知財判決速報2005

2006年01月06日

「一橋学院商標名」事件〜不正競争行為差止請求権不存在確認等請求事件判決(知財判決速報)〜

最高裁判所HP知財判決速報より

H17.12.28 東京地裁 平成17(ワ)8053等 不正競争 民事訴訟事件

企業法務戦士の雑感 [企業法務][知財] 『一橋学院』対決

■事案

大学受験予備校の商標名「一橋学院」(商標登録申請中)をめぐって、
これより先に「一橋学院」の文字を含む登録商標(後に審決取消訴訟で登録の無効が確定)
を受けた原告が、被告である「一橋学院」に対して不正競争防止法に基づく
使用差止請求権等を被告が有しないことを確認する訴えを提起した事案。


■結論

原告敗訴


■争点

条文 不正競争防止法第2条1項1号、商標法第33条1項等

差止請求の肯否


■判決内容

差止請求の肯否について、裁判所は被告の使用している名称の周知性や
原告の登録していた商標との類似性、取引の実情などから誤認混同の可能性を検討。
そのうえで原告に対する「一橋学院」表示を含む看板やポスターの
使用差止請求を肯定しています(不正競争防止法第2条1項1号、3条)。



■コメント

商標法と不正競争防止法が交錯する事案です。
商標法がカバーしている場面を不正競争防止法が同じように
カバーしていることがよくわかる内容。

こうした点もあってでしょう、原告側は差止請求の肯否の議論の中で
中用権(継続的使用権 商標法第33条1項)の
抗弁(反訴の審理)を主張している点は新味がありました。

もっとも、この点について裁判所はそっけなく、容れませんでした。
さすがに解釈論的にも結論的にもこの主張には厳しいものがありますが、
事案によってはひとつの検討項目として念頭においていい議論だと思いました。

今回の裁判だけで着手金・成功報酬で600万円の弁護士弁理士費用が
かかってしまう「一橋学院」側としては、もっと早くから商標登録をしておくなど
予防法務に努めておくべきだったとの印象が強い事案でした。


本事案を分かりやすく解説するブログ記事として、
企業法務戦士の雑感さんの記事をお読みいただければと思います。

企業法務戦士の雑感 [企業法務][知財] 『一橋学院』対決


written by ootsukahoumu at 07:53|この記事のURLComments(2)TrackBack(0)

2006年01月04日

「テレビ番組背景音楽著作権侵害」事件〜損害賠償等請求判決(知財判決速報)〜

最高裁判所HP知財判決速報より

H17.12.22 東京地裁 平成16(ワ)17750 著作権 民事訴訟事件


企業法務戦士の雑感[企業法務][知財] 著作権は会社のものか?



■事案

テレビ番組向けに楽曲(背景音楽、効果音など)を提供していた作曲家が、
楽曲の著作権が自分にあることの確認と債務不履行等に基づく損害賠償請求を行った事案。


■結論

請求一部認容(原告側実質敗訴)



■争点

条文 著作権法第61条等

 楽曲利用許諾契約は包括的なものか。さらに著作権譲渡契約であったのか。



■判決内容

テレビ局との間の楽曲利用許諾権利関係は包括的なものか。

上記各認定事実によると,本件楽曲等は,数秒から長くても数分程度の短いものであり,テレビ番組の映像のイメージに合わせて挿入される背景音楽等であり,本件各番組と一体となって使用されることが当然の前提となっているものである。また,テレビ番組が,本件各番組のように,ローカル番組として再放送されたり,全国放送されたりすることはよくあることである。さらに,スポット用の背景音楽等については,スポット番組の性質上,反復継続的に使用されることは当然の前提とされているものである。そして,被告は,従前から,このような背景音楽等については,いわゆる「買い取り」の合意をしていたことから,本件契約についても同様に理解していたものであること,及び,原告も,本件各番組について,約22年の長期間にわたり,本件再放送等がなされており,これがテレビで放映されるだけでなく,新聞のテレビ番組予定表やその番組紹介欄にも掲載され続けてきており,本件再放送等の事実を当然に認識し得る状況が続いていたにもかかわらず,約22年間,本件再放送等について追加の対価を請求していなかったことからすれば,原告は,被告に対し,本件契約により,本件楽曲等に関する本件再放送等も含めた利用について,その都度支払を受けた報酬をもって,少なくともこれを包括的に許諾していたものと認めるのが相当である。また,原告は,平成10年の本件差押事件とこれに続く和解交渉等において,原告が被告に対し本件楽曲等の本件再放送等に伴う対価請求権を有しているとの主張を一切しておらず,このような請求権がないことを前提として行動しているものであり,このことも本件楽曲等の利用について包括的許諾があったことを強く推認させるものである。



