知財判決速報2008

2008年10月30日

マスカラ化粧品容器事件〜不正競争防止法 不正競争行為差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)〜

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

マスカラ化粧品容器事件

大阪地裁平成20.10.14平成19(ワ)1688不正競争行為差止等請求事件PDF

大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 田中俊次
裁判官      西理香
裁判官      北岡裕章

*裁判所サイト公表 10/27

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■事案

マスカラ化粧品OEM製造の不正競争行為性が争われた事案

原告:化粧品製造販売会社ら
被告:化粧品OEM企画開発製造会社

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 不正競争防止法2条1項1号、2号、3条、5条1項

1 容器及び包装の商品等表示性、周知性
2 容器の類否
3 包装の類否
4 混同のおそれ
5 製造行為及び納品行為の不正競争行為性
6 営業上の利益の侵害性(差止の可否)
7 故意・過失
8 損害論

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■判決内容

<経緯>

H13.9   原告商品の販売開始
H18.4   訴外ワールドリンクスから委託を受けて被告が被告製品を製造
       株式会社ニッド「NID」のプライベートブランドとして販売
       原告が被告に対して仮処分命令申立
H19    本訴提訴
H20.3.25 ワールドリンクスが破産手続開始決定、その後廃止決定

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<争点>

1 容器及び包装の商品等表示性、周知性

マスカラの容器や包装などの資材は、OEM製造(相手先ブランド製造)
委託先が調達して製造受託先に提供、製造受託者はマスカラを注入
して製品を完成、委託先に納品していた事案です。

(1)原告容器の特徴

容器本体の赤系色、キャップの銀色の色彩と本体に描かれた女性の
ウインクしたような絵柄に需要者の注意を引く他の商品とは異なる
独自の特徴を有するものと認められています。
(33頁以下)

現行の原告商品です。平成18年当時のものとまったく同一の容器・
包装かどうかはわかりません。本体部分に絵柄が入っています。
(原告サイトより)
マスカラ










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(2)原告包装の独自性

「塗るつけまつげ」というキャッチコピーの独自性とプラスチック包装
で容器有姿をそのまま透視できる点で容器の特徴を捉えることがで
きることなどから原告包装の特徴の独自性が認められています。
(35頁以下)

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(3)原告容器及び包装の周知性

原告ら商品の売上高、販売店舗数、広告宣伝の状況(交通広告、TV、
雑誌)などから原告容器及び包装が原告らの商品の出所を示すもの
としてマスカラの需要者である女性の間に広く認識されていたと認
められています。
(37頁以下)

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2 容器の類否

原告商品と被告商品の容器の一致点と相違点を検討の上、本体容器、
キャップの長さが一致していること、色彩がほぼ一致していること、
絵柄も類似していることなどから、容器の類似性を肯定しています。
(41頁以下)

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3 包装の類否

原告商品の包装と被告商品の包装の類否について、

1.マスカラ容器を有姿のまま透視できるブリスター方式の
  包装の点、包装の大きさの点でほぼ一致する
2.台紙のライトグリーンの色彩や形状が類似する
3.台紙に付された文字「まるでつけまつげ」と「塗るつけまつげ」
  が観念において類似する

として、結論として包装の類似性が認められています。
(45頁以下)

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4 混同のおそれ

ドラッグストアで並べて販売されている店舗もあったことや販売価格
が原告商品が1500円で被告商品が980円と大きく異ならないことな
どから被告商品に接した需要者において原告商品と混同するおそれ
があると認定されています。
(48頁以下)

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5 製造行為及び納品行為の不正競争行為性

被告は、訴外ワールドリンクスとの間の製造委託契約に基づいて
ワールドリンクスから送られてきた容器にマスカラを充填して、
同じくワールドリンクスから送られてきた包装資材でこれを包装
してワールドリンクスに納入していました。

結論として、被告のマスカラ充填製造行為が原告商品の商品等
表示の「使用」にあたり、また、ワールドリンクスへの納入行為が
「引き渡し」(2条1項1号)にあたると判断されています。
(50頁以下)

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6 営業上の利益の侵害性(差止の可否)

被告製品の製造等差止、廃棄請求について、原告の営業上の利益の
侵害のおそれはないとして認められませんでした(3条1項、2項)。
(51頁)

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7 故意・過失

原告ら商品の容器、包装が周知性を獲得していた点から、マスカラ
製造業者である被告に少なくとも過失が認められるとされています。
(52頁以下)

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8 損害論

5条1項の「利益の額」の意義について、裁判所は、侵害がなければ
販売することができた数量の被侵害者製品を追加して販売するため
に追加的に必要であったはずの経費を販売価額から控除した利益
(限界利益)の額であるとしたうえで、開発費や広告宣伝費を控除
した「純利益」と捉えるべきとする被告の主張を容れていません。

利益の額のとらえ方については、純利益説(粗利益から営業経費を
控除した額)、限界利益説(原価と変動費を販売価格から控除した額)
などがありますが(小松一雄編著「不正競業訴訟の実務」(2005)
240頁以下参照)、今回の事案では裁判所は限界利益説に基本的に
立っています。

結論的には、一部請求に当たる部分の全額(6600万円)を損害として
認めています。(53頁以下)

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■コメント

マスカラの容器や包装など商品の形態に特別顕著性、認識性が認
められ商品の出所識別性(商品等表示性)が肯定された事案です。

最近、地下鉄の車内シール広告に、「・・・してますから(マスカラ)」
みたいなキャッチコピーのマスカラ化粧品広告があって、
「化粧品広告も意外と寒いなー」と、そのとき思ったのが印象に
残っています。どこの化粧品会社だったか(笑)


被告商品の「NID」ブランドは、株式会社ニッド(日本ドラッグチェーン会)
のプライベートブランドでニッドはドラッグストア各社の役員で構成され
ている会社で、サプライチェーンといったところでしょうか。

損害賠償請求の被告としては、製造委託先とニッドも考えられますが、
製造委託先は倒産状態、ニッドはドラッグストアの集合体で今後の取
引を考えると被告にはしたくなかった、それで、マスカラ化粧料を充填
して製品を完成させた製造者のみを被告とした、ということかもしれ
ません。

なお、今回の事案は、OEM製造契約に基づいて委託先から提供を受け
た資材で製造し、委託先に引き戻していたもので原告商品の商品表示
の使用について被告が積極的な役割を果たしていた事案ではありませ
んが、裁判所が『被告の本訴における主張は当を得ないものが多く,
その応訴態度等に照らせば
』(52頁)うんぬん・・と言われてしまって
いる点、被告の訴訟対応の不都合な部分がどういったところにあるの
か気になります。

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■参考サイト

イミュ オフィシャルサイト
【ファイバーウィッグ】 マスカラじゃない これは 「塗るつけまつげ」

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2008年10月27日

BRAHMAN事件〜著作権 実演家の権利侵害差止請求事件判決(知的財産裁判例集)〜

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

BRAHMAN事件

東京地裁平成20.10.22平成19(ワ)9613実演家の権利侵害差止請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 清水節
裁判官      坂本三郎
裁判官      佐野信

*裁判所サイト公表 10/27

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■事案

ロックバンドBRAHMAN(ブラフマン)がCD原盤を製作したインディ
レーベルに対してCDの製造、販売の差止を求めた事案

原告:BRAHMANバンドメンバー4名
被告:有限会社イレブンサーティエイト(レーベル)

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■結論

請求認容

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■争点

条文 著作権法91条1項、95条の2第1項、112条1項

1 実演家の録音権、譲渡権の侵害と差止
2 著作隣接権行使の権利濫用性

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■判決内容

<経緯>

H8.5   原告が本件楽曲の著作権をヴァージン・ミュージック・ジャパンに譲渡
      その後、ヴァージンと被告が共同出版契約締結、被告が原盤製作
H9.10.1 ミニアルバム「Wait And Wait」発売
      (イレブンサーティエイト/ホイップ・レコード)
H10.9.1 アルバム「A MAN OF THE WORLD」発売(イレブンサーティエイト)
H11   TOY'S FACTORYと契約
      シングル「deep/arrival time」でメジャーデビュー


参照:ウィキペディア「BRAHMAN」

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<争点>

1 実演家の録音権、譲渡権の侵害と差止

原告らが共同で作詞、作曲した本件楽曲の著作権を音楽出版社の
ヴァージン・ミュージック・ジャパンに譲渡したうえで、原盤製作などに
ついては、ヴァージンと被告レーベルが共同出版契約を締結。
これを前提として、被告レーベルは原告らに本件楽曲の演奏・歌唱
を依頼し、本件レコード(CD)の原盤を被告が製作したという経緯が
ありました。

原告らは、演奏を固定したCD2枚の製造と販売がアーティストの実演家
(performer)の権利としての録音権、譲渡権(著作権法91条1項、
95条の2第1項)を侵害するとしてその製造販売の差止を求めました。

これに対して、被告レーベルは、

単なる演奏家は,当該楽曲の著作権者の意向に反して,演奏契約上の顕著な違反又は人格権の侵害がない限り,著作隣接権の行使として,演奏を固定したレコードの製造の差止めを求めることはできず,原告らも,被告に対して,被告の意向に反して行使できる実演家の著作隣接権を有しない
(4頁)

と、反論しました。

しかし、裁判所は、楽曲の著作権と実演家の著作隣接権は別個独立
の権利であって、実演家が楽曲の著作権者等から演奏の依頼を受け
て演奏をした場合であっても当該楽曲の著作権等に対して当該演奏
が固定されたCDの製造、販売等の差止を求めることができることは
明かであるとして、被告の反論を容れていません。

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2 著作隣接権行使の権利濫用性

さらに、被告レーベルは、原告らの差止請求は、権利の濫用である
と反論しましたが、権利濫用となるべき事情が認められないこと、
また原告らとの間に何らかの契約関係等が存するなどの主張も被告
はしていない、として被告の権利濫用の反論を認めませんでした。
(5頁)

結論として、被告による著作隣接権の侵害を肯定し、CD2枚の製造、
販売の差止を認めました。

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■コメント

判決文からは、ヴァージンとレーベルとの共同出版契約の内容、ヴ
ァージンが楽曲の著作権を取得した経緯、その際の被告レーベルの
役割(ヴァージンが代表出版をとって、原盤制作費はレーベル負担?)
など原盤製作にかかわる契約の詳細が分かりません。

初期の楽曲のCD原盤製作についてレーベルとアーティストとの間の
契約内容がもともと不明確で、アーティストの演奏、歌唱部分にあ
たる実演家としての権利関係についてレーベル側は有効な反論
(CDを製造販売し続けるための根拠となるアーティストの著作隣接権
の譲渡やあるいは利用許諾などの存在の立証)ができなかったものと
思われます。

なお、ブラフマンのジャスラック信託楽曲のうち、「WAIT AND WAIT」収録
の「GREAT HELP」「SWAY」「ROOTS OF TREE」などを含め14曲の著
作権が現在ヴァージンに帰属している(ヴァージンがジャスラックに信託
している)ことがjasracサイトでわかります。

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■参考サイト

BRAHMANオフィシャルサイト
BRAHMAN

myspace:BRAHMAN
MySpace.com - BRAHMAN - JP - Punk - Hardcore - Alternative - www.myspace.com-brahman

トイズファクトリー
TOY'S FACTORY

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■追記08/10/30

ロックアーティストさんに今回の訴訟について
印象を伺ってみました。BRAHMANが
Hi-STANDARDとともに大きな影響を与えた存在で
あることがお話の中からわかりました。
以下、ご承諾をいただきまして、お話の内容を一部
引用します。


『音楽性として、僕の音楽人生で、
TOP5に入る影響を受けたアーチストです。

それと同時に、音楽性とは関係なく、
活動方針、CD発売方法、事務所運営方法 等の
ビジネスモデルとしても、私が法人設立するにあたって、
私がもっとも意識したアーチストでした。

私は、お役に立てずですが成功したスタイル/方法論で、
音楽業界に挑戦したいと考えていました。
周囲には“BRAHMANを目指している”と言っていたくらい、
私にとっては大きな存在でした。

その点で会社設立を手伝っていただいた大塚先生から
BRAHMANに関するメールが来たときにはとても驚きました。

BRAHMANは、ロックバンドとして完全に成功した
アーチストとして位置づけられていると思います。

FUJI ROCK FESTIVAL/ROCK IN JAPAN FESTIVALなどの
国内最大規模のフェスティバルの定期的な出演、
雑誌ロッキング・オン・ジャパンの表紙、
オリジナルアルバムのオリコンチャート入り、
など自身の音楽性を貫きながらも、
確かな実績を多く残しています。

先生のお好きなマキシマム ザ ホルモンの亮君と、
BRAHMANのTOSHI-LOWの対談なども雑誌で企画され、
表紙で特集されていました。


BRAHMANとハイスタンダードは、
インディーズムーブメントを作り上げた2本柱です。

人気絶頂時に解散したハイスタンダードと、
数年経った現在でも第一線で活躍し続けているBRAHMAN。

我々の世代の音楽ファンとしては、
まさに伝説の2組になります。


そして、その2組とも、
後に著作権/原盤権で裁判沙汰になっているとは!!
本当に驚き、私にとっては印象深い出来事でありました。


これはインディーズでの成功を目指しているアーチスト、
またレーベル/事務所にとっても大変インパクトのある話題だ
と思います。』


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■追記(09/3/26)

控訴審

2009年03月26日記事

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■追記09/06/16

BRAHMAN TOSHI-LOW インタヴュー
New Audiogram PREMIUM BRAHMAN

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大塚法務行政書士事務所サイト-音楽著作権-
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2008年10月24日

「時効の管理」法律実務書事件(控訴審)〜著作権 著作権侵害差止等請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)〜

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「時効の管理」法律実務書事件(控訴審)

大阪高裁平成20.10.8平成20(ネ)1700著作権侵害差止等請求控訴事件PDF

大阪高等裁判所第8民事部
裁判長裁判官 若林諒
裁判官      小野洋一
裁判官      菊地浩明


*裁判所サイト公表 10/23

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■事案

法律書籍の題号をめぐって、題号の著作物性や類似題号の
使用の不正競争行為性(商品等表示性)が争われた事案の
控訴審

原告(控訴人) :弁護士
被告(被控訴人):出版社ら

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法第2条1項1号、不正競争防止法第2条1項2号、1号、民法710条

