の帰属について、裁判所は、映画の著作物の著作権の帰属に関する29条1項の趣旨や映画製作者の意義(2条1項10号)から、本件ケーズCM原版では、その製作する意思を有する(発意)主体としては、広告代理店(訴外)である電通か、広告主であるケーズデンキであると判断。原告の映画製作者性を否定しています(25頁以下)。

(2)本件ブルボンCM原版について

本件ブルボンCM原版も映画の著作物(2条3項)であるとした上で、本件ブルボンCM原版の著作者については、Bが電通に勤務していた平成7年からブルボンのCM制作を担当し、撮影、編集等を担当する制作会社の選定を行い、本件ブルボンCM原版についても企画・制作を指揮していたとして、映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者(著作権法16条本文)にあたるとして、本件ブルボンCM原版の著作者と認めるのが相当であると判断しています(26頁以下)。

次に、本件ブルボンCM原版の著作権について、その製作する意思を有する(発意)主体としては、広告代理店である電通か、広告主であるブルボンであると判断。原告の映画製作者性を否定しています。

結論として、原告はいずれのCM原版についても著作権を有するとは認められていません。

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2 被告らの損害賠償責任の成否

原告が本件各CM原版の著作権を有しておらず、被告広告代理店に対する不法行為に基づく損害賠償請求は認められていません(28頁)。
また、被告A(原告の元取締役)についても、不法行為及び債務不履行に基づく損害賠償請求のいずれも認められていません(28頁以下)。

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■コメント

原告の元取締役であったAに対する債務不履行(取締役としての善管注意義務、忠実義務違反)の主張内容からすると、原告が受注を見越していたCM制作やプリントの作成を受注できなかった点が紛争のきっかけかと思われますが、判決文を読む限り、その期待が法的に保護されるだけの契約関係等の裏付けがあったのか、論拠が弱い印象です。

テレビCMの著作権関係については、制作会社、広告代理店、広告主の共同著作物(65条)として捉えることも可能であると思われますが、マルチユースを予定しないテレビCM原版については著作権を議論する必要性が現場では低いのかもしれません。
たとえば社団法人全日本シーエム放送連盟著作権委員会編「CM著作権 昨日・今日・明日」(2003)194頁以下を拝見しますと、本件でも行われているプリ・プロダクション・ミーティング(事前全体確認会議)で著作権の帰属といった細かい部分での合意形成までは議論されていない状況が今日でもあるのではないかと思われます。


■追記(2012.11.08)

控訴審記事
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2012年01月30日

女性用ボレロ編み物編み図事件−著作権 損害賠償等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

女性用ボレロ編み物編み図事件

東京地裁平成23.12.26平成22(ワ)39994平成22(ワ)39994損害賠償等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 大須賀滋
裁判官      菊池絵理
裁判官      森川さつき

*裁判所サイト公表 2012.1.17
*キーワード:著作物性、美術の著作物、図形の著作物

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■事案

女性用ボレロの毛糸編み物や編み図の著作物性が争点となった事案

原告:手編み物作家
被告:毛糸等繊維会社、編物教室主宰者

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、10条1項4号、6号

1 原告編み物の著作物性の有無
2 原告編み図の著作物性の有無

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■事案の概要

『別紙原告作品目録記載1及び2の編み物(以下,それぞれ「原告編み物1」,「原告編み物2」といい,両者を併せて「原告編み物」という。)及び同目録記載3及び4の編み図(以下,それぞれ「原告編み図1」,「原告編み図2」といい,両者を併せて「原告編み図」という。また,原告編み物と原告編み図を併せて「原告作品」という。)の制作者である原告が,被告Q(以下「被告Q」という。)が被告ニッケ商事株式会社(以下「被告会社」という。)に別紙被告作品目録記載1の編み物(以下,被告Qが納入した編み物及びその複製品を総称して「被告編み物」という。)及び同目録記載2の編み図(以下「被告編み図」といい,被告編み物と併せて「被告作品」という。)を納入し,被告会社が被告編み物を下請業者に製作させて展示,販売し,被告編み物を写真撮影して雑誌等に掲載して使用し,かつ,被告編み図を多数複製して顧客や販売店等に頒布するなどしたことに関し,被告作品は原告編み物又は原告編み図を複製,翻案したものであり,被告会社撮影に係る別紙被告作品目録記載3の写真(以下「被告編み物写真」という。)は原告編み物又は原告編み図を翻案したものであり,被告作品の展示は展示権を侵害するなどと主張し,被告らに対し,被告作品及び被告編み物写真の展示,販売,販売の申出の差止め,侵害品の廃棄を求めるとともに,被告らの行為は上記各権利を侵害したほか原告の著作者人格権(氏名表示権)を侵害するものであって,被告らは,故意又は過失により,共同して上記各行為に及んだものであるから,著作権及び著作者人格権侵害の共同不法行為責任に基づき,被告らに対し,連帯して,損害賠償金合計660万円(附帯請求として平成22年7月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払を求め,さらには,被告らに対し,著作権法115条に基づき,謝罪広告の掲載を求める事案』(2頁)

<経緯>

H10.3 原告が原告編み物と編み図を制作
H10.4 被告Qが原告編み物を展示
H10.6 原告が被告Qへ手紙を送付
H21   被告Qが被告会社から制作業務受託
H22.7 原告が被告らに内容証明郵便通知

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■判決内容

<争点>

1 原告編み物の著作物性の有無

原告が制作した編み物の著作物性について、裁判所は、著作権法2条1項1号の趣旨に言及した上で、原告が主張する創作性の部分が『「形の最小単位は直角三角形であり,この三角形二つの各最大辺を線対称的に合わせて四角形を構成し,この四角形五つを円環的につなげた形二つをさらにつなげた形」と表現される別紙図面記載の構成(本件構成)』(23頁)部分であると認定しています。
そして、原告編み物においては、編み目の方向の変化、編み目の重なり、各モチーフの色の選択、編み地の選択等の点がその表現を基礎付ける具体的構成となっているものということができ、原告編み物は、これらの具体的構成によって思想又は感情を表現しようとしたものであると判断。
こうした具体的構成を捨象した「線」から成る本件構成は、表現それ自体ではなく、そのような構成を有する衣服を作成するという抽象的な構想又はアイデアにとどまるものというべきものとして、創作性の根拠とはならないとしています。

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2 原告編み図の著作物性の有無

次に仕上がり寸法や編み方、展開図が示された原告編み図の著作物性について、裁判所は、原告が主張する創作性の部分は、本件構成を表示した部分であり、原告編み図の表示のうち、展開図(2枚目)についてであると認定しています(25頁以下)。
そして、争点1と同様、本件構成自体は、そのような形の衣服を作成するという抽象的な思想又はアイデアにすぎず、これを表示する展開図に著作物性を認めることはできないと判断しています。

なお、編み図の美術又は図形の著作物性(10条1項4号、6号)についても、これを否定しています(27頁)。

美術の著作物性については、『原告編み図を美術の著作物としてみた場合,上記展開図は,直角三角形二つの最大辺同士を合わせて形成される不等辺四角形五つを,直角三角形の鋭角を中心点に合わせて並べて正五角形に近い形(正五角形の一辺に切り込みの入った形状)とし,これを横に二つ並べた図形を直線によって描いたものにすぎず,これにその他の説明のための文字,記号等を含めて考えてみても,その具体的表現において,「美術の範囲に属するもの」というべき創作性を認め得るものではない』(27頁)と判断されています。

また、図形の著作物性については、図面としての見やすさや編み方の説明のわかりやすさに関する創意工夫が表現上現れているか否かによって創作性の有無を検討すべきであるとした上で、原告編み図においては、編み物の作成方法の説明としてはありふれたものであったり、編み図における一般的な表示方法又は一般的ルールに従ったものであり、図面としての見やすさや説明のわかりやすさに関して、特段の創意工夫を加えたものということはできないとして、図形としての著作物性も否定しています。

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■コメント

本件は、原告が被告Qのニット編み物教室で被告の補佐を務めていたという人間関係のなかでの著作権紛争となります。
具体的な作品がどのようなものだったのか画像がなくてよく分かりませんが、原告の編み物2点の関係性を捉え直し、編み目の方向の変化、編み目の重なり、各モチーフの色の選択、編み地の選択といった具体的構成による表現としての創作性を争点として構成した場合、裁判所は侵害性の点を含め、どのような判断に至っていたでしょうか(24頁以下参照)。

なお、衣料品の類否(デッドコピー)が争点となる事案としては、不正競争防止法案件(2条1項3号)のほうが多いかもしれません(ノースリーブ型カットソー事件、レース付衣料品事件等)。
また、折り図の著作物性については、先日の折り紙の事案が記憶に新しいところです(吹きゴマ折り図事件)。

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■過去のブログ記事

2007年7月18日記事
レース付衣料品事件
2012年1月5日記事
吹きゴマ折り図事件(控訴審)
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2012年01月10日

浄水器取扱説明書事件−著作権 著作権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

浄水器取扱説明書事件

大阪地裁平成23.12.15平成22(ワ)11439著作権侵害差止等請求事件PDF

大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官 山田陽三
裁判官      達野ゆき
裁判官      西田昌吾

*裁判所サイト公表 2011.12.28
*キーワード:取扱説明書、編集著作物性、著作物性、一般不法行為論

*関連事件
大阪地裁平成23.12.15平成22(ワ)11862商標権侵害差止等請求事件
大阪地裁平成23.12.15平成22(ワ)13746意匠権侵害差止等請求事件

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■事案

逆浸透膜浄水器の取扱説明書の著作物性や編集著作物性が争点となった事案

原告:浄水器・浄水装置等輸入製造販売会社
被告:浄水器・浄水装置等の輸出入販売会社、建設会社

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法12条1項、2条1項1号、民法709条

1 原告各取扱説明書は編集著作物か
2 原告各取扱説明書は著作物か
3 被告各取扱説明書の作成・頒布は不法行為か

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■事案の概要

『原告は,被告取扱説明書1,3の作成・頒布が,原告取扱説明書1に係る編集著作権(主位的主張),全体の著作権(予備的主張1),各頁の著作権(予備的主張2),法的に保護された利益(予備的主張3)を侵害し,被告取扱説明書2の作成・頒布が,原告取扱説明書2に係るこれらの権利・利益を侵害するとして,(1) 被告らに対し,著作権法112条1項に基づき,被告各取扱説明書の作成・頒布の差止めを,(2)被告NMT販売に対し,不法行為に基づき,283万2000円の損害賠償及びこれに対する平成22年8月13日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまでの遅延損害金の支払を,(3)被告大倉に対し,不法行為に基づき,168万6300円の損害賠償及びこれに対する平成22年8月17日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまでの遅延損害金の支払を,それぞれ求め』た事案(3頁以下)

<経緯>
H19.6 原告と被告NMT販売が総販売代理店契約締結
       被告NMT販売が製造した商品を販売開始
H21.9 原告が注意喚起文書を送付

原告製品1の1:CV−1500EX(原告取扱説明書1の1)
原告製品1の2:CV−1500SR(原告取扱説明書1の2)
原告製品2:CVQ−2000(原告取扱説明書2)
被告製品1:GW−1500EX(被告取扱説明書1、被告取扱説明書3)
被告製品2:CVQ−2000EX(被告取扱説明書2)

意匠権:1218817
商標権:4054568、4539857、4054569

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■判決内容

<争点>

1 原告各取扱説明書は編集著作物か

編集著作物として著作権法上の保護を受けるためには、素材の選択、配列に係る具体的な表現形式において創作性があることが必要とされますが(著作権法12条1項)、取扱説明書における編集著作物としての保護性について、裁判所は、その性質上、製品概要や取扱方法、タイトルやイラストといった一定の表記方法が要求され、かつ、広く採用されていると考えられるとして、製品の取扱説明書に係る編集著作物性を判断するにあたっては、これらの内容や表記方法は、「原則としてありふれた表記である」ということができると説示。
その上で、原告各取扱説明書の創意工夫について、原告が指摘した、

(1) 図面、記号、マーク、具体例の使用
(2) 各種団体公認の表記
(3) 取扱説明書の趣旨及び安全上の遵守事項の記載の先行
(4) 文字サイズ、文字飾り、インパクトのある単語、マークによる強調
(5) イラスト図面・記号の使用、記載場所、大きさ等

の諸点に関して、通常行われているありふれたものあったり、そもそも「素材の選択」にも「素材の配列」にも該当しないものである、としてその創作性を否定。
また、写真、図面、説明文の配置やその他の表記もレイアウト上の工夫としてありふれたものと判断。原告各取扱説明書の編集著作物性を否定しています(23頁以下)。

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2 原告各取扱説明書は著作物か

1.全体としての著作物性

原告各取扱説明書全体の著作物性について、その記載内容が逆浸透膜浄水器の説明、各部の名称、取扱説明書の説明、安全上の注意、設置方法、使用方法、メンテナンス、トラブル対処法、保証の範囲外といった客観的事実に係るもので、それらが箇条書きあるいは短い文章で正確を期した説明がされていることから、その表現は必然的にありふれたものとならざるを得ないとして、全体としての著作物性を否定しています(25頁)。

2.各頁の著作物性

さらに原告が著作物性を有するとした各頁の個別の記載を検討しています(25頁以下)。
結論としては、いずれもありふれた表現方式であるなどとして、その著作物性を否定しています。

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3 被告各取扱説明書の作成・頒布は不法行為か

原告は、原告各取扱説明書が様々な創意工夫をし、多大な時間と労力を費やして作成されたものであることから、これらをデッドコピーした被告各取扱説明書を原告が営業活動を行う地域で頒布することは、取引における公正かつ自由な競争として許される範囲を逸脱し、法的保護に値する原告の営業活動を侵害するものだと主張しました(29頁以下)。
しかし、裁判所は、被告各取扱説明書は対象製品から独立して頒布されるものではないこと、また、原告各取扱説明書は著作権法上の保護を受けられず、その利用は許されるものであることから、被告各取扱説明書の作成・頒布は不法行為法上違法になるとは認めていません。

