知財判決速報2006

2006年09月30日

「医薬品カプセル色彩類似」事件〜不正競争防止法 不正競争行為差止等請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)〜

裁判所HP 知的財産裁判例集より

「医薬品カプセル色彩類似」事件(控訴審)


★控訴審

対東和薬品株式会社訴訟
知的財産高等裁平成18.9.27平成18(ネ)10011 不正競争行為差止等請求控訴事件 不正競争 民事訴訟PDF

対沢井製薬株式会社訴訟
知的財産高等裁平成18.9.27平成18(ネ)10019 不正競争行為差止等請求控訴事件 不正競争 民事訴訟PDF

対大正薬品工業株式会社訴訟
知的財産高等裁平成18.9.27平成18(ネ)10028 不正競争行為差止等請求控訴事件 不正競争 民事訴訟PDF

上記3件いずれも

知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官    森義之
裁判官    田中孝一



過去のブログ記事(2006年01月17日)
「医薬品カプセル色彩類似」事件〜不正競争行為差止等請求事件判決(知財判決速報)〜


■事案

原告(控訴人):エーザイ
被告(被控訴人):医薬品会社12社

特許権の切れた医薬品の後発製品(いわゆるゾロ品)のカプセル色彩やカプセルを包装しているPTP シート上の文字色彩の「商品等表示性」を巡って争われた事案。


■結論


3件ともに控訴棄却(原告エーザイ側敗訴)


■争点

条文 不正競争防止法2条1項1号、民法709条

1 カプセル色彩等の商品等表示性
2 一般不法行為の肯否


■判決内容

以下、対東和薬品株式会社訴訟判決を基にします。


1 カプセル色彩等の商品等表示性

原審の判断、理由とほぼ同旨です。

ただ、患者が「需要者」に含まれるかどうかの判断について
原審では含まれないとしていましたが(原審PDF11頁)、
控訴審では、含まれるとしました(25頁以下)。

もっとも、結論には影響がありませんでした。


原審PDF
東京地裁平成18年01月18日平成17年(ワ)第5651号不正競争行為差止等請求事件


2 一般不法行為の肯否

控訴審で新たに予備的請求として不法行為論が展開されました。
類似商品の販売行為が公正な競争として社会的に許容される
限度を超えるものであるとして709条の不法行為にあたると主張。

しかし、結論としては不法行為性も否定されました。
(31頁以下)


■コメント

控訴審判決3件が9月29日同日にアップされました。
いずれも同一コートの判断で控訴棄却。

これで、ジェネリック医薬品の外観について、
特段の事情がない限り先発医薬品と類似する色彩のカプセル等を利用しても
法的には問題なし、ということになりました。
(12件の類似訴訟のうちの3件の判断ではありますが。)


■追記(06.10.2)

対大洋薬品工業株式会社
知財高裁平成18年09月28日平成18(ネ)10009 不正競争行為差止等請求控訴事件 不正競争 民事訴訟PDF

控訴棄却

知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官    三村量一
裁判官    古閑裕二


■追記(06.10.3)

対株式会社陽進堂
知財高裁平成18.9.28平成18(ネ)10022不正競争行為差止等請求控訴事件

請求棄却


対シー・エイチ・オー新薬株式会社、メルク・ホエイ株式会社
知財高裁平成18.9.28平成18(ネ)10021不正競争行為差止等請求控訴事件

請求棄却


対小林薬学工業株式会社
知財高裁平成18.9.28平成18(ネ)10012不正競争行為差止等請求控訴事件

請求棄却


以上、3件ともに

知的財産高等裁判所第3部

裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官    三村量一
裁判官    古閑裕二



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2006年09月28日

「江戸庶民風俗図絵模写(対柏書房)」事件(控訴審)〜著作権侵害差止等請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)〜

裁判所HP 知的財産裁判例集より


江戸庶民風俗図絵模写(対柏書房)」事件(控訴審)


知財高裁平成18.9.26平成18(ネ)10037著作権侵害差止等請求控訴・同附帯控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 三村量一
裁判官 古閑裕二


★原審
東京地裁平成18.3.23平成17(ワ)第10790号著作権侵害差止等請求事件 著作権 民事訴訟


過去のブログ記事
駒沢公園行政書士事務所日記「江戸庶民風俗図絵模写」事件〜著作権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)〜


■事案

江戸時代に制作された風俗図絵の模写の著作物性を巡って
争われた事案の控訴審判決。


原告(控訴人・附帯被控訴人):江戸風俗図絵作家側
被告(被控訴人・附帯控訴人):出版社



■結論

控訴棄却
(附帯控訴の損害賠償額部分変更:減額)


■争点

条文 著作権法第2条1項1号、114条3項

1 模写作品の著作物性
2 損害賠償額の算定



■判決内容

1 模写作品の著作物性

原審同様、4点のうち2点について著作物を肯定。


2 損害賠償額の算定

原審では、著作権侵害による直接損害部分について
1回の使用許諾料(2万2222円)と無断使用の際の
ペナルティ料(6万6666円)の中間を取って4万4444円と
算定していました(原審38頁)。

控訴審ではこうした判断は行わず、あくまで損害は
使用料相当額(2万2222円、114条3項)であるとしました。
(20頁)
ペナルティ料として通常使用料の3倍額を請求していたことが
別件で過去にあったという事情は斟酌されませんでした。


著作物性の判断のほか、販売差止、部分廃棄等についても
原審の判断が維持されています。


■コメント

損害額の算定部分以外、控訴審は原審の判断を維持しています。


原告作家側は「模写」あるいは「創作性」についての
考えを述べています。(4頁以下)

模写行為のエッセンスが「原作者の制作過程の追体験」であるとか
(7頁)、
絵画のモチーフと表現方法・手段との表裏一体性(12頁以下)など
原告側の言わんとするところは納得できます。

ですが、創作性の判断の際に「制作の結果」だけでなく
制作過程も検討しなくてはならない(11頁)という
原告側の主張には無理があります。


話は少し逸れますが、
つい先日、出光美術館で俵屋宗達と尾形光琳の風神雷神図屏風を
前にしたときのことです。

光琳の屏風図制作過程について、
光琳がどのような思いをもって宗達の作品に
薄紙をあててトレースをして寸分たがわぬ模写図屏風を
完成させたのか、
想い巡らさずにはいられませんでした。

たしかに制作過程は「精神的創作」の源泉です。
ただ、そうはいっても、
光琳の作品がたんなる宗達作品のコピーなのか、
それ以上のなにかが光琳の作品に
付与されているのかどうかは、
表現された光琳の作品そのものから
感じ取らなければならないはずです。


アイデアやコンセプト自体が保護されないのと同様、
著作権法上の「創作性」の有無は制作の結果として
現れたモノ(「表現したもの」2条1項1号)から
判断しなければなりません。

作家さんの制作過程を思い描きながら模写絵の
二次的著作物性を判断するという枠組みは現行法では
採用することはできないでしょう。



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2006年09月26日

「平成電電営業秘密」事件〜不正競争防止法 営業行為差止請求事件判決(知的財産裁判例集)〜

裁判所HP 知的財産裁判例集より

「平成電電営業秘密」事件

平成18.3.30平成16年(ワ)第25297号 営業行為差止請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 設楽隆一
裁判官    鈴木千帆
裁判官    荒井章光



■事案

原告:平成電電
被告:ソフトバンク、日本テレコム


平成電電とソフトバンクとの資本提携(M&A)交渉段階で
平成電電側から開示された情報の営業秘密性および
ソフトバンクによる日本テレコム(ソフトバンク子会社)への
営業秘密の不正開示行為の肯否が争われた事案。


■結論

請求棄却


■争点

条文 不正競争防止法2条6項

1 開示情報の営業秘密性、不正開示行為の肯否


■判決内容

1 開示情報の営業秘密性、不正開示行為の肯否

直収サービスに関する原理、NTTとの合意事項、LS交換機調達の事実、
交換機やRT装置の機器構成、サービス情報、局舎設備機器一覧などの
営業秘密性(非公知性、有用性、秘密管理性)、不正開示行為性が
争われました(営業秘密目録については115頁以下参照)。

しかし、各事項の詳細な検討からいずれの事項についても
営業秘密性あるいは不正開示行為性の要件を欠くものとして
不正競争行為性が否定されています。


なお、裁判所は上記すべての事項を一体としての営業秘密
(「一体的営業秘密」)として捉えることを肯定した上で、
その全部または一部の不正開示行為性を否定しています。
(107頁以下)


■コメント

NTTの電話交換機を通さない原告平成電電の固定電話サービス事業
(直収電話サービス「CHOKKA」)について、
被告ソフトバンクが強い関心を示して原告と資本提携交渉へ。

秘密保持契約を締結した上で情報の開示を受けましたが、
結局、被告は買収を断念。

その後、被告の100%子会社である日本テレコムが
原告と同種のサービスを提供することとなったことから
原告はソフトバンクに対して営業秘密の開示差止を
日本テレコムに対しては、営業秘密を不正に使用した
電話サービスの販売差止を訴求しました。


平成電電は05年10月、経営悪化から民事再生手続へ。
しかし、支援が受けられず06年6月破産手続に入り
結局、日本テレコムに事業譲渡され清算会社へ。
(「平成電電」 - Wikipediaより)

ということで、裁判の続きはないことになります。


ところで、3月30日判決の事案ですが、
裁判所のサイトにアップされたのは9月25日。
ほぼ6ヶ月遅れです。

その当時は裁判所サイトのリニューアル時期でもあり、
うっかり載せるのを忘れた?」とも、
はじめは思いましたが、
PDF判決文を読んでみると、
所々がアスタリスクで伏字となっています。

この処理のためにアップまで時間がかかったのかも
しれません。


こういう、時期外れの判例アップでは、さすがに人力では
フォローできません。

その点、「裁判所判例Watch」では、アップされた判例を
自動で収集してPINGを飛ばしてくれるのでRSSリーダー
で更新をチェックできて助かります。

裁判所判例Watch

今回の判決も裁判所判例Watchで気が付くことが
できました。


■追記(06.11.06)

「企業法務戦士の雑感」さんのブログ記事が
アップされています。

[企業法務][知財] 恐るべきソフトバンク
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2006年09月24日

「華道専正池坊家元」事件〜不正競争防止法 損害賠償等請求事件控訴審判決(知的財産裁判例集)〜

裁判所HP 知的財産裁判例集より

「華道専正池坊家元」事件


★控訴審

大坂高裁平成18.9.20平成17(ネ)3088 損害賠償等請求控訴事件 不正競争 民事訴訟PDF

大阪高等裁判所第8民事部
裁判長裁判官 若林諒
裁判官    小野洋一
裁判官    長井浩一


★原審
神戸地裁平成15年(ワ)3075号(裁判所HP未登載)


■事案

華道池坊の一派(華道専正池坊)の
家元の地位をめぐって争われた事案。

原告:家元(四代目)
被告:事務局長(自称五代目)



原告が四代目家元に就任して1年も経たないうちに
緊急役員会により一方的辞任に追い込まれ、
五代目家元には事務局長が就任しました。

四代目家元が、この五代目家元となった事務局長を被告として
家元の地位の確認、「華道専正池坊」「専正」
「ロイヤルフラワーアレンジメント」などの標章の使用差止等を
不正競争防止法などを根拠として請求しました。