1 題号「時効の管理」の著作物性
2 題号「時効の管理」の商品等表示性
3 人格的利益の侵害による不法行為性

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■判決内容

<争点>

1 題号「時効の管理」の著作物性

原告(控訴人)が出版した時効に関する法律実務書「時効の
管理」と題名が類似する「時効管理の実務」書籍を被告が
出版したとして原告は題名の著作権、著作者人格権侵害を
争点としていました。

しかし、裁判所は、書籍の題名「時効の管理」の創作性、思想性
について、

「時効」は時効に関する法律問題を論じる際に不可避の法令用語であり,「管理」は日常よく使用されて民法上も用いられている用語であり,「時効の管理」という表現はこの2語の間に助詞である「の」を挟んで組み合わせた僅か5文字の表現であり,控訴人書籍Aの発刊以前から時効に関する法律問題を論じる際に「消滅時効の管理」・「時効管理」といった表現が用いられていたものであるから,「時効の管理」はこれを全体として見てもありふれた表現であるというべきである

また、原告主張のように『「時効の管理」という表現が「時効について権利義務の一方当事者が主体的にこれを管理しコントロールすべきであるとの視点から再認識した思想」を表現したとまでは理解できず,単に「時効を管理する」という事物ないし事実状態を表現しているとしか理解できないのであって,「時効の管理」という表現は思想又は感情を創作的に表現したものと認められない。
(8頁以下)

として、題名の創作性、思想表現性を否定し、原審同様題号の
著作物性を否定しています。

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2 題号「時効の管理」の商品等表示性

原告は、被告の類似題号による出版行為の不正競争行為性
をさらに争点としています。

(1)書籍の題号と出所識別機能

書籍の題号は,普通は,出所の識別表示として用いられるものではなく,その書籍の内容を表示するものとして用いられるものである。そして,需要者も,普通の場合は,書籍の題号を,その書籍の内容を表示するものとして認識するが,出所の識別表示としては認識しないのものと解される。
(原判決12頁)

との判断を控訴審でも維持しています(9頁)。

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(2)周知商品等表示性

書籍内容を示すありふれた題号であっても,発行部数,当該分野での取り上げられ方,影響度,文献としての引用度により題号と著作者が重なり合い,出所表示機能を発生させる(・・・という)控訴人主張のような事情のいかんによっては周知商品等表示性を獲得するようなこともあり得るところ,上記証拠によれば,控訴人書籍の存在が一定範囲で知られるようになったことが窺われるが,控訴人の商品等表示として周知となったとまでは認められず,本件において,その点の立証は十分ではなく,したがって,「時効の管理」を控訴人の周知商品等表示と認めることはできない。
(9頁以下)

として、周知商品等表示性を否定しています。

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(3)混同のおそれ

書籍に表記された編著者の数・氏名,出版社名,外装のデザイン,色が全く異なるものであることが認められるところ,両書籍のような法律書は,事柄の性質上,特定の著者,出版社の如何に比重を置いた選択,識別がされると考えられるから,上記のような相違点がある以上,混同のおそれがあると認められない。
(10頁)

として、混同のおそれを否定しています。

結論として、不正競争行為性を否定しています。

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3 人格的利益の侵害による不法行為性

同一題号の使用により原告は法的保護に値する人格的利益を
侵害されたとして不法行為に基づく損害賠償請求を控訴審で
新たに主張しました。しかし、

両書籍の題号は同一ではないし,仮に類似するものとしても本件全証拠をもっても被控訴人らが控訴人書籍の題号を殊更に模倣するなどの不正な目的をもって被控訴人書籍の題号を付したと認められない
(10頁)

として、不法行為の成立を否定しています。

なお、和解事案ですが和解勧告の理由のなかで同一題号の使
用が人格的利益の侵害となりうる場合を肯定する裁判所の見解
として、「父よ母よ!」事件があります。
(東京地裁平成9.1.22平成7(ワ)11117著作権に基づく損害賠償請求事件)

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■コメント

原審同様、類似題号をもつ書籍の出版、編集行為の著作権
侵害性、不正競争行為性が否定されています。

原告は、日本文芸家協会の題名に関する見解(1984年)をも
論拠のひとつとしてその要保護性を主張しましたが、認めら
れませんでした。

日本文芸家協会の題名に関する見解の要旨については、
豊田きいち「編集者の著作権基礎知識 第五版」(2005)
61頁以下で触れられています。

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■過去のブログ記事

2008年5月31日記事(原審)
「時効の管理」法律実務書事件〜著作権 著作権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)〜

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■参考文献

標識法(商標法、不正競争防止法)における著作物の題号保護
の判例、学説状況を検討するものとして、

宮脇正晴「不正競争防止法による著作物の題号の保護」
野村豊弘、牧野利秋編『現代社会と著作権法 斉藤博先生御退職記念論集』(2008)379頁以下参照

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■参考判例

「父よ母よ!」事件
Netlaw(弁護士 荒竹純一先生サイト)

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2008年10月22日

黒酵母健康食品比較広告事件〜不正競争防止法 品質誤認表示差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)〜


最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

黒酵母健康食品比較広告事件

東京地裁平成20.9.30平成18(ワ)17459品質誤認表示差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官      関根澄子
裁判官      杉浦正典

*裁判所サイト公表 10/21

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■事案

健康食品の比較広告のなかで表示された成分表示の
品質誤認表示性、営業誹謗行為性が争われた事案

原告:健康食品製造販売会社ら
被告:健康食品販売会社ら

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 不正競争防止法2条1項13号、14号

1 品質誤認表示該当性(2条1項13号)
2 営業誹謗行為該当性(2条1項14号)

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■判決内容

<争点>

1 品質誤認表示該当性(2条1項13号)

黒酵母健康食品の販売にあたり被告らは、カタログに被告
製品の成分分析結果を記載したり会員向け情報誌やホーム
ページには原告製品と成分の含有量を比較した広告を掲載
していました。

分析センターでの分析が「β−1,3−1,6グルカン」の含有量
を測定していないにもかかわらず、被告は商品の含有量として
表示しているとして、こうした表示は虚偽表示であって商品の
品質を誤認させるものであると原告は主張しました。

しかし、結論的には、一般消費者が客観的事実に反する認識
をもたない(35頁)、あるいは当該表示が客観的事実に反する
ことについて、原告は相当程度立証するに至っていない(51頁)
などとして、品質誤認表示性が否定されています。
(32頁以下)

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2 営業誹謗行為該当性(2条1項14号)

原告製品と被告製品を比較した広告(比較表示)において、
原告製品パッケージ表記の成分量と被告の比較表示上の成分
量が異なり過少表示であるとして、被告は記載が虚偽表示で
あると主張しました。

しかし、結論的には、過少表示にあたらず虚偽の表示ではな
く比較広告が原告らを誹謗するものではないとして営業誹謗
行為性が否定されています。
(56頁以下)

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■コメント

原告と被告の間では以前、商品の誹謗中傷行為をめぐって
紛争になり、裁判上の和解をしていた経緯がありました
(東京地裁平成16(ワ)2050、平成15(ワ)19555)。

今回の訴訟では、この和解条項違反も争点となりましたが、
被告らによる虚偽表示や誹謗中傷行為がないことから、この
点でも原告の主張は認められていません。

なお、比較広告については、不当表示を規制する景品表示法
第4条1項の観点から公取委よりガイドラインが公表されていて

1. 比較広告で主張する内容が客観的に実証されていること
2. 実証されている数値や事実を正確かつ適正に引用すること
3. 比較の方法が公正であること


の3要件を満たすことが求められます。

公正取引委員会:比較広告に関する景品表示法上の考え方(昭和62年4月21日)

景表法からながめてみると、今回の比較広告(比較表示)では、
要件2の部分に問題がありました。

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■参考判例

バタフライバブル事件
大阪地裁昭和58.11.16昭和54(ワ)5291PDF

蝶形弁を比較検討した営業技術資料記載事実の虚偽性が肯定された事案

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禅ZEN事件
名古屋地裁豊橋支部平成11.2.24平成6(ワ)45不正競争防止法に基づく営業誹謗行為差止等請求事件判決

健康食品(微細藻類)の比較広告(「より素晴らしくなって登場!」)
などの表現の程度が社会的に許容される範囲内であるとされて営業
誹謗行為性が否定された事案

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自動車補修剤比較広告事件
大阪高裁平成13.2.8平成11(ネ)2847不正競争行為差止等請求控訴,同附帯控訴事件PDF

小売店の店頭に掲げられたパネル式広告に自動車用補修剤の品質、
性能等の比較がされていた事実の虚偽性が否定された事案

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コジマ安売り広告事件
東京高裁平成16.10.19平成16(ネ)3324損害賠償請求控訴事件PDF

「ヤマダさんよりお安く」との表示の13号該当性を否定した事案

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グリコ比較広告事件
知財高裁平成18.10.18平成17(ネ)10059広告差止等請求控訴事件PDF

キシリトールガムの比較広告(「一般的なキシリトールガムに比べ
約5倍の再石灰化効果を実現」)の品質誤認表示性などが肯定された
事案

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日本香堂ローソク営業誹謗事件
東京地裁平成19.5.25平成17(ワ)8140不正競争行為差止等請求事件

営業用のデモンストレーションに行った他社商品との比較行為が
営業誹謗行為と認められた事案

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■参考文献

岡俊邦「信頼性を欠くデータに基づく比較広告の不正競争性
     「グリコ比較広告」事件」
    『最新判例62を読む 著作権の事件簿』(2007)397頁以下
小野昌延編「新注解不正競争防止法新版」(上)(2007)644頁以下

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■過去のブログ記事

2006年10月24日記事
ロッテVSグリコ キシリトールガム比較広告事件

2007年6月9日記事
日本香堂ローソク営業誹謗事件

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2008年10月18日

紅いもタルト事件〜不正競争防止法 不正競争行為差止等請求事件判決(下級裁判所判例集)〜

最高裁判所HP 下級裁判所判例集より

紅いもタルト事件

那覇地裁平成20.8.6平成19(ワ)1032不正競争行為差止等請求事件PDF

那覇地方裁判所民事第1部
裁判長裁判官 田中健治
裁判官      加藤靖
裁判官      渡邉康年

*裁判所サイト公表 10/17

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■事案

1 「紅いもタルト」との原告表示につき,自他識別力がなく,また,使用による特別顕著性の具備も認められないとして,「商品等表示」(不正競争防止法2条1項1号)に当たらないとされた事例
2 原告商品形態につき,同種の商品と識別し得る独自の特徴を有するとはいえないとして,「商品等表示」(不正競争防止法2条1項1号)に当たらないとされた事例
(判示事項の要旨より)

原告:菓子製造販売会社
被告:土産品店経営、菓子開発製造会社

   --------------------

■結論

請求棄却

   --------------------

■争点

条文 不正競争防止法2条1項1号

1 「紅いもタルト」商標の商品等表示性
2 原告商品形態の商品等表示性

原告商標:紅いもタルト
被告商標:べにいもたると
      :BENIIMO TARTE CAKE
      :紅いもたると
      :紅芋タルト

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 「紅いもタルト」商標の商品等表示性

原告は、会社を設立した平成2年8月ころから舟形のタルト生地を
下部に備え、その上部にいもの原材料などを含むペーストを盛っ
て焼いた形状の菓子商品に「紅いもタルト」商標を付して製造販
売していました。

(1)原告商標の自他識別力性

原告商標「紅いもタルト」の原告の営業表示としての自他識別力
性について、裁判所は、「紅いも」も「タルト」も普通名詞であり、
普通名詞を単に組み合わせたにすぎない「紅いもタルト」の表示
自体に自他識別力はないと判断しています。
(14頁以下)

普通名称や慣用表示の普通の用法での使用については、19条1項1号
で適用除外となるところです。

なお、文字商標を図案化した原告商標について、その外観の特徴性
を原告は主張しましたが容れられていません(16頁)。

   ----------------------

(2)使用による特別顕著性の具備の有無

普通名詞の商標であっても特段の事情があれば本来の普通名詞の
意味(第一次的意味)のほかにセカンダリー・ミーニング(二次的出所
表示機能)が生じて営業表示として自他識別力を有する場合があり
ます(小野昌延編「新注解不正競争防止法新版」(上)(2007)
115頁以下、174頁以下)。

原告は、原告商標が周知性を獲得する前までに名称使用による特別
顕著性を取得したとの主張をしていますが、結論的には「紅芋タルト」や
「紅いもタルト」との名称を付して販売している複数の業者が存在する
ことなどから現時点での特別顕著性の具備を裁判所は否定しています。
(16頁以下)

なお、普通名称の使用による特別顕著性の具備を肯定した事案として
チキンラーメン事件(神戸地判昭和36.7.24)があります
(小野昌延「不正競争防止法概説」(1994)87頁)。

   ----------------------------------------

2 原告商品形態の商品等表示性

商品の形態は,商品の機能を発揮したり,商品の美感を高めたりするために適宜選択されるものであり,本来的にはその商品の出所を表示する機能を有するものではないが, 特定の商品形態が同種の商品と識別し得る独自の特徴を有し,かつ, それが長期間にわたり継続的にかつ独占的に使用されたり又は短期間であっても強力に宣伝されるなどして使用されたような場合には,結果として,商品の形態が商品の出所表示の機能を有するに至り,かつ,商品表示としての形態が需要者の間で周知になり,不正競争防止法2条1項1号にいう「他人の商品等表示」として保護されることがあり得るというべきである。
(23頁)

との従来の裁判所の確定した判断を踏襲したうえで、原告商品形態は、
焼き菓子(タルト菓子)のありふれた形態であるとして、商品等表示性
を具備しないと判断されています。

   --------------------

■コメント

紅いもタルト事件・・・?はて、どこかで読んだような・・・と、
思い返したら、「名古屋の商標亭」ブログで廣田先生が
書かれておいででした。
スイーツネタは、頭のどこかにひっかかります(笑)

「名古屋の商標亭」(2008-08-08記事)
ポルシェの請求棄却。紅いもタルト訴訟

「名古屋の意匠亭」(2008-08-08記事)
紅いもタルトの類似品、この方策があったらひょっとして…

   --------------------

■参考サイト

RBC - 琉球放送 紅いもタルト裁判(2008/8/6記事)

裏・GAJYUMARU|沖縄Tシャツ
食べ比べ「紅いもタルト」と「べにいもたると」(2008年09月27日記事)
「紅いもタルト」と「べにいもたると」について(2008年09月19日記事)
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デジタルテレビ用ソフトウェアライセンス契約違反事件〜原状回復等請求事件判決(下級裁判所判例集)〜


