知財判決速報2010

2011年02月22日

診療報酬DPC分析プログラム職務著作事件−著作権 著作権確認請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

診療報酬DPC分析プログラム職務著作事件

東京地裁平成22.12.22平成18(ワ)17244著作権確認請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 大須賀滋
裁判官      坂本三郎
裁判官      岩崎慎


*裁判所サイト公表 2011.2.16
*キーワード:業務委託契約、職務著作

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■事案

診療報酬(DPC制度)のコンサルティングツールとなる分析プログラムの職務著作性などが争点となった事案

原告:医療コンサルティング会社
被告:原告会社の元取締役

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法15条2項

1 DAVE042の職務著作物性
2 DAVE042の著作権譲渡の合意の成否
3 DAVE−Pro等についての別段の定めの有無

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■事案の概要

『医療に関するコンサルティング業務等を行う会社である原告が,原告の取締役であった被告が取締役就任前後に作成した,診療報酬に関するDPC(Diagnosis Procedure Combination,診断群分類別包括評価)制度の下でコンサルティング業務を行うために用いられるDPC分析プログラムである別紙著作物目録記載1ないし4の各プログラム(以下,これらの各プログラムを,それぞれその名称に従い,「DAVE042」,「DAVE−Pro」,「DAVE−DRUG」及び「DAVE−CP」といい,これらのプログラムを総称して「本件各プログラム」という。)について,本件各プログラムが著作権法15条2項所定の職務著作に該当するなどと主張して,被告に対し,原告が本件各プログラムについて著作権を有することの確認を求める事案』(2頁)

<経緯>

H6.4  被告がNTTデータに入社
H16.4 原告の依頼により被告がDAVE042を開発
H17.8 被告がNTTデータ退社、原告会社の取締役に就任
H17.9 原告の発意により被告がDAVE−Proを開発
H18.3 被告が原告会社の取締役退任
H18.4 原被告間で退任後の知財取り扱い合意書締結

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■判決内容

<争点>

1 DAVE042の職務著作物性

被告が制作した本件各プログラムのうち、原著作物となるDAVE042について、被告が原告の「業務に従事する者」(著作権法15条2項)に該当し原告の職務著作が成立するか否かが争点となっています(63頁以下)。

裁判所は、原被告間で形式的には雇用関係があったと認めるに足りる証拠がない本事案について、RGBアドベンチャー事件最高裁事件判決(最高裁平成15.4.11平成13(受)216)を引用した上で、

『被告がDAVE042を作成した当時,原告と被告との関係を実質的にみて,被告が原告の指揮監督下において労務を提供するという実態にあり,原告が被告に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを,業務態様,指揮監督の有無,対価の額及び支払方法等に関する具体的事情を総合的に考慮して』(64頁)

「業務に従事する者」に当たるかどうかを実質的に検討。

諸事情の検討の結果、個人的な友人関係に基づいてプログラムの作成が始まっており、原被告間で原告が被告の指揮監督を行うという関係は認められませんでした。
また、原被告間で業務委託契約が数回に亘って締結されていましたが、その都度業務内容や報酬額が各別に決められており、原告が被告に支払った対価は、成果に対する対価の性質を有するものであり、労務の対価を有するということはできないとされています。

結論として、原告は著作権法15条2項の「業務に従事する者」に当たらず、DAVE042の職務著作物性は認められず、原告の職務著作成立の主張は容れられていません。

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2 DAVE042の著作権譲渡の合意の成否

原被告間でDAVE042の著作権譲渡の合意が成立していたかどうかについて、裁判所は、原被告間での著作権譲渡の合意の成立を認めていません(74頁以下)。

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3 DAVE−Pro等についての別段の定めの有無

次に、DAVE042をバージョンアップするなどしたDAVE042の二次的著作物に位置付けられるDAVE−Pro、DAVE−DRUG及びDAVE−CPの各プログラムは、被告が原告会社の取締役に就任後に作成したもので、原告の発意に基づき原告の業務に従事する被告が職務上作成したプログラムでした。そこで被告は、これらのプログラムについては「別段の定め」(著作権法15条2項)があったと反論しました(76頁以下)。

しかし、裁判所は、制作時の契約、勤務規則、その他に別段の定めがあるとはいえないとして、原告がこれらの著作者であるとして被告の反論を容れていません。

結論として、原告の請求のうちDAVE−Pro、DAVE−DRUG及びDAVE−CPの各プログラムについて著作権を有することの確認を求める限度で認容されています。

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■コメント

知人を介した制作依頼で当初は金銭のほとんど絡まないプログラムの制作となっており、プログラムの権利関係について明確な取決めをしておかなかったことが紛争の一因となっています。
制作者は当初は気軽に依頼を受けて本業とは別にプログラムを開発していましたが、後に原告会社の取締役として本格的に開発業務に携わる訳ですが、報酬面で不満が募ったようです(59頁)。

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■過去のブログ記事

2010年1月23日記事
オートバイレース写真職務著作事件(控訴審)

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■参考判例

RGBアドベンチャー事件最高裁事件判決
最高裁平成15.4.11判決平成13(受)216著作権使用差止請求事件

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■参考文献

浅野 卓「職務著作要件論―職務著作成立の許容性を探る」『パテント』(2010)63巻9号91頁以下
論文PDF
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2011年02月14日

「データSOS」事件−著作権 損害賠償等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「データSOS」事件

東京地裁平成22.12.10平成20(ワ)27432損害賠償等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 岡本岳
裁判官      坂本康博
裁判官      寺田利彦

*裁判所サイト公表 2011.2.10
*キーワード:創作性、アイデア、複製権、翻案権、著作者人格権、一般不法行為論

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■事案

ウェブサイト上のタブメニュー配置や広告用文章の無断複製等が争点となった事案

原告:PCデータ復旧請負会社
被告:コンピュータ機器開発販売会社

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、19条、21条、27条、民法709条

1 著作権侵害の成否
2 著作者人格権侵害の成否
3 一般不法行為の成否

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■事案の概要

『原告が,インターネット上に開設するウェブサイトにデータ復旧サービスに関する文章を掲載した被告の行為は,主位的に,(1)原告が創作し,そのウェブサイトに掲載したデータ復旧サービスに関するウェブページのコンテンツ又は広告用文章を無断で複製又は翻案したものであって,原告の著作権(複製権,翻案権,公衆送信権,二次的著作物に係る利用権)及び著作者人格権(氏名表示権,著作権法113条6項のみなし侵害)を侵害する不法行為に当たると主張して,被告に対し,不法行為による損害賠償請求権(民法709条,710条,著作権法114条2項,3項)に基づき損害賠償金1650万3562円及びこれに対する不法行為の後の日である平成19年7月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,著作権法115条に基づき謝罪広告の掲載を求め,予備的に,(2)一般不法行為に当たると主張して,被告に対し,不法行為による損害賠償請求権(民法709条,710条)に基づき上記(1)と同額の損害賠償金及び遅延損害金の支払を求めるとともに,民法723条に基づき謝罪広告の掲載を求める事案』
(1頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 著作権侵害の成否

(1)本件コンテンツの著作権侵害性

まず、原告のウェブサイトに表示されたデータ復旧サービスに関するコンテンツ全体(本件コンテンツ)の著作権侵害性について、裁判所は、被告がどの部分の著作権を侵害したかを原告は具体的に主張していないとして、原告のこの点の主張を退けています。
なお、付言として、仮に「サービスメニュー」ボタンの配置、分類及び表現が本件コンテンツに含まれるとしても、これらは『ごくありふれたものであり,作成者の個性が現れているとはいえないから,これらを著作物と認めることはできない』(17頁)として、「サービスメニュー」ボタンの配置、分類及び表現の創作性について否定しています。

(2)原告文章の著作権侵害性

本件コンテンツのうち、言語による説明の部分(原告文章)の著作権侵害性について、裁判所は、複製、翻案、創作性の意義について言及した上で、原告文章と被告文章を対比・検討しています(18頁以下)。

 1. 構成や記述順序

『一般消費者向けの広告用文章においては,広告の対象となる商品やサービスを分かりやすく説明するため,平易で簡潔な表現を用いることや,各項目ごとに端的な小見出しを付すること,説明の対象となるサービスとはどのようなものか,どのような場合に利用するものなのか,異なる商品やサービスとの相違点は何かをこのような構成,順序で記載することなどは,広告用文章で広く用いられている一般的な表現手法といえ,原告主張の上記の全体的な表現に作成者の個性が現れているということはできない』(19頁)

 2. 別紙文章対比表No.1等

「データ復旧って何?」と「データ復旧技術サービスとは?」等は、表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎない(20頁以下)。

 3. 別紙文章対比表No.3(1)等

「修理と何が違うの」と「データ復旧と修理サービスとの違いは?」等は、表現上の創作性がない部分及びアイデアにおいて同一性を有するにすぎない(20頁以下)。

結論として、原告の著作権侵害の不法行為に基づく請求は容れられていません。

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2 著作者人格権侵害の成否

被告文章の複製権又は翻案権侵害が認められず、著作者人格権(氏名表示権)も認められていません(26頁)。

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3 一般不法行為の成否

一般不法行為の成否(民法709条)について、裁判所は、

『別紙文章対比表の原告文章欄及び被告文章欄記載の各下線部分の表現は,記載順序や構成,用語や言い回しなどがほぼ共通していること,被告文章の作成担当者であるAは,被告文章を作成するに当たりデータ復旧サービスを行っている100〜200社のウェブサイトを閲覧し参考にしており(乙11,18,証人A),原告文章が掲載された原告のウェブサイトを閲覧しこれを参考にした可能性があること,Aが被告文章における表現をどのように推敲し,どのような理由から採用したのかなど被告文章の具体的な作成経緯が主張,立証されていないことなどからすると,被告文章は,原告文章に依拠して作成されたことがうかがわれる』(27頁)

として、被告の原告文章への依拠性を認めつつも、

(1)同表の被告文章欄記載の文章のうち、原告文章の表現と類似しているのは下線が付されている部分のみであり、全体の2分の1以上を占めるその他の部分は原告文章の表現と類似していない
(2)原告文章と被告文章の表現が類似している部分は、データ復旧サービスの内容を一般消費者向けに説明する際に広く用いられている一般的なもので普通に考えられる工夫である
(3)被告文章は広告用の文章であって被告は被告文章の出版、ウェブサイトへの掲載等により直接利益を得ているわけではない
(4)広告用文章を閲覧した者が当該サービスを利用するか否かは、その広告用文章の表現内容のみではなく、当該サービス自体の内容や価格、その実績等によるところが大きい

などの点から、

『被告文章が原告文章に依拠して作成されたものであったとしても,被告が被告文章を被告ウェブサイトへ掲載した行為が,公正な競争として社会的に許容される限度を逸脱した不正な競争行為として不法行為を構成すると認めることはできない』

として、一般不法行為の成立も否定しています。

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■コメント

PCがクラッシュした際のデータ復旧サービスなどを行っている会社のウェブページ上のコンテンツの盗用が争点となった事案です。

原告サイトにある「データSOSとは」から「サービスの流れ」といったメニューボタンの構成や文章の著作権侵害性が争点となりましたが(「SOSサービス」サイト参照)、いずれについても著作権侵害性が否定されています。

今回のウェブサイト上のタブボタンの配置や構成、広告用文章の創作性についての裁判所の判断は参考になるものと思われます。

なお、被告サイトの説明文を見る限り、被告が原告の文章を安易に参考にしたことが伺われますが、一般不法行為の成立を認めるほどの違法性は認められませんでした。

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■参考判例

ウェブサイト上の著作物の著作物性について、

遮熱断熱材写真事件判決文PDF
東京地裁平成20年6月26日平成19(ワ)17832不正競争行為差止等請求事件
スメルゲット事件判決文PDF
知財高裁平成18年3月29日平成17年(ネ)第10094号請負代金請求控訴事件
ヨミウリオンライン事件判決文PDF
知財高裁平成17年10月6日平成17(ネ)10049著作権侵害差止等請求控訴事件
転職情報事件判決文PDF
東京地裁平成15年10月22日平成15(ワ)3188著作権侵害差止等請求事件
ホテルジャンキーズ事件判決文PDF
東京高裁平成14年10月29日平成14(ネ)2887著作権侵害差止等請求控訴、同附帯控訴事件

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■参考サイト

原告サービス
データ復旧の【データSOS】HDD・ハードディスク・RAID復旧・修復サービス−東京・秋葉原
written by ootsukahoumu at 06:28|この記事のURLTrackBack(0)

2011年01月24日

SARVH対東芝私的録画補償金事件−著作権 損害賠償請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

SARVH対東芝私的録画補償金事件

東京地裁平成22年12月27日判決平成21(ワ)40387損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官    大西勝滋
裁判官    石神有吾

*裁判所サイト公表 2011.1.7
*キーワード:私的録画補償金、特定機器、協力義務、法律の委任、コピーコントロール

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■事案

私的録画補償金徴収の対象となる機器の特定と製造業者の協力義務の内容が争点となった事案

原告:社団法人私的録画補償金管理協会(SARVH)
被告:株式会社東芝

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法30条2項、施行令1条2項3号、104条の5、民法709条

1 被告各製品の特定機器該当性
2 法104条の5の協力義務としての私的録画補償金相当額支払義務の有無
3 被告による不法行為の成否

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■事案の概要

『本件は,著作権法30条2項の補償金(以下「私的録音録画補償金」という。)のうち私的使用を目的として行われる「録画」に係るもの(以下「私的録画補償金」という。)を受ける権利をその権利者のために行使することを目的とする指定管理団体である原告が,別紙製品目録1ないし5記載の各DVD録画機器(以下,それぞれを「被告製品1」,「被告製品2」などといい,これらを総称して「被告各製品」という。)を製造,販売する被告に対し,被告各製品は同法30条2項所定のデジタル方式の録音又は録画の機能を有する「政令で定める機器」(以下「特定機器」という。)に該当するため,被告は,同法104条の5の規定する製造業者等の協力義務として,被告各製品を販売するに当たって,その購入者から被告各製品に係る私的録画補償金相当額を徴収して原告に支払うべき法律上の義務があるのにこれを履行していないなどと主張し,上記協力義務の履行として,又は上記協力義務違反等の不法行為による損害賠償として,被告各製品に係る私的録画補償金相当額1億4688万5550円及び遅延損害金の支払を求めた事案』(判決文PDF1頁以下)

<経緯>

2006年1月  著作権分科会報告書 補償金制度の抜本的な検討答申
2007年12月 私的録音録画小委員会で文化庁が「20XX年モデル」提案
2008年6月  文科省、経産省「ダビング10」両省合意
2009年2月  ブルーレイ課金検討開始
2009年5月  改正著作権法施行令、施行規則施行
2009年9月  SARVHが文化庁へ照会
           JEITAが文化庁へ照会
2009年11月 本件提訴

被告製品
製品名:VARDIA(ヴァルディア)RD−E303等
DVD録画機器(ハイビジョンレコーダー)

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■判決内容

<争点>

1 被告各製品の特定機器該当性

被告のDVDハイビジョン録画機器(アナログ放送対応チューナーなし)5点について、録画補償金の対象となる特定機器かどうかがまず争点となっています(60頁以下)。

この点について、裁判所は、著作権法30条2項が具体的な機器の指定を政令への委任事項とした趣旨(客観的、一義的な技術的事項による特定の必要)から政令の文言の文理解釈を重視。施行令1条2項柱書きの「アナログデジタル変換が行われた影像」の意義について、「アナログ信号をデジタル信号に変換する処理が行われた影像」を意味するものと判断。
その上で、被告製品5点について、いずれも施行令1条2項3号の特定機器に該当すると判断しています。

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2 法104条の5の協力義務としての私的録画補償金相当額支払義務の有無

著作権法104条の5に規定される私的録音録画補償金の支払の請求及びその受領に関する製造業者等の協力義務について、被告側はこの協力規定は訓示規定であって製造業者等に具体的な法的義務を課したものではないと反論しました(77頁以下)。