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■コメント

総販売代理店契約に違反して代理店が類似商品を販売したという事案です。著作権、商標権、意匠権に関する各侵害行為についてそれぞれ別訴提起となっていますが、3つの事件では契約違反に基づく損害賠償請求の点は争点になっていません。
原告取扱説明書2と被告取扱説明書2の類否を被告が争っていないなど(17頁以下)、被告販売会社設立の経緯や契約内容の詳細は不明な部分です。
結論としては、著作権侵害性は否定されたものの、商標権と意匠権の各侵害性は別訴で肯定されていて、差止めや損害賠償請求が認められています。

なお、商品の取扱説明書の著作物性については、先例として風呂バンス事件(後掲の浴湯保温器取扱説明書事件参照)がありますが、ここでも取扱説明書の編集著作物性は否定されています。

ところで、商品の取扱説明書については、商品開発者の思いを受け止めながら、客観的事実を正確に、また、利用者に読み易く、法令遵守で作成する必要があり、取扱説明書の著作物性の有無はともかくとして、その制作には文章表現のみならず、編集、レイアウト、デザイン、DTP技術など、創意と技術と労力が要求されます。
取扱説明書の作成を担当するテクニカルライターさん方は、日々その研鑽を重ねておいでです(たとえば、テクニカルライターの会参照)。
工夫を凝らした取扱説明書の先例があれば、そのエッセンスを吸収してより良い説明書を作成していく、という意味では、模倣の、そのさらに上を目指しておいでなのが、テクニカルライターのお仕事ぶりといえます。

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■過去のブログ記事

2005年12月29日記事
浴湯保温器取扱説明書事件

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■参考判例

浴湯保温器取扱説明書事件
大阪高裁平成17.12.15平成17(ネ)742不正競争行為差止等請求控訴事件
大阪地裁平成17.2.8平成15(ワ)12778不正競争行為差止等請求事件

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■参考サイト

原告サイト
ご購入に関してのご注意。ニューメディカテック株式会社のクリスタルヴァレー逆浸透膜浄水器

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2012年01月05日

吹きゴマ折り図事件(控訴審)−著作権 損害賠償等請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

吹きゴマ折り図事件(控訴審)

知財高裁平成23.12.26平成23(ネ)10038損害賠償等請求控訴事件PDF
別紙1から3(原審別紙資料)

知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官      池下 朗
裁判官      武宮英子

*裁判所サイト公表 2011.12.27
*キーワード:著作物性、アイデア表現二分論、複製権、翻案権、公衆送信権、著作者人格権、一般不法行為論

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■事案

折り紙作家の「吹きゴマ」折り図を無断でTV局の番組ウェブサイトに改変掲載されたとして、折り図の著作物性や複製権、翻案権侵害性が争点となった事案の控訴審

原告(控訴人) :創作折り紙作家
被告(被控訴人):株式会社TBSテレビ

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、21条、27条、23条、19条、20条、民法709条

1 著作権侵害の有無
2 著作者人格権侵害の有無
3 法的保護に値する利益の侵害を理由とする不法行為の成否等

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■事案の概要

『折り紙作家である原告は被告に対し,被告の制作に係るテレビドラマ「ぼくの妹」の番組ホームページ(「http://www.tbs.co.jp/bokunoimouto/news.html」。本件ホームページ)に被告折り図(原判決の別紙2記載の「吹きゴマ」の折り図。説明文を含む。)を掲載した被告の行為について,主位的に,被告折り図は,「1枚のかみでおる おりがみ おって遊ぶ −アクションおりがみ−」と題する原告書籍に掲載された本件折り図(原判決の別紙1記載の「へんしんふきごま」の折り図。説明文を含む。)を複製又は翻案したものであり,被告による被告折り図の作成及び本件ホームページへの掲載行為は,原告の著作物である本件折り図について原告の有する著作権(複製権ないし翻案権,公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権)の侵害に当たる旨主張し,著作権侵害及び著作権人格権侵害の不法行為による損害賠償として285万円及び遅延損害金の支払と著作権法115条に基づき被告の運営するホームページに別紙謝罪文目録1記載の謝罪文の掲載を求め,予備的に,仮に被告の上記行為が著作権侵害及び著作権人格権侵害に当たらないとしても,原告の有する法的保護に値する利益の侵害に当たる旨主張し,上記利益の侵害の不法行為による同額の損害賠償及び遅延損害金の支払と民法723条に基づき上記ホームページに別紙謝罪文目録2記載の謝罪文の掲載を求めた。』

『原判決は,本件折り図の著作物性を認めたが,被告折り図から本件折り図の表現上の本質的特徴部分を直接感得することができないとして,被告による被告折り図の作成及び本件ホームページへの掲載行為は,原告の複製権ないし翻案権及び公衆送信権のいずれの侵害にも当たらない,同一性保持権及び氏名表示権のいずれの侵害にも当たらないと判断し,原告の主位的請求は理由がないとした。また,被告の一連の行為が原告の法的保護に値する利益を侵害する違法なものとして不法行為を構成するとは認められないとして,原告の予備的請求も理由がないとした』事案(2頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 著作権侵害の有無

控訴審は、原判決の判断を是認した上で、控訴審での当事者の補足的主張について判断しています。
被告折り図と本件折り図との対比について、

【共通点】
(1)32の折り工程からなる「へんしんふきごま」(吹きゴマ)の折り方について、10個の図面(説明図)及び完成形を示した図面(説明図)によって説明している
(2)各説明図でまとめて選択した折り工程の内容
(3)各説明図は、紙の上下左右の向きを一定方向に固定し、折り筋を付ける箇所を点線で、付けられた折り筋を実線で、折り筋を付ける手順を矢印で示している等

【相違点】
(1)本件折り図
折り方の折り工程のうち矢印、点線等のみでは読み手が分かりにくいと考えた箇所について説明文及び写真を用いて折り方を補充して説明する表現方法を採っている。また、写真を用いた説明箇所がある。
(2)被告折り図
折り工程の順番を丸付き数字で示した上で,折り工程の大部分について説明文を付したものであって、説明文の位置付けは補充的な説明にとどまるものではなく、読み手がこれらの説明文と説明図に示された点線、実線及び矢印等から折り方を理解することができるような表現方法を採っている。
また、色分けをしていない点、本件折り図における「工夫のヒント」の記載内容と被告折り図における「完成!」の記載内容が異なる。

以上の諸点から、被告折り図と本件折り図とは、折り図としての見やすさの印象が大きく異なり、分かりやすさの程度においても差異があるとして、被告折り図は本件折り図の有形的な再製には当たらず、また、被告折り図から本件折り図の表現上の本質的特徴が直接感得できるともいえないと判断。
被告が被告折り図を作成する行為は、本件折り図について有する原告の複製権ないし翻案権を侵害しないと判断しています(7頁以下)。

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2 著作者人格権侵害の有無

被告による被告折り図の作成及び本件ホームページへの掲載行為が、原告が保有する本件折り図についての同一性保持権及び氏名表示権を侵害するかどうかについて、被告折り図から本件折り図の表現上の本質的特徴が直接感得できないことから、著作者人格権侵害性も否定されています(9頁)。

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3 法的保護に値する利益の侵害を理由とする不法行為の成否等

原告は、折り紙作品のテレビ無断放映と本件折り図のホームページ無断掲載などについて不法行為を構成する旨主張しましたが、いずれも裁判所に認められていません(9頁以下)。

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■コメント

控訴審でも原審の判断が維持されています。
別紙1と2_ページ_1
(別紙1本件折り図)
別紙1と2_ページ_2
(別紙2被告折り図)
別紙3_ページ_1

別紙3_ページ_2
(別紙3対比表)

被告折り図と本件折り図の共通点である32の工程を10個の図面で説明する手法といった説明手法自体は、読者に対してわかりやすく説明するための手法であって具体的表現ではない(9頁)として、アイデアと表現の区別について、控訴審でも原審同様の判断となっています。
原告側としても、32の工程を10個の図面を用いた構成とすること自体がアイデアの範疇に属することは認識した上で、折り工程の選択によるその具体的表現を問題としているわけですが(4頁)、どの工程を選択していくつの工程でまとめてそれを具体的にどのように表現していくかということは、連続しているので(アイデアと表現の連続性)、その区別の判断は難しい部分です(たとえば、最近では箱根富士屋ホテル物語事件で、原審と控訴審で著作物性の判断が分かれました)。
一方では、折り紙の折り図の著作物性についてみれば、その作品の折り図を分かり易く表現する場合の表現方法は選択の幅が狭くなり、デッドコピーのような場合以外は創作作家さんに折り図の独占を認めるべきではない、という価値判断が強く働く種類の著作物となりますので、保護の範囲も狭くなると思われるところです。
いずれにしても、折り紙の折り図の著作物性(2条1項1号)が肯定され得ること、また、どの程度違う内容であれば、工程が似通っていても非侵害となるかという知財高裁レベルでの事例判断として参考になる事案です。

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■過去のブログ記事

2011年5月25日記事
吹きゴマ折り図事件

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■追記(2012.01.08)

企業法務戦士の雑感
踏んだり蹴ったりのTBS

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2012年01月03日

火災保険契約説明書事件−著作権 損害賠償請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

火災保険契約説明書事件

東京地裁平成23.12.22平成22(ワ)36616損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官      大西勝滋
裁判官      石神有吾

*裁判所サイト公表 2011.12.27
*キーワード:著作物性、職務著作性、一般不法行為論、品質等誤認惹起行為、秘密保持契約

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■事案

火災保険に関する説明書面の著作物性などが争点となった事案

原告:損害保険代理店
被告:損害保険会社

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、15条1項、21条、114条3項、不正競争防止法2条1項13号、民法709条

1 著作権侵害の成否
2 本件秘密保持契約違反の有無
3 不競法2条1項13号の不正競争行為の成否
4 一般不法行為の成否
5 損害論

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■事案の概要

『損害保険の代理店業等を営む原告が,損害保険会社である被告に対し,被告が,原告と被告間の損害保険代理店契約が解除された後に,原告の著作物である別紙1の「平成22年1月1日付け火災保険改定のお知らせ」と題する説明書面(「本件説明書面」という。)を複製し,これを含む別紙2の案内資料(以下「被告案内資料」という。)を原告の顧客である社会福祉法人に送付し,被告との火災保険契約の締結を勧誘した行為は,原告の本件説明書面についての著作権(複製権)の侵害,上記解除に伴い原告と被告間で締結された秘密保持契約違反の債務不履行,不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項13号の不正競争行為及び一般不法行為に該当するとして,民法709条,415条及び不競法4条に基づく損害賠償と遅延損害金の支払を求めた事案』(2頁)

<経緯>

H15.4 原告被告間で損害保険代理店契約締結
H19.6 代理店契約解除。本件秘密保持契約締結
H21.10原告が本件説明書面を作成
H21.11被告が被告案内書面を作成
H22.1 火災保険内容改定

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■判決内容

<争点>

1 著作権侵害の成否

(1)本件説明書面の著作物性

「平成22年1月1日付け火災保険改定のお知らせ」と題する顧客向け文章と、地域別に建物の構造級別区分ごとの保険料率の改定幅を数値で示した一覧表及び区分判定チャート方式図表からなる原告の本件説明書面の著作物性(著作権法2条1項1号)がまず争点となっています(16頁以下)。

この点について、被告は、火災保険の内容改定といった既定の事実や変更点についての客観的なデータの羅列又は集合にすぎず、また、改定内容を正確に記述することが強く求められるものであるとして、本件説明書面に著作物性が成立しないと反論しました。

しかし、裁判所は、本件説明書面の構成やデザインは、本件改定の内容を説明するための表現方法として様々な可能性があり得る中で本件説明書面の作成者が本件改定の内容を分かりやすく説明するという観点から、特定の選択を行い、その選択に従った表現を行ったものといえるとした上で、これらを総合した成果物である本件説明書面の中に作成者の個性が表現されているものと認めることができると判断。著作物性を肯定しています。

(2)本件説明書面の職務著作該当性

本件説明書面は原告の第一営業部長のY1が作成したものであり、原告の発意に基づき、その業務に従事する者が職務上作成した著作物であり、原告の著作名義の下で公表され、また、別段の定めもないとして、本件説明書面の職務著作該当性(15条1項)を肯定。本件説明書面の著作者は原告であると認められています(18頁)。

(3)被告による複製権侵害の有無

被告による複製権侵害の有無について、裁判所は、被告案内資料中の「見本(1)」及び「見本(2)」と題する各書面は、被告が本件説明書面に「見本(1)」及び「見本(2)」の文字、矢印及び文字囲み(本件説明書面の本文部分中の「14.71%から最大で48.48%の大幅アップとなります。」との部分)を手書きで加えたものを複写して作成したコピーであるとして、被告による上記各書面の作成行為は、本件説明書面の複製(著作権法2条1項15号)に該当することが明らかであり、また、被告は本件説明書面の複製につき原告の許諾を得ていないことから、原告の複製権(21条)を侵害すると判断しています(19頁)。

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2 本件秘密保持契約違反の有無

損害保険代理店契約解除に伴い、原被告間で契約期間中の顧客情報を含めた情報の取扱いについて秘密保持契約を締結していました。
この点について、原告は、被告が被告案内資料を送付した先がいずれも本件特約火災保険の契約者であることから、被告は本件代理店契約の締結中に知り得た本件契約情報中の契約者に関する情報に基づいて送付先の社会福祉法人を選定したものであり、被告による被告案内資料の送付行為は、本件秘密情報に属する本件契約情報を自己の営業目的に使用する行為に当たるものといえるとして、本件秘密保持契約(4条)に違反する旨主張しました。
しかし、裁判所は、被告案内書面の内容は、必ずしも本件特約火災保険の契約者のみを対象とした書面としてしか理解できない内容となっているものではないことなどから、被告案内資料の送付先選定が、本件契約情報中の契約者に関する情報に基づいて行われたと認めず、契約違反性を否定しています(19頁以下)。

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3 不競法2条1項13号の不正競争行為の成否

原告は、被告案内書面に保険契約に関する虚偽の内容が含まれているとして、役務内容誤認惹起行為性(不正競争防止法2条1項13号)を争点としました(22頁以下)。
しかし、裁判所は、虚偽の内容を含むものではなく、また需要者に誤認を生じさせる内容でもないとして、13号の該当性を否定しています。

