知財判決速報2006

2007年03月10日

「押し花教室営業差止」事件〜 営業差止請求事件判決(下級裁判所判例集)〜

裁判所HP 下級裁判所判例集より

「押し花教室営業差止」事件

さいたま地裁越谷支部平成18.12.13平成17(ワ)677営業差止等請求事件PDF

さいたま地方裁判所越谷支部
裁判官 橋本英史


■事案

原告カルチャー教室の卒業生である被告が原告との間で合意した
競業禁止規約の公序良俗違反性(民法90条)が争われた事案


原告:押し花制作カルチャー教室主宰者
被告:任意教室主宰者


■結論

請求棄却


■争点

条文 民法90条

1 競業禁止規約の公序良俗違反性



■判決内容

1 競業禁止規約の公序良俗違反性

裁判所は、

一般的な技能にかかわるノウハウなどの取得については教本書籍から
取得するのと基本的には異ならないとし、卒業生に対する競業禁止合意に
ついては、

その合意が,事業者の保有する知的財産権,営業秘密,ノウハウ,営業・役務表示,ブランド価値,企業イメージ,事業者が創設しブランド名を付した段位・資格の社会的な通用性・信頼性等の正当な利益を保護することを目的とするものであり,禁止・制限される,営業の範囲の広狭,禁止・制限条件の有無・内容,期間及び場所的範囲(区域)の定めの有無・内容,代償的措置の有無・内容等の諸事情を考慮して,その目的の達成のために必要かつ相当なものとして,合理性を有するものとは認められず,個人の営業の自由,職業選択の自由を不当に害するものである,と判断される場合には,当該競業避止特約は,公序良俗に違反するものとして,民法90条により無効になるものと解される。
(13頁以下)

競業禁止・制限の目的の正当性と手段の合理性がなければならないと
説示しました。


そのうえで、

これを本件についてみると,本件合意は,原告が本件訴訟で被告に対して差止請求をするとおり,原告の営業内容である,「押し花又は押し花を使用した絵画の作成方法について営利目的で第三者に指導すること」を禁止するものであり,「押し花又は押し花を使用した絵画の作成方法」という一般的な技能,知識分野に係る営業を包括的に禁止し,かつ,その禁止される期間及び場所的範囲の限定が全くないものであるから(この事実は,当事者間に争いがない。),このような包括的,無制限の競業避止義務について,合理性があるものと判断すべき特段の事情が認められない限り,本件合意は,公序良俗に反し無効であるといわざるを得ない。
(15頁以下)

目的の正当性はともかく、手段の合理性に欠けると
ものである。
そして、上記「特段の事情」も認められないとして、
結論として本件合意は公序良俗に違反して無効と
されました。



■コメント

押し花教室の卒業生に対するコントロールとして、
上級コース卒業生には、任意教室開設の際には本部との
一定の契約関係を締結する必要(年会費の支払い)が
求められていました。

被告は、卒業後一時期こうした関係のなかで任意教室を主宰
していましたが、その後退会して独自に教室経営を行いました。

原告教室が保有する固有のノウハウについては、結局のところ
原告は具体的な立証ができず、著作権に関連する主張も特に
していません(19頁)。

もともと、主婦を対象にした一般技芸のレベルの押し花制作
について、こうした競業禁止規定で広く網をかけておくのは
困難だったと思われます。

また、原告教室の名称やブランドに頼ることなく被告が押し花教室を
主宰する限り、不正競争防止法にも抵触しないでしょうし、
やはり原告主張にはムリがあったようです。


written by ootsukahoumu at 14:54|この記事のURLTrackBack(0)

2007年01月24日

「天理教水京分教会」事件〜不正競争防止法  規則変更認証処分取消請求控訴事件判決(行政事件裁判例集)〜

裁判所HP 行政事件裁判例集より

「天理教水京分教会」事件

東京高裁平成18.6.28平成17(行コ)248規則変更認証処分取消請求控訴事件PDF

東京高等裁判所第1民事部
裁判長裁判官 江見弘武
裁判官    生野考司
裁判官    植垣勝裕


★原審
水戸地裁平成17.8.30平成16(行ウ)10規則変更認証処分取消請求事件


■事案

宗教法人内部の被包括関係廃止に際して行われた
所轄庁の規則変更認証処分の違法性と名称使用の
不正競争行為性が争われた事案


原告(控訴人)  :天理教
被告(被控訴人):所轄庁
         天理教分教会(訴訟参加人)


■結論

控訴棄却(原告側 敗訴)


■争点

条文 不正競争防止法2条1項1号、2号

1 宗教法人法28条1項1号の法令適合性と不正競争防止法


■判決内容

1 宗教法人法28条1項1号の法令適合性と不正競争防止法

原告側は、被包括関係廃止後も被告参加人が原告の名称の一部を
使用すること(「天理教○○教会」)が不正競争行為にあたる
違法なものであり、
宗教法人法28条1項1号(変更事項の法令適合性)の要件を欠く。
そしてこれを看過してされた所轄庁の処分は違法であると
主張していました。

この点について、原審に引き続き控訴審でも宗教法人の活動については、
不正競争防止法の適用外(「営業」にあたらない)であると判断されました。


不正競争防止法違反の主張についてみるに,不正競争防止法は,営業の自由の保障の下で自由競争が行われる取引社会を前提に,経済活動を行う事業者間の競争が自由競争の範囲を逸脱して濫用的に行われ,あるいは,社会全体の公正な競争秩序を破壊するものである場合に,これを不正競争として防止しようとするものにほかならないと解される。そうすると,同法の適用は,上記のような意味での競争秩序を維持すべき分野に広く認める必要があり,社会通念上営利事業といえないものであるからといって,当然に同法の適用を免れるものではないが,他方,そもそも取引社会における事業活動と評価することができないようなものについてまで,同法による規律が及ぶものではないというべきである。これを宗教法人の活動についてみるに,宗教儀礼の執行や教義の普及伝道活動等の本来的な宗教活動に関しては,営業の自由の保障の下で自由競争が行われる取引社会を前提とするものではなく,不正競争防止法の対象とする競争秩序の維持を観念することはできないものであるから,取引社会における事業活動と評価することはできず,同法の適用の対象外であると解するのが相当である。また,それ自体を取り上げれば収益事業と認められるものであっても,教義の普及伝道のために行われる出版,講演等本来的な宗教活動と密接不可分の関係にあると認められる事業についても,本来的な宗教活動と切り離してこれと別異に取り扱うことは適切でないから,同法の適用の対象外であると解するのが相当である(最高裁平成17年(受)第575号同18年1月20日第二小法廷判決参照)。
(3頁)


■コメント

知財判決と違って行政事件で裁判所サイトへのアップが遅くて
半年前の裁判例となります。

別件ですが、平成18年1月20日におなじく天理教内部での
名称使用差止事件について最高裁判例が出ていて、
今回の控訴審でもこの最高裁の判断を引用しています。


過去のブログ
「天理教名称使用差止」事件〜不正競争防止法 名称使用差止等請求事件判決(最高裁HPより)〜


■参考判例

「天理教名称使用差止」事件
最判平成18年01月20日平成17年(受)第575号




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2007年01月15日

「東京アウトサイダーズ」事件〜著作権 出版差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)〜

裁判所HP 知的財産裁判例集より

「東京アウトサイダーズ」事件

東京地裁平成18.12.21平成18(ワ)5007 出版差止等請求事件 著作権 民事訴訟PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 設楽隆一
裁判官      古河謙一
裁判官      吉川泉

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■事案

家族のスナップ写真の書籍無断掲載をめぐってその写真の創作性や著作権侵害性が争われた事案

原告:撮影者
被告:書籍執筆者
    出版会社

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法第2条1項1号

1 スナップ写真の著作物性
2 「薄い著作権(thin copyright)」理論の適否
3 写真の著作物としての利用性
4 書籍全体の差止、廃棄の必要性
5 出版社らの過失の有無
6 損害額の算定

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■判決内容

1 スナップ写真の著作物性

被告側は無断掲載された写真は家族のスナップ写真で創作性が欠けると主張しました。

しかし裁判所は、

写真を撮影する場合には,家族の写真であっても,被写体の構図やシャッターチャンスの捉え方において撮影者の創作性を認めることができ,著作物性を有するものというべきである。

本件写真は,父子の姿を捉えたその構図やシャッターチャンスにおいて,創作性が認められ,その著作物性を肯定することができ,撮影者である原告がその著作権を取得する。
(10頁)

として、被告側の主張を退けました。

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2 「薄い著作権(thin copyright)」理論の適否

被告らは,スナップ写真のように「薄い著作権( thin copyright)」しか認められない写真については,被写体であり,かつ,現像された写真現物を所持していたCに著作権が承継されていたと考えるのが自然であると主張する。しかし,原告が本件写真のネガを所持していること(甲1,6,弁論の全趣旨)からすれば,原告は,本件写真の複製を行い得る立場にあったのであるから,写真の複製物の所有権をCないしは訴外亡Dに譲渡したとはいえても,写真の著作権自体を譲渡したことを認めることはできないというべきである。
(11頁)

裁判所は、原告が写真の著作権を他者に譲渡したとは認めませんでした。

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3 写真の著作物としての利用性

被告側は、問題となった書籍での当該写真の掲載目的、態様、効果などからすると、写真の掲載はその創作性のある部分の利用にあたらず、したがって「写真の著作物」としての利用にあたらないと主張しました。

しかし裁判所は、以下のように判断しまて被告の主張を容れていません。

被告らは,本件書籍においては,本件写真の著作物性を基礎付ける露光その他の撮影上の創意工夫といった著作物としての要素を鑑賞させる目的が一切ないことから,写真の著作物として利用するものではないと主張する。

しかし,本件書籍の口絵に掲載されている写真が本件写真であることは,被写体の構図やその背景から明らかであるから,本件写真の撮影に際してなされた被写体の構図等の創意工夫は,一部とはいえそのまま本件書籍に再現されているのである。したがって被告らが,創作的表現である本件写真をその一部において複製使用しているのは明らかであり,被告らの主張は採用することができない。
(11頁以下)

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4 書籍全体の差止、廃棄の必要性

2点の写真が2冊の書籍に各一箇所ずつ無断掲載されていました。
判決では、印刷・出版発行の差止とともに、写真掲載部分の廃棄を認めています。
(12頁)

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5 出版社らの過失の有無

出版活動に携わる被告らとしては,取材に応じた者から写真の提供があったとしても,その者がその写真のネガなどを管理しており,その写真を撮影したことを窺わせる事情がない限り,写真の撮影者が別にいて,著作権を有しているという事態を容易に想定し得るところである。被告らは,単に,訴外亡Dから本件写真の使用許可を得ている旨の主張をしているだけであり,かかる主張を前提としても著作権者に対する確認作業は何ら行われていないのであるから,写真使用時に問題となり得る著作権処理について十分な措置を講じたとは言い難く,著作権侵害につき過失があるものといわざるを得ない。
(13頁)