最高裁判所HP 下級裁判所判例集より

デジタルテレビ用ソフトウェアライセンス契約違反事件

東京地裁平成20.9.18平成19(ワ)7222原状回復等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第14部
裁判長裁判官 孝橋宏
裁判官      関根規夫
裁判官      飯田佳織

*裁判所サイト公表 10/17

   --------------------

■事案

デジタルテレビ用ソフトウェアを組み込んだデジタルテレビ用
モジュール及びその関連電子機器の独占的販売ライセンス契約
にライセンサーが違反したかどうかが争われた事案

原告:電子機器卸販売代理会社(ライセンシー)
被告:電子部品販売会社(ライセンサー)

   --------------------

■結論

請求認容
(なお、平成20年10月7日付で和解)

   --------------------

■争点

条文 民法415条、709条

1 被告による被告製品の直販の契約違反性
2 被告が第三者にライセンス付与することの契約違反性
3 本件製品の範囲
4 原告による解除の成否
5 不返還条項の解釈

   --------------------

■判決内容

<経緯>

H16.9.16 原被告間で秘密保持契約締結、交渉開始
H17.1.14〜 会議を週1回程度おこなう
H17.3.22 合意書起案
H17.3.28 原告合意書案を被告に送付
H17.3.29 被告が案を修正
H17.3.30 被告が案を修正
H17.3.30 原告取締役会で契約承認
       「製品取引に関する合意書」を締結
H17.3.31 合意書に基づき原告が許諾料1億500万円を支払う
H17.4.1  被告とケイテック社が製造許諾契約締結、その後解消
H17.5.10 被告が17年3月期連結業績予想を上方修正
H17.6.27 原告が被告に懸案事項についてメール送信
〜H18.2.3
H18.3.7  担当者会議
H18.10.16 トップ会談
H18.11.20 被告の契約違反についての通知書送付
H18.11.24 原被告訴訟代理人間で会議
H18.12.7  原告が被告に回答書送付
H18.12.18 被告が原告に照会書送付
H19.1.15  原告が和解案を提示
H19.3.2   被告が通知書送付
H19.3.23  原告が本件訴訟を提起
H19.4.6   訴状送達、原告が解除の意思表示
H19.5.31  被告が原告に対して別訴を提起

   ----------------------------------------

 【合意書の内容】

 前文
 第1条 製品の範囲
 第2条 販売地域及び販売期間 
 第3条 ソフトウェア・ライセンスの再使用許諾権料
      不返還条項
 第4条 協議事項

 別紙1  販売地域
 別紙2  許諾権料

   ----------------------------------------

<争点>

1 被告による被告製品の直販の契約違反性

被告が被告製品を直販することが、原告による独占的な販売の許諾
を内容とする本件合意書の規定に違反するかどうかについて、裁判
所は、以下の3点からこれを肯定しています。

(1)本件製品の販売は、すべて原告を介して行うことが前提とされていた

合意書の規定の解釈として、

被告の直販を認める場合にはその旨の条項が別途設けられるのが通常であると考えられるところ,本件合意書中には,本件製品を被告が直接第三者に販売することを前提とした条項は存在しない。

また、事実関係としても、

本件契約を締結した原告と被告が予定していたビジネススキームは,被告が生産協力会社に委託して生産させた本件製品を一元的に原告を通じて販売することにより,原告と被告との間で販売利益を配分するというもので,被告による直販は予定されていなかったことが推認される。
(34頁以下)

と判断しています。

(2)原告が被告に支払った1億円は、本件製品の販売に関して原告が特別の地位に付くことの対価としての実質がある

(3)事実関係として、本件製品の独占的販売権に関する原告の主張を被告が否定しなかった

   ----------------------------------------

2 被告が第三者にライセンス付与することの契約違反性

被告は、合意書規定の解釈として、「販売を第三者に代理させまたは
委託すること」(第2条2項)のみ禁止されており、ソフトウェアのライセン
ス付与には言及されていないと反論しました。
しかし、裁判所は、ソフトウェア・ライセンスの再使用許諾の権利を
被告は原告に認めている(第2条1項)こと、ソフトウェアを組込んだ
製品の独占的販売許諾である以上、契約の目的達成からすればソフト
ウェア・ライセンスの第三者付与も禁止されていると判断しています。
(40頁以下)

   ----------------------------------------

3 本件製品の範囲

被告は、本件合意書の対象となる製品の範囲は原告と被告が協力して
生産する製品に限定されると主張しましたが、合意書に生産協力義務
条項がないこと、原告は商社であって製品開発・製造を行うものでは
ないことなどから、被告の主張は容れられていません。
(41頁以下)

   ----------------------------------------

4 原告による解除の成否

被告による被告製品の直販や他社へのソフトウェアライセンス付与が
本件合意書に違反する債務不履行にあたり、原告は被告に対して是正
を求めた上で解除の意思表示をしているとして、原告により本件契約
が解除されたと判断しています。
(43頁以下)

   ----------------------------------------

5 不返還条項の解釈

被告は、本件許諾料がイニシャル・ライセンス・フィーであることを
示すために不返還条項を規定したとして、原告に対する本件許諾料
の返還義務を被告は負わないと主張しました。
しかし、裁判所は、本件契約自体が被告の債務不履行によって解除
されている以上、本件許諾料の返還を免れることはできないと判断
しています。
(44頁以下)


結論として、原告の請求が全部認容となりました。

   --------------------

■コメント

平成20年10月7日付で和解(7000万円分割支払)が成立して
います。

被告:株式会社ゼンテック・テクノロジー・ジャパン プレスリリース
「訴訟終了に関するお知らせ」PDF(平成20年10月7日付)

被告会社が秘密情報の不正使用を理由に原告を提訴していた
別訴(東京地方裁判所平成19年5月31日平成19年(ワ)第13697号
不正競争損害賠償等請求事件)についてもあわせて和解とな
ったと伝えています。

原告:株式会社エクセル ニュースリリース
「当社被告の訴訟事案の終了に関するお知らせ」PDF(平成20年10月7日付)

かたや東証一部上場、かたやヘラクレス上場の企業ですが、
独占的販売許諾契約について4条程度の内容の合意書の取り
交わしとなっていて、協力関係、本件製品の最低販売量や
最低販売額条項などもないとりあえずの合意書。
原告起案の合意書でしたが、急ぎの案件(被告会社の3月期
決算対策)であったことやアジアでの販売戦略上の柔軟性
が求められていた点もあったとはいえ、ポイントをおさえてい
ない(いちばんして欲しくないことを明確に表現していない)
契約書を作成した結果となっています。

ところで、(財)ソフトウェア情報センターが裁判外紛争解決
(ADR)機関として法務省より2008年7月28日認証取得しており
ソフトウェア分野専門の「仲裁」又は「和解あっせん」を行う
こととなりました。
今回の紛争のような1億円程度の案件については、企業にとって
も使い勝手が良い手続かもしれません。

SOFTIC ソフトウェア紛争解決センター

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2008年10月04日

TOKYU営業表示事件〜不正競争防止法 営業表示使用差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)〜

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

TOKYU営業表示事件

東京地裁平成20.9.30平成19(ワ)35028営業表示使用差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官      関根澄子
裁判官      古庄研

*裁判所サイト10/1公表

   --------------------

■事案

地方の建設会社がウェブサイトで表示していた「TOKYU」「tokyu」が
東急電鉄の営業表示と類似するかどうかが争われた事案

原告:東京急行電鉄株式会社
被告:藤久建設株式会社

   --------------------

■結論

請求棄却

   --------------------

■争点

条文 不正競争防止法2条1項1号、2号

1 営業表示の著名性(2条1項2号)
2 営業表示としての使用
3 営業表示の類似性

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 営業表示の著名性(2条1項2号)

まず、「東急」の営業表示の著名性について、原告及び原告を中核と
する東急グループは297社9法人(平成17年3月時点)で構成されて
いて原告の営業表示は全国的に取引者、需要者の間に広く知られて
いることが認められているとして、「他人の著名な商品等表示」(2号)
に該当すると判断されています。
(9頁以下)

   ----------------------------------------

2 営業表示としての使用

被告の営業表示について、先代の屋号「藤久材木店」のころ(昭和42年〜)
から「とうきゅうざいもくてん」と読まれており、被告藤久建設の商号
(昭和51年〜)は、「とうきゅうけんせつ」と読まれていました。
こうした商号で被告は宮城県石巻市とその周辺で建物建築工事や
ガーデニング工事を請負う取引を行っていました。

被告はウェブサイトで「TOKYU CONSTRUCTION ON THE WEB」、
「TOKYU CONSTRUCTION CO.,LTD」を表示、またドメイン名に続く
フォルダ名部分やEメールアドレスに「tokyu」の表示をしていました。

この点について、裁判所は、URL部分とEメールアドレス部分の「tokyu
表示は、営業主体の識別機能があるとして被告はこれを営業表示として
使用したものと認めました。

また、「TOKYU」の表示については、「TOKYU CONSTRUCTION ON
THE WEB」の「TOKYU」表示部分についてだけ営業表示としての
使用を肯定しています。
なお、「藤久建設株式会社」の直下に小さく記載された「TOKYU
 CONSTRUCTION CO.,LTD」の表示については、「TOKYU」だけを
取り出して判断することを認めませんでした。
(11頁以下)

   ----------------------------------------

3 営業表示の類似性

裁判所は、

ある営業表示が不正競争防止法2条1項2号にいう他人の営業表示と類似のものに当たるか否かについては,取引の実情のもとにおいて,取引者又は需要者が両表示の外観,称呼又は観念に基づく印象,記憶,連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるか否かを基準として判断するのが相当である(最高裁判所昭和58年10月7日第二小法廷判決・民集37巻8号1082頁参照)

と日本ウーマン・パワー事件上告審判決を示したうえで、

(1)外観

「東急」と「TOKYU」「tokyu」は、外観が異なる。

(2)称呼

「とうきゅう」の称呼が生じる点で共通する。

(3)観念

「TOKYU」「tokyu」が原告の広報誌やショッピングセンター、東急ハンズ
などで表示されているものの、これらの語から直接原告や東急グループの
観念が生じると認めることは未だ困難である。
また、「とうきゅう」の称呼に基づく観念についても、広辞苑には「東急」
が記載されていない、ほかの営業主体を想起する場合もあることなどから、
「TOKYU」「tokyu」の語から「とうきゅう」という称呼を通じて原告や東急
グループの観念が生じるとまで断ずることはできない。


結論として、称呼において「とうきゅう」の読みが共通するにとどまり
取引者、需要者が「東急」と「TOKYU」「tokyu」の営業表示を全体的
に類似のものとして受取るおそれがあるとまではいえないとしました。
(13頁以下)

以上から、両社の営業表示が2号の「類似のもの」にあたらず、また1号
の「類似」も欠くことになることから被告の不正競争行為性は否定され
ることとなりました。

   ----------------------------------------

■コメント

朝日新聞10月1日付朝刊東京14版38頁には、藤久社員のコメントとして
うちは石巻周辺でしかやってない、10人ぐらいしかいない会社。
東急と競合関係もないのに、相手は何を考えているのか……


とありました。

わたしの住んでいる世田谷、田園都市線沿線ですと、あちこちに
「TOKYU」の表示があって、それこそ「TOKYU」=「東急」でしか
ないのですが、地域が違えば、昔から類似の営業表示を使うほかの
企業もあることでしょうし、そうした企業がドメインの一部にローマ字
表記を使う場合もあることだと思います。

2号(著名表示冒用行為)の趣旨からすれば被告側の営業表示の
使用がフリーライド(ただ乗り)の意図によるものであったり、ダイ
リューション(稀釈化)、ポリューション(イメージの汚染)などを惹起
させるものでないかぎり当該営業表示の使用を認めてもいいことに
なります(なお、ドメイン名での不法占拠、いわゆるサイバースクワ
ッティングについては、12号参照)。

類似性の要件のほか、営業上の利益の侵害性要件で調整することも
できた事案でした(3条1項、4条)。

なお、東急といえば、タレントの芸名で使用された「高知東急」の
使用差止事件(東急芸名訴訟事件 不正競争防止法2条1項1号
請求認容)を思い出します。
(東京地判平成10.3.13平成9(ワ)3024芸名使用差止請求事件)

   --------------------

■参考サイト

被告会社 社長のブログ(2008.10.01記事)
東急VS藤久の行方〜朝日新聞掲載 - どうする?宮城・石巻・東松島の良い家づくり→しあわせ家族実現

   --------------------

■参考文献

田村善之「不正競争法概説第2版」(2003)76頁以下、246頁以下
小野昌延編「新注解不正競争防止法新版」(上)(2007)398頁以下

   --------------------

■追記(08/10/05)

社長さんがブログ記事をまとめておいでです。

08/10/05記事
東急VS藤久 訴訟の経過を記す

No.1 
   「週刊朝日に記事」
   同じアルファベットのつづりの方は要注意

No.2 
   「週刊朝日掲載 訴訟報告2」(東急VS藤久とはしていない)
   訴状が届く、なんでなの?素朴な疑問を持つ

No.3 
   「週刊朝日掲載 訴訟報告3」(東急VS藤久とはしていない)
   なんで?なんで?