包括的利用許諾契約をこえて著作権譲渡契約であったといえるか。

被告は,本件契約は,本件楽曲等の著作権の譲渡を内容とするものであったとも主張する。しかし,著作権の譲渡は著作権者に重要な影響を及ぼすものであるにもかかわらず,本件契約においては,契約書等,譲渡の合意があったことを明確に示す文書が作成されていないこと,被告としては,本件再放送等において追加の対価を支払うことなく自由に本件楽曲等を使用することができれば,本件契約の目的を十分達成することができること,原告が平成7年にJASRACに加入する際,当時,被告の編成局テレビ編成部長であったDは,同年12月13日付けで,本件楽曲等の一部(3曲)について,原告に著作権があることを前提としていると思料される作品公表証明をしていること(甲6),原告が被告に対し,本訴提起の数年前に,本件楽曲等の一部を原告が制作するCDに使用して良いかを念のため問い合わせたところ,被告が本件各番組とは別個に本件楽曲等を使用することについては承諾していること(乙28)などからすると,本件楽曲等については,本件契約により,被告に対し,被告が本件各番組の背景音楽等あるいはスポットとして使用することについては包括的な許諾がなされたものと認められることは前記のとおりであるものの,著作権譲渡の合意があったとまでは認めることはできない。


裁判所は、「買い取り」という合意を当事者間でしていても
文書による合意がないなどの諸事情を勘案して、
契約内容としては包括的利用許諾の範囲で認め
著作権譲渡があったとまでは認められない旨判示しました。


■コメント

原告の作曲家と被告テレビ放送局とは20年、取引金額も6000万円以上に及ぶ
付き合いがありました。
そのようななかで原告側に金策の必要が生じたのでしょう
(差押などを受けており、テレビ局にも相談しています)、
5億円の損害賠償請求をたてた訴訟を提起しました。

結論的には、著作権譲渡の合意の存在が認定されなかったので
著作権存在確認の請求の範囲では認容されたわけですが、
内容的には実質敗訴。
訴訟費用も原告が全額負担となっています(民訴法64条但書)。


著作物の利用関係についてそれが著作権譲渡とされるためには
たんなる「買い取り」などの口約束だけではなくて
文書による取り決めが重要であることを再認識させられます。

事実認定が中心の事案ですが、
テレビ番組に提供する楽曲製作の現場の雰囲気を伝えるものとして
参考になるのではないかと思います。



written by ootsukahoumu at 12:57|この記事のURLComments(0)TrackBack(1)

2005年12月31日

「『本当にあったHな話』商標権侵害」事件〜商標権使用差止等請求判決(知財判決速報)〜

知財判決速報より

H17.12.21 東京地裁 平成16(ワ)8092 商標権 民事訴訟事件

企業法務戦士の雑感[企業法務][知財] 『本当にあったHな話』


■事案

原告登録商標である「本当にあったHな話
(登録番号4703152 指定区分第16類 雑誌等)について、
同業他社が漫画雑誌に類似標章を使用していたとして
販売差止、損害賠償請求を求めた事案。



■結論

請求一部認容



■争点

条文 商標法第2条3項、36条、38条2項、民法709条

1 商標の類似性
   1 外観
   2 称呼
   3 観念
   4 取引の実情

2 商標的使用の有無(キャッチフレーズ的使用)
3 差止請求の可否
4 損害賠償額の認定(特に寄与率認定)


■判決内容

1 商標の類似性


裁判所は被告標章1について、

1 外観

本件商標と,被告標章1(1)ないし(3)及び(5)の外観を比較すると,全体を上下2段に分けて,上段に「本当にあった」部分を,下段にその余の部分を表示した点,上段の「本当にあった」部分については,左端から大きく横書きで「本当」と表示し,その右側に「本当」の約2分の1の大きさの文字で「にあった」を上下2段に分けて上段に「に」を,下段に「あった」を配置することにより表示した点,下段の部分については,「H」を全体で最も大きな文字で表示し,その右側に「な」及び「話」を配置し,「な」を「H」及び「話」より小さな文字で表示した点において共通している。また,本件商標と,被告標章1(4)の外観を比較すると,全体を上下2段に分けて,上段に「本当にあった」部分を,下段にその余の部分を表示した点,下段の部分については,「H」を全体で最も大きな文字で表示し,その右側に「な」及び「話」を配置し,「な」を「H」及び「話」より小さな文字で表示した点において共通している。
本件商標と被告標章1とは,用いられている文字の字体(角の丸み等)や色,縁取りの有無,「てんこ盛り!」という語の有無などの点で,異なる点はあるが,言語及び文字の配置により,「本当にあったHな話」部分が看者の目を引くように表示され,また,当該部分の文字の配置が同一又はほぼ同一であって,「本当」,「H」,「話」の文字が大きく表示され,とりわけ,「H」の部分が最も強調されている点などで共通していることから,取引者・需要者に与える印象を同じくするものである。
したがって,本件商標と被告標章1の外観は,類似するというべきである。