■結論

一部変更(原告側家元勝訴)

原審に引き続き四代目家元が勝訴


■争点

条文 不正競争防止法2条1項1号、2号、商標法

1 家元たる地位の確認
2 不正競争行為の肯否
3 商標権侵害行為の肯否
4 名称使用権限の有無
5 権限濫用の肯否


■判決内容

1 家元たる地位の確認

裁判所は、家元たる地位が法律上の地位であることを認定のうえ、
家元選任方法、家元辞任にいたる経緯などを詳細に検討。
四代目家元の辞任、役員会における五代目家元選出は
無効であるとして、四代目による家元としての
地位確認の請求を肯定しました。
(36頁以下)


2 不正競争行為の肯否

家元によって行われる華道、煎茶道の教授、普及その他の活動は、
不正競争防止法2条1項1号の「営業」にあたる。
また、「華道専正池坊」などの名称は「商品等表示」にあたり、
さらに「周知性」の要件も具備する。そして
被告による同一又は類似する営業表示による活動は誤認混同のおそれがある、
として不正競争行為性を肯定しています。
(37頁以下)

論点的には華道事業の「営業」性がありますが、
従来の判例の立場にたったもので本事案では
争点とはなっていません。


3 商標権侵害行為の肯否

これといった争点もなく、侵害性を肯定しています。


4 名称使用権限の有無

1 家元と事務局、また事務局長との法律関係について、
被告側は家元から業務委任契約に付随するものとして
名称使用を許諾されていたと主張していました。

しかし、裁判所は、事務局長はあくまで事務局の
事務処理の範囲において名称を使用できるにすぎず、
事務局長が五代目家元として名称を使用することまでは
認められるものではない、として被告側の主張を退けました。
(41頁以下)


2 さらに被告側は、名板貸類似の双務契約が成立していた
とも主張。

しかし、裁判所は、家元が事務局(事務局長)に事務手続と経理処理を
委任していたに過ぎず事務局長に免状発行権限があるわけではない。
被告が原告の名称(四代目家元)を使用して自己の計算で
事業活動を行っていたわけではない、として
この点の主張も容れませんでした。
(42頁以下)


5 権限濫用の肯否

被告側の事務局の経理処理上の疑義に端を発したうえでの
家元と事務局との業務委任契約の解消は、不合理とはいえず
原告の名称等の差止請求は権利濫用にはあたらないとしました。


■コメント

法律論争ではなくて、家元はだれか、という
事実認定中心の事案です。


興味深かったのは家元と事務局との法律関係についての
考え方。


1家元→事務局  家元から事務局へ事務処理・経理処理を
             業務委託している(委任契約

2事務局→家元  家元は給料をもらうたんなる従業員(労働契約

3事務局←→家元  名板貸類似の双務契約
              家元の名を借りて免状も含めて
              実質は事務局が判断
              家元はその対価を報酬として得る  


裁判所は最終的には1の考え方を前提としました。


四代目家元は、三代目からの指名によって
就任した方です。
対する自称五代目は事務局長で創始者の血縁に当たる方。

四代目家元は副家元として20年以上の
華道のキャリアがありますが、被告側に言わせると

流派の実技を学んだことはなく、伝統的花形(花型)を
生けることも指導することもできない
」(17頁)

家元は事務局の「従業員にすぎない存在」(21頁)

と、辛辣な評価です。

今回の紛争の直接のきっかけは、事務局長の経理処理について
不正(株式投資等への流用)が疑われたため、
四代目家元が事務局長を解任、事務局の住所も移して
事務局との関係を断絶しようとしたところから始まります。

もっとも、判決文を読むと分かりますが、
二代目以降の家元の「技」を被告側は認めていません。
紛争の根は相当深いものだったといえます。


名目的な家元と、創始者と血縁関係もあり実権を握っていた
事務局長との対立。

判決では原審、控訴審ともに四代目家元の勝ち、となりましたが
いちばん迷惑なのは、混乱の渦中に置かれた2万人いる教授や会員の方たちです。


それにしても、先日の沖縄古武道団体内紛訴訟
某空手団体内紛訴訟とお稽古事のセカイには
紛争の多いこと。


なお、不正競争防止法関連判例に現れた
お稽古事内紛事件モノとしては、

都山流尺八楽会事件」(大阪高判S54.8.29)
花柳流名取事件」(大阪高決S56.6.26)
音羽流家元事件」(大阪高判H9.3.25)

などがあります。


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2006年09月17日

「キャロル解散コンサートDVD」事件〜著作権 著作物利用差止等請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)〜

裁判所HP 知的財産裁判例集より


★控訴審
知財高裁平成18.9.13平成17(ネ)10076著作物利用差止等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官    高野輝久
裁判官    佐藤達文


★原審
東京地裁平成17.3.15平成15(ワ)3184著作権 民事訴訟PDF

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官  高部眞規子
裁判官     東海林保
裁判官     瀬戸さやか


■事案

矢沢永吉をメンバーとするロックバンド「キャロル」の
解散コンサートの撮影映像を巡ってその著作権の帰属などが
映像製作会社とレコード会社の間で争われた事案


■結論

一部取消・棄却(原告映像製作会社側実質敗訴)


■争点

条文 著作権法第15条、16条、29条

1 著作者の認定
2 著作権の帰属
3 著作権譲渡の成否


■判決内容

1 著作者の認定

本件作品の著作者は、監督を務めた原告Xが
「全体的形成に創作的に寄与した」(16条)唯一の者である
と認定されました(20頁)。

控訴審では音楽事務所が被告側に補助参加して
作品の共同著作物性などを主張しましたが
容れられませんでした。


2 著作権の帰属

裁判所は、著作権法2条1項10号、29条の「映画製作者」の意義について、

「映画製作者」とは,映画の著作物を製作する意思を有し,著作物の製作に関する法律上の権利義務が帰属する主体であって,そのことの反映として同著作物の製作に関する経済的な収入・支出の主体ともなる者のことであると解すべきである。
(22頁)

と判示。そのうえで、

撮影機材やスタッフの調達、支払い関係など
すべて原告会社が行っていたとして
原告製作会社が「映画製作者」に該当すると判断しました。
(23頁)

したがって、著作者Xが製作に参加してしている本件作品について
原告製作会社が本件作品の著作権者となります。


3 著作権譲渡の成否

音楽事務所側の意思解釈、またレコード会社主導による
地方TV局での放映、全国各地でのフィルムコンサートの実施、
ビデオ販売等においての原告製作会社の対応などから
作品の著作権は、音楽事務所の代表者に譲渡されたと裁判所は
判断しました。

そのうえで音楽事務所とレコード会社との間の原盤製作契約に従って
レコード会社に著作権は譲渡されているとしました(23頁以下)。


■コメント

1975年、日比谷野外音楽堂で行われた
「グッドバイ・キャロル」解散コンサートの
ドキュメント作品の著作権の帰属が争われました。

この作品は、テレビ番組として放送後、ビデオ販売され
さらにDVD化してレコード会社から販売されました。

普通に考えると、アーティストの実演や楽曲を取扱う映像ですから
映像製作会社としてもその点の利用許諾など権利関係を整理しない限り
作品の著作権を一方的に主張してもこの作品を収益利用することが
できません。

音楽事務所(マネージメント会社)とレコード会社の契約関係、
アーティストと専属実演家契約をしているレコード会社との
権利関係を前提とした場合、
こうした映像著作物の著作権はレコード会社に帰属させる方向で
関係者間で処理されることが考えられます。

その点で、作品の著作者は製作会社側監督(16条)、
著作権は映画製作者である製作会社に帰属(29条)するけれども、
最終的にレコード会社に著作権は譲渡されているとの
控訴審の判断は穏当な印象です。

とはいえ、外部の映像製作会社はアーティスト側の
内輪の契約関係とは直接は関係がないわけで
事前に作品の著作権譲渡について充分な納得がないと
こうした事態をすんなり理解するわけにもいかないでしょう。

テレビ番組放映後ドキュメンタリー作品として本作品は
高い評価を得ることとなり、また
永ちゃんの根強い人気からいまでもこのDVDが販売され
収益を上げている現状からすると、製作会社も欲が出てきて
(さらなる二次利用への関与の要求など)
著作権は渡せない、使用許諾関係でいいじゃないか!と
思うかもしれません。


いずれにしましても、原審(高部コート)では映像製作会社側が
勝訴していましたから、
著作権譲渡の成否について微妙な判断だったといえます。


*なお、プロモーションビデオ製作の際のレコード会社側の
本件作品の改変行為等については原審と同様、
原告の著作者人格権(氏名表示権・同一性保持権)への侵害を
肯定しています。


燃えつきるキャロル・ラストライブDVD
燃えつきるキャロル・ラストライブ


■追記(07.01.19)
19年1月18日、最高裁第1小法廷(涌井紀夫裁判長)で監督側の上告を退ける決定。控訴審判決が確定へ。


■追記(08.02.10)

渡辺修、仙元隆一郎編「映像コンテンツの利用権の帰趨-キャロルDVD事件-」『知財管理』58巻1号75頁以下(2008)

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2006年09月03日

「振動制御ソフト開発委託契約」事件〜著作権侵害差止等請求控訴判決(知的財産裁判例集)〜

裁判所HP 知的財産裁判例集より

平成18.8.31知財高裁平成17(ネ)10070著作権侵害差止等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官    宍戸充
裁判官    柴田義明



★原審
平成17.3.23東京地裁平成16(ワ)16747著作権民事訴訟PDF



■事案

工業製品を輸送する際の振動を制御するための機器の
ソフトウエアプログラム開発業務委託契約を巡って
プログラムの著作権の帰属や翻案権の移転の有無が
争われた事案

先行する訴訟の結論(和解)を受けて、被告は新たに
システムを開発・販売しましたが、原告はこの行為が
原告の著作権(翻案権)を侵害するものとして
販売差止などを求めました。

原告(控訴人・開発受託者側)はソフト開発会社
被告(被控訴人・開発委託者側)は器械製造メーカー


■結論

控訴棄却(原審原告(控訴人)側敗訴)

原審に引き続き、原告敗訴。


■争点

条文 著作権法第61条2項、民法709条

1 プログラムの著作物性の有無
2 翻案権の帰属
3 翻案権の留保の有無
4 継続的契約と解除の遡及効


■判決内容

1 プログラムの著作物性の有無

裁判所は、ごく簡単に創作性を肯定しています(32頁)。
争点らしい争点とはなっていません。


2 翻案権の帰属

契約内容の解釈、交渉過程などからあくまで被控訴人(委託者側)に
翻案権を含む著作権が帰属していると判断しています(32頁以下)。


3 翻案権の留保の有無

基本契約書や個別契約書が数本あって、
著作権の帰属に関する規定はあったのですが、
全部譲渡についての特掲事項が盛り込まれていなかった
ことから(61条2項)、翻案権(27条)留保の推定を覆す作業が
委託者側で必要となってしまいました。