裁判所は、「協力」の用語例や文理解釈、立法者意思などから法律上の具体的な義務ではなく、法的強制力を伴わない抽象的な義務であると判断。結論として被告が原告に対して104条の5の協力義務としての私的録画補償金相当額の金銭の支払義務を負うものと認めることはできないと判断しています。

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3 被告による不法行為の成否

(1)協力義務違反による原告の利用者に対する補償金請求権の侵害性、(2)被告各製品の販売による原告の補償金請求権の侵害性について、いずれも不法行為は成立しないと判断されています(89頁以下)。

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■コメント

行政の交渉や議論の場で決着が付かない事象については、司法の場で決着を付けるという流れの著作権法制での一つの表れとして記憶される事案かと思います。

判決内容の詳しくは、企業法務戦士の雑感さんの記事「予想を超えた判決〜東芝録画補償金支払請求事件」をご覧戴けたらと思います。

前編

後編

以下、少し長めの参考文献からの引用になりますが、協力義務に関する争点は、補償金を業者が負担するのか、利用者が負担するのかという補償金の制度設計に関わるもので、根が深い問題です。
利用者負担を前提とするとしても、ダビング10導入と著作権者等の許諾の有無といった問題についてどう考えるべきか、検討すべき課題は残されます。

「これらの業者は複製を行っているわけではないため,業者に直接支払義務を課すことはせず,協力義務を課しているだけであるが,現実には業者が商品に補償金額を上乗せして販売し,その金額を指定管理団体に支払うことになる。・・・ただ,製造業者等には協力義務があるだけであり,違反に対するサンクションはないため(間接侵害については別論である),事実上全業者が拒否をしないという前提あるいは合意の上に成立しており,極めてもろいガラス細工のような制度である。」
中山信弘『著作権法』(2007)249頁

「仮に製造業者に支払義務を課したとしても,コストを消費者に転嫁すれば同じことと捉えられがちであるが,著作物の複製利用に対して,誰がどのような理由により法的責任を負うべきであるのかという制度の理念に関わる問題を孕んでいると言える。」
作花文雄『詳細著作権法第四版』(2010)319頁

ところで、インターネットユーザー協会(MIAU)から声を掛けて頂いて1月23日、ニコ生放送【MIAU Presentsネットの羅針盤】「徹底解説!私的録画補償金」(【出演】津田大介(メディアジャーナリスト・MIAU代表理事)西田宗千佳(家電ジャーナリスト)小寺信良(コラムニスト・MIAU代表理事)の各氏)に参加させていただきましたが、AV機器の識者である小寺さんほか皆さんからDRM開発のコストがどれだけ重いものであるのか、コピーコントロールの意味合いについてお話しが伺えたのが印象に残りました。こういう点は、判決文を読んだだけでは感銘力が低く、伝わって来難いものとなります(被告側の「二重の負担」論)。

生放送中にアンケートが行われましたが、「(無料番組には)DRMを掛けない代わりに応分の補償金を負担するようにすべき」との意見が実に8割に及びました。視聴数2万5千を超える中での結果で、ユーザーがこの見解に賛成しているというのはもはや明確で、行政や権利者、関係企業、団体は今後どう対応していくか、事は東芝だけの話ではなく、補償金制度のあり方を含めより良いデジタルコンテンツ利用環境の整備に向けて早期の決断が迫られています。

アンケート:補償金制度とDRM、これからどうすれば?
 1.現状のまま2.5%
 2.補償金廃止DRM残す16.6%
 3.DRM廃止補償金残す80.9%


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■参考文献

加戸守行『著作権法逐条講義五訂新版』(2006)612頁
小寺信良『徹底解説!私的録画補償金資料(2011)

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■参考サイト

SARVH 社団法人私的録画補償金管理協会

東芝プレスリリース(2009年11月11日)
私的録画補償金に関する当社の対応について

Togetter−MIAU Presentsネットの羅針盤「徹底解説!私的録画補償金
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2011年01月11日

廃墟写真事件−著作権 損害賠償等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

廃墟写真事件

東京地裁平成22.12.21平成21(ワ)451損害賠償等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官      上田真史
裁判官      石神有吾

*裁判所サイト公表 2010.1.6
*キーワード: 翻案権、アイデア・表現二分論、名誉棄損、一般不法行為

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■事案

廃墟を撮影した写真の類否が争点となった事案

原告:写真家
被告:写真家

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法27条、2条1項1号、民法709条

1 翻案権侵害の成否
2 名誉棄損の不法行為の成否
3 法的保護に値する利益の侵害の不法行為の成否

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■事案の概要

『原告が,原告が撮影した「廃墟」を被写体とする写真(いわゆる「廃墟写真」)と同一の被写体を,被告において撮影して写真を作成し,それらの写真を掲載した別紙書籍目録1ないし4記載の各書籍(以下「被告各書籍」といい,それぞれの書籍を「被告書籍1」,「被告書籍2」などという。)を出版及び頒布した行為が,原告の有する写真の著作物の著作権(翻案権,原著作物の著作権者としての複製権,譲渡権)及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害し,また,被告が「廃墟写真」という写真ジャンルの先駆者である原告の名誉を毀損したなどと主張して,被告に対し,(1)著作権法112条1項,2項に基づく被告各書籍の増製及び頒布の差止め並びに一部廃棄,(2)著作権侵害,著作者人格権侵害,名誉毀損及び法的保護に値する利益の侵害の不法行為による損害賠償,(3)著作権法115条及び民法723条に基づく名誉回復等の措置としての謝罪広告を求めた事案』(2頁)

<経緯>

原告書籍:
「棄景−廃墟への旅」(1993年刊行)
「少女物語−棄景Ⅳ」(2000年刊行)
「日本風景論」(2000年刊行)

被告書籍:
「廃墟遊戯」(1998年刊行)
「廃墟漂流」(2001年刊行)
「廃墟をゆく」(2003年刊行)
「廃墟遊戯−Handy Edition」(2008年刊行)

2009年2月5日 訴状送達

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■判決内容

<争点>

1 翻案権侵害の成否

原告書籍に収録された写真や個展で発表された写真5点と被告の写真集に収録された写真5点の類否について、翻案権(著作権法27条)侵害性が争点とされました(49頁以下)。

(1) 原告写真1(1−P)及び被告写真1(1−D)
 「旧丸山変電所の建物内部」(群馬県松井田町所在)
(2)原告写真2(2−P)及び被告写真2(2−D)
 「足尾銅山付近の通洞発電所跡(建物外観)」(栃木県足尾町所在)
(3)原告写真3(3−P)及び被告写真3(3−D)
 「大仁金山付近の建物外観」(静岡県修善寺町所在)
(4)原告写真4(4−P,4−P’)及び被告写真4(4−D)
 「奥多摩ロープウェイの機械室内部」(東京都奥多摩町所在)
(5)原告写真5(5−P)及び被告写真5(5−D)
 「奥羽本線旧線跡の橋梁跡」(秋田県大館市所在)

原告は、「廃墟写真」の写真ジャンルにおいては被写体である「廃墟」の選定が重要な意味を持ち、原告写真の表現上の本質的な特徴は被写体及び構図の選択にある旨等主張しました。

この点について、裁判所は翻案の意義について江差追分事件最高裁判例(最判平成13.6.28)に言及した上で、被写体の選択はアイデアであって表現それ自体ではないこと、また構図ないし撮影方向そのものは、表現上の本質的な特徴ということはできないと判断。
そして、被告写真から原告写真の表現上の本質的特徴を直接感得することができるかどうかに関して、原被告各作品の相違点から5点の写真いずれについても、原告写真と被告写真とでは写真全体から受ける印象が大きく異なるものとなっており、被告写真から原告写真の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできないと判断しています。

結論として、翻案権侵害は成立せず、また、被告写真の作成が原告写真の翻案物といえない以上、原告主張の複製権(28条、21条)侵害、譲渡権(26条の2)侵害、氏名表示権(19条)侵害は成立しないとしています。

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2 名誉棄損の不法行為の成否

原告は次に、被告の写真集「亡骸劇場」(2006年刊行)巻末の被告に対するインタビューの記載部分に記述された被告の発言について、あたかも被告自ら「廃墟写真」というジャンルをゼロから作り上げたかのような事実を摘示するものであり、この事実摘示を目にした一般人が原告の廃墟写真に接したときは、反射的に原告が「廃墟写真」という分野について被告の二番煎じを演ずる模倣者であるとの誤解を生ずるおそれがあるなどとして、被告の上記発言が原告の名誉を毀損する旨主張しました。

インタビューの記載部分:

「1990年代前半,東京湾岸の風景を撮影していた頃,・・・スクラップ&ビルドの世界に興味を持っていました。そこで眼にした捨て去られた古い倉庫や貨物列車の引き込み線を撮影したとき,初めて「廃墟」というものを意識しました。それから全国に同じような場所がもっとあるだろうと考え,古い地図帳をたよりに鉱山跡を探す旅に出るようになりました。鉱山の廃墟を撮影していて気づいたのは,かつて鉱山を中心にしてでき上がった集落は鉱山が閉山したあと,同じように朽ち果ててしまったということです。」,「そんなゴーストタウンの学校や病院,遊園地,商店などを眼の前にしたとき,鉱山跡とはまったく違った別のジャンルの廃墟が撮れると確信し,「亡骸」シリーズの撮影を続けることにしたのです」

この点について、裁判所は、

『上記記述部分は,「鉱山の廃墟」を撮影してきた被告が,「鉱山の廃墟」とは別の種類の廃墟を撮影して,それらの廃墟写真を「亡骸劇場」に掲載するに至った個人的な経緯を述べたものであって,上記記述部分から,原告が主張するようにあたかも被告自らが「廃墟写真」というジャンルを創設したことを述べたものと認めることはできない。
 また,上記記述部分には,原告及びその写真作品に言及した記載はないのみならず,被告が「廃墟写真」のジャンルにおいて原告の先駆者であるかのような印象を与える記載もない。
 したがって,上記記述部分は,原告の名誉を毀損する事実の摘示を含むものとは認められない。』

として名誉棄損の成立を否定しています(58頁以下)。

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3 法的保護に値する利益の侵害の不法行為の成否

原告はさらに、当該廃墟を作品写真として取り扱った先駆者として世間に認知されることによって派生する営業上の諸利益は、法的保護に値する利益であるとした上で、営利目的での発表にあたっては原告の同意を得るか、少なくとも原告作品を参照した旨の明示の義務があるが、被告は原告の同意なく、かつ原告作品を参考にしたなどの注釈を入れることなく被告書籍に掲載、販売しているとして、原告写真13点に関するこれらの行為が不法行為(民法709条)を構成すると主張しました。

この点について裁判所は、

(1)法的保護に値する利益性

『廃墟を被写体とする写真を撮影すること自体は,当該廃墟が権限を有する管理者によって管理され,その立入りや写真撮影に当該管理者の許諾を得る必要がある場合などを除き,何人も制約を受けるものではないというべきである。このように廃墟を被写体とする写真を撮影すること自体に制約がない以上,ある廃墟を最初に被写体として取り上げて写真を撮影し,作品として発表した者において,その廃墟を発見ないし発掘するのに多大な時間や労力を要したとしても,そのことから直ちに他者が当該廃墟を被写体とする写真を撮影すること自体を制限したり,その廃墟写真を作品として発表する際に,最初にその廃墟を被写体として取り上げたのが上記の者の写真であることを表示するよう求めることができるとするのは妥当ではない。』

『また,最初にその廃墟を被写体として撮影し,作品として発表した者が誰であるのかを調査し,正確に把握すること自体が通常は困難であることに照らすならば,ある廃墟を被写体とする写真を撮影するに際し,最初にその廃墟を被写体として写真を撮影し,作品として発表した者の許諾を得なければ,当該廃墟を被写体とする写真を撮影をすることができないとすることや,上記の者の当該写真が存在することを表示しなければ,撮影した写真を発表することができないとすることは不合理である。』

として、原告主張の営業上の利益は法的保護に値する利益には当たるものと認めることはできないと判断。

(2)違法行為の態様

また、被告の違法行為の態様についても、社会的に是認できる限度を逸脱した違法なものに当たるものではないと判断。

(3)主観的意図

さらに、被告写真については、それらの撮影時期が明記されていることからすると、被告において原告が主張するような先駆者としての利益を害する主観的な意図があったと認めることはできないと判断。

結論として、原告の被告による法的保護に値する利益の侵害の不法行為の成立は否定されています(60頁以下)。

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■コメント

判決文を検討するにあたり、原告書籍と被告書籍を実際に手に取り、比較して眺めてみました。
原告丸田祥三さんのこれらの書籍に掲載された作品は、モノクロで粒子が粗く、また24ミリなどの広角レンズを利用していて独特のパースペクティブ、被写体の毀棄感、哀愁感が伝わります。
これに対して被告小林伸一郎さんの作品はカラーで6×6(ブローニ版)や4×5版が利用され緻密、独特の色調も相まってシュルレアリスムの雰囲気すら感じさせるものでもありました。

この小林さんの写真、写真集からは丸田さんの作品のエッセンスを感じることは、全くありませんでした。この点で裁判所が翻案権侵害性を否定した結論については私は妥当であると考えます。
また、不正競争防止法による不正競争行為規制でもカバーできない事業者間での一般不法行為論についても、先行者の営業上の利益が保護される場合があり得るところですが、判決文を読む限りでは棄却の判断も仕方がないかと思った次第です。

本判決が出る前に原告側代理人に就かれておいでの小倉秀夫先生に今回の訴訟について少しお話を伺う機会があり、先生のお話からはクリエイターの思いを真摯に受け止める姿が強く伝わってきました。結論としては棄却の判断でしたが、著作権法がご専門の小倉先生が本件を担当されていることで争点としては漏れなく取り上げられたのではないかと思われます。

写真著作物の類否が争点となった先例としては、みずみずしい西瓜写真事件があります(東京高裁平成13年6月21日平成12(ネ)750著作権侵害差止等請求控訴事件、最決平成14年6月27日平成13(オ)1391、(受)1362 上告棄却、上告不受理)。ここでは、西瓜(切ったものや丸のままのもの)、西瓜の蔓、ブロック状の氷、籐の籠、背景としての青といった素材が用いられており、日常生活の中によく見られるありふれたものばかりで構図ができあがった写真著作物の類否が問題となりました。

東京高裁判決では、

『写真著作物において,例えば,景色,人物等,現在する物が被写体となっている場合の多くにおけるように,被写体自体に格別の独自性が認められないときは,創作的表現は,撮影や現像等における独自の工夫によってしか生じ得ないことになるから,写真著作物が類似するかどうかを検討するに当たっては,被写体に関する要素が共通するか否かはほとんどあるいは全く問題にならず,事実上,撮影時刻,露光,陰影の付け方,レンズの選択,シャッター速度の設定,現像の手法等において工夫を凝らしたことによる創造的な表現部分が共通するか否かのみを考慮して判断することになろう。
 しかしながら,被写体の決定自体について,すなわち,撮影の対象物の選択,組合せ,配置等において創作的な表現がなされ,それに著作権法上の保護に値する独自性が与えられることは,十分あり得ることであり,その場合には,被写体の決定自体における,創作的な表現部分に共通するところがあるか否かをも考慮しなければならないことは,当然である。写真著作物における創作性は,最終的に当該写真として示されているものが何を有するかによって判断されるべきものであり,これを決めるのは,被写体とこれを撮影するに当たっての撮影時刻,露光,陰影の付け方,レンズの選択,シャッター速度の設定,現像の手法等における工夫の双方であり,その一方ではないことは,論ずるまでもないことだからである。』 (8頁以下)

と説示されており、被写体として切り取る風景の選択自体に独自性が認められる場合はその選択自体に一定の意味付けがされ、具体的な表現を検討するに際しての判断の一要素となってくることになりますが、今回の東京地裁の判決では「廃墟」という被写体の選択や構図、撮影方向自体に特段の意味付けをすることを認めませんでした。

