知財判決速報2009

2010年03月03日

「弁護士のくず」事件−著作権 著作権翻案物発行禁止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「弁護士のくず」事件

東京地裁平成21.12.24平成20(ワ)5534著作権翻案物発行禁止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 阿部正幸
裁判官      山門優
裁判官      柵木澄子

*裁判所サイト公表 2010/2/25
*キーワード:翻案権、創作性、アイデア表現二分論、著作者人格権、一般不法行為性

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■事案

ノンフィクション小説を参考に執筆された漫画の翻案権侵害性が争点となった事案

原告:弁護士
被告:出版社
     漫画家

原告書籍:「懲戒除名 ”非行”弁護士を撃て」
被告書籍:「弁護士のくず」『蚕食弁護士』

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法27条、20条、2条1項1号、民法709条

1 翻案権侵害の有無
2 著作者人格権侵害の有無
3 一般不法行為の成否

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■判決内容

<経緯>

H13.9.28 原告書籍出版
H16     「ビッグコミックオリジナル」に被告書籍が掲載

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<争点>

1 翻案権侵害の有無

被告漫画家は漫画「弁護士のくず」シリーズを執筆しましたが、そのうち「蚕食弁護士」4話(58話から61話)を原告が執筆したノンフィクション小説を参考に執筆しました。そして、その漫画は被告出版社が刊行する雑誌「ビッグコミックオリジナル」に掲載されました。

原告は、被告らの執筆・出版行為が著作権(翻案権 著作権法27条)を侵害すると主張しましたが、裁判所は結論としてはこれを認めませんでした(29頁以下)。

裁判所はまず、江差追分事件最高裁判決(最高裁平成13.6.28)を引いたうえで、原告書籍と被告書籍の対比について最高裁判例の規範部分(翻案に当たらない場合の前段と後段)に即して検討。

(1)表現それ自体ではない部分での同一性

具体的な表現において異なるものの、7点の表現内容で共通し、同一性があるとしたものの、

しかしながら,上記(1)ないし(7)の事柄がいずれも実在の事実ないし事件であることについては,当事者間に争いがないので,上記の点における同一性は,表現それ自体でない部分において同一性が認められるにすぎず,翻案権の侵害の根拠となるものではない。』(31頁)

として、事実や事件という表現それ自体ではない部分での同一性に留まると判断しています。

(2)表現上の創作性のない部分での同一性

事実ないし事件を素材とする作品であっても,素材の選択や配列,構成,具体的な文章表現に著作者の思想又は感情が創作的に表現された場合は,著作物性が認められ,このような表現上の創作性がある部分において既存の著作物と同一性を有する場合は,翻案権の侵害となり得る。

しかしながら,原告書籍と被告書籍との間には,次のとおり,表現上の創作性のある部分において同一性を有すると認められる部分も存在しないというべきである。』(31頁以下)

として、別紙対照表の8つの対比部分について、表現上の創作性がある部分での同一性の存在も否定しています。

結論として、被告書籍に接する者が原告書籍の表現の本質的な特徴を感得することはできず、被告書籍は原告書籍に関する原告の翻案権を侵害するものとは認められないと裁判所は判断しています。

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2 著作者人格権侵害の有無

争点1で翻案が認められなかったことから、著作者人格権(氏名表示権、同一
性保持権、著作者の名誉声望)侵害についての原告の主張も認められていません(43頁)。

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3 一般不法行為の成否

一般不法行為(民法709条)の成否についても、裁判所は被告らの執筆及び出版行為は違法な行為ではないとして、その成立を否定しています(43頁以下)。

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■コメント

昨年末に出された判決(骨董通り法律事務所 福井健策先生が被告側代理人)ですが、いつ公表されるかと首を長くして待っていました。ようやく2ヶ月遅れでの裁判所サイトへのアップとなりました(原告書籍中の人物名の伏せ字処理に時間が掛った?)。

原告は、自ら体験した事件を基にノンフィクション小説を執筆しており、それだけに「事実を専有」する感を強く持ったのかもしれません(26頁以下)。
しかし、他人の著作物を参考に作品を制作したとしても、それが単なるアイデアや客観的事実それ自体の流用に留まるのであれば著作権法上は問題がないことになります。
アイデア表現二分論では、先日の箱根富士屋ホテル物語事件(東京地裁平成22.1.29平成20(ワ)1586著作権侵害差止等請求反訴事件)が記憶に新しいところです。

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■過去のブログ記事

2010年02月08日記事
箱根富士屋ホテル物語事件

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■参考判例
■参考文献

2010年02月08日記事「箱根富士屋ホテル物語事件」をご覧いただけたらと思います。

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■参考サイト

被告側コメント:
小学館広報室コメント、経緯説明及び弁護士コメント(平成21年12月24日)
『弁護士のくず』裁判、第一審完全勝訴!

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2010年01月23日

オートバイレース写真職務著作事件(控訴審)−著作権 損害賠償請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

オートバイレース写真職務著作事件(控訴審)

知財高裁平成21.12.24平成21(ネ)10051損害賠償請求控訴事件判決PDF

知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官      今井弘晃
裁判官      真辺朋子

*裁判所サイト公表 10/1/21
*キーワード:職務著作、創作者主義、利用許諾、著作者人格権

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■事案

フリーカメラマン撮影のオートバイレース写真の職務著作物性が争点となった事案の控訴審

控訴人 :フリーカメラマン
被控訴人:オートバイ商品販売会社

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法15条1項、18条、19条、20条

1 職務著作性の有無
2 利用許諾の有無
3 著作者人格権侵害の有無

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■判決内容

<争点>

1 職務著作性の有無

オートバイレース参加者向けに写真撮影をして即売する事業で撮影を依頼した事業者側と撮影業務を受託したフリーのカメラマンとで撮影された写真の著作権の帰属関係について明確な合意がなかったことから、その帰趨が争点となりました。

被告は、原告カメラマンの写真撮影が職務著作(著作権法15条1項)にあたるとして、写真の著作権の被告側への原始取得を主張しました。原審では、被告の主張が認められて職務著作の成立が肯定されていました。

これに対して、知財高裁は、まず、

職務著作について定めた著作権法15条1項は,法人等において,その業務に従事する者が職務上作成する著作物(プログラムの著作物を除く。)で,その法人等が自己の名義の下に公表するものの著作者は,その作成の時における契約,勤務規則その他に別段の定めがない限り,その法人等とすると定めているところ,「法人等の業務に従事する者」に当たるか否かは,法人等と著作物を作成した者との関係を実質的にみたときに,法人等の指揮監督下において労務を提供するという実体にあり,法人等がその者に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを,業務態様,指揮監督の有無,対価の額及び支払方法等に関する具体的事情を総合的に考慮して判断すべきものと解される(最高裁平成15年4月11日第二小法廷判決・裁判集民事209号469頁参照)。』(12頁)

として、RGBアドベンチャー外国人デザイナー事件最高裁判決を示した上で本件事案において原告カメラマンが「法人等の業務に従事する者」に該当するかどうかを検討。

原告が個人写真事務所経営者であること、プロのカメラマンとして撮影を実施していたことやクレジット挿入要求などの点から、

これらを総合勘案すれば,控訴人は基本的には被控訴人との契約に基づきプロの写真家として行動していた者であり,被控訴人の指揮監督の下において労務を提供するという実体にあったとまで認めることはできな
い。


として、「法人等の業務に従事する者」要件の充足性を否定。原審の判断とは反対に職務著作の成立を否定しました(12頁以下)。

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2 利用許諾の有無

写真の著作権については職務著作物性が否定されたことから、原則として(譲渡などがない限り)撮影者である原告カメラマンに写真の著作権が帰属することとなりましたが、次に被告が撮影データを走行会の主催者に交付し、主催者がそのホームページや告知用ポスターに本件写真を掲載した行為の著作権侵害性(契約関係として原告の利用許諾があったかどうか)が争点となっています。

原告カメラマンは、撮影された写真について即売会での販売目的提供以外に主催者ホームページや告知用ポスター利用目的には被告側と合意していないと主張していました。

この点について、裁判所は、

(被告代表者である)『Aは,平成17年3月の合意の際,控訴人に対し,本件業務において扱った写真データは,後日走行会の主催者側に販売以外の目的,具体的にはホームページ上での写真の掲載及び告知用ポスターへの掲載を目的として記録媒体により無償で提供することを説明し,控訴人はこれを承諾したと認めるのが相当である。』(14頁)

として、結論として原告カメラマンはあらかじめ被告に対してその利用許諾をしていたとして著作権侵害の成立は否定されています(13頁以下)。

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3 著作者人格権侵害の有無

ホームページや告知用ポスターに掲載される際に画像サイズが縮小されたりした等として、原告カメラマンは著作者人格権侵害(公表権、氏名表示権、同一性保持権の各点)を主張しました(14頁以下)。
結論としては、著作者人格権侵害性も否定されています。

以上から、原審と異なり職務著作物性は否定されたものの、棄却の結論は異なりませんでした。

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■コメント

裁判所サイトに原審判決と同日に控訴審判決も公表されました。

原審の職務著作物性肯定の判断に対して、知財高裁はこれを否定。フリーカメラマンに写真の著作権の帰属を認めたものの、契約関係として無償での写真の利用許諾などがあったことを認めて、結論としては原審と同様、棄却の判断となっています。

RGBアドベンチャー外国人デザイナー事件最高裁判決の射程については議論がありますが(後掲入門90頁参照)、今回、知財高裁は、最高裁判決を前提にしつつ雇用関係に拘ることなく指揮監督下での労務の提供という実態の有無から「法人等の業務に従事する者」要件を判断しています。

原審での職務著作の判断内容については、価値判断的に職業カメラマン/写真家の地位を貶めるものでした。棄却の当否はともかく、知財高裁の職務著作に関する判断は妥当な処理と考えます。

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■過去のブログ記事

2010年1月22日記事 原審

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■参考判例

・RGBアドベンチャー外国人デザイナー事件最高裁判決を前提にしつつ、雇用関係が明確に否定される場合にも(1)指揮監督下での労務提供という実態性と(2)金銭の労務提供対価性から「業務従事者」性を判断する知財高裁判例として、
燃えつきるキャロル・ラスト・ライブ事件
知財高裁平成18.9.13平成17(ネ)10076著作物利用差止等請求控訴事件

・フリーのシナリオライターが共同執筆したゲームシナリオの職務著作物性を肯定したものとして、
PCゲーム「グリーン・グリーン」事件
東京高裁平成15.7.10平成15(ネ)546著作権侵害差止等請求控訴事件

・フリーライター執筆のインタビュー記事の職務著作物性を肯定したものとして、
SMAP大研究事件
東京高裁平成11.5.26平成10(ネ)5223

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■参考文献

島並 良、上野達弘、横山久芳『著作権法入門』(2009)87頁以下
上野達弘「職務著作における「法人等の業務に従事する者」-RGBアドベンチャー事件」『小野昌延先生喜寿記念 知的財産法最高裁判例評釈大系3』(2009)396頁以下

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■追記10/2/14

企業法務戦士の雑感(2010-01-24記事 2/14アップ)
[企業法務][知財]「職務著作」をめぐる判断の揺れ

先日、日本写真家協会の常務理事のかたとお話をさせて戴きましたが、今回の判決について「地裁、高裁ともに現場のことを知らない」との感想をお持ちでおいででした。

原告の写真家さんとしても、事の重要性を慮って一審の管轄の選択を東京地裁にして欲しかったところです。



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2010年01月22日

オートバイレース写真職務著作事件−著作権 損害賠償請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

オートバイレース写真職務著作事件

水戸地裁龍ケ崎支部平成21.6.26平成20(ワ)52損害賠償請求事件PDF

裁判官 三輪篤志

*裁判所サイト公表 10/1/21
*キーワード:職務著作、創作者主義、利用許諾

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■事案

フリーカメラマン撮影のオートバイレース写真の職務著作物性が争点となった事案

原告:フリーカメラマン
被告:オートバイ商品販売会社

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法15条1項

1 職務著作の成否

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■判決内容

<経緯>

H17.2 被告がオートバイレース参加者向け写真即売事業を企画
H17.3 原告被告間で写真販売事業の写真撮影について合意
H17.5 写真撮影、写真販売開始
H18.7.13 第1回ライコランド走行会開催
H18.9.21 第2回ライコランド走行会開催

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<争点>

1 職務著作の成否

オートバイレース参加者向けに写真撮影をして即売する事業で撮影を依頼した事業者側と撮影業務を受託したフリーのカメラマンとで撮影された写真の著作権の帰属関係について明確な合意がなかったことから、その帰趨が争点となりました。

被告は、原告カメラマンの写真撮影が職務著作(著作権法15条1項)にあたるとして、写真の著作権の被告側への原始取得を主張しました。

著作権法15条1項の各要件について、裁判所は、

1.原告が被告の業務に従事する者であること
2.原告が本件写真を職務上作成したこと


という要件については、写真の即日販売を実現するために撮影から販売まで被告の指揮命令の下、各関係者が役割分担に従い組織的に本件写真販売事業を行っていたこと、支払われた金銭が労務の提供の対価と評価できるなどの点から、1.と2.の要件を充足すると判断(20頁以下)。

3.本件写真が被告の著作名義の下に公表するものであること

という要件についても、販売用テント前に展示された時点を公表時点として判断。この際には、サービス名と被告の会社名だけが付されていたということで充足性が肯定されています(22頁以下)。