2 称呼

本件商標からは「ほんとうにあったえっちなはなし」の称呼が,被告標章1からは「ほんとうにあったえっちなはなしがてんこもり」の称呼が生じる。
本件商標と被告標章1の称呼を比較すると,本件商標から生じる称呼の全部は,被告標章1から生じる称呼に含まれており,両者は,被告標章1の末尾に「がてんこもり」が付加されている点において相違するにすぎないから,本件商標と被告標章1とは,称呼が類似するというべきである。


3 観念

Hな」とは,「性に関する言動が露骨な」,「性的にいやらしい」という意味を有する語であり,「てんこ盛り」とは,「食器に食物(特に飯)をうず高く盛ること」,「山盛り」という意味を有する語であることが明らかである。
したがって,本件商標からは,「本当にあった性的にいやらしい話」といった観念を生じ,被告標章1からは,「本当にあった性的にいやらしい話が非常に多くある」といった観念を生じる。
本件商標と被告標章1の観念を比較すると,被告標章1から生じる観念は,本件商標から生じる観念を含み,それに量の観念が付加されているにすぎないから,本件商標と被告標章1とは,観念が類似するというべきである。


4 取引の実情

証拠(甲3の1・2,甲4の1の1・2,甲4の2の1・2,甲4の3の1・2,甲4の4の1・2,甲4の5の1・2)及び弁論の全趣旨によれば,原告雑誌及び本件雑誌1は,いずれも成人男性向け漫画雑誌であり,成人男性を需要者とするという実情があるものと認められるが,成人男性であれば,「がてんこ盛り」というわずかな付加的記載の有無によって,本件商標と被告標章1とを識別し,両者を混同することがないものと認めるべき合理的理由はないから,被告の上記主張を採用することはできない。
また,被告は,原告雑誌や本件雑誌1と同趣旨で発行されている本案系雑誌は,いずれも表紙の視覚的構成が近似しており,需要者は混同することなく題号を識別して商品の選択をしているという実情があると主張する。
しかし,表紙の視覚的構成が近似する雑誌がある中で,需要者が混同することなく題号を識別して商品の選択をしていると認めるに足りる証拠はなく,これは客観的根拠を欠く被告の憶測にすぎない上,原告雑誌や本件雑誌1の需要者が通常人よりも高い注意力を有して当該雑誌を選択しているとも認められないから,被告の主張を採用する余地はない。



以上の諸点の検討から被告標章1については類似性を肯定。
同様の検討から、被告が使用していた三種類の標章のうち
被告標章3についても類似性を肯定しました。


・「本当にあったHな話」(原告登録商標)


1「本当にあったHな話がてんこ盛り!」(被告標章1)→類似性肯定

2「実際にあったエロ話がてんこ盛り!」(被告標章2)→   否定

  「観念」のみ類似するにとどまりました。  

3「本当に出会ったH(エッチ)な話」 (被告標章3)→    肯定

  「外観」は類似しないもののトータルで類似性が肯定されました。





2 商標的使用の有無(キャッチフレーズ的使用)

本件雑誌1(1)ないし(4)においては,本件雑誌1の題号である「まんが快援隊」は,本件雑誌1の表紙の右上部に記載されているが,いずれも他の文字,写真又は絵の陰に隠れて判読が困難である。これに対し,被告標章1(1)ないし(4)は,本件雑誌1の表紙の左上部に表示され,被告標章1の占める部分の大きさは,題号の占める部分の大きさとほぼ同程度であり,さらに,題号より前面に押し出されて需要者に強い印象を与える構成となっている。また,本件雑誌1(5)においては,被告標章1と本件雑誌1の題号である「まんが快援隊」とが共通の横長の長方形の枠の中に表示され,被告標章1が占める部分の大きさと本件雑誌1の題号が占める大きさとはほぼ同程度となっているから,題号と同等の表示であるとの印象を受ける構成となっている。
したがって,被告標章1は,出所を表示する機能を果たす態様で用いられているものであり,商標として使用されているものと認められる。
被告は,題号は必ず裏表紙(背表紙)にも表示されているから,裏表紙(背表紙)の表示を見れば,被告標章1がキャッチコピーであることは容易に判別できる,と主張する。
しかし,本件雑誌1の需要者が,裏表紙(背表紙)を確認し,題号を判別してから購入するのが通常であるとする合理的根拠は認められず,かえって,被告標章1が毎号ほぼ同じ位置(表紙の左上部)に付されていること,本件雑誌1の裏表紙(背表紙)に表示された題号部分の大きさが被告標章1の大きさに比して非常に小さいことを考慮すれば,本件雑誌1の需要者が,被告標章1も題号と同等のものと認識しているものと推認され,被告の上記主張は採用することができない。