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4 一般不法行為の成否

被告の書面複製行為から勧誘行為に亘る一連の行為は、公正な競争として社会的に許容される限度を超える違法な行為であるとして、一般不法行為(民法709条)が成立すると原告は主張しました(26頁)。
しかし、裁判所は、被告に少なくとも過失が認められる著作権侵害行為のほかは、一般不法行為が成立するものではないとして、これを否定しています。

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5 損害論

本件説明書面の著作権使用料相当額(114条3項)として15万円、また、弁護士費用相当額として10万円の合計25万円が損害額として認定されています(26頁以下)。

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■コメント

社会福祉法人向けの火災保険説明書面の無断複製があったことから、その書面の著作物性が争点となりました。
書面内容のアップがないためその詳細が分かりませんが、保険内容の改定や保険料率の改定幅といった、客観的な事実を伝える書面という性質からすると、表現の選択の幅が狭く、著作物性が否定されてもおかしくない事案だったかもしれません。
著作物性を否定しつつ、デッドコピー利用の点を捉えて一般不法行為論での処理も考えられるところですので(法律書籍事件 知財高裁平成18.3.15平成17(ネ)10095損害賠償等請求控訴事件参照)、引続き控訴審の判断を注視したいと思います。
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2011年12月31日

SARVH対東芝私的録画補償金事件(控訴審)−著作権 損害賠償請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

SARVH対東芝私的録画補償金事件(控訴審)

知財高裁平成23.12.22平成23(ネ)10008損害賠償請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官 塩月秀平
裁判官      真辺朋子
裁判官      田邉 実

*裁判所サイト公表 2011.12.26
*キーワード:私的録画補償金、特定機器、協力義務、法律の委任

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■事案

私的録画補償金徴収の対象となる機器の特定と製造業者の協力義務の内容が争点となった事案の控訴審

控訴人 :私的録画補償金管理協会(SARVH)
被控訴人:株式会社東芝

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法30条2項、施行令1条2項3号、104条の5、民法709条

1 協力義務の法的意義
2 特定機器該当性
3 不法行為の成否


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■事案の概要

『被控訴人は,アナログチューナーを搭載しない原判決別紙製品目録1ないし5記載のDVD録画機器(「被控訴人製品」)を製造,販売するが,著作権法104条の2第1項2号の指定管理団体である控訴人は,被控訴人製品が著作権法30条2項所定のデジタル方式の録音又は録画の機能を有する「政令で定める機器」(特定機器)に該当するとの主張を前提にし,被控訴人においては著作権法104条の5所定の製造業者等の協力義務として,その購入者から被控訴人製品に係る私的録画補償金相当額を徴収して控訴人に支払うべき法律上の義務があるなどと主張し,控訴の趣旨のとおり私的録画補償金相当額の支払を求めている。』

『原審は,被控訴人製品はデジタルチューナーを搭載するだけでアナログチューナーを搭載しないが,それでも特定機器に該当すると判断しつつも,著作権法104条の5が規定する特定機器の製造業者等が負う協力義務は,控訴人の主張するような法律上の具体的な義務ではなく,法的強制力を伴わない抽象的な義務であると解されるから,被控訴人がその協力義務として被控訴人製品に係る私的録画補償金相当額の金銭を支払う義務を負うものと認めることはできず,控訴人主張の不法行為の成立も認められないとして,控訴人の請求を棄却した。』(2頁)

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■判決内容

<争点>

1 協力義務の法的意義

(1)「上乗せ徴収・納付」方式の法文上の不明確性

著作権法改正の経緯から、特定機器の製造業者等による法104条の5に基づく「協力」の内容として具体的に想定されていたのは、「特定機器の出荷価格に私的録画補償金相当額を上乗せして出荷し、利用者から当該補償金を徴収して、指定管理団体に対し当該補償金相当額の金銭を納付すること」(「上乗せ徴収・納付」方式)であったとした上で、上乗せ額を被控訴人に請求することができるとすべき根拠は法文上一義的に明確ではないと判断しています(24頁以下)。

(2)協力義務違反の可能性

もっとも、法は、補償金制度の実効性確保のため、録音・録画機器の提供を行っている製造業者等が、公平の観念上、権利者の報酬取得の実現について協力することを要請しており、特定機器の製造業者等は、「補償金の支払の請求及びその受領に関し」協力しなければならないとされたものであると控訴審は判断。
製造業者等が協力義務に違反したときに、指定管理団体(本件では控訴人)に対する直截の債務とはならないとしても、その違反に至った経緯や違反の態様によってはそれについて指定管理団体が被った損害を賠償しなければならない場合も想定されるとして、法104条の5違反ないし争点3(被控訴人による不法行為の成否)における控訴人主張を前提とする請求が成り立つ可能性があるとしています。

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2 特定機器該当性

著作権法施行令1条2項3号所定の「アナログデジタル変換によって行われた」影像を連続して固定する機能を有する機器との要件は、アナログ放送をデジタル変換して録画が行われることを規定したものであり、しかも、この変換は、DVD録画機器に搭載されるアナログチューナーからのアナログ信号を対象にするものであるとした上で、当該機器においてアナログチューナーを搭載しないDVD録画機器については、アナログデジタル変換が行われず、施行令1条2項3号該当性は否定されると判断。
被控訴人製品についてもデジタルチューナーのみを搭載する機器であるとして、被控訴人には法104条の5の義務違反があると認めることはできないと認定しています(27頁以下)。

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3 不法行為の成否

不法行為についても特定機器該当性を前提とする主張であるとして、その成立が否定されています(44頁)。

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■コメント

原審では、協力義務が抽象的な義務にすぎず、ただ、特定機器該当性は肯定するとしていましたが、控訴審では、協力義務の具体的義務の可能性を実態を踏まえて肯定した上で、ただ、特定機器該当性は否定するとして、結論としては、原審、控訴審いずれも原告サーブ敗訴の結果の判断となっています。

著作権法改正の経緯の詳細な検討を踏まえた上での判断ですが、技術の進展や利害関係の調整から曖昧な規定になったとすれば、立法技術としてその規定振りについては、今後より一層の配慮が求められるかもしれません。
著作権法では、規定の曖昧さが問題となった昭和28年問題(「シェーン」格安DVD事件 最高裁平成19.12.18など)がありましたが、2012年は、震災を契機にほぼ1年ストップしてしまった権利制限一般規定法案にも注目したいと思います。

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■過去のブログ記事

2011年01月24日記事
SARVH対東芝私的録画補償金事件

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■参考サイト

企業法務戦士の雑感(2011−12−23)
[企業法務][知財]「抜かずの宝刀」を抜いたツケ
(2011−12−29)
[企業法務][知財]手放しで喜べない知財高裁判決の危うさ〜私的録画補償金判決をめぐって

金子寛人(日経パソコン 2011/12/27)
SARVH対東芝、知財高裁の判決のポイントをひもとく−ニュース:ITpro

小寺信良「金曜ランチボックス」(有料配信メルマガ 2011年12月23日配信)
金曜ランチボックス Vol.008 <補償金裁判特別号>

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2011年12月26日

Winnyファイル共有ソフト刑事事件(上告審)−著作権 著作権法違反幇助被告事件決定(最高裁判所判例集)−

最高裁判所HP 最高裁判所判例集より

Winnyファイル共有ソフト刑事事件(上告審)

最高裁平成23.12.8平成21(あ)1900著作権法違反幇助被告事件PDF

裁判長裁判官 岡部喜代子
裁判官      那須弘平
裁判官      田原睦夫
裁判官      大谷剛彦
裁判官      寺田逸郎

*裁判所サイト公表 2011.12.21
*キーワード:Winny、P2P、幇助意思、公衆送信権

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■事案

「被告人がファイル共有ソフトであるWinnyをインターネットを通じて不特定多数の者に公開,提供し,正犯者がこれを利用して著作物の公衆送信権を侵害した事案につき,著作権法違反幇助罪に問われた被告人に幇助犯の故意が欠けるとされた事例」(裁判要旨)

被告人:研究者

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■結論

上告棄却

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■争点

条文 著作権法23条、119条、刑法62条1項

1 幇助犯の成立要件として「違法使用を勧める行為」まで必要か
2 幇助犯の故意の成否

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■事案の概要

『被告人が,ファイル共有ソフトであるWinnyを開発し,その改良を繰り返しながら順次ウェブサイト上で公開し,インターネットを通じて不特定多数の者に提供していたところ,正犯者2名が,これを利用して著作物であるゲームソフト等の情報をインターネット利用者に対し自動公衆送信し得る状態にして,著作権者の有する著作物の公衆送信権(著作権法23条1項)を侵害する著作権法違反の犯行を行ったことから,正犯者らの各犯行に先立つ被告人によるWinnyの最新版の公開,提供行為が正犯者らの著作権法違反罪の幇助犯に当たるとして起訴された事案』(1頁)

<経緯>

H14.4 被告人がWinny開発に着手
H14.12Winny1.00公開
H15.4 Winny1.14公開
H15.5 Winny2公開
H15.9 正犯者B、Cが公衆送信権侵害
H18.12.13 京都地裁 幇助犯の成立を認め、罰金150万円
H21.10.8  大阪高裁 一審破棄、無罪言い渡し

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■判決内容

<争点>

1 幇助犯の成立要件として「違法使用を勧める行為」まで必要か

原判決では、インターネット上における不特定多数者に対する価値中立ソフトの提供という本件行為の特殊性に着目して、「ソフトを違法行為の用途のみに又はこれを主要な用途として使用させるようにインターネット上で勧めてソフトを提供する場合」に限って幇助犯が成立すると判断していました。

これに対して上告審は、当該ソフトの性質(違法行為に使用される可能性の高さ)や客観的利用状況のいかんを問わずに、提供者において外部的に違法使用を勧めて提供するという場合のみに限定することに十分な根拠があるとは認め難く、刑法62条の解釈を誤ったものであるといわざるを得ない、と判断しています(5頁以下)。

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2 幇助犯の故意の成否

もっとも、Winnyの価値中立ソフトといった性格から、

『ソフトの提供者において,当該ソフトを利用して現に行われようとしている具体的な著作権侵害を認識,認容しながら,その公開,提供を行い,実際に当該著作権侵害が行われた場合や,当該ソフトの性質,その客観的利用状況,提供方法などに照らし,同ソフトを入手する者のうち例外的とはいえない範囲の者が同ソフトを著作権侵害に利用する蓋然性が高いと認められる場合で,提供者もそのことを認識,認容しながら同ソフトの公開,提供を行い,実際にそれを用いて著作権侵害(正犯行為)が行われたときに限り,当該ソフトの公開,提供行為がそれらの著作権侵害の幇助行為に当たると解するのが相当である』(6頁以下)

と説示。本件では、

(1)被告人が現に行われようとしている基本的な著作権侵害を認識、認容しながら本件Winnyの公開、提供を行ったものではないことは明らかであること
(2)客観的に見て例外的とはいえない範囲の者がそれを著作権侵害に利用する蓋然性が高い状況の下での公開、提供行為であったことは否定できないこと
(3)被告人の主観面をみると、被告人は本件Winnyを公開、提供するに際して本件Winnyを著作権侵害のために利用するであろう者がいることや、そのような者の人数が増えてきたことについては認識していたと認められるものの、いまだ、被告人においてWinnyを著作権侵害のために利用する者が例外的とはいえない範囲の者にまで広がっており、本件Winnyを公開、提供した場合に例外的とはいえない範囲の者がそれを著作権侵害に利用する蓋然性が高いことを認識、認容していたとまで認めるに足りる証拠はない

として、結論としては、著作権法違反罪の幇助犯の故意を欠くとして、幇助犯の成立を否定しています。

なお、被告人に侵害的利用の高度の蓋然性についての認識と認容が認められるとする反対意見(大谷剛彦裁判官)が付されています(11頁以下)。

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■コメント

原判決がインターネット社会における新しい幇助犯の類型の基準を提示したものの、上告審はその基準は採用せずに幇助犯の故意を問題として主観面で処理し、原判決と同じく無罪の判断を下しています。

幇助犯の故意については、正犯者の実行行為によって基本的構成要件が実現されることの表象を必要とする見解もありますが(木村亀二、平場安治ほか)、正犯者が実行行為を行うことを表象すれば足りるとの見解もあります(大塚仁、大谷實ほか)。後者の見解に立つ場合、幇助行為と構成要件的結果との因果関係の認識を必要とせず、幇助行為の結果として、正犯の実行が容易になることの認識があれば足りることとなります(川端後掲書参照)。
また、幇助犯の故意は、未必的な故意で足りると考えられています(川端・西田ほか後掲書参照)。

大谷剛彦裁判官の反対意見があるように、主観面での評価が分かれていて、微妙な判断であることが窺われます。
本判決について、詳しくは、企業法務戦士の雑感さんの後掲ブログ記事を、また原判決に関する文献一覧については、藤本後掲論文をご覧頂けたらと思います。

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■参考文献

壇 俊光、金子 勇「ウィニー刑事事件判決について」『著作権法の新論点』(2008)39頁以下
藤本孝之「ファイル共有ソフトの開発提供と著作権侵害罪の幇助犯の成否−Winny事件」『知的財産法政策学研究』(2010)26号167頁以下 論文PDF
桑野雄一郎「著作権侵害の罪の客観的構成要件」『島大法学』(2010)54巻1、2号117頁以下 論文PDF
川端 博『刑法総論講義第二版』(2006)572頁以下
川端 博、西田典之、原田國男、三浦 守編『裁判例コンメンタール刑法第一巻』(2006)588頁以下

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■参考サイト

企業法務戦士の雑感
[企業法務][知財]Winny無罪は必然か?それともクリスマスの奇跡か?