結論として、職務著作の成立を肯定しています。

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■コメント

1回の撮影料が1.2万から2万円で、第1回走行会では498点の画像が使用されているので(3頁)、撮影枚数は当然それ以上になるでしょう。

そこで知人のバイク雑誌副編集者にこの辺りの現場事情を聞いてみました。

雑誌掲載写真使用料としては1枚1〜3000円程度。一日丸々の取材(撮影枚数数千枚)では取材経費としてコミコミ2.5万円程度。しかも写真の著作権は買取。
2Gのメモリ1枚がフィルム1本程度の価格になった今、素人でも数を撮れば1枚くらいは使えるものがあるから、いま(スチルの)カメラマンは、一番弱い存在じゃないか」、というのが判決内容を聞いた際の編集者の感想でした。

とはいえ、本判決では、走行会主催者側に写真を無償交付することが本件事業の前提となっている点を捉えて、「本件写真が被告の著作物であることを前提とするものと理解することができる」(22頁)などとしていますが、著作権法の創作者主義の原則から疑問なしとしません。

なお、同日5時間後には、裁判所サイトに控訴審判決が公表されています(知財高裁平成21.12.24平成21(ネ)10051損害賠償請求控訴事件判決PDF)。
知財高裁では、一審の職務著作成立の判断が否定されてカメラマンに写真の著作権の帰属が肯定されていますが、結論としては、写真の利用許諾等が認められていて、控訴棄却となっています。

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■参考判例

RGBアドベンチャー外国人デザイナー事件
最高裁平成15.4.11平成13(受)216著作権使用差止請求事件判決PDF

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■参考文献

島並良、上野達弘、横山久芳『著作権法入門』(2009)88頁以下
潮海久雄「職務著作(1)-業務に従事する者」『著作権判例百選第四版』(2009)68頁以下
半田正夫、松田政行編『著作権法コンメンタール1』(2009)676頁以下
中山信弘『著作権法』(2007)176頁以下
潮海久雄『職務著作制度の基礎理論』(2005)184頁以下、205頁以下
田村善之『著作権法概説第2版』(2001)380頁以下

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■関連記事(2010.1.23追記)

2010年1月23日記事 控訴審

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2010年01月12日

ゴヤール対アディダス事件−不正競争防止法 輸入販売差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

ゴヤール対アディダス事件

平成21.12.24平成21(ワ)19888輸入販売差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 阿部正幸
裁判官      柵木澄子
裁判官      舟橋伸行

*裁判所サイト公表 10/1/7
*キーワード:外観、類否

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■事案

アディダスの三つ葉デザイン「トレフォイルマーク」をバッグや靴に付して販売したアディダスの行為の周知表示混同惹起行為性などが争点となった事案

原告:ゴヤールフランス法人(カバンブランド)
被告:アディダス日本法人(スポーツブランド)

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 不正競争防止法2条1項1号、2号、商標法37条1号

1 不正競争防止法違反の成否
2 商標権侵害の成否

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■判決内容

<争点>

1 不正競争防止法違反の成否

ゴヤールのデザイン(原告標章)に類似するアディダスのデザイン(被告標章)をアディダスが自社バッグや靴に付して販売等した行為の周知表示混同惹起行為性(不正競争防止法2条1項1号)、著名表示冒用行為性(同2条1項2号)が争点となりました。

原告標章
(ゴヤール:原告標章)

被告標章1
(アディダス:被告標章1)

この点について、Y字形をモチーフとしたデザインの原告標章と三つ葉をモチーフとしたデザインの被告標章の類否が検討されています(14頁以下)。

裁判所は、原告標章と被告標章1、2の共通点と相違点を検討した上で、

原告標章は,全体として,「3色の杉綾(ヘリンボーン)から構成される「Y」字形をモチーフとした模様」という印象を与えるのに対し,被告標章1は,全体として,「3色の葉から構成される扇形をモチーフとした模様」という印象を与える。』(16頁 被告標章2については17頁以下)

として、結論として外観上の類似性を否定しています。

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2 商標権侵害の成否

原告登録商標(4977875号)は、Y字形をモチーフとしたデザインに「E GOYARD」とのアルファベット文字等が付されているものでしたが、原告商標と被告標章1との類否がさらに争点となっています。
原告商標
(原告商標)

結論としては、上記の不正競争行為性の論点と同様、外観に類似性がないとして商標権侵害性が否定されています(18頁以下)。

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■コメント

パリに本店を持つ老舗カバンメーカー、ゴヤールのカバン生地のヘリンボーン(杉綾織)デザインとアディダスのCIにもなっている三つ葉デザインの類否が争点となりました。
問題となった2008年春夏シーズン製品は、アディダス直営店(アディダスオリジナルコンセプトショップ)などで販売されたものです。

判決文の末尾にある別紙に問題となったデザインがカラーで掲載されていますが、この画像だけですと一見してどうして類似性が問題となるのかよく分かりません。
問題となったアディダスのバッグや靴の実物を見てみないと何ともいえないところです。
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2010年01月09日

自動車用フロントテーブル形態模倣事件−不正競争防止法 不正競争行為差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

自動車用フロントテーブル形態模倣事件

大阪地裁平成21.12.10平成18(ワ)8794不正競争行為差止等請求事件PDF

大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 田中俊次
裁判官      北岡裕章
裁判官      山下隼人

*裁判所サイト公表 09/12/25
*キーワード:形態の商品等表示性、模倣、意匠権

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■事案

自動車用品のフロントテーブルの形態模倣性やカップホルダ用装飾リングの意匠権侵害性が争点となった事案

原告:自動車用品製造販売会社
被告:自動車用品輸出入販売会社

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 不正競争防止法2条1項1号、3号、意匠法3条2項

1 フロントテーブルの形態に係る周知商品表示性(2条1項1号)
2 フロントテーブルの実質的同一性の有無(2条1項3号)
3 カップホルダ用装飾リング登録意匠の意匠法3条2項違反の無効理由の有無
4 カップホルダ用装飾リングの商品形態模倣行為の成否(2条1項3号)

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■判決内容

<経緯>

H15.8.4 原告商品1Aフロントテーブル販売開始
H16.7.1 原告商品1Bフロントテーブル販売開始
H17.7.1 原告商品1Cフロントテーブル販売開始
H17.10.21 カップホルダ用装飾リング意匠登録
H18.1  被告が被告商品1フロントテーブルを製造販売

本件登録意匠:カップホルダ用装飾リング1257568号

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<争点>

1 フロントテーブルの形態に係る周知商品表示性(2条1項1号)

自動車のフロント部分のダッシュボードに取り付ける内装グッズ(フロントテーブル(原告商品1、被告商品1))の周知表示混同惹起行為性(不正競争防止法2条1項1号)が争点となっています。

まず、前提として、商品の形態自体がが直ちに出所を示す商品等表示となるわけではないことから、裁判所は、

原告は,原告商品1の形態をもってその商品表示であると主張する。商品の形態は,それ自体として,直ちに当該商品の出所を表示するものではない。しかし,当該商品の形態が他の商品とは異なる独自の特徴を有しており,かつ,その形態が特定の者によって長期間継続的かつ独占的に使用されるか,又は短期間でも極めて強力な宣伝広告活動や圧倒的な販売実績等があって,需要者において当該形態が特定の事業者の出所を表示するものとして周知となっている場合には,当該商品等の形態をもって,不正競争防止法2条1項1号の保護の対象となる商品表示と解することができる。』(67頁)

と従来の裁判所の判断を示したうえで、

1.形態の特徴
原告商品1は他の商品とは異なる商品形態を有していること自体は否定できないものの、その独自性は低い(67頁以下)。

2.原告商品1の形態の周知性について
原告商品1の需要者は少なくとも数十万人程度は存在するのではないかと考えられ、形態の独自性が低いことも併せ考慮すれば、原告主張の販売数量(1万2159台)程度では形態の周知性を肯定するには足りない(71頁以下)。
また、宣伝広告の状況、アンケート実施結果からも原告商品1の形態に係る周知性を肯定できない(72頁以下)。

3.結論
独自の特徴を有しているわけでもなく、短期間で極めて強力な宣伝広告活動や圧倒的な販売実績等があったわけでもないとして、裁判所は結論として原告商品1の形態は不正競争防止法2条1項1号の商品表示性を有するものではないと判断しています。

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2 フロントテーブルの実質的同一性の有無(2条1項3号)

被告商品による商品形態模倣行為・デッドコピー性(不正競争防止法2条1項3号)が次に争点となっています(74頁以下)。
結論としては、商品4点いずれも実質的同一性がないとされ模倣性が否定されています。

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3 カップホルダ用装飾リング登録意匠の意匠法3条2項違反の無効理由の有無

被告商品2カップホルダ用装飾リングの意匠が本件登録意匠類似し、これを被告商品1フロントテーブルなどに装着して販売することは本件意匠権を侵害すると原告は主張しました。

この点について裁判所は、

本件登録意匠は,その出願前に当業者に公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に創作をすることができた意匠と認められ,その結果,本件意匠登録は,意匠法3条2項の規定に違反して登録されたものであり,意匠登録無効審判により無効とされるべきものであるから,意匠法41条(特許法104条の3第1項)により,原告は被告に対して本件意匠権を行使することができない。』(103頁)

として、原告の意匠権に基づく主張を認めていません。

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4 カップホルダ用装飾リングの商品形態模倣行為の成否(2条1項3号)

フロントテーブルに装着されているカップホルダ用装飾リング部分に着目して2条1項3号の成否が検討されていますが、結論としては否定されています(103頁以下)。

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■コメント

後発会社による競業分野での商品展開や原告元従業員が被告会社に再就職しているといった状況が窺えます(33頁以下)。

わたし自身、オートバックスやイエローハット、ジェームスなどへは良く足を運んで内装グッズなども眺めます。ラグジュアリーなものは専用のショーケースに収まって展示されていて、ひとつのジャンルとして確立していることが分かります(原告の商品ラインナップ)。

もっとも、意匠登録されたカップホルダ用装飾リングのデザインについては、これを見てみても、?という感じです。

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2010年01月07日

ワンルームマンション営業秘密事件−不正競争防止法 不正競争行為差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

ワンルームマンション営業秘密事件

東京地裁平成21.11.27平成20(ワ)16126不正競争行為差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 岡本岳
裁判官      中村恭
裁判官      鈴木和典

*裁判所サイト公表 09/12/16
*キーワード:秘密管理性、非公知性、不正取得行為、競業避止義務

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■事案

投資用ワンルームマンション買取業者情報などの秘密管理性が争点となった事案

原告:投資用中古ワンルームマンション売買仲介会社
被告:不動産仲介会社、原告元従業員ら

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 不正競争防止法2条1項4号、7号、8号、2条6項、民法719条

1 本件買取業者情報の秘密管理性
2 本件書式の非公知性
3 本件所有者情報に関する不正競争の有無
4 職務過怠の有無
5 信義則上の義務違反の有無

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■判決内容

<経緯>

H18.3.1 原告とDST社が業務提携契約締結
H18.3  被告AがDSTから原告に出向
H18.10  被告Aが退職
H19.2  被告Aが被告会社に入社
H19.8  業務提携契約を合意解約

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<争点>

1 本件買取業者情報の秘密管理性

原告元従業員らによる原告保有の不動産所有者情報(本件所有者情報)や投資用ワンルームマンション買取業者情報(本件買取業者情報)、契約書類等の書式(本件書式)の不正取得行為の有無やそれら情報の秘密管理性(不正競争防止法2条6項)が争点となっています。

まず、本件買取業者情報について、

1.買取業者の名称などであった
2.インターネットでも公開されている情報であること
3.閲覧についてアクセス制限がなかった
4.自由にプリントアウトできる状況にあった

こうした点から、裁判所は、本件買取業者情報に接した者がこれを秘密として管理されていることを認識し得る程度に秘密として管理している実体があるとはいえないとして、本件買取業者情報は秘密管理性の要件を欠くと判断しています(20頁以下)。

   --------------------

2 本件書式の非公知性

実際の業務に使用される契約書類等の書式の非公知性について、不動産の売買当事者、媒介依頼者などの第三者が必ず認識することなどから、裁判所は本件書式の非公知性を否定しています(21頁以下)。

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3 本件所有者情報に関する不正競争の有無

本件買取業者情報と本件書式の営業秘密性が否定されたことから、秘密管理性について当事者間で争われていない本件所有者情報(8頁以下)についてのみ不正取得の有無が検討されています(22頁以下)。

結論としては、被告個人らによる紙媒体や電子データでの情報取得が否定されています。

   --------------------

4 職務過怠の有無

原告は、被告Fらは原告に対して経営コンサルタントとして人材を派遣したDST社の取締役として信義則上、営業秘密保持義務や競業避止義務を負うものであり、被告Fらには取締役の職務を行うにあたり義務違反による職務懈怠があると主張しましたが、裁判所は認めていません(28頁以下)。

   --------------------

5 信義則上の義務違反の有無

原告は、DST社との本件業務提携契約に基づき被告Fらは信義則上の義務(競業避止義務類似の義務)を負い、この義務に違反していると主張しましたが、この点についても認められていません(29頁)。

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■コメント

出資金の返還トラブルで関係者が殺害されたり逮捕者が出たりと物騒な事件も絡む事案です。

情報が営業秘密として保護されるためには、1.秘密管理性、2.有用性、3.非公知性の3要件の充足が必要ですが(不正競争防止法2条6項)、本件買取業者情報については、秘密管理の実体がないと判断されています。
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2010年01月06日

ウルトラマン営業誹謗抗告事件−不正競争防止法 不正競争仮処分申立却下決定に対する抗告事件決定(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