風景写真では、その場に立てば撮影者としてはどうしても同じ被写体や似た構図、アングルを選択することになることが避けられない(選択の幅が狭い)わけで、他者の表現の自由との兼ね合いからできるだけ著作権同士の衝突を避けようとする東京地裁の政策的価値判断も理解できます。ただ、反面で構図や撮影方向は風景写真のエッセンスに関わる部分なだけに、本判決で写真著作物特有の創作性や類似性判断の視点に言及していない点はなお検討の余地を残すものとなっています。

アイデアと表現の連続性(アイデア・表現二分論)を考えさせる事案としては、最近の裁判例として昨年の箱根富士屋ホテル事件(一審で著作権侵害性一部認容の結論が控訴審で覆った)がありましたが、廃墟写真事件でもその区別が難しいこと(アイデアと表現の結びつきが強い場合、アイデアを利用しているにすぎないと言って良いのか、あるいは表現を利用していると言えるのか)を印象付ける、さらに創作性と類似性判断の関係性を考えさせる事案となりました。

朽ち果てた新幹線0系電車の写真(「棄景−廃墟への旅」収録)などはインパクトがあって、「廃墟写真といえば、丸田さんのこの写真」と、私の記憶に深く刻まれています。この先10年、20年経過すれば「雑音」は雲散霧消、作品の価値だけが残ります。作品の真価については、あとは歴史が判断するのではないでしょうか。なお、丸田さんはご自身のブログ記事によると、控訴の手続きをとられるようです。

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■過去のブログ記事

2010年2月8日記事
「箱根富士屋ホテル物語」事件(原審)
2010年7月23日記事
「箱根富士屋ホテル物語」事件(控訴審)

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■参考判例

江差追分事件
最高裁平成13年6月28日平成11(受)922損害賠償等請求事件

みずみずしい西瓜写真事件
東京高裁平成13年6月21日平成12(ネ)750著作権侵害差止等請求控訴事件
別紙1(画像)

写真を巡る過去の裁判例一覧(弊サイト)
写真の著作権

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■参考サイト

原告丸田祥三氏のサイト
風景剽窃裁判/写真家・小林伸一郎氏を盗作で提訴いたしました・・・Yahoo!ブログ

原告丸田祥三氏のツイッター
丸田祥三(malta_shozo)

被告小林伸一郎氏のサイト
写真家小林伸一郎 オフィシャル ブログ 写真著作権訴訟等(勝訴)のご報告 小林伸一郎

企業法務戦士の雑感(2010年1月8日記事)
「権利」で勝てないもどかしさ

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■参考文献

三浦正広「著作権法によるアイデアの保護−アイデア・表現二分論の批判的考察」『著作権法と民法の現代的課題−半田正夫先生古稀記念論集』(2003)88頁以下
上野達弘「ドイツ法における翻案−「本質的特徴の直接感得」論の再構成−」『著作権研究』34巻(2008)28頁以下
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2011年01月08日

「サーキットの狼」DVD事件(控訴審)−著作権 損害賠償請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「サーキットの狼」DVD事件(控訴審)

知財高裁平成22.12.28平成22(ネ)10066損害賠償請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官      中平健
裁判官      知野明

*裁判所サイト公表 2011.1.5
*キーワード:ライセンス契約、ワンチャンス主義、制作請負契約、出演契約、期待権、慣習
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■事案

テレビ番組のDVD商品化許諾を巡って下請製作会社、ナレーション実演家
と著作権管理会社との間で争われた事案の控訴審

原告(控訴人) :テレビ番組製作下請会社、ナレーション実演家
被告(被控訴人):映像製作会社

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 民法415条、709条、著作権法91条2項

1 原告会社の請求(請負代金の追加請求)
2 原告Xの請求(出演料の追加請求等)
3 期待権侵害による損害賠償請求及び慣習に基づく二次使用料請求

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■事案の概要

『控訴人株式会社てんこもり(原審原告。以下「原告会社」という。)は,漫画「サーキットの狼」を題材にした本件テレビ番組の制作をし,控訴人X(原審原告。以下「原告X」という。)は,同番組でナレーションの実演を行った。被控訴人(原審被告。以下「被告」という。)に対し,原告会社は,本件テレビ番組の制作業務に関する追加の請負代金として105万円及びこれに対する平成18年11月1日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を,原告Xは,同テレビ番組の追加の出演料として315万円と,実演家の録音権(著作権法91条1項)侵害による損害賠償として315万円の合計630万円及びこれに対する平成18年11月1日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を,それぞれ求めた。
 原判決は,(1)原告らの本件番組の制作請負契約ないし出演契約に基づく請求について,被告が上記各契約の当事者ではないこと,また,(2)原告Xの実演家の録音権侵害による損害賠償請求について,本件番組のDVDを製作,販売した主体は交通タイムス社であり,被告が交通タイムス社を通じて,あるいは同社と共同して本件番組のDVDの製作,販売を行ったとはいえないことを理由として,原告らの請求をいずれも棄却した。
 これに対し,原告らは,原判決を不服として本件控訴を提起し,当審において,新たな請求原因として,それぞれ期待権侵害による損害賠償請求及び慣習に基づく二次使用料請求を追加した(なお,被告は,上記訴えの変更について,異議なく応訴している。)。』(2頁)

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■判決内容

<争点>

1 原告会社の請求(請負代金の追加請求)
2 原告Xの請求(出演料の追加請求等)

争点1と2について、控訴審でも原審の判断が維持されていて、原告らの請求は認められていません(4頁)。

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3 期待権侵害による損害賠償請求及び慣習に基づく二次使用料請求

原告らは、控訴審で新たな主張としてテレビ番組をビデオ化、DVD化する場合は、出演者、ナレーター等に使用料を支払う慣習が長期間にわたり存在し、こうした使用料支払に対する期待権が法律上の利益として保護される旨追加しました。

しかし、裁判所は、使用料支払を受ける期待権や慣行上の二次使用料請求権が法律上の利益として確立していることを裏付ける事実を認めることはできないとして、原告らの期待権侵害による損害賠償請求及び慣習に基づく二次使用料請求を容れていません(4頁以下)。

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■コメント

原判決維持の結果となっています。
期待権侵害による損害賠償請求(不法行為論)と慣習に基づく二次使用料請求を原告側は新たに主張しましたが、認められませんでした。

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■過去のブログ記事

原審(2010年7月26日記事)
「サーキットの狼」DVD事件

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2010年12月31日

岡三証券ソフトウェア譲渡契約法人税更正処分取消事件−著作権 法人税更正処分取消等請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

岡三証券ソフトウェア譲渡契約法人税更正処分取消事件

知財高裁平成22.5.25平成21(行コ)10001法人税更正処分取消等請求控訴事件PDF


*裁判所サイト公表 2010.5.26
*キーワード:創作者主義、黙示の譲渡合意、通謀虚偽表示

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■事案

グループ間でのソフトウェア著作権の譲渡契約が通謀虚偽表示によるものかどうかが争点となった事案(行政訴訟)の控訴審

原告(控訴人) :証券会社グループ
被告(被控訴人):国
処分行政庁   :日本橋税務署長

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■結論

請求認容

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■争点

条文 著作権法2条1項2号、17条、民法94条1項

1 控訴人が子会社に対して本件ソフトウェアの著作権等の譲渡対価であるとして支払った29億4324万円が法人税法81条の6第2項及び同条6項が準用する法人税法37条7項が定める「寄附金」に当たるか

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■事案の概要

『連結親法人である控訴人が,平成15年4月1日から同16年3月31日までの連結事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について,連結所得金額を49億4765万6093円として法人税の連結確定申告をしたところ,処分行政庁が,控訴人に対し,上記申告に係る連結所得金額について,控訴人が連結子法人である岡三情報システム株式会社(以下「OIS」という。)に支払った29億4324万円は,著作権等の対価ではなく,法人税法81条の6(ただし,平成18年法律第10号改正前の規定である。以下同じ。)が定める「寄附金」に該当し,また,控訴人の連結子法人である岡三証券株式会社(以下「新岡三証券」という。)が支払った7743万1963円は,租税特別措置法68条の66第1項(平成18年法律第10号改正前の規定である。以下同じ。)が定める「交際費」に該当するから,いずれも損金に算入すべきでなく,これらの合計79億6832万8056円を連結所得金額に加算すべきであるとして,平成17年7月29日付けで,控訴人の平成15年4月1日から同16年3月31日までの連結事業年度分の法人税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び当該法人税に係る過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をしたため,控訴人が,本件更正処分のうち,連結所得金額が49億4765万6093円を超える部分及び本件賦課決定処分の取消しを求めた事案』(3頁)

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■判決内容

<争点>

1 控訴人が子会社に対して本件ソフトウェアの著作権等の譲渡対価であるとして支払った29億4324万円が法人税法81条の6第2項及び同条6項が準用する法人税法37条7項が定める「寄附金」に当たるか

控訴人(平成15年9月30日以前の控訴人:旧岡三証券。法律上は同一会社)と子会社(OIS)は、平成15年に旧岡三証券の委託に基づき開発してきた本件ソフトウェアの著作権を関連説明資料等とともに30億円で譲渡する旨の「ソフトウェア等譲渡契約書」を取り交わし、30億円が支払われていました。
これに対して処分行政庁である日本橋税務署長は、実際には著作権の譲渡がされておらず、法人税法81条の6第2項により損金の額に算入しないとされている「寄附金」に当たるとして本件更正処分をしていました。
原審では、控訴人が子会社に支払った本件ソフトウェアの著作権の対価分と解される29億4324万円は「寄附金」に該当すると判断していました。

国側は、本件ソフトウェアの著作権の帰属関係について、旧岡三証券が子会社に対してSEサービス料として合計32億8000万円を支払っていたことから、著作権は開発費を支出した旧岡三証券に帰属すると主張していました。
しかし、控訴審では、『明示の特約があるか,又はそれと等価値といえるような黙示の合意があるなどの特段の事情がない限り,旧岡三証券が本件ソフトウェアの開発費を負担したという事実があったとしても,そのことをもって,直ちに,その開発費を負担した部分のソフトウェアの著作権が,その都度,委託者である旧岡三証券に移転することはないというべきである』(40頁)などと判断。
結論としては、本件ソフトウェアの著作権等が本件譲渡契約前に子会社から旧岡三証券に対して黙示の合意によって譲渡されていたとの事実は認められず、旧岡三証券が子会社に支払った本件ソフトウェアの譲渡代金は「寄附金」に当たらないと判断されています(31頁以下)。

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■コメント

岡三証券グループが平成15年頃に子会社等と行った情報処理システムのソフトウェア譲渡取引などについてなされた法人税の更正及び加算税の賦課決定処分に対する取消請求訴訟の控訴審です。
原審(東京地裁平成21.2.5判決平成19(行ウ)621)では請求棄却の判断でしたが、子会社であるシステム開発会社との取引について、当該子会社に著作権が帰属していたとして譲渡契約は虚偽で作出されたものではないとして、原審の結論が覆されています。

子会社の巨額の不動産の含み損(77億円)による債務超過状態が背景にあり、親子会社間の本件譲渡取引を債務超過状態を解消するための虚偽の外形のものと税務当局は判断しましたが、控訴審裁判所は国側の主張を認めませんでした。

ソフトウェアの資産計上の経緯などが著作権譲渡取引の事実認定でどのように裁判所に評価されるか(46頁以下)、また、著作権に関する法的な理論(著作権は創作者に帰属するという創作主義)と税務当局の思い描くシナリオ(開発費を払ったほうに著作権が帰属する)のズレなど興味深い事案です。

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■参考サイト

株式会社岡三証券グループ ニュースリリース(2010年6月10日)
法人税更正処分取消請求訴訟の判決の確定について

知財情報局(2010年5月27日)
ソフトの著作権は開発子会社に帰属、岡三証券への課税取消し命ずる判決 2010-05-27(木) 182000

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女子プロレスCS放送事件(控訴審)−著作権 酬金請求控訴事件事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

女子プロレスCS放送事件(控訴審)

知財高裁平成22.12.13平成22(ネ)10069報酬金請求控訴事件事件PDF

*裁判所サイト公表 2010.12.14
*キーワード:実演家報酬請求権、ライセンス契約

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■事案

女子プロレスの映像素材の利用について無償提供の合意があったかどうかが争点となった事案の控訴審

原告(控訴人) :写真集制作業者
被告(被控訴人):株式会社スカパー・ブロードキャスティング

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法94条2項、民法423条1項

1 本件各映像素材の無償の放送利用の合意の成否

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■事案の概要

『全日本女子プロレス興業株式会社(以下「全女」という。)に対して前払金返還請求権を有する債権者である原告が,全女との間の放送契約に基づき,全女が主催した女子プロレス興行を中継するテレビ番組を制作し,これを地上波で放送した被告株式会社フジテレビジョン(以下「被告フジテレビ」という。)及び上記番組を収録した映像素材(録画物)を編集して通信衛星デジタル放送(通信衛星(CS)を利用したデジタル放送。以下「CS放送」という。)をした被告株式会社スカパー・ブロードキャスティング(以下「被告スカパー」という。)に対し,(1)全女は被告フジテレビとの間の放送契約において上記女子プロレス興行を地上波で放送することを許諾したが,CS放送することについては許諾していない,(2)女子プロレス興行は女子レスラーによる実演(著作権法2条1項3号)に当たり,全女は実演家である女子レスラーから実演家の放送権(著作権法92条1項)及び報酬請求権の包括的譲渡を受けていたところ,被告スカパーによる上記番組のCS放送は,実演を地上波で放送することの許諾を得た被告フジテレビから録画物の提供を受けてする放送(著作権法94条1項2号)に当たるから,当該実演がCS放送されたことに基づいて実演家の被告フジテレビに対する著作権法94条2項所定の相当な額の報酬請求権が発生し,これが全女に帰属するなどと主張し,民法423条1項の債権者代位権に基づき,全女に代位して,被告らに対し,女子レスラーの実演がCS放送されたことに基づく著作権法94条2項所定の相当な額の報酬請求(被告スカパーに対しては被告フジテレビの報酬支払債務の併存的債務引受に基づく。)又は全女が有する女子プロレス興行の興行権の内容を構成する「放送許諾権」侵害の共同不法行為による損害賠償(被告フジテレビにおいては放送契約の債務不履行に基づく損害賠償を含む。)として160万円及び遅延損害金の連帯支払を求めた事案』(原審2頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 本件各映像素材の無償の放送利用の合意の成否

原告は、控訴審でも無償で映像素材を利用させるということはおよそ考えられないと主張しましたが、控訴審でも認められていません(6頁以下)。

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■コメント

全日本女子プロレスの債権者である原告による債権者代位訴訟で、行使の目的債権の存否が主な争点となった事案でしたが、原審の判断が控訴審でも維持されています。

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■過去のブログ記事

2010年8月5日記事(原審)
女子プロレスCS放送事件
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2010年12月28日

住宅ローン商品金利情報図表事件−著作権 損害賠償等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

住宅ローン商品金利情報図表事件

東京地裁平成22.12.21平成22(ワ)12322損害賠償等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官      大西勝滋
裁判官      上田真史


*裁判所サイト公表 2010.12.22
*キーワード:創作性、著作物性、図形の著作物、編集著作物、データベースの著作物

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■事案

住宅ローン金利の比較表中の図表の著作物性が争点となった事案

原告:金融情報サイト運営者
被告:財団法人住宅金融普及協会

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、10条1項6号、12条1項、12条の2第1項

1 本件図表の図形の著作物性
2 本件図表の編集著作物性
3 本件図表のデータベース著作物性

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■事案の概要

『原告が,被告がその開設するウェブサイト上に掲載している「住宅ローン商品金利情報」((略)がURL上に含まれる全てのページ。以下同じ。)のうちの図表(「別紙A」で示した範囲の図表の部分に相当する各図表。以下「被告図表」という。)は,原告の著作物である「図表」(「別紙B」で示した範囲の図表の部分に相当する各図表。以下「本件図表」という。)を複製したものであり,被告の上記掲載行為は原告の保有する本件図表の著作権(複製権,公衆送信権)を侵害する旨主張し,被告に対し,著作権法112条1項に基づく差止請求として被告のウェブサイト上の「住宅ローン商品金利情報」が掲載されたウェブページの閉鎖と,著作権侵害の不法行為による損害賠償の一部請求として706万4000円の支払を求めた事案』(1頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 本件図表の図形の著作物性