しかしこの点についても、交渉経緯、契約条項などから
プログラムの翻案権が委託者側に帰属するものである
という合意が当事者間で存在し、翻案権を含めて著作権が
委託者側に譲渡されたと結論付けています(38頁)。


4 継続的契約と解除の遡及効

プログラム開発企業側は、契約解除に基づく遡及効の発生によって
著作権の帰属が開発企業側に復帰すると主張しました。

しかし、裁判所は継続的契約関係であることや契約条項の
内容から解除の効果としては将来効のみ認めるにとどまりました
(43頁)。

この点についての原告側の主張も容れられませんでした。


■コメント

原審同様、ソフト開発受託企業側が敗訴となりました。

原告はソフト開発会社で資本金2.5億余(売上18億)、
被告は器械製造会社で資本金4.6億余(売上50億)。
当事者間では昭和61年からかれこれ10年以上の取引関係があり
従業員を出向させるなど協力関係も緊密な時期がありました。

開発費用の負担や開発計画についての考え方の相違から
双方の思惑に齟齬が生じてきてしまったようです。

先行した訴訟の処理が悪かったのでしょう(7頁以下)、
結局、今回の訴訟を誘発する結果となってしまっています。


原審判決に添付された契約書や判決に現れた契約交渉経緯を
読んでいくとメールでの担当者間のやり取りや開発費を
固定部分(請負費用)と歩合部分(成功報酬)に分けて考えるなど
交渉現場の雰囲気やソフトウエア開発の際の契約内容が
わかってとても興味深いものとなっています。


少し話は逸れますが、
以前ソフト開発ベンチャー企業のかたからお話を
伺ったことがあります。

ソフトウエア開発でのバグなどの修正作業が
当初見込みよりも過大なものとなって、
その点の費用負担、工程管理、納期について
ベンチャー側としてはその体力を考えると
発注先の要求に応じられない場合
(大企業が発注先の場合は特にめんどくさい)、
心情的にはソフトの権利すら投げ出して、
「あとはそちらでご自由に!」とも
思いたくなるところのようです。

ただそうはいっても、ベンチャー社の独自技術が
一部盛り込まれていたり、
今後の自社商品開発展開を考えると、
そうそう簡単に開発したソフトの著作権等を
発注社側にすべて帰属させることに
同意するわけにはいきません。

その辺の按配をみながら、契約の基本的な性質を
ライセンス契約とするのか、著作権譲渡契約とするのか、
将来の修正作業などのリスクのとり方を考えながら
契約交渉にあたるのもベンチャー側としては
思案のしどころのようです。



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2006年08月09日

「ハンガークリップ」事件〜不正競争防止法 損害賠償等請求事件判決(知的財産裁判例集)〜


裁判所HP 知的財産裁判例集より

東京地方裁判所平成18.8.8平成17(ワ)3056損害賠償等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 市川正巳
裁判官    杉浦正樹
裁判官    頼 晋一


■事案

被服用ハンガーに装着して利用する合成樹脂製クリップの
特許権等をめぐる紛争にあたって、取引先への警告書送付が
不正競争防止法2条1項14号の営業誹謗行為にあたるかどうかが
争われた事案。


■結論

請求棄却


■争点

条文 不正競争防止法2条1項14号

1 権利行使による違法性阻却の成否


■判決内容

1 権利行使による違法性阻却の成否

この点、判決は下記の「磁気信号記録用金属粉末事件
H14東京高裁判決と同じ立場に立っています。

本事案では、
特許権者による取引先に対する警告行為が特許権等の
正当な権利行使の一環として認められる場合は、
違法性阻却される余地を肯定

そして、判断内容としては、以下の諸事情をあげています。

当該警告が特許権の権利行使の一環としてされたものか,そのような外形を取りながらも,社会通念上必要と認められる範囲を超えた内容,態様となっているかどうかについては,当該警告文書等の形式,文面のみならず,当該警告に至るまでの競業者との交渉の経緯,警告文書等の配布時期,期間,配布先の数,範囲,警告文書等の配布先である取引先の業種,事業内容,事業規模,競業者との関係,取引態様,当該侵害被疑製品への関与の態様,特許権侵害訴訟への対応能力,警告文書等の配布に対する当該取引先の対応,その後の特許権者及び当該取引先の行動等の,諸般の事情を総合して判断するのが相当である。
(32頁以下)


そのうえで結論的には、違法性阻却を肯定しています。
(37頁以下)


磁気信号記録用金属粉末事件
東京高裁平成14年08月29日平成13(ネ)5555不正競争損害賠償等請求事件


■コメント

ここのところ不正競争防止法2条1項14号営業誹謗行為関連の
判例が続いています。
それだけ、第三者である取引先を対象とする警告書通知の
取扱いについて企業は過敏になっているということでしょうか。

先日の二つの判決
飼料添加物特許権無効事件
東京地裁平成18年07月06日平成17(ワ)10073
動く歩道手すり事件控訴審
知財高裁平成18年06月26日平成18(ネ)10005
と違って、今回の判決では違法性阻却が認められて営業誹謗行為性が
否定されましたから、なかなかに微妙な判断です。

今回、別件侵害訴訟や審決取消訴訟で特許権が無効と
判断されていたわけですが、特許の進歩性に関する判断の
微妙さが重視された結果といえそうです(37頁)。


なお、不正競争行為が問題となった事件ですが、
弁理士さんの仕事の一端が伺える事案として
興味深いものでした。


■関連判例


大阪地裁平成15年10月09日平成14(ワ)7456 特許権 民事訴訟

なお、
大阪地裁平成17年05月16日平成16年(ワ)5380 特許権侵害差止等請求事件


■参考文献

小松一雄編著「不正競業訴訟の実務」(2005)384頁以下




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2006年08月06日

番組ネット転送ビジネス「まねきTV」著作隣接権仮処分命令申立事件

東京地裁平成18.8.4決定
H18(ヨ)22022著作隣接権仮処分命令申立事件

まねきTVプレスリリースより
H18(ヨ)22022著作隣接権仮処分命令申立事件 決定文PDF


東京地裁民事47部
裁判長裁判官 高部眞規子
裁判官    中島基至
裁判官    田邉 実


■事案

ソニーの既製機器を利用したインターネット回線での
テレビ番組視聴サービスを提供している業者が
テレビ局の送信可能化権を侵害しているかどうかが争われた事案。

原告(債権者)はフジテレビ、被告(債務者)は
海外在住者向けテレビ番組ネット転送サービス運営会社。

なお、フジテレビのほかに5社のテレビ放送局が
本件と同様の仮処分命令申立を行っています。


■結論

申立却下(債権者フジテレビ側敗訴)



■争点

条文 著作権法第2条1項9号の5

1 債務者の送信可能化行為の有無

送受信の主体は利用者か業者か、「公衆」の意義


■判決内容

1 債務者の送信可能化行為の有無

ソニーはネットでテレビ番組を視聴できる
「ロケーションフリー」というシステムについて
サービスを行っています。
ソニーが提供しているこのサービス(設定作業代行もあり)の適否については
テレビ局側は争っていません。
(33頁)

こうしたソニーのネット転送システムを基礎として債務者は
新サービスを提供していました。

裁判所は、ソニーのサービスの内容、本件サービスにおける
債務者の役割などを詳細に検討、送受信の主体はあくまで
サービスの利用者であると判断しました。

そして、放送データの送信は、1主体(利用者)から特定の1主体
(当該利用者自身)に対してされたものであり、
不特定又は特定多数の者に対する送信とはいえず
公衆」に対する送信とはいえない。

よって、本件サービスにおける機器は著作権法第2条1項9号の5
自動公衆送信装置」にあたらないとしました。
(38頁以下)

「自動公衆送信装置」にあたらない以上、債務者の行為は
送信可能化行為とはならないことになります。


■コメント


弁護士小倉先生のブログや朝日新聞系報道(赤田康和記者記事)で
紹介されていたTV番組のネット送信にかかわる新ビジネスを巡る争いです。

小倉先生は、本件債務者側の訴訟代理人に就かれておいでで、
クロムサイズ社のテレビ番組の視聴、録画システムサービス
「選撮見録(よりどりみどり)」にかかわる紛争の
被告代理人でもあります。

下記のサイトで今回の決定についてわかりやすく解説をされています。

BENLI
まねきTV事件地裁決定の肝


ソニーのような大企業がサービスを提供すれば
問題視されず、ベンチャー企業提供だと違法視されるようでは
筋がとおりません。

海外在住者、放送区域外居住者向け転送サービスに関する
ビジネスモデルとしては、テレビ局側もこのあたりを
落としどころにしないと
テレビ番組視聴に対する社会的なニーズに対応するサービスを
封殺することになりかねません。


■参考サイト

まねきTV
まねきTV プレスリリース

弁護士落合先生「日々是好日」
[インターネット事件]番組ネット転送「適法」東京地裁、TV局中止申請却下

津田大介さん「音楽配信メモ」
東京地裁の高部眞規子裁判長が著作物流通を促進(?)する画期的な判断を下す

録画ネット
録画ネット事件 裁判関連資料

録画ネット和解へ(06.1.25)
録画ネットサービス終了のお知らせ


■追記(06.8.7)

裁判所サイトにPDFがアップされました。

平成18年(ヨ)第22022号著作隣接権仮処分命令申立事件

添付資料PDF


■追記(06.8.8)

小倉先生が準備書面の一部を転載されています。

BENLI
技術革新の成果を市民が享受することへの配慮について


■追記(06.8.19)

ソニーの「ロケーションフリー」開発の経緯について
「ライトナウ」2006年10月号86頁以下に紹介があります。

1998年当時社長だった出井さんの
通信を使った新しいテレビを作れ」という
指示が開発のきっかけだったそうです。


■追記(06.8.26)

企業法務戦士の雑感」さんの記事
[企業法務][知財] 「まねきTV」事件決定

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2006年08月03日

「正露丸」事件〜不正競争防止法 差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)〜

裁判所HP 知的財産裁判例集より

大阪地裁平成18.7.27平成17(ワ)11663不正競争行為差止等請求事件PDF

大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 田中俊次
裁判官    西 理香
裁判官    西森みゆき



■事案

ラッパのマーク」の正露丸を販売する大幸薬品が
類似するパッケージで正露丸を販売している他社を
相手取って争った事案


■結論

請求棄却(原告大幸薬品側敗訴)


■争点

条文 不正競争防止法2条1項1号、2号、商標法26条1項2号

1 正露丸パッケージの「商品等表示性」
2 「ラッパの図柄」の類似性、誤認混同のおそれの有無
3 「正露丸」「SEIROGAN」の「商品等表示性」
4 商標権の効力制限(商標法26条1項2号)


■判決内容

1 正露丸パッケージの「商品等表示性」

この点について判例は、
類似のパッケージで販売している競合他社が数多く
10社以上)存在することから、
「ラッパの図柄」を度外視した包装態様のみでは
原告製品としての出所表示機能を具備しないと
判断しました。
(20頁)

オレンジ色のパッケージデザインには
大幸薬品製品としての特別顕著性がない
というわけです。


2 「ラッパの図柄」の類似性、誤認混同のおそれの有無

自他商品識別機能を有するのは、1の点からすると
「ラッパの図柄」と原告の社名のみということになるが、
被告の製品の図柄である「瓢箪」部分と「ラッパ」部分とは
類似しない。
そして類似しない以上、誤認混同のおそれもない
と判断されました。
(20頁以下)