商標の使用については、商標法第2条3項に定義規定があります。
商標の「使用」にあたるかどうかは、形式的には本条項の、
実質的には自他商品識別機能(出所表示機能など)の観点から
検討されることになります。

したがって、商品に商標を付して利用する行為が
形式的には第2条3項の各規定に該当するように考えられる場合
であっても、ただちに商標の「使用」とはいえない場合も
あるわけです。

本事案のようなキャッチフレーズ(キャッチコピー)的な利用の場合も
その適否は個別具体的な判断となります。

(・榎戸道也「商標としての使用」『新裁判実務大系 知的財産関係訴訟法
                  (2004)397頁以下
 ・寒河江孝允監著「商標の法律相談」(2004)104頁以下参照 )


3 差止請求の可否

事実経緯から差止の必要を認めています。


4 損害賠償額の認定(寄与率について)

被告標章が販売利益に対して寄与した程度(寄与率)について
裁判所は、

商標権は,特許権・実用新案権等の他の工業所有権と異なり,何らかの創作的価値を製品自体に付与するものではなく,商標に化体された営業上の信用を意味するものである。一般に,商標権侵害においては,侵害者の利益が当該登録商標の顧客吸引力のみによって達成されていることはむしろ稀であり,侵害者の商品自体の内容や侵害者の営業努力等の事情が相まって利益を上げているというのが,通常である。そして,雑誌の売上げは,一般に,雑誌自体の内容に大きく影響されるものであり,雑誌の内容は,まず,表紙や目次,あるいは個別の記事に掲載された記事の見出し等により判断されるものである。このことは,原告雑誌や本件雑誌1及び3においても変わるところはないのであって,原告雑誌や本件雑誌1及び3が,雑誌自体の内容によらずに購入されるといった取引の実情が存在することを認めるに足りる証拠はない。
また,証拠(甲3の2)によれば,原告雑誌は月1回発行される雑誌であって,平成16年4月号の原告雑誌が通巻第7号であることが認められるから,原告雑誌の創刊号は平成15年10月号であると推認することができ,原告雑誌が特に販売部数の多い雑誌であることを認めるに足りる証拠はないから,本件商標が,原告雑誌の販売を通じ市場において確固たる信用ないし顧客吸引力を備えたものということはできない。
そうすると,本件において,被告が本件雑誌1及び3の販売により得た利益についての被告標章1及び3の寄与率は,10%と認めるのが相当である。


として、10%の寄与率を認定しています。
なお、原告は100%、被告は6%の寄与率を主張していました。

裁判所は結論としては、被告が得た販売利益の10%を
原告の損害額と認定しました(商標法第38条2項)。


■コメント

2005年今年最後に取上げる知財判決速報は、
企業法務戦士の雑感さんのブログ記事から
面白い事案のものを取上げてみました。


成人向け漫画雑誌でのキャッチコピー(顧客吸引用惹句)の使用と
商標としての使用の関係を巡って争われた事案です。


特許電子図書館で「本当にあったHな話」という
登録商標(登録番号4703152)を調べてみると
どのような図柄のものかがわかります。
こうした標章を登録するほどに成人向け雑誌の競争は
激しいということでしょうか。

特許電子図書館


本判決の意義、重要性については
上記「企業法務戦士の雑感」さんブログ記事を
参照していただければと思います。



■参考判例

・コカコーラ缶事件(Always事件)
H10. 7.22 東京地裁 平成09(ワ)10409 商標権 民事訴訟事件





written by ootsukahoumu at 07:09|この記事のURLComments(0)TrackBack(0)

2005年12月30日

「天台宗法則文著作権侵害」事件〜損害賠償請求判決(知財判決速報)〜

知財判決速報より

H17.12.26 東京地裁 平成17(ワ)10125 著作権 民事訴訟事件



■事案

天台宗法則文(法要の際にその趣旨を述べる祈願文)にかかわる書籍の
出版権侵害を理由に民法709条に基づく損害賠償請求を求めた事案。



■結論

請求棄却(原告側敗訴)