裁判所は、出版会社にも過失を認めています。

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6 損害額の算定

写真使用料相当額の賠償額として5万円(2点分)、慰謝料として30万円、
弁護士費用として10万円の合計45万円の損害額が認定されています。
(14頁以下)

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■コメント

本判決で実務上重要となるのは、出版会社に写真著作物を書籍に掲載する際の過失を認定した部分ではないかと思われます。

写真の提供を受けて出版物に写真を使う場合、提供者がその写真の著作権者かどうかの判断については
いろいろな場合があるとは思いますが、編集者は役割分担上執筆者に委ねることが多いと思います。

判決では本件書籍での編集者の役割についての検討がなく(もともと被告出版社側の反論が薄いのですが)
裁判所説示部分の事実認定だけでは出版社に厳しい判断ではなかったかとの印象を持つところです。

なお、「thin copyright」の法理が、「著作権の保護対象とはするものの、被告作品が原告作品のデッドコピーであるか又はそれと同程度のものである場合以外は、侵害が認定されないとする考え方」(作花文雄「詳解著作権法第三版」(2004)219頁)であるとしても、ダイレクトにこの法理から著作物にかかわる権利の承継関係が結論付けられるわけではない以上、被告側の主張も根拠が薄いところです。

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■参考判例

ぐうたら健康法事件
東京地裁平成7.5.31判決

ホテルジャンキーズ事件
東京地裁平成14.4.15判決

「予備校教材」事件
東京地裁平成18.11.15平成18(ワ)4824等

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■追記

控訴審関連記事(平成19.5.31)
「東京アウトサイダーズ」事件(控訴審)〜著作権 出版差止等請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)〜


written by ootsukahoumu at 08:19|この記事のURLTrackBack(0)

2007年01月08日

「ロケット制御データ解析プログラム著作権」事件(控訴審)〜著作権 著作権存在確認等請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)〜

裁判所HP 知的財産裁判例集より

「ロケット制御データ解析プログラム著作権」事件(控訴審)

知財高裁平成18.12.26平成18(ネ)10003著作権存在確認等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官    宍戸充
裁判官    柴田義明


★原審
東京地裁H17.12.12 平成12(ワ)27552 著作権 民事訴訟事件


★原審に関する過去の記事
2005年12月27日


■事案

宇宙開発事業団(現在は、宇宙航空研究開発機構に改編)の職員が、
ロケットや人工衛星の制御データ解析プログラムについて著作権、
著作者人格権が自分にあることの確認を求めた事案の控訴審。


原告(控訴人) :元職員
被告(被控訴人):宇宙開発事業団ら


■結論

控訴棄却(原告元職員側敗訴)


■争点

条文 著作権法第2条1項1号、15条、28条

1 プログラムの著作物性
2 原告の創作者性
3 職務著作性(15条2項)の肯否
4 翻案権侵害性


■判決内容

1 プログラムの著作物性

規範

小説,絵画,音楽などといった従来型の典型的な著作物と異なり,プログラムの場合は,「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの」(法2条1項10の2)であって,元来,コンピュータに対する指令の組合せであり,正確かつ論理的なものでなければならないとともに,プログラムの著作物に対する法による保護は,「その著作物を作成するために用いるプログラム言語,規約及び解法に及ばない。」(法10条3項柱書1文)ところから,所定のプログラム言語,規約及び解法に制約されつつ,コンピュータに対する指令をどのように表現するか,その指令の表現をどのように組み合わせ,どのような表現順序とするかなどといったところに,法によって保護されるべき作成者の個性が表れることとなる。

したがって,プログラムに著作物性があるといえるためには,指令の表現自体,その指令の表現の組合せ,その表現順序からなるプログラムの全体に選択の幅が十分にあり,かつ,それがありふれた表現ではなく,作成者の個性が表れているものであることを要するものであって,プログラムの表現に選択の余地がないか,あるいは,選択の幅が著しく狭い場合には,作成者の個性の表れる余地もなくなり,著作物性を有しないことになる。そして,プログラムの指令の手順自体は,アイデアにすぎないし,プログラムにおけるアルゴリズムは,「解法」に当たり,いずれもプログラムの著作権の対象として保護されるものではない。
(42頁以下)

あてはめ

(プログラム15について)『中心となる「GENPER」は131ステップ,「KEPLER」は47ステップのサブルーチンであり,式の展開,入出力その他の条件を設定に対応して,各ステップの組合せ,その順序,サブルーチン化などで,多様な記載が可能であるところ,作成者の工夫がこらされており,その個性が認められるから,著作物性を有するものというべきである。
(44頁)

(プログラム11について)『第14ステップは,プログラムを終了させるための基本的なFORTRAN言語であるEND行(乙204の1)であって,選択の余地がない。
さらに,各ステップの論理的順序をみても,変数へのデータ設定,計算,データ出力の3段階からなるありふれた流れであって,選択の幅は,著しく狭いものである。
そうすると,本件プログラム11は,全体として表現に選択の余地がほとんどなく,わずかに表現の選択の余地のある部分においても,その選択の幅は著しく狭いものであるから,上記計算式を基礎にFORTRAN言語でプログラムを作成しようとする場合,本件プログラム11のようになることは避けられず,作成者の個性を反映させる余地はないものとして,その著作物性は否定すべきである。

(48頁以下)


以上のように、著作物性が認められた部分と、
認められなかった部分がありました。


2 原告の創作者性

原告による単独または共同によるプログラム作成が
認定されています。
(50頁以下)


3 職務著作性(15条2項)の肯否


 1「法人等の発意」要件について

法人等と業務に従事する者との間に雇用関係があり,法人等の業務計画に従って,業務に従事する者が所定の職務を遂行している場合には,法人等の具体的な指示あるいは承諾がなくとも,業務に従事する者の職務の遂行上,当該著作物の作成が予定又は予期される限り,「法人等の発意」の要件を満たすと解するのが相当である。

 2「職務上作成する著作物」要件について

業務に従事する者に直接命令されたもののほかに,業務に従事する者の職務上,プログラムを作成することが予定又は予期される行為も含まれるものと解すべきである。

 3「法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの」要件について

公表を予定していない著作物であっても,仮に公表するとすれば法人等の名義で公表されるべきものを含むと解するのが相当である。
(58頁以下)


結論的には、被告事業団側に法人著作を認めました。


4 翻案権侵害性

著作物性や法人著作の点で前提を欠くため
この点での主張も失当と判断されました。
(83頁)



■コメント

この事案の論評については、「企業法務戦士の雑感」さんの
ブログに詳しいので、そちらをご覧いただけたらと
思います。

「企業法務戦士の雑感」さんの記事にもあるように
事業団内部の「業務連絡」文書(71頁以下)などは、企業内部における
著作物取扱いに対する問題意識のあり方がわかって
興味深い点です。


■参考ブログ

企業法務戦士の雑感
■[企業法務][知財] 「業務連絡」文書の疑惑。


written by ootsukahoumu at 10:01|この記事のURLTrackBack(0)

2007年01月05日

「宇宙戦艦ヤマトパチンコ」事件〜著作権 損害賠償等請求事件判決(知的財産裁判例集)〜

裁判所HP 知的財産裁判例集より

「宇宙戦艦ヤマトパチンコ」事件

東京地裁平成18.12.27平成16(ワ)13725損害賠償等請求事件 著作権民事訴訟PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 清水節
裁判官    山田真紀
裁判官    佐野信


★関連裁判(同日同法廷の判決)
東京地裁平成18.12.27平成17(ワ)16722損害賠償請求事件 著作権民事訴訟PDF

*こちらでは争点として不正競争防止法2条1項1号、2号も
とりあげられています。

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■事案

アニメ「宇宙戦艦ヤマト」の著作権が製作総監督であった
プロデューサーに帰属していたのか、彼の会社に帰属していたのか、
著作権譲渡契約書によって有効に原告に権利移転したのか
が争われた事案


原告:映像制作会社 東北新社
被告:パチンコ機器製造販売会社 三共ら

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■結論

請求棄却(東北新社敗訴)

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■争点

条文 著作権法第29条1項、61条2項

1 プロデューサーは著作権を取得していたか
2 東北新社は翻案権を取得したか(傍論)
3 「大ヤマト」は「宇宙戦艦ヤマト」の複製権を侵害するか(傍論)

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■判決内容

1 プロデューサーは著作権を取得していたか

プロデューサー(西崎義展氏)がアニメ制作にあたって人選、交渉、
実質的な監督業務を行っていたものの、
TV局との契約や資金調達はプロデューサーが代表を務める会社法人が
主体としておこなっていたことから、「映画製作者」(29条1項)は
あくまで法人であり、個人としてのプロデューサーは「映画製作者」では
なかったと判断されています。
(107頁以下)


東北新社は、プロデューサーとこの法人らを含めて「著作権等譲渡契約」を
締結していましたが、譲渡の当事者はあくまで東北新社とプロデューサー
個人という規定振りでした(112頁以下に契約書)。

このため、著作権をもともと取得していないプロデューサーからは
東北新社は著作権の譲渡を受けていないこととなってしまいました。

   ----------

2 東北新社は翻案権を取得したか(傍論)

著作権等譲渡契約」によって、東北新社は著作権の譲渡を
受けていない以上、翻案権云々の議論もする必要がなくなりました。
ただ、「念のため」として傍論判断がされています。

著作権等譲渡契約書」に特掲事項の記載(61条2項)が欠けていました。
この点について裁判所は厳格に判断。

仮に著作権譲渡契約が有効であったとしても
著作権法27条規定の翻案権は譲渡の対象とはなっていないと
判断されてしまいました。
(118頁以下)

   ----------

3 「大ヤマト」は「宇宙戦艦ヤマト」の複製権を侵害するか(傍論)

この部分も傍論となります。

本件映画が制作された時点で,先端に穴が空いた飛行物体が宇宙を航行している様子を描いた画像,先端に穴の空いた戦艦が海上を航行している様子を描いた画像,先端部から光線を発している飛行物体を描いた画像,及び宇宙空間が暗青色に描かれている画像が存在していることが認められ,このことから,先端部に存在する発射口から光線を発する飛行物体が暗青色の宇宙空間を航行するという映像は,特に目新しい表現ということはできず,したがって,また,そのような飛行物体が艦首の発射口から光線を発射する前段階として,発射口部分が発光することを描いた映像も,特に目新しい表現ということはできない。さらに,艦首の発射口を拡大して描くことも,ありふれた表現方法である。そして,戦艦が宇宙空間を飛行すること自体は,アイデアに属し,また,海中又は宇宙空間を艦船又は飛行物体が進んで行くという表現は,上記同様,特徴あるものとはいえない。
(126頁)

アニメ作品制作よりも以前から戦艦が宇宙を飛ぶモチーフが
作品化されていました。こうした背景を裁判所は重視しました。

パチンコ台の画面で表示される松本零士作「大ヤマト」と
「宇宙戦艦ヤマト」の両作品の同一性を判断するにさいして
その対比部分である宇宙を航行する戦艦の姿や波動砲発射シーンは
ありふれた表現方法」、「特徴あるのもとはいえない」と
判断しました。