ウルトラマン営業誹謗抗告事件

知財高裁平成21.12.15平成21(ラ)10006不正競争仮処分申立却下決定に対する抗告事件PDF

知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 滝澤孝臣
裁判官      本多知成
裁判官      浅井憲

*裁判所サイト公表 09/12/24
*キーワード:準拠法、虚偽事実告知行為、保全の必要性

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■事案

円谷プロダクションが国内の映像事業関係者に対して書面を送付した行為の営業誹謗行為性が争点となった事案

抗告人:株式会社
相手方:円谷プロダクション

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■結論

抗告棄却

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■争点

条文 不正競争防止法2条1項14号、法の適用に関する通則法20条

1 準拠法
2 営業誹謗行為の有無
3 本件契約に基づく差止請求の可否
4 保全の必要性

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■判決内容

<経緯>

S51.3.4  タイ人Aの会社と円谷プロとの間の海外ライセンス契約
H16.4.27 最高裁三小決定 上告棄却(本件契約書は有効と判断)
H20.2.5  タイ最高裁は本件契約書が偽造で無効と判断
H20.11  抗告人会社設立
H20.12.24 Aが抗告人に円谷プロとの間の契約におけるAの一切の権利を譲渡
H21.2.10 Aが円谷プロダクションに譲渡通知

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<争点>

1 準拠法

タイ人Aからウルトラマンの独占的利用権を譲受けたとする抗告人は、円谷プロダクションが国内の映像事業関係者に送付した書面についてその営業誹謗行為性(不正競争防止法2条1項14号)を争点としました。

抗告人は、不正競争防止法(不正競争防止法2条1項14号、3条)に基づく独占的利用権の利用妨害行為の差止請求権あるいは円谷プロダクションとタイ人Aとの間の契約(本件契約)に基づく差止請求を被保全権利として、円谷プロダクションによる日本国内の第三者への「抗告人が日本以外の国において独占的利用権を有しない」旨の告知流布行為などの差止を求め仮処分を申立てました。

まず準拠法に関して、不正競争防止法に基づく請求と本件契約に基づく請求の準拠法について検討されています。
不正競争防止法に基づく請求については、不法行為と法性決定するものの(通則法17条(不法行為))、20条(密接関係地)により日本国法が準拠法になると判断。また、昭和51年に締結された本件契約の成立及び効力の準拠法についても日本国法と判断されています(通則法附則3条3項、法例7条 7頁以下)。

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2 営業誹謗行為の有無

抗告人がAからの権利譲受けなどを内容とする書面を関係者に対して通知しましたが、それを受けて円谷プロダクションも関係者に以下の内容の書面を通知しました。

1.Aから抗告人への権利譲渡には法的に重大な疑義があること
2.タイ最高裁判決のこと
3.通知の経緯

こうした内容の書面(相手方書面)の通知行為について、裁判所は、

相手方書面は,その記載内容,配布先,作成に至る経緯等に照らし,その配布の直前に抗告人書面を受領している者に送付されたものであって,その送付を受けた者は,本件独占的利用権についてAと相手方との間で従前から紛争があり,我が国においては,確定した東京高裁判決によって,Aが本件独占的利用権を有することが確認されていることを認識している者であると認められることからすると,その後に相手方書面を受領しても,抗告人書面と対比して,相手方書面は,要するに,タイ最高裁判決によってタイ王国内においてAが本件契約書に基づく権利主張等をすることが禁じられたことなどを述べているにすぎないと理解すると認めるのが相当であり,さらに進んで,Aがタイ王国以外の外国でも本件独占的利用権を主張することが禁じられているとまで理解するとは解されない。』(10頁)

そのうえで円谷プロダクションが、

東京高裁判決で認められたAの有する本件独占的利用権が無効であることを理由として,本件独占的利用権を譲り受けたとする抗告人が当該利用権を有しない旨を告知し又は流布したものと解するのは相当でな(い)』(11頁)

として、結論として円谷プロダクションの書面通知行為の虚偽告知行為性(営業誹謗行為性)が否定されています。

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3 本件契約に基づく差止請求の可否

本件契約に基づく差止請求の可否について、結論としては円谷プロダクションとAとの間の本件契約上の不作為合意の存在が認められないとして、本件契約に基づく差止請求権も否定されています(11頁以下)。

   --------------------

4 保全の必要性

さらに日本国内、国外における本件対象行為を仮処分によってあらかじめ差し止める必要があるかどうかについて検討がされていますが、結論として保全の必要性が否定されています(12頁以下)。

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■コメント

ウルトラマン(「ウルトラ」シリーズ)版権の海外ライセンス契約については、タイの実業家A氏と円谷プロダクションとの間で紛争となり、ライセンス契約の有効性について日本での裁判ではその有効性が認められた(7シリーズの作品と2つの映画の海外利用権がタイの実業家にある)のに対して、タイの最高裁判所(2008.2.5)では逆に契約書は偽造で無効と判断されるという複雑な状況になっています。

ウルトラマンの海外展開については、中国で訴訟が係属していますのでその行方が注目されます。

「ウルトラマン著作権訴訟、円谷プロが中国で勝訴」(2009年11月3日日経ネット記事)
NIKKEI NET(日経ネット):企業ニュース

ウルトラマンシリーズの海外での著作権を巡り、中国の裁判所でタイ人経営者らと争っていた裁判で、円谷プロダクション(東京・世田谷)が勝訴したことが分かった。この問題では日本の裁判所がタイ企業の、タイの裁判所では円谷プロの訴えを認めるという「逆判決」で話題を呼んだが、中国ではひとまず円谷プロ側に軍配が上がった。

 今回の判決は中国広東省の広州市中級人民法院が10月23日に下した。中国は二審制で、今回は一審判決。双方とも30日以内に上告できる。(03日 15:13)


なお、ウルトラマンを巡る紛争については、安藤健二さんの「封印作品の憂鬱」(2008 洋泉社)などに詳しいところです。

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■過去のブログ記事

2009年1月20日記事
新刊案内 安藤健二「封印作品の憂鬱」(洋泉社)
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2009年12月28日

脳機能画像解析学術論文事件−著作権 著作権侵害確認等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

脳機能画像解析学術論文事件

東京地裁平成21.11.27平成18(ワ)2591著作権侵害確認等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官      大西勝滋
裁判官      関根澄子

*裁判所サイト公表 09/12/25
*キーワード:共同著作物、複製権、公表権、権利の濫用、アカデミックハラスメント、名誉回復措置

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■事案

未公表の学術論文の共同著作物性や複製権、同一性保持権、公表権などの侵害性が争点となった事案

原告:研究者
被告:研究者

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法2条1項12号、21条、27条、18条、20条、114条、115条、117条、民法1条3項

1 第1論文の共同著作物性
2 複製権及び翻案権侵害の有無
3 同一性保持権及び公表権侵害の有無
4 第2論文の撤回通知請求の可否
5 損害額
6 権利の濫用の成否

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■判決内容

<経緯>

H9.4   「PETおよびfMRIによる言語機構の解析」研究プロジェクト実施
       (原告:プロジェクトリーター、被告:協力者)
H11.10  原被告連名「日本語における音素-書記素変換に関する機能的
       磁気共鳴画像(fMRI)」研究発表
H12.2   原告が被告に第1論文に係る実験の研究結果論文作成を指示
H12.10   被告が原告に原稿(甲28:第1論文の初期原稿)提出
H13.2.9  被告が原告に博士論文計画提出
H13.3.12 原告がHBM誌に論文発表
H13.6   被告が原告に修正原稿を提出
H13.6.25 被告が原告に再修正原稿を提出
H14.2   被告が博士論文提出
H14.4   研究プロジェクト報告書刊行
H14.6.4  学術研究会で原被告連名でポスター発表
H14.8.30 第1論文完成、未公表
H15.12.15 被告らが第2論文をニューロレポート誌に投稿
H16.4.29 第2論文がニューロレポート誌に掲載
H17.2.8  原告が被告に第2論文掲載削除要求
H17.2.25 被告が原告に回答
H18.2.9  原告が被告ほか共同執筆者B、C、D、Aに対して訴訟提起
H20.3.10 被告以外の者と訴訟上の和解成立

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<争点>

1 第1論文の共同著作物性

原告と共同研究をしていた被告が、一連の研究の成果(未公表の第1論文 原告がコレスポンディングオーサー)の一部を原告に無断で学術誌に発表した(第2論文 被告がファーストオーサー兼コレスポンディングオーサー)として、第1論文に関する原告の著作権(複製権、翻案権)や著作者人格権(公表権、同一性保持権)の侵害性が争点となりました。

まず、第1論文(英文論文「音読と書き取りに共通する神経的相関についての機能的磁気共鳴画像研究」)の共同著作物性(著作権法2条1項12号)が争点となっています。

この点について、第1論文作成の経緯を検討のうえ、被告作成の原稿に対して原告が書き込みや口頭によって英語表現の訂正、付加、記述の順序、内容等について指示し、それを受けて被告が修正するなどしていたとして、結論として第1論文の原被告らによる共同著作物性が肯定されています(76頁以下)。

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2 複製権及び翻案権侵害の有無

次に、第2論文(英文論文「音素から書記素への変換に関する神経的相関」)が第1論文に依拠して無断複製されたものかどうかが争点となっています。

【1】複製権(21条)侵害性

(1)第1論文と第2論文との対比

両論文の研究目的や実験の前提、課題などを検討したうえで、実験手法の一部は共通するものの、研究目的、実験の前提となる仮定、実験の課題、実験結果、論文の結論が異なるとして、両論文は研究内容を異にすると判断されています(82頁以下)。

(2)類似部分の創作性について

両論文には、類似表現が存在することから、その類似部分の表現の創作性が章毎に検討されています(87頁以下)。

1.「Abstract」
論文要旨を記載する項目であり執筆者の自由度が高く表現の幅が相当程度ある。別紙対比表1の2ないし4の表現は創作性を有する。

2.「Introduction」
別紙対比表1の類似部分は専門用語や一般的な表現などであって、表現の創作性は認められない。

3.「Materials and Methods」
別紙対比表1の表現の類似部分について、課題の実施方法やデータ取得の方法、データ分析の機器などの内容が共通し、その表現が類似するものの著作権法による保護の対象とはならない事実又はアイデアに属するものとして創作性を有しない。

4.「Discussion」
研究結果に基づいて結論に至ったプロセスを論証し考察する項目に関して、別紙対比表2のcないし1の表現の類似部分について、創作性がある。

(3)依拠性について

被告が第1論文の初期原稿を作成した経緯や両論文の対比から、被告が第1論文に依拠して第2論文を作成したと認定されています(98頁以下)。

(4)結論

結論として、創作性を有する表現の類似部分について複製権侵害性が肯定されています。

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【2】翻案権(27条)侵害性

原告は、第2論文は第1論文を全体として翻案したものであると主張しました。
しかし、裁判所は、第2論文の類似部分から第1論文全体の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできないとして、原告の主張を容れていません(99頁以下)。

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3 同一性保持権及び公表権侵害の有無

(1)同一性保持権(20条)侵害性

複製権侵害が肯定される部分について、被告は第1論文の共同著作者である原告の同意を得ずに第1論文の表現を一部改変しているとして、被告の第2論文の作成、発表が原告の同一性保持権を侵害すると判断されています(100頁以下)。

(2)公表権(18条)侵害性

未公表の第1論文の一部について、原告の同意を得ずに第2論文で複製の上公表しているとして、原告の公表権を侵害すると判断されています(101頁)。

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4 第2論文の撤回通知請求の可否

(1)112条の規定による請求

侵害停止措置として学術雑誌から第2論文の掲載撤回を出版社へ通知するよう原告は被告に求めました。
しかし、裁判所は、雑誌掲載の時点で被告による侵害行為は終了していること、また、第2論文の著作権は出版社に譲渡されている点から、著作権法112条1項2項いずれにも該当しないとして原告の主張を容れていません(101頁以下)。

(2)115条の規定による請求

原告は、名誉声望回復措置(115条)として掲載撤回通知を出版社へ出すよう被告に求めました。
しかし、裁判所は、第2論文掲載によって原告が社会から受ける客観的な評価の低下を来して名誉・声望が毀損されたものとまではいえないなどとして、原告の主張を容れていません(102頁以下)。

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5 損害額

著作者人格権(同一性保持権、公表権)侵害による慰謝料として30万円、複製権、著作者人格権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用10万円の合計40万円が損害額として認定されています(104頁)。

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6 権利の濫用の成否

被告は、原告が第1論文の公表に同意しなかった点や本件訴訟がアカデミック・ハラスメントの延長線上にあるとして、原告の第1論文に関する著作権、著作者人格権の行使としての本件請求が権利の濫用(民法1条3項)にあたると主張しましたが、裁判所は認めていません(104頁以下)。

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■コメント

高次脳機能研究(脳機能画像解析による言語機能研究)分野で指導教官が弟子を訴えた事案です。
被告は大学院博士課程では原告の研究室に所属しており、原告がプロジェクトリーダーだった研究では研究協力者として研究に参画していました。

論文作成にあたってメールでのやりとりに不備があって意思疎通に欠ける場面があったり(75頁)したようではありますが、アカデミックハラスメントといえる状況での原告による被告の研究への不当干渉があったとは認められていません(105頁以下)。

指導教官としては、弟子が別の研究グループでファーストオーサー兼コレスポンディングオーサー(第1著者兼文責著者)として公表した第2論文について、自己の名前が挙げられなかったことからいわば「研究手法の盗用」との意識を強く持ったものと思われます(62頁以下)。