■争点

条文 著作権法2条1項1号、80条 民法709条

 法則文中の表現の創作物性


■判決内容


まず裁判所は、

出版権者は,設定行為で定めるところにより,頒布の目的をもって,その出版権の目的である著作物を,原作のまま印刷その他の機械的又は化学的方法により文書又は図画として複製する権利を専有する(著作権法80条1項)。
したがって,被告が,原告の有する出版権を侵害したというためには,被告が,頒布の目的をもって,その出版権の目的である著作物を,原作のまま印刷その他の機械的又は化学的方法により文書又は図画として複製したことが必要である。
また,著作物の複製(著作権法21条,2条1項15号)とは,既存の著作物に依拠し,その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいう(最高裁昭和50年(オ)第324号同53年9月7日第一小法廷判決・民集32巻6号1145頁参照)。
そして,著作権法は,思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(著作権法2条1項1号),既存の著作物に依拠して創作された著作物が,思想,感情若しくはアイディア,事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において,既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,複製に当たらないと解するのが相当である(最高裁平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)。ここで,表現上の創作性とは,独創性を有することまでは要せず,筆者の何らかの個性が発揮されていることで足りると解すべきであるが,創作物が言語によるものである場合,ごく短い表現や,平凡かつありふれた表現などにおいては,筆者の個性が発揮されているということは困難であり,創作的な表現であるとはいえないと解すべきである。


との一般論を述べた上で、
数種類の法則文の各箇所の原告書籍の表現について検討。


その上で、

原告表現2は,ごく短いものであり,また,原告書籍発行以前に発行されていた書籍(乙1書籍,乙2書籍及び乙14書籍)に類似した,あるいは,これらの書籍において同一の表現が用いられているなど,平凡でありふれた表現であるということができるから,筆者の個性が表現されたものとはいえない。

原告表現4の「道場/斉場/家屋」は,法要を行う場所を特定する文言を述べる部分であることが認められる。そして,「斉場」及び「家屋」は,いずれも法要を行う場所として一般的であるから,「道場」に,法要を行う場所を特定する選択的な用語として「斉場」及び「家屋」を追加した原告表現4は,平凡でありふれた表現であり,筆者の個性が表現されたものとはいえないから,創作的な表現であるということはできない。

原告は,地区ごとに読み方に違いが生じているものを統一するため,また,漢字の読み違いにより法則文の意味を不明にすること及び読経に違和感を抱かせることを防止するため,ルビを付したというのであるから,ルビを付す場合に,当該箇所のルビについて他の表現を選択する余地はほとんどないし,原告表現7についてルビを付すことが,筆者の個性を表現するものということもできない。


など、原告表現は短く平凡でありふれた表現であり、
作者の個性が表現されていないと判示。
結論として争点となったすべての表現部分について
創作性が認められないと判断しました。

(よって、同一性があるとしても創作性がない以上
出版権侵害も理由がないとされました。)




■コメント


天台宗にかかわる密教作法法則文中の表現の
創作物性が問題となった事案です。

葬儀や年忌、施餓鬼、塔婆供養、石塔開眼などの法要の際に
僧侶が祈願文を述べるわけですが、
法要の内容によって形式化されていて現代では例文集に則って
行われていることが多いようです(被告の主張より)。


経文の原典があってそれに基づく例文集がすでにいくつもある場合
ですので、単にルビを振った程度、単純な用語の言い換え程度では
デッドコピーのような場合は別として、
部分的な表現の相違に関して著作権侵害を問難するのは
厳しかったかもしれません。





■参考判例

江差追分事件最高裁判決

H13.6.28 第一小法廷判決 平成11(受)922号 損害賠償等請求事件




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2005年12月29日

「GLA総合本部(高橋信次)著作権侵害」事件〜著作権侵害差止等請求判決(知財判決速報)〜

知財判決速報より


H17.12.26 東京地裁 平成17(ワ)11855 著作権 民事訴訟事件



■事案

宗教家高橋信次の講演や論文などの著作物を
無断で電子ブック等に複製して販売したという
著作権侵害事案。



■結論

請求認容(原告側勝訴)



■争点

条文 著作権法第21条、26条の2、114条2項


■判決内容


■コメント

師走も押し迫ったこの時期での
知財判決速報へのアップです。

これといった争点もない普通の著作権侵害差止、
損害賠償請求事件なのですが、
新興宗教団体である宗教法人GLA
原告となっていることから備忘録的に
取り上げてみました。