複製権(翻案権)侵害の際の判断要素としては、問題となる対比部分が
その作品にとって特徴的部分であることが必要ですが、
そうではないと判断されたわけです。

また、別の描写については、ありふれた表現方法ではないものの
具体的な表現形式が大きく異なっているとして同一性はない、との
判断がされています。
(127頁以下)

なお、艦橋部分の描写については「宇宙戦艦ヤマト」アニメの「原画」
としての松本さんの原著作物性が認められて、複製権侵害性はないと
判断されています。
(153頁)

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■まとめ

【観念的な構図】

西崎東北新社商標権をめぐる裁判、著作者人格権をめぐる裁判)

西崎松本零士著作者をめぐる裁判)

松本零士東北新社著作権をめぐる裁判:今回の事案)

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【「宇宙戦艦ヤマト」関連裁判の時系列】

1 商標権も譲渡されていたか(西崎対東北新社)

「宇宙戦艦ヤマト」に関する商標権も西崎氏らと
東北新社との間の「著作権等譲渡契約」によって移転している。
(H12.9.28判決)

2 著作者人格権不行使も合意していたか(西崎対東北新社)

「著作権等譲渡契約」に著作者人格権不行使規定はなかったが、
合理的意思解釈から合意があると認定。
(H13.7.2判決 プレステソフト事件

→平成15年7月29日裁判外和解成立により訴え取り下げ

3 「宇宙戦艦ヤマト」の著作者はだれか(松本零士対西崎)

「宇宙戦艦ヤマト」各作品の著作者はプロデュサーである西崎氏と認定。
(H14.3.25)

→平成15年7月5日裁判外和解成立により訴え取り下げ

4 「大ヤマト」は「宇宙戦艦ヤマト」の権利関係と衝突しないのか
 (松本零士対東北新社)
(H18.12.27 今回の判決 なお、松本氏は補助参加

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■コメント

最近街中を車で走っているとFCチェーン展開している
自動車板金塗装会社がCI、イメージキャラクターとして看板に
「ヤマト」の図柄を載せているのをあちこちで目にします。

てっきり、
『「宇宙戦艦ヤマト」だなあ』
と思っていたらそうではなくて、松本零士さんの新コンセプト「大ヤマト
(「宇宙戦艦ヤマト」とは別の企画)であることが今回のことでわか
りました。

「キャンディ・キャンディ」紛争に較べればまだ作品が死蔵されなく
て済んではいますが、それにしてもお金が大きく絡み、またプロデュ
ーサー西崎義展さんのキャラクター、松本零士さんのその後の新企画
展開もあって権利関係がとてもフクザツなことになってしまいました。

ヤマトに関する権利をすべて押さえたつもりの東北新社でしたが、
譲渡契約書の不備、東北新社を蚊帳の外に置いた西崎・松本和解、
その後の松本さんの新コンセプト展開で東北新社は
いくつのもの訴訟の対応を迫られることになってしまったわけです。


今回の判決で傍論として判断された複製権侵害の争点ですが、
翻案権侵害として議論しても同様の判断となったのかどうか、また、
キャンディキャンディ事件判決(東京地裁H11.2.25)を前提とすると
侵害性否定の判断でよかったのか疑問なしとはしないところです。

なお、下記掲示のブログ、サイトがたいへん参考になりました。

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■参考判例

・商標権をめぐる裁判(東北新社、破産管財人ら対西崎の家族)

東京地裁平成12年09月28日平成11(ワ)18820 商標権 民事訴訟PDF

・プレステソフトをめぐる裁判(西崎対バンダイ、東北新社ら)

東京地裁平成13年07月02日平成11(ワ)17262 著作権 民事訴訟PDF

・著作者をめぐる裁判(松本零士対西崎)

東京地裁平成14年3月25日平成11(ワ)20820 著作権侵害差止等請求事件,同12年(ワ)14077 著作者人格権確認反訴請求事件PDF

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■参考サイト・ブログ

「きむずか」
松本零士は自分の作品をパクったのか?-きむずか - Echoo!-エコログ

「トラッシュボックス」
トラッシュボックス 宇宙戦艦ヤマト 「ありふれた表現」??

「「宇宙戦艦ヤマト」の権利関係」
「宇宙戦艦ヤマト」の権利関係

「大ヤマト零号オフィシャルサイト」(松本零士さん監修)
大ヤマト零号オフィシャルサイト

「新 宇宙戦艦ヤマト・復活篇」(西崎義展さん監修)
新 宇宙戦艦ヤマト・復活篇

「株式会社 三共」(パチンコメーカー)
Good Luck, Good Life. SANKYO

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■追記(06.01.07)

企業法務戦士の雑感さんの本判決に対する評論が
掲載されています。
不正競争防止法の論点にも言及されていていつもの
ことながら明解な解説をされておいでです。

[企業法務][知財] 長すぎる傍論が招く悲劇。

   ----------------------------------------

■追記(08.5.27/08.12.16)

参考文献

宮下佳之「アニメーション映画の「映画製作者」の意義と著作権譲渡契約の解釈-パチンコゲーム機等映像事件-」『コピライト』554号(2007)44頁以下
中小路大ほか「宇宙戦艦ヤマト事件の判例概観」
第二東京弁護士会知的財産権法研究会編『著作権法の新論点
(2008)347頁以下

   ----------------------------------------

■追記(08.12.16)

ITpro2008/12/15記事
東北新社,「宇宙戦艦ヤマト」の著作権侵害訴訟で三共など5社と和解
(高田 隆=日経ニューメディア)

東北新社が2008年12月15日、三共(SANKYO)など5社と和解したと発表。
5社の一部が東北新社に対して2億5000万円の和解金を支払う内容。
記事によると、東京地裁平成18.12.27平成16(ワ)13725損害賠償等請求
事件と、東京地裁平成18.12.27平成17(ワ)16722損害賠償請求事件のパ
チンコ関連訴訟2件の控訴審で和解となったようです。

東北新社ニュースリリース
【08.12.15】 「宇宙戦艦ヤマト」著作権侵害訴訟和解について

2件の控訴審(東京地裁平成19年(ネ)第10006号、10007号)が和解と
伝えています。

   ----------

企業法務戦士の雑感

2008-12-15記事
■[企業法務][知財]「大ヤマト」大逆転の結末。

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2006年12月23日

「まねきTV」事件(抗告審)〜著作権 著作隣接権仮処分命令申立却下決定に対する抗告事件(知的財産裁判例集)〜

裁判所HP 知的財産裁判例集より

「まねきTV」事件(抗告審)

知財高裁平成18.12.22著作権民事仮処分決定

知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 三村量一
裁判官    古閑裕二
裁判官    嶋末和秀


対フジテレビ
平成18(ラ)10009PDF
対テレビ東京
平成18(ラ)10010PDF
対TBS
平成18(ラ)10011PDF
対NHK
平成18(ラ)10012PDF
対日本テレビ
平成18(ラ)10013PDF
対テレビ朝日
平成18(ラ)10014PDF

・過去の記事
番組ネット転送ビジネス「まねきTV」著作隣接権仮処分命令申立事件(2006年08月06日)

・まねきTVサービス
まねきTV

・SONY ロケーションフリー
ロケーションフリー

債務者側弁護士として、小倉先生と水口先生のブログ記事があります。

・benli
まねきTV抗告審決定

・夜明け前の独り言 水口洋介
まねきTV 知財高裁決定


■事案

ソニーの既製機器「ロケーションフリー」を利用した
インターネット回線でのテレビ番組視聴サービスを提供している業者が、
番組をネットに載せるようにする行為についての放送事業者の
権利である著作隣接権(送信可能化権)を侵害しているかどうかが
争われた事案。


抗告人(債権者) :TV局各社(NHK+在京キー局)
被抗告人(債務者):海外在住者向けテレビ番組ネット転送サービス運営会社


■結論

抗告棄却(放送事業者側敗訴)


■争点

条文 著作権法第99条の2

1 債務者(被抗告人)による送信可能化行為の有無


■判決内容

1 債務者(被抗告人)による送信可能化行為の有無


1 サービスシステムの機能

 (1)自動公衆送信装置に該当するか
 (2)送信可能化行為の主体はだれか



 (1)自動公衆送信装置に該当するか

ベースステーションによって行われている送信は,個別の利用者の求めに応じて,当該利用者の所有するベースステーションから利用者があらかじめ指定したアドレス(通常は利用者自身)宛てにされているものであり,送信の実質がこのようなものである以上,本件サービスに関係する機器を一体としてみたとしても,「自動公衆送信装置」該当性の判断を左右するものではない。

「ポートフォワーディング」(IPマスカレード)は,一個のグローバルIPアドレスだけで複数の端末がインターネットにアクセスすることができるようにする技術であるが,各端末が「1対1」の送信を行う機能しか有しないときは,この技術を用いたとしても,「1対1」の送信しかできないのであって,「1対多」の送信が可能になるものではない。
(対フジPDF9頁)

こうした点から、業者のシステムは自動公衆送信装置に該当しないと判断。


 (2)送信可能化行為の主体はだれか

ベースステーションは「1対1」の送信を行う機能のみを有するものであって,「自動公衆送信装置」に該当するものではないから,被抗告人がベースステーションにアンテナを接続したり,ベースステーションをインターネット回線に接続したりしても,その行為が送信可能化行為に該当しないことは明らかである。

アンテナが単独で他の機器に送信する機能を有するものではなく,受信機に接続して受信設備の一環をなすものであることは,技術常識であるから,被抗告人がベースステーションにアンテナを接続しても,ベースステーションへの送信を行ったことにはならない。
(同10頁)

この点でも、業者の行為主体性が否定されました。


2 サービスの利用形態


本件サービスにおいては,利用者各自につきその所有に係る1台のベースステーションが存在するところ,各ベースステーションからの送信の宛先は,これを所有する利用者が別途設置している専用モニター又はパソコンに設定されており,被抗告人がこの設定を任意に変更することはない。
(同11頁)


3 送信の契機

各ベースステーションからの送信は,これを所有する利用者の発する指令により開始され,当該利用者の選択する放送について行われるものに限られており,被抗告人がこれに関与することはない。
(同11頁)


以上の各事情から、一連のシステムは「自動公衆送信装置」に
あたらず、システムから行われる送信も「公衆送信」にあたらない。
サービス業者はシステムの寄託を受けて電源とアンテナの接続環境を
提供しているだけであり、侵害性はないと判断しました。
(同11頁)


■コメント

知財高裁三村コートは、東京地裁高部コートの判断を維持しています。
6つの決定とも説示部分は同一です。

テレビ番組ネット転送サービスのビジネスモデルとして
ようやく著作権法上の問題を一応はクリアしたものが出たことと
なりました。

放送事業者はサービス業者がシステムのベースに使用している
ソニー製品自体を叩けなかった以上、
いつかはこうした業者による便利なサービスの提供を
容認せざるを得ない事態となっていたでしょう。


