知財判決速報2009

2009年10月02日

「真説猟奇の檻」アドベンチャーゲーム事件(控訴審)−著作権 損害賠償請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「真説猟奇の檻」アドベンチャーゲーム事件(控訴審)

知財高裁平成21.9.30平成21(ネ)10014損害賠償請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官      東海林保
裁判官      矢口俊哉


*裁判所サイト公表 09/10/1

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■事案

アダルト向けアドベンチャーゲーム(AVG)の映画の著作物性や翻案権侵害性が争われた事案の控訴審

原告(控訴人)  :コンピュータソフトウェア開発販売会社
被告(被控訴人):アニメーション作画、ゲーム企画制作会社

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法2条3項、10条1項7号、27条

1 映画の著作物該当性及びその著作権の帰属
2 複合的著作物該当性及びその著作権の帰属
3 翻案の有無

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■判決内容

<争点>

1 映画の著作物該当性及びその著作権の帰属

本件ゲームソフト「猟奇の檻」のリメーク版として被告(被控訴人)ゲームソフト「真説猟奇の檻」が被告により製作、販売されたことから、原告(控訴人)が製作した本件ゲームソフト又は著作権譲渡を受けたとする本件ゲームソフトの脚本(シナリオ)の翻案権侵害を理由として損害賠償を被告に対して請求していました(原審では請求棄却判決)。

まず、原告は、本件ゲームソフトは原告が著作権を有する映画の著作物であると主張していました。
しかし、控訴審は本件ゲームソフトの映画の著作物性について、原審同様これを否定。

本件ゲームソフトにおいては,ある静止画像が,次の静止画像が現れるまで静止した状態で見え,動きのある画像として受け取られる部分はほぼ皆無であって,映画とは本質的な違いがあるというべきである。
(5頁)

として、控訴審も本件ゲームソフトに動きのある連続影像があるとは認めていません。

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2 複合的著作物該当性及びその著作権の帰属

次に、本件ゲームソフトは画像、音楽、プログラム、シナリオ等が組み合わされた新たな著作物(複合的著作物)であり、その著作権が統合作業を行った原告に帰属すると原告は主張していました。
しかし、原告の統合作業はシナリオに従って行われたプログラムの創作行為そのものであって、本件ゲームソフトの影像の著作物の創作行為であるとは認められないこと、またイラストの補正調整作業は機械的作業であって格別の創作性はないとして、原審同様、控訴審は原告の主張を容れていません(5頁以下)。

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3 翻案の有無

原告に本件ゲームソフトの著作権が帰属せず、またそのシナリオに係る著作権を取得することはないとして、控訴審は翻案の有無の判断に踏み込むことなく原告の主張を容れていません(9頁以下)。

結論として、本件ゲームソフトの映画の著作物、複合的著作物としての著作権の帰属性、契約による著作権譲渡合意性、シナリオの著作権の帰属性について何れも原告の主張を否定しています。

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■コメント

控訴審でも原審の判断を維持する内容となっています。原審での争点に新たな争点は加えられていません。

なお、契約関係について「猟奇の檻」シリーズ5作品中、3作品目の「猟奇の檻 第3章」のゲームソフトの著作権については日本プランテック社との間で控訴人に帰属するとの合意があったと認定されていますが(7頁)、初代の本件ゲームソフト「猟奇の檻」の著作権は被控訴人へ譲渡する、といった取扱いに違いがあっても不合理ではない(8頁)として、控訴人の主張を容れていません。

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■過去のブログ記事

2009年1月9日記事
東京地裁平成20.12.25平成19(ワ)18724損害賠償請求事件
「真説猟奇の檻」アドベンチャーゲーム事件

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2009年09月26日

スイブルスイーパー事件−不正競争防止法 商標権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

スイブルスイーパー事件

大阪地裁平成21.9.17平成20(ワ)1606商標権侵害差止等請求事件PDF

大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官 山田陽三
裁判官     達野ゆき
裁判官     北岡裕章

*裁判所サイト公表 09/9/24

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■事案

電気掃除機のデッドコピー商品の並行輸入、販売などについて、商標権侵害性、不正競争行為性が争われた事案

原告:電気掃除機独占的販売権限保有会社
    電気掃除機国内独占的販売権限保有会社
被告:雑貨品等販売会社


本件商標:SWIVEL SWEEPER(登録番号5078868号)


・電気掃除機製造会社(訴外米国法人:ライセンサー)
  ↓
・独占的販売権限保有会社(原告:ライセンシー)
  ↓
・日本国内独占的販売権限保有会社(原告:サブライセンシー)

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 不正競争防止法2条1項1号、5条2項、商標法25条

1 商標権侵害性
2 不正競争行為性
3 損害論

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■判決内容

<経緯>

H17.8    原告商品販売開始
H18.1    被告商品販売開始
H18.1.20  原告商標出願
H18.10.28 原告が被告に通告
H19.9.21  原告商標登録
H20.2.20  訴状送達

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<争点>

1 商標権侵害性

原告ライセンシーとの関係で電気掃除機本体や包装箱、充電池などに付された被告標章の商標権侵害性が争点となっています。

原告ライセンシー保有の本件商標は標準文字で「SWIVEL SWEEPER」で、取引では「スイブルスイーパー」と称呼されていました。
被告標章は「スイブルスイーパー」(赤色、白色)、「SWIVEL SWEEPER」(赤色、白色)といった4種類で、被告商品本体に付したり包装箱に付したりして使用していました。

原告ライセンシーとの関係で争点となった3点の被告標章について、裁判所は原告商標との類否に関していずれも類似すると判断しています。

結論として、商標権侵害が肯定されて被告商品等の販売差止、廃棄が認められています。

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2 不正競争行為性

原告サブライセンシーとの関係では、電気掃除機本体や包装箱、充電池などに被告標章4点を付して広告宣伝や販売されていた点について不正競争行為性(不正競争防止法2条1項1号 営業主体混同行為)が争点となっています。

1.周知性

原告商品表示3点のうち、原告商品表示3「スイブルスイーパー」についてのみ、周知性が肯定されています(19頁以下)。

原告商品の広告宣伝は、主としてテレビショッピング番組で行われており、平成17年12月が放送時間のピークでした。また、同時期が販売台数のピークでもありました。これに対して被告商品は平成18年1月からインターネットで販売が開始され、同年3月に販売台数のピークを迎えました。

被告の広告において「TV通販で大人気!!!」など原告商品と同じものであることが謳われ、その知名度が利用されていることや、被告商品の売り上げの急伸さなどから、裁判所は被告商品の販売が開始された平成18年1月時点で「テレビショッピングで話題のスイブルスイーパー」といえば原告商品のことであると理解されるほどに需要者に知られていたと判断しています。

もっとも、周知性を獲得した商品表示は、欧文字やデザイン自体ではなく、「スイブルスイーパー」との片仮名表記のみとされています。

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2.原告商品表示と被告各標章の類否

原告商品表示3「スイブルスイーパー」(灰色)と被告各標章(4点)の類似性が肯定されています(22頁以下)。

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3.誤認混同のおそれ

原被告商品はいずれも家庭用電気掃除機で需要者は一般消費者であり、テレビショッピング及びインターネットでの通信販売は共に一般消費者に広く普及しているから需要者層に違いはない。
称呼、観念の類似などから結論として需要者には被告各標章の使用によって商品の出所につき誤認混同のおそれが生じると裁判所は判断しています(24頁)。

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4.故意又は過失

被告商品の販売開始時期や被告各標章の使用状況などから誤認混同惹起について被告の故意が認定されています(24頁以下)。

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5.被告各標章は普通名称の使用にあたるか

被告は、被告各標章をヘッド部分が自由に回転する掃除機の普通名称(SWIVEL SWEEPER=回転する 掃除機)として使用したにすぎないとして、他人の商品等表示性を欠くと反論しました。
しかし、裁判所は、日本の英語教育水準からして欧文字を品質表示として認識されるとは認めがたいこと、被告も商品名として使用していることから、被告の反論を容れていません(25頁、18頁)。


結論として、営業主体混同行為性が肯定されて被告商品等の販売差止、廃棄が認められています。

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3 損害論

1.原告サブライセンシーの損害

原告サブライセンシーの逸失利益について、裁判所は、

不正競争防止法5条2項にいう「利益の額」とは,純利益ではなく限界利益であると解するのが相当であり,その算定にあたっては,不正競争行為に直接必要な変動経費は控除の対象となるが,当該行為をしなくても発生する費用は控除の対象とすべきではない。

としたうえで、仕入額と輸入諸経費を控除。変動費である広告費と人件費については検討の上控除を否定しています。

結論として、原告サブライセンシーの逸失利益として5470万円余り、弁護士費用150万円の損害額が認定されています(25頁以下)。

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2.原告ライセンシーの損害

原告ライセンシーは、原告商品の製造元から独占的販売権を付与され、サブライセンシーに現実に原告商品を供給(販売)していたことから、商標権侵害により原告ライセンシーにも販売数減少による逸失利益があると判断。
本件商標の登録日以降の損害として45万円余り、弁護士費用25万円が損害額として認定されています(28頁以下)。

なお、原告らの損害賠償請求権のうち、45万円余りの部分は重複するので連帯債権となります。

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■コメント

テレビショッピングとインターネット通販で100万台も売り上げた電気掃除機「スイブルスイーパー」。

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原告サイト
「ショップジャパン」より



本件ではそのデッドコピーの並行輸入商品が問題となっていますので、不正競争防止法の関係では2条1項3号(商品形態模倣)の適否がまず考えられますが、3号の主張はなく、すでに3年の保護期間を経過している(19条1項5項イ)などの事情があったのかもしれません。

なお、不正競争防止法2条1項3号に関連する論点としては、独占的販売権を許諾された者が本号の請求権者となり得るかという点があります(田村善之「不正競争法概説第二版」(2003)319頁以下、小松一雄編著「不正競業訴訟の実務」(2005)283頁以下、小野昌延編「新注解不正競争防止法新版(上)」(2007)488頁以下参照)。

いずれにしても、本件で被告は貿易商から並行輸入品の取扱いを勧誘され販売するようになった(12頁)のですが、真正品の並行輸入品であるかどうかを調査しておらず、輸入品の販売業者としては帰責性が認められても仕方がないところです(25頁)。

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■参考文献

寒河江孝允監修、永野周志・矢野敏樹編集「知的財産権訴訟における損害賠償額算定の実務」(2008)128頁以下

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2009年09月20日

青雲荘類似商号事件−不正競争防止法 不正競争行為差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

青雲荘類似商号事件

大阪地裁平成21.9.17平成20(ワ)6054不正競争行為差止等請求事件PDF

大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 田中俊次
裁判官      北岡裕章
裁判官      山下隼人

*裁判所サイト公表 09/9/17

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■事案

ビジネスホテルの類似商号の不正競争行為性、会社法違反性が争われた事案

原告:株式会社青雲荘
被告:青雲産業株式会社

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 不正競争防止法2条1項1号、会社法8条

1 原告が被告に被告商号の使用を許諾した際に条件を付したか、被告がその条件に違反したか
2 被告が不正の目的をもって被告商号を使用しているか

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■判決内容

<経緯>

S38.4    A,Bの母Cが簡易旅館「青雲荘」を運営
S45.12.12 原告会社設立(代表者A 三男)
S59.4.3   被告会社設立(代表者B 次男)