平成20年4月から原告が開設している「銀行商品コム」という名称のウェブサイトに全国の金融機関が取扱う住宅ローンに関する金利の比較表が掲載されていました。この金利比較表のうちの図表部分(本件図表)は、金融機関名、商品名、金利等といった項目から構成されていましたが、本件図表についてまず「図形の著作物」性(著作権法10条1項6号)が争点とされています。
この点について、裁判所は、金利情報の項目分類対比図表としてありふれたものであるとして著作物性(2条1項1号)を否定。「図形の著作物」に該当しないと判断しています(11頁以下)。
なお、原告は、利用者が希望する箇所をクリックすることにより金利数値の並び替え機能を有する点等について「動的な図表」であるとして創作性を主張しましたが、こうした機能はデータの管理方法あるいは原告ウェブサイトの機能であって本件図表を構成する各図表そのものの表現に相当するものではないとして裁判所に容れられていません。

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2 本件図表の編集著作物性

原告は、本件図表が素材である「全国の金融機関の住宅ローン金利」の選択又は配列によって創作性を有する「編集著作物」(12条1項)であると主張しましたが、素材の選択、配列いずれもありふれたものであるとして裁判所は創作性を否定。編集著作物性の点も認められていません(12頁以下)。

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3 本件図表のデータベース著作物性

原告はさらに、データベースの著作物(12条の2第1項)としての著作物性を主張しましたが、情報の体系的な構成、情報の選択いずれの点においてもありふれたものであるとして裁判所は創作性を否定。データベース著作物性も認められていません(14頁以下)。

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■コメント

全国の金融機関が扱う住宅ローン金利表の著作物性が争点となりました。結論としては原告の主張はつまるところアイデアの保護を求めるものとなるため、著作権法での保護は認められませんでした。

原告のサイトはこちら(借り換え(住宅ローン等)・預金金利等の金利比較:銀行商品コム:住宅ローン等の借り換え金利比較)かと思われますが、会員登録をして利用する形式となっています。サンプルページを見ることができるので本件図表の概要は把握できます。
被告のサイトの金利情報については、こちら(住宅ローン商品金利情報 金利情報チャンネル Sumai-web.TV)になります。

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■図表の著作物性に関する最近の事案

2010年6月30日記事
「月刊ネット販売」編集著作物事件(対著者)

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2010年12月27日

JASRAC対KTJAPAN事件−著作権 著作物使用料等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

JASRAC対KTJAPAN事件−著作権 著作物使用料等請求事件判決(知的財産裁判例集)−


最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

JASRAC対KTJAPAN事件

東京地裁平成22.11.24平成22(ワ)17479著作物使用料等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 大須賀滋
裁判官      菊池絵理
裁判官      坂本三郎

*裁判所サイト公表 2010.12.20
*キーワード:ジャスラック、録音利用許諾契約、配信利用許諾契約、債務不履行、取締役の任務懈怠

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■事案

ジャスラック(日本音楽著作権協会)との管理楽曲利用許諾契約上の著作物使用料債務の不履行が問題となった事案

原告:ジャスラック
被告:法人、法人代表者A

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 民法415条、会社法429条

1 被告会社に対する請求
2 被告Aに対する請求

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■事案の概要

『著作権等管理事業法に基づいて登録を受けた著作権等管理事業者である原告が,(1)被告株式会社KT JAPANに対し,録音利用許諾契約に基づく原告の管理著作物の使用料,違約金及び当該使用料に対する商事法定利率年6分の割合による遅延損害金並びにインタラクティブ配信利用許諾契約に基づく原告の管理著作物の使用料及びこれに対する約定の遅延損害金の支払を,(2)被告株式会社KT JAPANの代表者である被告Aに対し,会社法429条1項に基づく前記各使用料相当額の損害賠償金及びこれに対する民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,それぞれ求める事案』(2頁)

<経緯>

H16.12被告会社がダウンロードサービスで原告管理著作物を利用
H17.3 被告会社が原告に録音利用を申込
H17.4 被告会社が原告に録音契約解約申込書及びインタラクティブ配信契約解約申込書を提出

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■判決内容

<争点>

1 被告会社に対する請求

原告ジャスラックとの間の音楽著作物に関する録音利用許諾契約及びインタラクティブ配信利用許諾契約に基づく未払使用料と遅延損害金の支払い300万円余が認められています(3頁以下)。

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2 被告Aに対する請求

原告ジャスラックはさらに被告会社代表者であるAの取締役としての任務懈怠(会社法429条1項)を理由として使用料債務相当額の損害賠償をAに対して請求しましたが、この点については認められていません(5頁以下)。

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■コメント

音楽著作物のダウンロードサービスを行っていた被告会社が、ジャスラックとの楽曲利用許諾契約上の著作物使用料の支払いを遅滞したという事案です。被告会社がどのような音楽配信事業を行っていたのかは、判決文からは残念ながら伺えませんでした。

ところで、昨年創立70周年を迎えたジャスラックは、今年、生え抜きの菅原氏が理事長に就任、今までにも増して動画サイト、関係団体、各種イベントなどへも積極的に係わられており、権利者や利用者との対話路線を強調した1年のように見えました。
そうしたジャスラックの地道な努力の成果でしょうか、権利者側からのジャスラック理解への深まりを伝える下記の様な記事も掲載されています。

カラオケでボカロPにも著作権使用料が 「作家が主役」の時代―JASRAC・部分信託で何が変わる?(四本淑三)
ASCII.JP(2010年12月25日記事)

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2010年12月09日

アップリカ椅子形態模倣事件−著作権 著作権侵害行為差止請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

アップリカ椅子形態模倣事件

東京地裁平成22.11.18平成21(ワ)1193著作権侵害行為差止請求事件PDF

別紙1

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 阿部正幸
裁判官      山門優
裁判官      小川卓逸

*裁判所サイト公表 2010.12.3
*キーワード:純粋美術、応用美術、著作物性、商品等表示、形態模倣

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■事案

子供用の椅子の形態模倣性に関してデザインの著作物性や不正競争行為性が争点となった事案

原告:工芸デザイン権利保有会社、家具製造販売会社
被告:育児用品製造販売会社

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、同2項、不正競争防止法2条1項1号、5条2項、ベルヌ条約2条7項、会社法22条2項、民法709条

1 被告が被告製品を製造、販売する行為が、原告製品に係るデザインの著作権や著作権の独占的利用権の侵害に当たるか
2 被告が被告製品を製造、販売する行為が不競法2条1項1号の不正競争行為に該当するか
3 被告は、旧アップリカ社が平成20年3月31日以前に被告製品を製造、販売したことについて責任を負うか
4 原告らの損害ないし損失
5 差止請求の可否

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■事案の概要

『本件は,被告が,いずれも,いすである別紙被告製品目録1及び2記載の製品(以下,同目録1記載の製品を「被告製品1」,同目録2記載の製品を「被告製品2」といい,被告製品1と被告製品2とを総称して「被告製品」という。)を製造,販売する行為につき,(1)原告オプスヴィック社が有する別紙原告製品目録記載のいす(以下「原告製品」という。)のデザインに係る著作権(複製権又は翻案権)を侵害するとして,原告オプスヴィック社が被告に対し,著作権法112条1項,2項に基づき被告製品1の製造,販売等の差止め及び廃棄(なお,原告らは,被告製品2については差止めの対象としていない。以下の(2),(3)においても同じ。)を求めるとともに,民法709条に基づく損害賠償又は民法703条に基づく不当利得の返還を求め,(2)原告ストッケ社の原告製品に係る著作権の独占的利用権を侵害するとして,原告ストッケ社が被告に対し,同利用権及び民法709条に基づき被告製品1の製造,販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに,民法709条に基づく損害賠償又は民法703条に基づく不当利得の返還を求め,(3)原告らの周知な商品等表示である原告製品の形態を使用する不正競争行為に該当するとして,原告らが被告に対し,不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項1号,3条1項,2項に基づき被告製品1の製造,販売等の差止め及び廃棄並びに同法4条に基づく損害賠償又は民法703条に基づく不当利得の返還を求めるとともに,不競法14条に基づき謝罪文の掲載を求め,(4)原告らの営業上の利益を侵害する一般不法行為に該当するとして,原告らが被告に対し,民法709条に基づく損害賠償を求める事案』(2頁以下)

<経緯>

S52 原告製品の日本での輸入販売開始
H17 旧アップリカ社が被告製品2の販売開始
H19 旧アップリカ社が被告製品1の販売開始
H20 被告が旧アップリカ社から事業譲渡

原告製品 :TRIPP TRAPP(トリップ・トラップ)
被告製品1:木製チェアマミーズカドルBR等
被告製品2:木製ハイローチェアマミーズカドルBR等

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■判決内容

<争点>

1 被告が被告製品を製造、販売する行為が、原告製品に係るデザインの著作権や著作権の独占的利用権の侵害に当たるか

原告は、椅子のデザインの模倣を問題として、まず著作権侵害性を争点としています(26頁以下)。
この点について、裁判所は、著作物性(著作権法2条1項1号)、美術の著作物性(同条2項)の規定の趣旨から応用美術論に言及。
その上で工芸デザイナーAによって創作された原告製品のデザイン(本件デザイン)について、
本件デザインは,いすのデザインであって,実用品のデザインであることは明らかであり,その外観において純粋美術や美術工芸品と同視し得るような美術性を備えていると認めることはできないから,著作権法による保護の対象とはならないというべきである』(26頁)
として、著作権法上の保護を認めていません。

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2 被告が被告製品を製造、販売する行為が不競法2条1項1号の不正競争行為に該当するか

次に形態模倣行為の不正競争行為性(周知表示混同惹起行為 不正競争防止法2条1項1号)について争点とされています(27頁以下)。

(1)原告製品の形態の周知性

原告製品の形態が周知な商品等表示に該当するかどうかについて、

・原告製品の形態は、L字型で4本の脚から構成される一般的な子供用のいすと較べると特徴的な形態を有する。
・販売数量が年々増加している(平成17年度には、約4万脚)。
・新聞や雑誌に広告等が掲載。
・宣伝広告記事やパンフレットに原告ストッケ社の表示。

といった点から、裁判所は原告製品の形態は、原告ストッケ社の商品等表示として少なくとも平成17年10月31日までには周知なものになっていたと判断しています。

なお、被告は、原告製品の形態と類似する登録意匠の存在や原告製品の形態には、技術・機能に由来する点があり、自他識別力や出所表示機能を認めるのは相当ではないと反論していましたが、裁判所は容れていません。

(2)形態の類否

原告製品の形態と被告製品の形態の類否について、裁判所は、両製品の共通点を総合判断して類似性を肯定しています(32頁以下)。

なお、被告は被告製品は折り畳むことができることやテーブルがあることから非類似であると反論しましたが、裁判所に認められていません。

(3)混同のおそれの有無

誤認混同のおそれについて、両製品とも子供用のいすであること、主な需要者は小さな子供を持つ親たちで共通していること、価格帯もほぼ同じであることから、被告製品に接した需要者において、被告製品が原告ストッケ社の商品である、あるいは原告ストッケ社の関係する会社の商品であると誤信するおそれがあると裁判所は判断しています(34頁以下)。

結論として、原告ストッケ社との関係で不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為性が肯定されています。

なお、一般不法行為論(民法709条)については、原告両社ともその成立が認められていません。

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3 被告は、旧アップリカ社が平成20年3月31日以前に被告製品を製造、販売したことについて責任を負うか

被告は旧アップリカ社から事業譲渡を受けていましたが、商号の続用(会社法22条1項)が認められるとしても、旧アップリカ社の債務については、免責登記(会社法22条2項)がされているなどとして、平成20年3月31日以前の債務については被告の責任を認めていません(35頁以下)。

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4 原告らの損害ないし損失

不正競争行為による原告ストッケ社の損害について、不正競争防止法5条2項に基づき被告の利益を原告ストッケ社の損害と推定しています。

被告製品1の売上高411万2741円−仕入原価176万8000円−運送費用11万9408円=被告の利益222万5333円

そのほか、弁護士費用として22万円が認定されています(36頁以下)。

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5 差止請求の可否

被告製品1の製造販売行為の差止の必要性、また、廃棄の必要性も認められています(37頁)。
なお、謝罪広告の掲載の必要性は認められていません(38頁)。

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■コメント

椅子のような実用品のデザインの保護については、著作権法と意匠法が交錯する場面で、今回の事案では著作権法上の保護は認められなかったものの、競争行為規制の観点から保護が認められています。
なお、商品形態模倣行為については、不正競争行為法2条1項3号(デッドコピー規制)も考えられますが、日本国内において最初に販売された日から起算して3年経過した商品については適用除外となるので(19条1項5号イ)、昭和50年代から国内で輸入販売されているロングセラー商品である原告製品については、2条1項1号によったものと思われます。
応用美術論の問題現状については、特集が組まれている後掲「知財年報2009」207頁以下に詳しいところです。

マミーズカドル

被告製品と思われる「マミーズカドル」(AMAZONサイトより)

トリップトラップチェア

原告製品「トリップトラップチェア」(原告サイトより)

画像の商品が本件訴訟の対象となった商品かは正確には分かりませんが(別紙1参照)、類似性があるのかどうか、また誤認混同のおそれがあるかどうか等、微妙な事案ではある印象です。控訴審の判断を注視したいと思います。

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■参考判例

椅子のデザインに関する最初の裁判例として、ニーチェア事件(最判平成3.3.28平成2(オ)706判例集未登載)参照。
松尾和子「ニーチェアに関する著作権事件」『著作権研究』21巻(1995)151頁以下
 同  「量産される家具のデザインと著作物性−ニーチェアーに関する著作権事件」『小野昌延先生喜寿記念知的財産法最高裁判例評釈大系3』(2009)128頁以下

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■参考文献

知財年報−IP Annual Report 2009』(2009)別冊NBL130号
3 特集1 応用美術の法的保護より
上野達弘「応用美術の法的保護」209頁以下
駒田泰土「応用美術の著作権保護について−美の一体性の理論に示唆を受けて」219頁以下
本山雅弘「ドイツにおける応用美術の法的保護−いわゆる段階理論の理論的意義とその今後の展開を中心として」230頁以下
奥邨弘司「米国における応用美術の著作権保護」241頁以下
五味飛鳥「応用美術の法的保護について−主として意匠法との交錯に関して」256頁以下
劉暁倩「応用美術の著作物該当性−日本の裁判例の検討を中心として」272頁以下

第1部早稲田大学・北海道大学グローバルCOEジョイント著作権シンポジウム
パネル2 応用美術の法的保護「企業と法創造」17号参照 PDF

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■参考サイト

原告サイト
Tripp Trapp(R) chair A modern classic. - Stokke(R) Japan

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2010年11月15日

「SL世界の車窓」DVD事件(控訴審)−著作権 損害賠償請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「SL世界の車窓」DVD事件(控訴審)

知財高裁平成22.11.10平成22(ネ)10046損害賠償等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 滝澤孝臣
裁判官      本多知成
裁判官      荒井章光

*裁判所サイト公表 2010.11.11
*キーワード:複製権、著作者人格権、損害論

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■事案

百円ショップで販売されたSL鉄道映像のDVD販売等の著作権侵害性が争点となった事案の控訴審

原告(控訴人)     :写真家
被告(被控訴人)   :百円ショップ流通業者
被控訴人補助参加人:テレビ番組映像制作会社

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■結論

一部変更

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■争点

条文 著作権法21条、18条、19条、20条、114条3項、民法722条

1 控訴人から補助参加人に対する本件映像の著作権の譲渡又は本件映像の利用許諾等の有無
2 被控訴人の故意又は過失の有無
3 過失相殺
4 控訴人の損害の発生及びその額