No.4 
   「週刊朝日掲載 訴訟報告4」
   正当判決を貰うために、マスコミさんの協力を・・

No.5 
   「週刊朝日掲載 訴訟報告5」
   同じく、訴訟されているA社長と話す

No.6 
   「東急VS藤久の行方〜朝日新聞掲載」
   勝った!新聞社から電話取材を受ける

No.7 
   「東急VS藤久 判決」
   判決文を抜粋紹介

No.8 
   「東急VS藤久 で気づいたこと」
   どんな会社なの?コンプライアンスを検証する


*ブログ記事にあるように、警告書の通知もなくいきなり
 訴訟手続をとって、相手に応訴の負担をかけるというのは、
 どういうつもりなのでしょうか。

 商標管理、ドメインでのブランド保護は重要でしょうし、
 シャネル社の方針と同様コツコツと訴訟をすることも必要
 でしょう。
 ただ、相手のあることです。正月に訴状の送達を受けるだ
 けで一年の最初を汚されるようで、わたしだったら許し難
 いきもちになりそうです。


   ----------------

■追記(08/10/05)

企業法務戦士の雑感さんのブログ記事より
[企業法務][知財]東京の常識、地方の非常識


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2008年10月02日

転売顧客名簿営業秘密事件〜不正競争防止法 損害賠償等請求事件判決(知的財産裁判例集)〜

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

転売顧客名簿営業秘密事件

東京地裁平成20.9.30平成19(ワ)27846損害賠償等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 阿部正幸
裁判官      平田直人
裁判官      柵木澄子

*裁判所サイト公表10/1

   --------------------

■事案

転売顧客名簿の営業秘密性が争われた事案

原告:ファッション衣料雑貨輸入製造販売会社
被告:貴金属服飾販売会社
    乙

   --------------------

■結論

請求棄却

   --------------------

■争点

条文 不正競争防止法2条6項、2条1項4号、5号、6号

1 顧客名簿の営業秘密該当性

   --------------------

■判決内容

<経緯>

H16.3.18 株式会社ビソーニ(訴外会社)民事再生手続開始
H16.9.30 訴外会社が社員乙(被告)を解雇
H17.8.17 訴外会社がAに名簿を200万円で販売
H17.9.1  Aが設立準備中の原告会社に名簿を250万円で販売
H17.9.20 訴外会社の民事再生手続廃止
H17.9.28 訴外会社関係者らにより原告会社設立
H17.10.19 訴外会社の破産手続開始

   --------------------

<争点>

1 顧客名簿の営業秘密該当性

44万件の顧客データの情報と出入力システム一式をあわせて
転売がされていました。
原告は、顧客名簿は営業秘密に該当し、被告乙がこれを不正
に取得し、被告会社がこれを不正に利用したとして、総額11億
円余の損害賠償、使用差止等を求めました。

株式会社ビソーニ(訴外会社)が民事再生手続(のちに破産手
続)の状況にあることから事業継続のため受皿会社として原
告会社を設立。訴外会社が作成した顧客名簿を移管するため
まず訴外会社代表取締役Bの知人であるAに譲渡(第1売買)、
その後Aが原告会社へ譲渡(第2売買)という経緯を経ていました。

本件顧客名簿の営業秘密性について裁判所は、

本件名簿は,もともと訴外会社において作成,管理され,これが第1売買と第2売買を経て,原告が管理するに至ったものであるから,〜奮芦饉劼砲ける秘密管理性,第1売買の買主であるAにおける秘密管理性,8狭陲砲ける秘密管理性がそれぞれ問題となり得る。

としたうえで、

(1)訴外会社での管理状況が不明
(2)Aのもとでの管理状況も不明

原告のもとでの管理状況を検討するまでもなく営業秘密として
の秘密管理性を充たしていたことの立証がないものというほか
ないと判断されています。
(7頁以下)

   --------------------

■コメント

転売されたといっても、いわば身内のなかでの便宜的なもの
でしたが、それでも名簿の管理状況があいまいとなってしま
い、秘密管理性の要件である(1)客観的認識可能性と(2)アク
セス制限性の立証を原告側は尽くすことができず、元従業員
による名簿持ち出し行為の判断まで入ることができませんで
した。

倒産した会社の顧客名簿の保護、事業移管の際の注意点を
考えさせられる事案です。

   --------------------

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2008年10月01日

土地宝典事件(控訴審)〜著作権 損害賠償請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)〜

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

土地宝典事件(控訴審)

知財高裁平成20.9.30平成20(ネ)10031損害賠償請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官      齊木教朗
裁判官      嶋末和秀

*裁判所サイト9/30公表

   --------------------

■事案

法務局備付けの土地宝典(地図)の著作物性や国の無断複製行為性が争われた事案の控訴審

控訴人(一審被告)  :国
被控訴人(一審原告):不動産鑑定事務所ら

   --------------------

■結論

一部変更

   --------------------

■争点

条文 著作権法21条、民法719条2項

1 作成者から原告への著作権の譲渡の成否
2 国による著作権侵害行為性
3 作成者の黙示の包括的許諾の有無
4 不当利得の成否
5 損害論

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 作成者から原告への著作権の譲渡の成否

原審同様、本件土地宝典の著作権は、譲渡契約と同時に土地宝典制作者から一審原告へ移転したと判断されています。
(13頁以下)

   ----------------------------------------

2 国による著作権侵害行為性

法務局窓口で土地宝典の貸出しを受けた不特定多数の第三者のした無断複製行為について、国はこれを幇助したとして法務局内のコインコピー機の設置管理をしていた民事法務協会と共に民法719条2項の共同不法行為者として損害賠償義務を負うと判断されています。
(14頁以下)

   ----------------------------------------

3 作成者の黙示の包括的許諾の有無

法務局窓口での貸出しや第三者による複写行為について、土地宝典制作者による黙示の包括的許諾があったのかどうかが争点となっていましたが、原審同様、許諾の存在は認められていません。
(17頁)

   ----------------------------------------

4 不当利得の成否

国や民事法務協会が土地宝典の複製行為によって民法703条の「利益」を得ていたかどうかについて、

(1)設置使用料

国は民事法務協会からコインコピー機の設置使用料を得ていましたが、

当該使用料は,国有財産(建物の一部)を占有させたことによる対価の性質を有するものであって,使用許可を受けた民事法務協会が,コインコピー機を設置し,不特定多数の第三者に本件土地宝典の複製をさせることによって受けるコピー代金に関連して得たものではない(乙20)。
(17頁以下)

として、コピー代金と設置使用料の関連性を否定しています。

(2)コピー代金

また、民事法務協会が不特定多数の第三者から受けるコピー代金は、当該第三者によるコピー機使用の対価であって、土地宝典著作権使用料にかかわるものではないからそもそも民事法務協会についても土地宝典の複製行為によって民法703条の「利益」を得たとはいえないとしています。

結論として、被告の国は、原告の損失と因果関係を有する利益を得ていないので不当利得は成立しないとしました。

   ----------------------------------------

5 損害論

原審では、使用料相当額の損害について侵害期間4年分として、1冊1年当たり1万円として120冊分120万円で損害額を積算していました(合計480万円)。
この4年のうち、1年6月は消滅時効成立による不当利得の損失部分として、また2年6月を著作権侵害の不法行為による損害として算定していました。
(原審50頁以下)

これに対して、控訴審では、不当利得が成立しない1年6月を除く2年6月部分全体で1冊1万円として120冊分120万円の損害を認めるにとどまりました(合計120万円)。
(19頁以下)

なお、弁護士費用も96万円から12万円に減額されてます。

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■コメント

原審同様、国の責任を肯定してます。

原審と異なるところは、大きく2点となります。

(1)侵害主体性
原審(設楽コート)では、国と民事法務協会の共同侵害を認め、国の共同侵害主体性を明らかにしていましたが、控訴審(飯村コート)では、民法719条2項の幇助行為の検討にとどまっています。

原審では、

各法務局がコインコピー機の使用に関し,民事法務協会と共に直接これを管理監督していたものと認められ,各法務局についても,不特定多数の一般人による本件土地宝典の複製行為について,単なる幇助的な立場にあるとみるよりは,民事法務協会と共に共同正犯的な立場にあるとみるのが相当である。
(原審45頁)

として、本件土地宝典の複製行為について、民事法務協会と国とが共同侵害主体であると評価されていましたが、控訴審では原告側のいわゆる「カラオケ法理」の適用によって被告の行為の侵害主体性を判断するべきであるとの考え(10頁)を容れず、民法719条2項で処理できる以上、侵害主体性の判断は不要と断じています(17頁)。

控訴審では、民法719条2項で教唆・幇助者は共同不法行為者とみなされて共同不法行為者と同様の責任を認められる以上、国自らが不法行為者であるか否かを判断する必要はなく、国が教唆または幇助した者であるかどうかを判断すれば足りるとしたうえで、国は違法複製がされないよう相応の対応を図るべき注意義務を怠った過失があるとして民法719条2項の共同不法行為責任が肯定されるという構成をとっています。

(2)不当利得の否定
不当利得の否定、損害額大幅減額の結果となっています。


損害賠償請求訴訟の事案処理として、いわゆる間接侵害論(著作権法112条1項の解釈論)などの侵害主体性判断に踏み込みませんでした。

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■参考文献

教唆・幇助による著作権侵害に言及する最近の論文として
山本隆司「教唆・幇助による著作権侵害の成否」野村豊弘・牧野利秋編『現代社会と著作権法 斉藤博先生御退職記念論集』(2008)261頁以下

不法行為法からの視点として
潮海久雄「著作権侵害の責任主体-不法行為法および私的複製・公衆送信権の視点から」同書203頁以下

演繹的な侵害主体評価の困難性について
平嶋竜太「著作権侵害主体の評価をめぐる議論について-私的利用領域の拡大と差止範囲画定の視点から」同書246頁以下 参照

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■過去のブログ記事

2008年02月05日記事
「土地宝典」事件〜著作権 損害賠償請求事件判決〜

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■追記08.11.27

参考文献

本山雅弘「地図の著作物性と規範的な侵害主体による不当利得の成否ー土地宝典事件」『L&T』41号(2008)110頁以下
作花文雄「行政機関における著作物の利用と権利侵害の様相」『コピライト』566号(2008)30頁以下

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■追記11.5.22

参考文献

時井 真「法務局から土地宝典の貸出を受け、法務局内の複写機で無断複製を行った利用者の行為につき、国に損害賠償責任等が認められた事例 −土地宝典事件−」『知的財産法政策学研究』31号(2010)163頁以下
論文PDF
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2008年09月28日

手刺繍柄バッグ販売価格営業秘密事件〜不正競争防止法 製造販売差止等請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)〜

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

手刺繍柄バッグ販売価格営業秘密事件

大阪高裁平成20.7.18平成20(ネ)245製造販売差止等請求控訴事件PDF

大阪高等裁判所第8民事部
裁判長裁判官 若林諒
裁判官      小野洋一
裁判官      菊地浩明

裁判所サイト9/25アップ

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■事案

手刺繍柄の付いたバッグなどの販売先業者名や販売数量、
販売価格、仕入価格などの営業秘密性が争われた事案

原告(控訴人)  :袋物・生活雑貨小物製造卸業社
被告(被控訴人):原告会社退職従業員B
            袋物・生活雑貨小物製造販売業社

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■結論

一部変更

(原審:請求棄却判決)

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■争点

条文 不正競争防止法2条1項7号、8号、2条6項

1 販売価格等の営業秘密該当性(2条6項)
2 退職従業員の営業秘密開示行為性(2条1項7号)
3 退職従業員の債務不履行の成否
4 就職先会社の営業秘密使用行為性(2条1項8号)
5 退職従業員らの不法行為性
6 損害論
7 差止請求の成否

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■判決内容

<経緯>

H15.10.21  原告が被告Bを従業員として採用
H16.9     被告Bが競合他社立ち上げとの情報
H16.11.10  被告Bが本件誓約書に署名押印
H17.9     被告Bが引き抜き行為で謝罪陳述書作成、Bが退社
H18.2.6    被告会社にBが入社
H18.4〜    被告会社は原告と類似の商品を低価格で販売

   ----------------------------------------

<争点>

1 販売価格等の営業秘密該当性(2条6項)

原告商品の販売先業者名、販売数量、販売価格、仕入価格、
利益額などの営業情報が不正競争防止法2条6項の営業秘密
に該当するかどうかが争点となっています。

まず、被告Bが原告従業員を引き抜いて独立する動きがある
ことをうけて原告と被告Bが秘密保持誓約書を締結した経緯
をふまえて、この誓約書によって被告Bが在職中及び退職後
に秘密保持義務が課されていたこと、秘密保持義務上の秘密
事項とは、原告商品の販売先業者名、当該業者への販売価格
及び仕入価格であると裁判所は認定。

そのうえで、原告とこれらの情報を知り得る従業員全員(約11名)
との間で本件誓約書と同様の内容の秘密保持書面を作成して
いたことから、従業員の間では客観的に認識できる程度に対
外的に上記情報が漏出しないよう秘密として管理されていた
と裁判所は判断しています。
(8頁以下)

そのほか有用性、非公知性もあるとして、結論として不正競争
防止法2条6項の営業秘密に本件情報が該当するとしています。

   ----------------------------------------

2 退職従業員の営業秘密開示行為性(2条1項7号)

被告Bが被告会社に入社後、原告商品と酷似する被告商品を
原告取引先に原告商品の販売単価より10円だけ安い価格で
被告会社が被告商品を販売開始するなどしていたとして、被
告Bは販売業者名と販売価格を不正の利益を図る目的で被告
会社に情報開示したものと推認されると裁判所は判断。

被告Bの開示行為は、不正競争防止法2条1項7号に該当すると
しています。
(9頁以下)

   ----------------------------------------

3 退職従業員の債務不履行の成否

被告Bが被告会社に原告会社の取引先業者名とそこへの販売
価格を開示して同情報を利用させた行為が秘密保持契約に違
反するとして債務不履行を構成すると判断されています。
(10頁)

   ----------------------------------------

4 就職先会社の営業秘密使用行為性(2条1項8号)

被告Bが退職後に就職した被告会社は、被告Bが在職中に
誓約書を作成して秘密保持義務を負っていたことを認識し
ていたと認定。
そのうえで被告会社は原告の取引先である販売業者名と販
売価格情報を取得し、被告商品を販売してこれらの情報を
使用したとして、被告会社の使用行為は、不正競争防止法
2条1項8号に該当すると裁判所は判断しています。
(10頁)

   ----------------------------------------

5 就職先会社らの不法行為性

被告Bの秘密保持義務の債務不履行に被告会社が積極的に
加担したものとして、被告会社の不法行為性が肯定されて
います。
(10頁以下)

   ----------------------------------------

6 損害論

情報使用直後1年間の販売期間に原告が受けた現実の損害
(得べかりし利益の減少)として392万円余りを認定。
弁護士費用40万円とあわせて432万円余りの損害が被告ら
に連帯して認められています。

なお、裁判所は、仮に被告らに不正競争行為が認められな
くても被告Bの債務不履行と被告会社の不法行為によって
同額の損害があったということができるとしています。
(11頁以下)

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7 差止請求の成否

原告は、被告商品の製造販売について差止を求めていまし
たが、営業の諸事情から一律差止の必要性は認められませ
でした。
(12頁以下)