原告は、高橋信次の相続人から著作権の信託を受けていた
宗教法人GLA
被告は、高橋信次の講演の録音・録画物、論文を
無断複製してネット上で販売していました。


被告は、

Bの講演記録は,世界の宝であり,一宗教法人が独断で封印すべきものではない。

したがって複製・販売行為は
著作権侵害とはならないと主張していました。

もちろん裁判所は認めませんでしたが、
なるほど面白い主張だなあ、という印象です。


中学生の頃、ミリオンセラーの
五島勉「ノストラダムスの大予言」とともに
高橋信次著作物(あるいは娘の高橋佳子さんの本?)を
読んだ覚えがあります。

オウム真理教事件で一時取上げられた新興宗教団体のひとつ
ですが、現在はどのような活動状況なのでしょうか。


■追記(06.5.15)

控訴審判決

知財高裁平成18年05月11日平成18(ネ)10006著作権侵害差止等請求控訴事件


■追記(06.5.17)

控訴審判決に詳しく触れられたブログ記事として
「企業法務戦士の雑感」さんの記事があります。

[法律][知財] 究極の反論(その2)


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風呂バンス浴湯保温器取扱説明書著作権侵害事件〜不正競争防止法差止等請求判決(知財判決速報)〜

知財判決速報より

★控訴審
H17.12.15 大阪高裁 平成17(ネ)742 不正競争 民事訴訟事件
★原審
H17.2.8 大阪地裁 平成15(ワ)12778 不正競争 民事訴訟事件

■事案

浴湯保温器(浴槽内の湯を温める電気ヒーター)の類似商品販売をめぐって不正競争防止法違反や商品に添付された取扱説明書、イラストの複製性に関して著作権法違反などが争われた事案

■結論

控訴棄却

■争点

条文 著作権法21条、12条 不正競争防止法2条1項1号等

1 不正競争防止法2条1項1号の商品形態、商品名の周知性、類似性
2 取扱説明書等の複製性、編集著作権侵害性

■判決内容

1 不正競争防止法2条1項1号について

裁判所は原審同様、商品の形態と商品名称について、「周知性」「類似性」を否定しています。

2 取扱説明書等の複製性

(1)「イラスト」の複製の有無について

取扱説明書の一部に使われていたイラストについて、

引用にかかる原判決認定,説示のとおりであって,商品の取扱説明書の場合,商品の使用方法,機能,生じ得る問題点とその対処方法,部品や部分の名称,注意事項や禁止事項などが文章やイラストで説明されるが,説明すべきこれらの内容が共通し,その説明内容等がありふれた表現でなされる限り,別の商品の取扱説明書であっても表現として同一又は似通ったものとなることが考えられる。しかし,著作権法が保護するのはあくまで思想や感情の創作的表現であること(著作権法2条1項1号)からすれば,仮に上記のような点に共通性が認められたとしても,そのことをもって,創作性ある部分が実質的に同一であるとか,表現上の本質的な特徴が直接感得できるとかいうことはできない。
 そうすると,控訴人イラストが著作物性を有するか否かの点はともかくとして,被控訴人イラストと控訴人イラストは,それぞれが共通する部分は,結局,控訴人商品と被控訴人商品の部品や商品部分の説明としてありふれた表現方法を使用して表現したものにすぎないし,また,ありふれた表現以外の部分において相違点が認められ,被控訴人イラストが,控訴人イラストの創作性ある部分と実質的に同一であるとか,控訴人イラストの表現上の本質的な特徴を直接感得させるとかいうことはできないから,被控訴人イラストが控訴人イラストを複製したものであるとはいえない。
 したがって,争点(3)ア(ア)(著作物性の有無)を判断するまでもなく,控訴人イラストの著作権侵害を理由とする控訴人の請求は,いずれも理由がない。