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<争点>

1 原告が被告に被告商号の使用を許諾した際に条件を付したか、被告がその条件に違反したか

被告会社設立にあたって、原告代表者Aを含め親族一致のもとで被告商号の使用を許諾していました。
原告は、被告が被告商号を使用するにあたって業務内容や業務地域に制限を付したと主張し、これらの条件に被告が違反したとして類似商号の使用に関して不正競争防止法2条1項1号(営業主体混同行為)違反、会社法8条(誤認名称使用)違反を問題としました。

しかし、事業内容の制限や営業地域の限定についてこれらを認める足りる証拠がないとして原告の主張は容れられていません(5頁以下)。

結論として、主位的請求である不正競争防止法2条1項1号違反性について、不正競争行為性を判断するまでもなく原告の請求に理由はないとされました。

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2 被告が不正の目的をもって被告商号を使用しているか

原告は、予備的請求として被告が不正の目的を持って営業活動をしているとして、会社法8条違反性をさらに問題としています。

しかし、被告が不正な活動を行う積極的な意思に基づいて被告商号を使用しているとはいえないとして、裁判所はこの点の原告の主張についても容れていません(8頁以下)。

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■コメント

兄弟間の争いです。不正競争行為性の判断に入ることなく処理される結果となっています。

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2009年09月18日

読売「押し紙」著作権事件(控訴審)−著作権 著作権に基づく侵害差止請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

読売「押し紙」著作権事件(控訴審)

知財高裁平成21.9.16平成21(ネ)10030著作権に基づく侵害差止請求控訴事件PDF

判決文PDF差替え(2009/11/16 URL変更)

知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官      大須賀滋
裁判官      齊木教朗

*裁判所サイト公表 09/9/16

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■事案

新聞社の法務部員が通知した著作権侵害警告書(催告書)の
作成者や創作性が争点となった事案の控訴審

原告(控訴人) :読売新聞西部本社法務室長
被告(被控訴人):フリージャーナリスト

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、18条

1 本件催告書を作成したのは原告か
2 本件催告書は創作的な表現といえるか

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■判決内容

<争点>

1 本件催告書を作成したのは原告か
2 本件催告書は創作的な表現といえるか

原告(控訴人)が別件(押し紙問題:新聞社から販売店に配達されたが、販売されていない新聞紙の問題)で第三者にFAXした回答書を被告(被控訴人)が無断で被告サイトに掲載したとして、原告は被告に対して回答書の著作権に基づいて削除を求める本件催告書(著作権侵害警告通知書)をメールに添付して送信しました。

本件催告書についても、被告サイトに掲載したとして、原告は本件催告書の著作者人格権(公表権)、著作権(複製権)に基づいて本件催告書の被告サイトからの削除を被告に対して求めました。

本件催告書の作成者が誰か、また本件催告書の著作物性の2点について、原審では本件催告書の作成者が原告ではないこと、また本件催告書の著作物性についても否定。原告の主張を容れず請求棄却の判断を下していました。

控訴審も原判決の判断を維持、控訴棄却の判断となっています(5頁以下)。

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■コメント

著作物性が争点となった本件催告書の原文が判決文PDF17頁以下に掲載されています。
この程度の内容の催告書については著作物性が否定されるという点が、参考になります。

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■過去のブログ記事

2009年4月10日記事(原審)
読売「押し紙」著作権事件

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■参考サイト

新聞販売黒書 &携帯電話タワー黒書+ラテンアメリカ

言論・表現応援団(2009.9.17記事)
黒藪さん読売の言論弾圧裁判に勝利!――読売「押し紙」著作権裁判

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■追記09.12.13

【早稲田大学COE企業法制と法創造総合研究所 知的財産法制研究センター】研究概要 RCLIPコラム(2009/10/20)
加藤 幹「訴訟記録のウェブサイトへの掲載と公表権」
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2009年09月15日

東証投資事業有限責任組合名称差止事件−不正競争防止法 名称使用差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−


最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

東証投資事業有限責任組合名称差止事件

東京地裁平成21.8.31平成21(ワ)3556名称使用差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 清水節
裁判官      坂本三郎
裁判官      岩崎慎

*裁判所サイト公表 09/09/14

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■事案

投資事業有限責任組合が「東証」の名称を使用したことから不正競争行為性(周知表示混同惹起行為性)が争点となった事案

原告:株式会社東京証券取引所
被告:東証投資事業有限責任組合

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■結論

請求認容

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■争点

条文 不正競争防止法2条1項1号、2号、3条

1 不正競争防止法2条1項1号該当性

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■判決内容

<経緯>

H17.9.1   被告組合契約効力発生
H17.9.16   被告組合登記
H20.9     被告組合が井上工業の第三者割当増資の引受け
H20.12.19  原告が通知書送付

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<争点>

1 不正競争防止法2条1項1号該当性

被告組合の名称「東証投資事業有限責任組合」が、原告名称である「東京証券取引所」の略称「東証」と重なることから営業主体混同行為性(不正競争防止法2条1項1号)が争点となりました。

 1.「東証」の周知性

原告である株式会社東京証券取引所の略称である「東証」は、遅くとも被告名称が使用された時点で原告の営業表示として、需要者の間において広く認識されていたと認められています(6頁以下)。

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 2.名称の類似性

被告名称のうち「投資事業有限責任組合」の部分は、投資事業有限責任組合契約に関する法律5条1項により名称中に使用することが義務付けられる文字であり、それのみで識別力を有しないから、自他識別力を有する部分は「東証」であり、原告の営業表示と同一であることから類似することは明らかであるとされています(7頁)。

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 3.混同惹起行為性

「混同を生じさせる行為」について、裁判所は、

不正競争防止法2条1項1号にいう「混同を生じさせる行為」とは,他人の周知の営業表示と同一又は類似のものを使用する者が自己と他人とを同一営業主体として誤信させる行為のみならず,両者間にいわゆる親会社,子会社の関係や系列関係などの緊密な営業上の関係又は同一の表示の商品化事業を営むグループに属する関係が存すると誤信させる行為をも包含し,混同を生じさせる行為というためには両者間に競争関係があることを要しないと解される(前記最高裁昭和59年5月29日第三小法廷判決,前記最高裁平成10年9月10日第一小法廷判決等参照)』(7頁)

最高裁判例を示したうえで、営業表示の類似性、業務内容の密接関連性から、原告被告間に直接の競争関係があるとはいえないとしても、両者間にいわゆる親会社、子会社の関係や系列関係などの緊密な営業上の関係が存するものと誤信させるものであることは明らかであるとして混同惹起行為性を肯定しています。

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 4.営業上の利益を侵害されるおそれ

原告が被告に対して平成20年12月19日付通知書により被告名称の抹消登記等を求めた後も回答が無く、被告名称の使用継続があることから、被告名称使用により少なくとも営業上の利益を侵害されるおそれ(差止請求権 不正競争防止法3条)があると認められると判断されています(8頁)。


以上から、原告請求である(1)名称使用禁止、(2)抹消登記手続、(3)名刺・パンフレット等での名称表示抹消が認められました。

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■コメント

被告は、これといった反論もしていないので、あっさりした判決内容となっています。
なお、9月15日8:33AM現在、被告組合の登記事項の変更は確認できませんでした。

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■参考判例

フットボールシンボルマーク事件
最判昭和59.5.29昭和56(オ)1166不正競争行為差止等本訴、損害賠償反訴
スナックシャネル事件
最判平成10.9.10平成7(オ)637

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■参考サイト

日経BPネット(2008年10月17日記事)
総合建設の井上工業、破産手続き開始、負債額125億円 企業・経営:ニュース・解説 nikkei BPnet 〈日経BPネット〉

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2009年09月09日

手あそび歌出版差止事件−著作権 出版差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

手あそび歌出版差止事件

東京地裁平成21.8.28平成20(ワ)4692出版差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官      大西勝滋
裁判官      関根澄子

*裁判所サイト公表 09/9/7

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■事案

幼児のお遊戯である「手あそび歌」が収録されたDVD付書籍の複製権侵害性などが争われた事案

原告:出版社
被告:出版社

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法12条、15条、民法709条

1 原告書籍本体及び原告DVDの編集著作物性及び著作権の帰属
2 編集著作物の複製権侵害の有無
3 個々の歌詞及び振付けの著作物性
4 法的保護に値する利益の侵害を理由とする不法行為の成否

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■判決内容

<経緯>

H18.1.10 原告が「DVDとイラストでよくわかる!手あそびうたブック」発行
H19.9.26 被告が「たのしい手あそびうたDVDブック」発行

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<争点>

1 原告書籍本体及び原告DVDの編集著作物性及び著作権の帰属

「手あそび歌」(幼稚園など保育の現場で遊びとして利用されている手や指などの身体を動かす遊び歌)を掲載した原告制作の書籍や付属のDVDについて、編集著作物性(著作権法12条)と職務著作物性(同法15条1項)が争点となっています。

 1.原告書籍本体及び原告DVDの編集著作物性

原告書籍には手あそび歌が63曲掲載(DVDには29曲)されていましたが、そのうち44曲は原告書籍より以前に発行されたポプラ社書籍に掲載された曲と重複していることなどから、原告書籍及び原告DVDでの手あそび歌の曲名及び振付けの選択は、創作性がなく編集著作物性が否定されるのではないかが問題となりました。

この点について、裁判所は、

原告書籍本体に掲載された手あそび歌の曲名及び振付けは,原告の編集部所属の従業員が,童歌,童謡から最近の曲まで多種のものがある手あそび歌の中から,幼稚園の教諭に対するアンケートの集計結果を踏まえて,定番の曲を外さず,幼稚園で人気が高く,よく遊ばれているものを選択することを基本としながらも,人気が高くなくても手あそび歌のジャンル(「指あそび」,「手あそび」,「身体あそび」,英語の歌など)の多様性にも配慮したり,定番の曲でもできるだけ他社書籍とは異なるバージョンの歌詞や振付けを選択するなどして,他の書籍との差別化を図る方針とし,また,原告DVDの収録曲については,制作費とDVDの容量の都合から,原告書籍本体の掲載曲のうち,幼稚園の教諭の意見を取り入れて子供たちがより喜ぶ人気曲を選択し,その中でジャンルが偏らないようにバランスを重視するなどの方針とし,上記各方針に基づいて,原告書籍本体の掲載曲(63曲)及び原告DVDの収録曲(29曲)の曲名及び振付けが選択されたことが認められるから,上記曲名及び振付けの選択には,原告の編集部所属の従業員の思想又は感情が創作的に表現されていることは明らかである。
 したがって,原告書籍本体及び原告DVDは,素材である手あそび歌の曲名及び振付けの選択において創作性を有する編集著作物に当たるものと認められる。


として、原告書籍及び原告DVDの編集著作物性を肯定しています(26頁以下)。

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 2.著作権の帰属

原告書籍の奥付には、原告の従業員以外の者の表示もあったことから、原告の職務著作物性の成否がさらに問題となっています。

結論的には、著作権法15条1項の各要件を具備するものとして、職務著作物性が肯定され原告法人が原告書籍の著作者及び著作権者であると認められています(30頁以下)。

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2 編集著作物の複製権侵害の有無

被告書籍は、原告書籍掲載曲63曲中35曲が同一曲名を掲載しており、被告DVDには原告DVD収録曲29曲中22曲が同一曲名のものでした。
こうした点などから、被告書籍の発行が編集著作物である原告書籍及び原告DVDの複製権を侵害するのではないかが次に争点となっています。

この点について、裁判所は、

曲名及び振付けの選択の創作的表現は,前記1(1)イ認定の編集方針に基づいて選択された結果としての原告書籍本体における掲載曲全曲の曲名及び振付けの選択,原告DVDにおける収録曲全曲の曲名及び振付けの選択において顕れていることを意味するものである。』(33頁)