放送事業者は裁判をやるなら侵害品を提供するソニーを
 訴えるのがスジ


と揶揄されても仕方がないのですが、
広告代理店のビルのなかでは、「ロケフリ」無線LAN電波が
飛び交っているといいます。とてもじゃないですが
放送事業者は他のところを相手にはできないでしょう。





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2006年12月15日

「レース編み機ソフト著作権侵害」事件〜不正競争防止法 不正競争行為差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)〜

裁判所HP 知的財産裁判例集より

レース編み機ソフト著作権侵害」事件

東京地裁平成18.12.13平成17(ワ)12938不正競争行為差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 市川正巳
裁判官    大竹優子
裁判官    頼晋一


■事案

レース編み機用ソフトの開発を担当したソフト開発会社元従業員が
退職後個人で第三者に同様のソフトを開発・譲渡したことから、
契約違反、不正競争行為(営業秘密の使用)、著作権侵害性などが
争われた事案

原告:トーションレース事業協同組合(発注元)
被告:ソフト開発会社元従業員(受注先元従業員)


■結論

請求棄却


■争点

条文 著作権法第21条、不正競争防止法第2条1項7号

1 営業秘密としてのアルゴリズムの不正使用
2 秘密保持義務違反性
3 プログラムの著作権の侵害性
4 画面表示の著作権の侵害性


■判決内容

1 営業秘密としてのアルゴリズムの不正使用

後記2(2)及び(3)に説示の事実によれば,被告は,市川ソフトを作成するに当たり,原告アルゴリズムをそのまま使用したものではなく,多くの点で原告アルゴリズムとは異なる処理手順を採用し,一部原告アルゴリズムと同様の処理手順を採用した箇所についても,技術上の合理性の観点から当然採用される部類に属する手法を採用したものであり,原告アルゴリズムや原告ソフトそのものを使用又は開示するに等しい結果を何ら招来していないものであるから,被告が市川ソフトを作成するに当たり,原告アルゴリズムを使用したものと認めることはできない。
(14頁)

  (:市川アルゴリズム、市川ソフトというのは、
   被告が退職後に開発した同種のソフトで第三者向けに
   譲渡されたもの)


原告側が営業秘密であると考えているアルゴリズムを
被告が利用しているわけではないとして
被告の行為は営業秘密の使用行為にはあたらないと
判断されました。


2 秘密保持義務違反性

原告とソフト開発会社の間の開発委託契約を根拠とする
請求権を債権者代位権として原告は被告に対して行使しています。

この開発委託契約書には、秘密保持規定1条項と
目的外使用禁止規定1条項が置かれています(3頁)。

裁判所は、被告は、原告ソフトの開発責任者として退職後であっても
開発会社に対して信義則上の秘密保持義務を負うものであると
判断しました。

そして、義務違反の有無については、

以前に同種ソフトウェアの開発に関与した被告が信義則上の秘密保持義務に反したか否かは,原告アルゴリズムと市川アルゴリズムとが一致する割合はどの程度か,一致する部分について,当該システムエンジニア等が従来から有していた技術の適用の結果といえるか,又は技術上の合理性の観点からそのような手順を採用することが当然か,市川ソフトウェアやその前提となる市川アルゴリズムの一部が開示されることにより,従前の雇用主である両毛システムズ又は開発委託者である原告のノウハウ等が開示される結果となるか等を総合して判断するほかはない。
(15頁以下)


その上で、アルゴリズムに多くの点で相違点があること、また
共通点には技術上の合理性の観点から当然採用される部類に属する
手法があることなどから、
信義則上の秘密保持義務違反はないと判断されました。

なお、被告は退職後2年弱で市川ソフト制作を受託しています。


3 プログラムの著作権の侵害性

ソースコードの対比の結果、プログラムの表現として
全く異なっていること、また類似する部分も単純な内容であったり、
わずかな類似にすぎないとされて類似性はなく、
著作権の侵害性は否定されました。(20頁以下)

なお、被告は原告ソフトの基本設計を主に担当しており、
プログラミングは別の従業員2名と分担していました(12頁)。


4 画面表示の著作権の侵害性

ディスプレイ上に表示される升目に黒斑点が
あったりなかったりする図面の著作権の存在を
原告側は主張しましたが、
こうした図面は以前からあったものであるとして
そもそも原告に著作権は認められませんでした。
(22頁)



■コメント

トーションレース」とは、ボビン式レースの一種で
目の粗さが特徴のもので、トーション「torchon」というのは
キッチンなどで使うタオルをさすフランス語なのだそうです。

Ribbons.jp

雑貨じてん

織機の画像はこちら
れーす屋さん−トーションレース−


SE従業員への退職後の営業活動へのコントロールという点が
今回の争点となりました。

NDAで縛るにしても従業員独自のアイデアやスキルを囲い込むのは
現実には困難ですし、
転職の際の就労制限など義務内容が厳しすぎれば職業選択の自由
奪いかねないので、どこまで秘密保持義務規定に実効性をもたせられるか
実際上難しい問題があります。

今回は、信義則上の秘密保持義務という契約の側面からの検討に加えて
不正競争防止法、著作権法と、原告側は適用法例を駆使して
弁論に望んでいますが、いずれも今ひとつ説得力に欠けていた感が
あります。

不正競業行為における営業秘密性の判断はむろんのこと、
特に著作権に関する主張の部分については、
著作物の利用がレース製造という特殊な分野のものであることや、
著作物自体が「ありふれたもの」とされかねない性質のもので
あったことがあったように思われます。


ところで、FA機械なども制御するのは最近ではウインドウズなどを利用した
ソフトウエアであったりするわけで、そうしたソフトの取扱いについても
契約関係で明記することになります(本事案のOSの種類は不明)。

制御機器製造メーカーは発注先と秘密保持契約、製造受託契約のほか
保守管理契約を締結しますが、
制御プログラムの保護についてもどこかに規定します。

というのも、機械の製造や保守業務だけではなかなか収益があがらない
製造機器メーカーとしては、制御プログラム開発にも力を入れていて、
こうしたプログラムの保護(発注先との関係で)が
重視されてきているからです。


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2006年12月13日

「セラミック配合貴金属営業誹謗」事件〜不正競争防止法 損害賠償等請求事件判決(下級裁判所判例集)〜

裁判所HP 下級裁判所判例集より

「セラミック配合貴金属営業誹謗」事件

甲府地裁平成18.11.28平成15(ワ)91損害賠償等請求事件PDF

甲府地方裁判所民事部
裁判長裁判官 新堀亮一
裁判官    岩井一真
裁判官    青木美佳


■事案

セラミック配合貴金属について、欠陥商品などと
虚偽事実を取引関係先に通知したことが営業誹謗行為に
あたるとして差止などが求められた事案

原告:貴金属装身具製造販売会社
被告:貴金属・宝石製造販売会社


■結論

請求一部認容


■争点

条文 不正競争防止法2条1項14号、民法719条

1 営業誹謗行為性
2 違法性阻却の成否
3 損害
4 差止の必要性


■判決内容

1 営業誹謗行為性

被告は、原告製品(指輪3点)を独自に入手、検査機関で検査した結果
セラミック成分の配合比率が0.01%未満だったことから
原告の取引先販売店や消費者センター、県福祉保健部へ
クレーム通知(電話・FAX、訪問)していました。

原告独自の検査、裁判所での鑑定嘱託の結果、
原告提出製品からは相当量のシリカ(Sio2)が検出されましたが、
被告提出の原告製品指輪2点についてはやはり0.01%未満でした。

こうした経緯を踏まえて、
被告側の「天然セラミックは検出されませんでした」という
告知部分については、直ちに虚偽告知であるとはいえないと
されました。(16頁)

もっとも、原告製品を扱えば

詐欺になる
販売すると詐欺・景品表示法違反」になる

など、断定的な表現を用いて原告製品の品質の信頼性を否定しており
こうした点も総合的に考慮されて主たる部分に虚偽が含まれていると
判断されました。
(18頁)


2 違法性阻却の成否

指輪3点の検査結果のみを根拠としての被告側の言動には
違法性を阻却するような相当な理由は認められない、と
判断されました。(21頁以下)


3 損害

被告側に営業妨害・社会的信用毀損の意図があったと認定されており
(20頁以下)、無形的損害として150万円が認められました(500万円請求)。


4 差止の必要性

原告側申立による仮処分決定によりすでに被告側は文書の交付などを
していませんでしたが、被告側は独自の見解から反復継続して
虚偽告知・流布行為に及ぶ恐れがあるとして、差止の必要性が
認められました。(22頁)


■コメント

甲府地裁の取扱った事案です。

原告は、セラミック成分配合による健康増進をうたい文句にした
貴金属を製造販売していました。
これに対して、被告はトルマリン成分を配合した健康ジュエリーなどを
製造販売、両社は競争関係にある山梨県内の同業者でした(20頁)。

被告は、セラミック成分を貴金属に含有させることが
製法上難しいとの認識を持ち、また原告が薬事法に抵触するような
販売方法をしているのではないかとの疑念から調査を始め、
その結果、検査した原告製品3点の指輪については
シリカ(Sio2)含有率ほぼゼロとの結果を得ました。

こうした結果をふまえて、被告は関係各方面へ働きかけを行ったわけです。

もっとも、裁判所は指輪3点だけで原告製品のすべての含有率を
一律に判断できない、また、被告の行為は簡単に言うと、やりすぎ
ということで結論的に不法行為性、営業誹謗行為性を肯定しています。



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2006年12月08日

「教科書副教材著作権侵害」事件(控訴審)〜著作権 損害賠償請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)〜

裁判所HP 知的財産裁判例集より

「教科書副教材著作権侵害」事件(控訴審)


★控訴審
平成18.12.6知財高裁平成18(ネ)10045 損害賠償請求控訴事件 著作権 民事訴訟

知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官    高野輝久
裁判官    佐藤達文



★原審
平成18.3.31東京地裁平成15(ワ)29709 損害賠償 著作権 民事訴訟PDF

★過去のブログ記事
「教科書副教材著作権侵害」事件〜著作権 損害賠償請求事件判決(知的財産裁判例集)〜


■事案

教科書に準拠した副教材として製作された小学生用国語テスト等の
著作権侵害性が争われた事案


原告(控訴人) :作家
被告(被控訴人):教育教材図書出版会社


■結論

控訴棄却(原審維持)



■争点

条文 著作権法20条、19条、民法724条

1 訴えの追加的変更の許否
2 同一性保持権侵害性(20条)
3 氏名表示権侵害性(19条)
4 「損害を知りたる時」(民法724条)
5 損害、利得の算定


■判決内容

1 訴えの追加的変更の許否

原審は、提訴後2年以上経た時期での変更申立は
時機に後れた攻撃防御方法であるとしていましたが
控訴審もこれを維持、変更を許しませんでした。


2 同一性保持権侵害性

損害の算定について、

同一性保持権を侵害されたことによる慰謝料は,改変行為によって生じるものであって,年度ごとに毎年別個の損害が発生するというものではないというべきである。そうであれば,改変行為が同一であれば,同一の改変行為としてこれに基づく損害を算定するのが相当である。
(34頁)