壇弁護士の事務室(2011/12/21)
Winny弁護団コメント
金子勇コメント

誠 Biz.ID:Winny裁判と向き合って:取締役・金子勇が考えるエンジニアの未来、経営の明日(1−3)(2011年08月26日)

寄稿:小倉秀夫弁護士Winny裁判を考える なぜ「幇助」が認められたか(1−3)ITmediaニュース(2006年12月19日)
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2011年12月19日

「第(3)世界」着うた違法配信事件−著作権 損害賠償請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「第(3)世界」着うた違法配信事件

東京地裁平成23.11.29平成23(ワ)16905損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官      上田真史
裁判官      石神有吾

*裁判所サイト公表 2011.12.12
*キーワード:音楽著作物、ジャスラック、着うた、違法配信、複製、公衆送信

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■事案

着うた等の音楽著作物を違法にインターネット配信していた事案の民事訴訟

原告:著作権等管理事業者
被告:携帯電話向け配信サイト運営者

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■結論

請求認容

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■争点

条文 著作権法

1 損害論

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■事案の概要

『著作権等管理事業者である原告が,原告が著作権を管理する音楽著作物のデータをレンタルサーバのハードディスクに蔵置し,携帯電話を使用してインターネットを利用する不特定多数の者の求めに応じて上記データをダウンロードさせた被告の行為が上記音楽著作物の複製権及び公衆送信権の侵害に当たる旨主張して,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償を求めた事案』(1頁以下)

<経緯>

H18.3 被告が着うた等の配信サービスを開始
H20.10被告が逮捕される
H21.2 被告が有罪判決を受ける

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■判決内容

<争点>

1 損害論

被告が公示送達による呼出しを受けたものの本件口頭弁論期日に出頭しておらず、裁判所は侵害論についてこれを肯定した上で、損害論については、

(1)使用料相当損害金(著作権法114条3項)

本件サイトにアップロードされていた1万8000件のファイルのうち、原告管理著作物は90%に当たるとした上で、使用料規程に基づき31ヶ月間の期間中の使用料相当損額金を算定。原告の主張通り、合計1億6089万5700円と判断されています(2頁以下)。

(2)弁護士費用

弁護士費用相当損害額として1000万円を認めています。

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■コメント

2009年に有罪判決を受けた携帯電話向け違法配信サイト運営者に対する民事訴訟となります。
1億7000万円もの損害額となっており、被告に賠償能力があるかどうか、実際に回収できるか困難さはあるものの、著作権管理事業者が権利者から預かった権利を適切に保護・管理している姿勢が示されています。

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■参考サイト

ジャスラックプレスリリース(2009年2月23日)
「第(3)世界」の違法配信サイトの運営者に懲役3年(執行猶予5年)罰金500万円の有罪判決

INTERNET Watch(2009/02/23 14:15)
違法着うた配信で罰金500万円、「第3世界」運営者に判決

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2011年12月16日

月光仮面DVD事件−著作権 著作権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

月光仮面DVD事件

東京地裁平成23.11.29平成23(ワ)17393著作権侵害差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 阿部正幸
裁判官      山門 優
裁判官      志賀 勝

*裁判所サイト公表 2011.12.12
*キーワード:映画の著作物、複製、頒布、サブライセンス契約

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■事案

テレビ映画作品「月光仮面」「快傑ハリマオ」のDVD製造販売サブライセンス契約上の再許諾権付与の有無が争点となった事案

原告:テレビ映画著作権管理会社
被告:CD・DVD製造販売会社

本件両作品:

1 「月光仮面」第1部「どくろ仮面」篇(全71回)
2 「快傑ハリマオ」第5部「風雲のパゴダ」篇(全13回)

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法21条、26条、114条3項

1 被告はアートステーションから本件両作品の複製及び頒布に係る利用権を得たか
2 被告の故意・過失
3 損害論

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■事案の概要

『テレビ映画の企画,製作及び販売並びに映像著作物の版権管理及び利用開発等を業とする原告が,CD・DVDの製造販売等を業とする被告において,故意又は過失により,原告から許諾を得ることなく,原告が著作権を有するテレビ映画作品「月光仮面」及び「快傑ハリマオ」をDVDに複製するとともに頒布することで原告の複製権及び頒布権を侵害したとして,被告に対し,著作権法112条1項に基づきDVD商品の複製及び頒布の差止めを求めるとともに,著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償を求める事案』(2頁)

<経緯>

H18.12 原告とアートステーションがライセンス契約締結
        アートステーションが株式会社サイドエーにDVD製造を依頼
        アートステーションがDVDを被告に販売
        サイドエーが倒産、アートステーションが被告にDVD製造を依頼
        被告が製造費回収のためDVDを販売
H20.6  被告が本件両作品をDVDに複製、販売

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■判決内容

<争点>

1 被告はアートステーションから本件両作品の複製及び頒布に係る利用権を得たか

被告は、アートステーションに対して本件両作品を4万5000枚のDVDに複製して頒布する対価として、1枚当たり50円(消費税別)のロイヤリティを支払い、アートステーションから本件両作品のDVDへの複製とその頒布の許諾を得たのであって、アートステーションから本件両作品の複製及び頒布に係る利用権を得ていたと反論しました。
しかし、裁判所は、アートステーションと原告との間のライセンス契約(本件契約)3条1項により、本件両作品の複製及び頒布の再許諾を禁じられていたことから、被告がアートステーションとの間で締結したライセンス契約によっては本件両作品の複製及び頒布に係る利用権を得ていないと判断しています(7頁以下)。

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2 被告の故意・過失

原告が本件両作品について有する著作権(複製権及び頒布権)を侵害したことに関する被告の過失について、裁判所は、DVDの製造販売業界では、再許諾を認めるとライセンス対象物の管理や広告宣伝、パッケージの表示内容、品質管理が困難となるため、再許諾を禁じるのが通常であること、また、アートステーションは、被告との間でライセンス契約を締結した当時、資金繰りに窮しており、被告への製造費も支払えなかったという事実があることを前提に判断。
被告がDVDの製造販売業者としてライセンサーである原告に対してアートステーションへの再許諾権付与の有無を問い合わせたり、アートステーションに対してライセンス契約書を提示させたりしてアートステーションが再許諾権を有しているか確認すべき注意義務を負っていたものの、被告は問い合わせや提示をさせるといったことをしていないとして、被告の過失を認定しています(8頁以下)。

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3 損害論

(1)著作権法114条3項による損害額

52.5円(一枚当たりの利用料相当額)×1万4000枚=73万5000円

(2)弁護士費用 7万3500円

合計80万8500円の損害額が認定されています(9頁以下)。

結論として、損害賠償とともに本件各商品の複製及び頒布の差止めを認めています。

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■コメント

テレビ映画作品「月光仮面」「快傑ハリマオ」のDVD製造販売サブライセンス契約に基づいサブライセンシーは製造販売したものの、実はそのサブライセンス契約上の再許諾権が裏付けのないものであったという事案です。
映像著作物のDVDパッケージ製造・販売の苦戦の様子が判決文から伺え、資金繰りの厳しさが伝わります。

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2011年12月13日

北朝鮮映画事件(対フジテレビ)上告審−著作権 著作権侵害差止等請求事件判決(最高裁判所判例集)−

最高裁判所HP 最高裁判所判例集より

北朝鮮映画事件(対フジテレビ)上告審

最高裁平成23.12.8平成21(受)602著作権侵害差止等請求事件PDF

裁判長裁判官 櫻井龍子
裁判官      宮川光治
裁判官      金築誠志
裁判官      横田尤孝
裁判官      白木 勇

*裁判所サイト公表 2011.12.8
*キーワード:未承認国の著作物の保護義務、自然権論、インセンティブ論、一般不法行為論

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■事案

日本が国家として承認していない北朝鮮国民の著作物が日本の著作権法や民法でも保護されるかどうかが争われた事案の上告審

一審原告:朝鮮映画輸出入社(平壌:北朝鮮行政機関)
       映像企画制作仲介会社(東京)
一審被告:フジテレビ

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■結論

その他

裁判要旨
『1 文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約に我が国が国家として承認していない朝鮮民主主義人民共和国が事後に加入した場合において,我が国が朝鮮民主主義人民共和国との間で同条約に基づく権利義務関係は発生しないという立場を採っている以上,同国の国民の著作物である映画は,著作権法6条3号所定の著作物には当たらない
2 著作権法6条各号所定の著作物に該当しない著作物の利用行為は,同法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り,不法行為を構成しない』

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■争点

条文 著作権法6条3号、民法709条

1 北朝鮮著作物の我が国における著作権法上の保護の可否
2 一般不法行為の成否

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■事案の概要

『本件は,平成21年(受)第602号被上告人・同第603号上告人(以下「1審原告X1」という。)及び平成21年(受)第603号上告人(以下「1審原告X2」といい,1審原告X1と1審原告X2を併せて「1審原告ら」という。)が,朝鮮民主主義人民共和国(以下「北朝鮮」という。)で製作された原判決別紙映画目録1記載1nの映画(以下「本件映画」という。)の一部を1審原告らの許諾なく放送したAを承継した平成21年(受)第602号上告人・同第603号被上告人(以下「1審被告」という。)に対し,(1)主位的に,本件映画を含む北朝鮮で製作された同目録1ないし3記載の各映画(以下「本件各映画」という。)は北朝鮮の国民の著作物であり,文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約(以下「ベルヌ条約」という。)により我が国が保護の義務を負う著作物として著作権法6条3号の著作物に当たると主張して,本件各映画に係る1審原告X2の公衆送信権(同法23条1項)が侵害されるおそれがあることを理由に,1審原告X2において本件各映画の放送の差止めを求めるとともに,Aによる上記の放送行為は,本件各映画について1審原告X2が有する公衆送信権及び1審原告X1が有する日本国内における利用等に関する独占的な権利を侵害するものであることを理由に,上記各権利の侵害による損害賠償を請求し,(2)原審において,予備的に請求を追加し,仮に本件映画が同法による保護を受ける著作物に当たらないとしても,上記放送行為は,1審原告らが本件映画について有する法的保護に値する利益の侵害に当たると主張して,不法行為に基づく損害賠償の支払を求める事案』(2頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 北朝鮮著作物の我が国における著作権法上の保護の可否

原審において、本件各映画が著作権法6条3号の「条約によりわが国が保護の義務を負う著作物」とはいえないと判断された点について、以下のように原審の判断を是認しています(5頁以下)。

『 一般に,我が国について既に効力が生じている多数国間条約に未承認国が事後に加入した場合,当該条約に基づき締約国が負担する義務が普遍的価値を有する一般国際法上の義務であるときなどは格別,未承認国の加入により未承認国との間に当該条約上の権利義務関係が直ちに生ずると解することはできず,我が国は,当該未承認国との間における当該条約に基づく権利義務関係を発生させるか否かを選択することができるものと解するのが相当である。』

『 これをベルヌ条約についてみると,同条約は,同盟国の国民を著作者とする著作物を保護する一方(3条(1)(a)),非同盟国の国民を著作者とする著作物については,同盟国において最初に発行されるか,非同盟国と同盟国において同時に発行された場合に保護するにとどまる(同(b))など,非同盟国の国民の著作物を一般的に保護するものではない。したがって,同条約は,同盟国という国家の枠組みを前提として著作権の保護を図るものであり,普遍的価値を有する一般国際法上の義務を締約国に負担させるものではない。』

『 そして,前記事実関係等によれば,我が国について既に効力を生じている同条約に未承認国である北朝鮮が加入した際,同条約が北朝鮮について効力を生じた旨の告示は行われておらず,外務省や文部科学省は,我が国は,北朝鮮の国民の著作物について,同条約の同盟国の国民の著作物として保護する義務を同条約により負うものではないとの見解を示しているというのであるから,我が国は,未承認国である北朝鮮の加入にかかわらず,同国との間における同条約に基づく権利義務関係は発生しないという立場を採っているものというべきである。』

『 以上の諸事情を考慮すれば,我が国は,同条約3条(1)(a)に基づき北朝鮮の国民の著作物を保護する義務を負うものではなく,本件各映画は,著作権法6条3号所定の著作物には当たらないと解するのが相当である。』

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2 一般不法行為の成否

原審では、テレビ局側の一般不法行為の成立が肯定されていましたが、この点について最高裁は以下のように述べてその成立を否定しました(7頁以下)。

『 著作権法は,著作物の利用について,一定の範囲の者に対し,一定の要件の下に独占的な権利を認めるとともに,その独占的な権利と国民の文化的生活の自由との調和を図る趣旨で,著作権の発生原因,内容,範囲,消滅原因等を定め,独占的な権利の及ぶ範囲,限界を明らかにしている。同法により保護を受ける著作物の範囲を定める同法6条もその趣旨の規定であると解されるのであって,ある著作物が同条各号所定の著作物に該当しないものである場合,当該著作物を独占的に利用する権利は,法的保護の対象とはならないものと解される。したがって,同条各号所定の著作物に該当しない著作物の利用行為は,同法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り,不法行為を構成するものではないと解するのが相当である。』

『 これを本件についてみるに,本件映画は著作権法6条3号所定の著作物に該当しないことは前記判示のとおりであるところ,1審原告X1が主張する本件映画を利用することにより享受する利益は,同法が規律の対象とする日本国内における独占的な利用の利益をいうものにほかならず,本件放送によって上記の利益が侵害されたとしても,本件放送が1審原告X1に対する不法行為を構成するとみることはできない。』

『 仮に,1審原告X1の主張が,本件放送によって,1審原告X1が本件契約を締結することにより行おうとした営業が妨害され,その営業上の利益が侵害されたことをいうものであると解し得るとしても,前記事実関係によれば,本件放送は,テレビニュース番組において,北朝鮮の国家の現状等を紹介することを目的とする約6分間の企画の中で,同目的上正当な範囲内で,2時間を超える長さの本件映画のうちの合計2分8秒間分を放送したものにすぎず,これらの事情を考慮すれば,本件放送が,自由競争の範囲を逸脱し,1審原告X1の営業を妨害するものであるとは到底いえないのであって,1審原告X1の上記利益を違法に侵害するとみる余地はない。』

『 したがって,本件放送は,1審原告X1に対する不法行為とはならないというべきである。』

結論として、1審被告の上告に基づき、原判決中1審被告敗訴部分を破棄して、同部分につき1審原告X1の請求を棄却するなどされています。

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■コメント

「未承認国家との権利義務関係を発生させるかは我が国の選択の問題」、その選択問題と著作権法の制度趣旨(自然権論かインセンティブ論)、「特段の事由がない限り」の文言に起因する一般不法行為成立の要件論の問題と、論点については端的に今村頼太先生がご指摘でおいでですが(Twitter @Raita_Imanishi)、国際法上の論点とともに知的財産法制で保護されない場合の民法の一般不法行為論での保護の可否についてさらに研究が深まることが期待されます。