訴訟を受けて立つ被告側も「(原告は)実質的には何ら指導らしい指導を行わなかった」(10頁)、「(原告は)第2論文の具体的内容ではなく,自己が開拓してきた分野に他のグループが参加することに対して不快感を強く持ち,自己の関与しない第2論文が公表・掲載されていることが意に沿わないのである」(61頁)と徹底的な指導教官非難となっており、研究上の応酬ではなくて何とも残念な事態です。

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■過去のブログ記事

最近の学術論文に関連する紛争について、
共同執筆論文事件(2007年1月20日記事)
東京地裁平成19.1.18平成18(ワ)10367著作権侵害差止等請求事件
学位請求論文事件(2009年7月10日記事)
東京地裁平成21.6.25平成19(ワ)13505著作権侵害差止等請求事件

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■参考判例

脳波数理解析論文事件(野川グループ事件)
京都地裁平成2.11.28昭和60(ワ)2140損害賠償等請求事件
大阪高裁平成6.2.25平成2(ネ)2615損害賠償等請求控訴事件
地質学共同著作物事件
東京高裁平成14.11.14平成12(ネ)5964文書発行差止等,著作権侵害排除等請求控訴事件
薬理学共同研究事件
大阪地裁平成16.11.4平成15(ワ)6252損害賠償等請求事件
大阪高裁平成17.4.28平成16(ネ)3684損害賠償等請求控訴事件
工学博士学位取消請求事件
知財高裁平成17.5.25平成17(ネ)10038著作権侵害差止等請求控訴事件

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■参考文献

渋谷達紀「自然科学上の法則-「発光ダイオード論文」事件」『著作権判例百選第一版』(1987)10頁以下
小泉直樹「共同研究と共有著作-野川グループ事件」『著作権判例百選第二版』(1994)118頁以下
小泉直樹「共同研究-野川グループ事件」『著作権判例百選第三版』(2001)94頁以下
上野達弘「表現とアイデア 脳波数理解析論文事件:控訴審」『著作権判例百選第四版』(2009)4頁以下

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■参考サイト

研究プロジェクト:「PETおよびfMRIによる言語機構の解析」
平成13年度日本学術振興会未来開拓学術研究推進事業研究成果報告書概要

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2009年12月19日

パンドラTV事件− 著作権 著作権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

パンドラTV事件

東京地裁平成21.11.13平成20(ワ)21902著作権侵害差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 岡本岳
裁判官      中村恭
裁判官      鈴木和典

*裁判所サイト公表 09/12/16
*キーワード:侵害主体性、カラオケ法理、プロバイダ責任制限法、損害論

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■事案

動画投稿・共有サイトの違法主体性が争われた事案

原告:ジャスラック
被告:株式会社パンドラTV(旧商号)
    代表取締役A

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法21条、23条、114条の5、プロバイダ責任制限法3条

1 侵害行為の主体性
2 被告会社の損害賠償責任の有無
3 被告Aについての不法行為の成否
4 損害額

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■判決内容

<経緯>

H17.11.10 被告会社設立
H18.2.1   被告会社が「パンドラTV」(「TVブレイク」)サイト開設
H19.6     原告が被告に違法動画の配信停止措置を要請
H20.6     映画会社らが被告に削除要求
H20.8.6   原告提訴

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<争点>

1 侵害行為の主体性

被告会社(代表取締役A)は、動画投稿・共有サイト「パンドラTV」(その後「TVブレイク」)を開設、動画配信サービスを運営していましたが、ユーザのアップロードした動画ファイルにジャスラック(日本音楽著作権協会)が管理する音楽著作物が多数含まれていたことから、管理著作物の複製権、公衆送信権侵害性が争点となりました。

まず、外形的には複製又は送信可能化をユーザが行っていることから、被告会社が直接関与していないとして侵害主体性が争われました(39頁以下)。

この点について、裁判所は、

著作権法上の侵害主体を決するについては,当該侵害行為を物理的,外形的な観点のみから見るべきではなく,これらの観点を踏まえた上で,実態に即して,著作権を侵害する主体として責任を負わせるべき者と評価することができるか否かを法律的な観点から検討すべきである。そして,この検討に当たっては,問題とされる行為の内容・性質,侵害の過程における支配管理の程度,当該行為により生じた利益の帰属等の諸点を総合考慮し,侵害主体と目されるべき者が自らコントロール可能な行為により当該侵害結果を招来させてそこから利得を得た者として,侵害行為を直接に行う者と同視できるか否かとの点から判断すべきである。』(40頁)

として、いわゆるカラオケ法理に言及。

そのうえで、以下の諸点を検討のうえ、被告会社の侵害主体性を肯定しています。

1.本件サービスの内容・性質(40頁以下)

動画配信サイトとの対比、著作権侵害発生の蓋然性、構成の特徴などから結論として、裁判所は本件サービスが利用者に著作権侵害又は著作隣接権侵害に対する強い誘因力を働かせるものであり、著作権又は著作隣接権を侵害する事態を生じさせる蓋然性の極めて高いサービスであるといえ、その点について被告会社も認識していたと判断しています。

2.複製及び公衆送信における管理支配(47頁以下)

物理的ないし電気的な観点、システムの設計及びツールの提供、動画内容に関する積極的関与などの点から、サーバを管理支配し、専用ソフトウェアをユーザに配布するなどしているとして、被告会社が本件サービスを管理支配していると判断されています。

3.被告会社の受ける利益の状況(52頁以下)

本件サービスには、バナー広告や検索連動型広告が設置されており、被告会社がこれにより広告収入を得ているという状況を踏まえ、そのうえで、動画ファイル数と被告の利益額には相関関係があると判断しています。

4.侵害態様(53頁以下)

侵害割合、削除措置、回避措置の適用について、本件管理著作物の複製物が全カテゴリーの半分を占めており、また権利侵害防止・解消に被告は消極的な姿勢に終始しており、さらに警告だけの回避措置もほとんど有効性を期待できないと判断。

以上の結論として、被告会社は、著作権侵害行為を支配管理できる地位にありながら著作権侵害行為を誘引、招来、拡大させてこれにより利得を得る者であって、侵害行為を直接に行う者と同視できるとしてその著作権侵害主体性を認め、被告会社に対する複製又は公衆送信の差止請求を肯定しています。

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2 被告会社の損害賠償責任の有無

1.プロバイダ責任制限法3条1項の適否

被告側は、プロバイダ責任制限法3条1項の「発信者」にはユーザしかなり得ず、被告会社は「発信者」該当しないと反論しましたが、裁判所に容れられていません(63頁以下)。

2.故意過失の有無

著作権侵害行為について、少なくとも過失があると認められています(64頁以下)。

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3 被告Aについての不法行為の成否

被告A個人の不法行為責任について、被告会社が被告Aの個人会社で、A自らも自身のチャンネルの中で著作権侵害行為をしていたこと、権利者と交渉するなど本件サービスの実務を自ら中心となって担当していたことなどから、被告会社とともに著作権侵害行為の主体と評価できると判断されています(65頁以下)。

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4 損害額

使用料相当損害金について、1視聴回数当たり12円としてリクエスト回数(視聴数)を掛けた額を算定。
弁護士費用800万円とあわせて総額8993万円余を損害賠償金として認定しています(114条の5)。

なお、口頭弁論終結日翌日以降分の損害賠償金の支払いを求める将来給付の訴えについては、却下されています。

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■コメント

JASRACはこれまで「ユーチューブ(YouTube)」(グーグル)、「ニコニコ動画」(ニワンゴ)、「Yahoo!ビデオキャスト」(ヤフー)、「eyeVio」(ソニー)、「アメーバビジョン」(サイバーエージェント)、「Clip Cast」(sus4)、「zoome」(ズーミー)などの動画投稿サイトと利用許諾契約を結んでいますが(2009.11.13プレスリリースによると25サイトと契約)、利用許諾契約の前提として権利侵害防止のための一定の措置を講じることが求められています(下記の2007.7.24プレスリリース「動画投稿(共有)サービスにおける利用許諾条件について」参照)。

被告の動画投稿サービスは動画投稿サイト各社に求められている権利侵害防止のための条件をクリアせず、またA自身も無許諾で本件管理著作物をアップロードするなどしており、裁判所に『本件サービスは,本来的に著作権を侵害する蓋然性の極めて高いサービスである』(62頁)と判断されてしまっています。

被告側代理人に内藤篤先生が就いているので、十分な法律論、事実論が展開されたと期待できますが、いかんせん事案が事案だけに結論を覆すまでには至っていません。

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■参考判例

カラオケ法理について、

クラブキャッツアイ事件
最判昭和63.3.15昭和59(オ)1204音楽著作権侵害差止等
ビデオメイツ事件
最判平成13.3.2平成12(受)222著作権侵害差止等請求事件

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■参考サイト

ジャスラックプレスリリース(2009.11.13)
動画投稿(共有)サイトにおける著作権侵害 東京地裁が運営事業者に対する侵害差止めと損害賠償請求を認容
ジャスラックプレスリリース(2007.7.24)
動画投稿(共有)サービスにおける利用許諾条件について
被告会社プレスリリース(2009年12月3日)
TVbreak「ご利用ユーザーの皆様、ならびに、プレス関係者各位」

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■参考文献

日本弁理士会平成20年度コンテンツワーキンググループ「特集著作権 動画投稿サイト」『パテント』62巻9号(2009)31頁以下PDF
小島芳夫「動画投稿(共有)サイトに対するJASRACの利用許諾 」『コピライト』573号(2009)24頁以下
浜田治雄、安田和史「動画配信サイトサービスと著作権侵害」『日本大学法学部知財ジャーナル』1巻1号(2008)149頁以下

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2009年12月10日

オークションカタログ事件−著作権 損害賠償請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

オークションカタログ事件

東京地裁平成21.11.26平成21(ワ)31480損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 阿部正幸
裁判官      山門優
裁判官      舟橋伸行

*裁判所サイト公表 09/12/8
*キーワード:複製、引用、オークション、展示に伴う複製、時事の事件、権利濫用、使用料相当額、譲渡権の消尽

   --------------------

■事案

オークションの出品カタログ等に掲載された美術品の画像が著作権者の複製権等を侵害するかどうかが争われた事案

原告:現代美術作家4名
被告:美術品オークション会社

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法21条、32条、41条、47条、114条3項、改正47条の2

1 準拠法
2 引用として適法か
3 展示に伴う複製として適法か
4 時事の事件の報道のための利用として適法か
5 権利濫用の抗弁について
6 損害論

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■判決内容

<経緯>

H20     被告が有料冊子カタログ(本件冊子カタログ)を頒布
H20.10   被告が機関誌(本件パンフレット)を発行
H20.10.20 被告が東京で香港オークションの下見会開催
        被告が本件パンフレットをネット配信
H20.10.25 綴じ込みカタログ付きフリーペーパー(本件フリーペーパー)発行
H20.11.21 香港で下見会開催
H20.11.25 香港でオークション開催

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<争点>

1 準拠法

絵画等の美術作品の画像をオークション目的でカタログなどの冊子に無断掲載した行為の著作権侵害性について争点となっています。
まず、被告は準拠法について、オークション開催地の法律である香港法を適用するべきであると主張しましたが、裁判所は、各冊子が日本で頒布されていることや当事者が日本国内に住所及び本店を有していることから日本法と判断しています(法の適用に関する通則法17条 不法行為 24頁)。

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2 引用として適法か

被告は、本件フリーペーパーの綴じ込みカタログ、本件パンフレット、本件冊子カタログに原告らの美術作品(本件著作物 6点)の画像を掲載したことは、いずれも著作権法32条1項の引用にあたり適法であると主張しました。

この点について、裁判所はマッド・アマノパロディモンタージュ写真事件判決(最高裁昭和55.3.28)に言及した上で、

本件フリーペーパーの綴じ込みカタログ,本件パンフレット及び本件冊子カタログの作品紹介部分は,作者名,作品名,画材及び原寸等の箇条書きがされた文字記載とともに,本件著作物を含む本件オークション出品作品を複製した画像が掲載されたものであったことが認められるものの,この文字記載部分は,資料的事項を箇条書きしたものであるから,著作物と評価できるものとはいえない。

また,このような上記カタログ等の体裁からすれば,これらのカタログ等が出品作品の絵柄がどのようなものであるかを画像により見る者に伝えるためのものであり,作品の画像のほかに記載されている文字記載部分は作品の資料的な事項にすぎず,その表現も単に事実のみを箇条書きにしたものであることからすれば,これらカタログ等の主たる部分は作品の画像であることは明らかである。本件冊子カタログの作者紹介部分についても,文字記載部分は,単に作者の略歴を記載したものであるから,著作物とはいえず,また,作品の画像が主たる部分であると認められる。』(25頁)

として、資料的事項(文字記載部分)の著作物性の否定、主従関係の否定から引用の成立を否定しています(24頁以下)。

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3 展示に伴う複製として適法か

本件フリーペーパーの綴じ込みカタログと本件パンフレットについては、本件オークション又は下見会で本件著作物を展示するにあたって観覧者に本件著作物を紹介するために作成されたものであるとして、展示に伴う複製による権利制限(著作権法47条)として適法と被告は主張しました(26頁以下)。

この点について、裁判所は条文の趣旨から観覧する者であるか否かにかかわらず多数人に配布するものは47条の「小冊子」にあたらないと判断。
6万部発行された本件フリーペーパーや9000名の被告会員全員に配布された本件パンフレットは本条の「小冊子」には該当しないと判断しています。

   ------------------

4 時事の事件の報道のための利用として適法か

被告は、本件パンフレットへの掲載については、国内オークション会社としては史上初めて香港で開催するオークションであって、「時事の事件」を伝えるための報道にあたり、著作権法41条により適法であると主張しました。