として、全曲の選択において創作的表現が現れていると判断。
曲名の一部の重複をもって原告書籍及び原告DVDにおける曲名選択の創作的表現が被告書籍及び被告DVDに再製されていると直ちに認めることはできないとしています(31頁以下)。

結論として、編集著作物の複製権侵害性は否定されました。

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3 個々の歌詞及び振付けの著作物性

 1.歌詞の著作物性

「いっぽんといっぽんで」(作詞不詳 外国曲)

オリジナル:
「1本と1本でおやまになって」
「2本と2本でかにさんになって」
「5本と5本でおばけになっておそらにとんでった」

原告歌詞:
「いっぽんといっぽんでにんじゃになって」
「さんぼんとさんぼんでねこさんになって」
「よんほんとよんほんでたこさんになって」
「ごほんとごほんでとりさんになっておそらにとんでった」

原告が独自に創作したとする上記歌詞の置き換えについて、裁判所は、オリジナル曲の趣旨に沿った歌詞の一部であり、「にんじゃ」などの表現自体がありふれていること、また、「にんじゃ」など自由に替えて遊ぶことが想定されている箇所であるから、歌詞の一部の表現を著作物として保護するのは相当ではないと判断。

原告歌詞の創作性を否定しています(34頁以下)。

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 2.歌詞の振付けの著作物性

いずれも誰もが思いつく、ありふれたものであるとして、原告歌詞の振付けの創作性を否定しています(36頁以下)。

その他、原告が独自創作と主張した個々の歌詞及び振付けについて、ことごとくその創作性が否定されています(38頁以下)。

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4 法的保護に値する利益の侵害を理由とする不法行為の成否

原告書籍制作での新しいコンセプトの考案など多大の労力、創意工夫に対して原告が有する法的保護に値する利益(経済的利益)を被告が侵害するとして、原告は一般不法行為(民法709条)を根拠に不法行為の成立を主張しました。

しかし、被告書籍の発行が社会的に許容される限度を超えた違法なものであるということはできないとして、裁判所は原告の主張を容れませんでした(48頁以下)。

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■コメント

幼児のお遊戯である「手あそび歌」の歌詞と振付けの創作性、その保護の限界性が争点となりました。

オリジナル曲が他にあることや既存の他社版があること、「手あそび歌」の性質から創作性の範囲は狭く(=誰でも自由に使える)捉えられました。

他社版のそっくりそのままのデッドコピーではダメでしょうが、収録曲の半分以上が単に重複していても価値判断的になお許容されるという判断は参考になります。

話は逸れますが、先月、「過払い回収マニュアル」本の中の記載や通知書、図表の類否を巡って弁護士で構成される研究会が弁護士法人及び同代表者弁護士に対する損害賠償等請求訴訟を名古屋地方裁判所に提訴しています。
売れ筋の題材の書籍となると、こうした紛争も絶えないといったところでしょうか。

名古屋消費者信用問題研究会
(ニュース 2009/08/25 提訴)

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■参考サイト

永岡書店(原告書籍の立ち読みが一部可能です)
- NAGAOKA BOOKSQUARE -【トップページ】
宝島社
宝島チャンネル - たのしい手あそびうたDVDブック

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2009年09月07日

「新しい歴史教科書」出版差止事件−著作権 書籍出版等差止請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「新しい歴史教科書」出版差止事件

東京地裁平成21.8.25平成20(ワ)16289書籍出版等差止請求事件PDF

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 阿部正幸
裁判官      柵木澄子
裁判官      舟橋伸行

*裁判所サイト公表 09/09/02

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■事案

「新しい歴史教科書をつくる会」の会員らが執筆した中学校歴史教科書などについて出版許諾契約の終了を根拠に出版販売差止を求めた事案

原告:「新しい歴史教科書をつくる会」会員ら
被告:出版社

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、12号

1 原告らの有する著作権の対象及び内容
2 本件許諾契約における発行期間についての合意内容
3 本件許諾契約の合意解約の有無
4 本件許諾契約が解除により終了するか否か

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■判決内容

<経緯>

H9   原告らにより「つくる会」結成
H11  教科書の執筆、編集を開始
H13.4 教科書検定決定(検定合格)
H13.6 教科書の市販本発行
H16.3 改訂版原稿完成
H17.3 改訂版検定決定
H17.8 改訂版の市販本発行
     「つくる会」で内紛、分裂
H18.11.21 原告が被告に継続発行の申入れ
H19.2.26  被告が原告に回答書交付
H19.6.13  原告が被告に著作権使用許諾打ち切り通知
H20.3.28  原告が被告に著作権使用許諾打ち切り通知
H20.4.8   被告が原告に継続発行・供給を通告
H21.3.17  原告による仮処分申立却下
H21.4 自由社版教科書検定決定

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<争点>

1 原告らの有する著作権の対象及び内容

保守的な歴史教科書の普及を目指す「新しい歴史教科書をつくる会」(つくる会)の原告会員ら4名が、本文やコラムなど執筆した記述が掲載された中学校用歴史教科書等の出版について、記述した部分に関する出版許諾契約が平成22年3月をもって終了したとして被告出版社に対して平成22年3月1日以降の教科書等の出版、販売及び頒布の差止を求めました。


まず、出版許諾契約の対象となる本件記述の著作物性について検討が加えられています。

1.本件記述の著作物性

本件記述の著作物性について、裁判所は著作権法2条1項1号(著作物)の意義を述べた上で、

本件教科書(本件書籍)が,中学校用歴史教科書としての使用を予定して作成されたものであることから,その内容は,史実や学説等の学習に役立つものであり,かつ,学習指導要領や検定基準を充足するものであることが求められており,内容や表現方法の選択の幅が広いとはいえないものの,表現の視点,表現すべき事項の選択,表現の順序(論理構成),具体的表現内容などの点において,創作性が認められるというべきである。
(51頁以下)

として、本件記述の著作物性を肯定しています。

なお、82個の単元やコラム、課題学習については、教科書の他の部分と分離して利用することが可能であり、各単元やコラムが一体としての共同著作物(著作権法2条1項12号)ではなく、結合著作物であると判断しています(52頁)。

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2.本件記述の著作者等

次に、本件記述の著作者等について、裁判所は、原告ら4名は少なくとも著作者の一人であって、著作権を有すると認めています(52頁以下)。

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2 本件許諾契約における発行期間についての合意内容

教科書の発行期間(使用期間)についての当事者間の合意内容(口頭で締結された出版許諾契約の内容)について、裁判所は、

 1 発行期間について特に話し合われたことがない
 2 当事者意思
 3 異なる取扱いの合意がない
 4 教科書発行者の一般的な取扱い
 5 原被告間の一連の経緯

などの点から、

本件許諾契約締結当時,当事者間においては,本件教科書(本件書籍)の発行期間につき,本件教科書の改訂が行われ,改訂された新しい教科書が発行されるまで,と定められていたと認めるのが相当である

と判断しています(54頁以下)。

結論として、平成20年に改訂された学習指導要領が平成24年度に施行されることとの関係から、本件書籍の発行期間は平成23年度(平成24年3月末日)までであるとされています(63頁)。

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3 本件許諾契約の合意解約の有無

原被告間では何通かの通知書でのやりとりがありましたが、その通知書によって出版許諾契約が合意解約されたものかどうかが争われました。

しかし、結論としては、合意解約は認められていません(64頁以下)。

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4 本件許諾契約が解除により終了するか否か

契約解除の成否について、原告に信義則上解除権を認めるべき事情の変更があったとは認められないとして、解除権行使による出版許諾契約の終了を裁判所は認めていません(66頁)。


結論として、原告らが求めた平成22年3月1日以降の本件記述を含む教科書等の出版、販売及び頒布の差止は認められませんでした。

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■コメント

教科書検定制度や教科書の「寿命」(使用期間)が良く分かる事案です。

教科書作りにあたって当事者間では口頭で出版契約が締結されていましたが、使用期間(発行期間)については業界慣行などから次期改訂教科書発行までと判断されました。

「つくる会」は、会長人事などを巡って混乱し、有力メンバーの一部が分裂して「日本教育再生機構」を設立したことから、被告出版社(扶桑社)は従来通りの教科書編集出版作業をすることができなくなってしまい、改訂版の取扱いについては別会社(育鵬社)を立ち上げるなど対応に追われることとなりました。
既存の教科書は扶桑社で、今後の新しい教科書については、「つくる会」は自由社で、「日本教育再生機構」は育鵬社で出版するカタチとなったわけです。

いずれにしても、執筆者がヘソを曲げると教科書関連書籍である教師用指導書や副教材(ドリル)などの制作にも影響が生じるでしょうから、出版社も大変です。

なお、「つくる会」は本件訴訟について控訴しないことを表明しています(後掲「新しい歴史教科書をつくる会」ウェブサイト参照)。

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■参考サイト

新しい歴史教科書をつくる会
「つくる会が採択結果について「声明」を発表 「つくる会歴史教科書」が2万冊を突破! 著作権訴訟は大局的見地から「控訴せず」」
つくる会Webニュース第264号 平成21年9月3日記事

教科書改善の会
教科書改善の会 中学校教科書採択結果を受けてコメントを公表(2009年9月4日記事)

日本教育再生機構
日本教育再生機構

育鵬社
育鵬社>育鵬社通信>トピックス>メッセージ>藤岡信勝氏らによる当社歴史教科書の出版差し止め訴訟の判決に関する扶桑社のコメント(平成21年8月26日)


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2009年08月29日

ピンク・レディーパブリシティ権侵害事件(控訴審)− 損害賠償請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

ピンク・レディーパブリシティ権侵害事件(控訴審)

知財高裁平成21.8.27平成20(ネ)10063損害賠償請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 滝澤孝臣
裁判官      本多知成
裁判官      浅井憲

*裁判所サイト公表 09/08/28

原審
東京地裁平成20.7.4平成19(ワ)20986損害賠償請求事件PDF

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■事案

ピンクレディーの写真をダイエット記事に使用したことが、ピンクレディー2名のパブリシティ権を侵害するかどうかが争われた事案

原告(控訴人) :ピンクレディーメンバー2名
被告(被控訴人):出版社

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 民法709条

1 パブリシティ権侵害の有無

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■判決内容

<経緯>

H18頃   振付けダイエットが流行
       講談社から「ピンク・レディーフリツケ完全マスターDVD」発売
H19.2.13 週刊誌「女性自身」にダイエット記事掲載

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<争点>

1 パブリシティ権侵害の有無

ピンク・レディーのメンバー2名に許諾を得ることなく、彼女達の写真をダイエット記事に転載した行為が、彼女達のパブリシティ権を侵害するかどうかが争われました。

(1)いわゆるパブリシティ権に係る検討

この点について裁判所は、

著名人については,その氏名・肖像を,商品の広告に使用し,商品に付し,更に肖像自体を商品化するなどした場合には,著名人が社会的に著名な存在であって,また,あこがれの対象となっていることなどによる顧客吸引力を有することから,当該商品の売上げに結び付くなど,経済的利益・価値を生み出すことになるところ,このような経済的利益・価値もまた,人格権に由来する権利として,当該著名人が排他的に支配する権利(以下,この意味での権利を「パブリシティ権」という。)であるということができる。』(11頁)

としてパブリシティ権を定義したうえで、言論、出版、報道等の表現の自由の保障などとの利益衡量からパブリシティ権は一定の制限を受ける。利益衡量論として、

その氏名・肖像を使用する目的,方法,態様,肖像写真についてはその入手方法,著名人の属性,その著名性の程度,当該著名人の自らの氏名・肖像に対する使用・管理の態様等を総合的に観察して判断されるべき