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■過去のブログ記事

原審(2009年1月10日記事)
北朝鮮映画事件(対フジテレビ)控訴審

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■参考判例

原審(知財高裁平成20.12.24平成20(ネ)10011 )

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■参考文献

前掲ブログ記事掲載の論文のほか、

今西頼太「著作権非侵害行為と一般不法行為」『同志社法学』60巻7号(2009)1177頁以下論文PDF
窪田充見「不法行為法と知的財産法の交錯」『著作権研究』36号(2010)29頁以下
張 睿暎「未承認国の著作物と不法行為−北朝鮮映画放映事件−」同上書182頁以下
田村善之ほか「シンポジウム 著作物の隣接領域と著作権法」同上書1頁以下
田村善之「民法の一般不法行為法による著作権法の補完の可能性について」『コピライト』607号(2011)40頁以下

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■参考サイト

企業法務戦士の雑感
■[企業法務][知財]最後の最後で使われた切り札。〜北朝鮮映画著作権事件の決着
written by ootsukahoumu at 09:06|この記事のURLTrackBack(0)

2011年12月08日

マンモスCT画像3DCG事件−著作権 著作権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

マンモスCT画像3DCG事件

東京地裁平成23.11.29平成22(ワ)28962著作権侵害差止等請求事件PDF
別紙

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官      大西勝滋
裁判官      石神有吾

*裁判所サイト公表 2011.12.3
*キーワード:著作物性、著作者、複製権、譲渡権、著作者人格権、使用許諾

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■事案

マンモス標本のCT画像を加工した3DCG画像の著作物性、使用許諾の有無などが争点となった事案

原告:研究者
被告:出版社

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、19条、20条、21条、26条の2

1 本件各画像の著作物性
2 本件各画像の著作権侵害性の成否
3 本件各画像の著作者人格権侵害の成否
4 原告の損害額

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■事案の概要

『原告が,別紙書籍目録記載の書籍(以下「本件書籍」という。)を発行及び頒布した被告に対し,本件書籍の本文中に掲載された別紙1記載の各画像(以下,同目録記載の上段の画像を「被告画像1」,下段の画像を「被告画像2」という。)及び本件書籍の表紙カバーに掲載された別紙2記載の画像(以下「被告画像3」といい,被告画像1ないし3を併せて「被告各画像」という。)は,原告が「マンモス」の標本のX線CTデータ等を基に3次元コンピュータグラフィックス(以下「3DCG」という。)により作成した著作物である別紙3記載の各画像(以下,同別紙記載の「1」の画像を「本件画像1」,同別紙記載の「2」の画像を「本件画像2」といい,これらを併せて「本件各画像」という。)を原告に無断で一部改変して複製したものであり,かつ,本件書籍の表紙カバーに原告の氏名が表示されていないから,被告による本件書籍の発行及び頒布は,原告が本件各画像について有する著作権(複製権,譲渡権)及び著作者人格権(同一性保持権,氏名表示権)の侵害に当たる旨主張して,著作権法112条1項に基づき,本件書籍から被告各画像を削除しない限り本件書籍の発行又は頒布の差止めを,同条2項に基づき,本件書籍からの被告各画像の削除を求めるとともに,不法行為に基づく損害賠償を求めた事案』(2頁)

<経緯>

H15 愛知万博でのマンモス展示プロジェクト開始
H17 記者会見で原告が本件画像を公表
     愛知万博開催
H19 被告社員が原告に画像の提供と使用許諾を求めるメールを送信
     原告が被告社員に画像データと借用書を送信
H21 被告が本件書籍を刊行

本件書籍 藤井正司著「CTは魔法のナイフ」

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■判決内容

<争点>

1 本件各画像の著作物性

(1)本件各画像の著作物性

マンモスの頭部標本のX線CT画像(二次元)を元に三次元再構築モデルを作成、これらに基づいて作成された3DCG画像の著作物性(著作権法2条1項1号)がまず争点となっています(23頁以下)。
被告は、本件各画像上の原告の工夫は、ごくありふれた表現方法であったり、画像を見やすくするための技術的調整等にすぎないとして、これらの点は本件各画像の創作性の根拠とはならないと反論しました。
これに対して、裁判所は、いずれの画像も自動的に生成されるものではなく(本件画像1)、また、合成するなどして作成したもので(本件画像2)、美術的又は学術的観点からの作者の個性が表現されていると判断。創作性(著作物性)を肯定しています。

(2)本件各画像の著作者及び著作権者

本件各画像の作成には、原告及び研究所スタッフが関与していたことから、原告の著作者性及び著作権の帰属が次に争点となっています(29頁以下)。
この点について、裁判所は、具体的な作成作業を主導的に行った者は原告であり、本件スタッフは、原告の指示、監督の下で与えられた作業に従事していた補助者であったと認定。原告の著作者性を肯定するとともに、著作権についても原告に帰属していると判断しています。

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2 本件各画像の著作権侵害性の成否

被告画像1ないし3が本件各画像を複製したものであることが認められ、また、本件書籍の本文中に掲載することについて原告の許諾があったとも認められないとして、被告の本件書籍の発行、頒布行為による著作権(複製権、譲渡権)侵害性が肯定されています(31頁以下)。

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3 本件各画像の著作者人格権侵害の成否

被告各画像においてカラー画像を白黒画像に改変するなどしている点が、著作者の意に反する改変(20条1項)に該当し原告の同一性保持権を侵害すると判断されています。また、本件書籍の表紙カバーに掲載された被告画像3には原告の氏名が表示されていなかったことから、氏名表示権(19条1項)侵害性も肯定されています(40頁以下)。

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4 原告の損害額

裁判所は、被告の過失を認めた上で、慰謝料(30万円)及び弁護士費用相当額(20万円)の合計50万円を損害額として認定しています(43頁)。

結論として、損害賠償請求のほか、本件各画像についての著作権及び著作者人格権の侵害行為の停止又は予防のために著作権法112条1項及び2項に基づき、本件書籍のうち、被告各画像部分を削除しない限りでの本件書籍の発行等の差止め及び本件書籍からの被告各画像部分の削除を求める請求が認められています。

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■コメント

50014

本件書籍の表紙カバーより(右上のマンモス画像)

本件書籍は、CT技術開発者である筆者が一般向けにCTが非破壊検査や事故解析に利用されていることを解説する内容のものですが、画像提供者である原告と被告出版社の編集者との間のやりとりの経緯を判決文で見る限り、ずいぶんと出版社の編集者も配慮を欠く仕事をしている印象を受けます(33頁以下参照)。
争点は、原告が本件書籍への画像の掲載使用を許諾したかどうかですが、あとがきには、画像提供先への謝辞も名前を挙げて述べられており(本件書籍174頁)、これで事足りると編集者としては考えたのかもしれません。しかし、最終稿確認を画像使用の条件とする原告の意向に沿わないままメールでのやりとりに終始し、最終稿確認対応を放置して本書を出版した被告出版社側の過失は、認められても仕方がないと思われます。
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2011年12月05日

YG性格検査用紙出版契約事件−著作権 著作権に基づく差止権不存在確認等請求事件等判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

YG性格検査用紙出版契約事件

大阪地裁平成23.11.24平成21(ワ)20132著作権に基づく差止権不存在確認等請求事件等PDF

大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 森崎英二
裁判官      達野ゆき
裁判官      西田昌吾

*裁判所サイト公表 2011.12.1
*キーワード:出版契約、共有著作権、正当な理由、訴えの利益

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■事案

共有者による出版契約の更新拒絶が「正当な理由」(著作権法65条3項)を有するかどうかが争点となった事案

甲事件原告兼乙事件被告:実験心理学器械製作販売会社
甲事件原告         :共有著作権者ら
甲事件被告、乙事件原告:共有著作権者ら

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■結論

請求一部認容(甲事件)
請求棄却   (乙事件)


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■争点

条文 著作権法65条3項

1 甲事件のうち原告P1及び同P2の主位的請求に係る訴えに確認の利益があるか
2 本件更新拒絶に正当な理由があるか等

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■事案の概要

『原告竹井機器は,亡P5(以下「P5」という。)との間で,平成12年1月1日に別紙1商品目録記載1ないし4の各検査用紙(以下,順に「本件検査用紙1」ないし「本件検査用紙4」といい,併せて「本件各検査用紙」という。)について,別紙2の著作物出版販売契約書に係る著作物出版契約(以下「本件出版契約」という。)を締結して本件各検査用紙を出版,販売していたところ,同契約で定められた当初の利用期間が満了したことから,原告竹井機器及び本件各検査用紙の著作権の相続人ら間で,同契約の存続を巡って紛争が生じた。
 本件のうち甲事件は,主位的に,原告竹井機器,原告P1及び同P2(以下「原告ら」という。)らと被告P3との間で,本件出版契約が存在していることの確認を求め,予備的に,原告竹井機器が,被告P3との間で,被告P3が,P5から相続した著作権の持分権に基づき,原告竹井機器がする本件出版契約に基づく出版,販売行為に対する差止請求権を有しないことの確認を求め,原告P1及び同P2が,被告P3に対し,著作権法65条3項に基づき,本件出版契約の更新に合意することを求める事案である。
 本件のうち乙事件は,被告P3及び乙事件原告P4(以下「被告P3ら」という。)が,本件出版契約について契約期間満了により終了したことを前提として,原告竹井機器に対し,被告P3らが有する本件各検査用紙の著作権の持分権に基づき,本件各検査用紙の出版,販売の差止等を求めるとともに,不法行為に基づき,それぞれ2200万円の損害賠償及びこれらに対する不法行為の日の後である平成22年3月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案』(3頁以下)

<経緯>

S32 P5が論文「矢田部・Guilford性格検査」発表
    原告竹井機器が検査用紙を発行
S33 共同著作者P6が死去、P10が相続
S40 P5が用紙を改訂、原告竹井機器が改訂版(昭和41年用紙)を発行
H12 原告竹井機器とP5が本件出版契約を締結
H13 P5が死去、P1、P3、P4、P9が相続
H15 日本心理テスト研究所がYG性格検査用紙を販売開始
H17 原告P1及び原告竹井機器が提訴(平成17(ワ)153著作権侵害差止等請求事件)
    日本心理テスト研究所及び被告P3が提訴(同2317商標権侵害差止等請求事件)
H18 P10が提訴(平成18(ワ)3174著作権持分確認請求事件)
H18 P10が死去、P2が相続
H21 被告P3が原告竹井機器に対し出版契約更新拒絶を通知

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■判決内容

<争点>

1 甲事件のうち原告P1及び同P2の主位的請求に係る訴えに確認の利益があるか

甲事件のうち原告P1及び同P2の主位的請求に係る訴えに確認の利益があるかどうかについて(17頁以下)、裁判所は、現在、原告竹井機器と原告P1との間の契約関係、原告竹井機器と被告P3との間の契約関係、原告竹井機器と原告P2との間の契約関係があり、これらの契約関係は、共有に係る著作権の利用に関する契約であることから、著作権法65条等によってその権利行使が相互に規制される面があるものの、法律的にはそれぞれ独立した関係であると説示。
その上で、原告P1及び同P2には、被告P3と間で原告竹井機器と被告P3間の権利関係の存否について確認を求める利益は認められないと判断。
甲事件のうち原告P1及び同P2の主位的請求に係る訴えは、確認の利益がなく不適法と判断しています。

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2 本件更新拒絶に正当な理由があるか等

本件出版契約の3条には、契約期間の規定として、以下のように書かれていました。

3条
本件各検査用紙の出版権の利用期間は,平成12年1月1日から10年間とし,双方から異議のないときは,さらに同期間延長する。


契約当事者である被告P3は、上記終了時期の前である平成21年12月11日頃、原告竹井機器に対して本件出版契約の更新について異議を述べる本件更新拒絶をしました(18頁以下)。

本件更新拒絶に「正当な理由」(著作権法65条3項)があるかどうかについて、被告P3らは、本件各検査用紙に問題がある点、また、原告竹井機器の問題などから本件更新拒絶には正当な理由があり、更新拒絶によって出版契約は期間満了により終了していると主張しました。
この点について裁判所は、65条2項、3項について言及した上で各問題点を検討。本件各検査用紙の質問事項と回答欄の構成に問題があるという事実や著作権の利用許諾を受けた出版業者が著作権者に無断で第三者に利用許諾をして対価を得るといった事実は、本件更新拒絶について正当な理由があることを基礎付ける事実になり得るとしたものの、被告P3らの主張する諸事実は、いずれも本件出版契約の更新拒絶についての「正当な理由」を基礎付ける事実としては十分なものではないと判断。
結論として、被告P3による本件更新拒絶は有効なものではなく、本件出版契約は同契約3条により更新され存続しているものと認定。その結果、原告竹井機器は、本件出版契約に基づき本件各検査用紙を出版、販売する権利を有することが認められています。

以上から、
(1)原告竹井機器と被告P3との間において、本件各検査用紙の出版、販売に関して、本件出版契約が存在することの確認を求める甲事件主位的請求は、原告竹井機器の請求については理由があるから認容
原告P1及び同P2の請求に係る訴えは確認の利益がなく不適法であるから却下
(2)原告P1及び同P2の予備的請求は、本件出版契約が存続している以上、被告P3に対し、さらに同契約更新の合意をするよう求めることはできないから理由がなく棄却
(3)乙事件各請求は、いずれも本件出版契約が終了したことを前提とするものであるから、その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がなく棄却

と判断されました。

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■コメント

YG性格検査用紙を巡る紛争として最高裁判所ウェブサイトで公表されている事案としては、3件目となります。
共有著作権の行使については、共有者全員の合意が要求されますが(著作権法65条2項)、その合意の成立を妨げる場合は、「正当な理由」が共有者になければならず(同3項)、反対する共有者側で反対理由を明らかにしなればなりません(加戸後掲書395頁。なお、批判説として、三村後掲書272頁以下参照)。本件は、「正当な事由」の判断に関する事例判断として参考になります。

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■過去のブログ記事

2007年6月8日記事
YG性格検査用紙事件
2008年6月21日記事
YG性格検査項目事件(第3事件)
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■参考判例