   --------------------

■コメント

原審(京都地裁平成18(ワ)2366 裁判所サイト未登載)では、
請求棄却の判断でしたが、控訴審では一転して請求が認容
(一部)されています。


不正競争防止法2条6項の営業秘密の要件としては、
 (1)秘密管理性
 (2)有用性
 (3)非公知性

が要求されますが、このうち秘密管理性については、

秘密管理性とは、当該情報について、保有者が秘密
として保持する意思を有し、客観的にも秘密として管理
されていることをいう

(小松一雄編著「不正競業訴訟の実務」(2005)332頁)

わけで、(1)客観的認識可能性と(2)アクセス制限性の観点
から総合的に判断されます(「不正競争防止法の新論点
(2006)111頁以下 末吉亙)。


よくある事例では情報の物理的外形的な管理体制の内容
(データのパスワード管理、書類棚の施錠の有無など)が
吟味されますが、本事案のように情報が書面化されていな
い、いわば「頭の中」の情報の保護の場合は、

従業員に対して秘密保持義務を課すだけでも,
義務を負っている情報がどれであるのかということ
が明確であるかぎり,秘密管理性を満足すると解さ
れる

(田村善之「不正競争法概説第2版」(2003)332頁)

ことになります。

本事案では、退職従業員が引き抜き行為や独立の動きを
したことを受けて、これを防ぐために秘密保持契約であ
る誓約書を締結した経緯があることから、退職従業員に
とっても保持義務内容が認識しうるものであったこと、
また原告会社が営業秘密に関わり合いのある従業員全員
と秘密保持誓約書を取り交わしていたことも踏まえて本
件情報の秘密管理性が肯定されています。


なお、他者に伝達できない技能等の人格と一体化した情
報や暗黙知については、営業秘密となりえないとする点
に言及するものとして、永野周志、砂田太士、播摩洋平
営業秘密と競業避止義務の法務」(2008)35頁以下
があります。


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■参考判例

従業員の記憶の中に残されている体験的顧客情報の
保護について、

コーヒーサーバー設置事業顧客情報事件(控訴審)
東京高判平成12.4.27平成11(ネ)5064競業行為差止等本訴請求・同反訴請求控訴事件PDF

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■参考文献

小野昌延編「新注解不正競争防止法新版」(下)(2007)764頁
牧野利秋監修飯村利明編集
座談会不正競争防止法をめぐる実務的課題と理論」(2005)170頁以下
小野昌延「不正競争防止法概説」(1994)199頁以下参照。

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2008年09月26日

デサフィナード事件(控訴審)〜著作権 著作権侵害差止等請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)〜

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

デサフィナード事件(控訴審)

大阪高裁平成20.9.17平成19(ネ)735著作権侵害差止等請求控訴事件PDF

大阪高等裁判所第8民事部
裁判長裁判官 若林諒
裁判官      小野洋一
裁判官      久保田浩史

裁判所サイト9/25公表

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■事案

ジャスラック管理楽曲について無許諾で演奏をしていた
レストラン店舗経営者に対して演奏の差止などを求めた
事案の控訴審

原告(控訴人・被控訴人):ジャスラック(日本音楽著作権協会)
被告(被控訴人・控訴人):レストランカフェ店舗経営者

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■結論

一部変更

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■争点

条文 著作権法22条、112条、38条

1 請求の特定の有無
2 店舗における演奏の態様、状況
3 管理著作物の利用主体性
4 法38条1項の適否
5 差止の必要性
6 消滅時効の成否
7 損害額・不当利得額

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■判決内容

<争点>

1 請求の特定の有無

一審被告(店舗側)は、差止請求の趣旨があいまいで第三者の
演奏活動の自由を不当に侵害するおそれがある、として請求の
特定性を争点としていました。

しかし、原審同様、請求の趣旨として特定に欠けるところはない
と判断されています。
(14頁以下)

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2 店舗における演奏の態様、状況

ピアノ演奏、ライブ演奏、貸切営業の演奏態様と楽曲の演奏状
況について検討が加えられています。
(15頁以下)

   ----------------------------------------

3 管理著作物の利用主体性

控訴審はクラブキャッツアイ事件上告審で示されたいわゆる
カラオケ法理

上告人らの従業員による歌唱の勧誘、上告人らの備え置いたカラオケテープの範囲内での選曲、上告人らの設置したカラオケ装置の従業員による操作を通じて、上告人らの管理のもとに歌唱しているものと解され、他方、上告人らは、客の歌唱をも店の営業政策の一環として取り入れ、これを利用していわゆるカラオケスナツクとしての雰囲気を醸成し、かかる雰囲気を好む客の来集を図つて営業上の利益を増大させることを意図していたというべきであつて、前記のような客による歌唱も、著作権法上の規律の観点からは上告人らによる歌唱と同視しうるものである
(最高裁昭和63.3.15昭和59(オ)1204音楽著作権侵害差止等)

について本件でも参酌すべきであるとしています。

そのうえで、(1)ピアノ演奏(2)ライブ演奏のうち店舗主催の
ライブ
については、管理性と利益性の2つの要件を充足し演奏
の主体を本件店舗の経営者である一審被告と判断しています。

これに対して、(3)ライブ演奏のうち第三者が主催するライブ
(4)貸切営業における演奏については、管理性、利益性のい
ずれの要件も充足しないとして一審被告の管理著作物に関する
利用主体性を否定しています。
(34頁以下)

原審では、(3)第三者が主催するライブ演奏について、店舗と
演奏者との共同侵害行為を肯定していましたが、控訴審では
一転して店舗経営者による侵害性を否定しています。

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4 法38条1項の適否

被告店舗側は、ピアノ演奏やライブ演奏での管理楽曲の利用は
営利を目的としたものではない(著作権法38条1項)として、
権利制限規定の適用を争点としていましたが、原審同様認めら
れていません。
(39頁以下)

被告店舗側は38条1項にいう営利行為は金銭の授受を伴う有償
行為であると解釈しましたが、裁判所は本条項の文理解釈上、

演奏に営利目的があれば,聴衆から料金を受けず,又は実演家に報酬が支われない場合でも,同項の対象外であることは文言上明らかである。そうすると,営利を目的」とするとは,演奏が直接的に対価(金銭の授受等)を伴わず,間接的営利を目指している場合をも含むと解するほかない。

として被告店舗側の主張を退けています(41頁)。

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5 差止の必要性

本件店舗でのピアノリクエスト・ピアノ弾き語り・ピアノBGM形態
での演奏と本件店舗主催のライブにおける演奏についてピアノ
等の楽器演奏や歌唱によるジャスラック管理楽曲の使用差止の
必要が認められています。
また、ピアノの撤去、搬入禁止(著作権法112条2項)も認められ
ています。
(41頁以下)

   ----------------------------------------

6 消滅時効の成否

時効中断効が生じた平成14年7月13日以降の損害賠償請求権
は時効にかかっていないと判断されています。
平成13年5月30日から14年7月12日までの著作権侵害行為
に基づく使用料相当額の損害賠償請求権については、消滅
時効にかかるものの、この部分については不当利得返還義務
を被告店舗側は負うことになると判断されています。
(46頁以下)

   ----------------------------------------

7 損害額・不当利得額

結論として使用料相当損害額165万円余り、弁護士費用25万円
それに利息が認められています。
(48頁以下)

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■コメント

和歌山にあるライブハウス/フレンチイタリアンレストランでの
音楽著作物使用料をめぐって争われた、ジャスラック対デサ
フィナード事件の控訴審です。

原審と異なり、控訴審では、第三者主催のライブ演奏につい
ては、店舗側の侵害主体性が認められませんでしたが、ライ
ブハウスでのカラオケ法理の適用場面のリーディングケース
として重要なものとなりそうです。

なお、本判決と同日に出された店舗側がジャスラックの調査
方法の不法行為性を争った別訴の控訴審判決も公表されて
います。

大阪高裁平成20.9.17平成19(ネ)2557損害賠償請求控訴事件PDF

こちらも店舗側の請求は退けられています。


ところで先日、ジャスラック録音2課のかたのご講演を聴く
機会がありましたが、最近の傾向として地方公共団体など
の公共施設での不払事例が散見されるようです(カラオケ教
室など)。ジャスラックとの契約、和解交渉では、弁護士さん
の腕の見せ所かもしれません。

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■過去のブログ記事

2007年2月10日
「ジャスラック対デサフィナード」事件〜著作権侵害差止等請求事件判決

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■参考サイト

企業法務戦士の雑感(2007/2/5記事)
■[企業法務][知財] JASRAC叩けばメディアが儲かる?

BENLI(2007/2/17記事)
デサフィナード事件

デサフィナードサイト(デサフィナード日記、JASRACについて考える掲示板)
Desafinado

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■参考文献

田村善之「検索サイトをめぐる著作権法の諸問題-寄与侵害、
       間接侵害、フェア・ユース、引用等(2)-」
      『知的財産法政策学研究』17号(2007)83頁以下
吉田克己「著作権の「間接侵害」と差止請求」田村善之編著
      『新世代知的財産法政策学の創成』(2008)253頁以下
平嶋竜太「著作権侵害主体の評価をめぐる議論についてー
       私的利用領域の拡大と差止範囲画定の視点から」
野村豊弘、牧野利秋編『現代社会と著作権法』(2008)228頁以下
潮海久雄「著作権侵害の責任主体ー不法行為法および
       私的複製・公衆送信権の視点から」同上書197頁以下
山本隆司「教唆・幇助による著作権侵害の成否」
        同上書261頁以下

JASRAC判決での損害額の算定、使用料相当額、弁護士費用
について、

寒河江孝允監修、永野周志・矢野敏樹編
知的財産権訴訟における損害賠償額算定の実務』(2008)
273頁以下

   --------------------

■参考判例

バレエ「アダージェット」事件
東京地裁平成10.11.20平成8(ワ)19539損害賠償等請求事件

歌謡ショープロモーター事件
東京地裁平成14.6.28平成13(ワ)15881著作権侵害差止等請求事件PDF
東京高裁平成15.1.16平成14(ネ)4053著作権侵害差止等請求控訴事件PDF

社交ダンス教室事件
名古屋高裁平成平成16.3.4平成15(ネ)233著作権侵害差止等請求控訴事件PDF
名古屋地裁平成15.2.7平成14(ワ)2148著作権侵害差止等請求事件PDF

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■追記(08/10/06)

企業法務戦士の雑感
■[企業法務][知財]消えたピアノ、消えない灯。

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■追記(09/1/26)

参考文献
今西頼太「デサフィナード事件」『著作権研究』35号(2008)256頁以下

   --------------------

■追記(09/6/12)

本山雅弘「飲食店舗における楽曲演奏の諸態様と著作権侵害の成否」『コピライト』578号(2009)34頁以下
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2008年09月03日

モズライトギター事件(控訴審)〜不正競争防止法 商標権侵害差止等請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)〜

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

モズライトギター事件(控訴審)

知財高裁平成20.8.28平成19(ネ)10094商標権侵害差止等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官      本多知成
裁判官      田中孝一

   --------------------

■事案

モズライト・ギター(エレキギター)の標章に関して
商標法4条1項10号(未登録周知商標保護)該当性、不正競争防止法
2条1項13号(原産地誤認表示性)などが争点となった事案の控訴審


原告(控訴人) :楽器輸入製造販売会社
被告(被控訴人):木工製品製造・販売会社ら

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 商標法4条1項10号、不正競争防止法2条1項13号

1 原告登録商標の無効性
2 被告標章の使用が原産地誤認表示行為にあたるか

   --------------------

■判決内容


<争点>

1 原告登録商標の無効性

原告登録商標「VIBRAMUTE」、「マルMマークmosrite of California」、
mosrite」がいずれも商標法4条1項10号(未登録周知商標の保護)に
該当し無効であると判断されています。

原告登録商標に基づく権利行使は認められませんでした(商標法39条、
特許法104条の3第1項)。
(23頁以下)

   ----------------------------------------

2 被告標章の使用が原産地誤認表示行為にあたるか

原告は、被告製品のエレキギターに付された被告標章
マルMマークmosrite of California」からすると、カリフォルニア州
で製作された表示になるが、被告商品は被告の自社工場のある長
野県で製作されたものであることから、原産地を偽り、需要者に原
産地を誤認させるとしてこうした表示の原産地誤認表示(不正競争
防止法2条1項13号)性を争点としました。

裁判所は、「of California」は、「カリフォルニア州製の」という意味
よりは、当初のモズライト・ギター誕生の地を示し、商品イメージを
表す付加的表示にとどまるものとして結論的には、控訴審でも原審
同様、不正競争行為性を否定しています。
(43頁以下)

「of」の前置詞の意味合いについて、裁判所は、カリフォルニア州以外
でもエレキギターが製造されていたことやそうした事実が日本の楽器
の取引者及び需要者に知られていた等の点から、「of California」は、
マルMマークmosrite」と一体としてセミー・モズレー又はその関連会
社が製造販売したモズライト・ギターであることを示す周知著名な商
標として理解されているものとしています。

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■コメント

原審と同様、請求が棄却されました。

   --------------------

■過去のブログ記事

2007年11月4日記事
駒沢公園行政書士事務所日記「モズライトギター」事件〜不正競争防止法 商標権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)

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2008年08月09日

馬券予想情報顧客名簿事件〜不正競争防止法 損害賠償請求事件判決(知的財産裁判例集)〜



最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

馬券予想情報顧客名簿事件

東京地裁平成20.7.30平成19(ワ)28949損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 清水節
裁判官      國分隆文
裁判官      間明宏充

   --------------------

■事案

競馬情報提供業者の元従業員らの顧客名簿持ち出しが
営業秘密侵害行為になるかどうかが争われた事案

原告:馬券予想情報提供会社
被告:原告元従業員ら

   --------------------

■結論

請求棄却

   --------------------

■争点

条文 不正競争防止法2条1項4号、2条1項14号、民法709条

1 顧客名簿は営業秘密に該当するか
2 被告による虚偽告知流布行為の有無
3 被告による備品窃取行為の有無

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 顧客名簿は営業秘密に該当するか

名簿販売業者から購入した名簿(一般名簿)と原告の会員と
なった者の名簿(会員名簿)の2種類(あわせて顧客名簿)の
営業秘密性がまず争点となっています。

営業秘密(不正競争防止法2条6項)の要件について、裁判所は、
「秘密として管理されている」(秘密管理性)というためには、

(1)当該情報にアクセスした者が、当該情報は営業秘密であると客観的に認識できること
(2)当該情報にアクセスする者が制限されていること
(3)組織的な管理が行われていること