3 「正露丸」「SEIROGAN」の「商品等表示性」

「正露丸」「SEIROGAN」の文字表示についても、
クレオソート胃腸薬品を指称する普通名称であり、
原告製品を識別する商品表示性はないと判断されました。
(27頁)


ここで「正露丸」が自他商品識別力がなく出所表示機能がない
普通名称に過ぎないかどうかが検討されています。

昭和29年当時は「正露丸」は普通名称でした。
昭和49年、商標登録無効審判についての審決取消訴訟判決において
「正露丸」に「セイロガン」と振り仮名のように付記された商標が
登録無効と判断された事案からその事実が認められています。

そこで、昭和29年から50年を経た今日の取引の実情の変化
勘案して、
現在でもなお「正露丸」が普通名称といえるかどうか
検討が加えられました。

結論的には上記の通り、現在でもなお「正露丸」は
普通名称であると判断されました。
(22頁以下)


4 商標権の効力制限(商標法26条1項2号)

原告は、「正露丸」、「SEIROGAN」を商標登録していました。
しかし、「正露丸」、「SEIROGAN」ともに本件医薬品の普通名称であり、
被告はこれを普通に用いられる方法で表示したものに過ぎない
として、原告の本件商標権の効力は被告の商品表示(標章)には
及ばないと判断されました(商標法26条1項2号)。
(27頁以下)



■コメント

はじめにこの裁判の結論を聞いたとき、
「こんなにパッケージが似ているのに、どうして
『ラッパのマーク』は負けたんだろう?」という
思いでした。

でも、以下のようなサイトを見てみると
ゾロ製品があるわあるわ!

「正露丸」

正露丸,この謎に満ちた類似品の数々、、


これではいまさら保護しろと言われても
ちょっとどうかなあ、と思い直した次第です。
(実際、大幸薬品は昭和52年以降本件提訴まで
競合他社へ使用中止警告等を一切していませんでした。
26頁参照。)


■追記(06.8.4)

大幸薬品のプレスリリース
和泉薬品工業株式会社に対する 不正競業行為差止等請求事件の大阪地裁判決について

含有成分の違い(ロートエキス)に対する懸念が表明されています。




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2006年08月02日

「P2P型認証システム営業秘密」事件〜不正競争防止法 差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)〜

裁判所HP 知的財産裁判例集より

東京地裁平成18.7.31平成17(ワ)8362不正競争行為差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 清水節
裁判官    山田真紀
裁判官    片山信



■事案

ソフトウエア仕様の双方向型認証システムに関する
技術について、その営業秘密性(非公知性)が
問題となった事案。


■結論

請求棄却(原告技術者側敗訴)



■争点

条文 不正競争防止法2条1項8号、6項

1 営業秘密性(非公知性)


■判決内容

1 営業秘密性(非公知性)

本件営業秘密の内容となる認証技術は、原告が出願し
公開された特許出願に係る公開特許公報に
開示されていました。

原告側は弁論準備手続期日に本件認証技術が
公知である点について争わない旨陳述していました。

裁判所の判断は以下のとおりです。

不正競争防止法における「営業秘密」は,「秘密として管理されている生産方法,販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって,公然と知られていないものをいう」とされており(同法2条6項),「公然と知られていない」ものであることが要件とされる。
しかし,本件営業秘密の内容である認証技術が,原告自らが出願した本件公知例にすべて開示されている公知のものであるとの被告の主張に対し,原告は,上記のとおり,これを争わないとし,そのほか,本件営業秘密が「公然と知られていない」ものであることについて何ら主張,立証を行わない。
 そうすると本件営業秘密は「公然と知られていないもの」であるとは認められず,不正競争防止法2条6項にいう営業秘密には当たらないというべきである。

(9頁)

裁判所は非公知性の要件を欠く以上、その余の判断をするまでもなく
請求棄却の判断としました。


「公然と知られていない」状態とは、
「当該情報が刊行物に掲載されていない等、保有者の管理下以外では
一般的に入手することができない状態にあること」をいいます
(経産省知財政策室編著「逐条解説不正競争防止法 平成16・17年改正版
(2005)35頁)。

この点で過去に問題となった事案としては、
リバースエンジニアリングによって当該情報が探知できる場合があります
(小松一雄編著「不正競業訴訟の実務」(2005)332頁)。

ただ、今回の事案では公開特許公報に掲載された技術で
しかも公知性について原告が争っていないので、それ以上
どうしようもないところです。



■コメント

当事者間では共同開発に先立つ段階での本件技術内容の
開示契約書(秘密保持契約書)1通、
それに引き続いての共同開発契約書取り交わしが2通、
覚書1通と、段階を追って契約書をまとめています。

ですが、どこでボタンの掛け違いが生じたのでしょう、
原告をして「一方的に裏切られ」た(8頁)という
状況になってしまい
今回の提訴に至っています。

そのあたりの経緯が判決文には現れておらず、
また、原告の主張立証活動にも腑に落ちないところがあり
原告にとってどういう意味合いのある訴訟だったのか
判然としないところです。


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2006年08月01日

「在宅介護サービス営業秘密」事件〜不正競争防止法 営業行為差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)〜

裁判所HP 知的財産裁判例集より

東京地裁平成18.7.25平成16(ワ)25672営業行為差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 設樂隆一 
裁判官    古河謙一
裁判官    吉川泉



■事案

在宅介護サービス提供事業者の従業員が独立起業した際の
介護情報の取り扱い、ヘルパー引き抜き行為などが
不正競争防止法、民法上の不法行為の観点から
問題となった事案。


■結論

請求棄却(原告在宅介護サービス提供事業者側敗訴)



■争点

条文 不正競争防止法2条1項7号、8号、6項、民法709条

1 介護情報の「営業秘密性」(2条6項)
2 元従業員による営業活動の不法行為性



■判決内容

1 介護情報の「営業秘密性」(2条6項)

原告会社保有の介護利用者名簿や訪問介護計画書、
ケアマネージャー作成のサービス提供票などの
一連の情報(紙媒体、電磁的記録)についての
「営業秘密性」、そのうちの「秘密管理性」の有無が
争点となりました。


この点について判例は、

不正競争防止法上の「営業秘密」は「秘密として管理されている」ことを要するところ(不正競争防止法2条6項),事業者の事業経営上の秘密一般が営業秘密に該当するとすれば,従業員の職業選択・転職の自由を過度に制限することになりかねず,また,不正競争防止法の規定する刑事罰の処罰対象の外延が不明確となることに照らし,当該情報にアクセスした者に当該情報が営業秘密であることを認識できるようにしていること,及び,当該情報にアクセスできる者が制限されていることを要するものと解するのが相当である。
(20頁以下)


1 「秘密」の表示性(客観的認識可能性)
2 アクセスの制限性


を要件としてあげています。
そのうえで、

1 「部外秘」などの表示が無かった
2 事務所の扉の施錠しかない
3 PC上のパスワードも簡易
4 紙媒体は登録ヘルパーなら誰でも閲覧可能


以上の点から、2つの要件を具備せず、
「秘密管理性」が欠けると判断しました。
(21頁以下)


なお、原告は、被告が秘密保持に関して雇用契約上の
義務
を負担している旨主張しました。
しかし、この点は、プライバシー保護の観点からの
義務であって、不正競争防止法上の営業秘密性とは
直接関連するものではない、として退けられています。



「秘密管理性」に関する最近発表の判例分析としては、
弁護士末吉亙先生によるものがあります。

牧野利秋監修「座談会 不正競争防止法をめぐる実務的課題と理論
(2005)154頁以下、
不正競争防止法の新論点」(2006)111頁以下参照



2 被告ら元従業員による営業活動の不法行為性

被告らは、原告の介護サービス提供会社に在籍中から
原告の事業と同一地域での競業する事業の立ち上げを計画、
原告会社に登録しているヘルパーなどに働きかけを行うなど
していました。

この点について、原告は不法行為の成立(民法709条)を
主張しましたが、結論的には容れられませんでした。

裁判所は、被告らの行為は「問題性のある行為」と
評価しつつも、ヘルパーに重複登録を依頼したことなどは
正当な競争秩序の枠を超えるものとまではいえない」と
判断しました。
(30頁)


■コメント

判決文2頁以下に訪問介護サービス事業の概要が
掲載されていて事業の仕組みがよくわかります。

被告両名は原告会社でサービス提供責任者として
重要な役割を担っており、それらの者が新たに
在宅介護サービスを同一地域で立ち上げるとなれば
原告としても黙ってはおけなかったのでしょう。

とくに、在職中から新規事業について営業活動を
しており、原告側には事前の連絡はしてありませんでした。

ただ、それでも事が露見してからは
双方話し合いの場を設けて被告側も歩み寄れるところは
歩み寄っています(15頁以下)。


訴訟で白黒つける、
徹底的にやりたければ、やればいいわけですが、
敗訴によって(勝訴したとしても)原告側の
サービス事業者としてのイメージ、社会的信用性の低下の
可能性など、訴訟提起自体に伴うリスクも充分考えて、
本当のところの「実」(経営者としての寛容さ、
間に入った部下への思いやり、介護サービス利用者の不安の払拭)を
とってもらいたかったところです。


■追伸(06.8.2)

介護ヘルパーを利用している知人と
今回の事件について話をしました。

その知人が利用している事業所でも
同じような騒動があって、そのときは
独立した側に人望がなくて、事業者側が
「独立した人たちとは関係がない」旨の
通知書を関係者に送付しただけで
事が済んだそうです。

今回の事案についても
「まずは、独立するなら新規顧客の開拓が先でしょう」
とは知人の弁。

競争が激しい分野ですから今後も
同様の事案が増えそうです。


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2006年07月29日

「サンプリングチューブ」事件〜不正競争防止法差止請求事件判決(知的財産裁判例集)〜

裁判所HP 知的財産裁判例集より

大阪地裁平成18.7.27平成17(ワ)11055不正競争行為差止請求事件PDF

大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官 山田知司
裁判官    西理香
裁判官    村上誠子


■事案

DNAや血液検査などの医療検査の際に試薬、対象物などを入れる
プラスチック製の容器の形態の商品等表示性が争われた事案


■結論

請求棄却


■争点

条文 不正競争防止法2条1項1号、3条

1 商品の形態の商品等表示性


■判決内容

1 商品の形態の商品等表示性

商品の形態は,必ずしも商品の出所を表示することを目的として選択されるものではないが,‐ι覆侶疎屬客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており,かつ,長期間継続的かつ独占的に特定の営業主体の商品に使用されるか,又は短期間でも強力に宣伝されたような場合などには,商品等表示として需要者の間に広く認識されることがあり得るというべきである。
(8頁)

従来の判例に現れている要件立てです。

商品の「形態」自体が出所表示機能を獲得するための
商品等表示性の要件としては、

1特徴的、独特な形態であること
2需要者に知れ渡っていること

この2つが要求されています。

先日の「ロレックス類似商品」事件判決でも
同様の判断となっています。
(東京地裁平成18年07月26日平成16(ワ)18090
 不正競争行為差止等請求事件)