日本経済の分析を内容とする書籍の増刷や韓国語へ翻訳出版を望まない被告の主張が認められた事案として、翻訳出版同意請求事件(東京地裁平成12.9.28平成11(ワ)7209著作物発行同意請求事件)があります。
日本ユニ著作権センター/判例全文・2000−09−28d
また、ゲームソフトの利用許諾契約の解除に関する事案で傍論として触れるものとして、ゲームソフトLUNAR事件(東京高裁平成15.3.13平成13(ネ)5780著作権使用料等請求控訴事件等)参照。判決文PDF

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■参考文献

加戸守行『著作権法逐条講義五訂新版』(2006)394頁以下
三村量一「共同著作物」牧野利秋、飯村敏明編『著作権関係訴訟法』(2004)265頁以下
半田正夫、松田政行編『著作権法コンメンタール2』(2009)636頁以下
著作権法令研究会編『著作権関係法令実務提要1巻』831頁以下

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2011年12月02日

羅針盤無断演奏事件−著作権 損害賠償請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

羅針盤無断演奏事件

知財高裁平成23.11.28平成23(ネ)10044損害賠償請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所 第1部
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官      東海林保
裁判官      矢口俊哉

*裁判所サイト公表 2011.12.1
*キーワード:演奏権、損害論

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■事案

ライブハウスで他人の楽曲「羅針盤」を無断で演奏歌唱したとして損害賠償を請求した事案の控訴審

控訴人 (一審被告):ボーカリスト
被控訴人(一審原告):作詞・作曲家

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法22条、民法709条、710条

1 原判決が著作権侵害につき慰謝料を認めたことについて
2 損害額について

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■事案の概要

『被控訴人が作詩・作曲した楽曲「羅針盤」(本件楽曲)を,控訴人が,平成21年3月17日に被控訴人に無断で東京東高円寺のライブハウスで開催されたコンサートにおいて演奏歌唱したことを理由に,被控訴人(一審原告)が控訴人(一審被告)に対し,不法行為による損害賠償金130万円と遅延損害金の支払を求めた事案である。
 原判決は,上記請求を損害賠償金3万円と遅延損害金の支払を命じる限度で認容し,その余を棄却したので,これに不服の控訴人(一審被告)が本件控訴を提起したものである。』(1頁)

<経緯>

H21.3 被告がライブハウスで「羅針盤」を演奏歌唱
H21.4 原告が被告に「楽曲使用料請求書」を送信
H21.5 被告が原告に対して返信送信
H22.10厚木簡易裁判所に本件訴訟を提起、横浜地裁小田原支部に移送

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■判決内容

<争点>

1 原判決が著作権侵害につき慰謝料を認めたことについて

原審では、被告(控訴人)による楽曲「羅針盤」(本件楽曲)の無断使用による原告(被控訴人)の損害は、「精神的損害を含めて3万円程度」と認めていました。この点について、被告は著作権侵害行為について特段の事情がある場合に限り慰謝料は認められるが、本件ではそうした事情がない旨、反論しました。
控訴審裁判所は、原被告間でのメールのやりとりの中で被告がいったんは著作権侵害として6万3000円の使用料を支払うことを約していると認定。原告は著作権侵害に加え被告による事後的対応等も含め、本件での一連の事実経過を捉えて不法行為であると主張し、その損害賠償請求をしており、裁判所が著作権侵害を含む一切の不法行為につき損害賠償金の支払を命じることに問題はない、と判断しています(6頁以下)。

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2 損害額について

損害額について、原審と同様、3万円と認定しています(7頁)。

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■コメント

原審の内容が最高裁判所サイトで公表されておらず詳細が分からないので、ネット検索での情報の限りとなりますが、元々被告がボーカルを務めていたユニットのオリジナル曲である本件楽曲を、被告女性ボーカリストが無断でライブハウスで演奏歌唱したという当事者の関係性の中での訴訟で、別件の損害賠償請求訴訟(4頁)もあって、いわば仲間内での確執がきっかけといえる訴訟でした。

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2011年11月25日

過払い金回収マニュアル本事件−著作権 著作権侵害等に基づく損害賠償等請求事件判決(下級裁判所判例集)−

最高裁判所HP 下級裁判所判例集より

過払い金回収マニュアル本事件

名古屋地裁平成23.9.15平成21(ワ)4998著作権侵害等に基づく損害賠償等請求事件PDF

名古屋地方裁判所 民事第9部
裁判長裁判官 増田稔
裁判官      松本明敏
裁判官      山田亜湖

*裁判所サイト公表 2011.11.21
*キーワード:創作性、複製権、翻案権、同一性保持権、氏名表示権、一般不法行為論

   --------------------

■事案

法律事務所監修の過払い金回収マニュアル本等が、名古屋の弁護士グループの過払い金回収本と類似するとして著作権侵害性が争われた事案

原告:弁護士ら
被告:弁護士Y1、弁護士法人Y2

   --------------------

■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、21条、27条、19条、20条、民法709条

1 本件書籍1の執筆者
2 著作権侵害の有無
3 著作者人格権侵害の有無
4 一般不法行為論の成否

   --------------------

■事案の概要

『原告らが,主位的に,被告らが,原告らの著作物を無断で複製又は翻案したと主張して,被告らに対し,原告らの著作権(複製権,翻案権)及び著作者人格権(同一性保持権,氏名表示権)侵害に基づき,原告ら各自に対する損害賠償金及び遅延損害金の支払を求めるとともに,著作権法115条に基づく謝罪広告の掲載及び同法112条に基づく書籍の発行等の差止めを求め,予備的に,被告らが原告らの著作物に依拠して被告らの書籍を執筆し出版したことが,他人の成果物を不正に利用して利益を得るもので不法行為に当たると主張して,被告らに対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,原告ら各自に対する損害賠償金及び遅延損害金の支払を求める事案』(2頁)

<経緯>

H17.4 原告書籍初版刊行
H18.2 原告書籍改訂版(原告書籍1)刊行
H18.11原告書籍2刊行
H19.5 被告法人Y2らにより本件書籍1刊行
H20.2 被告Y1が本件書籍1の改訂版(本件書籍2)を刊行
H21.9 訴状送達

原告書籍1:「ひとりで出来る 過払い金回収完全ガイド」
原告書籍2:「知らないと損をする!過払い金完全回収ガイド」
本件書籍1:「Q&A過払金返還請求の手引[第2版]」
本件書籍2:「【過払金回収マニュアル】サラ金・消費者金融からお金を取り返す方法」

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 本件書籍1の執筆者

まず、本件書籍1の執筆者について、原告は被告弁護士法人Y2が執筆の主体であると主張しました(26頁以下)。
この点について、裁判所は、株式会社LのOが雑誌コードの過払い金回収書籍の出版企画について、ライターのKらとともに本件書籍1の仕様、ターゲット、企画趣旨、紙面構成の内容などを具体的に提案し、被告Y2に対して法的な監修を依頼した上で、Kが第一次原稿を作成し、それにOが日本語として分かりにくい部分、説明不足の部分を加筆・修正し、それを被告Y2が語尾等の字句について修正を行ったと認定。
本件書籍1の奥書にある「編集兼発行人J、監修被告Y2、執筆K及び株式会社L、編集株式会社L」の通り、執筆者として記載されているK及び株式会社Lが執筆者であると判断しています。

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2 著作権侵害の有無

次に、原告は、著作権侵害性の有無に関連して、原告各書籍と本件各書籍の類似する部分の原告表現の著作物性(著作権法2条1項1号)について、いずれも創意工夫がされおり著作物性(創作性)があると主張しました(29頁以下)。
この点について、裁判所は、複製及び翻案に関する最高裁判決(ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー事件、江差追分事件)を示した上で、法律問題の解説書については、

『ある法律問題について,関連する法令等の内容や法律用語の意味を説明し,一般的な法律解釈や実務の運用等を記述する場合には,確立した法律用語をあらかじめ定義された用法で使用し,法令等又は判例等によって当然に導かれる一般的な法律解釈を説明しなければならないという表現上の制約がある。そのため,これらの事項について説明する場合に,条文の順序にとらわれずに,独自の観点から分類し,通常用いられる表現にとらわれず,独自の表現を用いて整理要約したなど表現上の格別の工夫がある場合でない限り,筆者の個性が表れているとはいえないから,著作権法によって保護される著作物としての創作性を認めることはできず,複製にも翻案にも当たらないと解すべきである』(31頁)

として、一定の表現上の制約があると説示。
原告各書籍全体としての創作性を認めた上で原告各表現の著作物性を検討し、いずれも思想やアイデアに過ぎなかったり、事実に属する部分であって、表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分であって著作物としての創作性が認められないと判断しています。

結論として、原告各表現と本件各表現とは、表現それ自体でない部分又は表現上の創作性のない部分において同一性を有するにすぎないとして、本件各表現は、いずれも原告各表現を複製、翻案したものとは認められないとしています。

   ------------------------------------

3 著作者人格権侵害の有無

前述の通り、本件各表現が原告各表現を複製、翻案したとは認められておらず、著作者人格権を侵害したとは認められていません(41頁)。

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4 一般不法行為論の成否

原告らは、被告らが本件各書籍を執筆した行為は、他人の執筆の成果物を不正に利用して利益を得る不公正な行為であり社会的に許容される限度を超えるとして一般不法行為(民法709条)が成立する旨主張しました(41頁以下)。
しかし、裁判所は、本件各書籍は、原告各書籍とはその相違から全体的な印象も含めて基本的に異なる書籍であるといえること、また、表現の同一性、類似性を有する部分は、創作性の認められないものであることから、被告らの行為は不法行為を構成するとまでは認めることはできないと判断しています。

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■コメント

出版社側からの持込み企画の出版物で、紙面構成や内容はライター側で作成して弁護士法人側は監修作業を行ったという事案です。

例えば、原告表現「裁判を起こすとなると、印紙代、切手代や、訴状を作成し資格証明書を手に入れる」(126頁)と本件表現「裁判を起こせば、印紙代や切手代がかかる。それに不慣れな訴状の作成、資格証明書も取りに行かねばならない」(121頁)という具合に、類書を参考に本件書籍が作成されたことが伺えますが、表現の創作性の判断部分で否定されました。

ところで、弁護士(弁護士事務所)に法律書籍の監修を依頼した場合、内容の法的な正確さだけでなく、他書との類否といった著作権法上の問題まで調査する作為義務があるかどうかは、一概に言えないでしょうからその判断は難しいところです。

法律書籍(通勤大学法律コース)事件では、知財高裁が著作権侵害性を否定しながら一般不法行為の成立を肯定していますので、本件も控訴審の判断が注目されます。

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■参考判例

債権回収や契約、手形小切手などの法律問題について一般人向けに解説した書籍の表現の創作性が争われた事案として、

法律書籍(通勤大学法律コース)事件
控訴審
知財高裁平成18.3.15平成17(ネ)10095等損害賠償等請求控訴事件PDF
原審
東京地裁平成17.5.17平成15(ワ)12551等損害賠償等請求事件PDF

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■参考サイト

アディーレ訴訟に関するニュース 名古屋消費者信用問題研究会

著作権侵害訴訟の判決を受けて アディーレ法律事務所 共同通信PRワイヤー

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■参考文献

山根崇邦「著作権侵害が認められない場合における一般不法行為の成否 通勤大学法律コース事件」『知的財産法政策学研究』18号(2007)221頁以下 論文PDF


■追記

平成24年9月20日名古屋高裁で控訴棄却
アディーレプレスリリース
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2011年11月11日

ロックバンドCOOLS(クールス)ライブビデオ事件−著作権 損害賠償請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

ロックバンドCOOLSライブビデオ事件

東京地裁平成23.10.31平成21(ワ)31190損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 大須賀滋
裁判官      菊池絵理
裁判官      小川雅敏

*裁判所サイト公表 2011.11.9
*キーワード:著作物性、公表権、複製権、頒布権

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■事案

ロックバンドのライブを収録したビデオ映像の著作物性などが争点となった事案

原告:ロックバンドリーダーX、Y
被告:個人

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、21条、26条、18条、114条1項、3項

1 X:著作物1の著作権侵害の成否
2 X:故意・過失の有無
3 X:損害論
4 Y:著作物3の著作物性、著作権、著作者人格権の帰属性
5 Y:著作物3の著作権侵害の成否
6 Y:著作物3の著作者人格権(公表権)侵害の成否
7 Y:故意・過失の有無
8 Y:損害論

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■事案の概要

『ロックバンドのライブ等を収録したビデオ及びDVDの映画の著作物3点について,内2点の著作権を有する原告X(以下「X」という。)と,内1点の著作権及び著作者人格権を有すると主張する原告Y(以下「Y」という。)が,被告に対し,被告が各原告の許諾を得ずに上記著作物を複製・頒布し,もって各原告の著作権(複製権,頒布権,著作権法21条,26条)を侵害したと主張するとともに,Yについては,予備的に著作者人格権(公表権,同法18条)を侵害したと主張して,損害賠償請求(民法709条,710条,著作権法114条1項又は3項)として,Xについて94万9900円,Yについて197万0900円及び各金員に対する訴状送達日の翌日である平成21年12月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案』(2頁)

<経緯>

H19.1 被告がポマードの景品として著作物3を複製頒布
H19.3 被告が著作物2を複製販売
H20.6 被告が著作物1を複製販売
H20.7 被告がY関係者に「お詫び状」提出
H20.10被告が原告らに「お詫び状」提出
H21.9 本件訴訟を提起

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■判決内容

<争点>

1 X:著作物1の著作権侵害の成否

ライブハウスで開催されたロックバンドCOOLS(クールス)のクリスマスライブ映像を収録したビデオ(著作物1)を被告が著作権者である原告Xに無断で複製販売したとして、著作権侵害の成立が認められています(14頁以下)。

   ------------------------------------

2 X:故意・過失の有無

被告は故意過失の点を争いましたが、裁判所は被告に少なくとも過失があったと認定しています(15頁)。

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3 X:損害論

著作権侵害が認められた著作物1と当事者間で著作権侵害性について争いがない著作物2(Xのオートバイ走行映像とライブ映像等を収録したDVD)の複製権・頒布権侵害に関する損害論について、裁判所は、