が必要であると示したうえで、この事案では、

・新しい一般名簿をその都度コピーして被告らに渡していた
・会員名簿は金庫等に保管されているわけではない
・パソコンから誰でも名簿を取ることができた


などの顧客名簿の管理状況から秘密管理性を認めることはで
きず、名簿が営業秘密に該当するとはいえないと判断しました。
(11頁以下)

   --------------------

2 被告による虚偽告知流布行為の有無

原告は、被告らがそれらの顧客に対して、

「原告の予想は絶対に当たらない。悪徳予想屋である」
「一度,原告の会員になると,脱会しようとすると脅迫される」

(7頁)

など、原告の信用を毀損する虚偽の情報を電話で告知したとして
虚偽告知流布行為性(2条1項14号)を争点としています。

しかし、結論としては、告知事実の存在が認定されるに至って
いません。
(13頁以下)

   --------------------

3 被告による備品窃取行為の有無

原告は、被告らがプリンター用トナーやコピー用紙などの備品を窃
取したと主張しましたが、窃取行為の事実は認定されていません。
(15頁)


結論として、原告の主張は容れられず棄却判断となりました。

   --------------------

■コメント

退職従業員が退職前後から競業する会社の設立を準備、
営業活動を始めたことから、顧客名簿や備品の持ち出し
などの不法行為性が問題となりました。

なお、原告会社の以前の商号は「株式会社農林水産投資
協会」でしたが、この商号についてはJRA(日本中央競馬会)
が注意喚起しています。

JRAニュース
ご注意!『関東厩務員組合』、『(株)農林水産投資協会』

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後記:

競馬というと、小学生の頃まで府中競馬場のそばに
住んでいまして、うちのお隣も厩務員さんでした。
美浦トレーニングセンター(茨城)が開設されてたく
さんの同級生が引っ越していったのを思い出します。


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2008年08月02日

黒澤明監督作品格安DVD(対角川)事件(控訴審)〜著作権 著作権侵害差止請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)〜

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

黒澤明監督作品格安DVD(対角川)事件(控訴審)

知財高裁平成20.7.30平成19(ネ)10082著作権侵害差止請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 田中信義
裁判官      榎戸道也
裁判官      浅井憲

★原審
東京地裁平成19.9.14平成19(ワ)11535著作権侵害差止請求事件PDF

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★同日同法廷の対東宝事件控訴審判決
知財高裁平成20.7.30平成19(ネ)10083著作権侵害差止請求控訴事件PDF

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■事案

黒澤明監督「羅生門」「静かなる決闘」映画作品の保護期間をめぐり
映画の著作者が黒澤監督なのか映画会社であるのかが争われた
事案の控訴審

控訴人 :格安DVD製造販売会社
被控訴人:角川映画株式会社

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項2号、21条、113条1項1号、旧法6条

1 映画の著作者は誰か
2 映画の著作権者について
3 映画の著作権の存続期間

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■判決内容

<争点>

1 映画の著作者は誰か

裁判所は、旧著作権法における映画の著作物の著作者につ
いては、制作、監督、撮影、美術等を担当して映画の著作物
の全体的形成に創作的に寄与した者が当該映画の著作物
の著作者であると解するのが相当であると判断。

黒澤監督は本件映画の監督を務め、脚本の作成にも参加す
るなどしており、本件映画は黒澤監督の一貫したイメージに
沿って製作されたものであるとして、黒澤監督は本件映画
の全体的形成に創作的に寄与した者であり、著作者の一人
であると認定しています。

なお、裁判所は、旧法下でも法人著作の成立の余地を認め
ていますが(後掲 龍渓書舎復刻版事件(2))、新著作権法
15条(職務著作)の要件と同様の要件を具備するとの点に
ついて、控訴人からの主張立証がないとしてこの点からも
映画製作者の単独著作物性を認めていません。
(10頁以下)

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2 映画の著作権者について

映画の著作権の帰属については変遷があり、黒澤監督から
製作・興行を担当した旧大映へ、旧大映破産後は新大映、
組合との共有などを経て最終的には角川映画の単独保有と
なっています。
(16頁以下)

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3 映画の著作権の存続期間

旧著作権法6条の「著作物」について裁判所は、著作者名義
として団体を表示して発行又は興行した著作物をいうので
あって、その著作者は法人等である著作物をいうものとの
解釈を示しています。

そのうえで、本件映画のオープニングの冒頭部分で旧大映
の社章とともに「大映株式会社製作」が表示されていること、
そしてオープニングの最後に「監督 黒澤明」と表示されてい
る点を捉えて「大映株式会社製作」は映画製作者が旧大映
であることを示すもので、「監督 黒澤明」は黒澤監督が著
作者であることを示すものであると認定。

そうすると映画は著作者の実名を表示されて興行された著作
物となることから旧著作権法6条の適用はなく、旧著作権法3条
が適用されることになると判断。

結論として、平成48年12月31日まで(黒澤監督死亡の翌年から
38年)著作権は存続しているとされました(旧法22条の3、3条、
9条、52条1項)。(18頁以下)


原審同様、DVDの増製、輸入及び頒布の差止並びに在庫品の
廃棄が認められました。

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■コメント

映画「羅生門」の著作名義が映画監督の黒澤監督なら、
保護期間は平成48年まで、映画製作会社(旧大映)で
あれば平成12年までと保護期間に相違が出てくること
から旧著作権法の解釈として映画の著作者及び著作
名義をどのように考えるべきか(10頁)が争点となった
事案の控訴審です。

54条1項の適用が否定され保護期間の延長が認められ
なかった映画「シェーン」事件との違いについては、シェ
ーン事件がアメリカ法人を映画の著作者、著作名義とし
ていることを前提事実として保護期間延長措置の適否に
ついて附則の解釈が争点となったのに対して、今回の羅
生門事件は黒澤監督を著作者と表示して興行された映画
としての存続期間が争われているとして、両者は事案を
異にするものとされています。(20頁以下)

ただ、公表形態自体では、控訴人主張のようにタイトル
ロール部分の表示の違いは僅か(5頁以下)ですから、
この点だけを捉えれてみればシェーン事件で原告パラマ
ウント社としては争点の立て方を(結果論ですが)失敗
してしまったようにみえてはしまいます(この点につき、
後掲「企業法務戦士の雑感」記事参照)。

もっとも、今回の控訴審の判断にしても職務著作の成立
のための要件の検討が充分されていないこと(後掲岡論
文227頁参照)、「映画の著作権の存続期間が不明確にな
ってしまったという負の効果」(後掲駒田論文4頁参照)を
考えると、すんなりと得心するわけにはいかないところ
です。

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■過去のブログ記事

2007年09月21日記事
「黒澤明監督作品格安DVD」事件(対角川事件)

2007年12月18日記事
「シェーン」著作権保護期間満了事件(上告審)

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■参考判例

旧法下、政府部内の執務資料について国が著作者
として著作権を原始取得したとされた事案

龍渓書舎復刻版事件(2)
東京高裁昭和57.4.22判決昭和52(ネ)827著作権差止請求事件PDF

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■参考文献

小林尋次「現行著作権法の立法理由と解釈-著作権法全文改正の資料として-」(1958)114頁以下
岡 邦俊「最新判例62を読む 著作権の事件簿」(2007)223頁以下

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■参考サイト

企業法務戦士の雑感(2007-10-01記事)
■[企業法務][知財]綱渡りの主張

今村哲也「昭和28 年に団体の著作名義をもって公表された独創性を有する映画の著作物の著作権は平成15年12月31日の終了をもって存続期間が満了し消滅するとされた事例
LEX/DBインターネット TKC法律情報データベース
速報判例解説 知的財産法 No.8所収
論文PDF

駒田泰土「旧著作権法施行時に製作、公表された映画について、その著作権の存続期間が満了していないとされた事例(東京地方裁判所平成19年9月14日判決)
LEX/DBインターネット TKC法律情報データベース
速報判例解説 知的財産法 No.5所収
論文PDF

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2008年07月31日

船舶情報管理システム事件〜著作権 著作権確認等請求事件判決(知的財産裁判例集)〜

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

船舶情報管理システム事件

大阪地裁平成20.7.22平成19(ワ)11502著作権確認等請求事件PDF

大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 田中俊次
裁判官      西理香
裁判官      高松宏之

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■事案

船舶の塗料管理システムの著作権の帰属が争われた事案

原告:被告会社元従業員
被告:船舶用塗料製造販売会社

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■結論

請求棄却、却下

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■争点

条文 著作権法2条1項10号の2、15条2項

1 訴訟要件と本案の審理の先後関係
2 本件システムの著作物性
3 本件システムの職務著作物性
4 開発寄与分確認の訴えにおける確認の利益の有無

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■判決内容

<経緯>

S37.4  原告が被告会社に入社
S60   原告が被告子会社に出向
S61.6  原告が役員に就任
H4.6   原告が被告別子会社に出向、同会社社長に就任
H5.1   原告が退職
H9    被告がNEC製システムを外注

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<争点>

1 訴訟要件と本案の審理の先後関係

原告の請求の趣旨は、

(1)船舶情報管理システム(本件システム)に
   ついての著作権を有することの確認
(2)本件システムにタイする原告の開発寄与分
   の割合の確認


というものでした。

これに対して被告は、

(1)被告が現在使用中のシステムはNEC社製で、
   原告主張のシステムは存在しない
(2)仮に原告主張のシステムが存在しても、
   職務著作が成立している


と反論していました。

被告主張(1)が認められれば確認の利益を欠くことになり不適法却下
被告主張(2)が認められれば請求棄却

となるところですが、訴訟要件の審理と本案訴訟の審理との先後関係について、裁判所は、

原告は,まず,第1の被告主張について審理判断をし,第2の被告主張は第1の被告主張が排斥されて初めて審理判断すべきであると主張する。しかし,まず,訴訟要件の審理と本案訴訟の審理との先後関係については,特に前者を先行させる必要性はない。また,確かに,訴訟要件の存否が不確定なのに,その点の審理をしないで請求棄却の本案判決をすることは,原則として許されないというべきであるが,本件のような訴えの利益(確認の利益)については,本案の主張と重複する点が少なくなく,また,公益的要請のある他の訴訟要件とは異なるものであるから,訴訟要件の判断をせず,請求棄却の判決をすることも許されると解するのが相当である。したがって,被告の上記両主張の判断順序に制約があると解すべき根拠はない。
(27頁以下)

として、先後関係の制約を受けないと判断。
引き続いて被告主張(2)の職務著作性の肯否(本案)の検討を行っています。

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2 本件システムの著作物性

新造船建造時の塗料から現在就航中の船舶の修繕塗料まで、その船舶や塗料、塗装に関する情報を管理する本件システムの著作物性について、裁判所は、

船名,船種を始めとする船舶塗装に関する種々の情報を単独で,また,各情報を組み合わせた情報を随時任意に検索し,取り出せるようにしたものであって,電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合せたものとして表現したものをいうことができ,プログラムの著作物と評価することができるものというべきである(著作権法2条1項10号の2,10条1項9号)
(30頁)

として、本件システムの著作物性を肯定しています。

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3 本件システムの職務著作物性

本件システムの職務著作物性(15条2項)について、裁判所は、原告の本件システムの開発作成業務が会社の業務として行われたものであること、また上司から開発作成業務命令があったことから黙示の発意は優に認められるとして「職務上作成」「発意」の各要件を充足すると判断。
「別段の定め」もないことから、15条2項の職務著作物性を肯定しその著作者が被告子会社であると認定しています。

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4 開発寄与分確認の訴えにおける確認の利益の有無

原告の請求の第二点目となる(2)本件システムに対する原告の開発寄与分の割合の確認について、裁判所は、

原告の本件システムの開発について過去から現在に至るまでどの程度の寄与をしたかという過去の事実を数量的割合の形で確認するよう求めたものと解される
(34頁以下)

と捉えたうえで、本来、

民事訴訟は,法律上の争訟を解決することを目的とするものであるから,民事訴訟の1類型である確認訴訟の対象となるのは,原則として争いのある現在の権利又は法律関係に限定され,単なる過去の事実の存否は,確認訴訟の対象とはなり得ないものというべきである。

として、本件では、

本件システムに対する原告の開発寄与分がどれほどの割合であるかという過去の事実が現在の複数の権利又は法律関係の成否の前提となっているものということはできず,その事実を判決をもって確認することにより他の権利又は法律関係を巡る紛争が抜本的に解決され得るという関係に立っているとはいえない。

なお,原告の上記訴えは,実質的には,原告が本件システムの著作権についてどの程度の共有持分を有しているかという確認を求める趣旨であると解されるが,それは,結局のところ,原告の請求の趣旨第1項の請求に包含されるというべきである

ということから、請求の趣旨(2)にかかわる原告主張については、訴えの利益を欠き不適法却下と判断されました。

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■コメント

原告が被告会社を退職、独立したあとにシステム開発について業務委託を原告に外注してくれるよう被告と約束した・しないといったところから紛争が生じています。
(24頁参照)

すでに原告被告間でこの業務委託契約の存否について別訴提起があって、この点で原告敗訴が確定しています。
(31頁以下)

退職後14年も経過した時点で当時のシステムについての著作権の主張をするというのも、被告会社で他社製システムの導入の可能性が大いにあることも考えあわせれば状況的にはかなり無理のある本件提訴ではなかったでしょうか。

本人訴訟ということもあって、判決文からは原告の思い(被告への恨み・つらみ)はよく伝わりますが、70歳を迎え自らの半生にあたる自分史を判決文の形で残すこともないとは思うのですが。

なお、後掲参考判例の著作権確認請求事件を眺めてみると、却下の事例は少なく、また確認の利益が本案の主張と重複しているであろう事例も多いことが伺えるところです。

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■参考ブログ記事

審理の先後関係など民事訴訟手続上の問題点について、町村泰貴教授のブログ参照。

Matimulog(2008/07/28記事)
jugement:著作権存在確認の訴え

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■参考判例

著作権確認請求事件として

「七人の侍」映画化権事件(東地判昭和53.2.27)
地のさざめごと事件(東地判昭和55.9.17)
同期の桜事件(東地判昭和58.6.20)
こんにちは赤ちやん事件(東地判昭和59.12.21)
映画「飛騨の祭りと匠」事件(東地判昭和62.9.25)
童謡コヒノボリ事件(東地判平成1.8.16)
童謡チューリップ事件(最判平成4.1.16)
智恵子抄事件(最判平成5.3.30)
韓国の歌事件(東地判平成7.11.24)
俳句添削事件(東地判平成9.8.29)
どこまでも行こう/記念樹事件(東地判平成12.2.18)
ウルトラマン国際裁判管轄事件(最判平成13.6.8)
マクロス事件(東地判平成14.2.25)
ミュージカル作品事件(東地判平成16.3.19)
キューピー事件(大高判平成17.2.15)
ジョン万次郎銅像事件(東地判平成17.6.23)
死刑囚書籍事件(東地判平成17.8.25)
ロケット制御データ解析プログラム事件(東地判平成17.12.12)
テレビ番組背景音楽事件(東地判平成17.12.22)
THE BOOM事件(東地判平成19.1.19)
HEAT WAVE事件(東地判平成19.4.27)
虹彩占いゲーム機器プログラム事件(東地判平成20.2.27)
YG性格検査項目事件(第3事件)(大地判平成20.6.19)