原告商品のワトソンフラットゲートチューブの特徴としては、

1底部がフラット
2ゲートピン跡がない

このことから試薬のなかの対象物が見やすいという
ものでした。

しかし、裁判所はいずれの点も需要者に対して従来品と隔絶した
顕著な印象を与えるものとは認めることはできない、として
形態の商品等表示性を否定しました(12頁)。


■コメント

原告商品を原告のサイトからみてみると
なるほど、こういうところにも細かい工夫が凝らされて
いるんだなあ、ということがわかります。

WATSONフラットゲートチューブ

ただ、こうした工夫を保護するのであれば
実用新案権など産業財産権での保護を考えたい
ところですがそうもいかず、
次善の策としての不競法の出番となりましたが、
商品の性質、使われ方を考えると原告側の根拠付けが
ちょっと弱い印象です。


■参考文献

小松一雄編著「不正競業訴訟の実務」(2005)182頁以下
山本庸幸「要説不正競争防止法第4版」(2006)45頁以下



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2006年07月28日

「ロレックス類似商品」事件〜不正競争防止法差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)〜

裁判所HP 知的財産裁判例集より

東京地裁平成18.7.26平成16(ワ)18090 不正競争行為差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 市川正巳
裁判官    大竹優子
裁判官    杉浦正樹


■事案

腕時計の老舗ブランド「ロレックス」の類似商品を巡って
販売差止、商品の廃棄、損害賠償などが争われた事案。


■結論

請求一部認容(原告ロレックス側実質勝訴)



■争点

条文 不正競争防止法2条1項1号、2号、3条、5条

1 形態の商品等表示性
2 類似性
3 混同のおそれ
4 損害額(略)
5 差止の必要性(略)


■判決内容

1 形態の商品等表示性

まず裁判所は規範として、

商品の形態は,商標等と異なり,必ずしも商品の出所を表示することを目的として選択されるものではないが,商品の形態が特定の商品と密接に結びつき,その形態を有する商品を見ればそれだけで特定の者の商品であると判断されるようになった場合には,当該形態が出所表示機能を獲得し,特定の者の商品等表示として需要者の間に広く認識されているものということができる。
ある商品の形態が極めて特殊で独特な場合には,その形態だけで商品等表示性を認めることができるが,形態が特殊とはいえなくても,特徴ある形態を有し,その形態が長年継続的排他的に使用されたり,短期であっても強力に宣伝されたような場合には,当該形態が出所表示機能を獲得し,その商品の商品等表示になっていると認めることができる場合がある。

(48頁)

形態の商品等表示性についての一般論を述べています。
その上で、


前記認定の事実によれば,原告各製品の各要素の組合せからなる全体の形態は,形態自体が極めて特殊で独特であり,その形態だけで商品等表示性を認めることができる場合には当たらないが,同種製品と区別し得る形態的特徴を有しており,これに前記の原告各製品の販売状況及び雑誌等での紹介の実情等を考慮すると,上記の各要素の組合せからなる全体の形態は,原告各製品が原告の製造販売に係るものであることを示す商品等表示に該当するということができる。
(63頁)

結論として、商品等表示性を肯定しました。

この点については、「iMac・ソーテック」事件
(東京地決H11.9.20平成11(ヨ)22125号)が有名で
規範部分としては同一といえます。


2 類似性

10種類の時計うち、9個について類似性を肯定しました(70頁)。


3 混同のおそれ

結論として、取引者又は需要者における混同のおそれを
肯定しています(70頁以下)。

また、重過失も認定しました(74頁)。



■コメント

いわゆる海賊版の販売事案とは違って
被告会社はロレックス正規品を取扱う一方で、
独自ブランドとしてそれらに形態や名称が類似する
製品を企画、製造、販売していました。

たとえば、エクスプローラーやデイトナ、
サブマリーナ、GMTマスターなどのロレックス製品の
いわば「弟分」を製造、販売したわけです。

ちゃんとしたビジネスモデルになっていたのであれば
ロレックスの弟分「チュードル」のような存在に
なったのでしょうが、
下記にある「COMEX」商標権審決取消請求事件のように
「公序良俗に反する」と断ぜられるような行為をしている
ところからすると
ビジネスのセンスとしてはちょっと違った
方向を向いていたのかもしれません。


なお、被告会社のケントレーディングから
プレスリリースが発表されています
(2006年7月26日付)。

KTDB


日本ロレックス社とのかかわりは
判決文からはよくわかりません。

いずれにしても、商標を巡る争いをみても
紆余曲折がかなりあることから、
そう簡単に白黒判断のつく事案ではなかったのかも
しれません。




■被告が関係する判例等

・対カルティエ訴訟(カルティエのパネライ事件)
東京地裁平成16年07月28日平成15(ワ)29376不正競争民事訴訟PDF

カルティエの特徴的なリューズやケース、べゼルが
「商品等表示」にあたり、被告の製品の形態が類似、
付された名称も類似するとして、販売差止、商品廃棄が
認められた事案。

小松一雄編著「不正競業訴訟の実務」(2005)188頁に
時計の画像が掲載されています。


・ドメイン登録裁定(日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル)
日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル 事件番号:JP2002−0001PDF

被告会社が取得したドメインについて、
「PRO-LEX」(pro-lex.co.jp)と「ROLEX」が称呼上の類否において、
混同を生じさせる程度に類似していると判断された事案です。
ドメイン取得について正当な権利・利益がなく、また
不正目的登録と裁定され、上記ドメインが登録取消となりました。

なお、JP紛争処理方針第4条、不正競争防止法2条1項12号参照。


・「COMEX」商標権審決取消請求事件
東京高裁平成17年01月31日平成16(行ケ)219商標権行政訴訟PDF

ROLEXのサブマリーナなどダーバーズウォッチで
ダブルネーム(「ROLEX/comex」)となる
フランスの潜水調査会社の商標「COMEX」。

潜水用品についてのみ「COMEX」が商標登録されていた
ことから、時計類について商標権を取得した被告が
COMEX社らとその肯否にかかわる審決の取消をめぐって
争いました。

結論的には、被告の時計類についての「COMEX」商標権取得は
認められませんでした(商標法4条1項7号:公序良俗違反)。


・「PRO-LEX」審決取消請求事件
東京高裁平成13年06月20日平成12(行ケ)435商標権行政訴訟PDF

「時計」を指定商品として登録された「PRO-LEX」と
「ROLEX」の称呼上の類否が問題となった事案。

結論的には、「ROLEX」と類似し、誤認混同のおそれもある
として「PRO-LEX」商標は認められませんでした
(商標法第4条1項11号:類似商標)。


追記(06.7.29)

■参考ブログ

ラスコーリニコフの質屋 - 腕時計を巡る仁義なき戦い…



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2006年07月14日

「飼料添加物特許権無効」事件〜不正競争防止法 損害賠償請求事件判決(知的財産裁判例集)〜

裁判所HP 知的財産裁判例集より

東京地裁平成18.7.6平成17(ワ)10073 損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 設樂隆一
裁判官    間史恵
裁判官    荒井章光



■事案

特許権無効審決が出ていたにもかかわらず
飼料添加物に関する特許権の侵害を警告する文書を
関係取引先に送付し、また特許権侵害行為差止仮処分
申立について新聞、雑誌、ネット等で公表した
被告の行為について、
不正競争防止法2条1項14号「虚偽の事実の告知」、
民法709条の不法行為に該当するかどうかが
争われた事案です。


■結論

請求一部認容


■争点

条文 不正競争防止法2条1項14号、5条2項、民法709条

1 文書送付行為等が「虚偽の事実の告知」にあたるか
2 文書送付行為等が不法行為(民法709条)にあたるか
3 損害額の算定


■判決内容

1 文書送付行為等が「虚偽の事実の告知」にあたるか

(1)警告文書送付行為について

不正競争防止法2条1項14号(営業誹謗行為)

1 他人の営業上の信用の侵害
2 虚偽の事実の告知
3 故意又は過失

結論として、いずれの要件充足も肯定しています。


なお、違法性阻却論(権利行使論)の点についてですが、

特許権者が,競業者の取引先を相手方として,その行為が特許権を侵害するものであるとして,仮処分を申し立てたり,特許権侵害訴訟を提起したりすることは,特許権の行使であり,裁判を受ける権利の行使であるから,特許権者が,事実的,法律的根拠を欠くことを知りながら,又は,特許権者として,特許権侵害訴訟の提起,あるいは,仮処分の申立てをするために通常必要とされている事実調査及び法律的検討をすれば,事実的,法律的根拠を欠くことを容易に知り得たといえるのにあえて訴訟等を提起し,あるいは,仮処分を申し立てた場合には違法となるが,そうでない場合には,特許権者としての裁判を受ける権利の行使であり,正当行為として違法性を阻却されるものと解すべきである(最高裁昭和63年1月26日第三小法廷判決・民集42巻1号1頁)。そして,訴訟に要する費用,労力等,事前の話合いによる解決の可能性を考慮すると,いきなり訴えを提起するのは望ましくはなく,まずは,相手方に対し,特許権を侵害しているとの警告等を行うべきであることは一般に考えられているところである。したがって,特許権者が侵害行為を行う者に対し,特許権侵害の警告書を送付する行為は,これを訴えを提起する行為と同一視することはできないとしても,それとの比較からいっても,その行為が,警告書送付行為時においては,相応の事実的,法律的根拠に基づいてなされ,かつ,警告書の内容,配布先の範囲,枚数等の送付行為の態様などから,特許権等の正当な権利行使の一環としてなされたものと認められる場合には,当該行為について,故意はもちろん過失も否定されるべきであると解すべきである。
(38頁)

設楽コートでは、違法性阻却の問題を故意・過失の要件論として
処理しています。


(2)仮処分申立及び申立に関するプレスリリース公表行為について

この点について裁判所は、被告による取引先に対する
特許権侵害行為差止の仮処分申立は、不正競争行為に
形式的には該当しても違法性が阻却される訴訟活動である。

また、申立事実の公表行為も事実をそのまま伝える行為なので
「虚偽の事実」の告知、流布には当たらない、と判断しています。
(54頁)



2 文書送付行為等が不法行為(民法709条)にあたるか

(1)警告文書送付行為について

不正競争行為として不正競争防止法違反が認められた
送付行為以外の部分では、一般不法行為は認定されませんでした。
(54頁以下)


(2)仮処分申立及び申立に関するプレスリリース公表行為について

いずれの行為も違法性がないと判断されました。
(58頁)


3 損害額の算定

不正競争防止法5条2項「不正競争行為による利益の額」について
結論的には、同条項での利益の額は認定することができず
不正競争防止法9条、民訴法248条により
信用毀損として700万円等の損害賠償を認めています。
(65頁以下)



■コメント

先日も判例(「動く歩道手すり事件」控訴審判決)が出ていましたが
営業誹謗行為に関連する論点についての判断です。

特許権侵害警告文書の送付行為がはたして
不正競争行為にあたるのか、あたるとしても
特許権の正当な権利行使の一環として正当化されるのか
争われました。

判決では、警告文書送付行為に前後して行われた
特許権無効審決などでの被告側の対応を詳細に検討して、
被告側において特許権の有効性が審判で認められると
判断できるだけの合理的根拠がない、としました。