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■事案の概要

『世界各地の蒸気機関車(SL)の映像を本件DVテープに撮影した本件映像の著作権者である控訴人が,被控訴人において,オスカ企画が控訴人に無断で本件映像を編集して作成した本件作品1及び2について,被控訴人補助参加人(以下,単に「補助参加人」といい,被控訴人と併せて,「被控訴人等」ということがある。)との間でDVD化に関する契約を締結した博美堂から,本件DVDを買い受けてこれを販売したことにつき,被控訴人に対し,(1)本件映像についての著作者人格権(同一性保持権)の侵害を理由とする,著作権法112条に基づく本件DVDの頒布等の差止め及び廃棄,(2)本件映像についての著作権(複製権)及び著作者人格権(公表権,氏名表示権及び同一性保持権)の侵害を理由とする,財産的損害4000万円(主位的には,逸失利益相当額。予備的には,著作権法114条3項に基づく損害額),精神的損害500万円及び弁護士費用450万円,以上合計4950万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成20年12月30日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案』(2頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 控訴人から補助参加人に対する本件映像の著作権の譲渡又は本件映像の利用許諾等の有無

原審では、原告(控訴人)が本件映像の著作権を放棄したり、若しくは映像制作会社に著作権を譲渡することについて黙示的に合意したり、又は本件映像を利用することを黙示的に許諾していたとは認められないと判断。結論として、映像制作会社(被控訴人補助参加人)の本件DVDの作成や百円ショップ小売業者(被控訴人)の販売行為は、複製権(著作権法21条)、公表権(18条)、氏名表示権(19条)、同一性保持権(20条)を侵害に当たるとしていましたが、控訴審でも原審の判断が維持されています(16頁)。

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2 被控訴人の故意又は過失の有無

百円ショップ小売業者である被告(被控訴人)において、本件DVDに関する著作権の帰属やその処理について確認した形跡が認められないとして、本件映像の著作権及び著作者人格権侵害について被告の過失が認められた原審の判断が維持されています(16頁以下)。

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3 過失相殺

原審では、放送番組制作企画段階での原告の対応(本件DVテープを保管させたまま特段の連絡等もしなかった)について、原告の過失が認められ、過失相殺として原告の損害額の1割が減じられていました。
控訴審では、原告の対応について「いささか常識に欠けるものであった」と認めたものの、原告の許諾を得ないままに本件DVDを制作したことが是認される余地はないとして、原審に反して過失相殺に関する被控訴人等の主張は採用されていません(17頁以下)。

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4 控訴人の損害の発生及びその額

(1)財産的損害

主位的主張となる逸失利益について、原告は本件映像に関する別のDVD制作販売会社とのライセンス交渉の経緯を踏まえて損害額を算定しましたが、原審では原告主張の著作権料の合意がこの会社と具体的に成立していたとは認めることはできないと判断。こうした合意の成立を前提とする原告の逸失利益の主張を容れていませんでしたが、控訴審でも同様の結論となっています(19頁以下)。

著作権法114条3項(使用料相当額)に基づく予備的主張については、DVD1枚の販売価格の点は低廉な価格(315円)ではなく、4000円と判断しており原審と同様ですが、著作権料相当額は8%から5%に低下。もっとも、枚数は販売枚数ではなく、複製権侵害が生じている納品枚数であるとして増加して算定されています。

【原審】
4000円(1枚の販売価格)×6581枚(販売枚数)×8%(著作権料率)=210万5920円

【控訴審】
4000円(1枚の販売価格)×9984枚(納品枚数)×5%(著作権料率)=199万6800円

(2)精神的損害

原審と同様、著作者人格権を侵害したことに対する慰謝料として、100万円が認められています(24頁以下)

(3)弁護士費用

認定された著作権料相当額及び慰謝料の約1割に相当する30万円が相当であると判断されています(26頁)。

以上、合計で329万6800円となっています。

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■コメント

損害論について、控訴審では原審とは異なり過失相殺が認められず、また著作権料率や算定の基礎となるDVD枚数の判断に違いがあります。結局、原審では損害額は合計して307万5328円でしたので、控訴審で僅かに増額したにとどまりました。

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■過去のブログ記事

2010.5.14記事(原審)
「SL世界の車窓」DVD事件

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■参考文献

寒河江孝允監修、永野周志・矢野敏樹編『知的財産権訴訟における損害賠償額算定の実務』(2008)179頁以下、327頁以下
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2010年11月09日

ペ・ヨンジュン雑誌出版事件−パブリシティ権 損害賠償請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

ペ・ヨンジュン雑誌出版事件

東京地裁平成22.10.21平成21(ワ)4331損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 阿部正幸
裁判官      山門優
裁判官      小川卓逸

*裁判所サイト公表 2010.11.4
*キーワード: パブリシティ権、肖像権、出版、包括許諾

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■事案

ペ・ヨンジュンの氏名や写真等を利用した雑誌出版のパブリシティ権侵害性が争点となった事案

原告:ペ・ヨンジュン
被告:出版社ら

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 民法709条、719条、著作権法114条2項、3項

1 原告のパブリシティ権侵害の有無
2 原告の許諾の有無
3 原告の損害

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■事案の概要

『著名な韓国人俳優である原告が,後記本件雑誌(『ぺ・ヨンジュン来日特報It’s KOREAL 7月号増刊』)の,それぞれ,出版社,編集発行人(出版社の代表取締役)及び編集者である被告らに対し,原告の写真等が多数掲載された本件雑誌を出版,販売した被告らの行為は原告のいわゆる「パブリシティ権」を侵害するものであると主張して,不法行為に基づく損害賠償金及びその遅延損害金の支払を求めた事案』(2頁)

<経緯>

H15   日本で「冬のソナタ」がテレビ放映
H17   被告会社が雑誌「It’s KOREAL」刊行
H20.5 原告が来日
H20.6 被告会社が本件雑誌(7月号増刊)を刊行
H21.2 本訴提起

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■判決内容

<争点>

1 原告のパブリシティ権侵害の有無

(1)パブリシティ権の意義

パブリシティ権の意義について裁判所は、

『著名人の氏名,肖像は,顧客誘引力を有し,経済的利益,価値を生み出すものであるということができるのであり,著名人は,人格権に由来する権利として,このような経済的利益,価値を排他的に支配する権利(以下「パブリシティ権」という。)を有すると解するのが相当である』(15頁以下)

としてパブリシティ権の保護を認めたうえで、言論、出版、報道等の表現の自由との比較衡量から、

『著名人の氏名,肖像を使用する行為が当該著名人のパブリシティ権を侵害する不法行為を構成するか否かは,その使用行為の目的,方法及び態様を全体的かつ客観的に考察して,その使用行為が当該著名人の顧客吸引力に着目し,専らその利用を目的とするものであるといえるか否かによって判断するのが相当である』

と説示しています。

(2)原告のパブリシティ権

原告は「ヨン様」ブームとして一種の社会現象と化しているほど絶大な人気があり、各種商品に肖像が使用されているとして、原告の氏名、肖像は強い顧客誘引力を有しており、原告はパブリシティ権を有すると裁判所は判断しています(16頁以下)。

(3)本件雑誌における原告写真の掲載態様

・全体的な構成:原告の来日の際の活動を紹介を中心とし、そのすべてを原告の氏名、写真、関連記事、関連広告で占めている体裁
・表表紙及び裏表紙:いずれにも原告の写真が使用、表表紙には原告の氏名大書
・本文部分:グラビア部分と記事の分量
・広告部分:原告関連番組及び原告関連商品の広告が掲載

(4)本件へのあてはめ

本件雑誌は、原告の氏名及び肖像写真を利用して購入者の視覚に訴える構成となっており、また、多くの頁で原告の肖像を独立して鑑賞の対象とすることができること、さらに、上質の光沢紙を使用したカラーグラビア印刷の雑誌であることも踏まえ、原告写真の利用態様は、原告の顧客誘引力に着目して専らその利用を目的とするものであるとして、パブリシティ権侵害が認められています(21頁以下)。

なお、本件雑誌の編集発行人である被告代表取締役Bと編集人である被告Cも原告に対して共同不法行為責任(民法719条)を負うと判断されています(23頁)。

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2 原告の許諾の有無

本件雑誌編集人Cが平成20年5月に日本における原告のマネジメント業務を遂行しているビーオーエフインターナショナル株式会社
の担当者Dに対して本件雑誌の企画書を送り検討を依頼していました。
被告側は、Dとの電話での応答により原告から写真の利用について包括的な許諾を得た旨主張しましたが、裁判所は認めていません(23頁以下)。

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3 原告の損害

本件雑誌は、単価580円で販売部数は4万1275冊、他社とのカレンダー商品でのライセンス契約許諾料などを総合的に考慮して400万円の損害額が認定されています(24頁以下)。そのほか、弁護士費用として40万円が認められていますが、慰謝料は認められていません。

なお、原告は、損害額の立証について著作権法114条2項(被告の得た利益)ないし3項(使用料相当額)の類推適用を主張しましたが、パブリシティ権と著作財産権との異質性から裁判所に容れられていません。

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■コメント

平成20年にドラマ「太王四神記」のプロモーション活動で来日した際にペ・ヨンジュン特集号として刊行されたカラーグラビア雑誌が問題となりました。

1162607-086

表紙を見てみると、「独占!どこよりも早い!! 3年ぶりの来日に密着」「ペ・ヨンジュン 来日特報」「完全追跡 大阪・名古屋・東京・横浜」となっていてまさにペ・ヨンジュンをウリにした雑誌となっています。

パブリシティ権侵害の判断基準については、「専ら」(キング・クリムゾン事件控訴審、中田英寿事件一審、ブブカスペシャル7事件一審)とか「商業的利用」(ブブカスペシャル7事件控訴審)、また、「(相関関係的)利益較量」(ピンクレディーダイエット事件控訴審)などのキーワードが用いられていますが(後掲斉藤資料参照)、本件では「専ら」基準を用いながら、ただ、「専ら」の意味合いについても触れられている点(ピンクレディー事件でも触れられていますが)が裁判例として参考になります(16頁)。

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■過去のブログ記事

2009年8月29日
ピンク・レディーパブリシティ権侵害事件(控訴審)

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■参考文献

斉藤浩貴「書籍・雑誌の出版とパブリシティ権―「ピンク・レディー」ダイエット事件―」(2010年10月29日著作権法学会判例研究会資料)
北村二朗 「芸能人の肖像写真が雑誌の記事に利用された場合のパブリシティ権 侵害の成否−ピンクレディー・パブリシティ事件−」『知的財産法政策学研究』25号(2009)301頁以下
多元分散型統御を目指す新世代法政策学:知的財産法政策学研究25号
内藤 篤「パブリシティ権の侵害判断 ブブカスペシャル7事件:控訴審」『著作権判例百選第4版』(2009)180頁以下
大家重夫『肖像権新版』(2007)168頁以下

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■参考サイト

国内マネジメント会社 プレスリリースPDF(2009年4月2日)
ビーオーエフインターナショナル株式会社「株式会社オークラ出版等に対する訴訟提起について」

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2010年11月04日

ウルトラマン海外ライセンス契約事件−著作権 譲受債権請求承継参加申立事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

ウルトラマン海外ライセンス契約事件

東京地裁平成22.9.30平成21(ワ)6194譲受債権請求承継参加申立事件PDF

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 阿部正幸
裁判官      山門優
裁判官      柵木澄子

*裁判所サイト公表 2010.10.8
*キーワード:翻案権、二次的著作物、条理、信義則、ライセンス契約、債権譲渡、商事時効消滅

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■事案

ウルトラマンキャラクターの登場する映画作品や商品の海外での独占的利用許諾契約の有効性などを巡って争われた事案

脱退原告承継参加人:キャラクター企画デザイン会社
被告           :円谷プロダクション

脱退原告:タイ王国人
被参加事件 平成18年(ワ)10273損害賠償請求事件

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法2条1項11号、27条、法例7条2項、11条1項、民法1条3項、信託法10条、弁護士法73条、商法522条

1 本件訴訟の国際裁判管轄
2 本件の準拠法
3 本件契約の成否、効力及び存否
4 本件契約に基づく被告の債務の内容
5 被告の債務不履行及び不当利得の有無
6 脱退原告は参加人に請求権を有効に譲渡したか
7 商事消滅時効の成否

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■事案の概要

『被告は,別紙第二目録記載の各著作物(以下「本件著作物」という。)の著作権者である。参加人は,(1)脱退原告は,後記1(2)の契約に基づき,被告から,本件著作物の日本以外の国における独占的利用権(以下「本件独占的利用権」という。)の許諾を受けた,(2) 被告は,日本以外の国において,第三者に対し,本件著作物や,同著作物の制作後に被告が制作したいわゆるウルトラマンキャラクターの登場する映画作品及びこれらを素材にしたキャラクター商品の利用を許諾している,(3) 上記(2)の被告の行為は,上記(1)の許諾契約に違反するものであり,被告は,脱退原告に対し,上記契約の債務不履行に基づく損害賠償義務ないし上記第三者から得た許諾料につき不当利得返還義務を負う,(4) 参加人は,脱退原告から,上記(3)の損害賠償請求権及び不当利得返還請求権を譲り受けた,と主張する。
 本件は,参加人が,被告に対し,上記損害賠償請求権の一部請求又は上記不当利得返還請求権の一部請求として,1億円及びこれに対する平成18年5月26日(被参加事件の訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金(不当利得返還請求の場合は,民法704条前段所定の年5分の割合による法定利息。)の支払を求めた事案である。なお,本件は,脱退原告が被告に対して提起した当庁平成18年(ワ)第10273号損害賠償請求事件に参加人が独立当事者参加した訴訟であり,脱退原告は,本件訴訟から脱退した。』(2頁以下)

<経緯>

昭和51.3.4 海外独占的利用権に関するライセンス契約(本件契約)締結
平成8.9.1  被告がバンダイとライセンス契約
平成9.7    被告が脱退原告を東京地裁に提訴(東京訴訟)
平成9.12   被告が脱退原告らをタイで提訴(タイ訴訟)
平成17.9.30脱退原告らが被告らを中国で提訴(中国訴訟)
平成19.3.4 脱退原告とBが本件独占的利用権の決定権限の授権合意
平成20.11.18 参加人会社設立
平成20.12.24 Bと参加人が本件独占的利用権の譲渡合意
平成21.2.9 本件損害賠償請求権等を参加人に譲渡、脱退原告が被告に譲渡通知

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■判決内容

<争点>

1 本件訴訟の国際裁判管轄

脱退原告と被告の間で締結されたキャラクター海外独占的利用許諾契約(本件契約)について、参加人は、被告が日本国外において外国法人等にライセンスを付与した行為が債務不履行に当たると主張したことから、本件訴訟について我が国が国際裁判管轄を有するか否かがまず問題となっています。
この点について、裁判所は、結論として我が国に国際裁判管轄を認めています(39頁以下)。

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2 本件の準拠法

次に、債務不履行に基づく損害賠償請求と不当利得返還請求について、結論として日本法が準拠法となると判断されています(40頁以下)。

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3 本件契約の成否、効力及び存否

本件契約については、それが偽造されたものである、また被告の取締役会の決議を経ておらず無効との主張が被告からされていましたが、本件契約書は真正に成立したものであること、また役会の決議を経ないで重要な財産を処分した場合でも契約自体は有効であると判断した別訴での主張の実質上の蒸し返しであるとして信義則上後訴における主張は許されないと判断。結論としては、別訴での判断と同様、本件契約は有効に成立したものと認めるのが相当であるとされています(42頁以下)。

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4 本件契約に基づく被告の債務の内容

本件契約の内容については、特定された映画についての独占的な利用権を脱退原告にライセンスするものであり、旧ウルトラマンキャラクターを素材とするキャラクター商品を複製、販売等する権利も含まれ、本契約に基づき被告が日本以外の国において第三者に対して本件著作物及び旧ウルトラマンキャラクターの利用を許諾することも禁じているものと裁判所は判断しています(44頁以下)。

なお、本件著作物が制作された後に制作されたウルトラマン映画及び新ウルトラマンキャラクターについては、本件契約では本件著作物の二次的著作物に登場するウルトラマンキャラクターが許諾の対象として想定していないこと、また、本件独占的利用権の内容に本件著作物の翻案権が含まれていないことから、被告が類似キャラクターの許諾について制限を受けるとの参加人の主張は裁判所に容れられていません。