などがあって、著作権確認請求事件自体は稀な類型(後掲岡口参照)でも無くなっている印象です。

このうち、訴えの利益を欠くとして却下した判断を示しているのは、俳句添削事件、ミュージカル作品事件(一部)、死刑囚書籍事件などとなります。

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■参考文献

森義之「職務著作」牧野利秋・飯村敏明編
新・裁判実務大系22 著作権関係訴訟法』(2004)238頁以下
岡口基一「著作権侵害訴訟の種類」同上書34頁
櫻林正己「著作権訴訟の主文例と差止対象の特定」斉藤博・牧野利秋編『裁判実務大系27 知的財産関係訴訟法』(1997)29頁


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2008年07月23日

映画「久高島」事件〜著作権 著作権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)〜

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

映画「久高島」事件

東京地裁平成20.7.16平成19(ワ)11418著作権侵害差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 清水節
裁判官      佐野信
裁判官      国分隆文

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■事案

沖縄県にある久高島の年中行事や祭りを題材としたドキュメンタリー映画
の取扱いについて取り交わされた覚書の内容をめぐって争われた事案

原告:映画製作者(甲)
被告:映画製作者(乙)
    映像制作会社

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 ----

1 被告乙に対する素材等の使用差止請求の可否
2 被告乙に対する素材等の久高区への交付請求の可否
3 被告会社に対する請求の可否

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■判決内容

<経緯>

S53.1     甲乙らが沖縄県久高島での行事や祭り「イザイホー」を撮影
〜54.1 
S54.2.26   被告会社設立 甲が代表取締役就任、乙が取締役就任
         甲乙間で紛争発生
S54.11.30  原告甲が代表取締役を退任
S56.10.29  被告乙が代表取締役に就任
S57.12.30  甲乙間で本件覚書締結
S59.7     2編の本件映画が完成
         被告会社が本件映画のビデオ、DVDを取扱い

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<争点>

1 被告乙に対する素材等の使用差止請求の可否

甲乙らが映像を撮影後、甲乙間で紛争が生じたことから
映画の編集作業が中断していました。
このドキュメンタリー映画の取扱いについてその後、仲介
者を得たうえで覚書を甲乙間で取り交わし、映画は完成。
本訴提起の時点で被告会社のHPで本件映画のビデオや
DVDの宣伝広告がされていました。

こうした経緯を踏まえ原告甲は、被告乙に対して本件覚書
を根拠として本件映画のプリント、ネガ原版、素材(残ネガ、
音素材など)の使用差止を請求しました。

この点について、裁判所は、

本件条項のうち原告の上記請求部分を基礎付ける記載は,前記争いのない事実等及び前記1で認定したとおり,「本映画は,映画製作に携わった何人も,版権,著作権,所有権,利用権を主張しない。」というものであり,この記載に基づいて,被告乙が,本件映画のプリント,ネガ原版及び素材を使用しないという具体的な義務を負わされたものと解釈することは困難であり,他にこの解釈を首肯し得るに足る証拠もない
(12頁以下)

として、被告乙に対する原告甲の請求を否定しました。

ところで、そもそも覚書(契約)を根拠にして差止請求
を立てることはできませんし、著作権の不行使を合意し
ている覚書を前提としている以上、著作権侵害に基づく
差止請求を主張するのも困難なところです。

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2 被告乙に対する素材等の久高区への交付請求の可否

原告甲は、本件覚書を根拠として被告乙に対して本件映
画のプリント、ネガ原版、素材を久高島の地域住民の自治
組織である久高区に交付するよう求めました。

この点について、裁判所は、

「完成した映画プリント,原版およびその素材は,後世沖縄久高島の研究に役立たせるために,久高島ないししかるべき公の機関に提供するものとする。それをどこにすべきかは,実行委員会が甲,乙を加えて協議し,趣旨にかなった最善の措置を決める。」というものであり,本件映画のプリント,ネガ原版等の提供先としては,久高島の自治組織である久高区又は適切な公的機関と例示するのみで,具体的な提供先を規定せず,具体的な提供先は,本件映画実行委員会,原告及び被告乙の協議によって決定するという内容であることが明らかである
(13頁)

そして、提供先については甲乙間で争いがあること、関
係者間で協議ももたれていないことから、提供先が久高
区に特定されていないとして、被告乙が久高区に交付す
べき義務を負っていないと判断。

結論として、原告甲の請求を否定しました。

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3 被告会社に対する請求の可否

原告甲は、本件映画の管理先として設立された被告会社
に対して、本件映画のプリント、ネガ原版、素材の使用差止、
本件映画のDVD原版、DVD製品の廃棄を求めました。

しかし、被告会社は本件覚書の契約当事者ではないこと、
また、被告乙は被告会社の代表取締役でしたが、法人格
濫用、信義則違反などの理由もないとして原告甲の請求
は否定されています。
(14頁)

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■コメント

本件覚書の内容は、9頁以下に詳しく掲載されています。

覚書はドキュメンタリー映画の民俗資料としての社会的
価値を確認していて、つまるところ合意者間では、無名の、
しかもパブリックドメインの著作物のようにして取扱おう、
と取り決めた感じの内容になっています。

話合いの経緯からすれば、この内容がぎりぎりの覚書だっ
たのかもしれませんが、仲介者に下駄を預けるあっせん
規定(規定(コ)11頁)も実効性がなかったようで、なんの
ための覚書取り交わしだったのか、わからなくなってしま
いました。

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ところで、久高島のホームページによると、平成14年に撮
影開始、18年に完成された映画「久高オデッセイ」(監督
 大重潤一郎)が公開されています(68分)。

30年近くまえに撮影された素材で2編合計で4時間のボリ
ュームを持つ本件ドキュメンタリー映画がこの「久高オデッ
セイ」の影に埋もれてしまわないと良いのですが。

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2008年07月22日

便座シート形態模倣事件〜不正競争防止法 不正競争行為差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)〜


最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

便座シート形態模倣事件

大阪地裁平成20.7.17平成20(ワ)1637不正競争行為差止等請求事件PDF

大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 田中俊次
裁判官      西理香
裁判官      北岡裕章

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■事案

便座シートの商品形態模倣行為性が争われた事案

原告:日用雑貨品製造販売会社
被告:日用雑貨品製造販売会社

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 不正競争防止法2条1項3号

1 被告製品は、原告製品の形態を模倣したものか

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■判決内容

<争点>

1 被告製品は、原告製品の形態を模倣したものか

原告製品は、便座シートで便座の形に添ったブーメラン形をした
不燃布素材のもので、被告商品も同様のものでした。

裁判所は原被告製品の形態の実質的同一性について、

(1)共通点

・便座の形に添ったブーメラン形
・不燃布からなる基布、厚手のアクリルボア融着
・不燃布の裏に貼着用樹脂
・便座シート


(2)相違点

・原告製品には内側に切り目がある
・裏側の凸状部の幅が異なる

といった対比のうえで、


(3)形態上の特徴の抽出

原告は実用新案登録を得た考案(登録3105081)にかかる内側切り
目部分を製品の特徴として強調して販売していること、需要者も
購入の際に内側切り目を意識し、その効用を予想するものと考えら
れるとしたうえで、原告製品の全体的な形態の中にあって内側切り
目部分が顕著な独自の特徴的な形態をもたらしているものと判断
しています。


(4)実質的同一性の判断

結論として、被告製品には、原告製品の形態上の顕著な特徴であ
る内側切り目が全く設けられていないとして、その他の両社製品
の形態上の共通点を考慮しても原被告製品が実質的に同一の形
態であると認めることはできないとしました。
(7頁以下)

なお、基布の表面にふかふかした厚手のアクリルボアが融着され
ていて肌触りの良い触感である点について、原告製品の特徴の一
つではあるものの、素材の違いを外観上明確に認識することはで
きず、これは原告製品の機能上(使用感)の特徴であっても形態
上の顕著な特徴をなすものとは認められないと判断されています
(10頁以下)。

以上のように被告の商品形態模倣行為性が否定されています。

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■コメント

吸着性があってずれない便座シートのデッドコピー商品性が
問題となった事案です。
原告のキャラクターを付けた消臭シートや便座隙間テープな
どのアイデア商品もすぐに他社に模倣される状況だったよう
ですが(5頁)、便座シートについては、便座の形が定型です
ので形自体はどうしても似てしまうわけで、原告登録の実用
新案部分の侵害はなく形態模倣性については否定される結
果となりました。

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■参考文献

大阪弁護士会知的財産法実務研究会編
不正競争防止法における商品形態の模倣」(2002)79頁以下

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2008年07月18日

裁判傍聴記事件〜著作権 発信者情報開示等請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)〜

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

裁判傍聴記事件

知財高裁平成20.7.17平成20(ネ)10009発信者情報開示等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官      中平健
裁判官      上田洋幸

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■事案

原告作成の裁判傍聴記が無断転載され、その記事がヤフー
ブログに掲載されていたことから、ヤフーに対して発信者
情報開示、ブログ記事の削除を求めた事案

原告:サイト運営者
被告:ヤフー

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、10条2項、プロバイダー責任制限法4条1項

1 裁判傍聴記の著作物性

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 裁判傍聴記の著作物性

原告がライブドア堀江貴文被告の証券取引法違反被告事
件の第4回公判期日を傍聴しその内容の一部をメモした
うえ傍聴記を作成、それをウェブサイトに掲載していました。

この原告傍聴記を無断転載した者がいたことから、ブログ
の発信者情報開示とブログ記事の削除を求め、その前提
として原告傍聴記の著作物性が争点となりました。

裁判所は、著作物性の判断について、表現が平凡かつあ
りふれたものである場合は記述者の個性が現れていない
ものとして、「創作的に表現されたもの」(2条1項1号)であ
るとすることはできず、また、もっぱら事実を叙述する場合
は、「思想又は感情」を表現したことにならない(10条2項)
との一般論を説示。

そのうえで、原告傍聴記の内容について、

(1)証人が実際に証言した内容を原告が聴取したとおりの記述
(2)要約したものであってもありふれた方法である
(3)大項目や中項目などの付加的表記もごくありふれたもの、短いもの
(4)証言の順序の入替えなどに創意工夫があるとはいえない

結論として、原告傍聴記について著作物性を否定しました。
(7頁以下)

著作権侵害性が否定されたことから、プロバイダー責任
制限法4条1項「自己の権利を侵害された」者に原告が当
たらない(侵害の明白性もない)ことになります。

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■コメント

転載先のブログは、こちらです(別紙ブログ目録)。

Yahoo!ブログ - ライブドア被害者日記
丸山 サトシ氏への検察側による主尋問(2006.9.30 記事1)
ライブドア事件検察側証人尋問 (2006.10.25 記事2)

その記事に原告が無断転載しないようコメントしていま
す(記事1コメント欄参照)。

原告サイト
堀江貴文ライブドア事件裁判傍聴記

参照:Matimulog(2008/07/18)
arret:発信者情報開示請求棄却例

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原審でも裁判傍聴記の著作物性が否定されていましたが
(裁判所サイト未登載)、控訴審でも否定された結果となっ
ています。

原告は裁判傍聴記を短いセンテンスで箇条書きのメモの
ような体裁でウェブサイトに掲載していました。

過去に記事見出しに著作物性を認めなかった事例として
ヨミウリオンライン事件がありますが、今回の裁判傍聴記
に創作性を認めず、無断転載をしても著作権侵害性とは
ならないとの判断を知財高裁が下したことは、ブログなど
サイト利用、運営の際の転載や引用を考えるうえで先例
として重要です。

ところで、10条2項の規定が著作権による保護の例外規
定であるとして適用範囲を限定的に解釈する立場(内田
晋「日刊情報事件」『著作権判例百選第二版』(1994)
11頁参照)に立った場合、本件のような内容のウェブ記
事が「事実の伝達」にあたるかどうか、判断が微妙なと
ころですが、デッドコピー事案であるにもかかわらず著作
権侵害性を否定していることもあわせ考えると、もしかし
たら来年5月には裁判員制度も始まりますし裁判官の政
策的価値判断として、「裁判での証言内容などの表現は
できるかぎり自由に利用させるべき」との考えが働いた
のかもしれません。

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■参考判例

10条2項「事実の伝達」にかかわる裁判例として以下の
ようなものがあります。
(1)〜(7)のうち(7)だけが著作物性否定の事案です。

(1)民青の告白事件
  東京地裁昭和47.10.11判決昭和44(ワ)9353損害賠償等請求事件

(2)日刊情報事件
  福岡地裁大牟田支部昭和59.9.28判決昭和58(ヨ)51販売差止仮処分事件

(3)ウォール・ストリート・ジャーナル記事事件
  東京地裁平成3.9.24決定平成2(ヨ)2550著作権侵害差止仮処分申請事件

(4)コムライン・デイリー・ニュース事件
  東京地裁平成6.2.18判決平成4(ワ)2085著作権民事訴訟

(5)SMAP大研究事件
  東京地裁平成10.10.29判決平成7(ワ)19455著作権民事訴訟

(6)ホテルジャンキーズ事件
  知財高裁平成14.10.29判決平成14(ネ)2887等著作権侵害差止等請求控訴事件等
  東京地裁平成14.4.15判決平成13(ワ)22066著作権侵害差止等請求事件
  
(7)ヨミウリオンライン事件
  知財高裁平成17.10.6判決平成17(ネ)10049著作権侵害差止等請求控訴事件
  東京地裁平成16.3.24判決平成14(ワ)28035著作権侵害差止等請求事件

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そのほか、歴史的事実の叙述について、

(8)井深大葬儀事件
  東京高裁平成14.9.19判決平成13(ネ)602書籍発行差止等請求控訴事件
  東京地裁平成12.12.26判決平成11(ワ)26366書籍発行差止等請求事件

葬儀という歴史的事実の客観的記述として創作性が否定さ
れた事案です。

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■参考文献

花村征志「時事の雑報及び時事の報道-「日刊情報」事件-」
      『著作権判例百選第三版』(2001)10頁以下
著作権判例研究会編「最新著作権関係判例集」1巻83頁以下、
              4巻79頁以下、10巻110頁以下
中山信弘「著作権法」(2007)38頁以下

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■追記08.7.24

・企業法務戦士の雑感(2008-07-22記事)
■[企業法務][知財]腑に落ちない結論

・「知」的ユウレイ屋敷(2008年07月21日記事)
[著作権]速報的ブログ記事の著作物性

・阿曽山大噴火コラム「裁判Showに行こう」(2008年7月21日記事)
強姦の長崎国際テレビ局員、否認したのは会社のため

・今井亮一の交通違反バカ一代!(2008年7月19日 (土)記事)
ブログ記事の無断転載が合法!?