■参考判例

動く歩道手すり事件

知財高裁平成18年06月26日平成18(ネ)10005 特許権侵害差止請求権不存在確認等請求控訴事件


・訴えの提起が違法な行為となる場合
最高裁昭和63年01月26日昭和60(オ)122損害賠償事件



■参考文献

不正競争防止法の新論点」(2006)361頁以下
小松一雄編著「不正競業訴訟の実務」(2005)384頁以下
土肥一史「取引先に対する権利侵害警告と不正競争防止法」
    『知的財産法の理論と現代的課題ー中山信弘先生還暦記念論文集
    (2005)436頁以下
田村善之「不正競争防止法概説第二版」(2003)446頁以下


■過去のブログ

「権利侵害の通知と不正競争防止法(営業誹謗行為)」



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2006年07月12日

「ローマの休日」保護期間事件〜著作権 仮処分命令申立事件決定(知的財産裁判例集)〜

裁判所HP 知的財産裁判例集より

東京地裁平成18.7.11平成18(ヨ)22044著作権仮処分命令申立事件PDF

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 高部眞規子
裁判官    平田直人
裁判官    田邉実



■事案

映画「ローマの休日」「第十七捕虜収容所」の
著作権を保持していた映画会社のパラマウントピクチャーズ社が
格安DVD販売会社を相手取ってDVDの製造、販売の禁止の
仮処分を求めた事件。


■結論

申立却下(債権者パ社側敗訴)


■争点

条文 著作権法第54条1項、附則2条(法律第85号)

1 保護期間の満了と改正法適用範囲

本件映画の著作物は著作権法改正附則2条が適用される
保護期間が満了していない著作物か。


■判決内容

1 保護期間の満了と改正法適用範囲

結論として裁判所は、本件映画の著作権は保護期間を満了しており
改正法による保護期間延長(50年→70年の20年間延長)の
恩恵を受けないと判断しました。


本件映画の著作権は,改正前の著作権法によれば,上記のとおり,平成15年12月31日の終了をもって存続期間が満了するから,本件改正法が施行された平成16年1月1日においては,改正前の著作権法による著作権は既に消滅している。よって,本件改正法附則2条により,本件改正法の適用はなく,なお従前の例によることになり,本件映画の著作権は,既に存続期間の満了により消滅したものといわざるを得ない。
(9、10頁)


(1)債権者の主張1−期間把握の単位−

債権者(原告パラマウントピクチャーズ)は、
保護期間満了日の平成15年12月31日午後12時と
改正法施行日の平成16年1月1日0時は同時であるから、
保護期間は満了することなく改正法により継続して
保護される、と主張しました。

これに対して裁判所は、

確かに,本件映画の保護期間の満了を「時間」をもって表現すれば,平成15年12月31日午後12時となる。しかしながら,著作権法54条1項及び57条の規定は,「年によって期間を定めた」(民法140条)ものであって,「時間によって期間を定めた」(同法139条)ものではない。年によって期間を定めた場合は,「期間は,その末日の終了をもって満了する。」(同法141条)とされるから,あくまでも,保護期間の満了を把握する基本的な単位は「日」となるというべきである。
(11頁)

瞬間を切り取ればたしかに接続するとも考えられますが、
裁判所は期間把握の基本的な単位は
「日」であるとして「時間」単位での把握を
文理解釈ならびに法制一般の解釈から
否定しました。


(2)債権者の主張2-1−実務上の運用− 

改正法等を巡る国会答弁などからパラマウント社側は
自己の主張の正当性を述べています。

しかし裁判所は、
文理解釈、立法者意思解釈の点から否定しています。


(3)債権者の主張2-2−文献上の見解− 

著作権法に関する文献、テキストなどにはパラマウント社側主張の
考え方が掲載されていると述べていました。

しかし、裁判所は、それらは文化庁の見解にすぎす
同見解は文理解釈などから採用できないと判断しています。


(4)債権者の主張2-3−年齢計算に関する先例の評価− 

パラマウント社側は、年齢計算に関する裁判例をとりあげて
本事案へのその際の裁判所の思考方法の導入の可能性を
述べています。

しかし、この点の解釈についても裁判所は否定しました。


(5)債権者の主張3−法解釈の安定性− 

(1)文化庁の見解

パラマウント社側の主張の要点は文化庁の見解と同一であって
法解釈の安定性の観点からも著作権者は保護されるべきであると主張。

しかし、裁判所は、
文化庁の見解は「法的に誤ったものであ」り
誤った解釈を前提とする運用を将来にわたって維持することは
法的安定性に資することにはならないと判断しました。

(2)知的財産権保護の要請

パラマウント社側は知財保護の時代的要請の点から
著作権者の保護を述べています。

しかし、裁判所は、

本件改正法は,映画の著作物の保護期間を公表後50年から70年に延長するものであり,その適用があるか否かによって,著作物を自由に利用できる期間が20年も相違することになる。しかも,著作権侵害が差止め及び損害賠償の対象となるのみならず,刑事罰の対象となること(著作権法119条以下)をも併せ考えれば,改正法の適用の有無は,文理上明確でなければならず,利用者にも理解できる立法をすべきであり,著作権者の保護のみを強調することは妥当でない。
(17、18頁)

著作権者保護のみならず文化の発展、利用者との調整、
罪刑法定主義の要請も勘案して改正規定の適用を否定しました。


■コメント

判決文を読んだときの第一印象は
やったなあ、高部コート!
でした。

朝日新聞7月12日付朝刊(東京14版)3頁には
半田正夫先生の本決定に対するコメントが掲載されています。

半田先生は、本決定を是認。
立法当局としての文化庁の対応を批判されておいでです。


奥村弁護士のブログにあるように
もし、格安DVD販売について刑事事件が先行していたら
たいへんな事態となっていました。

著作権講演会では、文化庁長官官房著作権課の
甲野課長がこの問題について
「公定解釈からすれば格安DVD販売会社の主張はおかしい」と
鼻も引っ掛けない発言をされていましたが、
こうした判断が下ってみると文化庁は脇があまい、と言われても
仕方がないのかもしれません。

ただでさえ難解な現行著作権法。
著作権侵害に対して刑事罰も用意されている以上、
罪刑法定主義の観点からより明確で
分かりやすい文言の規定を置くように一層努力することが
文化庁には求められます。


■参考ブログ


「企業法務戦士の雑感」
[企業法務][知財] 東京地裁第47部の「英断」

「奥村弁護士の見解」
[著作権法]<廉価DVD>著作権の保護期間満了と販売認める 東京地裁


■追記(06.10.11)

仮処分申請即時抗告を取り下げ

読売新聞ネット記事によると、米国映画会社側が10月10日、
知財高裁への即時抗告を取り下げたそうです。

http://www.yomiuri.co.jp/entertainment/news/20061010i514.htm


負けを認めたというよりも、仕切りなおしの
戦術のようです。

「シェーン」事件でも負けてしまったので、戦術の練り直し
というところでしょうか。

http://ootsuka.livedoor.biz/archives/50620468.html


■追記(06.12.09)

判決批評論文

作花文雄『映画「ローマの休日」の保護期間をめぐる法制上の論点
ー映画「ローマの休日」等格安DVD販売事件における著作権法改正改正法の
経過措置の文理解釈と立法趣旨に関する混迷ー』
コピライト46巻548号2006.12月号22頁以下


■追記(08.03.08)

2006年10月07日記事
『シェーン』著作権保護期間満了事件〜著作権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)〜

2007年09月01日記事
「『モダンタイムス』格安DVD」事件〜著作権 著作権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)〜

2007年09月21日記事
「黒澤明監督作品格安DVD」事件(対角川事件)〜著作権 著作権侵害差止請求事件判決(知的財産裁判例集)〜

2008年01月29日記事
「黒澤明監督作品格安DVD」事件(対松竹事件)〜著作権 著作権侵害差止請求事件判決(知的財産裁判例集)〜


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2006年07月06日

「レゲエCD発売契約」事件〜著作権 損害賠償等請求事件判決(知的財産裁判例集)〜

裁判所HP 知的財産裁判例集より

東京地裁平成18.6.30著作権損害賠償請求事件平成17(ワ)11680PDF


東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 市川正巳
裁判官    大竹優子
裁判官    頼晋一




■事案

CD発売契約締結の際のアドバンス(著作権使用料の前払金)
支払いの取扱いをめぐって紛糾。
契約交渉が決裂したことからアーティストがCD販売差止、
音源を録音したCD-Rの引渡などを請求した事案。

原告側がアーテスト、被告側が大手レコード会社。


■結論

請求棄却(原告アーティスト側敗訴)


■争点


1 契約交渉内容の解釈
2 原盤(CD-R)引渡しと民法243条
3 CD販売差止と損害賠償

■判決内容

1 契約交渉内容の解釈

原告側は、アドバンスの支払いを要求していたにもかかわらず
被告側は支払うつもりがなく、そうした重要な事項を
隠して交渉を進めていたとして詐欺と主張していました。

この点について裁判所は、

結局,アドバンスの支払に関しては,交渉がされたものの条件が折り合わず,契約成立に至らなかったという以上に,丁らがアドバンスを支払うつもりがないのに,甲を誤信させて交渉を進めたことを認めるに足りる証拠はないといわなければならない。
(14頁)


交渉経緯の検討から原告が言うような
詐欺的な事実はないと判断しました。


2 原盤(CD-R)引渡しと民法243条

音源については原告側が制作、製品化の為の音質調整
(マスタリング)について被告が費用を負担して
原盤が制作されました。

マスタリング後の音源(原盤)についても原告は
著作権、原盤権を保有しており、ブランクCD-Rより
はるかに高い価値がCD−Rに付加されたことにより
本件CD−Rの所有権は民法243条(または類推解釈)に
よって原告に帰属することとなったと主張。

そこで、原告はこの所有権に基づいて本件CD−Rの引渡しを
求めたわけです。

この点についても裁判所は、

原告は,本件CD−Rはマスタリングされた音源が記録されることにより,記録前のCD−Rよりはるかに高い付加価値を有するに至ったから,その所有権は民法243条又はその類推適用により,主要な価値の権利者である原告に帰属する旨主張する。
しかし,所有権は,有体物を目的とする権利であるのに対し,著作権は無体物たる著作物を目的とするものである。その結果,有体物の所有権者と有体物上に表現された著作物の著作権者が異なることがあり得ることは,制度上予定されたことである。したがって,民法243条の適用又は類推適用により本件CD−Rの所有権が原告に帰属するに至った旨の原告の主張は,理由がない。

(16頁)

なお,原告が著作権法112条2項の規定に基づき,本件CD−Rの引渡しを求めるものだとしても,同項は,権利侵害の停止又は予防に必要な限度で著作物が記録された有体物の廃棄等を請求することができるに止まり,著作権者にその引渡請求権を認めたものではないから,同項に基づく請求も理由がない。
(16頁)