としたうえで、

一般に,著名人の肖像写真をグラビア写真やカレンダーに無断で使用する場合には,肖像自体を商品化するものであり,その使用は違法性を帯びるものといわなければならない

と一般論を説示しています(11頁以下)。

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(2)本件写真の使用とパブリシティ権侵害の有無

つぎに被告週刊誌のダイエット記事での14枚のピンク・レディーの写真の使用について、

1.本件記事は、ブームの当時の思い出などを語る記載である
2.写真のサイズがさほど大きなものではない
3.写真が本件記事の中心となっているわけではない

という点から、本件写真の使用は、ピンク・レディーの楽曲に合わせて踊ってダイエットをするという本件記事に関心を持ってもらい、あるいはその振り付けの記憶喚起のための利用であり、パブリシティ権を侵害されているということはできないと判断しています(13頁以下)。
また、ステージ写真やリハーサル写真を使用する本件記事について、実質的にピンク・レディーの肖像そのものを鑑賞するグラビア記事にはあたらないとされています(17頁)。

結論として、パブリシティ権侵害を否定しています。

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■コメント

大家教授が原審の評釈のなかで、原審のパブリシティ権の定義に対して異議を述べられておいでですが(後掲判例評釈168頁以下)、控訴審では、この点についてはっきりと「人格権に由来する権利で当該著名人が排他的に支配する権利」と示されているので、大家教授の見解(おニャン子クラブ事件高裁判決、キング・クリムゾン事件高裁判決同旨)に沿った内容となっています。

ピンクレディーの写真の著作権については、被告出版社側のカメラマンが撮影した写真で、被告出版社が保管等していたものを再利用したものではないかとうかがわれる(控訴審判決文15頁)ということで、ピンクレディーや所属事務所に写真の著作権は帰属しておらず、写真の著作権からの争点とはなりにくかったようです。

ピンクレディーの肖像権を争点とする余地やパブリシティ権の及ぶ範囲について、大家後掲判例評釈170頁以下参照。

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■参考判例

おニャン子クラブ事件
東京高裁平成3.9.16平成2(ネ)4794損害賠償請求控訴事件
キング・クリムゾン事件
東京高裁平成11.2.24平成10(ネ)673損害賠償等請求控訴事件

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■参考文献

大家重夫「芸能人の歌唱時の振付けを利用したダイエット記事において、記事中に当該芸能人が写っている写真を使用したことが、当該芸能人のパブリシティ権を侵害する不法行為には当たらないとされた事例-「ピンク・レディ」パブリシティ権侵害事件」『判例時報』2042号(2009)167頁以下
小野田丈士「タレントならびにプロダクションにとっての『ブブカスペシャルvol.7』東京高裁判決の意義について」『コピライト』576号(2009)28頁以下
大家重夫「雑誌の記事や写真に「パブリシティ権」を認めた判決-『ブブカ・スペシャル7』事件」『コピライト』548号(2006)35頁以下
大家重夫「肖像権 新版」(2007)168頁以下
内藤篤、田代貞之「パブリシティ権概説 第2版」(2005)
内藤篤「俳優の氏名・肖像-マーク・レスター事件」『著作権判例百選 第三版』(2001)192頁以下
大家重夫「芸能人の肖像-おニャン子クラブ事件」同上書194頁以下
豊田彰「書籍への利用-キング・クリムゾン事件」同上書196頁以下
龍村全「スポーツ選手の氏名・肖像-中田英寿事件」同上書198頁以下
桑野雄一郎「動物の名称-競争馬名パブリシティ権事件」同上書200頁以下

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■参考

長島事件(パブリシティ権譲渡、譲渡先の当事者適格性を肯定した事例)
東京地裁平成17.3.31平成15(ワ)10744損害賠償請求事件(判例タイムズ1189号267頁以下)


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2009年08月18日

「姿三四郎」格安DVD事件(対東宝 損害賠償)事件−著作権 損害賠償請求事件判決(知的財産裁判例集)−


最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「姿三四郎」格安DVD事件(対東宝 損害賠償)事件

東京地裁平成21.7.31平成20(ワ)6849損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官      大西勝滋
裁判官      関根澄子

*裁判所サイト公表 09/8/17

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■事案

「姿三四郎」「生きる」などの映画作品の保護期間をめぐり各映画の著作者が監督なのか映画会社であるのかが争われた事案(損害賠償請求事案)

原告:東宝株式会社
被告:格安DVD製造販売会社


映画目録:
「姿三四郎」「虎の尾を踏む男達」「續姿三四郎」「わが青春に悔なし」「素晴らしき日曜日」「酔いどれ天使」「野良犬」「生きる」

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法2条1項2号、21条、113条1項1号、114条3項、旧法6条

1 本件各映画の著作者及び原告の著作権の取得原因
2 存続期間満了による本件各映画の著作権の消滅の有無
3 被告の故意又は過失による侵害行為の有無
4 原告の損害額

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■判決内容

<争点>

1 本件各映画の著作者及び原告の著作権の取得原因

旧著作権法下で制作された映画の著作者の意義について、本件各映画の差止請求事件となる知財高裁平成20.7.30判決(後掲PDF参照)の判断を前提に黒澤明監督が本件各映画の著作者であると判断されています(16頁以下)。また、本件各映画の著作権については、原告が承継取得していると認定されています(20頁以下)。

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2 存続期間満了による本件各映画の著作権の消滅の有無

黒澤明監督が本件各映画の著作者であること、本件各映画が旧著作権法6条の団体の著作名義をもって興行された著作物に当たらないことから、本件各映画の著作権の存続期間は、旧著作権法23条の3、3条、52条1項、民法141条によりいずれも黒澤明監督が死亡した平成10年の翌年から起算して38年が経過する平成48年12月31日までとなるとして、被告が本件各DVDを輸入していた平成19年1月以降よりも前に存続期間の満了により消滅しているわけではないと認定されています(22頁以下)。

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3 被告の故意又は過失による侵害行為の有無

被告による本件DVDの輸入行為が著作権法113条1項1号(侵害とみなす行為)により原告の本件各映画の著作権(複製権)を侵害する行為とみなされる点について、被告に少なくとも過失があったと認められています(26頁以下)。

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4 原告の損害額

原告の損害額に関し、著作権使用料相当額として

販売価格(1800円)×ロイヤリティ料率(30%)×輸入数量(13600枚)

合計734万4000円と認定されています(著作権法114条3項 27頁以下)。

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■コメント

本訴訟は「姿三四郎」「生きる」など黒澤明監督8作品に関する格安DVD事件の対東宝訴訟のうち、損害賠償請求に関するものとなります。
同8作品についての差止請求訴訟はすでに昨年控訴審(後掲)の判断が出ています。

損害論としてロイヤリティ料率が高めに認定されている点が注目されます。

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■過去のブログ記事

2009年7月21日記事
「暁の脱走」格安DVD事件(対東宝)

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■参考判例

差止請求訴訟
東京地裁平成19.9.14平成19(ワ)8141著作権侵害差止請求事件
原審PDF
知財高裁平成20.7.30平成19(ネ)10083著作権侵害差止請求控訴事件
控訴審PDF

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2009年07月31日

映画「嵩山少林寺」事件控訴審− 著作権 損害賠償請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

映画「嵩山少林寺」事件控訴審

知財高裁平成21.7.29平成21(ネ)10005損害賠償請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官      東海林保
裁判官      矢口俊哉

*裁判所サイト公表 09/7/30

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■事案

映画「嵩山少林寺」、「CHARON(カロン)」などのビデオグラム化権契約を巡ってその成否、内容が争われた事案の控訴審

原告(控訴人) :映画製作配給販売、企画開発会社
被告(被控訴人):映画、ビデオ、CD製作配給販売会社
           CD、DVD、ソフトレンタル販売会社

   --------------------

■結論

控訴棄却

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■争点

条文 民法415条、709条、著作権法21条、18条、4条

1 債務不履行による損害賠償請求権の有無
2 著作権(複製権・頒布権)及び著作者人格権(公表権)侵害による損害賠償請求権の有無

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■判決内容

<争点>

1 債務不履行による損害賠償請求権の有無

映画「嵩山少林寺」と「CHARON(カロン)」「ポチの告白」などのビデオグラム化権(映画をDVDやビデオとして出版する権利)を保有する原告は、これらの映画のビデオグラム化権の譲渡契約について被告と契約が成立している(代金2800万円 最低保証金額)にもかかわらず、被告が代金を支払わないとして被告の債務不履行を主張しました。

一審では、映画のビデオグラム化権の譲渡に関する売買契約の成立が否定されましたが、控訴審でも同様の結論となっています(7頁以下)。

結論として、債務不履行による損害賠償請求は否定されています。

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2 著作権(複製権・頒布権)及び著作者人格権(公表権)侵害による損害賠償請求権の有無

原告は、映画DVDの販売予告を掲載した雑誌広告やWebへの掲出行為の著作権(複製権、頒布権)侵害性に加えて、「CHARON(カロン)」についてはビデオグラムとして未公表であったとして原告の公表権(著作者人格権)を侵害する旨をさらに主張しました(11頁以下)。

しかし、裁判所は、原告が被告に対して「嵩山少林寺」「CHARON(カロン)」を複製・頒布すること(より具体的にはDVD化して販売すること)について許諾していること、そしてそれを前提とした雑誌広告掲載などであるとして被告の著作権侵害性(著作権法21条、26条)を否定。
さらに、「CHARON(カロン)」は平成17年頃から各種映画祭などに出品・上映されていることなどから平成18年3月当時において公表権を問題にする余地はないとして、著作者人格権侵害性(著作権法18条)も否定しています。

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■コメント

代理人弁護士を変更して控訴審に臨まれた高橋玄監督でしたが、原判決の事実認定を覆すまでには至りませんでした。

原審では、映画のDVD化合意について、その合意の可能性を指摘するに留まっていましたが(原判決17頁参照)、控訴審では合意の成立(350万円交付がDVD化合意の意味合いを持つこと)が認められています(8頁以下参照)。

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■過去のブログ記事

2008年12月09日記事(原審)
映画「嵩山少林寺」事件

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■参考サイト

映画監督・高橋玄の公式ブログ「隠された毎日」
京都の夜と裁判官(2009-07-31記事)
イーエス控訴審弁論終了(2009-06-24記事)

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2009年07月30日

皮フ科診療所名称類似事件−不正競争防止法 不正競争行為差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

皮フ科診療所名称類似事件

大阪地裁平成21.7.23平成20(ワ)13162不正競争行為差止等請求事件PDF

大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官 山田陽三
裁判官      達野ゆき
裁判官      北岡裕章

*裁判所サイト公表 09/7/29

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■事案

退職した医師が開設した診療所と元の雇用先の診療所との名称の類似性や不正目的の有無が争点となった事案

原告:医療法人
被告:医師(原告元従業員)

原告表示:わたなべ皮フ科・形成外科
被告表示:わたなべ皮ふ科

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 不正競争防止法2条1項1号、19条1項2号

1 不正の目的の有無

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■判決内容

<経緯>

H5      原告診療所開設
H7.12.13  原告医療法人設立
H19.8.1〜 被告が原告に雇用
H20.6.5
H20.7.1   被告が診療所を開設

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<争点>

1 不正の目的の有無

原告の診療所に勤めていた医師が独立して元の診療所から約700メートル離れた位置に診療所を開設しました。
その際の診療所の名称に被告表示(わたなべ皮ふ科)を使用。この被告表示が原告表示(わたなべ皮フ科・形成外科)に類似するものであるとして、被告の周知表示混同惹起行為性(不正競争防止法2条1項1号)が争われました(5頁以下)。