しかし、裁判所は掲載内容から41条の適用を否定しています(27頁)。

   ------------------

5 権利濫用の抗弁について

さらに被告は、オークションカタログへの画像の無許諾使用に関する国際慣行の存在や平成21年改正(22年1月施行)の改正著作権法47条の2(美術の著作物等の譲渡等の申出に伴う複製等)の点から、原告の著作権の行使について権利濫用にあたり許されないと主張しました。

この点について、裁判所は、無許諾使用の要請の存在について一定の理解を示したものの、現行法の権利制限規定に該当しないこと、国際慣行の存在を認めるに足りる証拠がないことなどから被告の抗弁を容れていません(27頁以下)。

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6 損害論

1.本件フリーペーパーへの掲載による損害

著作権法114条3項(使用料相当額)により、1作品画像毎に各5万円と認定されています(28頁)。4名合計6点で30万円。

2.本件パンフレットについて

(1)本件パンフレットへの掲載
原告Aの作品1点が掲載された点について、著作権法114条3項(使用料相当額)により、損害を5万円と認定されています(29頁)。

(2)本件パンフレットのウェブサイトへの掲載
著作権法114条3項(使用料相当額)により、原告A主張の5万4000円と損害額を認定しています。

3.本件冊子カタログ

原告側は、損害額の算定について、印刷部数×小売価格×著作物掲載ページ数÷総ページ数×使用料率の計算式によりましたが、裁判所も著作権法114条3項(使用料相当額)に関し原告主張の損害額(各自4〜6万円)を認めています。

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■コメント

原告ら4名の著作権等を管理しているのが有限会社カイカイキキさん(15頁)ということは、原告の一人は村上隆さんかと思われます。

創業25年を経た歴史のある現代美術オークション会社が被告となった事案です。日本のオークション会社としては初のアジア進出を昨年果たしたようですが、被告オークション会社のサイトを見ると、香港オークションの様子が拝見できます。美しいガレやドームの出品作品が印象的です。

ネットオークションサイトにおけるサムネイル画像の取扱いに関する田村善之先生の見解(譲渡権の消尽の法理を潜脱するような解釈はすべきではない 後掲「コピライト」554号15頁以下)を敷衍すると、本事案のようなオークションにとって不可欠なカタログ類への作品画像の掲載は、32条1項の引用で権利制限対応する余地も解釈論として可能かもしれません。

なお、オークションにおける複製画像の取扱いについては、平成21年著作権法改正によって立法的に解決され(著作権法47条の2)、現状では平成22年1月1日の施行を前に政令、省令の整備段階(パブコメ募集中 2009年12月13日締切)となっています。
著作権法47条の2では、権利者の利益を不当に害しないための措置を政令で定めるとされていて、政令案では「画像を文部科学省令で定める基準に適合する大きさ又は精度にすること」等として省令委任事項となっています。引続き省令で具体的な内容について検討されることとなります。


話は逸れますが、オークションについては知り合いの銀座の画商さんから、「オークションはせっかく育成、形成してきた作家の価格を破壊するので困る」という話を聞いたことがあります。特に現存作家の作品についてはこうした側面が強くなるかと思います。

ヨーロッパ諸国で採用されているいわゆる追及権(著作者、および著作者の死後はその相続人が、公開競売やディーラーの仲介による販売に於いて支払われる美術の著作物の対価の一部を徴収することができる譲渡不能の権利 小川後掲論文78頁参照)の日本でのあり方も作家保護の観点から従前より審議会で検討されていますが、引続き検討すべき事柄なのかもしれません。

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■過去のブログ記事

2005年10月13日記事
公売ネットオークションの出品画像著作権侵害訴訟提訴

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■参考判例

藤田嗣治事件
東京高裁昭和60.10.17昭和59(ネ)2293
レオナール・フジタ・カタログ事件
東京地裁平成1.10.6昭和62(ワ)1744
バーンズコレクション事件
東京地裁平成10.2.20平成6(ワ)18591

ダリ展朝日新聞カタログ事件
東京地裁平成9.9.5平成3(ワ)3682(判時1621号130頁)

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■参考文献

・オークション・サイトと引用について、
田村善之「技術環境の変化に対応した著作権の制限の可能性について」『ジュリスト』1255号(2003)124頁以下
 同   「絵画のオークション・サイトへの画像の掲載と著作権法」『知財管理』56巻9号(2006)1307頁以下
 同   「著作権法32条1項の『引用』法理の現代的意義」『コピライト』554号(2007)2頁以下
 同   「検索サイトをめぐる著作権法上の諸問題(3・完)-寄与侵害、間接侵害、フェア・ユース、引用等-」『知的財産法政策学研究』18号(2007)31頁以下

・引用について、
上野達弘「引用をめぐる要件論の再構成」『半田正夫先生古稀記念論集 著作権法と民法の現代的課題』(2003)307頁以下
茶園成樹「「引用」の要件について」『コピライト』565号(2008)2頁以下
林紘一郎、名和小太郎『引用する極意 引用される極意』(2009)47頁以下

・ネットオークション利用への権利濫用の法理の適用に言及するものとして、
中山信弘『著作権法』(2007)260頁

・追及権について、
小川明子「追及権による美術の著作物保護について」『(社)著作権情報センター 第5回著作権・著作隣接権論文集』(2005)78頁以下
河島伸子「追及権をめぐる論争の再検討(1)-論争の背景、EC指令の効果と現代美術品市場」『知的財産法政策学研究』21号(2008)89頁以下
 同   「追及権をめぐる論争の再検討(2・完)-論争の背景、EC指令の効果と現代美術品市場」『知的財産法政策学研究』22号(2009)137頁以下

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■参考サイト

知的財産法政策学研究/21世紀COEプログラム:「新世代知的財産法政策学の国際拠点形成」研究プロジェクト
知的財産法政策学研究バックナンバー

Matimulog(町村泰貴先生 2009/12/09)
jugement:絵画をオークションに出しウェブ出品カタログに写真を載せたら複製権・公衆送信権侵害?

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■追記(2010.6.11)

宮脇正晴「オークションの出品カタログ等に美術品の画像を掲載する行為につき、適法引用の成立を否定した例」速報判例解説 LEX/DBインターネット TKC法律情報データベース ローライブラリーPDF
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2009年12月02日

スピーカ測定システム事件−著作権 著作権侵害差止等請求判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

スピーカ測定システム事件

東京地裁平成21.11.9平成20(ワ)21090著作権侵害差止等請求PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 清水節
裁判官      菊池絵理
裁判官      坂本三郎

*裁判所サイト公表 09/11/30

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■事案

退職従業員によるスピーカ測定システムに関する営業秘密不正利用行為性と著作権侵害性が争点となった事案

原告:音響機器製造販売会社
被告:原告元従業員

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法21条、114条3項、不正競争防止法2条1項7号

1 不正競争防止法2条1項7号該当性
2 被告ソフトウェアの著作権侵害の有無
3 原告の許諾の有無
4 差止め等の請求の可否
5 損害賠償請求の可否及びその額

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■判決内容

<経緯>

S60.1.7   被告が原告会社に入社
H16.9    原告がスピーカ測定システムを開発
H17.12.31 被告が退社
H19.1.30  被告が被告システムの販促活動

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<争点>

1 不正競争防止法2条1項7号該当性

被告元従業員は、原告会社を退職後スピーカ測定器とこれを稼働させるソフトウェア(被告システム)を販売しました。
この点について、不正競争防止法の論点に関してまず被告の製造販売行為の不正競争行為性(保有営業秘密の不正使用)として原告のスピーカ測定システムに関する情報(回路図やソースコード)が営業秘密にあたるかどうかが争点となっています(15頁以下)。
この点について裁判所は、

(1)回路図など

「原告システムに関する情報」の具体例として原告が主張する回路図を含め内容が明らかにされておらず特定されてないこと、また秘密管理性も認めるに足りる証拠はないとして、営業秘密性を否定。

(2)ソフトウェアのソースコード

「原告システムに関する情報」のうちソフトウェアのソースコードについては、著作権侵害の争点での被侵害利益と全く同一であることなどから、まず著作権侵害の有無、差止め等の範囲を検討するとして不正競争防止法の争点については判断をしていません。
結論としては、ソフトウェアのソースコードに関して著作権侵害性及びそれに基づく差止め等が認められており、不競法違反の請求については判断されていません(27頁)。

   ------------------

2 被告ソフトウェアの著作権侵害の有無

1.原告ソフトウェアの著作物性及び原告の著作権

そこで被告ソフトウェアの著作権侵害の有無について、まず、原告ソフトウェアの著作物性については、創作性(著作権法2条1項1号)があると判断されています(17頁)。そして法人著作(15条2項)の点から原告が原告ソフトウェアの著作者、著作権者であると認定されています。

2.著作権(複製権)の侵害

被告ソフトウェアが原告ソフトウェアに依拠していることが認められ、また原告ソフトウェアと被告ソフトウェアが同一又は類似していることが認められるとして著作権侵害性が肯定されています(18頁以下)。

   ------------------

3 原告の許諾の有無

被告は、スピーカ測定器を製造することを原告関係者に伝えていることや原告社員との共同開発の事実をもって、原告の許諾があったと主張しましたが、裁判所に容れられていません(20頁以下)。

   ------------------

4 差止め等の請求の可否

被告計測器については、差止め等の必要が認められませんでしたが、被告ソフトウェアについては、複製・販売の差止め及びそれを格納した記憶媒体の廃棄が認められています(著作権法112条 22頁以下)。

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5 損害賠償請求の可否及びその額

裁判所は著作権侵害について、被告に少なくとも過失があったと認めた上で損害論については、著作権法114条3項(使用料相当額)により、

被告システムの販売額160万円×1/2(被告システムにおいて被告ソフトウェアが占める価値)×実施料率5%=4万円

そして弁護士費用5万円の合計9万円を損害額と判断しています(24頁以下)。

   --------------------

■コメント

営業秘密情報の不正利用を不正競争防止法と著作権法で処理した事案です。

結論としては、ソフトウェアの無断利用が認められましたが、被告システムの販売先の一つが原告の関連会社であったり(11頁)と、提訴に至る背景事情に何かあったのかもしれません。

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2009年11月19日

「朝バナナダイエット」書籍題号事件−不正競争防止法 商標使用差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「朝バナナダイエット」書籍題号事件

東京地裁平成21.11.12平成21(ワ)657商標使用差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 阿部正幸
裁判官      柵木澄子
裁判官      舟橋伸行

*裁判所サイト公表 09/11/17
*キーワード:書籍の題号、商品等表示、使用

   --------------------

■事案

商標「朝バナナ」を題号に使用した書籍の出版行為の商標権侵害性や不正競争行為性が争点となった事案

原告:出版社
被告:出版社

原告商標「朝バナナ」(標準文字 登録番号5171201)
原告書籍「朝バナナダイエット」「もっと朝バナナダイエット」など
被告書籍「朝バナナダイエット成功のコツ40」

   --------------------

■結論

請求棄却

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■争点

条文 不正競争防止法2条1項1号、2号、商標法36条

1 商標権侵害の成否
2 不正競争防止法違反の成否

   --------------------

■判決内容


<争点>

1 商標権侵害の成否

被告が書籍の題号に原告登録商標を使用したことから、被告書籍の出版販売行為が原告の有する商標権を侵害すると原告は主張しました(18頁以下)。

この点について、裁判所は、

商標の使用が商標権の侵害行為であると認められるためには,登録商標と同一又は類似の第三者の標章が,単に形式的に指定商品又はこれに類似する商品等に表示されているだけでは足りず,その商品の出所を表示し自他商品を識別する標識としての機能を果たす態様で使用されていることを要するものと解すべきである。

とした上で、

前記1で認定したところによれば,被告書籍の内容は,「朝バナナダイエット」というダイエット方法を実行し,ダイエットに成功するために,著者が成功の秘訣と考える事項を40項目挙げるというものであり,題号の表示も,被告書籍に接した読者において,書籍の題号が表示されていると認識するものと考えられる箇所に,題号の表示として不自然な印象を与えるとはいえない表示を用いて記載されているといえる。

そうすると,被告書籍に接した読者は,「朝バナナ」を含む被告書籍の題号の表示を,被告書籍が「朝バナナダイエット」というダイエット方法を行ってダイエットに成功するための秘訣が記述された書籍であることを示す表示であると理解するものと解される。

結論として、

被告書籍のカバーや表紙等における被告標章の表示は,被告標章を,単に書籍の内容を示す題号の一部として表示したものであるにすぎず,自他商品識別機能ないし出所表示機能を有する態様で使用されていると認めることはできないから,本件商標権を侵害するものであるとはいえない。

商標権侵害性を否定しています。

   ------------------

2 不正競争防止法違反の成否

原告はさらに被告書籍の出版販売行為について、商品等主体混同惹起行為性(不正競争防止法2条1項1号)と著名表示冒用行為性(2条1項2号)を争点としました(20頁以下)。

この点について、裁判所は、

自己の商品表示中に,他人の商品等表示が含まれていたとしても,その表示の態様からみて,専ら,商品の内容・特徴等を叙述,表現するために用いられたにすぎない場合には,他人の商品等表示と同一又は類似のものを使用したと評価することはできない。