原審の説示(原審PDF106頁)を維持しています。


3 氏名表示権侵害性

損害の算定について、

氏名表示権を侵害されたことによる慰謝料は,著作者名を表示し又は表示しないで著作物を公衆に提供する行為によって生じるものであって,年度ごとに毎年別個の行為が行われ別個の損害が発生するというものではないというべきである。そうであれば,上記の提供行為が同一であれば,同一の提供行為としてこれに基づく損害を算定するのが相当である。
(34頁)

原審の説示(原審PDF108頁)を維持しています。


4 「損害を知りたる時」(民法724条)

教科書掲載著作物の著作権者は,著作物を教科用図書に掲載する旨の通知を受けるとともに,補償金の支払いを受けるから(著作権法33条2項),当然に,自己の著作物が教科書に掲載されていることを認識しているものである。そして,ある教材会社が教科書掲載著作物をその著作権者に無断で長年にわたって広範囲に国語テストに複製して販売してきたという一般的事実が存在し,以前から教科書に掲載されている著作物に係る著作権者が上記事実を認識していたという事実関係の下においては,教科書掲載著作物の著作権者が,ある教材会社が教科書に掲載された自己の著作物を国語テストに複製したことを認識した時には,経験則上,教科書に掲載されていたそれ以前の期間,上記教科書掲載著作物を国語テストに複製していたことを認識したものと推認することができる。
(35頁)

この点についても原審の説示の内容(原審PDF116頁以下)を
維持しています。


5 損害、利得の算定

(1)損害について

・財産的損害

 単価×部数×使用率(使用頁数÷総頁数)×料率(10%又は5%)

・慰謝料
 1 同一性保持権侵害・・・10万円
 2 氏名表示権侵害・・・・・ 5万円

とした原審判決を是認。


(2)利得について

損害賠償請求権が消滅時効にかかってしまっている作家については
作品の使用料相当額の不当利得返還請求を認め、使用料率5%での
利得額計算を認めました(原審同様)。

 単価×部数×使用率×料率(5%又は翻訳2.5%)

また、被告は年5%の利息返還義務があるとしています。
この点も原審維持です。


■コメント

作家のかたがたが学校教材図書を巡って争っていた事案の控訴審判決です。

控訴審でも原審の判断が維持され、著作権侵害性は認められたものの
原告作家側としては、不満の残る内容となったようです。


なお、学校教材図書を巡る著作権紛争については長い歴史があります。

社団法人日本図書教材協会のサイトに詳しく掲載されています。

「協会の歴史>資料室>教科書会社との著作権問題。」

(社)日本図書教材協会



written by ootsukahoumu at 23:17|この記事のURLTrackBack(0)

2006年12月06日

「スポーツマーケティング会社商号使用差止」事件〜会社法 商号使用禁止等請求事件判決(知的財産裁判例集)〜

裁判所HP 知的財産裁判例集より

「スポーツマーケティング会社商号使用差止」事件

東京地裁平成18.11.29平成18(ワ)9080商号使用禁止等請求事件PDF


東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 市川正巳
裁判官    杉浦正樹
裁判官    頼晋一


■事案

競業関係にあり、しかもいずれも渋谷区内にある会社が商号の類似性から
不正競争行為性を巡って争った事案

原告:スポーツマーケティング情報提供サービス会社
被告:スポーツマーケティング・コンサル会社


■結論

請求棄却


■争点

条文 会社法8条

1 不正の目的の有無


■判決内容

1 不正の目的の有無

スポーツに関するマネジメント業務などで両社とも競争関係にありました。
被告は原告を知っていましたし、本店所在地もいずれも渋谷区内
距離にして1.5キロ離れている程度。
そして、
原告「スポーツ・マーケティング・ジャパン株式会社」、
被告「ジャパン・スポーツ・マーケティング株式会社」という
商号の類似性。

それでも結論的には、「不正の目的」はないとして
商号使用差止、抹消登記請求を認めませんでした。

不正の目的」の意義について、

会社法8条は,名声・信用が化体された商号を使用することについての会社の利益を保護する観点から,営業主体を誤認させる目的での商号の使用を禁止する趣旨の規定である。このような趣旨から,同条にいう「不正の目的」とは,他人の営業を表示する商号等を自己の営業に使用することにより,自己の営業を当該商号等によって表示される他人の営業と誤認混同させようとする意思をいうものと解するのが相当である。
(12頁)

こうした判断のもと、
原告側の、類似商号競業関係の認識があれば「不正の目的」があるとの
主張を容れませんでした。


そして裁判所は、以下の点から「不正の目的」なしと判断しています。

1 被告の会社も合併・商号変更などを経ているがその活動歴、信用、
 知名度は原告と勝るとも劣らない。(16頁以下)

2 商号中の「スポーツマーケティング」は、「製鉄」や「自動車工業」と
 同じく業務内容を示すもので、一社独占を認めるべきものではない。(17頁)

3 「ジャパン」も多くの企業がその使用を望むもの。(17頁)

4 本店所在地移転の経緯も原告に有利な事情は認められない。(17頁)


なお、

確かに,原告が先に原告商号の使用を開始したものであり,それを知っていた被告としては,原告に対する何らかの配慮をすべきではなかったかと考えられないではないが,それは,道義的責任なり,日本的な謙譲の美徳の問題といわざるを得ないものであり,これを法的義務にまで高めようとする原告の主張は採用することができない。

ということで、原告側に法的保護に値する権利があるとまでは
認めませんでした。


■コメント

商号に関しての不正競争行為規定としては、
旧商法21条から新会社法8条商法12条に規定が改められましたが、
今回の判決は法改正されてはじめての商号使用差止事件の
判決となるのではないでしょうか。

既登記商号に関する旧商法20条の規定もなくなり
同一番地でもない限り同一商号での登記申請も可能と
なったわけですが、今後は類似商号事案については
この判決のようにより実質的に「不正の目的」の有無などが
事案ごとに詳細に検討されるものと思われます。


■参考文献

小松一雄編著「不正競業訴訟の実務」(2005)421頁以下


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2006年12月03日

「江戸庶民風俗図絵模写ー豆腐屋ー」事件控訴審〜著作権 損害賠償請求事件判決(知的財産裁判例集)〜

裁判所HP 知的財産裁判例集より

「江戸庶民風俗図絵模写ー豆腐屋ー」事件(対日本ビーンス社)


★控訴審
平成18.11.29知財高裁平成18(ネ)10057 損害賠償請求控訴事件 著作権 民事訴訟PDF

知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官    高野輝久
裁判官    佐藤達文



★原審
平成18.5.11東京地裁平成17(ワ)26020損害賠償請求事件PDF


過去のブログ

駒沢公園行政書士事務所日記「江戸庶民風俗図絵模写ー豆腐屋ー」事件〜著作権 損害賠償等請求事件判決(知的財産裁判例集)〜 livedoor Blog(ブログ)



■事案

江戸庶民風俗図絵の模写絵の著作物性を
巡って争われた事案。

江戸時代に書かれた風俗図などの元絵を
原告の研究家(画家)が模写して書籍にまとめて
出版していました。
この模写絵を被告豆腐製造販売会社が自社豆腐商品の
パッケージ図柄に無断で使用したというものです。


原告(控訴人) :研究家
被告(被控訴人):豆腐製造販売会社


■結論

控訴棄却(原告研究家側敗訴)


■争点

条文 著作権法第2条1項1号・11号、21条

1 絵画における模写と著作物性
2 作品のモチーフと著作物性



■判決内容

1 絵画における模写と著作物性

控訴審は、原審同様、

絵画における模写とは,一般に,原画に依拠し,原画における創作的表現を再現する行為,又は,再現したものを意味するものをいうから,模写作品が単に原画に付与された創作的表現を再現しただけのものであって,新たな創作的表現が付与されたものと認められない場合には,原画の複製物として著作物性がないものといわざるを得ない。
(11頁)
と説示。

そして、原画と模写絵を対比して、模写絵に新たな創作的表現が
付与されているかどうか、
表現上の実質的同一性が両者にあるなら原画の複製物にとどまる
として、結論としては両者には実質的同一性がある(新たな創作的表現ではない)と
判断しました。


2 作品のモチーフと著作物性

作家側は作品のモチーフが違えば創作行為として
独自の意味が与えられると主張しましたが、

控訴審でも、

模写作品が原画と異なるモチーフに基づくものであるからといって,当然に,模写作品に著作物性が認められるというわけではない
(14頁)
との判断になっています。


こうして控訴審も結論的には、原審維持で判示部分引用となりました。



■コメント

原審を維持しているので控訴審で特段これといったところも
ありません。

作家側はいろいろな独創的な解釈論を展開していましたが
著作権法の解釈論とは相容れないところです。


ただ、以前にも書きましたが、たとえば、
風神雷神図屏風での原画製作者としての俵屋宗達の
プライオリティは当然のこととして、
模写図絵の尾形光琳作品、酒井抱一作品の価値が
疎んじられるはずもありません。

この3作品が一堂に会した出光美術館の展覧会(今年開催)で
これらを観たときに、

「いったいこれら3作品に著作権法上の実質的同一性があると
言い切ってしまって果たしていいのか?
表現上の本質的特徴の直接感得性は??」


と、悩ましい思いでいっぱいになりました。


背景情報も含めたうえでの作品の「価値」を考えてしまうとすると
作家側の言っている「モチーフ」論も
まったくわからないではないところです。

   ----------------------------------------

■追記08.11.23

参考文献
村井麻衣子「模写作品における創作性-豆腐屋事件-」
       『著作権研究33号(2006)』(2008)202頁以下





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2006年11月19日

「背負いリュック形態模倣」事件〜不正競争防止法 販売差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)〜

裁判所HP 知的財産裁判例集より

「背負いリュック形態模倣」事件

大阪地裁平成18.11.16平成17(ワ)7778不正競争防止法に基づく販売差止等請求事件PDF

大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 田中俊次
裁判官    西理香
裁判官    西森みゆき



■事案

背負いリュックの形態が模倣されたものかどうかが
争われた事案


原告:バッグ製造輸出入販売会社
被告:バッグ製造販売会社


■結論

請求棄却(原告側敗訴)