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5 被告の債務不履行及び不当利得の有無

ライセンス契約の1から20について、被告の債務不履行及び不当利得の有無が検討されていますが、その一部については、債務不履行及び不当利得の成立が否定されています(46頁以下)。

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6 脱退原告は参加人に請求権を有効に譲渡したか

脱退原告が参加人に対して損害賠償請求権ないし不当利得返還請求権を有効に譲渡したかどうかも争点となっていますが、有効性が肯定されています(54頁以下)。

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7 商事消滅時効の成否

平成8年5月17日から13年5月17日までに生じた損害賠償請求権については、商事消滅時効の成立が肯定されています(57頁以下)。
参加人は、本件損害賠償請求権と不当利得返還請求権を選択的に請求しており、不当利得返還請求権に基づく認容額のほうが損害賠償請求権に基づく請求より高額となること(損害賠償請求権は商事時効消滅が成立)から、不当利得返還請求権に基づく請求が認容されています。

結論として、バンダイから被告が得たライセンス料相当額に関して不当利得返還請求権に基づき1636万3636円余の損失が認められています。

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■コメント

本件は、脱退原告(タイ人のソムポート・センゲンチャイ氏)が日本法人である被告円谷プロに対してキャラクター海外独占的利用許諾契約(本件契約)の債務不履行に基づく損害賠償請求等を求めた訴訟(被参加事件)について、参加人(損害賠償請求権等を含め事業を譲受けた会社)が独立当事者参加したものです。

ウルトラマンの海外ライセンス契約書の真偽を巡って日本の最高裁(真正性肯定)とタイの最高裁(真正性否定。中国の下級審訴訟でも真正性否定。広東省広州市中級人民法院平成21年9月16日)とで異なる判断が下されるといったねじれ状況もあって、いまなおウルトラマンキャラクターの海外での利用許諾関係が落ち着かない印象です。

なお、参加人から平成22年10月12日付けで声明文が出されていて、円谷プロ側との早期の和解を求める内容となっています(後掲Livedoorニュース参照)。

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■過去のブログ記事

2010年1月6日記事
ウルトラマン営業誹謗抗告事件

2009年1月20日記事
新刊案内 安藤健二「封印作品の憂鬱」(洋泉社)

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■参考サイト

牛木理一先生(牛木内外特許事務所)
ウルトラマンの著作権の帰属と海外独占利用権

2010年10月12日19時20分 提供Livedoor
タイ人側「円谷プロと和解したい」ウルトラマン裁判勝訴で声明(Livedoor)Livedoorニュース
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2010年10月30日

音楽CD見本品販売事件(控訴審)−著作権 損害賠償請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

音楽CD見本品販売事件(控訴審)

知財高裁平成22.10.28平成22(ネ)10057損害賠償請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官      中平健
裁判官      知野明

*裁判所サイト公表 2010.10.28
*キーワード:複製権、譲渡権、レコード製作者、著作隣接権

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■事案

音楽CDの出来上がり見本を無断販売した行為の複製権侵害性などが争点となった事案の控訴審

原告(控訴人) :作詞作曲者
被告(被控訴人):音楽CD制作会社

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法21条、26条の2、97条の2

1 被告によるCDの無断複製・販売の有無
2 原告のCD販売許諾の有無
3 損害論

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■事案の概要

『原判決別紙物件目録記載のCD(以下,原判決別紙物件目録記載1ないし4のCDを総称して「本件各CD」という。)のレコード製作者であり,本件各CDの複製盤を販売する際のプラスチックケースに入れられるジャケット(表紙),バック(裏表紙),サイド(側面紙)及びレーベル(CD盤表面の記載)(以下,これらを総称して「本件ジャケット等」という。)についての著作権者である控訴人(原審原告。以下「原告」という。)が,被控訴人(原審被告。以下「被告」という。)が無断で本件各CD及び本件ジャケット等を複製・販売し,本件CDにつき原告の著作隣接権(レコード製作者の複製権及び譲渡権)及び本件ジャケット等につき原告の著作権(複製権及び譲渡権)を侵害したとして,民法709条に基づき,損害賠償510万円及びこれに対する被告による最後の不法行為の日である平成19年12月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案』(1頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 被告によるCDの無断複製・販売の有無

原告は被告に販売用CDの制作を依頼しましたが、被告は、CDプレス業者から発注分のほかに出来上がり見本としてCD4作品について各3枚ずつ、合計12枚の見本盤の提供を受け、このうちの数枚を被告が販売していました。
原告は出来上がり見本以外にも被告はCD等を複製していたと主張しましたが、この点は認められず、原審同様見本盤の無断販売の点についてのみ原告の主張が認められています(4頁以下)。

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2 原告のCD販売許諾の有無

控訴審でも原審の判断が維持されており、原被告間の販売許諾の合意の成立が認められず、原告の販売許諾に基づいた販売であったとの被告の主張は容れられていません(5頁)。

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3 損害論

控訴審でも原審の判断である、定価3000円×7割×販売数7枚=14700円が原告の財産的損害であると認定されています(5頁)。

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■コメント

原告は原判決敗訴部分を不服として控訴しましたが、結論は変わりませんでした。

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■過去のブログ記事

2010年7月2日記事
音楽CD見本品販売事件

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2010年10月25日

「病院の業務管理項目完全チェックリスト集」書籍職務著作事件−著作権 損害賠償等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「病院の業務管理項目完全チェックリスト集」書籍職務著作事件

東京地裁平成22.9.30平成22(ワ)35335損害賠償等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 阿部正幸
裁判官      山門優
裁判官      小川卓逸

*裁判所サイト公表 2010.10.14
*キーワード: 職務著作、法人著作、複製

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■事案

元従業員らが分担執筆して出版した書籍の職務著作物性が争点となった事案

原告:医療・福祉経営コンサル会社
被告:原告元従業員

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法15条1項、22条

1 職務著作の成否

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■事案の概要

『原告が,「(仮題)病院の新経営管理項目読本」と題する著作物(甲第1号証。ただし,B(以下「B」という。)が執筆した「第5編院内IT化と情報管理・プライバシー保護」の部分は除く。以下この著作物を「本件著作物」という。)について著作権法15条1項に基づき著作権を有すると主張し,被告が本件著作物に依拠して被告書籍を作成し,出版,販売及び頒布する行為が,原告の本件著作物の複製権を侵害するとして,同法112条1項に基づき被告書籍の出版,販売及び頒布の差止め並びにその廃棄を求め,また,不法行為に基づき損害賠償として671万円及びこれに対する平成20年12月13日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案』(2頁)

<経緯>

H7.10 被告が原告会社に就職
H11.6 被告が部長に就任
H16.4 被告が取締役に就任
      出版社が被告に執筆を依頼、被告は部下に分担執筆依頼 
H18.8 被告が原告会社を辞職し退職
H19.2 本件書籍が出版
H20.12本件提訴

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■判決内容

<争点>

1 職務著作の成否

出版社から病院の経営管理に関する書籍の執筆を依頼された被告が、部下である従業員らと分担して執筆を担当。退職後に本件書籍が出版されました。
本件書籍が、原告の職務上作成されたものか、本件書籍のうち被告従業員らが執筆した部分の著作物の著作権の帰属について、その職務著作物性(法人著作物性 著作権法15条1項)の成否が争点となりました(11頁以下)。

本件著作物が「原告の発意に基づき」原告の従業員が「職務上作成」(15条1項)したかについて、裁判所は、執筆担当従業員が原告の業務時間内に執筆の打ち合わせのために原告の会議室を使用していたことや原告のPCなどが使用されて執筆されていた事実が認められるものの、

・原告会社と出版社で契約書が作成されていない
・原告内部において業務依頼書や業務受託報告書が作成されていない
・書籍シリーズが、いずれも個人の著作名義で公表されている
・原稿料が出版社から被告個人に支払われている

などの点から、本件書籍の執筆は被告個人に対して依頼されたものであり、各執筆担当従業員は被告からの個人的な依頼に基づき執筆を行ったものであるとして、本件書籍の執筆過程で作成された著作物である本件著作苦物は、原告の発意に基づき職務上作成されたものであるということはできないと判断されています。

結論として、本件著作物の職務著作物性が否定され複製権侵害性が認められていません。

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■コメント

原告会社の部門長であり取締役でもある被告の判断として、会社ではなく個人としての執筆とすることを決定して著作物を作成していることから、原告会社との間の労働契約や就業規則、委任契約に違反する場合は別段、著作物の著作権の帰属については、執筆者個人に帰属するという結果となります。

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2010年10月22日

美術鑑定書事件(控訴審)−著作権 損害賠償請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

美術鑑定書事件(控訴審)

知財高裁平成22.10.13平成22(ネ)10052損害賠償請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 滝澤孝臣
裁判官      本多知成
裁判官      荒井章光

*裁判所サイト公表 2010.10.14
*キーワード:複製、引用、権利濫用、フェアユース、権利制限規定

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■事案

美術絵画作品の鑑定書に付された原画の縮小カラーコピーが、原画の複製権を侵害するかどうかが争われた事案の控訴審

原告(被控訴人):画家の遺族
被告(控訴人) :美術品著作権管理鑑定業務会社

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■結論

原判決取消し、被控訴人請求棄却

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■争点

条文 著作権法21条、32条1項、47条の2、114条2項、民法1条3項

1 複製権侵害の成否
2 引用の成否

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■事案の概要

『画家であった亡Aの相続人である長男の亡B,養子(亡Bの長男)の被控訴人(以下,両名を併せて「被控訴人等」ということがある。)が,控訴人に対し,美術品の鑑定等を業とする控訴人において,亡Aの制作した原判決別紙絵画目録記載1及び2の本件絵画1及び2(以下,これらを併せて「本件各絵画」ということがある。)について,本件鑑定証書1及び2(以下,これらを併せて「本件各鑑定証書」ということがある。)を作製する際に,本件各鑑定証書に添付するため,本件各絵画の縮小カラーコピー(以下「本件各コピー」と,そのうち,本件絵画1の縮小カラーコピーを「本件コピー1」,本件絵画2の縮小カラーコピーを「本件コピー2」ということがある。)を作製したことは,亡Aの著作権(複製権)を侵害するものであると主張し,同侵害に基づく損害賠償請求(著作権法114条2項又は3項)として,12万円及びこれに対する当該侵害行為の後の日である本件訴状送達の日の翌日である平成20年11月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案』(1頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 複製権侵害の成否

題名「花」作品2点の鑑定証書の裏面に貼付された原画の縮小カラーコピー(162×119ミリと152×120ミリ)が原画の複製権(著作権法21条)を侵害するかどうかについて、原審同様、縮小カラーコピーは複製にあたると判断されています(10頁以下)。

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2 引用の成否

複製にあたるとした上で、権利制限規定である引用(著作権法32条1項)の成否が検討されています(13頁以下)。

(1)引用の適法性の要件

まず、引用の要件の点について、裁判所は、

『著作権法は,著作物等の文化的所産の公正な利用に留意しつつ,著作者等の権利の保護を図り,もって文化の発展に寄与することを目的とするものであるが(同法1条),その目的から,著作者の権利の内容として,著作者人格権(同法第2章第3節第2款),著作権(同第3款)などについて規定するだけでなく,著作権の制限(同第5款)について規定する。その制限の1つとして,公表された著作物は,公正な慣行に合致し,報道,批評,研究その他の引用の目的上正当な範囲内で引用して利用することができると規定されているところ(同法32条1項),他人の著作物を引用して利用することが許されるためには,引用して利用する方法や態様が公正な慣行に合致したものであり,かつ,引用の目的との関係で正当な範囲内,すなわち,社会通念に照らして合理的な範囲内のものであることが必要であり,著作権法の上記目的をも念頭に置くと,引用としての利用に当たるか否かの判断においては,他人の著作物を利用する側の利用の目的のほか,その方法や態様,利用される著作物の種類や性質,当該著作物の著作権者に及ぼす影響の有無・程度などが総合考慮されなければならない。』
『しかるところ,控訴人は,その作製した本件各鑑定証書に添付するために本件各絵画の縮小カラ−コピーを作製して,これを複製したものであるから,その複製が引用としての利用として著作権法上で適法とされるためには,控訴人が本件各絵画を複製してこれを利用した方法や態様について,上記の諸点が検討されなければならない。』

と条文の文言に沿った解釈を示しています。

(2)要件充足性の有無

次に、要件の充足性について検討を加えています。

『本件各鑑定証書は,そこに本件各コピーが添付されている本件各絵画が真作であることを証する鑑定書であって,本件各鑑定証書に本件各コピーを添付したのは,その鑑定対象である絵画を特定し,かつ,当該鑑定証書の偽造を防ぐためであるところ,そのためには,一般的にみても,鑑定対象である絵画のカラーコピーを添付することが確実であって,添付の必要性・有用性も認められることに加え,著作物の鑑定業務が適正に行われることは,贋作の存在を排除し,著作物の価値を高め,著作権者等の権利の保護を図ることにもつながるものであることなどを併せ考慮すると,著作物の鑑定のために当該著作物の複製を利用することは,著作権法の規定する引用の目的に含まれるといわなければならない。』

として、各コピーの添付は、必要性、有用性があり、また著作権者等の権利の保護に繋がるとして引用の目的に合致していると判断。

さらに、
・本件絵画とカラーコピーは別に流通することは考え難い
・作家側が本件各絵画の複製権を利用して経済的利益を得る機会が失われることも考え難い

という点も総合考慮して、本件各コピーを添付したことは、著作物を引用して鑑定する方法ないし態様において、その鑑定に求められる公正な慣行に合致したものということができると判断しています。

結論として、引用して利用する方法や態様が公正な慣行に合致したものであり、かつ、引用の目的との関係で正当な範囲内の利用であるとして、32条1項の規定する引用として許されるものと判断されています。

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■コメント

旧法下、マッドアマノパロディ=モンタージュ写真事件(第一次 最高裁昭和55年3月28日判決)では、引用の要件として「明瞭区別性」と「主従関係(附従性)」の2つの要件が提示され、多くの下級審判決はこれに従って判断してきています。
もっとも、32条1項の文言にある「正当な範囲内」「公正な慣行」に沿った判断(絶対音感事件、創価学会聖教グラフ写真ウェブ掲載事件)もみられるところで、学説上は条文の要件論に即してどのような要素を考慮するかの検討に主軸が移っています(上野後掲論文327頁以下、中山後掲書258頁以下、茶園後掲論文12頁以下参照)。

今回の控訴審は、近時の学説や判例状況を踏まえたうえで、32条1項の条文の文言に沿った判断によって引用を肯定し、著作権侵害を否定した裁判例として意義があるといえます(田村後掲コピライト12頁以下参照)。

いずれにしましても、原審で権利制限規定である引用を明確な争点としなかった被告東京美術倶楽部側の方針は不可解でしたが、控訴審では原審の判断が覆り常識的な価値判断に落ち着いた点は、まずは良かったと思うところです。
なお、大家重夫先生は、一審支持のご判断ですが(後掲論文参照)、大家先生は原告遺族側に取材をされておいでで、作家側の権利擁護にも配慮されたうえでの結論とのお話しを過日伺いました。作家側への配慮に改めて思い至った次第です。

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■過去のブログ記事

原審記事(2010年6月4日)
美術鑑定書事件

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■参考判例

原審判決PDF

絶対音感事件
東京高判平成14年4月11日平成13(ネ)3677

創価学会聖教グラフ写真ウェブ掲載事件
東京地判平成19年4月12日平成18(ワ)15024PDF


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■参考文献

飯村敏明「裁判例における引用の基準について」『著作権研究』26号(2000)91頁以下
上野達弘「引用をめぐる要件論の再構成」『著作権法と民法の現代的課題 半田正夫先生古稀記念論集』(2003)307頁以下
中山信弘『著作権法』(2007)256頁以下
田村善之「検索サイトをめぐる著作権法上の諸問題(3・完)ー寄与侵害、間接侵害、フェア・ユース、引用等ー」『知的財産法政策学研究』18号(2007)34頁以下
知的財産法政策学研究/21世紀COEプログラム:「新世代知的財産法政策学の国際拠点形成」研究プロジェクト
田村善之「著作権法32条1項の「引用」法理の現代的意義」『コピライト』554号(2007)2頁以下
茶園成樹「「引用」の要件について」『コピライト』565号(2008)2頁以下
石井茂樹「聖教グラフ写真ウェブ掲載事件」『パテント』61巻8号(2008)76頁以下 論文PDF
林紘一郎、名和小太郎『引用する極意 引用される極意』(2009)33頁以下
大家重夫「三岸節子「花」縮小カラーコピー事件」『日本マンガ学会ニュースレター』(2010)26号16頁以下