この点について、2条1項1号の適用除外として19条1項2号(自己氏名)の規定があることから、まずはこの適用除外事由について検討がされています(自己氏名使用の抗弁)。

まず、自己の氏名を不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他不正の目的をいう。)でなく使用する行為については、
2条1項1号の規定が適用されない(19条1項2号)ことを明らかにしたうえで、

1.被告診療所の名称

(1)開設届出書において診療所の名称は原則として開設者の姓を冠することとされている
(2)被告は開業当初「あい皮ふ科」にすることを予定していた
(3)被告の「渡部」を「わたべ」と読むことも多いので誤読防止に平仮名表記したことに合理性がある

2.被告診療所の開設場所、開設時期

(1)約700メートル離れた位置にあって、ある程度の距離が存在する
(2)被告は、原告との雇用契約にあたり、開業予定を告げていた

3.被告表示の使用態様

(1)看板の色づかいが類似するが、特徴のある色彩とはいえない
(2)誤認混同防止措置も講じている

などの諸事情から、被告に不正の目的はなかったと判断しています。

結論として、原告の主張は容れられませんでした。

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■コメント

行政書士でも事務所名に氏名を用いる場合が多くて、行政書士事務所開設の際の行政書士会への登録の際も既存の事務所名とまったく同じでもかまわないという取扱いとなっていたかと思います。

被告の医師が、在職中に得た患者データを元に営業をしたとか、患者さんの引き抜きをしたということでもあれば、原告としては損害賠償請求も求めるところでしょうが、訴訟では名称の使用差止がメインとなっています。ですので、そうした悪質性を伺わせる背景事情でもないと「不正の目的」が認められるのは難しかったかもしれません。

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2009年07月21日

「暁の脱走」格安DVD事件(対東宝)−著作権 著作権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「暁の脱走」格安DVD事件(対東宝)

東京地裁平成21.6.17平成20(ワ)11220著作権侵害差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 清水節
裁判官      坂本三郎
裁判官      岩崎慎

*裁判所サイト公表 09/7/17

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■事案

「暁の脱走」「また逢う日まで」「おかあさん」映画作品の保護期間をめぐり映画の著作者が各監督なのか映画会社であるのかが争われた事案

原告:東宝株式会社
被告:格安DVD製造販売会社

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法2条1項2号、21条、113条1項1号、114条3項、旧法6条

1 各映画の著作権の存続期間の満了時期(各映画の著作者はだれか)
2 原告は各映画の著作権を有するか
3 被告の侵害行為の有無
4 被告の故意又は過失の有無
5 原告の損害の有無及びその額

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■判決内容

<争点>

1 各映画の著作権の存続期間の満了時期(各映画の著作者はだれか)

1.本件各映画の著作者について

本件各映画の著作者及び著作名義がそれぞれその監督であるとした場合、「暁の脱走」は平成57年まで、「また逢う日まで」は平成41年まで、「おかあさん」は平成34年まで著作権の存続期間が続くことになります(旧著作権法22条ノ3、3条、52条1項、附則、新法54条1項)。
これに対して団体である映画製作会社の著作名義であるとされた場合の著作権の存続期間は平成14年(あるいは平成12年)までには満了していることとなることから(旧著作権法22条ノ3、6条、52条2項)、平成19年1月に行われた被告による本件DVDの輸入行為が著作権侵害みなし行為となるのか、そもそも本件各映画の著作者がだれであるのかが争点となりました(16頁以下)。

この点について裁判所は、

旧著作権法における著作物とは,新著作権法と同様,思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいい,また,旧著作権法における著作者とは,このような意味での著作物を創作する者をいうと解される。
 そして,思想又は感情を創作的に表現できるのは自然人のみであることからすると,旧著作権法においても,著作者となり得るのは,原則として自然人であると解すべきである。


 このように,著作者となり得るのは,原則として自然人であることを前提として,制作,監督,演出,撮影,美術の担当者等多数の自然人の協同作業により製作されるという映画の著作物の製作実態を踏まえると,旧著作権法においても,新著作権法16条と同様,制作,監督,演出,撮影,美術等を担当して映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者が,当該映画の著作物の著作者であると解するのが相当である。

としたうえで、本件各映画について、

本件各監督はそれぞれ本件各映画の監督を務めており,また,本件各映画は本件各監督による創作的な表現であると評価されていることが認められるから,本件各監督は,それぞれ本件各映画の全体的形成に創作的に寄与している者と推認され,これに反する証拠もない。
 したがって,本件各監督は,他に著作者が存在するか否かはさておき,少なくとも本件各映画の著作者の一人であると認められる。
』(23頁以下)

として各監督が著作者であると判断しています。

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2.本件各映画の著作名義

本件各映画のオープニング冒頭部分には、監督の実名とともに映画を製作した会社の標章や「新東宝映画」や「東宝株式会社」の表示があったことから、旧著作権法6条(団体名義の著作物の保護期間)の適用があるかどうかがさらに問題とされています(24頁以下)。

前提として旧著作権法6条の解釈について裁判所は、

旧著作権法6条が定める団体名義の著作物とは,当該著作物の発行又は興行が団体名義でされたため,当該名義のみからは創作行為を行った者を判別できず,また,著作物の名義人の死亡時期を観念することができない著作物をいうと解するのが相当である。』(24頁)

としたうえで、本件各映画について、

本件各監督がそれぞれ本件各映画の著作者であると認められることからすれば,前記イの本件各映画のオープニングやポスターにおける本件各監督の名前の表示は,それぞれ本件各映画の著作者である本件各監督の実名を表示したものと認められる。
 そうすると,本件各映画は,著作者の実名が表示されて公表された著作物であって,創作行為を行った者を判別できず,また,著作物の名義人の死亡時期を観念することができない著作物であるとはいえないから,本件映画1及び3に「新東宝映画」等の表示が,本件映画2に「東宝株式会社」等の表示があるからといって,旧著作権法6条が定める団体名義の著作物には当たらないというべきである。


として、旧著作権法6条の適用を否定しています。

結論として、本件各映画の著作権は存続していると判断されています(旧著作権法3条、52条1項等)。

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2 原告は各映画の著作権を有するか

結論としては、本件各映画の著作権について、各監督は明示的又は黙示的に原告又は新東宝に対して映画の著作権を譲渡したと推認するのが相当である(新東宝は、原告に著作権譲渡)として、原告が本件各映画の著作権を単独で有していると判断されています(28頁以下)。

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3 被告の侵害行為の有無

被告が本件DVDを国内で頒布する目的でもって輸入した行為は、原告の著作権を侵害する行為とみなされる(113条1項1号)と判断されています(31頁以下)。

結論として、本件DVDの製造、輸入、頒布の差止、在庫品及び原版の廃棄が認められています(112条1項、2項)

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4 被告の故意又は過失の有無

被告が,本件各映画の著作権が存続しているか否かについて,専門家等の第三者に意見を求める等何らかの調査を行ったことをうかがわせる事情は見当たらない。』(34頁)

などの事情も含め著作権侵害行為に関する被告の過失が認められています(33頁以下)。

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5 原告の損害の有無及びその額

原告には、被告の本件DVD輸入行為により映画著作権の使用料相当額の損害が生じているとしたうえで、本件DVD1本あたりの使用料相当額は、小売価格×0.2として、

小売価格1800円×0.2×輸入数量3000本=108万円

と損害額を算定しています(35頁以下)。

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■コメント

黒澤明監督作品格安DVD事件(対角川)(東京地裁平成21.4.27平成20(ワ)6848損害賠償請求事件判決)と同じ清水コートの判断で、同じ流れの内容の判決です。

格安DVD事件の同一被告の訴訟としては今年3つ目で、対松竹控訴審判決、対角川損害賠償請求判決に引き続く対東宝事件判決となります。
対東宝事件としては、すでに「姿三四郎」「生きる」など黒澤明監督の8作品について、昨年控訴審判決(知財高裁平成20.7.30平成19(ネ)10083)が出ています。
今回の訴訟で対象となった映画ですが、「暁の脱走」は谷口千吉監督、「また逢う日まで」は今井正監督、「おかあさん」は成瀬巳喜男監督の各作品でした。

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■過去のブログ記事

2009年02月19日記事
黒澤明監督作品格安DVD事件(対松竹)控訴審
2009年05月14日記事
黒澤明監督作品格安DVD事件(対角川)

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2009年07月19日

光ファイバーセンサーCAD図面事件−著作権 著作権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

光ファイバーセンサーCAD図面事件

大阪地裁平成21.7.9平成19(ワ)13494著作権侵害差止等請求事件PDF

大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 田中俊次
裁判官      北岡裕章
裁判官      山下隼人

*裁判所サイト公表 09/7/17

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■事案

CAD化された製品の設計図への取り込みを可能にすることを目的として作成された製品CAD図面の著作物性が争点となった事案

原告:メカトロニクス生産設計、モデリングソリューション会社
被告:センサー、測定器製造販売会社

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、21条、23条、民法709条

1 本件CAD図面の著作物性

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■判決内容

<経緯>

H9.13.19  P1が被告に「CAD図面ライブラリVer1.0」CD-ROM納品
H9.5.8    P1が被告に「CAD図面ライブラリVer1.1」CD-ROM納品
H10.3    P1が被告に「CAD図面ライブラリVer1.1」CD-ROM増刷納品
H10.7     被告が「CAD図面ライブラリVer2.0」CD-ROMを顧客に頒布
H10.11.26 P1が原告会社を設立
H14.1     被告がCAD図面を顧客にネット配信

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<争点>

1 本件CAD図面の著作物性

P1が被告から委託を受けて光電スイッチ、光ファイバーセンサー等の被告製品についてCAD図面を作成。CD-ROMに収録したうえで納品していました。
原告(P1が設立した会社で事業上の権利をP1から承継取得)は、被告が本件CAD図面を原告に無断でCD-ROMに複製のうえ顧客に頒布し、さらにダウンロード提供しているとして、本件CAD図面の複製権侵害や公衆送信権侵害を争いました。

この点、そもそも本件CAD図面に創作性(著作権法2条1項1号)があるかどうかが争われています(17頁以下)。
原告は、創作性の根拠を「立体物を数値を有する図形として平面上に表現した」など15点に分類したうえで主張しました。

しかし、裁判所は、創作性の根拠として分類されたうち7点の主張は、「アイデアそのものであって表現に当たらないものであるか,表現であっても極めてありふれたものにすぎ」ないとして創作性の根拠を否定(25頁)。その他の事項、たとえば「製品の機能や形状を作者の意図で取捨選択し図形形成した」などについては個別の本件CAD図面に検討を加えています。

そして、本件CAD図面が被告製品(カタログに描かれているものや現物)に依拠して作成されたものであることから、カタログの図面との対比をするのが当然であること(25頁以下)、また、

本件CAD図面は,主として,CADによって設計業務を行う際にCAD化された被告製品の設計図への取込みを可能にすることを目的として作成されたものであるから,被告製品の形状,寸法等を把握できるよう,通常の作図法に従い正確に描かれている必要がある』ことから、
具体的な表現に当たってP 1が個性を発揮することができる範囲は広くないといえる。』(26頁)