としてイラストの複製性を否定しています。

(2)「取扱説明書」の複製の有無について

原告は取扱説明書自体については、編集著作権の侵害を問題としました。

編集著作物は,「素材の選択又は配列によつて創作性を有するもの」に限り著作物として保護される(著作権法12条1項)ところ,商品の取扱説明書は,当該商品に関する各種情報という素材を扱うものであるから,控訴人取扱説明書と被控訴人取扱説明書とは対象とする商品が異なっており,「素材」となる情報も異なるから,既にこの点において,被控訴人取扱説明書が控訴人取扱説明書の編集著作権を侵害するものということはできない。
 また,この点をおいて,控訴人の主張する説明文(文章内容及び文字の大小・太細,下線の有無など),イラスト,絵表示自体を著作権法12条1項の「素材」ととらえて,その編集著作物性の有無を検討しても,控訴人主張にかかる,々義平余ι覆了藩冓法,特徴点,生じ得る問題とその対処方法,手入れ方法,各部の名称等,安全上の注意事項及び警告事項等の章立て,使用方法の説明においては時系列に沿って説明文を配列していること,∪犬呼世詭簑蠹世箸修梁仆菠法の説明において,問題点を頁の左に,対処方法を頁の右に配置していること,禁止事項についてはイラストに「×」印を付していること,C躇媚項と警告事項を分け,各事項の説明においては頁の左側に絵表示を,その右側上段に各事項を,その右側下段に説明文を配置していること,だ睫席犬鳳茲辰禿宜イラストをその横や下に配置していること,ッ躇媚項等の前には絵表示を置いて注意事項等であることの注意喚起を促していることは,いずれも,商品の取扱説明書における,章立て,文章,イラスト,絵表示の配列としてありふれたものといわざるを得ないから,「配列」の創作性を肯定することはできない。
 したがって,いずれにせよ,控訴人取扱説明書には編集著作物性を認めることはできないから,争点(3)イ(イ)(複製の有無)について判断するまでもなく,控訴人取扱説明書の編集著作権侵害を理由とする請求は,いずれも理由がない。


これに対し,控訴人は,本件の場合,編集著作物としての「素材」は,「浴湯保温器という商品の各種情報」であり,控訴人取扱説明書と被控訴人取扱説明書とで素材は共通していると主張する。
 しかし,控訴人商品と被控訴人商品は,「浴湯保温器」という点では同じであるが,既にみたとおり,商品の形態及び商品名とも類似するものとはいえず,別個の会社の製造販売する別個の商品であることは否定できないから,「素材」となる情報は異なるといわざるを得ない。


として、「素材の選択」「配列」いずれにおいても編集著作権の侵害性が否定されています。

■コメント

家電製品で同種商品の取扱説明書の著作権法上の保護の限界を示す事例です。
同種商品では取扱説明書の性質上、項目立ても含めてどうしても似通った表現となってしまいます。
今回の裁判所の判断でも表現方法や「配列」について、ありふれたものであるとされました。
もっとも類似商品を販売された先行企業としては、当該商品に関して商標登録がしてあれば商標権を根拠として、なければ不正競争防止法さらには著作権法、民法と、諸法令を駆使して侵害対応をすることになります。
したがって、著作権法の側面からの主張もその当否はともかく、訴訟上は重要な検討項目となります。
後発販売企業もこれらの点に充分留意して製品開発(添付する取扱説明書なども含めて)することが求められます。
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2005年12月27日

「ロケット制御データ解析プログラム著作権」事件〜著作権存在確認等請求判決(知財判決速報)〜

知財判決速報より

H17.12.12 東京地裁 平成12(ワ)27552 著作権 民事訴訟事件



■事案
宇宙開発事業団(現在は、宇宙航空研究開発機構に改編)の職員が、
ロケットや人工衛星の制御データ解析プログラムについて著作権、
著作者人格権が自分にあることの確認を求めた事案。



■結論

請求棄却(原告側敗訴)



■争点

条文 著作権法第2条1項1号、15条、28条

1 プログラム著作物における「創作者」性
2 職務著作の肯否



■判決内容

1 プログラム著作物における「創作者」性


ある表現物を創作したというためには,当該表現物の形成に当たって,自己の思想又は感情を創作的に表現したと評価される程度の活動を行ったことが必要である。したがって,当該表現物の形成に当たって,必要な資料の収集・整理をしたり,助言・助力をしたり,一応完成された表現物について,加除・訂正をしたりすることによって,何らかの関与を行ったと認められる場合であっても,その者の思想又は感情を創作的に表現したと評価される程度の活動を行っていない者は,創作した者ということができない。
 この点は,当該表現物がプログラムである場合であっても何ら異なるところはないが,法は,プログラムの具体的表現を保護するものであって,その機能やアイディアを保護するものではないし,また,プログラムにおける「アルゴリズム」は,法10条3項3号の「解法」に当たり,プログラムの著作権の対象として保護されるものではない。そこで,プログラムを創作した者であるかどうかを判断するに当たっては,プログラムの具体的記述に関して自己の思想又は感情を創作的に表現した者であるかどうかという観点から検討する必要がある。