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■参考サイト

町村泰貴教授 Matimulog(2010年10月15日18時10分)
知財高裁が公正な利用だとして引用を拡張解釈した事例−Matimulog−BLOGOS(ブロゴス)−livedoorニュース

企業法務戦士の雑感(2010−10−18)
これぞ知財高裁!というべき判決〜「引用」理論の新たな展開

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■追記(2010.10.28)

二関辰郎(2010.10.27)
「最近の著作権判決から―『美術品鑑定証書引用事件』(知財高裁2010年10月13日判決)」(骨董通り法律事務所ウェブサイト)

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■追記(2010.11.13)

著作権情報センター主催の11月月例著作権判例研究会が12日にありました。
柵木澄子判事(東京地裁民事47部)の「最近の著作権裁判例について」で、ここで柵木判事から被引用著作物の著作物性の論点に言及された部分ついて、本判決の重要性が指摘されていました。この点について、中山信弘「著作権法」(2007)261頁以下参照。

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■追記(2011.5.22)

参考文献

「大家重夫・福王寺一彦対談「著作権を巡る問題1」」『連盟ニュース』438号(2011年4月号 日本美術家連盟)1頁以下

伊藤 真「美術鑑定書事件」(著作権法学会判例研究会2011年5月20日開催資料) 

大家先生と福王寺先生の対談では、美術鑑定書事件判決に関する評価や追及権導入の是非を巡る対談となっており、美術鑑定書事件が作家・遺族側への利益還元にも係わるという意味では、追及権と同じ底辺を持つ議論であることが分かります。
著作権法学会判例研究会では、伊藤先生により「利用する側の著作物性」の論点を中心に検討が行われました。参加者からは、パロディ事件最高裁判決の要件論、主従関係要件をどう捉えるかなど、質疑応答が行われました。
なお、上記連盟ニュースなどによると、伊藤先生が美術家連盟顧問として最高裁への連盟としての意見書の作成にあたっているとのことです。

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2010年10月13日

「読むサプリシリーズ」出版契約事件−著作権 著作権使用料等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「読むサプリシリーズ」出版契約事件

東京地裁平成22.9.30平成21(ワ)16620著作権使用料等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官      上田真史
裁判官      石神有吾

*裁判所サイト公表 2010.10.6
*キーワード:出版契約、印税、在庫本売買

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■事案

健康情報書籍の出版契約関係を巡って売買代金や著作権使用料の支払い内容が争点となった事案

原告:医療用具製造販売会社
被告:出版会社、代表取締役

原告書籍:読むサプリシリーズ(全24種)

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■結論

請求認容

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■争点

条文 民法415条

1 本件覚書2、3の合意の有無
2 原稿の引渡の有無
3 本件覚書3に係る合意に基づく被告会社の残債務額

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■事案の概要

『原告が,被告株式会社環健出版社(以下「被告会社」という。)との間で別紙書籍目録(1)記載の著作物「読むサプリシリーズ」(全24種。以下「本件著作物」という。)について原告が印刷した書籍の在庫本等の被告会社への売買及びその書籍を増刷する出版権の設定を内容とする覚書を締結し,その際,被告A(以下「被告A」という。)が被告会社の原告に対する上記覚書に係る債務を連帯保証した旨主張して,被告らに対し,上記覚書に係る売買代金及び著作権使用料の残金の連帯支払及び上記書籍の原稿の引渡しを求めた事案』(2頁)

<経緯>

H16      原告が書籍制作を企画
H17.4.1  原告書籍(第1刷)刊行
H18.1.30 原被告間で出版権設定契約締結
H18.3    被告が修正シールを貼付して販売開始
H18.7.25 原被告間で覚書1(在庫本売買)締結
H18.8.5  原被告間で覚書2(未精算金確認)締結
H18.8.8  原被告間で覚書3(分割払い)締結
H18.9.20 被告が第2刷を発行
H20.1.10 被告が第3刷を発行
H21.5.20 本訴提起

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■判決内容

<争点>

1 本件覚書2、3の合意の有無

原告と被告会社との間での在庫本の売買契約等に係わる未精算金に関する合意(覚書2)と分割払いに関する合意(覚書3)の有無について、裁判所は、これらの合意に基づき被告会社が原告に対して上記未清算金及び著作権使用料の支払債務を含む本件覚書2、3の各条項記載の債務を負っていること、また、被告会社代表取締役Aは、被告会社の上記支払債務を含む本件覚書2の各条項記載の債務について原告に対して連帯保証したことを認定しています(9頁以下)。

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2 原稿の引渡の有無

覚書2には原告から被告会社への完全な原稿の引渡を定めた規定がありましたが(2条)、被告会社は、編集可能なオリジナルデータではない本文PDFしか受け取っていないとして、その引渡があるまで原告主張の残金の支払いを拒絶すると反論しました。
しかし、裁判所は、ここでいう「本著作物の完全な原稿」とは『被告会社の書籍(第1刷)の第2刷の増刷用に修正した原告書籍の原稿データであって,その増刷(印刷)が可能なデータを意味するものと解するのが相当である』と判断。
そのうえで、改変可能なデータは第2刷を増刷するために必ずしも必要でなかったこと、また、本文のPDFデータ引渡に対して被告Aが異議を述べなかったことなどから、完全な原稿の引渡があったと認定して、被告の反論を容れていません(20頁以下)。

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3 本件覚書3に係る合意に基づく被告会社の残債務額

原告書籍の在庫本の売却代金等の未精算金について、残債務額は590万3461円と認定されています(23頁以下)。

結論として、原告の主張である残債務の連帯支払い(覚書2、3)、原稿の返還(覚書2 5条)が認められています。

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■コメント

DHC向けに制作された健康情報書籍の在庫本売買等の残債務の支払いを巡る争いです。
判決文20頁以下で書籍のデータとして引渡しの対象となるデータが何か、という争点が興味を引くところです。
インデザインやクォークといった、編集可能なデータ形式で印刷所等へ納品することが書籍編集の現場では多いと思いますが、今回の案件では、PDF形式のデータでも契約上の完全な原稿の引渡があったと認定されています。

少し話が逸れますが、今後利用の増える電子書籍出版での納品データの形式、編集者・デザイナーの役割についてここで触れてみたいと思います。
電子書籍データはPDF形式、EPUB形式、アプリ形式(iPhone、iPad向けなど)と大きく分ければ3つの形式で利用されます。編集作業では、たとえばEPUB形式では、テキストの編集やEPUB書き出し可能なインデザインでのデータを制作するだけでは編集の仕事は半分も終わったことにはなりません。EPUBのデータファイルの内容を見てみると分かるようにWEBのデザインデータ(EPUBのプログラムデータ、画像データ)などの制作も含まれています。
EPUBデータの「完全な原稿」としての納品にあたっては、「各主要ビュワー閲覧でどのレベルのクオリティが要求されるか」が編集・デザインの際のポイントとなります。
日々新しい電子書籍閲覧用ビュワーも生まれていて、どの範囲のビュワーで表示可能なものとするかも含め、編集者・デザイナーには従来の印刷デザインの技術に加え、WEBのスキルとセンスが求められる訳です。
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2010年09月27日

セキュリティソフト著作権移転登録請求事件−著作権 著作権移転登録請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

セキュリティソフト著作権移転登録請求事件

東京地裁平成22.9.3平成21(ワ)35164著作権移転登録請求事件PDF

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 岡本岳
裁判官      鈴木和典
裁判官      坂本康博

*裁判所サイト公表 2010.9.17
*キーワード:ライセンス使用許諾契約、ライセンシー、共有、解除、著作権譲渡

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■事案

セキュリティソフトに関する業務提携契約(ライセンス使用許諾契約)の解除条項に基づいて著作権移転登録請求が行われた事案

原告:システムパッケージ開発・販売会社
被告:セキュリティソフト開発・販売会社

プログラム著作物:「Mach Lock−STATION Mu」(P第9658号)

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■結論

請求認容

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■争点

条文 著作権法61条、民法95条

1 本件差押えによる本件著作権の移転の有無
2 本件基本合意の錯誤無効の成否

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■事案の概要

『(業務提携に関する)基本合意に基づき,別紙目録記載のプログラムの著作物に係る著作権が被告から原告に移転したとして,原告が,被告に対し,同著作権についての移転登録手続を求める事案』(1頁)

<経緯>

H21.1.9  原被告間で業務提携基本合意(ライセンス使用許諾契約)
          を締結
H21.7.13 被告に債権差押命令による債権差押え
H21.7.31 原告申し立てにより処分禁止仮処分決定
H21.8.4  プログラム登録原簿に仮処分の登録

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■判決内容

<争点>

1 本件差押えによる本件著作権の移転の有無

被告に対して差押え手続があったことから、本件著作物である情報漏洩対策ソフトウェアに関する業務提携基本合意(ライセンス使用許諾契約)の第9条1項1号及び2項に基づき、原告は被告に対して著作権の移転について登録の手続を求めました。

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第9条(契約解除)
1 被告又は原告は,相手方が次の各号の1つに該当するときは,何らの通知又は催告を要さずに,本合意書を直ちに解除できるものとするとともに,かかる事由に該当した当事者は,相手方に対する期限未到来のものも含むすべての債務に関する期限の利益を喪失し,当該債務を直ちに履行するものとする。
 1)差押え,仮差押え,仮処分,公売処分,租税滞納処分等の強制執行その他これに準ずる処分を受けたとき
 2)会社更生手続の開始,民事再生手続の開始,破産若しくは競売の申立てを受け,又は自ら会社更生手続の開始,民事再生手続の開始若しくは破産の申立てをしたとき
 3)(以下省略)
2 被告が前項各号の1つにでも該当したときは,本件提携にかかわるMLSM(本件著作物)のプログラム及び関連文書に係る著作権その他一切の権利(著作権法21条から28条所定のすべての権利を含む。)は,原告被告何らの意思表示を要せず当然に被告から原告に移転するものとする。この場合,被告は原告に対し,直ちに前項の権利移転登録に必要な手続をするものとする。


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被告は、移転する著作権の範囲を本件著作物の二次的著作物を意味するとしてその範囲を限定しましたが、裁判所はあくまで本件著作物そのもののプログラムを意味すると判断しています(11頁以下)。
また、被告は、原告が被告に支払った3000万円の保証金はライセンス供与の対価としてのもので、権利移転についてはこれを正当化する経済的な合理性がないと反論しましたが、破産等の経営状態が悪化した際の二次的著作物の利用制限のおそれの回避を趣旨とする9条2項の経済的な合理性が肯定されています(14頁)。

結論として、本件差押えにより本件著作物に係る著作権は被告から原告に移転していると判断されています。

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2 本件基本合意の錯誤無効の成否

被告は、『本件基本合意の締結に当たり,MLSMそのものの著作権は被告にのみ帰属し,原告と被告の共有にすることは考えておらず,MLSMの改変物である二次的著作物の著作権を原告と被告の共有にすることを動機として合意したのであるから,被告の意思表示には動機の錯誤がある』と主張しました(14頁以下)。

基本合意第5条2項は、以下のような共有協議規定がありました。

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第5条(本件業務の遂行等)
2 原告は前項に基づき被告より開示・許諾を受けた本件提携関係MLSM(本件著作物)の情報について本合意及び機密保持契約の内容を遵守の上,本件業務遂行に利用するものとし,その結果,原告が本件提携の目的を達成可能と判断したときは,原告は被告に対し,本件提携にかかわるMLSM(本件著作物)及び関連文書の更新,改良,変更,販売,リース及び著作権行使に関する一切の権限について原告被告の共有とするべく,その対価の一部として前項保証金を充当するものとする。なお,当該対価の価格については原告被告別途協議の上,決定するものとする。


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この点について、裁判所は、本件基本合意締結後、著作権の持分譲渡の対価の額等について交渉が重ねられ、被告が原告との共有を受け入れている事実を認定、被告の錯誤無効の反論を認めていません。

結論として、本件著作権について平成21年7月17日の譲渡を原因とする移転登録手続の請求が認められています。

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■コメント

対象となったプログラム著作物(MachLock-STATION Mu)は、企業向け情報漏洩対策ソフトで1サーバー、ネットでのPC集中管理といった特徴を持った商品です(商品概要)。

セキュリティソフトも含め、たとえば、ハードにバンドルされているソフトなど、信用不安によって後々権利関係が不安定となるとエンドユーザーにどれだけ影響が出るかハードウェア供給会社にとっても計り知れません。
特に信用力がやや難があっても技術力があり安価なソフトハウスに発注せざるを得ない現下の経済情勢から、こうしたソフトを安定的に利用するにはどうすれば良いか、権利関係として共有での対応などを含め様々検討されることになります。

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■参考文献

知的財産研究所編『知的財産ライセンス契約の保護−ライセンサーの破産の場合を中心に−』(2004)
梅林 勲「ライセンシーの地位の保全とライセンス契約の安全性強化について」『判例タイムズ』1243号(2007)50頁以下
島並 良「著作権ライセンシーの法的地位」『コピライト』569号(2008)2頁以下
福井健策、北澤尚登「著作権登録の実務的研究−登録制度は使えるのか/どう使うべきか/どう改善すべきか− 」『知財管理』60巻2号(2010)213頁以下
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2010年09月24日

映画「やわらかい生活」脚本事件−著作権 出版妨害禁止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

映画「やわらかい生活」脚本事件

東京地裁平成22.9.10平成21(ワ)24208出版妨害禁止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 岡本岳
裁判官      鈴木和典
裁判官      寺田利彦

*裁判所サイト公表 2010.9.14
*キーワード:二次的著作物、共同著作物、権利濫用、不法行為、原作使用許諾契約

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■事案

映画の原作者である小説家に対して映画の脚本を制作した脚本家とシナリオ作家協会が協会刊行の「年鑑代表シナリオ集」への脚本の掲載を妨害しないよう求めた事案

原告:脚本家X
   (社)シナリオ作家協会
被告:小説家

映画:「やわらかい生活」
原作:「イッツ・オンリー・トーク」

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法28条、65条3項、民法709条

1 「年鑑代表シナリオ集」収録、出版についての合意の有無
2 不法行為の成否

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■事案の概要

『被告の著作に係る小説「イッツ・オンリー・トーク」(以下「本件小説」という。)を原作とする映画の製作のために原告X(以下「原告X」という。)が執筆した別紙著作物目録記載の脚本(以下「本件脚本」という。)を原告社団法人シナリオ作家協会(以下「原告協会」という。)の発行する「年鑑代表シナリオ集」に収録,出版しようとしたところ,被告から拒絶されたが,被告の拒絶は「一般的な社会慣行並びに商習慣等」に反するもので,上記小説の劇場用実写映画化に関して締結された原作使用許諾契約の趣旨からすれば,本件脚本を「年鑑代表シナリオ集」に収録,出版することについて原告らと被告との間に合意が成立したものと認められるべきであるとして,原告らが,被告に対し,上記合意に基づき,本件脚本を別紙書籍目録記載の書籍(以下「本件書籍」という。)に収録,出版することを妨害しないよう求め,原告協会が,被告に対し,本件脚本を本件書籍に収録,出版するに当たって被告に支払うべき著作権使用料が3000円(本件書籍の販売価格相当額)であることの確認を求めるとともに,被告が本件脚本を「年鑑代表シナリオ集」に収録,出版することを違法に拒絶したため原告らが精神的苦痛を受けたとして,原告ら各自が,被告に対し,不法行為による損害賠償請求として,慰謝料及び弁護士費用合計400万円のうち各1円及びこれに対する不法行為の後である平成21年8月22日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案』(2頁)