という点を前提として、P1の個性の現れた部分を具体的に検討。

結論としては、本件CAD図面はいずれもアイデアであったり、ありふれた表現であったり、カタログの図面を一部省略したにすぎないとして創作性を否定。

本件CAD図面が著作権法上保護される著作物であるとの原告の主張は容れられませんでした。

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■コメント

「CAD図面ライブラリ」CD-ROMの製作発注が打ち切られてしまったことから、原告が作成したCAD図面の著作権を足掛かりとして使用料相当額を被告に請求した事案です。

カタログや広告の印刷委託業務取引などでは昨今よく聞かれる状況で、「今後は内製化するので、データをすべて渡して欲しい」といった具合で委託先から次年度以降の契約を打ち切られることになります。
現在の経済状況からするといままでの円満な契約慣行が続く保証は全くなくて、どの制作会社さんもどうすれば自社の利益を確保していけるか、自社の著作権を含めた知財や契約関係の見直し・保護に必死です。

そもそも委託を受けた制作物に著作権が発生するか、委託先への著作権全部譲渡条項になっていても契約文言にスキはないか、著作者人格権からのアプローチはできないか、など検討項目はいくつもあります。大口取引先との折衝はたいへんだとは思いますが、次のステップのためにも営業の現場の方々には、契約書、とりわけ著作権規定についての基礎知識は付けておいていただきたい事項です。

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■参考判例

工作機械設計図事件
大阪地裁平成4.4.30昭和61(ワ)4752損害賠償等請求事件
別紙1

蒸気システム制御機器チャート事件
東京地裁平成17.11.17平成16(ワ)19816
別紙1

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■参考文献

本山雅弘「工業製品設計図の著作物性-スモーキングスタンド等設計図事件-」『著作権研究』26号(2000)285頁以下
玉井克哉「工作機械の設計図-図面の著作権」『著作権判例百選第二版』(1994)54頁以下

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2009年07月10日

学位請求論文事件−著作権 著作権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

学位請求論文事件

東京地裁平成21.6.25平成19(ワ)13505著作権侵害差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 阿部正幸
裁判官      柵木澄子
裁判官      舟橋伸行

*裁判所サイト公表 09/7/8

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■事案

共同で執筆した論文の一部を無断で使用して学位請求論文を作成したとして複製権侵害性などが争点となった事案

原告:大学教授
被告:大学教授

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法21条、19条、18条

1 複製権侵害の成否と原告の承諾の有無
2 氏名表示権、公表権侵害の成否と原告の承諾の有無

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■判決内容

<経緯>

H2    原被告、C教授ら3名で共同研究論文作成
H5    原被告が共同研究を開始
H7.5   本件原著1作成(本件共同研究論文1)
H8.8   本件原著2作成(本件共同研究論文2)
H9.9   被告が経済学博士学位請求
H10.1  被告に学位授与される
H16   被告が修正論文(改訂版)をジャーナルに投稿
H18   原告が被告に対して翻訳論文出版差止別訴提起
H19.1.18 東京地裁平成18(ワ)10367 一部勝訴

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<争点>

1 複製権侵害の成否と原告の承諾の有無

本件原著(草稿・ディスカッションペーパー/ワーキングペーパー)1と2が原告と被告の共同著作物であることには争いはありません。
これらの草稿に関する共同研究論文1、2や他の研究者との共同研究を踏まえて被告は学位請求論文を作成し、大学から博士号の学位を授与されていました。
こうした行為が、共同研究者である原告の本件原著に関する著作権(複製権)を侵害しているか、本件共同研究論文の学位請求論文での使用について原告の承諾があったのかどうかが争点となりました。

1.被告が博士論文に原告との共同研究論文を利用することについての原告の承諾について

裁判所は、共同研究論文の利用についての原告の承諾の有無について、他の共同研究者の承諾状況や原被告間の関係、経済学界における博士学位請求論文の取扱い、被告の認識などの諸事情を検討。
博士論文における共同研究論文の利用として一般に行われる方法での利用を原告が承諾したものと推認することができる、と判断されています(29頁以下)。

2.本件博士論文における共同研究論文の利用形態について

そのうえで、裁判所は本件博士論文における共同研究論文の利用態様についてさらに具体的に検討を加えています(44頁以下)。
この点についても、博士論文における共同研究論文の利用方法として一般的なものであるとして原告の承諾の範囲内のものであると判断。

結論として複製権侵害性を否定しています。

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2 氏名表示権、公表権侵害の成否と原告の承諾の有無

原告の承諾や共同研究論文の利用態様の一般性、博士論文の取扱いから被告による本件博士論文の作成及び大学への提出行為は、原告の本件各原著に係る著作者人格権(氏名表示権及び公表権)を侵害するものではないと判断されています(45頁以下)。

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■コメント

共同研究の成果となる論文の利用の際の経済学界の慣行、研究者の承諾範囲などが争われました。共同研究者の意思解釈、裏を返すと著作権法上の引用(32条)よりももっと緩やかな論文取扱い慣行が経済学界に成立しているかどうかが争点となった事案です。

お二人の共同研究のテーマは、「私的所有権の保護を行う政治システムとしての国家の成立と変遷」で、共同研究論文1(原著1)は、分析の出発点である自然状態の社会モデルとして、「すべての人は富を同じ量だけ持つ」と仮定し分析したもので、共同研究論文2(原著2)は、その仮定を修正したうえで分析したものでした。
ちなみに、被告教授の博士学位請求論文のテーマは、「正義の経済分析」(正義の実証的側面と規範的側面に関する経済学の視点に立つ体系的な研究)というもので、4件の共同研究の成果を踏まえた論文でした。

先行する共同執筆論文著作権侵害事件(東京地裁平成19年1月18日判決 英語の共同論文を無断で日本語翻訳・出版したとして翻案権、同一性保持権侵害性が争点となった事案)の判決文からは、お二人の関係が良く分かりませんでしたが、お互い学部時代の同じゼミ出身、院生在学中から親しく交流していたという関係(原告のほうが被告の1年先輩)だったことが今回の判決文から分かりました(30頁)。
学術論文のあり方についてのお二人の考え方の違いが紛争の発端でしょうか(原告は、「英語論文しか書かない主義の学者」だそうです。別訴PDF10頁参照)、いずれにしても仲違いという残念な状況となったわけです。

なお、被告が論文を投稿した「早稲田政治経済学雑誌」の論文等投稿規程には、学会に著作権を譲渡する規定がありましたが、規定の内容については別訴平成19年判決PDF22頁以下参照。理系の学会での著作権規定の状況については後掲藤田論文参照。

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■過去のブログ記事

・研究成果を巡る紛争について、
2008年10月31日記事
外国人児童向け漢字教材事件
2007年05月31日記事
『租税論』著作権侵害事件
2007年01月20日記事
共同執筆論文著作権侵害事件
2005年05月31日記事
グラフ図表の著作物性=学位論文取消請求事件=
2005年05月06日記事
学術論文盗用と共同研究者の評価=著作者人格権侵害事件=

・学会の著作権規定について、
2006年7月23日記事
論文紹介 藤田節子「国内科学技術系学会誌の投稿規定の分析:参照文献の記述,著作権を中心として」

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■参考判例

原被告間の別訴(共同執筆論文著作権侵害事件)
東京地裁平成19.1.18平成18(ワ)10367著作権侵害差止等請求事件PDF

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■参考文献

藤田節子「国内科学技術系学会誌の投稿規定の分析:参照文献の記述,著作権を中心として(I)」『情報管理』(2005)48巻10号667頁以下
論文
同   「国内科学技術系学会誌の投稿規定の分析:参照文献の記述,著作権を中心として(II)」同上書(2005) 48巻11号723頁以下
論文
林紘一郎、名和小太郎『引用する極意、引用される極意』(2009)144頁以下、181頁以下

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2009年07月03日

アサヒプリテック競業避止事件−競業避止等請求判決(労働事件裁判例集)−

最高裁判所HP 労働事件裁判例集より

アサヒプリテック競業避止事件

福岡地裁平成19.10.5平成18(ワ)2157競業避止等請求事件PDF

福岡地方裁判所第2民事部
裁判官 桂木正樹

*裁判所サイト公表 09/7/2

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■事案

原告の元従業員が入社時の誓約及び就業規則に規定する退職後の競業避止義務に違反したかどうかが争点となった事案

原告:歯科用合金等貴金属リサイクル会社
被告:歯科用合金リサイクル業者

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 民法90条

1 誓約書及び就業規則の公序良俗違反性

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■判決内容

<経緯>

H5.9.21   被告が原告に入社
        被告が原告に誓約書を提出 
H15.6.1   就業規則改訂
H17.11.30  被告が原告を退社


誓約書条項:
「在職中の会社の全取引に対して,退社後3年以内は会社と同一又は類似の業務は致しません。上記各条項に反し万一会社に迷惑をかけたときは,その損害を賠償致します。」

就業規則条項:
「社員は,退職後2年以内の期間において,会社と同等の事業に直接又は間接を問わず従事してはならない」

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<争点>

1 誓約書及び就業規則の公序良俗違反性

原告の元従業員が入社時の誓約及び就業規則に規定する退職後の競業避止義務規定に違反して同業となる歯科用合金スクラップ業を営んでいるかどうかが争点となりました。

判決では、従業員の職業選択の自由、営業の自由と会社のノウハウ等の秘密保持の利益の衡量から、従業員の退職後の競業避止条項の合理性を判断。
競業避止規定設置の合理性の判断にあたっては、顧客の秘密性の程度や従業員の役職、競業制限の程度、代償措置などを判断要素として検討。

結論として、競業避止条項設置の合理的事情が認められず、本件誓約書及び就業規則条項(19条4項部分)が公序良俗に違反し無効と判断されています(5頁以下)。

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■コメント

2年前の判決ですが、最高裁判所のサイト(労働事件裁判例集に収録)にアップされました。顧客情報等の秘密性に乏しいと判断された事案です。
なお、平成19年には、東京地裁でヤマダ電機事件の判決が出ていますが(東京地裁平成19.4.24判決)、ヤマダ電機事件では、退職時の競業避止義務契約について、退職従業員が店長で競業制限1年という事案で競業避止義務契約違反が認められています(一部認容)。
この点、退職時の競業避止義務契約については、原則として無効とされるべきとして東京地裁判決を批判するものとして、帖佐後掲論文参照。

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■過去のブログ記事

退職後の営業秘密、ノウハウの管理に関する最近の事例について、

2008年4月3日記事
退職取締役競業事件
2008年9月28日記事
手刺繍柄バッグ販売価格営業秘密事件
2008年12月6日記事
Eコマース商品仕入先情報営業秘密事件
2009年4月25日記事
アイブロウトリートメント営業秘密事件

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■参考文献

永野周志、砂田太士、播磨洋平「営業秘密と競業避止義務の法務」(2008)260頁以下
帖佐 隆「判例評釈 ヤマダ電機事件(退職後の競業避止義務契約に関する事件)」『久留米大学法学』59.60合併号(2008)260頁以下
辻本希世士「営業秘密である顧客名簿の不正取得行為等の有無と退職後の競業避止義務の範囲」『小松陽一郎先生還暦記念論文集 最新判例知財法』(2008)538頁以下
道幸哲也「競業避止義務制約の法理」田村善之編著『新世代知的財産法政策学の創成』(2008)311頁以下

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■参考サイト

企業法務マンサバイバル(2009年06月01日記事)
競業避止義務・秘密保持義務―労働者には職業選択の自由が保障されると言っても、実際のところ裁判での勝率は52.7%程度に過ぎない件

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2009年06月24日

まじかる・ているゲームソフト職務著作事件−著作権 損害賠償請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