結論として、本件CD−Rの所有権に基づく
本件CD−Rの引渡し請求を認めませんでした。

(なお、本件CD−R自体は被告提供のものでした)


3 CD販売差止と損害賠償


交渉決裂を受けてレコード会社は全国レコード店に対して
CD発売中止を告知、また新譜案内書などでも
発売中止の告知をしました。

決裂後のレコード会社の一連の対応を受けて
裁判所はCD販売差止の必要を認めませんでした。

また、損害賠償についても不法行為がないとして
認めませんでした。


■コメント

ジャマイカレゲエCD発売契約に先行して携帯電話
音楽配信サービス契約が締結されており、
そこには一部アドバンス支払取決めもありました。

CD発売契約については幾度か交渉を重ねたものの、
アドバンスの取扱いについて双方の溝が埋まらず
結局交渉は決裂。CD発売は中止となりました。


契約書が締結されてから原盤制作作業に入るほうが
むしろ稀でしょうから、こうした状況はよくあること
(訴訟まで至るかどうかは別として)かもしれません。

また、先行する音楽配信サービスで支払われた
アドバンスについて、充分ペイするほどのものではなくて
レコード会社はCD発売については、アドバンス支払いに
慎重になっていたのかもしれません。


本人訴訟ということもあるせいか、
民法243条の観点からの主張はおもしろいとの
印象の事案です。


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2006年07月02日

権利侵害の通知と不正競争防止法(営業誹謗行為)

動く歩道手すり事件

裁判所HP 知的財産裁判例集より

■知財高裁平成18.6.26 平成18(ネ)10005
 特許権侵害差止請求権不存在確認等請求控訴事件


知財高裁平成18年06月26日

知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 岡本岳
裁判官 上田卓哉



原審
東京地裁平成17.12.13 平成16(ワ)13248
特許権民事訴訟


東京地裁平成17年12月13日


■事案

特許権侵害事案で被告側弁護士が、
第三者である取引先に特許権侵害の「おそれ
があると内容証明書で警告通知しました。

この通知が、不正競争防止法2条1項14号にいう
営業上の信用を害する虚偽の事実の告知に
あたるかどうかが争点のひとつとなりました。


■争点

1 特許関係(略)
2 不正競争防止法2条1項14号
(1)「虚偽の事実の告知」
(2)違法性阻却の成否


■結論

控訴棄却(原告勝訴)

本件通知は「虚偽の事実の告知」にあたり、
また、違法性もあるとして
通知差止、損害賠償、謝罪広告が認められました。


■判旨

(1)「虚偽の事実の告知」

被控訴人製品は本件特許権を侵害するものではないのであるから,特許権を侵害する「おそれ」を指摘することも,不正競争防止法2条1項14号にいう「虚偽の事実」の告知に当たるといわざるを得ない。そして,特許権侵害の「おそれ」を指摘する警告文書であっても,これを受領した者が,特許権を侵害したとされる当事者ではなく,その取引先の第三者であるときは,当該商品等の取引を控える場合が多いことは公知の事実であることからして,「おそれ」という文言が付加されているか否かによって,「虚偽の事実」に該当するか否かが左右されるものではない。
(11頁以下)


(2)違法性阻却の成否

控訴人文書の内容からしても,控訴人文書の送付は,ボイジャーと事前に協議した上で,被控訴人の信用を毀損し,被控訴人との競争上優位に立つことを目的として行われたものと解されるのであって,正当な権利行使とはいえないとの評価を受けてもやむを得ないものである。
したがって,控訴人の前記文書送付行為は,不正競争防止法上違法であると解さざるを得ない。

(16頁)



■コメント

他人の信用を毀損する場合、一般不法行為として
民法上の問題となります(709条)。
これに対して不正競争防止法では、
競争関係にある」他人の信用毀損の場合が
対象となります(2条1項14号)。


要件
1競争関係にあること
2他人の営業上の信用を害する
3虚偽の事実性
4告知または流布行為


同種の商品や役務提供の取扱いを現に行い
または将来行う事業者の関係にあっては
競争関係にあるとされます
市場における競合の可能性)。

いずれにしても、
権利侵害を内容とする文書等の通知を
第三者に対して行う場合は、細心の注意が必要と
なります。


■参考判例

バイエル事件
東京高判H14.8.29 平成13(ネ)5555

東京高判H14.8.29


■参考文献

金井重彦、山口三惠子、小倉秀夫編著
不正競争防止法コンメンタール」(2004)148頁以下
小松一雄編著「不正競業訴訟の実務」(2005)375頁以下


■追記(06.7.2)

最近の裁判例の分析と違法性阻却説(権利行使論)、
過失要件説などについて

「特許権等侵害警告と不競法2条1項14号(最近の裁判例での論点)」
不正競争防止法の新論点』(2006)361頁以下参照

本書373頁以下に本事案の原審についての記載があります。
また、大阪地裁と東京地裁の違い、三村コート、高部コートの
比較など興味深い点について触れられています(391頁以下)。


■追記(06.7.2)その2

「日 々 の 雑 感 」さんより本論点に関する情報を
戴きました。

日 々 の 雑 感 」さん
「 たまには勉強…」


瀬川信久先生の論文
知的財産権の侵害警告と『正当な権利行使』−近時の裁判例についてー

知的財産法政策学研究9号(2005)PDF


北大法学論集も内容が電子化されネットで参照できる時代と
なりました。便利で助かります。

北大法学論集



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2006年06月02日

「空港案内図」事件〜著作権 請負代金等請求事件判決(知的財産裁判例集)〜

裁判所HP 知的財産裁判例集より

知的財産高等裁判所平成18.5.31平成17(ネ)10091請負代金等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官    清水知恵子
裁判官    田中昌利


★原審
東京地裁平成17.5.12平成16(ワ)10223 著作権 民事訴訟

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 三村量一
裁判官    鈴木千帆
裁判官    吉川泉



■事案

旅行ガイドブックに掲載された海外の国際空港案内図の
著作物性が争われた裁判の控訴審判決。

出版会社(被告)が制作会社(原告)にガイドブック制作を依頼し
書籍が納品されましたが、ガイドブック中の空港案内図の
著作物性について他の会社(訴外)から侵害の疑義を受けました。

そこで出版会社は、解決金をその会社に支払う一方、
制作会社に対しては制作報酬とこの解決費用を相殺して
その部分の支払いを拒否しました。

こうしたことから、制作会社は著作権侵害に理由がない
などを根拠として未払い部分の支払いを求めて提訴しました。


■結論

一部変更


■争点

条文 著作権法第2条1項1号、民法415条

1 空港案内図の著作物性
2 制作委託契約上の付随義務違反の成否
3 不法行為責任の成否(略)


■判決内容


1 空港案内図の著作物性

控訴審でも原審の判断を基本的に維持しています。

原審では、空港フロアフロア内施設色分けなどは
一般的な手法で創作性がない。
また、矢印や文字の表示方法の相違も創作的表現における
特徴部分に関するものではないとして
結論として著作権侵害性を否定しています。

原審の規範部分は以下のとおりです。

著作物とは,思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいう(著作権法2条1項1号)。本件で問題となっている空港案内図は,実際に存在する建築物の構造を描写の対象とするものである。実際に存在する建築物の構造を描写の対象とする間取り図,案内図等の図面等であっても,採り上げる情報の選択や具体的な表現方法に作成者の個性が表れており,この点において作成者の思想又は感情が創作的に表現されている場合には,著作物に該当するということができる。
  もっとも,空港案内図は,実際に存在する建築物である空港建物等を主な描写対象としているというだけでなく,空港利用者に対して実際に空港施設を利用する上で有用な情報を提供することを目的とするものであって,空港利用者の実用に供するという性質上,選択される情報の範囲が自ずと定まり,表現方法についても,機能性を重視して,客観的事実に忠実に,線引き,枠取り,文字やアイコンによる簡略化した施設名称の記載等の方法で作成されるのが一般的であるから,情報の取捨選択や表現方法の選択の幅は狭く,作成者の創作的な表現を付加する余地は少ないというべきである。

(原審PDF14頁)



2 制作委託契約上の付随義務違反の成否

制作委託契約上、制作会社は
著作権侵害に至らない態様であっても
他人の出版物を利用してはならない
」との債務も
負っていたかどうかが争われました。

原審では、旅行案内書の制作が通常、多くの資料を収集、
分析された上で行われることを重視。
そのうえでこの点における委任契約上の善管義務としての
一般的義務についてはこれを否定。

また、「他人の出版物を利用してはならない」との内容の
債務は負っていないと判断していました。


これに対して控訴審では一転して「他社から著作権侵害の疑義を
受けるような態様で模倣・複製しない
」旨の付随義務を肯定、
そのうえで付随義務違反を認めて制作報酬の15パーセント
損害部分として請負代金との相殺を認めました。


まず、付随的義務について。

旅行案内書の制作は,可能な限り数多くの資料を収集して分析・検討して行うのが通常であり(乙52,弁論の全趣旨),かつ,そのような分析・検討を行うことは,質の高いものを制作するために,社会的にみても有効適切な手段であり,望ましくもあるのであるから,上記のような事情があるからといって,直ちに,本件制作委託契約の合意内容としても,他人の出版物を利用ないし使用したり模倣・複製する行為が,程度のいかんを問わず一切禁止されるというほどの合意が成立していたものと推認することは合理的ではない。
 他方,旅行案内書の制作・発行の業務を含む出版業界においては,著作権の保護の問題は,業務の根幹に係わる問題であり,最終的に司法手続によって著作権侵害であるとの確定判断がされる事態に至らなくとも,他社から相当程度に合理的な根拠に基づいて著作権侵害の警告ないし苦情が申し入れられるような事態を引き起こすこと自体,著作権を扱う業務であるだけに,出版業者としての信用が傷つくであろうことは容易に推察されるところであって,この業界に身を置く者としては,そのような事態を含めて,著作権紛争を未然に防止ないし回避しようとするのが合理的な行動であると認められる(乙51,52,56,弁論の全趣旨)。
 このような事情をふまえて,前記認定事実を検討するならば,確かに,現地取材を行うとの約定自体は,直ちに他社の案内図を参照することを禁ずることを意味するものではないが,現地取材を行うことにより,他社の案内図とは自ずと異なったものが制作されることが期待され,これによって,他社から相当程度に合理的な根拠に基づいて著作権侵害の警告ないし苦情が申し入れられるような事態を回避し得る可能性が高まるのであって,現地取材の約定は,上記のような事態を回避しようという趣旨の一つの現れであると理解し得る(A社が独自の現地取材によって知り得た有用性の高い詳細情報を盛り込んだ案内図について,B社がこれを参照して当該詳細情報に基づいた案内図を制作したとすると,結果的に本件のように著作権侵害が成立しない場合であっても,著作権侵害の成否を巡ってAB間に紛議が生じ得る事態は回避し難いが,B社が独自の現地取材によってこれを調査確認して敷衍すればそのような事態の多くは回避することができるであろう。)。また合意書(乙6)における「他の著作物の著作権を侵害したり,他の著作物の掲載情報を使用したりすることをしない」との合意も,OFCとの紛争が生じた後の合意であり,かつ,他の著作物の掲載情報の一切の使用を禁じる合意が成立したというには,前記実情等に照らして無理があるとしても,そのような文言により,他社から相当程度に合理的な根拠に基づいて著作権侵害の警告ないし苦情が申し入れられるような事態を回避しようという趣旨のものとして,従前からの認識が確認されたものと理解するのが相当である。