<経緯>

H15.7  脚本家Xが映画監督A、映画プロデューサーBと映画共同
        製作を企画
H15.9  Bの所属会社と被告の本件小説を管理している文藝春秋と
        著作権使用予約完結権契約締結
H16.11 さらに原作使用許諾契約締結
H17.2  映画完成
H18.6  国内一般劇場で公開
H19.9  原告協会刊行の「シナリオ集」に本件脚本の収録を断念
H20.11 原告協会側が文藝春秋に掲載許諾の申入れ
        被告は許諾せず
H21.7  脚本家Xとシナリオ作家協会が本訴提起

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■判決内容

<争点>

1 「年鑑代表シナリオ集」収録、出版についての合意の有無

(1)原作使用許諾契約の効力は被告にも及ぶか

本件原作使用許諾契約は、原作の版権を管理する文藝春秋社と映画プロデューサーBの所属会社(映画製作プロダクション)との間で締結されたもので、被告である小説原作者と原告らが直接当事者となっている契約ではありませんでした。この点について、被告は原告らと被告との間でこの契約の規定は拘束力を持つものではないと反論しました。

この点、裁判所は、被告は文藝春秋社との間で本件小説について使用許諾に関する業務委託契約を締結していること、また本件原作使用許諾契約締結を承諾していることから、被告は文藝春秋社に許諾権限を授与しており、その権限に基づいて締結された同契約の効力は被告に対して及ぶと判断しました(25頁以下)。

(2)原告らが本件原作使用許諾契約3条5項を根拠として主張できるか

文藝春秋社と映画プロデューサーB所属会社である映画製作プロダクション会社(ステューディオスリー)との間で締結された本件原作使用許諾契約3条5項は、以下のような内容でした。

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5 ステューディオスリーは,あらかじめ文藝春秋の書面による合意に基づき,別途著作権使用料を支払うことによって,次の各号に掲げる行為をすることができる。
 ただし,文藝春秋は,一般的な社会慣行並びに商慣習等に反する許諾拒否は行わない。
((1),(2)号省略)
(3)本件映画をビデオ・グラム(ビデオテープ・LD・DVD)として複製し,頒布すること。
(4)本件映画をテレビ放送すること。
(5)本件映画を放送衛星又は通信衛星で放送すること。
(6)本件映画を有線放送すること。
(7)将来開発されるであろう新しいメディアを含め,既存のメディア
(例えば,CD−ROM,ビデオCD,フォトCDなどのデジタル系の媒体を含む。)をもって本件映画の二次的利用をすること。
 ただし,本項第(2)号から第(6)号を除く。
(8)本契約に基づき作成された脚本の全部若しくは一部を使った,又は本件映画シーンを使用した出版物を作成し,複製,頒布すること。
(以下省略)


   ------------------------------------

原告らは、3条5項(8)の脚本の出版において、同項但書「一般的な社会慣行並びに商慣習等に反する許諾拒否は行わない」に違反する被告の許諾拒否(権利濫用、信義則違反)があり、こうした被告の対応は、結果として二次的利用に関する黙示の意思表示による承諾等があったと考えることができると主張しました(10頁以下)。

この点について、裁判所は、本件原作使用契約3条5項は映画製作プロダクション会社が本件映画や脚本の二次的利用をする場合についての規定であって、契約当事者ではない脚本家やシナリオ作家協会である原告らが二次的利用の許諾に関する規定である同項により被告に対して二次的利用の許諾を求めることはできないと判断しています(26頁)。

(3)付言(著作権法65条3項類推適用の可否)

なお、原告らが本件脚本(二次的著作物)の利用については、共同著作物に関する著作権法65条3項(共有著作権の行使の際の「正当な理由」)の規定の類推適用の余地があると主張した点(9頁)について、念のため付言として裁判所の判断が示されています。

この点について、裁判所は、二次的著作物(著作権法2条1項11号)と共同著作物(同12号)の著作権法における区別の趣旨から、65条3項の規定を二次的著作物の原作者に対して安易に類推適用することを否定しています(26頁以下)。

結論として、脚本の出版についての合意成立の前提が欠けるとして、同合意に基づく原告の請求は否定されています。

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2 不法行為の成否

原告らは、被告が本件映画の製作やそのDVD化、テレビ放送等については許諾しているのに、本件脚本の出版についてのみ許諾しないのは不当であるとして、不法行為の成立を主張しました。
しかし、裁判所は、被告が本件脚本について当初から一貫した態度で意に沿わないものであることを示している点などを勘案して、原著作物の著作者として有する正当な権利の行使にすぎないとして、不法行為の成立を否定しています(27頁以下)。

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■コメント

映画原作者である小説家とその映画用脚本の脚本家との間の争いで原作使用許諾契約書の文言解釈(契約論)と不法行為論が争点となっています。
脚本の出来について、準備稿、第二稿、撮影後の編集作業中と、原作者と関係者の間で厳しいやりとりがあったことが伺えます(18頁以下)。
特に、原作者が映画のエンディングのクレジットで原作者名の表示を禁止したことや映画に関する販促に一切協力しないといった点(21頁、23頁以下参照)から、原作者の脚本に対する不満が強く伝わってきます。
原作の版権を管理する文藝春秋社としては、原作者の意向に反する対応ができないところですし、契約論としては、原作使用許諾契約の内容からしても契約当事者ではない原告らが原作者を直接縛れる訳ではないですし、出版に関して強制するまでに具体的な内容でもありません。

脚本の出版は華々しい映画の二次利用の中において最も地味なものである。しかし、脚本こそ映画製作の要となる最も重要なものである。その脚本を、後世に残すことを目的とする年鑑代表シナリオ集に収録することは脚本家にとっては最も大切なことである。このような大切な権利の実現を、原作者の恣意と契約違反に弄ばれて妨害されることがないようにしたい、これが本裁判の目的である。」(後掲代理人弁護士のサイトの「本件事件の概要と本質(訴状の冒頭より)」より)

 私は、自分の書いたシナリオがなぜ公表できないのかという素朴な疑問と怒りを「年鑑代表」掲載拒否に覚えましたが、それ以上にこれから脚色(原作付きの脚本)の仕事をする場合に、まず目指すことが、いいシナリオを書くではなく、原作者が気に入るシナリオを書くになってしまうことに絶望を感じました。悪いシナリオからいい映画ができることは決してあり得ないが、いいシナリオから悪い映画ができることはしばしばある、とは私たち、脚本家の間ではよく言われていることです。そのいいシナリオかどうかが原作者の私意、あるいは恣意に委ねられてしまうというのでは、シナリオの未来、映画の未来は絶望的だと言わざるを得ません。
 シナリオは原作のためではなく、映画のために書かれるものです。そこが分らない原作者は、映画化の申し入れを拒絶するべきだと思います。
」(原告荒井陳述書PDFより)

脚本家やシナリオ作家協会は図らずも訴訟という形で脚本家としての挟持を示すことになった訳ですが、不法行為論でも裁判所にその思いは容れられませんでした。

二次的著作物の利用関係として残念な結末を迎えた事案としては、本判決でも引用するキャンディ・キャンディ事件(最高裁平成13年10月25日判決平成12(受)798出版差止等請求事件)がありました。その控訴審では、漫画の物語作者と絵画作者との関係における二次的著作物の利用関係について著作権法65条3項の類推適用の余地に言及していましたが、今回の判決ではその点が明確に否定されています(学説上類推適用肯定説として、斉藤後掲書、辻田後掲論文。否定説として、中山後掲書、渡邉後掲論文)。

今回の事案も原著作物と二次的著作物の緊張関係、相克を前にして多くのことを考えさせられる事案でした。
脚本家、協会の方々にあっては、契約書にそのスタンスを明示させる努力が今後も続くものと思われます。

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■参考サイト

社団法人シナリオ作家協会
出版妨害禁止等請求事件
判決正本PDF
原告側代理人弁護士柳原敏夫先生のサイト(訴訟関係資料など掲載)
荒井VS絲山出版妨害禁止請求事件
社団法人シナリオ作家協会前会長加藤正人陳述書PDF
(2009/07/14 20:05 共同通信)
絲山氏に出版拒否不当と1円請求 「やわらかい生活」脚本 - 47NEWS(よんななニュース)

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■参考文献

松村信夫「二次的著作物の利用に関する原著作物の著作者の権利-キャンディ・キャンディ事件」『小野昌延先生喜寿記念 知的財産法最高裁判例評釈大系3』(2009)370頁以下
斉藤 博『著作権法第三版』(2007)187頁以下
辻田芳幸「二次的著作物における原著作者関与の構図」『著作権法と民法の現代的課題 半田正夫先生古稀記念論集』(2003)209頁以下
中山信弘『著作権法』(2007)131頁以下
中山信弘「原作者の権利が及ぶ範囲 キャンディ・キャンディ事件:上告審」『著作権判例百選第四版』(2009)114頁以下
渡邉文雄「長編連載漫画における原作者の権利範囲と著作権法28条−キャンディ・キャンディ事件−」『知的財産法政策学研究』17号(2007)175頁

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■追記(2010.9.26)

企業法務戦士の雑感
■[企業法務][知財]「二次的」ゆえの限界。


■追記(2010.10.1)

ある作家の著作権管理団体側のかたと今回の事案について話題にする機会がありました。その人曰く、
「大御所の作家だったら、脚本家は同じ対応をしたのか?新人だから舐められたのではないか。月刊「シナリオ」に原作者に無許諾で脚本を掲載すること自体、おかしいではないか。・・・ただ、今回の訴訟で脚本が原作の二次的著作物であること、お互いよくよく話合いをしながら進めないといけないことを知らしめた点では意義があることだった。」
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2010年09月22日

スポニチ写真二次使用事件−著作権 損害賠償請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

スポニチ写真二次使用事件

大阪地裁平成22.9.9平成20(ワ)2813損害賠償請求事件PDF

大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官 山田陽三
裁判官      達野ゆき
裁判官      北岡裕章


*裁判所サイト公表 2010.9.14
*キーワード:撮影委託契約、返還約束、複製権、損害論

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■事案

スポーツ新聞紙用に撮影依頼された際のフィルムの返還や写真の二次使用を巡って外部カメラマンと争いとなった事案

原告:写真フィルム管理会社、カメラマンら
被告:スポーツ新聞社

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法21条、114条3項

1 フィルム等の返還約束の有無
2 著作権譲渡又は二次使用許諾の有無
3 消滅時効の成否
4 損害論

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■判決内容

<争点>

1 フィルム等の返還約束の有無

被告新聞社から依頼を受けて撮影した後のフィルムは、未現像のまま被告担当者に交付され、被告写真部において現像されるなどしていました(11頁以下)。原告会社及び原告カメラマンらは、被告新聞社に交付したフィルム等(ネガ、ポジ、プリント)が返還されないとして、損害賠償を請求しました(13頁以下)。

原告らと被告の間でフィルム等の返還約束があったかどうかについて、裁判所は、

(1)パブリシティ権、プライバシー権が問題となるので、当該写真は被告新聞へ掲載する場合の使用のみが想定されており、原告会社において使用収益を期待すべきものではない
(2)二次使用の価値がある写真についても返還請求が放置されている
(3)被告写真部では後日の利用に備えてフィルムを保管している

などの原告、被告双方の保有の必要性の有無の点、またフィルム等の取扱いの実態から、原被告間の撮影委託契約の解釈として、

同契約に基づき撮影し,提供されたフィルムである限り,著作権,著作者人格権が撮影者に帰属するとしても,これらの権利による制限の及ばない限り,未感光フィルムの所有権の帰属にかかわらず,撮影後,被告にフィルムを交付することにより,その現像,掲載,トリミング,保管の要否などを含め,フィルムの一切を被告に委ねたと認めることができる』(20頁)

と判断。

結論として、返還約束があったとの事実は認められていません。

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2 著作権譲渡又は二次使用許諾の有無

(1)著作権の譲渡の有無

原被告間で写真の著作権の譲渡があったかどうかが争点となっていますが、認められていません(23頁以下)。

(2)二次使用許諾の有無

(A)再掲載

同一写真を複数回にわたって掲載したり、一定期間継続して掲載することは、日刊新聞の性格から通常は予定していないとして、使用許諾は、合理的な期間内における1回的なものとみるべきであると裁判所は判断しています(25頁以下)。

(B)別カット写真掲載

別カットの写真の使用については、被告が受けた使用許諾の内容としては、『「フィルムに感光された写真を,全て1回ずつ使用することができる」というものではなく,「撮影に係る出来事を記事にする際に,フィルムに感光されたどの写真を使用してもよい」』というものであると裁判所は判断。
記事に使用しなかった写真を、後に別の記事に転用することは、許諾の範囲を超えるものとしています(26頁以下)。

結論として、再掲載や別カット写真掲載についての二次使用許諾の存在(被告の抗弁)は認められていません。

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3 消滅時効の成否

被告の抗弁として、原告側が掲載の事実を知ってから3年経過しているとして消滅時効が主張されていますが、いまだ時効は完成していないと判断されています(27頁)。

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4 損害論

被告が無断で本件写真を使用もしくは再使用したことがカメラマンP1、P2の著作権(複製権)の侵害にあたることを前提に損害論が検討されています(27頁以下)。

損害については、再使用にあたっての許諾料(再使用料相当額)としたうえで、複数の写真コンテンツ提供業者の使用料を勘案して本件写真についての使用料相当額をカラー使用は2万1千円、モノクロ使用は1万4700円と判断。
カメラマンP1の損害額は、弁護士費用を含め10万0400円、P2については、45万0300円と認定しています。

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■コメント

スポーツ新聞紙掲載写真の外注カメラマンとの取引の実情について良く分かる判決です。
撮影補助作業の報酬値上げの交渉があったものの、受け入れられなかった経緯があったようです(6頁、12頁)。

ネガやポジの返還約束の有無は、媒体によって違う取扱いかと思います。たとえば、ファッション系雑誌であれば、返還されるのが現場では一般的でした。
ただ、現在ではデジタルで画像データが納品され、また、雑誌社も包括的使用許諾をカメラマンに求めて紙媒体に限らずネットでの利用も含めてマルチユースを要望している状況ですので、画像データの返還ということについては、現実問題として困難な状況になっているかもしれません。

一般論ですが、レタッチ作業も含めカメラマンの作業量が増加している、また、使用範囲が広範化しているにもかかわらず、その点の適正な報酬の評価がされていない、という強い不満がカメラマン側にはあるのではないでしょうか。

話は逸れますが、雑誌記事の二次利用(電子雑誌)については、日本雑誌協会、日本文藝家協会、日本写真著作権協会の間でガイドラインが策定され10月に公表予定となっています(朝日新聞2010年9月12日付東京13版3頁高重治香。なお、文藝家協会は15日の理事会で承認)。
このガイドラインでは、電子雑誌利用にあたって期間限定で画像等の著作権が出版社側に譲渡されるというものです。

ガイドラインに沿った運用が行われれば、使用期間や使用範囲の明確化に繋がるため、写真家を含めた著作権者にメリットがあるところです。
ただ、雑誌出版各社(わたしが把握している限りで10社ほど)はここ1、2年で包括的使用許諾を内容とする承諾書や要望書を写真家などに送付している現実があり、ガイドラインがどの程度出版社に採用されるのか、いまとなっては未知数なところです。

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■追記 2010/11/07

原告の方から丁寧なメールで御連絡を頂きました。
過去に雑誌「編集会議」(株式会社宣伝会議)との間で撮影請負契約上の撮影料の不払い等で損害賠償請求訴訟を行ったこともあるとのことで、写真家の地位向上のためにも言うべきことは言うとの姿勢を貫かれておいでです。

大阪地裁平成17.3.31平成15(ワ)12075、平成16(ワ)5010損害賠償請求事件(なお、控訴審で和解)
雑誌「編集会議」請負契約未払事件判決PDF
written by ootsukahoumu at 11:43|この記事のURLTrackBack(0)