とした上で、被告標章を含む被告書籍の題号は、専ら被告書籍の内容を表現するために用いられたものであると判断。

結論として、他人の商品等表示の使用行為に当たらず、1号と2号の成立を否定しています。

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■コメント

書籍の題号での標章の使用が商品等表示の使用に当たらないとされた事例です。最近では、「時効の管理」法律書籍事件が記憶に新しいところです。
「商品等表示の使用」の判断にあたっては、不正競争防止法でも商標法での観点と同様、自他識別・出所表示機能を有する態様での使用かどうかが実質的には考慮されることとなります(後掲ペレッタM93R事件参照)。

もっとも、不正競争防止法2条1項1号では「混同」のおそれを具体的に吟味できるので、商標的使用の例外法理の発展をみる商標法とは区別して考えるべきとの指摘について、田村後掲不正競争法概説96頁参照。

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■過去のブログ記事

・トレーニング理論名と不正競争行為性
2006年4月30日記事
「初動負荷トレーニング理論名」著作権事件(控訴審)
原審参照(大阪地裁平成17.7.12平成16(ワ)5130)
・書籍の題号と不正競争行為性
2008年5月31日記事
「時効の管理」法律実務書事件
2008年10月24日記事
控訴審
・アニメ映画の題号と不正競争行為性
2005年11月4日記事
マクロス事件控訴審

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■参考判例

・模型での標章の使用について、
ペレッタM93R事件
東京地裁平成12.6.29平成10(ワ)21507損害賠償等請求事件

書籍の題号での標章の使用について、
デール・カーネギー事件
東京高裁平成14.2.28平成12(ネ)5295損害賠償等請求控訴事件
脱ゴーマニズム宣言事件
東京地裁平成11.8.31平成9(ワ)27869著作権侵害差止等請求事件
スイングジャーナル事件
東京地裁平成11.2.19(後掲新注解185頁以下参照)

著作物の題号と商標法について、
POS実践マニュアル事件
東京地裁昭和63.9.16昭和62(ワ)9572

   --------------------

■参考文献

田村善之『不正競争法概説第2版』(2003)94頁以下
創作物の題号と商標法について、
田村善之『商標法概説第2版』(2000)229頁以下
書籍の題号、映画・番組タイトルと商品等表示性について、
小野昌延編著『新注解不正競争防止法新版上巻』(2007)184頁以下、342頁以下、414頁以下

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■参考サイト

朝バナナダイエットオフィシャルサイト
「朝バナナダイエット」ぶんか社公式サイト
朝バナナダイエット成功のコツ40 データハウス

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■追記09.12.01

名古屋の商標亭(廣田先生)
2009年12月1日記事
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2009年11月18日

貸金業顧客名簿営業秘密事件−不正競争防止法 損害賠償請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

貸金業顧客名簿営業秘密事件

東京地裁平成21.10.30平成21(ワ)4767損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 岡本岳
裁判官      中村恭
裁判官      鈴木和典

*裁判所サイト公表 09/11/16
*キーワード:営業秘密、使用、開示、損害

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■事案

貸金業での退職幹部職員による顧客名簿使用の不正競争行為性が争われた事案

原告:貸金業会社
被告:貸金業会社
    同社代表取締役A

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 不正競争防止法2条1項7号、8号

1 被告Aに関する7号不正競争の成否
2 被告会社に関する8号不正競争の成否

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■判決内容

<経緯>

H15.9    被告Aらがクレディア入社
H18.12.25 被告会社設立
H19.4.6   被告Aが被告会社の代表取締役就任
H19.6〜   クレディアの顧客が被告会社等に借換え
H19.9.21  クレディアが民事再生手続開始決定
H20.10.1  原告がクレディアの権利を吸収分割契約により承継

   ------------------

<争点>

1 被告Aに関する7号不正競争の成否

被告Aが幹部職員として在職中に会社が営業秘密として保有していた顧客名簿(融資先会員情報と契約書面、顧客台帳)の開示をうけ、これを退職後被告会社への借換え(期限前弁済と被告会社による融資)に使用したとして被告Aの不正競争行為性(不正競争防止法2条1項7号:保有営業秘密の不正使用・開示行為)が争点となりました。

結論としては、営業秘密情報の特定や使用行為や開示行為の特定がされていないとして7号の成立が否定されています(11頁)。

   ------------------

2 被告会社に関する8号不正競争の成否

次に、被告会社は被告Aが代表取締役であるとして、被告Aに7号が成立すれば不正競争防止法2条1項8号(不正開示行為の悪意者の使用・開示行為)が被告会社に成立すると原告は主張しました。
しかし、被告Aの行為について7号が不成立とされたので、被告会社の行為の8号の成立も認められていません(12頁)。

   --------------------

■コメント

転職を契機に従来の顧客への営業と借換え成功が問題となった事案です。
「専ら個人的人脈に基づき貸付業務を行っていた」(11頁)被告Aの属人的・自己開発的な情報の利用は、競業避止契約などがあれば別ですが、不正競争防止法2条1項7号の営業秘密保護規定ではカバーしきれない(「示された」要件や図利加害目的の充足性、借換えによる損害の認定のハードルの高さもあります)部分です。

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■参考文献

田村善之「不正競争法概説第2版」(2003)342頁以下
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2009年11月10日

環境童話著作権事件−著作権 著作権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−


最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

環境童話著作権事件

大阪地裁平成21.10.22平成19(ワ)15259著作権侵害差止等請求事件PDF

大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官 山田陽三
裁判官      達野ゆき
裁判官      北岡裕章

*裁判所サイト公表 09/11/6
*キーワード 著作者、共同著作物、二次的著作物

   --------------------

■事案

原画への着色作業により制作された環境童話絵本(漫画)の共同著作物性や二次的著作物性が争点となった事案

原告:イラストレーター
被告:亡小学生の両親、出版社、新聞社

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項11号、12号、民法709条

1 童話絵本は原告とP4の共同著作物となるか
2 童話絵本の二次的著作物性
3 人格権、名誉権、肖像権の侵害の有無

   --------------------

■判決内容

<経緯>

H3.12.25 小学生P4が絵本の線画(原画)を完成
H3.12.27 P4死亡
H4.2    被告夫妻(P4両親P2,3)がP4ノートを作成、学校に配布
H4.5    P4ノートの英語版作成
       地球環境平和財団が日本語版制作
H5.5    P4が国連環境計画から受賞
H16.9   被告出版社が原告P1に着色作業を依頼
       原告P1と被告夫婦が着色業務請負契約を締結
H16.10.13 着色作業開始
H16.10.19 着色作業完成
H16.11  被告出版社がプレスリリース発表
H16.12.6 被告新聞社に記事が掲載
       原告P1が被告側に問い合わせ
H16.12  原告P1が抗議
H16.12.25 書籍出版
       環境日めくりカレンダー製作、販売

文化社版書籍奥付:「著者 P4」「制作・監修 P2」

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<争点>

1 童話絵本は原告とP4の共同著作物となるか

原画を制作して亡くなったP4の両親(被告P2,3)から依頼を受けて原画への着色業務を請け負った原告イラストレーターは、出版された童話絵本(文化社版)の共同著作物性あるいは二次的著作物性を根拠に文化社版出版物等の販売差止や損害賠償を請求しました。

まず、出版された童話絵本の共同著作物性については、原画の著作者P4は既に死亡しており、P4と原告との間における共同製作の意思の共通を認める事情は見あたらない、として裁判所は共同著作物性を否定しています(33頁)。

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2 童話絵本の二次的著作物性

次に、童話絵本の二次的著作物性(著作権法2条1項11号)が争点とされています。
文化社版の出版より以前に原画の彩色版である英語版や地球環境平和財団版(財団版)が存在したことから、文化社版の創作性の有無について、原告の着色行為によって財団版に対して創作性が新たに付加されたかどうかが検討されています(33頁以下)。

(1)表紙における相違点
(2)本編における相違点
(3)画材の選択により得られる効果
(4)被告P2の指示の内容

裁判所は、これら諸点について財団版と文化社版を詳細に比較検討。

画材の選択や技法の選択(による効果)に原告の個性を感じることはできない、ごくありふれた表現である、被告P2は着色作業を原告の裁量に委ねていたわけではない、などとして、裁判所は新たな創作性の付加を否定しています。

結論として、原告の著作権、著作者人格権に基づく主張は裁判所に認められませんでした。

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3 人格権、名誉権、肖像権の侵害の有無

被告出版社の広告宣伝文(「ご案内」)に原告を「アシスタント」と記載し配布した点などが、プロのイラストレーターである原告の人格権や名誉権を侵害する、また写真の無断使用が肖像権を侵害すると原告は主張しました。
しかし、いずれの点も裁判所に容れられていません(51頁以下)。

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■コメント

12歳で亡くなった坪田愛華さんの環境童話絵本「地球の秘密」。没後、国連環境計画(UNEP)「国連グローバル500賞」受賞作品ともなったこの作品を巡って、制作に携わったイラストレーターと遺族との間で著作権紛争となってしまっています。

著作物が共同著作物(著作権法2条1項12号)となるためには、各著作者間に一つの著作物を創作するという「共同意思」が必要とされ、この共同意思については、主観的な共同意思を要求する見解と外形的客観的に判断すれば足りるとする見解がありますが(中山信弘「著作権法」(2007)167頁、田村善之「著作権法概説第二版」(2001)370頁以下参照)、客観的判断説(半田正夫「著作権法概説第14版」(2009)57頁以下)に立っても本件では後行者による創作性が否定されているので著作権法に係わる争点についての請求棄却の結論に違いはないと考えられます。
本件では、彩色行為により著作物への新たな創作性の付与があったかどうか、二次的著作物性(同項11号)の成否の判断部分が参考になるところです(江差追分事件最判H13.6.28、ポパイネクタイ事件最判H9.7.17参照)。

ところで、編集プロダクションの知人に判決の感想を聞くと、「過去に新風舎の仕事で亡くなった子供の遺作の装丁とレイアウトデザイン、未完成部分の彩色作業を担当したことがあるが、自分の作業で著作権が生じるとは全く考えもしなかった。今回の事案では当事者間に余程のことがあったのではないか」と。
また、工芸作家の知人も、「判決文全文を読んだが、裏の事情は分からないが、このイラストレーターはプロという自負だけが強い」という印象を持ったようです。

夭折した愛娘の作品で社会的に意義のある内容だから、と被告側が「美談」のストーリー(「ご案内」参照31頁)を作ったりして書籍、カレンダー、キャラクター展開などの制作、出版、広告宣伝で彩色担当のイラストレーターに対して配慮に欠ける対応(判決文からは伺えない部分も含めて)があるいはあったのかもしれません。

しかしそれでも、訴訟をしてまで白黒付ける内容だったのか(本人訴訟)、書籍の二次的著作物性を主張すれば行き着くところ、印税の要求に繋がってしまうわけで、実際、イラストレーターは10万部販売された書籍の印税の半分(書籍:定価×10万部×10%×1/2=735万円)などをこの訴訟で請求しています。

先の知人らのように制作現場の感覚からして、原告イラストレーターが彩色業務を受託した当初からそこまで権利・利益を意識していたのか、どうか。

いずれにしても結果としては(控訴審の判断は残りますが)、「アースくん」キャラクターを含め今後も愛華さんひとりの作品(ご母堂の監修はありますが)として広く公表することができるので、応訴の負担はあったものの権利関係が明確になったことはご両親にはせめてもの慰めとなりそうです。

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■参考サイト

出版文化社ウェブサイト
地球の秘密 Secrets of The Earth
「アースくん」キャラクター
「地球の秘密」AIKAEye公式ページ

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■参考文献

島並良、上野達弘、横山久芳『著作権法入門』(2009)75頁以下


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2009年11月08日

FX自動売買プログラムリバースエンジニアリング事件−著作権 損害賠償請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

FX自動売買プログラムリバースエンジニアリング事件

大阪地裁平成21.10.15平成19(ワ)16747損害賠償請求事件PDF

大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官 山田陽三
裁判官      達野ゆき
裁判官      北岡裕章

*裁判所サイト公表 09/11/6
*キーワード:複製、翻案、権利の濫用、リバースエンジニアリング

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■事案

外国為替証拠金取引(FX取引)用トレーディングソフトウェア関連のプログラム(自動売買プログラム)の複製・翻案行為(リバースエンジニアリング)の違法性が争点となった事案

原告:コンピュータプログラム開発業者
被告:プログラマーら

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法21条、民法1条3項

1 被告プログラムが頒布されたか
2 被告P3による被告プログラム作成行為の違法性

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■判決内容

<経緯>

H17.10  原告と被告P2がプログラム開発計画
H18.6   「おじゃるデブシステム」作成
H18.11.1 株式会社おじゃる設立、プログラム販売開始
H19.2.24 被告P3が「スイングおじゃるP3版」作成、試作品提供
H19.5.18 原告がP2らに「おじゃるデブ」のソースコードを開示
H19.6.23 「スイングおじゃる原告版」(本件プログラム2)作成、販売
 ----    P3が本件プログラム2を複製翻案して被告プログラム作成
H19.10.18 被告P2,P3,P4が株式会社津福コーポレーション設立
       「IDトレードシステム」販売開始
H19.12.7 ヒカリ社設立(代表取締役P4)
H20.1   ヒカリ社が「STI FX」販売開始
H20.4.30 津福社、ヒカリ社解散

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<争点>

1 被告プログラムが頒布されたか

原告は、『被告P3が原告の著作物である本件各プログラムを無断で改変して被告プログラムを作成し,本件各プログラムに係る原告の著作権(複製権,翻案権)を侵害し,被告P2及び被告P4が,被告プログラムを原告の著作権を侵害する行為によって作成されたプログラムであるとを知りながら,これを頒布し又は頒布目的で所持したことにより原告の著作権を侵害した(著作権法113条1項2号)と主張して,不法行為(民法709条,719条)に基づく損害賠償』(4頁)を請求しました。