■争点

条文 不正競争防止法 2条1項3号

1 形態模倣性の有無


■判決内容

1 形態模倣性の有無

裁判所は、「模倣」の意義について、

不正競争防止法2条1項3号の「模倣」とは,他人の商品の形態に依拠して,これと実質的に同一の商品の形態を作り出すことをいう(平成17年法律第75号による改正後の不正競争防止法2条5項参照)。ここで「実質的に同一の商品の形態」とは,客観的に「他人の商品」と作り出された商品を対比して観察した場合に,作り出された商品の形態が「他人の商品」の形態と同一であるか実質的に同一といえる程に酷似していることをいう。そして,同号所定の行為を不正競争行為とした趣旨が,商品開発のために資金や労力を投下した先行者を保護することにあることにかんがみると,作り出された商品の形態に「他人の商品」の形態と相違する部分があるとしても,その相違がわずかな改変に基づくものであって,商品の全体的形態に与える変化が乏しく,商品全体から見て些細な相違にとどまると評価される場合には,当該商品は他人の商品と実質的に同一の形態と評価され得るのに対し,当該相違部分についての着想の難易,改変の内容・程度,改変が商品全体の形態に与える効果等を総合的に判断したときに,当該改変によって商品に相応の形態的特徴がもたらされていて,当該商品と他人の商品との相違が商品全体の形態の類否の上で無視できないような場合には,両者を実質的に同一の形態ということはできないというべきである。
(24頁以下)

と説示。

そのうえで、原告商品と被告商品の相違点を検討。

相違点としては、

1 連結ベルトの有無
2 チェストベルトの有無
3 ウィングの形状及び大小
4 サイドベルトの絞る方向
5 柄物の有無
6 内ポケットの有無


このうち、はわずかな違いでしかない。

これに対して、1、2、3
デザイン面、機能面でわずかな違いとはいえない。
(28頁)

結論的に、形態の実質的同一性はなく、形態の「模倣」に
あたらないとされました。

規範部分は、「ドラゴン・ソード キーホルダー事件」控訴審判決と
同じ説示です。


■コメント

商品見本市で展示された原告商品を模倣・製造した訴外他社製品の
デザインをさらに被告が参考にしたという事情がありました。

商品画像がアップされていないので
形状がよくわかりません。
原告のサイトを見てみてみると、コットン生地のリュックタイプの
ものがひとつあります(商品番号:L-11361)。


■参考判例

ドラゴン・ソード・キーホルダー事件(控訴審)
東京高裁平成10年02月26日平成8(ネ)6162 不正競争 民事訴訟

■参考文献

小松一雄編著「不正競業訴訟の実務」(2005)291頁以下




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2006年11月18日

「予備校教材」事件〜著作権 損害賠償請求事件判決(知的財産裁判例集)〜

裁判所HP 知的財産裁判例集より

「予備校教材」事件

東京地裁平成18.11.15平成18(ワ)4824等 損害賠償請求事件 著作権PDF

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 市川正巳
裁判官      大竹優子
裁判官      頼晋一

■事案

中小企業診断士試験用教材の原稿を勝手に改変・転用されたとして著作権侵害を理由に資格試験予備校などが訴えられた事案

原告:原稿執筆者
被告:経営コンサルティング会社
    資格試験予備校

■結論

請求一部認容

■争点

条文 著作権法114条2項・3項

1 故意・過失の存否
2 損害額

■判決内容

1 故意・過失の存否

原告に執筆を依頼した経営コンサルティング会社が無断で原稿に修正を加えて転用、資格試験予備校に提供していました。争点のひとつとして、この資格試験予備校の「過失」の存否がありました。

この点、裁判所は

被告東京LMは,資格取得講座を開講し,受講生用の教材等を発行することを業として行っている会社であり,教材等の作成及び発行に当たり,第三者の著作権等を侵害することがないよう十分確認すべき義務を負っていると認められるところ,その注意義務を尽くしたことを認めるに足りる証拠はない。
(9頁)

として、複製権、著作者人格権侵害に関する過失を認定しました。

2 損害額

損害額算定については、114条3項により6万円(原稿10頁分、1頁6000円単価)とそれに著作者人格権侵害の慰謝料として11万円の合計17万円と判断されました。

■コメント

裁判ネタが多い予備校のLECさんですが、出版社の注意義務と同様、厳しい判断が示されています。

企業法務戦士の雑感」さんが言うように予備校にしてみると「もらい事故」ではあるけれど、争点1の問題意識は企業のみなさんはとても高くてわたしのところでも出版、印刷業のかたからは、この部分の権利関係を中心とした契約書の監修を依頼される場面が最近特に増えています。

携帯コンテンツ制作でもたとえばドコモは公式サイト立ちあげの際のコンテンツ制作業者とのコンテンツ配信契約において下請けの作家さんとの権利処理の契約書をいちいち確認するようになってきています。
そのため、コンテンツ制作業者からは整合性のある契約書の作成をわたしに求められます。

PDF3頁には予備校と経営コンサルティング会社とのあいだでとりかわされた業務委託契約書の著作権処理にかかわる規定が抜粋して掲載されていますが、吟味された内容となっていません。

他人の著作物(情報成果物)を使うということ、それが予備校の業務の中核であるにもかかわらず、この部分を真剣に考えていないということが契約書の文言からすぐに分かります。

どんなに第三者保証規定を詰めて規定してももらい事故は防げませんが、コンプライアンスとしてその意識を持つ事は経営者に必要です。
弁護士に契約書ひな型を作ってもらっただけでは、こうした意識を持ったことには全然なりません。

会社のトップ、営業部長、総務部長のみなさんとじっくりお話をさせていただいて問題意識を共有してこそはじめてこうしたリスクが低減されるのではないかというのが現場の実感です。

■参考ブログ

「企業法務戦士の雑感」さん
■[企業法務][知財] 試されるリーガルマインド

■参考判例

調査確認義務について

ぐうたら健康法事件
東京地判H7.5.31
ホテルジャンキーズ事件
東京地判H14.4.15

■追記(07.03.08)

控訴審判決

知財高裁平成19年02月28日平成18(ネ)10090損害賠償請求控訴事件

知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官     三村量一
裁判官     古閑裕二

原告側は損害額について争い、控訴審では

「複製権侵害に基づき30万円,著作者人格権(公表権,氏名表示権,同一性保持権)侵害に基づき20万円の合計50万円の損害金」

とされました。


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2006年11月02日

「地震対策装置特許権侵害虚偽告知」事件〜特許権 債務不存在確認等請求事件判決(知的財産裁判例集)〜

裁判所HP 知的財産裁判例集より

地震対策装置特許権侵害虚偽告知」事件

東京地裁平成18.10.11平成17(ワ)22834 債務不存在確認等請求事件 特許権 民事訴訟PDF

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 市川正巳
裁判官    大竹優子
裁判官    杉浦正樹


■事案

地震対策装置に関する特許権侵害を巡って弁護士らによる
警告書送付行為の営業誹謗行為性が争われた事案

原告:金具類製造販売会社
被告:特許権者
  :弁護士


■結論

請求一部認容(虚偽告知性については棄却)


■争点

条文 不正競争防止法第2条1項14号、民法709条

1 特許権の構成要件充足性(略)
2 虚偽告知性
3 不法行為性



■判決内容

2 虚偽告知性


原告製品は特許権を侵害していないと認定したうえで(争点1)、
特許権を侵害していない以上、特許権を侵害する旨の警告書記載は
虚偽事実にあたると判断。

その上で
特許権者の正当な権利行使の一環であれば虚偽事実の告知で
あっても違法性が阻却されるとの規範を示しました。
(33頁以下)

あてはめとして、

1 不合理な時期、内容での送付ではない
2 送付先は特許権侵害性について独自判断できる大企業
3 交渉の経緯
(35頁以下)

などの点から
社会通念上許容範囲の権利行使であるとされました。

結論として、違法性が阻却され不正競争防止法2条1項14号
虚偽事実告知(営業誹謗行為)は成立しないとされました。


3 不法行為性

この点についても、正当な権利行使の範囲のものとして
不成立(民法709条)とされました。


■コメント

ここのところ「キシリトールガム事件」、「キューピー事件」、
ハンガー事件」、「動く手すり事件」、「飼料添加物事件」と
目にすることが多い虚偽事実告知(営業誹謗行為)事案。
弁護士も被告となってしまう場面が多い印象です。
この事案は特許事案ですが、14号も争点となっています。

判決自体は違法性阻却論にたったもので
東京高裁平成14年8月29日判決に沿った
判断となっています。

東京高裁平成14年08月29日平成13(ネ)5555 不正競争による損害賠償等請求控訴事件PDF


■参考文献

小松一雄編著「不正競業訴訟の実務」(2005)384頁以下



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2006年10月26日

「放電プラズマ焼結機設計図」事件〜特許権 損害賠償請求事件判決(知的財産裁判例集)〜

裁判所HP 知的財産裁判例集より

放電プラズマ焼結機設計図」事件


東京地裁平成18.10.24平成18(ワ)17644損害賠償請求事件 特許権民事訴訟PDF

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 高部眞規子
裁判官    平田直人
裁判官    中島基至


★関連裁判
東京地裁平成18.8.31平成18(ワ)11210損害賠償請求事件 特許権民事訴訟


■事案

原告: 油圧制御装置、輸送装置設計製造会社
被告: 石炭、採石、建機材事業会社


■結論

請求却下


■争点

条文 著作権法第2条1項1号

1 設計図の著作物性


■判決内容

1 設計図の著作物性

設計図の創作性が否定されています。

(2) なお,念のため,予備的請求について判断するに,これに関する原告の主張は, 被告が本件設計図を複製した, 被告が本件設計図に基づき放電焼結装置を製造させたとするものである。
ア,砲弔い
本件設計図は,放電プラズマ焼結機の設計図であるところ,機械の設計図ということから,その性質上主として線を用い,これに当業者間で共通に使用されている記号や数値を付加して二次元的に表現するものであって,その表現形式の選択の余地は多くない。したがって,同一の機械を設計図に表現するときは,おのずから類似の表現にならざるを得ないから,これが創作的に表現されたものであること(著作権法2条1項1号)を認めるに足りない。したがって,本件設計図が著作権法上保護される著作物であるということはできない(なお,設計図に表された機械については,著作権ではなく,工業所有権によって保護されることがあるにとどまる。)。
なお,仮に,本件設計図に係る著作権が原告に属すると認められる場合であっても,甲3の1及び2によれば,被告設計図は,本件設計図とは異なるものであって,被告が本件設計図を複製したということはできない。
よって,原告の上記主張はいずれにしても理由がない。

(8頁以下)

イ△砲弔い
原告は,本件設計図に基づいて機械を製造する行為を複製権侵害として主張するものである。
しかしながら,著作権法において,複製とは,印刷,写真,複写,録音,録画その他の方法により有形的に再製することをいい(同法2条1項15号),同号に明示されている建築に関する図面に従って建築物を完成する行為(同法2条1項15号ロ)とは異なり,機械に関する図面に従って機械を完成する行為は,複製権を侵害する行為として規定されていない。
そうすると,原告の上記主張も理由がない。


(3) よって,予備的請求も,却下を免れず,又は理由がない。
(9頁)



■コメント

特許異議申立に関する一連の手続に対して権利濫用、
不法行為を主張していた原告。
すでに損害賠償請求訴訟を先行して行っており
今回の提訴は前訴の蒸し返しと判断され、「却下」されました
(本人訴訟)。