以上の諸事情を総合勘案するならば,本件制作委託契約には,被控訴人において,著作権侵害に至らない態様であっても,相当程度に合理的な根拠に基づいて著作権侵害との疑義を受けるような態様で,他人の出版物を模倣・複製しない旨の付随的な債務があったものというべきである。
(控訴審28頁以下)

そのうえで、付随義務違反に基づく債務不履行について
結論的には著作権侵害とはならないが、
他社の空港案内図と共通する部分が多数あり、
他社から相当程度に合理的な根拠に基づいて
著作権侵害の指摘を受けることになるから
出版会社がとった解決措置も正当。
この点で、制作会社も債務不履行責任を負うものと
判断しました。
(控訴審30頁以下)




■コメント

著作権侵害性は原審に引き続き否定されましたが、
契約上の付随義務違反の点については、
控訴審では一転して肯定されました。

簡単に言えば、出版会社に迷惑をかけたという点で、
責任の一端を制作会社も責任を負う結果となったと
いえます。

出版会社は紛争の早期円満な解決のために
自らの判断で解決金を他社に支払っていますが
そうした費用の一部について制作会社も
負担しなければならないとされたわけです。


原告側弁護士陣営は、著作権にかかわる著作も多数揃え
著作権訴訟では有名な法律事務所のメンバーの面々。
対する被告側弁護士も著作権に関する講演活動や著作物が
あります。

当初から紛争解決にあたった弁護士らであるかどうか
分かりませんが、著作物性を巡って激しく対立したことは
想像に難くありません。


■追記(06.6.05)

OFC空港案内図について

OFCトラベル刊行物ー世界のエアポートガイドー
OFC日本語による航空運賃のバイブルと言えばOFCタリフ




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2006年05月22日

「江戸庶民風俗図絵模写ー豆腐屋ー」事件〜著作権 損害賠償等請求事件判決(知的財産裁判例集)〜

裁判所HP 知的財産裁判例集より

平成18.5.11東京地裁平成17(ワ)26020損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 設樂隆一
裁判官    荒井章光
裁判官    鈴木千帆


関連判例

★対柏書房株式会社訴訟
東京地裁 平成18.3.23平成17(ワ)10790 著作権侵害差止等請求事件 著作権 民事訴訟PDF

★対株式会社新橋玉木屋訴訟
東京地裁 平成11.9.28平成10(ワ)14180 著作権侵害差止等請求事件PDF


過去のブログ記事
江戸庶民風俗図絵模写」事件〜著作権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)〜 - livedoor Blog(ブログ)


■事案

江戸庶民風俗図絵の模写絵の二次的著作物性を
巡って争われた事案。

江戸時代に書かれた風俗図などの元絵を
原告の研究家(画家)が模写して書籍にまとめて
出版していました。
この模写絵を被告が自社商品のパッケージ図柄に
無断で使用したというものです。



■結論

請求棄却(原告江戸研究家側の敗訴)



■争点

条文 著作権法第2条1項1号・11号、21条

1 模写の著作物性



■判決内容

1 模写の著作物性

模写の著作物性についての規範部分について、

絵画における模写とは,一般に,原画に依拠し,原画における創作的表現を再現する行為,又は,再現したものを意味するものというべきである。したがって,模写作品が単に原画に付与された創作的表現を再現しただけのものであり,新たな創作的表現が付与されたものと認められない場合には,原画の複製物であると解すべきである。これに対し,模写作品に,原画制作者によって付与された創作的表現とは異なる,模写制作者による新たな創作的表現が付与されている場合,すなわち,既存の著作物である原画に依拠し,かつ,その表現上の本質的特徴の同一性を維持しつつ,その具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が原画の表現上の本質的特徴を直接感得することができると同時に新たに別な創作的表現を感得し得ると評価することができる場合には,これは上記の意味の「模写」を超えるものであり,その模写作品は原画の二次的著作物として著作物性を有するものと解すべきである。』(17頁)

と判示。

そして、あてはめとしては以下のように判断して
二次的著作物性を否定しています。


上記のとおり,原告絵画を本件原画と比較すれば,原告絵画が本件原画の模写作品であるため,江戸時代の豆腐屋の店先における日常の出来事を躍動的に描こうとした本件原画の特徴的な表現をそのまま再現しているものというべきであり,その間に実質的同一性があることは明らかである。』(21頁)


そのうえで、創作的な表現が付加されていない点についても


原告絵画においては,確かにこれを詳細に見れば,本件原画における,男性の頭が肩にめり込み,怒り肩になっていた浮世絵に特徴的な誇張的表現を,首のめり込む程度を若干減らし,怒り肩も若干盛り上がりを抑えた表現で描かれているものの(甲1,甲13),全体的に見ると両者の差異は細部における僅かなものであり,これを原告絵画における創作的な表現とみることは到底できないものである。また,原告絵画においては,女性に背負われた幼児の頭が反り返った程度が,若干抑えられて描かれているものの(甲1,甲13),これにより,石臼をひくために前傾姿勢を取っている女性と首を後ろに傾かせて寝ている幼児とのバランスに特段の変化が生じているということもできず,これを原告絵画における創作的な表現とみることもできない。さらに,画面右側上部の奥座敷に座り,油揚げを揚げている老婆については,本件原画より原告絵画の方が若干小さく描かれているほか,顔のしわなどの描写が多少簡略化して描かれているものの(甲1,甲13),顔のしわの描写については単に簡略化されただけであるとの印象を否定することはできず,老婆の体の大きさがやや小さめに描かれているとしても,その姿態から着物の柄に至るまで実質的に同一であり,そこに何らかの創作的な表現が付加されたことを肯定することはやはり困難である。またさらに,豆腐屋の店舗の様子についても,画面左下にある豆腐を入れる箱の上部四隅の金具,屋根,屏風の色ないし明暗,及び登場人物の着物の色などにおいて,異なる部分があるものの(甲1,甲13),これらは原告絵画において,精密な描写を省略し,若干の簡略化がなされたという程度のものであるとの印象を否定することはできず,そこに何らかの創作的な表現が付加されたものということはできない。』(21、22頁)


以上のように判断しました。


参考絵画が参照できなかったので少し長いですが
当てはめの部分を引用してみました。

なお、被告商品には、原告画家の氏名が表示されていました
(表記「江戸時代B画」)。
しかし、この点は被告側のたんなる誤信と判断されて
結論を左右するには至りませんでした。



■コメント

江戸風俗研究家の原告(本人、遺族)が提起した
江戸庶民図絵にかかわる著作権紛争としては
平成11年の佃煮屋新橋玉木屋事件、
今年に入っての出版社柏書房事件に続いて
今度が三件目の訴訟となります。

今回は豆腐屋である日本ビーンズが
被告となりました。

日本ビーンズ(株)


新橋玉木屋事件では、「煮豆売り」の図柄が、
柏書房事件では、「酒屋図絵」「怪談浮世絵」「焼継師図絵
蚊遣り図絵」などが問題となり、
今回の事件では、江戸時代の豆腐屋の店先を描いた浮世絵が
元絵となる「豆腐屋」図柄が問題となっています。


対柏書房事件訴訟では、被告出版社側に慰謝料1000万円
請求していて被告側の対応がどのようなものだったのか
気がかりでしたが、
今回の対日本ビーンズ訴訟では、なんと総額2億8千万円余り
(うち慰謝料部分は6800万円余り)。

14年間にわたって断続的に商品パッケージに
利用されていたということから
請求総額が膨れてしまったのでしょうが、それにしても
莫大な金額です。
(なお被告は、平成17年に警告を受けてすぐに使用を中止しています。)


原告研究家の氏名が商品パッケージに表示されたこともあるので
いくばくかの金員支払いで和解できればよかったのでしょうが、
原告側の請求額が大きすぎて、折り合いがつかず
結局著作物性の有無からの判断を余儀なくされてしまった。

いずれにしても今回は、被告側完勝といえそうです。


■追記(06.6.04)

より柔軟な裁判所の判断の余地について、
「企業法務戦士の雑感 」さんの記事参照。
[企業法務][知財] 「模写」作品の著作物性

■追記(07.06.24)

村井麻衣子「模写における創作性の判断基準-豆腐屋事件-」
      『知的財産法政策学研究』15号(2007)341頁以下

本論文363頁以下に本件原画やパッケージが掲載されています。


written by ootsukahoumu at 12:23|この記事のURLTrackBack(0)

2006年04月30日

「初動負荷:トレーニング理論名」著作権事件〜著作権侵害差止等請求事件控訴審判決(知的財産裁判例集)〜

裁判所HP 知的財産裁判例集より


平成18.4.26大阪高等裁平成17(ネ)2410 著作権侵害差止等 著作権民事訴訟PDF

大阪高等裁判所第8民事部
裁判長裁判官 若林諒
裁判官    小野洋一
裁判官    中村心


★原審
平成17.7.12大阪地方裁平成16(ワ)5130 著作権民事訴訟PDF

大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 田中俊次
裁判官     高松宏之
裁判官     西森みゆき


■事案

スポーツトレーニング理論である
「初動負荷」理論を解説した雑誌記事の
翻案権侵害性をめぐって争われた事案


■結論

控訴棄却(原告トレーナー側敗訴)


■争点

条文 著作権法第27条

1 翻案権侵害の肯否


■判決内容

1 翻案権侵害の肯否

初動負荷理論提唱者の著作物と
被告の雑誌記事の5箇所の部分の対比において
翻案権侵害の肯否が争われました。

結論的には、すべて侵害性を否定。
表現上の本質的特徴の同一性
あるということはできないとしました。


■コメント

原審では「初動負荷」「終動負荷」といった
理論名の著作物性をめぐって争われました。

結論的には名称としてはありふれたもので、
著作権法第2条1項1号にいうところの
創作性に欠けると判断されていました。

控訴審では、原告側は理論名の著作物性や
不正競争防止法(同法第2条1項1号)違反、
民法415条(契約上の付随義務違反)の
争点を撤回

新たに翻案権侵害(27条)としての主張を
追加しました。


判決文末尾に別紙対照表が添付されています。
一見して翻案権侵害を認めるのは
難しかったことがわかります。


なお、スポーツトレーニング理論のような
いわば自然科学を内容とする著作物では
誰が表現しても同じような書き方に
なってしまうため
トレーニングを解説する記述の
著作物性の幅自体おのずと狭くなる
ということもあると思います。


理論名の著作物性(複製権侵害性)とあわせて
翻案権侵害性についても否定されて、
原告トレーナー側にとっては完敗という
結果となりました。


■過去のブログ

理論名と著作権(続報)=知財判決速報掲載=2005年07月16日


■参考ブログ(追記06.5.11)

事案の背景について詳細に検討されているものとして
「企業法務戦士の雑感」さん
[法律][知財] 明らかにされた真実

written by ootsukahoumu at 11:24|この記事のURLTrackBack(0)