著作物1:定価4000円−製造原価400円×販売数7本 2万5200円
著作物2:定価3500円−製造原価400円×販売数137本 42万4700円

として、合計44万9900円を損害額として認定しています(著作権法114条1項)。

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4 Y:著作物3の著作物性、著作権、著作者人格権の帰属性

原告YがバンドのリーダーであるロックグループTHE MACKSHOWの活動初期のライブ映像を収録したDVD(著作物3)の著作物性(2条1項1号)や著作権等の帰属が争点となっています(16頁以下)。

(1)ライブ映像の著作物性

ライブハウスに設置された固定カメラにより撮影されたライブ映像である著作物3について、被告は「カメラを複数台用意してターンさせて撮影し,編集する程度のことは,複数のライブハウスで行われており,著作物3は,ありふれた映像である」(10頁)としてその著作物性(創作性)を争点としました。

この点について、裁判所は、

1.設置されたカメラの状況
2.映像の内容
3.ライブの臨場感を損なわないために特段の編集作業を施していないこと

などから、著作物3はカメラワークや編集方針によりライブ全体の流れやその臨場感が忠実に表現されたものとなっており、著作者である原告Yの個性が表れていると判断。著作物3の著作物性を肯定しています。

(2)ライブ映像の著作権・著作者人格権の帰属

原告Yが映画(ライブ映像)の著作物の著作者であり(16条)、その著作権、著作者人格権はYに帰属すると認められています。

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5 Y:著作物3の著作権侵害の成否

被告が原告Yの許諾を得ること無く不特定人に対してポマードの景品として著作物の複製物を頒布し、著作権を侵害したことが認められています(17頁以下)。

   ------------------------------------

6 Y:著作物3の著作者人格権(公表権)侵害の成否

原告Yは、著作物3がライブハウス関係者のみに記念として配布する趣旨で提供され、ファン等の一般向けに提供されたものではないとして、未公表の著作物に該当し、被告によるDVDの公衆への提供はYの公表権(18条)を侵害すると主張しました(18頁以下)。
この点について裁判所は、映画の著作物については、その性質上、数量が少数であっても公衆の要求を満たすことができる相当程度の部数の複製物の複製頒布といえるとして、本事案では著作権者(複製権者)Yによる発行により公表が認められ(3条1項、4条1項)、Yの公表権を侵害しないと判断しています。

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7 Y:故意過失の有無

被告には少なくとも過失が認められると判断されています(19頁)。

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8 Y:損害論

著作物3は販売商品ではなかったことから、裁判所は著作権法114条1項(譲渡等数量による損害額の請求)ではなく、3項(受けるべき著作物使用料の請求)により損害額を算定。
従前の販売DVDの平均価格4153円、使用料率13%、数量63枚として損害額合計3万4013円としています(19頁以下)。

なお、X、Yいずれについても精神的損害は認められていません。

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■コメント

歴史のあるロックバンド、クールス(COOLS)やザ・コルツが前身のTHE MACKSHOWのライブ映像の無断使用が問題となった事案で、ライブ映像の著作物性(著作権法2条1項1号)や公表権侵害性(18条)が争点となった事案として参考となります。

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■過去のブログ記事

矢沢永吉をメンバーとするロックバンド「キャロル」の解散コンサートの撮影映像を巡ってその著作権の帰属などが映像製作会社とレコード会社の間で争われた事案として、

キャロル解散コンサートDVD事件(2006年9月17日記事)
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2011年11月04日

街宣ビラ肖像写真事件(控訴審)−著作権 損害賠償等・同反訴請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

街宣ビラ肖像写真事件(控訴審)

知財高裁平成23.10.31平成23(ネ)10020損害賠償等・同反訴請求控訴事件PDF

裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官      東海林保
裁判官      矢口俊哉

*裁判所サイト公表 2011.11.02
*キーワード:差止の必要性、損害額

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■事案
都議会議員の肖像写真を無断でビラや看板、ブログに掲載した行為の著作権、著作者人格権侵害性が争点となった事案の控訴審

控訴人 (一審本訴被告・反訴原告):政治活動家
被控訴人(一審本訴原告・反訴被告):写真家

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法112条1項、114条3項


1 本件写真の著作物性及び著作権の帰属
2 著作権侵害の成否
3 著作者人格権侵害の成否
4 差止め、廃棄の必要性
5 損害論
6 反訴請求に係る不法行為の成否

   --------------------

■事案の概要

『職業写真家である一審原告の撮影した公明党都議会議員の肖像写真を,同議員が広報用に開設したウェブサイトからダウンロードして,一審被告が平成21年6月に一審原告に無断で同写真を利用したビラを作成し又は自らのウェブサイトに掲載した等として,一審原告が一審被告に対し,著作権侵害を理由にその差止めと損害賠償金400万円及び遅延損害金の支払を求めたものであり,一方,反訴事件は,一審原告が平成21年6月24日になした刑事告訴及び本件訴訟提起が不法行為に当たるとして,一審被告が一審原告に対し,その損害賠償金100万円と遅延損害金の支払を求めた』
『平成23年2月9日になされた原判決は,本訴事件については上記差止めと損害賠償金78万5000円及び遅延損害金の支払を命ずる限度で認容してその余は棄却し,反訴事件については,全て棄却したため,これに不服の一審被告が本件控訴を提起した』事案(2頁)

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■判決内容

<争点>

1 本件写真の著作物性及び著作権の帰属
2 著作権侵害の成否
3 著作者人格権侵害の成否
4 差止め、廃棄の必要性
5 損害論
6 反訴請求に係る不法行為の成否

各争点について、原審の判断が維持されています(24頁以下)。

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■コメント

原審の判断が維持されています。
控訴審において控訴人は、差止の要否や損害額の算定などの争点についていくつかの理由を述べて原判決の判断の不当性を指摘していますが、被控訴人側は文献を引用するなどして丁寧に反論しており、いずれの点についても原審の判断が覆されるまでのものとはなりませんでした。

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■過去のブログ記事

2011年2月24日記事
街宣ビラ肖像写真事件(原審)

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2011年10月03日

サンキッズシステム事件−著作権 著作権損害賠償請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

サンキッズシステム事件

東京地裁平成23.9.16平成22(ワ)28148著作権損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 岡本 岳
裁判官      坂本康博
裁判官      寺田利彦

*裁判所サイト公表 2011.9.30
*キーワード:ソフトウェアライセンス契約、和解契約、損害額、複製権、譲渡権

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■事案

学校教育支援ソフトウェアの無許諾販売に関する損害額の算定が争われた事案

原告:ソフトウェア開発販売会社
被告:ソフトウェア販売会社

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法114条1項、21条、26条の2

1 本件インストール2ないし4に対する原告の許諾の有無
2 本件和解契約に基づく許諾料の額
3 原告の損害額

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■事案の概要

『本件は,後記2(2)のソフトウェア(コンピュータ・プログラム)に係る著作権ないし日本国内における著作権の独占的利用権を有する原告が,被告が当該ソフトウェアを販売し,販売先である教育機関に設置されたコンピュータにインストールした行為は,原告被告間の和解契約上の許諾料の支払条項に該当する,原告の著作権(複製権,譲渡権)を侵害する不法行為に該当すると主張して,被告に対し,和解契約に基づく許諾料の支払請求権に基づく許諾料616万7000円及びこれに対する和解契約日の翌日である平成20年12月26日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金並びに不法行為による損害賠償請求権に基づく損害賠償金2304万8916円及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成22年8月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を求める事案』(2頁)

<経緯>

H16.12 原告が台湾法人から本件ソフトウェア1に係る著作権の
        国内独占的利用許諾を受ける
        被告は原告から本件ソフトウェアの複製品の供給を受け販売
H19.2  原被告間の取引中止
H20.10 被告による違法複製販売事実が発覚。
H20.12 原被告間で和解契約(本件和解契約)締結
H21.5  原告が被告に対して許諾料支払請求訴訟提起
       (千葉地裁木更津支部平成21(ワ)131)
H22.1  訴訟上の和解成立(本件訴訟上の和解)
H22.4  原告が別件違法複製に関して証拠保全の申し立て
       (仙台地裁古川支部平成22(モ)11)
H22.5  証拠保全決定に基づき被告本店所在地にて検証実施

本件和解契約及び本件訴訟上の和解の対象以外のインストール数
本件ソフトウェア1:「Neo Reborn」881本
本件ソフトウェア2:「Netウィッチ」584本
本件ソフトウェア3:「アップデート・コントロール」588本

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■判決内容

<争点>

1 本件インストール2ないし4に対する原告の許諾の有無

平成19年から20年にかけて行われた被告による本件ソフトウェアのインストール行為について、被告は原告との間で許諾を受けていたと反論しましたが、客観的な証拠が何ら提出されていないとして裁判所は容れていません(15頁以下)。

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2 本件和解契約に基づく許諾料の額

本件和解契約の概要は以下の通りで(3頁)、本件ソフトウェア1の新たに発覚した881件の無許諾のインストール行為に関して被告が本件和解契約に基づき原告に対して支払義務を負う許諾料額は、

7000円(1件当たり)×881本=616万7000円

と認定されています(17頁以下)。


【和解契約概要】
ア 被告は,原告に対し,原告の事前の許諾を得ることなく,本件ソフトウェア1を,岩手県一関市立の小学校に設置された354台のコンピュータにインストールしたことを認め,これを謝罪する。
イ 被告は,原告に対し,和解金(許諾料)として,インストール1件につき7000円の割合による金員の支払義務があることを認める。
ウ 被告は,原告に対し,上記アの354件のインストールにかかる和解金(許諾料)として247万8000円の支払義務があることを認め,これを平成21年1月31日限り原告に支払う。
エ 本件和解契約後,和解書添付の一覧表記載以外のインストール先の存在が判明した場合,被告は,原告に対して,上記イと同様の基準により許諾料を支払うものとする(遅延損害金は本件和解契約日の翌日から起算する)。


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3 原告の損害額

原告が著作権を有する本件ソフトウェア2及び3の被告による違法な譲渡、複製による損害について、原告は著作権法114条1項(譲渡等数量による損害額の請求規定)に基づく算定を主張しました(18頁以下)。
この点について、裁判所は、本件ソフトウェア2及び3の販売価格は一定しておらず、購入者との関係、販売数量等に応じて決定され個別の取引毎に異なっているとして、本件においては、その平均販売価格に基づき単位数量当たりの利益の額により算定しています。

本件ソフトウェア2:584本 平均販売価格(省略)、変動費用53円、単位数量利益(省略)
本件ソフトウェア3:588本 平均販売価格(省略)、変動費用53円、単位数量利益(省略)

これらと弁護士費用相当額100万円とあわせて、783万7684円が損害額として認定されています。

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■コメント

小中学校などでパソコン教育のために使用される教師用や生徒用のPCにインストールされる環境復元ソフトウェア(「Neo Reborn」)や集中管理ソフト(「Netウィッチ」)、アップデートソフト(「アップデート・コントロール」)が販売代理店で無断複製、譲渡がされた際の損害額の算定(著作権法114条1項)が争点となった事案です。

原告と被告販売代理店との間では過去に継続的な取引関係がありましたが、被告の売買代金支払遅延を原因とする信頼関係悪化から取引が中止されていたという背景事情があります。


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2011年09月24日

「中国の世界遺産」DVD事件−著作権 損害賠償請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「中国の世界遺産」DVD事件

東京地裁平成23.7.11平成21(ワ)10932損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 大須賀滋
裁判官      小川雅敏
裁判官      森川さつき

*裁判所サイト公表 2011.9.7
*キーワード:原版供給契約、映像利用許諾代理店契約、出版社、過失、翻案、消滅時効

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■事案

映像原版供給契約の前提となる利用許諾関係が欠けるとしてDVD制作販売に関して出版社の過失が肯定された事案

原告:中国中央電視台グループ映像制作会社(中国法人)
被告:出版社(日本法人)

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法27条、114条3項、民法709条、724条

1 本件各原版の著作権の帰属
2 本件各原版の利用許諾の有無
3 被告の過失の有無
4 消滅時効の成否
5 原告の損害額

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■事案の概要

『中国中央電視台(中華人民共和国の国営放送である。以下「CCTV」という。)のグループ会社で中華人民共和国法人である原告が,CCTVの放送用として製作された「中国世界自然文化遺産」と題する記録映画の著作権を有するとして,被告の製作・販売に係る「中国の世界遺産」と題するDVDが当該記録映画を複製又は翻案したものである旨主張して,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償として2500万円(附帯請求として不法行為開始月の翌月初日である平成16年4月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払を求めた事案』(2頁)

<経緯>

H12   原告と卓倫社が本件委託協議書締結
H14   「中国世界自然文化遺産」記録映画(本件原版)制作
H15.6 原告と卓倫社が本件基本個別協議書締結
      番組代理発行販売に関する意向協議書をGMG、卓倫社及び新天社が締結
H15.8 GMGと卓倫社が本件意向協議書を合意解除
H16.3 被告とプレシャス社(GMG代理)が原版供給契約締結
H16.9 被告が「中国の世界遺産」DVD制作販売
H17.7 原告、GMG及び卓倫社が本件終了協議書締結
H18.2 原告が被告に告知書送付
H21.4 原告が本件訴訟提起

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■判決内容

<争点>

1 本件各原版の著作権の帰属

契約関係の準拠法などを検討した上で、全7巻の記録映画(本件各原版)の制作を原告が外部映像制作会社に発注していたことや発行元表示、クレジット表示、また原告と発注先との間の制作委託に関する本件委託協議書の真正性などから、本件各原版の著作権の原告への帰属性について被告は反論をしましたが、結論としては、映画製作者としての原告への本件各原版の著作権の帰属が肯定されています(19頁以下)。

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2 本件各原版の利用許諾の有無

本件各原版の利用許諾関係について、裁判所は、原告が卓倫社に対して本件基本個別協議書により本件各原版の利用許諾の代理権限を授与しており、本件意向協議書によれば卓倫社は、GMGに対して本件各原版の利用許諾をするとともに本件マスターテープの利用権限を授与したと認めています。その上で平成15年8月12日に本件意向協議書が卓倫社とGMGとの間で合意解除され、GMGは原告に対してその旨通知しているとして、卓倫社が原告を代理して行ったGMGに対する本件各原版の利用許諾の効果は消滅したと判断。
結論として、GMGを代理したプレシャス社と被告は平成16年3月15日に本件原版供給契約を締結しましたが、その当時すでにGMGに本件各原版の利用権限がなかったとして被告の利用許諾権限取得を否定しています(22頁以下)。