なお、予備的請求として著作権侵害にかかわる主張も
今回はありましたが、裁判所の求釈明にもかかわらず原告は
単純併合に変更しなかったことから
(特許異議申立を理由とする請求と著作権侵害を
理由とする請求で関連性なし)
この点についても「却下」。

なお,念のため」判断となっています。
(8頁)


■追記(07.02.07)

関連訴訟
東京地裁平成19年01月31日平成18(ワ)22355等 特許権 損害賠償請求事件



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2006年10月24日

「ロッテVSグリコ キシリトールガム比較広告」事件〜不正競争防止法 広告差止等請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)〜

裁判所HP 知的財産裁判例集より

ロッテVSグリコ キシリトールガム比較広告」事件(控訴審)

知財高裁平成18.10.18平成17(ネ)10059 広告差止等請求控訴事件 不正競争 民事訴訟PDF

知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官    石原直樹
裁判官    高野輝久


★原審
東京地裁平成16.10.20平成15(ワ)15674不正競争民事訴訟PDF


■事案

グリコがキシリトール入りガム製品「ポスカム」の
宣伝広告で行った比較広告の内容について
虚偽事実の陳述流布行為などの不正競争行為に
あたるかどうかが争われた事案

原告(控訴人) :ロッテ
被告(被控訴人):江崎グリコ


■結論

一部変更(原告ロッテ実質勝訴)

比較広告の使用差止が認められました。
謝罪広告、損害賠償は認めず。


■争点

条文 不正競争防止法第2条1項13号、14号

1 虚偽事実の陳述流布の有無(14号)
2 品質誤認表示の有無(13号)


■判決内容

1 虚偽事実の陳述流布の有無(14号)

「ポスカム<クリアドライ>は,一般的なキシリトールガムに比べ
約5倍の再石灰化効果を実現」


といった内容の比較広告が新聞やサイトに掲載されました。

こうした比較広告が、キシリトールガム製品企画・販売で先行する
ロッテ(「一般的なキシリトールガム」=ロッテ製品)に対する
虚偽事実の陳述、流布といった不正競争行為となるかどうかが
争われました。

原審では、比較広告の基礎資料となった科学実験の方法、
条件、結果の合理性を肯定したうえで
比較広告表示の虚偽事実性が否定されました。

この点をもって原告ロッテ側の敗訴。

ところが、控訴審では判断が覆りました。


控訴審では再現実験の鑑定実施に関する人選について
意見が折り合わず、最終的には
実験の合理性判断について被告側は立証を放棄したものと
裁判所は考え、結論的に実験の合理性自体が否定されて
しまいました。
(43頁)

実験の方法や条件については不合理な点はないとされたのですが
被告側が行った再現実験については第三者による客観的、
公正な実験が行われておらず
被告側再現実験「結果」についての正確性や信頼性の点に
問題があるとされています。
(36頁以下)

実験の合理性が否定された以上、このデータを基礎とした
比較広告は虚偽事実を含む表示と判断されました。

比較広告の表示が、虚偽の事実を含み競争関係にある
他社の営業上の信用を害するものであるとして
14号該当性が肯定されました。
(47頁)


2 品質誤認表示の有無(13号)

原告側は、仮に比較広告が虚偽事実にあたらないとしても
特定の一部の情報のみを提示するものなので品質に誤認を
与えるものであると主張しました。

原審では、この点について誤認的表示にはあたらないと
判断されました。

控訴審では一転、実験結果の合理性が否定されたことから
比較広告に虚偽事実を含み品質に誤認を生じさせるものとして
13号該当性が肯定されています。
(47頁)


■コメント

原審では原告ロッテ敗訴でしたが、控訴審では逆転して
比較広告の使用差止が認められてロッテの実質勝訴の結果と
なりました。

争点は、再現実験の際の鑑定人の人選にあったようです。

当裁判所は,本件において, D-2-3実験の再現実験の実施に関して,これを必要であると考え,本件比較広告の虚偽性について立証責任を負う控訴人の申出に基づいて,鑑定として採用実施したいとして,当事者双方に対しその具体的な実施方法について検討を求めた際,控訴人が鑑定実施に関する諸条件を提案したのに対し,被控訴人は,鑑定人について上記条件に固執し,そうでない限り,鑑定として実施する意義はないと主張して譲らなかったため,裁判所としては,やむなく鑑定の採用実施を断念するに至ったものである。この問題は,当審の審理の中で最も重大なものであり,口頭弁論期日等において,当事者双方が最も力を注いで弁論した点であり,裁判所も最も重視し,慎重に審理決断した点であった。
そうすると,被控訴人は, D-2-3実験の合理性について,必要な立証を自ら放棄したものと同視すべきものであり, D-2-3実験の合理性はないものといわざるを得ない。

(43頁)


グリコが再現実験の鑑定条件設定に固執したため裁判所をして
立証放棄」とまで言わしめさせてしまいました。

不正競争行為に関する故意・過失がグリコ側に認められず
損害賠償責任は否定されたものの(50頁)、
グリコ側の思惑が大きく外れてしまった結果となりました。


グリコのプレスリリースを読むとその意図するところが
よくわかります。

お知らせ(取引所公開リリーズ)江崎グリコIR情報

平成18年10月18日付
「訴訟の判決に関するお知らせ」PDF参照



実験の正確な再現が世界中で4人にしかできない、
というのが
果たして科学における客観性でいうところの
再現可能性」を担保していると言えるのかどうか。

裁判所はこの点を否定的に捉えたわけですが、
さて、どうなんでしょう。


なお、争点整理に関する原審への言及として、
小松一雄編著「不正競業訴訟の実務」(2005)91頁参照。

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2006年10月22日

「講習会資料職務著作」事件(控訴審)〜著作権 損害賠償等請求事件判決(知的財産裁判例集)〜

裁判所HP 知的財産裁判例集より

「講習会資料職務著作」事件


★控訴審
知財高裁平成18.10.19平成18(ネ)10027損害賠償等請求控訴事件著作権民事訴訟PDF

知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官    宍戸充
裁判官    柴田義明


★原審
東京地裁H18. 2.27平成17(ワ)1720 著作権 民事訴訟事件

★過去のブログ記事
2006年03月04日「講習会資料職務著作」事件〜著作権 損害賠償等請求事件判決(知財判決速報)〜



■事案

原告(控訴人) :元従業員
被告(被控訴人):企業ら

職務命令で社外講習会の講師として講習資料を作成した場合の
資料の職務著作物性(著作権法15条)などが争われた事案の
控訴審判決


■結論

控訴棄却(原告側元従業員敗訴)


■争点

条文 著作権法第15条、19条、20条、24条

1 職務著作物の成否(15条)
2 利用許諾の有無
3 口述権侵害の有無
4 氏名表示権侵害の有無
5 同一性保持権侵害の有無


■判決内容

1 職務著作物の成否(15条)

講習会資料に表示されていた名義が著作者を表示するものなのか
たんなる著作者とは別の担当講師名なのか、内容についての
最終責任者の主催団体名にすぎないのか、あいまいであったことから
公表要件の充足性判断が争点となりました。

結論的には原審と同様、職務著作成立の要件である
「公表名義」について、被告企業を自己表示したものとは
認められませんでした。
(10頁以下)

15条の要件を欠く以上、講習会資料の原始的な著作者は
あくまで原告の元従業員となります。


2 利用許諾の有無

講習会の講師役の引継ぎに際して原告は無留保で原稿データを
後任者に交付しているなどの事情から、
被告側に原稿を利用させる意思があったと判断。

さらに利用内容として原稿の変更、追加等の改変・複製を
黙示的に許諾していたと認定されました。
(15頁以下)


3 口述権侵害の有無(24条)

黙示的な利用許諾があったとして侵害性を否定しています。
(22頁)

4 氏名表示権侵害の有無

氏名表示権の,著作者名を表示するかしないかを選択する権利であるという側面からみた場合,控訴人は,12年度資料について,少なくとも,控訴人の氏名を著作者名として表示しないことを選択しているものと解される。
そうすると,13年度資料及び14年度資料に講師名としてBの氏名を付するとともに,その他は,12年度資料及び同資料を含む講習資料集と同様の表示をして,平成13年度及び平成14年度の維持講習の講習資料集を作成し,使用することは,著作者名を表示しないこととした控訴人の措置と同様の措置をとっていることになるから,著作者名の表示に関する控訴人の当時の意思に反するものではなく,控訴人の氏名表示権を侵害するものとはいえないと解するのが相当である。

(22頁以下)

この点についての侵害性も否定されています。


5 同一性保持権侵害の有無

著作権法20条1項は,著作者の有する同一性保持権について,「著作者は,その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し,その意に反してこれらの変更,切除その他の改変を受けないものとする。」と規定している。この趣旨は,著作物が,著作者の思想又は感情を創作的に表現したものであり,その人格が具現化されていることから,著作物の完全性を保持することによって,著作者の人格的な利益を保護する必要があるため,著作者の意に反してその著作物を改変することを禁じているものであるが,一方,著作者自身が自らの意思によりその著作物の改変について同意することは許容されるところであって,著作者が,第三者に対し,必要に応じて,変更,追加,切除等の改変を加えることをも含めて複製を黙示的に許諾しているような場合には,第三者が当該著作物の複製をするに当たって,必要に応じて行う変更,追加,切除等の改変は,著作者の同意に基づく改変として,同一性保持権の侵害にはならないものと解すべきである。


必要に応じて原稿を変更、追加、切除等の改変をすることも
原告は黙示的に許諾していた。
そして講習会資料という著作物の性質などを考えて改変の必要性を
具体的に検討。
その上でいずれの改変部分も同一性保持権侵害性はないと
判断されました。
(23頁以下)


■コメント

原審、控訴審と判決が揃ったことで
企業、団体が作成する講習会資料などの取扱い内規や
原稿執筆契約のひな型が整備できるのではないでしょうか。


■追記

岡邦俊「職務著作以外の業務上の文書を会社が複製できる条件 「計装士講習資料」事件」」
    『最新判例62を読む 著作権の事件簿』(2007)60頁以下

藤野忠「従業者が作成した著作物の利用関係が争われる事例における「公表名義」要件の意義−講習資料職務著作事件−」
    『知的財産法政策学研究』14号(2007)355頁以下

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2006年10月07日

『シェーン』著作権保護期間満了事件〜著作権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)〜

裁判所HP 知的財産裁判例集より

『シェーン』著作権保護期間満了事件

東京地裁平成18.10.6平成18(ワ)2908 著作権侵害差止等請求事件 著作権民事訴訟PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 清水節
裁判官    山田真紀
裁判官    佐野信


■事案

原告:映画会社
被告:格安DVD販売会社

パブリックドメインとなった映画を格安DVDとして
製造・販売していた業者に対して
映画会社が、著作権保護期間はいまだ満了していないとして
著作権侵害などを理由に損害賠償、差止を請求した事案。