まじかる・ているゲームソフト職務著作事件

東京地裁平成21.6.19平成20(ワ)12683損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 岡本岳
裁判官      鈴木和典
裁判官      坂本康博

*裁判所サイト公表 09/6/23

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■事案

アダルト向けPC用恋愛シュミレーションゲームソフト「カフェ・リトルウイッシュ」「まじかる・ている」の著作者が誰であるのか、法人著作の成否が争われた事案

原告:ソフト開発会社
被告:ソフト開発会社
    被告会社代表取締役A

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法15条2項

1 本件ソフトの著作者は誰か

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■判決内容

<経緯>

H10.6.19  Bが原告会社を設立
H12.11.9  A、Cらが被告会社を設立
H13.9    Aがソフト販売会社を設立
H14      AがBを東京に呼び寄せる
H15.2.14  本件ソフト1発売
H15.5    本件ソフト1をドリキャス向けに販売(本件ソフト3)
H16.11.19 本件ソフト2発売
H17.3    原被告間で本件ソフト1、2制作に関する個別業務委託契約書2通作成(日付遡及)
H17.4    本件ソフト2をPS2向けに販売(本件ソフト4)
H19.5.17  原被告らが別訴に関して本件誓約書作成

ソフト目録

本件ソフト1:PC用ソフト「カフェ・リトルウイッシュ」
本件ソフト2:PC用ソフト「まじかる・ている」
本件ソフト3:ドリームキャスト用「カフェ・リトルウイッシュ」
本件ソフト4:プレイステーション2用「まじかる・ている」

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<争点>

1 本件ソフトの著作者は誰か

原告は、本件ソフト1、2の著作者、著作権者は原告であり、被告がPC用ソフト(本件ソフト1と2)をドリームキャスト用(本件ソフト3)、プレイステーション2用(本件ソフト4)のソフトに翻案したうえで販売したことは原告の著作権(著作権法27条、28条、21条)を侵害すると主張しました。

本件ソフト1、2の開発制作は被告の役員兼プログラマーであるCが担当しましたが、原告は、被告との契約によりCが原告会社の従業員としてその発意に基づき本件ソフトを開発、制作したものであるとして、本件ソフトの著作者、著作権者は原告であると主張していました(法人著作 著作権法15条2項)。

しかし、裁判所は、本件ソフトがアダルト向けということもあり原告会社がソフ倫(コンピュータソフトウェア倫理機構)加盟会社であることや被告会社のイメージ悪化の懸念から、原告会社が本件ソフトの発売元となり、被告会社はソフトを制作、別会社が販売を担当するという枠組みでの事業展開の取決めが原被告間であったと認定。
ソフトの開発者であるCは被告会社の役員(代表取締役)ではあったが、裁判所は「法人等の業務に従事する者」(著作権法15条2項)には当該法人の代表取締役も含まれるものと解すべきであるとしたうえで、Cは被告会社の発意に基づきその職務として本件ソフトを作成したものであるとして、被告会社が本件ソフトの著作者であると判断しています(9頁以下)。

結論として、原告は著作者、著作権者ではなく原告の請求は容れられていません。

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■コメント

過去のゲームソフトをプラットフォームを替えて利用するということが行われるわけですが、最近では、Wiiのバーチャルコンソールのような過去作品のたのしみ方もあります。

今回の事案では、アダルト用PCソフトがドリームキャスト(セガ)やPS2(ソニー・コンピュータエンタテインメント)用に転用移植されています。
原告代表Bと被告代表Aは高校時代の同級生で被告AがBを郷里から呼び寄せるなど親密な関係でしたが、原告や実際にソフト開発にかかわったプログラマーCの被告会社に対する別訴の様子(4頁以下参照)、Cが原告側に立っていること(12頁 陳述書参照)などからすると、被告側の資金繰りに問題があったような感じではあります。
しかし、本件訴訟で原告側に法人著作(著作権法15条2項)が成立することを立証するまでには至りませんでした。

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■過去のブログ記事

最近のゲーム関連の事件として、

機動戦士ガンダム(パチスロ)事件
2009年2月12日記事
真説猟奇の檻アドベンチャーゲーム(PCソフト)事件
2009年1月9日記事
虹彩占いゲーム(アミューズメント機器)事件
2008年3月4日記事
宇宙戦艦ヤマト(パチンコ)事件
2007年1月5日記事
里見学園八剣伝(オンラインゲーム)事件
2007年2月3日記事
プレステ(ライブラリ・プログラム開発)事件
2006年4月16日記事

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■参考文献

福井健策編、内藤篤・升本喜郎著「映画・ゲームビジネスの著作権」(2007)30頁以下

「使用者の業務に従業する者」(著作権法15条)の意義について、
中山信弘「著作権法」(2007)176頁以下
半田正夫、松田政行編「著作権法コンメンタール1」(2009)676頁以下

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■参考サイト

Cafe・LittleWish

まじかる☆ている〜ちっちゃな魔法使い〜



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2009年06月16日

小室哲哉音楽著作権詐欺被告事件−著作権 詐欺被告事件判決(下級裁判所判例集)−

最高裁判所HP 下級裁判所判例集より

小室哲哉音楽著作権詐欺被告事件

大阪地裁平成21.5.11平成20(わ)6505詐欺被告事件PDF

大阪地方裁判所第7刑事部
裁判長裁判官 杉田宗久
裁判官      三村三緒
裁判官      内林尚久

*裁判所サイト公表 09/6/15

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■事案

著名な音楽プロデューサーである被告人が,共犯者らと共謀の上,資産家の被害者に対し,自己の音楽作品の大半の著作権が音楽出版社等に譲渡等されていた事実を隠し,未だに全著作権を自ら所有しているかのように装って,これを買い取るように持ちかけ,譲渡代金の一部として5億円を騙し取ったという高額の詐欺の事案につき,被害弁償が全額なされ,極めて多額の慰謝料も支払われていることや被告人の反省状況・更生環境等を考慮して,懲役3年・執行猶予5年の判決が言い渡された事例(判示事項の要旨より)

被告人:音楽プロデューサー
   
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■主文

懲役3年(執行猶予5年)

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■争点

条文 刑法60条、246条1項、25条1項

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■判決内容

<経緯>

H13      レコード会社との専属契約を合意解約
H14      再婚
H18.7.30  被告人が被害者と都内ホテルで面談
H18.8.7   被告人が被害者と都内ホテルで面談
H18.8.9   被害者が共犯者Dの口座へ1億5000万円を振込送金
H18.8.29  被害者が共犯者Dの口座へ3億5000万円を振込送金

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<理由>

1.有罪と認定した事実

被告人は、自分が創作した806曲の音楽著作権について二重譲渡状態にあるのを隠して、また、前妻が差押さえている著作権使用料分配金請求債権についてその差押えを解除する意思も能力もないのに差押え解除を装って被害者を騙し、合計5億円の金員を交付させました。

2.法令適用の過程

詐欺罪(刑法60条、246条1項)、執行猶予(刑法25条1項)

3.量刑の理由

5億円の詐取という重大な結果が生じてしまっていましたが、

(1)その場しのぎの場当たり的犯行であった
(2)共犯者Dがある程度犯行をリードしていた
(3)合計8億円余りの完璧な被害弁償がある
(4)いわばエイベックス社が丸抱えで本人の更生に協力
(5)本人の真摯な反省
(6)被害者も本人の謝罪の言葉を受け止めている
(7)いままでの功績と多くの嘆願書

などから、執行猶予が付されています。

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■コメント

小室さんからは被害金額の5億円のほか遅延損害金、慰謝料1億円あわせて6億4800万円を、共犯者からは1億5千万円の慰謝料(あわせて合計7億9800万円)を被害者に対して弁償しているという点も大きく量刑判断に影響したと思われます(4頁以下)。

音楽著作権の二重譲渡(三重譲渡)による刑事事件という思いもよらない(すぐにばれる)事件でしたが、、埋もれて使われていない楽曲の再開発も含めて楽曲の著作権をひとまとめにして投資の目的にするといった発想、着目点には色々と考えさせられた事案でした。小室さんには早く楽曲創作活動に専念していただけたらと願って止みません。

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■過去のブログ記事

2008年11月4日記事
ジャスラック信託楽曲の著作権譲渡(小室哲哉さん詐欺容疑事件)

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■参考文献

大家重夫「見直しが必要な著作権登録制度」『マーチャンダイジングライツレポート』44巻2号通巻580号(2009)44頁以下

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■参考サイト

Matimulog 2009年6月15日記事
jugement:小室哲哉事件判決

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■追記09/10/21

2009.10.21 大阪地裁で共犯者に有罪判決。
「著作権制度の問題点を悪用した狡猾な犯行だが、1億5000万円を被害者に支払い、反省もしている」として懲役2年6月、執行猶予4年(求刑・懲役3年)。(読売新聞記事)

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2009年06月15日

化粧品容器形態模倣事件−不正競争防止法 不正競争行為差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

化粧品容器形態模倣事件

大阪地裁平成21.6.9平成19(ワ)8262不正競争行為差止等請求事件PDF

大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 田中俊次
裁判官      北岡裕章
裁判官      西理香

*裁判所サイト公表 09/6/10

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■事案

同じ金型で作られた化粧品の容器の形態模倣性などが争われた事案

原告:化粧品販売会社
被告:化粧品製造販売会社ら4社

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 不正競争防止法2条1項3号、2条5項、民法709条

1 他人の商品の形態性
2 商品形態模倣の有無
3 一般不法行為の成否

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■判決内容

<経緯>

S63   原告会長、被告代表者らがフェースコスメティック設立
H3.7   被告が自社ブランド「エステツイン」の販売開始
H7    仕入方法の変更(原告を介さない直接仕入)
H7.10  原告が「アトシステム」ブランドで化粧品アイテム(原告商品)を販売
H17.5  原告が「アトシステム」デザインリニューアルの告知
H18.4.11 原告から被告側へ仕入値(取引掛率)の変更の通知
H19.1   被告らが被告商品「アトプロデュース」の製造販売を開始
H19.4   原告が被告に販売中止の内容証明書通知

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<争点>

1 他人の商品の形態性

クレンジング、ウォッシング、マイルドローションなど9点の化粧品アイテムで構成される原告商品について、原告商品と同一の金型から形成された容器を被告は被告商品で使用していました。こうしたことから、原告は被告の形態等の模倣行為性(不正競争防止法2条1項3号 商品形態模倣 デッドコピー)を争点としました。

まず「商品の形態」性について裁判所は、原告商品のうち商品コンセプトやアイテムの名称、内容物(化粧品の成分)は商品形態を構成する要素にあたらないとしつつ、

原告商品の商品形態は,容器の形状・寸法,色彩,ワンポイント色,容器の素材の光沢及び質感を中心に観察し,素材や「アト」を含む商品名が使用されていること,容器に記載された文字列は,それが商品形態を構成する模様と認められる限度においてこれを参酌するのが相当である。』(32頁)

と説示。

さらに、被告が原告商品の容器は容器製造メーカーのカタログに掲載されている規格型の既製品であって、「他人の商品」性を欠くと反論した点について、原告商品の商品形態は全体として原告が資本、労力を投下して開発し、商品化したものというべきであるとして「他人の商品」性を肯定。

結論として、原告商品の「他人の商品の形態」性を肯定しています(31頁以下)。

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2 商品形態模倣の有無

次に、「模倣」性(不正競争防止法2条5項)について、裁判所は、原告商品と被告商品の形態の判断要素を認定したうえで、両者を対比して類否を判断。
「模倣」の判断要素である「実質的同一性」について、同一金型から作成された同一の形状・寸法、ピンク色の色彩など、両者は一見するとよく似た印象であることは否定できないとしつつも、色調及び光沢感に相当の相違があるなどとして、9点の商品についていずれも結論として実質的同一性を否定しています(33頁以下)。