結果として、被告各DVDは本件各原版を無権限で翻案したものとなり、被告は本件各原版の翻案権(著作権法27条)を侵害していると判断されています。

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3 被告の過失の有無

被告の過失について、裁判所は、被告が原告又は中国中央電視台に対してGMGやプレシャス社の利用許諾権限の確認などを行っていなかったとしてこれを肯定しています(29頁以下)。

この点、被告は、(1)DVD製作・編集作業に中国中央電視台の名刺を有しているDが立ち会っている、(2)利用許諾関係について逐一完全に確認しなければならないとなれば、円滑な著作物の利用を実現することは困難となる、(3)マスターテープを所持していること自体、権利者又は権利者から許諾を受けた者であることを示す重要な事実である、と反論しました。
しかし、(1)及び(3)の事実からはGMG又はプレシャス社の利用許諾権限が直ちに推認されるものではなく、(2)については、確認の為に取引コストの増大があったとしても甘受しなければならない事柄であるとして裁判所は被告の主張を容れていません。

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4 消滅時効の成否

裁判所は、原告が被告に通知した平成18年2月21日付け本件告知書の存在から、原告は遅くとも同日までには被告に対する賠償請求が事実上可能な状況の下にその可能な程度に損害及び加害者を知ったとした上で、消滅時効の成否を検討。平成16年から平成17年にかけての販売分については被告の消滅時効の抗弁を認め、平成18年8月17日被告第2巻100部販売についてのみ損害賠償請求を認めています(31頁以下)。

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5 原告の損害額

被告第2巻100部販売について、著作権法114条3項の利用料相当額として、

小売価格(税抜き)3800円×100本×25%=9万5000円

弁護士費用相当額1万円の合計10万5000円を損害額としています(33頁以下)。

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■コメント

映像の再販売代理店が、代理店契約が合意解除されたのに日本国内での再販売許諾をしてしまったという事実関係で、どうしてそんなことになってしまったのか、そのあたりの経緯は不明な部分です。

原告(著作権者)
 ↓
卓倫社(制作/販売代理店 中国法人)
 ↓
GMG(販売代理店 米国法人)ら
 ↓
プレシャス社(GMGの窓口日本法人)
 ↓
被告

被告出版社としては、「梯子をハズされた(ていた)」状況で、代理店側(GMGやプレシャス社)の責任といえばそれまでですが、訴訟の当事者となった場合、供給元との代理店契約についてもサブライセンシーの法務として許諾関係を契約書面や支払証票類で確認するなどしておかないと裁判所の過失判断からすると免責されないということになります。

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2011年09月20日

スペースチューブ事件−著作権 損害賠償等請求反訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

スペースチューブ事件

東京地裁平成23.8.19平成22(ワ)5114損害賠償等請求反訴事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 大須賀滋
裁判官      小川雅敏
裁判官      森川さつき

*裁判所サイト公表 2011.9.7
*キーワード:著作物性、創作性、実用品、美術品、複製権、同一性保持権、誤認混同惹起行為性、形態模倣行為性、営業秘密、秘密保持義務

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■事案

体験型展示物であるイベント用装置の著作物性が争点となった事案

反訴原告:ダンス集団主催者
反訴被告:映像制作会社

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、2条2項、21条、20条、不正競争防止法2条1項1号、3号、7号

1 反訴原告は反訴原告装置につき著作権を有するか
2 反訴被告装置は反訴原告装置を複製したものに当たるか
3 同一性保持権侵害の成否
4 反訴被告事業の誤認混同惹起行為性
5 反訴被告事業の形態模倣行為性
6 反訴被告事業の営業秘密不正使用行為性
7 本件契約に基づく秘密保持義務違反の成否
8 本件仮処分決定の違法性の有無

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■事案の概要

『本件は,別紙反訴原告装置目録記載の装置(以下「反訴原告装置」という。)の制作者である反訴原告が,別紙反訴被告装置目録記載の装置(以下「反訴被告装置」という。)を用いて,イベントへの出展等の事業を行っている反訴被告に対し,
1 反訴原告装置につき,反訴原告が著作権を有することの確認を求めるとともに,
2 反訴被告が反訴被告装置を用いてイベントへの出展等の事業を行うことは,(1)反訴原告装置についての反訴原告の著作権(複製権)及び著作者人格権(同一性保持権)の侵害に当たり,かつ,(2)反訴原告の商品等表示として周知性を有する反訴原告装置と同一のものを使用して,反訴原告の商品又は営業と混同を生じさせる行為(不正競争防止法2条1項1号),(3)反訴原告の商品形態である反訴原告装置を模倣した商品を譲渡等のために展示する行為(同法2条1項3号)及び(4)反訴原告の開示した反訴原告装置に関する営業秘密を,不正の利益を得る目的をもって使用する行為(同法2条1項7号)に当たると主張して,著作権法112条又は不正競争防止法3条に基づき,反訴被告装置を使用した前記事業の差止め及び反訴被告装置の廃棄を求め,
3(1) (1)前記著作権(複製権)及び著作者人格権(同一性保持権)侵害を理由として,民法709条に基づき,又は(2)前記不正競争行為による反訴原告 の営業上の利益の侵害を理由として,不正競争防止法4条に基づき,あるいは,(3)反訴被告の前記行為は,反訴原告と反訴被告との間の共同事業実施契約における秘密保持義務に反するものであるとして,債務不履行責任に基づき,損害賠償金2000万円のうち1000万円及びこれに対する反訴状送達日の翌日である平成22年2月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,かつ,
(2) 反訴被告は,反訴原告が制作管理するウェブサイト上に別紙ウェブページ目録記載の文書(以下「本件注意書」という。)をアップロードしたことが,競争関係にある反訴被告の営業上の信用を害する虚偽の事実を流布する行為(不正競争防止法2条1項14号)に該当すると主張して,本件注意書の削除を求める仮処分命令を申し立て,同内容の仮処分決定を得たが,本件注意書は,反訴被告が前記2のとおり反訴原告の著作権及び著作者人格権を侵害する行為,不正競争行為又は秘密保持義務違反に及んだことをその内容とするものであり,虚偽の事実を流布するものではなく,反訴原告による本件注意書のアップロードは反訴被告に対する不正競争行為に該当するものではなかったから,前記仮処分決定は違法なものであると主張し,民法709条に基づき,損害賠償金710万円及びこれに対する内300万円については前記反訴状送達日の翌日である平成22年2月16日から,内410万円については「訴変更の申立書(訴の拡張)」送達日の翌日である同年3月20日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案』(2頁以下)

<経緯>

H20.6 「スペースチューブ」の共同事業実施契約締結
H21.3 反訴被告が契約解除通知書送付
       反訴被告が「KooFlo」(クーフロ)事業開始
H21.6 反訴原告がウェブサイトに本件注意書を掲載
       反訴被告が仮処分申立(東京地裁平成21(ヨ)22040仮処分命令申立事件)
H21.7 本件注意書の削除を命ずる仮処分決定
H21.8 反訴被告が本訴提起(東京地裁平成21(ワ)29623不正競争行為差止等請求事件)
H22.2 反訴原告が本件訴訟を提起
H22.7 反訴被告が本訴事件を全部取下げ

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■判決内容

<争点>

1 反訴原告は反訴原告装置につき著作権を有するか

伸縮性のある布を筒状になるように成形し、数カ所ロープを使用して床面から浮かせた状態で固定することにより筒状の布の中に人が入ったときに左右方向及び下方向からの反力を体感することができる9メートル×1.5メートル相当の大きさの二重の構造物(反訴原告装置)の著作物性(著作権法2条1項1号)が争点となっています(27頁以下)。

この点について、反訴原告が著作物として主張するのは、人が中に入る動的な利用状況における創作性ではなく、反訴原告装置目録において示された静的な形状、構成(反訴原告装置)の創作性であることを前提として裁判所はその創作性を検討。
反訴原告が反訴原告装置の創作性の根拠として主張する、(1)「閉じた空間・やわらかい空間」であること、(2)「浮遊を可能にする空間(宙吊り)」であること、(3)「見た目の日本的美しさをもつ空間」であること、といった諸点は、思想ないしアイデアであったり、機能を示すものであり、創作性の根拠にはならないと判断。
もっとも、裁判所は、反訴原告の主張する日本的美しさに関連した「神社や日本刀の曲線」の美感に関して(10頁)、『反訴原告装置の上辺部分の形状は本体部分及び二重化部分が一体となって,中央部分から両端部分にかけて反った形状として構成されており,神社の屋根を思わせる形状としての美観を与えている。さらに,反訴原告装置の左右両端部分は,垂直に対しやや傾いて上の方へ広がり,上辺の反りの部分と合わせて日本刀の刃先の部分を思わせる形状となっている。
 反訴原告装置は,これらの点に独自の美的な要素を有しており,美術的な創作性を認めることができる。
』(33頁)
として、反訴原告装置の創作性を肯定しています。

結論として、上記の限りで創作性が肯定され、反訴原告の反訴原告装置の制作者として反訴原告装置についての著作権が認められています。

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2 反訴被告装置は反訴原告装置を複製したものに当たるか

反訴被告装置が、『水平方向の幅6メートルの伸縮性と反発力のある繊維でできた筒状となる布で構成され,左右端は開放して人が出入りできるものであり,本体部分の中央部分に本体部分を覆うように設けられた水平方向の幅約3メートルの二重化部分が存在し,ロープを使用して天井から吊り下げるとともに,布の下端を床面から引っ張ることにより,空中に浮かせて設置するもの』(35頁)であり、各装置が類似する形状のものであることから、反訴原告装置を複製したものかどうかが次に問題となっています。

結論としては、『装置の上辺部分について神社の屋根のような美観を感じとることはできない。また,反訴被告装置の両端部分は,開口部が三角形の形状となっていること,正面から見た時に布が上へ向かって広がっていくような形状ではなく,両端線はほぼ垂直の線となっていること及び上辺部分に反りがみられないことから,日本刀の刃先を思わせるような形状とは見られない』(36頁)
として、複製にはあたらないと判断しています。

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3 同一性保持権侵害の成否

反訴原告装置の表現の本質的特徴を直接感得することができないとして、同一性保持権侵害性(20条)も否定されています(37頁)。

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4 反訴被告事業の誤認混同惹起行為性

「KooFlo」(クーフロ)との名称を付した反訴被告装置をイベント会場にレンタルするなどの事業(反訴被告事業)が、反訴原告の商品等表示として周知性を有する反訴原告装置と同一のものを使用して、反訴原告の商品又は営業と混同を生じさせる行為(不正競争防止法2条1項1号)に該当するかどうかについて、不正競争防止法上の争点が検討されています。
結論としては、各装置から受ける印象は相当異なるものであるとして、反訴被告装置を使用して反訴被告業務等を行うことをもって、反訴原告装置と同一又は類似のものを使用し、反訴原告の営業と混同を生じさせる行為に当たるということはできないと判断しています(37頁以下)。

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5 反訴被告事業の形態模倣行為性

反訴被告事業が、反訴原告の商品形態である反訴原告装置を模倣した商品である反訴被告装置を譲渡等のために展示する行為(不正競争防止法2条1項3号)に該当するかどうかの争点についても、各装置の相違から模倣性が否定されています(38頁)。

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6 反訴被告事業の営業秘密不正使用行為性

反訴被告事業が、反訴原告の開示した反訴原告装置に関する営業秘密を、不正の利益を得る目的をもって使用する行為(不正競争防止法2条1項7号、2条6項)に該当するかどうかについて、反訴原告が営業秘密であると主張する反訴原告装置に関する情報である、(1)反訴原告装置の長さ及び高さ、(2)布の強度と伸縮性、(3)布の張り具合、(4)二重化構造、(5)布及びロープの総重量は、いずれも体験型装置として展示され内部から、あるいは外部から観察した者が容易に認識しうる情報であるとして非公知性の要件を欠くと判断。
結論として、営業秘密不正使用行為性が否定されています(38頁以下)。

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7 本件契約に基づく秘密保持義務違反の成否

反訴原被告間の共同事業実施契約の第6条には、「各当事者は,本契約に関して相手方から提供された業務上,営業上または技術上の情報を秘密として保持し,相手方の書面による事前の承諾なしに本契約の目的外に使用しまたは第三者に漏洩もしくは開示してはならない。」との条項がありましたが、裁判所は、対象となる情報は非公知の情報に限定する趣旨と捉えた上で、争点6の判断を踏まえ反訴被告の秘密保持義務違反性も否定しています(39頁)。

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8 本件仮処分決定の違法性の有無

反訴原告が本件注意書をウェブサイトに掲載した行為が、営業誹謗行為(不正競争防止法2条1項14号)にあたるとして反訴被告から申し立てられた本件仮処分に関する仮処分決定について、違法性の有無が争点となっています。
結論としては、反訴原告の行為は反訴被告の営業上の信用を害する虚偽の事実を流布する行為に該当するとして本件仮処分決定に違法性はない、と判断されています(40頁以下)。

以上から、反訴原告装置につき著作権が存在することの確認を求める限度で反訴原告の主張が認められるに留まりました。

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■コメント

原告側のサイト(後掲「Tokyo Space Dance」参照)を拝見すると、こうした体験型イベント構造物が実用品なのか、美術品なのか区別が難しい著作物であることがわかります。
東京都現代美術館に1点モノとして飾られていれば、美術品とみられるのも容易でしょうが、仮に公園だとかショッピングモールに体験型アミューズメント施設として多数設置されていれば、実用品として捉えられる余地があります。
反訴原告装置の制作過程に照らして、反訴原告装置が各別にその形態(傾き、くびれ、曲線等)を調整して制作されるものと認められ、画一的かつ機械的な大量生産を予定しているものではないといった点(35頁参照)が、著作権法上の保護の範囲論として重要な点であったと考えられます。

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■参考サイト

Tokyo Space Dance

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