■結論

請求棄却


■争点

条文 著作権法第54条1項、附則2条1項

1 54条1項適用の有無

本件映画の著作物は、著作権法改正附則2条1項が適用される
保護期間が満了していない著作物かが争点となりました。


■判決内容

1 54条1項適用の有無


1 著作権法における存続期間の解釈(22頁以下)

(1)期間認定として日を単位としており、12月31日と1月1日は重ならない。
 (改正前著作権法54条1項、57条、民法140条、141条、著作権法附則1条)

(2)罪刑法定主義からする明確性の要請


2 他の法令における解釈との整合性(23頁以下)

所得税法や行政事件訴訟法の改正にかかわる解釈との
整合性について言及。


3 立法者意思(33頁以下)

昭和28年公表映画の著作権の消滅を防ぐという
明確な改正目的はなかった。


4 45年改正法附則の解釈(35頁以下)

45年改正法附則2条1項の解釈も本件附則2条1項と
同じような解釈をするべきである。
昭和45年12月31日に満了する著作物については
同法は適用されないとするのが文理解釈として
相当である。

原告は、45年改正法附則2条1項の解釈が確立している
として、その解釈を本件改正法附則2条1項についても
行うべきであると主張しましたが、容れられませんでした。


5 文化庁著作権課の見解等(36頁以下)

文化庁著作権課の見解はあくまでも所管官庁である文化庁における解釈にすぎず,これが直ちに立法者意思に結び付くものとはいえない。

*原告の解釈は文化庁見解とも同じであると主張しましたが
一蹴されています。


以上から、著作権法54条1項は適用されず、
本件映画の著作権は平成15年12月31日が満了した時点で
消滅している、としました。



■コメント

今年7月、東京地裁民事47部高部コートで仮処分事案ですが
映画「ローマの休日」の保護期間を巡って同種の
裁判がありました。

この決定で、原告映画会社敗訴の判断。
思いがけずびっくりしましたが、
今度は別のコートで同様の判断が下されました。


知財部6名の裁判官が附則2条1項等について
同様の解釈をしました。
文理解釈部分はもちろんですが、
立法者意思解釈の部分をこの先、知財高裁がどのような判断を
下すのか興味津々といったところです。


★東京地裁平成18.7.11平成18(ヨ)22044
著作権仮処分命令申立事件PDF
「ローマの休日」事件決定PDF



■過去のブログ記事

「ローマの休日」保護期間事件〜著作権 仮処分命令申立事件決定(知的財産裁判例集)〜


■追記(06.10.7)

さらに詳細な検討ブログ記事として

企業法務戦士の雑感
■[企業法務][知財] 再び下された「英断」


■追記(06.10.20)

20日付日経朝刊より
19日、パラマウント社が控訴したそうです。

■追記(06.12.09)

作花文雄『映画「ローマの休日」の保護期間をめぐる法制上の論点
ー映画「ローマの休日」等格安DVD販売事件における著作権法改正改正法の
経過措置の文理解釈と立法趣旨に関する混迷ー』
コピライト46巻548号2006.12月号22頁以下


■追記(07.03.30)

07年3月29日、知財高裁塚原コートで控訴棄却の判断。

判決文PDF

■追記(2007年12月18日)

最高裁判所第三小法廷平成19.12.18平成19(受)1105著作権侵害差止等請求事件
「『シェーン』著作権保護期間満了」事件(上告審)〜著作権 著作権侵害差止等請求事件判決(最高裁判所判例集)〜


■追記(08.03.08)

2008年03月08日記事
「『モダンタイムス』格安DVD」事件(控訴審)〜著作権 著作権侵害差止等請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)〜



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2006年10月06日

「耳かき形態」事件〜不正競争防止法 不正競争行為差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)〜

裁判所HP 知的財産裁判例集より

「耳かき形態」事件

東京地裁平成18.9.28平成18(ワ)4933 不正競争行為差止等請求事件 不正競争 民事訴訟PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 設楽隆一
裁判官    間史恵
裁判官    荒井章光



■事案

原告:新商品研究開発会社
被告:日用雑貨製造販売会社

平成11年グッドデザイン賞受賞の
金属製スパイラル耳掻きの類似商品の
製造・販売をめぐってその不正競争行為性が
争われた事案


■結論

請求棄却


■争点

条文 不正競争防止法2条1項1号、2号

1 商品形態の商品等表示性


■判決内容

1 商品形態の商品等表示性

耳掻きの先端部分の形態自体が原告を表すもの、つまり原告製品の
「商品等表示」にあたるかどうかについて争われています。

裁判所は、この点について従来の判例を踏襲しています。

商品の形態は,本来的には,商品としての機能・効用の発揮や商品の美観の向上等のために選択されるものであり,商品の出所を表示する目的を有するものではない。しかし,特定の商品の形態が独自の特徴を有し,かつ,この形態が長期間継続的かつ独占的に使用されるか,又は短期間でも強力な宣伝等が伴って使用されることにより,その形態が特定の者の商品であることを示す表示であると需要者の間で広く認識されるようになった場合には,当該商品等の形態が,上記各号にいう「商品等表示」として保護されることになると解すべきである。
(8頁)

そのうえで、


(1)特別顕著性

弾性をもつ金属製の線材をらせん状に加工した耳掻きは
それまでの耳掻きにはなかった形態のものであるとして
原告製品の先端の形態について「独自の特徴」性を
肯定しています。

(2)需要者間認識性

一般消費者や雑貨店などの間で原告商品の形態が
広く原告製品であると認識されていたかどうかについて、
雑誌記事などの商品紹介はあったものの、原告自身による
宣伝広告がほとんどされていなかった事情などが考慮されて
広く知られているわけではないと判断されました。


結論として、原告製品形態の商品等表示性を否定しました。


なお、裁判所は17頁で

原告製品のような商品の保護は,その構成あるいは機能については,特許法あるいは実用新案法による法定期間内の保護が,また,斬新なデザインについては意匠法による法定期間内の保護が認められ得るとしても,不正競争防止法2条1項1号及び2号による保護を認め,その新規な構成あるいは機能ないしデザインを半永久的に独占的に保護をする結果となることは,他の知的財産権の保護とのバランスからみても相当ではないというべきである。

として、技術的形態と商品等表示の調整について
言及しています。


■コメント

わたしもこのスパイラル耳掻きを購入して
使っています。
金属製の筒に収納されて、反対部分のキャップには
掃除用のハケが附属しています。

東急ハンズで当初出回っていたときは、1200円以上の
価格でしたので、なかなか購入するまでには
至りませんでした。

最近になって1000円を切った値段で購入したので、
あるいはわたしの耳掻きは被告商品かもしれません。


判決にあるように、こうした斬新なアイデア商品は
実用新案法などで保護するのがスジでしょう。

わたしの場合も原告会社の製品かどうかは知らないし、
購入の際の考慮の対象にはなりませんでしたし。


■参考文献

小松一雄編著「不正競業訴訟の実務」(2005)182頁以下


■最近の判例(過去のブログ記事より)

・サンプリングチューブ事件(大阪地裁平成18年07月27日平成17(ワ)11055不正競争行為差止請求事件)
「サンプリングチューブ」事件〜不正競争防止法差止請求事件判決(知的財産裁判例集)〜

・ロレックス類似商品事件(東京地裁平成18年07月26日平成16(ワ)18090 不正競争行為差止等請求事件)
「ロレックス類似商品」事件〜不正競争防止法差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)〜


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2006年10月05日

「キューピー虚偽告知」事件〜不正競争防止法 不正競争行為差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)〜

裁判所HP 知的財産裁判例集より

「キューピー虚偽告知」事件

東京地裁平成18.9.26平成17(ワ)2541不正競争行為差止等不正競争民事訴訟PDF



■事案

原告:キャラクター企画開発業者(先発ライセンサー)
被告:海外業務提携斡旋業者(後発ライセンサー)

キューピーに関する著作権のライセンス業務をめぐり
後発ライセンサーがその著作権の帰属関係について
取引先第三者に送付した文書の虚偽告知性が問題と
なった事案


■結論

請求一部認容(原告側実質勝訴)


■争点

条文 不正競争防止法2条1項14号

1 告知事実の不正競争行為性


■判決内容

1 告知事実の不正競争行為性

裁判所は、

不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争行為は,競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知等する行為をいう。他人の営業上の信用を害するか否かは,対象となる文言のみならず,告知文書の他の部分や添付された文書の記述をも併せて読むことにより,全体として虚偽といえるかどうか検討すべきであり(最高裁平成6年(オ)第1082号同10年7月17日第二小法廷判決・裁判集民事189号267頁参照),告知文書の形式・趣旨,告知の経緯,告知文書の配布先の数・範囲,告知の相手方のその後の行動等の諸般の事情を総合して判断すべきである。そして,虚偽の事実であるか否かは,告知内容について告知の相手方の普通の注意と読み方・聞き方を基準として判断すべきである(最高裁昭和29年(オ)第634号同31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁参照)。
 よって,告知の相手方がどのような者であって,どの程度の予備知識を有していたか,当該告知がどのような状況で行われたか等の点を踏まえつつ,相手方が告知された事実について真実と反するような誤解をするか否かによって決すべきである。

(30頁以下)

との規範を示したのち、あてはめてとして

・取引先は著作権の帰属関係について
 詳細な予備知識を持っていない

・添付された複数の文書全体からみると
 原告が日本において著作権を保有していないと
 理解できる

こうした点から関係取引先への文書の一部については
その通知が虚偽事実の告知にあたるとしました。


そのほかの要件、過失、損害の発生を認定、ただ
謝罪広告の必要性は認めませんでした。



■コメント

ローズ・オニールがキューピッドのイラストからはなれた
独自のイラスト「キューピー」を世に発表してほぼ100年。
残念なことに「キューピー」を巡っての紛争がたくさんあります。

ローズ・オニールと共同事業者としてキューピーイラストを
立体化(人形)したジョゼフ・カラスという人物の存在も
権利関係をややこしくしているようにもみえます。


★大阪在住の個人愛好家VSキューピー株式会社(東京訴訟)
東京高裁平成13年05月30日平成11(ネ)6345 著作権 民事訴訟

★大阪在住の個人愛好家VS日本興業銀行
東京高裁平成13年05月30日平成12(ネ)7 著作権 民事訴訟

★大阪在住の個人愛好家VSキューピー株式会社(大阪訴訟)
大阪高裁平成17年02月15日平成16(ネ)1797 著作権 民事訴訟

★権利濫用事件
知財高裁平成18年01月31日平成17(ネ)10113損害賠償等請求控訴事件 著作権 民事訴訟

 原審
東京地裁平成17年09月09日平成17(ワ)7875 損害賠償等請求事件 著作権 民事訴訟

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■追記08.12.19

キューピー関連訴訟(商標権)
知財高裁平成20.12.17平成20(行ケ)10139審決取消請求事件判決PDF

名古屋の商標亭(2008.12.19記事)
まゆ毛の付いたキューピーさん

(2008年12月22日記事)
この子もあの子もキューピーです
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