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3 一般不法行為の成否

原告は、被告らが原告商品と酷似するデザインを施し、オリジナル商品と競合する流通過程に被告商品を置くことで原告の営業活動を妨害したとして、一般不法行為(民法709条)の成立を主張しました(46頁以下)。
しかし、裁判所は原被告間の過去の取引事情なども踏まえ、被告の販売行為が原告に対する商取引における公正な自由競争の範囲を著しく逸脱するものということはできないとして、結論として一般不法行為の成立を否定しています。

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■コメント

もともと被告代表と原告会長は化粧品事業設立当時から取引関係があり、緊密な関係にあった原告と被告らですが、その後袂を分かったようです(18頁)。
コスメ製品の製造元、卸会社そして販売会社という関係のなかでOEM提供などの取引関係も新たに出来て、各社の利害が絡み合ってしまった印象です(20頁以下)。

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■参考サイト

名古屋の商標亭
2009/6/11記事
アトシステムとアトプロデュース
2009/6/12記事
容器のデザイン

原告サイト
アトシステムatsystemフェースビューティ商品紹介

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2009年06月11日

観音像仏頭部原状回復事件−著作権 著作権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

観音像仏頭部原状回復事件

東京地裁平成21.5.28平成19(ワ)23883著作権侵害差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官      関根澄子
裁判官      杉浦正典

*裁判所サイト公表 09/06/08

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■事案

観音像の仏頭部を無断ですげ替えて公衆の観覧に供したとして、遺族が著作者人格権侵害などを争った事案

原告:彫刻家兼仏師
被告:寺院
    仏師

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法14条、20条、25条、60条、115条、116条

1 原告の共同著作者性
2 人格的利益保護のための原状回復等請求の可否
3 遺族としての謝罪広告請求の可否

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■判決内容

<経緯>

S62    被告寺院が原告親族に十一面観音菩薩立像の制作を依頼
S62.5   木造彫刻作業開始
H1.9    仕上げ作業完了
       被告仏師が仏師Eから独立
H2.3.12  漆塗り・金箔貼り作業開始
H5.5    漆塗り・金箔貼り作業完了、原告が眼の彩色、書き入れ作業(開眼作業)
H5.5.18  駒込大観音開眼落慶法要
H6.7.18  原告が観音像の両目の補修、再補修作業
H15     被告仏師に対して被告寺院が頭部のすげ替えを依頼
        原告は仏頭部の作り直し自体を拒絶
H18.10   原告が仏頭部のすげ替えられた観音像の観覧を確認
H18.10.18 原告が被告寺院に内容証明書通知
H18.10.27 被告寺院が原告に書面通知
H18.11.18 被告寺院に対して原状回復を求める通知
        被告仏師に対して謝罪要求の通知
H18.12.14 被告仏師が原告に書面通知
H19.2.9   原告が被告仏師に書面通知
H19.9.13  本件訴訟提起


「駒込大観音」:十一面観音菩薩立像

観音像体内墨書
「大佛師 監修 D(亡父)」
「制作者 E(亡兄) F(兄) A(原告) 弟子 C(Eの弟子)」

観音像足ほぞ墨書
「監修 D(亡父)」
「制作者 E(亡兄) F(兄) A(原告) C(Eの弟子)」

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<争点>

1 原告の共同著作者性

原告は、共同著作物である観音像が無断でその頭部がすげ替えられたとして、被告らに対して著作者人格権侵害等を理由として損害賠償請求などを求めました。

ところで、観音像の体内と足ほぞに墨書で原告Aの氏名が記載されていました。
これによって原告Aは著作権法14条(著作者の推定)によって観音像の著作者(共同著作者)であると主張しました。

しかし、裁判所は、被告仏師の観音像の制作経緯と制作作業の内容に関する供述などから、原告Aは観音像の仕上げ作業に何らかの関与をしたものとは認めたものの、仕上げ作業は観音像の制作についての創作的な関与にあたるものとまで認めることは困難であると判断。
結論として、著作権法14条の推定は認められず、原告Aは観音像の共同著作者とは認められませんでした(48頁以下)。

このことから、原告A自身の著作者人格権侵害などを理由とする損害賠償請求等は認められていません。

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2 人格的利益保護のための原状回復等請求の可否

観音像の制作に関与した原告の亡父(D)、亡兄(E)の人格的利益について、原告は遺族として仏頭部の原状回復を求めました(著作権法116条、60条、115条)。

1.亡父Dの人格的利益の保護の要否

仏師であった亡父Dについては、観音像の体内や足ほぞに「監修 D」との亡父の雅号の墨書があり著作権法14条(著作者の推定)によって著作者とも考えられましたが、結論的には病気などにより亡父Dは観音像の制作に関与していたと認められず、観音像の著作者であると認められていません(54頁以下)。

従って、原告による遺族としての亡父Dの人格的利益保護のための原状回復等請求は認められませんでした。

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2.亡兄Eの人格的利益の保護の要否

原告Aの亡兄Eが観音像の著作者であることに争いがなく、亡兄Eが制作した仏頭部部分のすげ替え行為が亡兄Eとの関係では亡兄Eの意に反するもので、同一性保持権侵害となるべき行為(著作権法60条本文)にあたるかどうかが争点となりました。

被告寺院は、仏頭部のすげ替えは生前のEの意思に沿うものとして60条ただし書きの「当該著作者の意を害しないと認められる場合」にあたると反論しましたが、結論として著作者人格権侵害となるべき行為にあたると裁判所は判断しています(55頁以下)。

また、被告寺院は、仏頭部のすげ替えは著作権法20条(同一性保持権)2項4号の「やむを得ないと認められる改変」にあたり、同一性保持権侵害にはあたらないと反論していましたが、裁判所に容れられていません(58頁以下)。

結論として、著作権法115条(名誉回復等の措置)に規定される「訂正・・・するために適当な措置」としてE制作による仏頭部へ原状回復することが認められています。

なお、観音像を原状回復するまでの間、一般公衆の観覧に供することの停止の請求までは認められていません(63頁以下)。

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3 遺族としての謝罪広告請求の可否

亡兄Eの遺族として原告Aは新聞への謝罪広告の掲載を求めましたが、裁判所は認めていません(64頁以下)。

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■コメント

東京文京区の駒込の光源寺さんにある通称「駒込大観音」。もともと境内には1697年造立の約8mの十一面観音像がありましたが、これが1945年5月25日の東京大空襲で焼失、平成5年に6mの立像として再現されました。

被告仏師は、原告の仏師一門の工房の弟子筋にあたり、師匠の仏師E(原告の兄)とともに観音像の制作にも深く関与していました。

観音像の頭部を制作したのは被告仏師の師匠Eで、その師匠Eが生前、観音像の「尊顔」が悪相で作り直す願いを持っていた(48頁)こと、制作当時から被告仏師と原告Aとはそりがあっていなかった(49頁)こと、仏師一門の名代としての立場にあった原告Aが彩色、書き入れ作業をした眼について檀家などから修正要望があった(46頁)ことなどから、原告Aの反対を押し切ってまで被告仏師は仏頭部のすげ替えを断行したと思われますが、生前の師匠Eの意思がどこにあったのか寺院や弟子は裁判で明らかにすることができませんでした。

いずれにしても開眼落慶法要から約10年間、信仰の対象となっていた観音像の頭をすげ替えるという事態は、たいへんなことだったと思われます。お寺さん、お檀家さん、仏像制作工房内での人間模様、いろいろ思いを巡らされるところです。

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■過去のブログ記事

銅像をめぐる著作権事件について

2006年3月2日記事
ジョン万次郎銅像事件

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■参考サイト

雨の日も、風の日も、大仏はそこで待っている。東京大仏巡礼 2008その7(ラスト・訪問地)「駒込大観音」訪問

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2009年06月06日

ステンレス製真空マグボトル形態模倣事件−不正競争防止法 損害賠償請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

ステンレス製真空マグボトル形態模倣事件

大阪地裁平成21.6.4平成20(ワ)15970損害賠償請求事件PDF

大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官 山田陽三
裁判官     達野ゆき
裁判官     北岡裕章


*裁判所サイト公表 09/6/5

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■事案

ステンレス製真空マグボトルの形態の類否、依拠性が争われた事案

原告:魔法瓶製造販売会社
被告:金属類加工修理販売会社

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 不正競争防止法2条1項3号、2条5項

1 形態の依拠性
2 形態の作出性

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■判決内容

<経緯>

H15.8  中国の会社が「GZD-C021」を製造販売
H18.11 原告が「サハラマグ」のデザイン作成を開始
H19.9  原告が「サハラマグ」の販売を開始
H20.4  被告が「サバンナミニマグボトル」の販売を開始

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<争点>

1 形態の依拠性

ステンレス製真空マグボトルの形態について、原告商品と被告商品の類否(不正競争防止法2条1項3号 商品形態模倣行為性)が争われました。

ところで、被告は、中国で製造販売された商品を輸入していました。被告が中国から輸入した商品(被告商品)は、原告が販売を開始した以前から中国国内で製造販売されている商品だったかどうか、そもそも被告商品が原告商品に依拠(2条5項)して模倣されたものなのかどうかが争われました(7頁以下)。

この点について、被告商品の輸入元である中国の製造販売会社のカタログに掲載された商品と被告商品の形態がほぼ一致し、商品の型番号の同じものを被告が輸入していたことから、被告が輸入した商品は中国の会社が平成15年8月作成のカタログに掲載された商品と同一であると裁判所は判断。
結論として、時系列的にみて被告商品が原告商品の形態に依拠して作出されたものではないとして商品形態模倣行為性が否定されています。

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2 形態の作出性

なお、原告は、類似商品を原告商品の販売後に海外から輸入して日本国内の市場に置く行為が、不正競争防止法2条5項の「同一の形態の商品を作り出すこと」に該当すると主張しました。
しかし、「作り出すこと」の語義から乖離すること、また不正競争防止法2条1項3号が模倣行為と輸入等の行為とを分けて規定したうえで模倣行為自体を不正競争とはせず、模倣した商品を譲渡等する行為のみを不正競争とすることとしている条文構造からも原告の主張を容れていません(10頁以下)。

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■コメント

原告商品(原告商品)




中国製品について、現地カタログに掲載された既存商品と被告が輸入した商品との同一性の認定がポイントとなりましたが、原告はカタログの不真正性やこれらの商品が異なることを立証できませんでした。

模倣する」とは、不正競争防止法2条5項で「他人の商品の形態に依拠して、これと実質的に同一の形態の商品を作り出すこと」と定義されています。ここから、「模倣」の有無は、「依拠」と「実質的同一性」によって判断されることが分かりますが、今回の事案ではそもそも「他人の商品にアクセスすること」(後掲逐条解説38頁以下)という依拠性が否定された事案となったわけです。

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■参考文献

通産省知財政策室編『逐条解説不正競争防止法』(1994)37頁以下
小野昌延編『新注解不正競争防止法新版上巻』(2007)455頁以下

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■追記09/6/10

名古屋の商標亭(09/6/9記事)
よくある相談でがっくり
名古屋の商標亭(09/6/10記事)
マイボトルなマグボトル

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■追記09/6/30

「知」的ユウレイ屋敷(09.6.30記事)
[不正競争]不正競争防止法2条1項3項の摸倣の意味

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