各当事者の主張としては、各プログラムの創作性や著作者性などが争点として挙げられていますが、裁判所は、まず被告プログラムが頒布されたかどうかを検討しています。

結論としては、被告らが被告プログラムを第三者に頒布した、あるいは頒布目的でこれを所持していたと認めることはできないと判断されています(19頁以下)。

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2 被告P3による被告プログラム作成行為の違法性

被告プログラムは、本件プログラム2(「スイングおじゃる原告版」)に依拠して被告P3が複製又は翻案したことが裁判所によって認定されていますが、それでもなお被告P3のプログラム作成行為に関する原告の主張を封することができるかどうかが検討されています(21頁以下)。

この点について、被告らは、『被告プログラムはユーザーに頒布する製品として作成されものではなく,開発に先立つ,研究・分析の途上にて一時的に作成されたものであり,原告の著作権を侵害しない』として、リバースエンジニアリングの抗弁を主張。さらに、法人ではなくP3個人を被告とすることは権利の濫用にあたるとP3は主張しました。

この点について、裁判所は、

(1)FX取引でより多くの利益を獲得できるプログラムを作成するため、各トレードごとの成績を個別に検証し、適切なパラメータ設定を探ることのみを被告プログラムの作成目的としている
(2)本件プログラム2の作成経緯
(3)被告プログラムが第三者に開示も頒布もされていない

これらの事情を総合すれば、被告の複製・翻案行為のみを理由として原告が著作権侵害を主張し、損害賠償を請求することは権利の濫用(民法1条3項)にあたる。

として、結論としては、原告の請求を容れませんでした。

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■コメント

被告らによるプログラムの複製・翻案行為について、原告の著作権の行使(損害賠償請求)を権利の濫用(民法1条3項)として許さなかった事例です。被告によるリバースエンジニアリングの抗弁が認められた結果となりました。
著作権法にフェアユース規定があればそれによることができたかもしれませんが、民法の一般規定である権利濫用規定(民法1条3項)で処理されています。

なお、2009年著作権法改正(2010年1月1日施行)では、リバースエンジニアリング適法化のための個別規定は盛り込まれませんでした。

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■過去のブログ記事

リバースエンジニアリングが係わる事案について、「Addetto事件」東京地裁平成18.2.10平成16(ワ)14468参照。
リバースエンジニアリング著作権侵害事件(2006年2月13日記事)

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■参考文献

中山信弘『ソフトウェアの法的保護(新版)』(1988)127頁以下
 同    『著作権法』(2007)104頁以下
作花文雄『著作権法講座第2版』(2008)420頁以下、446頁以下
田村善之『著作権法概説第二版』(2001)197頁以下

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■参考判例

MS対秀和システム社事件
東京地裁昭和62.1.30昭和57(ワ)14001PDF

傍論として権利濫用を認める判例として、キューピー事件(原審)
東京地裁平成11.11.17著作権侵害差止等請求事件判決(判時1704号134頁以下)
東京地裁平成11年11月17日平成10(ワ)13236
東京地裁平成11年11月17日平成10(ワ)16389

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■参考サイト

(平成20年8月20日)文化庁文化審議会著作権分科会法制問題小委員会(第7回)議事録
「リバース・エンジニアリングに係る法的課題についての論点」(資料1)参照
(平成21年1月16日)文化審議会著作権分科会法制問題小委員会(第11回)議事録
「文化審議会著作権分科会法制問題小委員会平成19・20年度・報告書(案)」参照
(平成21年8月25日)文化審議会著作権分科会法制問題小委員会(第4回)議事録

知的財産推進計画2008PDF
「リバース・エンジニアリングに係る法的課題を解決する」
知的財産推進計画2009PDF
「権利制限の一般規定(日本版フェアユース規定)を導入する」

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2009年11月06日

GLAY著作権事件−著作権 著作権確認等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

GLAY著作権事件

東京地裁平成21.10.22平成19(ワ)28131著作権確認等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 阿部正幸
裁判官      柵木澄子
裁判官      舟橋伸行

*裁判所サイト公表 09/11/5
*キーワード:著作権譲渡契約、弁済の提供、解除、印税、短期消滅時効

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■事案

音楽著作権印税支払い遅延を理由とする著作権譲渡契約の解除の成否及び音楽著作権の帰属などが争点となった事案

原告:GLAYメンバーの音楽事務所、音楽出版社ら
被告:元専属音楽出版社

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 民法541条、704条、493条但書、174条2号

1 著作権譲渡契約の解除の成否

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■判決内容

<経緯>

GLAYメンバー:B、C、D、E 4名

H8.10.4  原告エクストリーム設立、Bの版権管理業務開始
H9.11.25 原告ストロー設立、Eの版権管理業務開始
H9.12.11 原告パイロッツ設立、Cの版権管理業務開始
H10.2.16 原告スパイク設立、Dの版権管理業務開始
H10.6.1  GLAYメンバーと被告が専属契約締結
H16.1.9  原告エクストリームが被告に9億円を貸付
H16.9.1  被告が原告エクストリームに原盤権へ譲渡担保権設定
H17.5   被告が印税支払い遅延
H17.5.30 「GLAYに関する原盤等権利の譲渡契約書」締結
H17.5.31 専属契約終了
H17.6.1  被告が原告エクストリームに原盤権一切を譲渡
H17.7.13 原被告間で精算の打ち合わせ
H17.10.18 原告らが被告に支払いの催告
H17.10.20 原告ラバーソウル設立
        原告ラバーソウルと原告らがマネジメント業務委託契約
H17.11.7 被告が5億4429万円余の受領催告
        GLAYメンバーらが原告らに著作権譲渡、原告らが原告ラバーソウルに著作権譲渡
H17.11.9 GLAYメンバーらが著作権譲渡契約の解除意思表示

<契約関係>

【専属契約】
専属料50万円
出演料、商品化許諾料等20%

【著作権譲渡契約書】
著作権印税割合 原告:被告=2/3:1/3

【合意内容】
著作権印税配分 作曲5/16(実際の作曲者)、その他のメンバー1/16
            作詞5/16(実際の作詞者)、その他のメンバー1/16

【原盤契約】
原告エクストリーム原盤印税:
小売価格×倉庫出荷数量80%×ジャケット代控除率15%×原盤印税率15%

【GLAYに関する原盤等権利の譲渡契約書 第1条】
甲(判決注・被告)は,乙(判決注・原告エクストリーム)に対し,平成17年6月1日(以下「基準日」という)付をもって,甲が所有する同年3月末日までに制作し完成された「GLAY」(以下「本アーティスト」という)の日本を含む全世界における,原盤および原版(以下,併せて「原盤等」という。),本件原盤等に係るすべての権利(複製権,譲渡権,頒布権,上演権,上映権,送信可能化権,著作隣接権,二次使用料請求権,貸与報酬請求権,私的録音録画補償金請求権を含む著作権法上の一切権利,所有権を含む)ならびに,本アーティストに関する商標権,知的財産権,及び商品化権を含む一切の権利(以上について,以下「本件権利」という。)を完全に譲渡し,甲は,本件原盤等の所有権及び本件権利を喪失するものとする。

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<争点>

1 著作権譲渡契約の解除の成否

音楽著作権がGLAYメンバー(作詞、作曲)→GLAYメンバーの原告音楽事務所ら→原告ラバーソウル(現在の音楽出版社)という流れで移転し、現状で原告ラバーソウルに帰属していることの確認の前提として、GLAYメンバーらと被告音楽出版社との間の従前の著作権譲渡契約が有効に解除され、音楽著作権がGLAYメンバーに帰属していたかどうかが争点となっています。

楽曲の著作権譲渡契約の解除については、約定の支払期限が経過し、債務(印税)の提供がなく、催告の上解除の意思表示がされていることから有効に解除は成立。そして、著作権譲渡契約の規定(19条、21条)に基づき音楽著作権がGLAYメンバーに帰属したと裁判所は判断しています(32頁以下)。

結論として、原告ラバーソウルの著作権帰属の確認請求を認容、金銭債権についても合計6億7097万円余を認めています。

なお、履行遅滞や解除に対する被告の抗弁として、

(1)弁済の提供(民法492条、493条但書)があったこと
(2)解除権の濫用(民法1条3項)であること
(3)消滅時効(労働基準法115条)「賃金」2年間で短期時効消滅
(4)消滅時効(民法174条2号)「演芸を業とする者の報酬」等1年間で短期時効消滅

これらの点を挙げましたが、いずれも裁判所に容れられていません(34頁以下)。

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■コメント

音楽アーティストさんが専属事務所や専属出版社から離れる場合、出版権(音楽著作権)と原盤権(著作隣接権)を全てアーティストさん側が回収する場合と、それらの権利(一部又は全部)を残したまま移籍する場合など様々なケースがあるかと思います。
契約途中で出版権もアーテストさん側に取り戻すとなると、それこそ出版社側とハードな交渉(移籍料なども含め)になると想像するに難くないところです。

ところで、専属契約上の債務不履行を根拠に解除をした場合は、音楽著作権譲渡契約への影響(牽連性)やどこまで権利を回復できるか(解除の効果)、アーティストさんと専属先との最初の契約書内容がそれこそ肝心となります。

もっとも、GLAY事件では、印税支払い遅延があって、音楽著作権譲渡契約書(19条-契約違反-、21条-契約終了後の著作権の帰属-の規定振りから、たぶん、MPAフォーム利用)に基づく債務不履行解除をしたというシンプルな事案ですので、契約論としては(抗弁事由はともかくとして)あまり複雑ではありません。
インディーレーベルで、契約書がなかったり、専属契約と著作権譲渡契約と原盤契約がごちゃまぜになっている契約書があるときの移籍や解除、合意解約が要注意となります。

なお、GLAY事件の交渉の過程で作成された「GLAYに関する原盤等権利の譲渡契約書」に関して、その記載内容が争点となってしまっていますが(被告の抗弁-解除権の濫用-35頁以下)、被告からの原案提案とはいえ(24頁)、合意文書として著作権(楽曲)と著作隣接権(原盤)を区別して明記できなかったのか、ちょっと判然としないところです。

本判決の実務上参考になる点としては、金銭債権の消滅時効に関連して専属契約上の報酬が「賃金」にあたらない事例であったこと(GLAYの労働者性否定)、専属報酬、著作権印税、原盤印税などの金銭債権が短期消滅時効(1年間)にかからない性質の債権(商事債権で5年)であるとの判断が挙げられるかと思います。

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■過去のブログ記事

2006年8月10日記事
GLAY楽曲著作権紛争

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■参考サイト

GLAY HAPPY SWING SPACE SITE(音が出るので注意)

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2009年10月30日

中国ドラマ「苦菜花」スカパー事件(控訴審)−著作権 損害賠償等請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

中国ドラマ「苦菜花」スカパー事件(控訴審)

知財高裁平成21.10.28平成21(ネ)10044損害賠償等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官      大須賀滋
裁判官      齊木教朗

*裁判所サイト公表 09/10/28

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■事案

テレビ番組の著作権の移転に関する対抗要件の要否や通信衛星放送会社の注意義務違反性が争点となった事案の控訴審

原告(控訴人兼被控訴人):放送事業者(中国法人)
被告(被控訴人)      :スカパーJSAT株式会社
被告(被控訴人兼控訴人):衛星テレビ専門会社

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法23条、民法709条

1 スカパーの本件ドラマの放送に係る事前調査確認義務等違反の有無

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■判決内容

<争点>

1 スカパーの本件ドラマの放送に係る事前調査確認義務等違反の有無

権利処理がされていないドラマ番組を放送した場合の衛星放送会社(スカパー)の事前調査確認義務、無断放送防止義務違反性が原審に引続き争点とされています。

この点について、控訴審でも被告スカパーの業務が、
(1)放送番組の制作、編集等に関与することが想定されていない
(2)瞬時かつ機械的に処理してリアルタイムでそのまま伝達している
といったことから、

上記のような受託事業を実施している被告スカパーは,著作権者等(著作権等と主張する者を含む。)から,相当な期間を置いた上,個別的具体的な放送番組の内容(全部又は一部)について著作権侵害のおそれがある旨,しかるべき根拠を示した資料等に基づいて指摘,通知又は警告等がされたような場合はさておき,そのような特段の事情がない限り,電気通信役務利用放送事業者が本件CS放送サービスを通じて提供する個々の放送番組の内容等について,あらかじめ,個別具体的かつ直接的に把握した上で,当該放送番組に第三者の有する著作権の侵害があるか否かを調査確認する注意義務を負うことはないものと解するのが相当である。
(12頁以下)

としたうえで、本件では上記のような特段の事情はないとして、被告スカパーに事前調査確認義務違反、無断放送防止義務違反の過失があると認めることができないと判断しています。

結論として、原審同様被告スカパーの責任は認められず、被告スカパーに番組を提供した被告衛星テレビ専門会社の著作権侵害に関して、本件ドラマの放送の差止、損害賠償(135万円)が認められるに留まっています。

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■コメント

原審の結論が維持されています。
原告側は、スカパーの衛星放送事業者としての責任を強く求めましたが、控訴審でも認められない結果となりました。

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■過去のブログ記事

2009年5月8日記事
中国ドラマ「苦菜花」スカパー事件

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■追記2011.5.22

嶋 拓哉「日本における中国著作権侵害に関する準拠法について −テレビドラマ「苦菜花」事件−」『知的財産法政策学研究』(2010)31号277頁以下
論文PDF
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2009年10月10日