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■追記08/11/2

MORI LOG ACADEMY(森博嗣) 2008年10月29日(水曜日)記事
【社会】 著作権とは

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■追記08/12/12

最高裁第1小法廷(涌井紀夫裁判長)が12月11日、上告不受理決定

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■追記09.2.5

TKCローライブラリー速報判例解説
上野達弘「裁判傍聴記の著作物性(ライブドア裁判傍聴記事件)(知的財産高等裁判所平成20年7月17日判決)」PDF

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■追記09.7.12

泉 克幸「裁判傍聴記の著作物性の判断-ライブドア裁判傍聴記事件-」『知財管理』59巻6号(2009)689頁以下
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2008年07月15日

ファンシーグッズ形態模倣事件〜著作権 損害賠償等請求事件判決(知的財産裁判例集)〜

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

ファンシーグッズ形態模倣事件

東京地裁平成20.7.4平成19(ワ)19275損害賠償等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 阿部正幸
裁判官      平田直人
裁判官      瀬田浩久

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■事案

ファンシーグッズの商品形態模倣による不正競争行為性、
著作権侵害性など小売店の責任が争われた事案

原告:キャラクター商品製造販売輸出会社(韓国法人)
    キャラクター商品製造販売輸入会社(日本法人)
被告:百貨店

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、
   不正競争防止法2条1項3号、19条1項5項ロ


1 準拠法
2 被告商品は原告商品の形態を模倣したものか
3 原告商品の形態は商品の機能を確保するために不可欠な形態か
4 被告の悪意重過失性(19条1項5項ロ)
5 原告商品の著作物性

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■判決内容

<経緯>

     原告韓国法人と原告日本法人が製造商品の国内独占販売
     許諾契約締結
H16.4 被告が仕入れた被告商品を販売
H16.8 原告日本法人が原告商品を販売


<争点>

1 準拠法

原告商品は、プードルのぬいぐるみと小物入れを組み合わせた
「プチホルダー」で東京ギフトショー(平成15年秋)で審査員特別賞
を受賞したファンシーグッズでした。

原告商品の製造元が韓国法人であったことから、まず準拠法が
検討されています。

裁判所は、不正競争行為と著作権侵害に基づく損害賠償請求の
準拠法については、法適用通則法に直接の規定がないため条理
によるのが相当であるとしたうえで、不法行為としての法性決定
から通則法17条(通則法施行前の行為については法例11条1項)
により民法709条が適用されると判断しています。
(11頁)

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2 被告商品は原告商品の形態を模倣したものか

原告商品と被告商品を比較すると、個々の特徴的形状の多くが
共通していて全体の形態もほぼ同一であるとして、両者の形態
は実質的に同一であると判断されています。
(16頁以下)

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3 原告商品の形態は商品の機能を確保するために不可欠な形態か

原告商品の形態は、プードルのぬいぐるみと小物入れの組合せ
から必然的に導かれる形態であるとはいえないし、特定の効果
を奏するための必須の技術的形態であるともいえないとして、
不正競争防止法2条1項3号「商品の機能を確保するために不可
欠な形態」にはあたらないと判断されています。
(18頁以下)

   --------------------

4 被告の悪意重過失性(19条1項5項ロ)

取扱商品が他人の知的財産権を侵害していないかどうかについ
ての被告の調査義務違反性について、裁判所は、

被告における商品の仕入れは,商品の仕入れを担当する部門に所属するバイヤーが,仕入先が行う多数の企画提案の中から,特定の商品の企画提案を採用し,その販売数量や価格等を決定して行うというものであり,また,被告商品の仕入れを担当する部門が1年間に取り扱う商品数だけでも約12万点に及び,仕入先が被告に対して行う企画提案の数も極めて多数に及ぶものと推測されることからすると,被告は,被告商品の仕入れを行うに当たり,被告商品の企画や生産の過程に関与することはなく,被告商品の選定やその販売数量及び価格等の決定のみを行っていたものと認められる。また,上記の膨大な数量の商品すべてについて,その開発過程を確認するとともに,形態が実質的に同一である同種商品がないかどうかを調査することは,著しく困難であるということができる。

一方,原告商品は,これまでの販売金額が合計19万0487円,販売数量も合計330個にとどまり,その宣伝,広告も,原告ベストエバージャパンのウェブページや商品カタログに写真が掲載されている程度であって,一般に広く認知された商品とは認められないことからすると,被告は,被告商品を平成化成から購入するに当たり,取引上要求される通常の注意を払ったとしても,原告商品の存在を知り,被告商品が原告商品の形態を模倣した事実を認識することはできなかったものというべきである。
(19頁以下)

として、被告による模倣商品の善意取得(不正競争防止法19条
1項5項ロ)について仕入れ時の悪意重過失性を否定、調査義務
違反性を認めていません。

なお、一般に、善意無重過失の判断要素としては、

(1)原告商品の宣伝広告の程度
(2)被告の専門業者性
(3)商品の類似性の程度


などが考慮されることになります(小野昌延編「新注解不正
競争防止法新版」(下)(2007)1214頁以下参照)。

   --------------------

5 原告商品の著作物性

著作権法2条1項1号で保護される著作物について、裁判所は、

実用に供され,あるいは産業上利用されることが予定されているものは,それが純粋美術や美術工芸品と同視することができるような美術性を備えている場合に限り,著作権法による保護の対象になる
(21頁以下)

としたうえで、

原告商品は,小物入れにプードルのぬいぐるみを組み合わせたもので,小物入れの機能を備えた実用品であることは明らかである。そして,原告が主張する,ペットとしてのかわいらしさや癒し等の点は,プードルのぬいぐるみ自体から当然に生じる感情というべきであり,原告商品において表現されているプードルの顔の表情や手足の格好等の点に,純粋美術や美術工芸品と同視することができるような美術性を認めることは困難である。

として、原告商品の著作権法2条1項1号の著作物性を否定して
います。


結論として、被告の不法行為性が否定されました。

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■コメント

被告はファッションセンターしまむらで、本件はしまむらが
取扱ったファンシーグッズの商品形態模倣による不正競争
行為性、著作権侵害性が争われた事案です。

しまむらは、製造元から卸を経由して被告商品を仕入れた
わけですが、同社のファッション部門が取扱う商品だけでも
年間12万点(企画案も多数)、その取引先は138社にのぼる
ところで(14頁、19頁)、原告商品の周知度合いを考えあわ
せると同社バイヤーの調査義務違反(重過失)を肯定する
までのところとはなりませんでした。

また、大量生産品の保護は、意匠法によるほかは著作権法で
の保護は難しいところです。

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■追記08/7/18

参考サイト
企業法務戦士の雑感(2008-07-17記事)
■[企業法務][知財]救われた小売店

   --------------------

■追記09/1/1

LEX/DBインターネット TKC法律情報データベース
速報判例解説
泉克幸「商品形態模倣行為と善意取得者保護
論文PDF

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2008年07月14日

幼児向け教育ビデオキャラクター事件〜著作権 損害賠償請求事件判決(知的財産裁判例集)〜

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

幼児向け教育ビデオキャラクター事件

東京地裁平成20.7.4平成18(ワ)16899損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 阿部正幸
裁判官      平田直人
裁判官      柵木澄子


   --------------------

■事案

幼児向け教育用DVD商品に使用された博士キャラクター
イラストの類似性が争われた事案

原告:ビデオソフト製作販売会社
被告:CD、DVDソフト販売会社

   --------------------

■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、21条、27条、
    不正競争防止法2条1項1号


1 原告博士絵柄の創作性
2 原被告博士絵柄の類似性
3 原告博士絵柄の商品等表示性、周知性

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■判決内容

<経緯>

       原告関連会社が原告商品(幼児向け教育用VHSビデオ)を
       制作、原告に著作権譲渡
H9.4    原告が原告商品を販売
H11.5   原告被告間でビデオ版のOEMライセンス契約
H12.6   原告被告間でDVD版のOEMライセンス契約(都合3点の商品)
H13.12   被告が被告博士絵柄を外注製作
H17.7   4点の被告商品の映像などで被告博士絵柄を使用
H19.1.24  原告が各ライセンス契約について解除の意思表示

   --------------------

<争点>

1 原告博士絵柄の創作性

被告商品で使用する博士絵柄が、原告商品で使用する博士絵柄に
類似するとして複製権及び翻案権侵害性が争われました。

まず、原告博士絵柄の創作性について、裁判所は、

原告博士絵柄は,角帽やガウン,髭などにより,物知りの博士をイメージした人物という点で,ある程度の権威付けをしながらも,特に,幼児向けという原告商品の特性を念頭に置いて,ふっくらとした顔や目つき,2頭身や大きな手振りなどにより,優しそうで親しみのある雰囲気を描いていることに特徴があるといえる。
(17頁)

としたうえで、

原告博士絵柄は,全体としてみたとき,前記(1)のような特徴を備えた博士の絵柄の一つの表現であって,そこに作成者の個性の反映された創作性があるというべきであり,原告商品の一部を構成する原告博士絵柄の登場する画像の著作物として,創作的な表現とみることができるものと認められる。
(18頁)

として、原告博士絵柄の創作性を肯定しています。

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2 原被告博士絵柄の類似性

次に、原告博士絵柄と被告博士絵柄の共通点と相違点、それに原告
被告間のライセンス契約上、被告博士絵柄が原告博士絵柄に似せて
3Dモデリングソフトで製作された経緯を踏まえ両者の類否が検討され
ています。

(共通点)
・角帽を被ってガウンをまとう二頭身の年配男性の博士
・下ぶくれの台形状の顔のつくり、カイゼル髭

(相違点)
・全体の質感、輝き、縦横の比率
・耳の有無、鼻の形、瞳の色
・角帽の被り方、ガウンのデザイン


裁判所は、

原告博士絵柄と被告博士絵柄とを対比すると,原告博士絵柄と被告博士絵柄とは,前記(1)アのとおりの共通点があり,また,同ウの由来を考慮すれば,元来,被告博士絵柄は,原告博士絵柄に似せて製作されたものということができるものの,同イの相違点に照らすと,絵柄として酷似しているとは,言い難いものと認められる。
(20頁)

そして、共通性のある表現部分は、アイデアあるいは創作性の認め
られないありふれた表現部分において同一性を有するに過ぎないと
して被告博士絵柄に原告博士絵柄を表現する固有の本質的特徴を
看取することはできないと結論付けています。
(18頁以下)

   --------------------

3 原告博士絵柄の商品等表示性、周知性

不正競争防止法に関する争点(商品・営業主体混同行為性)につい
て、原告商品が10万本単位で販売されている実績があるものの、商
品のパッケージや外装に記載されている原告博士絵柄が、コンテン
ツの主題となる絵や写真のいわば脇役として描かれているものにす
ぎないとして、原告博士絵柄の商品等表示性が否定されています。

また、仮に原告博士絵柄が商品等表示として周知であったとしても、
被告博士絵柄との類似性がなく商品の混同を生じさせるものではな
い、と裁判所は判断しています。
(21頁以下)

結論として、原告博士図柄に商品出所表示機能性、営業主体混同性
がなく、被告の不正競争行為性(不正競争防止法2条1項1号)は否定
されました。

   --------------------

■コメント

判決文PDF35頁以下に、原被告絵柄が別紙で添付されていま
すが、これだけ見る限り、そっくりです。

先に原被告間で教育用ソフト販売に関するOEMライセンス契約
(被告ブランドでの販売)があって数年後に同種ソフトで類似の
キャラクターがライセンシー側で無断で使用されることとなった
ことから、一見するとライセンス契約違反、さらには依拠性もあ
って著作権侵害の可能性が高そうに思われる事案ですが、原告
絵柄が平板なものであるのに対して、被告絵柄は立体的で質感
があったこと、動きのある映像として見たときの絵柄の違いが
「明白」(21頁)だったことなどもあって、被告の行為は教育ソフト
で「博士のキャラクターを使う」というアイデアの盗用のレベルに
とどまり、著作権侵害性があると判断されるに至りませんでした
(なお、ライセンス契約違反性は争点とはなっていません)。

創作性の低い著作物においては、デッドコピーででもない限り保
護が難しくなります(本件で裁判所も「酷似」性を要求。20頁)。

とはいえ、契約関係があるなかであえて原告商品と競合するよう
な商品でしかも類似する博士キャラクターを登場させていること
からすれば、被告の行為に違法性が認められてもおかしくなかっ
たかもしれませんが、博士キャラクターが他社のコンテンツでも
多く利用されているタイプのものであったこと(7件の乙号証の提
出)や映像を示すなど、被告の丁寧な立証活動が棄却の結果に
繋がったのかもしれません。

   --------------------

ところで、キャラクター絵柄を二次元から三次元に、静止画から
動画にするなどの場合のクリエイター(原作者、3Dデザイナー)、
代理店、クライアント三者の権利処理をしている実務感覚からす
ると、みなさん、著作権にはそうとう敏感になっていて、契約書
なしで済ませられる状況ではない昨今です。

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■参考サイト

原告商品
ビデオ・DVDソフト紹介

被告商品
通販ショップ

*被告商品の現在のラインナップでは、イラストを差替えて
いるようです。

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■追記09/10/09

津幡 笑「絵画的な表現の著作物の保護範囲-博士イラスト事件-」『知的財産法政策学研究』24号97頁以下(2009)

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