モダンタイムス格安DVD事件(上告審)−著作権 著作権侵害差止等請求事件判決(最高裁判所判例集)−

最高裁判所HP 最高裁判所判例集より

モダンタイムス格安DVD事件(上告審)

最高裁平成20.10.8平成20(受)889著作権侵害差止等請求事件PDF

裁判長裁判官 宮川光治
裁判官      甲斐中辰夫
裁判官      涌井紀夫
裁判官      櫻井龍子
裁判官      金築誠志

*裁判所サイト公表 09/10/08

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■事案

チャップリン『モダンタイムス』『独裁者』などの映画作品の保護期間をめぐり映画の著作者がチャップリンなのか映画会社であるのかが争われた事案の上告審

原告(被上告人):チャップリン映画管理会社
被告(上告人) :映像ソフト企画製造販売会社ら

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■結論

上告棄却

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■争点

条文 著作権法第2条1項2号、21条、26条、旧法3条、6条

1 著作権存続期間満了の有無

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■判決内容

判決要旨

著作者が自然人である著作物の旧著作権法による著作権の存続期間は,当該自然人が著作者である旨がその実名をもって表示され,著作物が公表された場合には,団体の著作名義の表示があったとしても,著作者の死亡の時点を基準に定められる』(裁判要旨より)

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<争点>

1 著作権存続期間満了の有無

チャップリンの9つの作品は、いずれも昭和45年改正法(昭和45年法律第48号)施行前に公表された著作物でしたので、旧法の適用関係が争点となりました。
格安DVD制作会社ら(被告)は、本件各映画が団体の著作名義をもって公表されたものであるとして旧法6条(保護期間−団体著作物)の適用により存続期間が満了して本件各映画の著作権は消滅していると主張していました。

この点について、最高裁判所第一小法廷は、チャップリンがその全体的形成に創作的に寄与したとして本件各映画の著作者であるとしたうえで

著作者が自然人である著作物の旧法による著作権の存続期間については,当該自然人が著作者である旨がその実名をもって表示され,当該著作物が公表された場合には,それにより当該著作者の死亡の時点を把握することができる以上,仮に団体の著作名義の表示があったとしても,旧法6条ではなく旧法3条が適用され,上記時点を基準に定められると解するのが相当である。

とし、

本件各映画は,自然人であるチャップリンを著作者とする独創性を有する著作物であるところ,上記事実関係によれば,本件各映画には,それぞれチャップリンの原作に基づき同人が監督等をしたことが表示されているというのであるから,本件各映画は,自然人であるチャップリンが著作者である旨が実名をもって表示されて公表されたものとして,その旧法による著作権の存続期間については,旧法6条ではなく,旧法3条1項が適用されるというべきである。団体を著作者とする旨の登録がされていることや映画の映像上団体が著作権者である旨が表示されていることは,上記結論を左右しない。

として、6条ではなく、3条(保護期間−生前公表著作物)が適用されると判断。

結論として、本件各映画の著作権は、その存続期間の満了により消滅したということはできないとして、同旨の原審の判断を是認しています。

なお、映画「シェーン」最高裁判決との整合性については、

所論引用の最高裁平成19年(受)第1105号同年12月18日第三小法廷判決・民集61巻9号3460頁は,自然人が著作者である旨がその実名をもって表示されたことを前提とするものではなく,旧法6条の適用がある著作物であることを前提として平成15年法律第85号附則2条の適用について判示したものにすぎないから,本件に適切でない。論旨は採用することができない。

として整合するものとしています。

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■コメント

2009年10月8日同日に第一小法廷から黒澤明監督作品「姿三四郎」「羅生門」などにかかわる東宝、松竹、角川の3社の差止訴訟についても上告棄却決定の判断が出たとの報道がありました(日経ネット09/10/8 19:10)。

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■過去のブログ記事

原審
『モダンタイムス』格安DVD事件(控訴審)

その他の差止請求事件(控訴審)
対角川
対東宝(*判決文PDF)
対松竹

シェーン最高裁判決(最高裁判所第三小法廷平成19.12.18平成19(受)1105)
『シェーン』著作権保護期間満了事件(上告審)


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■参考文献

吉田正夫・狩野雅澄「旧著作権法下の映画著作物の著作者の意義と保護期間-チャップリン映画DVD無断複製頒布事件及び黒澤映画DVD無断頒布事件の知財高裁判決-」『コピライト』(2009)573号30頁以下

旧著作権法における職務著作(旧6条の位置付け)について、
前田哲男「龍渓書舎(国の著作物)」『小野昌延先生喜寿記念 知的財産法最高裁判例評釈大系3』(2009)100頁以下
小松陽一郎「映画「ライムライト」等の保護期間が,旧著作権法の適用により満了していないとされた事例」『知財管理』59巻8号(2009)1035頁以下

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■追記09/10/13

企業法務戦士の雑感(2009.10.12記事)
企業法務][知財]チャップリン&黒沢明・格安DVD販売訴訟決着。
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2009年10月08日

太陽光発電システム営業誹謗事件−不正競争防止法 損害賠償請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

太陽光発電システム営業誹謗事件

東京地裁平成21.9.17平成20(ワ)6050損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官      大西勝滋
裁判官      関根澄子

*裁判所サイト公表 09/10/6

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■事案

太陽光発電システムの販売にあたり退職従業員がモニター商法、詐欺的な商法などと元の会社の営業を誹謗したかどうかが争われた事案

原告:太陽光発電システム販売施工会社
被告:住宅リフォーム会社
    販売代理業者ら

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 不正競争防止法2条1項14号、民法709条、715条

1 被告A,Bによる虚偽事実告知の有無
2 被告A,Bによる不正競争又は不法行為の成否
3 被告会社の不正競争、使用者責任等の成否

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■判決内容

<経緯>

H12.4    被告Bが原告会社に入社
H18.5    被告Aが原告会社に入社
H19.5.22  被告A,Bが被告会社と取引基本契約を締結
H19.6    被告Bが原告会社を退社
H19.9    被告Aが原告会社を退社
H19.11.21 原告が被告会社に警告書通知
H20.3.6   原告が提訴

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<争点>

1 被告A,Bによる虚偽事実告知の有無

原告会社を退職した被告A,Bは同業の被告会社と取引基本契約(販売代理店契約)を締結のうえ営業活動を行っていました。
被告らが営業した際に原告の顧客に対して原告の販売方法が「モニター商法、詐欺的な商法」であると言ったかどうか、虚偽事実告知性(不正競争防止法2条1項14号該当性)の有無が争点となっています。

 1.原告がモニター商法、詐欺的な商法をしていると被告らは言ったか

まず、被告A,Bが原告の顧客を訪問した際に交付したメモや発言が原告の販売方法を詐欺的な商法を意味する「モニター商法」と言ったかどうかについて、裁判所は結論としてこれを否定しています(28頁以下)。

 2.原告の販売価格は高いとの点について

次に、被告らが原告の顧客に対して「原告の販売価格は高い(普通は340万円位)」旨述べた点の虚偽事実告知性が争点となっています(32頁以下)。
この点について裁判所は、同種他社商品の販売価格なども踏まえ、被告Bの説明が一応裏付けのあるものといえると判断。原告の販売価格(401万円)は高いという趣旨のことを述べたことが虚偽事実の告知にはあたらないとしています。

 3.原告が顧客に示した太陽光発電システムの発電量には嘘があるとの点について

原告が顧客に言った「1万6000円は売れる」との話を被告が聞いて、4000円位しか売電できないことを顧客に対して説明した点について、裁判所は売電量に関する原告の説明が実際と異なることを説明したにすぎないとして、虚偽事実の告知にはあたらないと判断しています(34頁以下)。

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2 被告A,Bによる不正競争又は不法行為の成否

 1.不正競争行為性

争点1の結論として、被告A,Bの不正競争行為性(虚偽事実告知行為性 不正競争防止法2条1項14号)について否定されています(36頁以下)。

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 2.一般不法行為性

被告A,Bが原告会社に在籍中に知った原告の販売先をわざわざ訪ねた上、虚偽事実を告知したり顧客の不信感や不安感を煽り、原告に苦情を申し入れるように仕向けたとして、原告に対する営業妨害行為として不法行為(民法709条)が成立すると原告は主張しました。

しかし、結論としては、被告らの行為は不法行為にあたらないと判断されています(37頁以下)。

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3 被告会社の不正競争、使用者責任等の成否

被告A,Bらの営業誹謗行為性、不法行為性がいずれも否定されたことから、被告会社の使用者責任(民法715条)等も否定されています(38頁以下)。

結論として、原告の主張はいずれも容れられていません。

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■コメント

退職従業員による営業活動でのセールストークが問題となった事案です。
営業活動の場面で偽名を名乗るなど被告側に不適切な点があったようですが(9頁以下、38頁)、いずれにしても3〜400万円もする太陽光発電システムの販売ですから、誠実な営業活動が求められるところです。

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■追記09/10/13

2009年11月から「太陽光発電の新たな買取制度」(経産省)が始まり、売電価格が引き上げられることから、販売活動も活発化し、すでに消費者相談窓口に業者の販売方法について苦情の申出が増加しているようです(NHKニュースより)。

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2009年10月07日

黒澤明監督作品格安DVD(対角川)事件(控訴審)−著作権 損害賠償請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)−


最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

黒澤明監督作品格安DVD(対角川)事件(控訴審)

知財高裁平成21.9.15平成21(ネ)10042損害賠償請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 滝澤孝臣
裁判官      高部眞規子
裁判官      杜下弘記

*裁判所サイト公表 09/10/5

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■事案

黒澤明監督「羅生門」「静かなる決闘」映画作品の保護期間をめぐり映画の著作者が黒澤監督なのか映画会社であるのかが争われた事案の損害賠償請求別訴の控訴審(一部控訴)

原告(控訴人) :角川映画株式会社
被告(被控訴人):格安DVD製造販売会社

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■結論

原判決変更

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■争点

条文 著作権法2条1項2号、21条、113条1項1号、114条3項、旧法6条

1 映画の存続期間の満了時期-映画の著作者はだれか
2 原告は映画の著作権を有するか
3 被告の故意又は過失による侵害行為の有無
4 損害の有無及びその額

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■判決内容

<争点>

1 映画の存続期間の満了時期-映画の著作者はだれか
2 原告は映画の著作権を有するか
3 被告の故意又は過失による侵害行為の有無

争点1〜3について、結論としては原審の判断を維持しています(4頁以下)。

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4 損害の有無及びその額

原告角川映画は、原告DVDの標準小売価格4700円(/1本)、4万本輸入、使用料率20%の合計3760万円を損害額として主張していました(著作権法114条3項)。
しかし、原審裁判所では被告DVD1本あたりの使用料相当額について被告DVDの小売価格の20%に相当する額として、小売価格1800円(/1本)×輸入販売数2000本×0.2=72万円が損害額と認定するにとどまっていました(原判決31頁)。

そこで、原告は、著作権法114条3項にいう「著作権の行使につき受けるべき金額の額に相当する額」については、すでに市場で販売されていて真正品についてライセンス料を取得している場合は、著作権者が真正品1個あたりにライセンシーから得ている金額と同額以上であるべきであるとして、原告と第三者との間で締結されていたDVD使用許諾契約書を根拠として4700円×現実の使用料率×2000本の損害額を主張しました(5頁以下)。

この点について、控訴審裁判所は、

控訴人とジェネオンとの間の本件基本契約及び本件個別契約によって,現実の販売価格に関わらず,表示小売価格(4700円)の●%,すなわち,DVD1本当たり●円を使用料とすることが合意されていたのであり,しかも,この合意が独占的,かつ,排他的な許諾を前提とするものであったのであるから,少なくとも本件各映画については,著作権者である控訴人が,同条件を下回る条件において,第三者に対して使用を許諾することは想定できないというべきである。

そうすると,本件各映画の著作権の使用料相当額について,表示小売価格よりも廉価で販売されることを想定して,使用料相当額の算定の基準を変動させるべき理由はないというべきであるから,被控訴人による本件DVD2000本の輸入行為による控訴人の損害としての使用料相当額,すなわち,「控訴人が受けるべき金銭の額」については,本件DVD1本当たり●円とし,これに上記輸入に係る数量である2000本を乗じた●万円と算定すべきである。

として、原告の主張を容れています。

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■コメント

原告角川映画は、一審では映画コンテンツのロイヤリティ(使用料率)について、一般的な相場(20〜25%)を根拠に原告DVDの標準小売価格の20%は下らないこと、ライセンス契約でもそのことが裏付けられると主張していましたが、控訴審では、具体的な第三者とのライセンス契約の内容が認定された結果、損害額の上乗せに成功しています。
いずれにせよ他社とのライセンス契約内容が伏せ字とはいえ一部開示されるため、その取扱いが難しいのかもしれません。

*その他の格安DVD販売事件での損害額の算定状況

・チャップリンモダンタイムス事件控訴審
  著作権法114条3項:一般的な相場を主張
  被告DVD価格×25%×譲渡数量
・「暁の脱走」格安DVD事件(対東宝)
  著作権法114条3項:一般的な相場を主張
  被告DVD価格×20%×譲渡数量
・「姿三四郎」格安DVD事件(対東宝)
  著作権法114条3項:一般的な相場を主張
  被告DVD価格×30%×譲渡数量
・黒澤明監督作品格安DVD事件(対松竹)控訴審
  著作権法114条1項:(原告DVD価格−経費)×譲渡数量

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■過去のブログ記事

原審(2009年5月14日記事)
黒澤明監督作品格安DVD(対角川)損害賠償請求事件

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