との一般論を前提とした上で、裁判所は原告主張の11本のプログラムに
ついて検討。
あるものについては他の技術者との共同創作を肯定。
またあるプログラムでは単独創作を肯定、
あるいは原告が創作者ではないと否定されたプログラムもありました。



2 職務著作の肯否

法15条(職務上作成する著作物の著作者)の認定について、裁判所は


法人等の業務に従事する者が作成したものであること
職務上の作成
法人等の発意
公表名義


の各要件について検討。

結論として職務著作を肯定し、プログラムの著作者は事業団であると
判断しました。
(原告に創作者性がないとされたプログラムについても仮定的に
判断されています。)


なお、「法人等の発意」要件について、

職務著作が成立するためには,当該著作物が,法人等の発意に基づいて作成されたことが必要である。法人等の発意に基づくとは,著作物の創作についての意思決定が,直接又は間接に法人等の判断に係らしめられていることであると解されるところ,職務著作の規定が,業務従事者の職務上の著作物に関し,法人等及び業務従事者の双方の意思を推測し,一般に,法人等がその著作物に関する責任を負い,対外的信頼を得ることが多いことから,一定の場合に法人等に著作者としての地位を認めるものであることに照らせば,法人等の発意に基づくことと業務従事者が職務上作成したこととは,相関的な関係にあり,法人等と業務従事者との間に正式な雇用契約が締結され,業務従事者の職務の範囲が明確であってその範囲内で行為が行われた場合には,そうでない場合に比して,法人等の発意を広く認める余地があるというべきであり,その発意は,前記のとおり,間接的であってもよいものである。そして,そのように職務の範囲が明確で,その中での創作行為の対象も限定されている場合であれば,そこでの創作行為は職務上当然に期待されているということができ,この場合,特段の事情のない限り,当該職務行為を行わせることにおいて,当該業務従事者の創作行為についての意思決定が法人等の判断に係らしめられていると評価することができ,間接的な法人等の発意が認められると解するのが相当である。

との一般論を述べています。


原告は15条を厳格に捉える斉藤博教授の見解(「著作権法第二版」(2004)123頁)
を主張するなどしていましたが、結論的には容れられませんでした。


■コメント

プログラム制作当時、職員作成プログラムの著作権の取り扱いについて
職員を著作者とする就業規則や契約など特段の定めはなかった状況で
職務著作(法人著作)性、創作者性が争われたものです。

裁判所はプログラム制作に至る経緯や目的、事業団の業務、
原告の担当業務について詳細な検討を加えた上で
上記のような判断をしています。

(なお、本事案で問題となったプログラムのほとんどは法15条2項の
プログラム特則規定施行(昭和60年改正61年1月1日施行)以前の
制作のものなので公表名義要件も検討対象となりました。)


今回の提訴の動機の底辺には、
事業団に対するプログラム制作業務についての
原告の提案が反対を受けていたこと、
あるいは原告の経歴をみると20年近く「副主任」開発部員という
地位にあったことから待遇上の不満があったのではと
推察されるところです。

もっとも、プログラム著作者としての権利主張は事実関係を
見る限り本事案では難しかったかと思われます。


本判決では、創作者性の事実認定部分と職務著作性における
「法人等の発意」の規範部分、事実認定部分が参考になると
思います。

特にフランス留学を契機として作成されたプログラム(プログラム12)
については原告単独での創作者性が肯定されていますが、
結論的には職務著作が肯定されています。

海外出張として取扱われた留学に際して作成されたプログラム
著作物の取り扱いについての先例になると思います。



■参考文献

牧野利秋ほか編『著作権関係訴訟法』(2004)
 上野達弘「著作者の認定」217頁以下
 森 義之「職務著作」  237頁以下参照


職務著作について

作花文雄「詳解著作権法第三版」(2004)193頁
田村善之「著作権法概説第二版」(2001)379頁以下


■追記(05.12.31)

創作者主義の原則の見直し、著作者人格権の本質論等を
職務著作制度の観点から考察するものとして
潮海久雄「職務著作制度の基礎理論」(2005)参照。

なお、公表名義要件について、同書20頁以下、225頁以下参照。

■追記(06.1.4)

千野直邦「法人著作の概念ー世界の著作権法にみられる二つの思潮
     『民法と著作権法の諸問題ー半田正夫教授還暦記念論集
      (1993)499頁以下 


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2005年12月25日

「カルティエ腕時計『パシャ』商標権侵害」事件〜商標権侵害差止等請求判決(知財判決速報)〜

知財判決速報より


H17.12.20 東京地裁 平成17(ワ)8928 商標権 民事訴訟事件



■事案
カルティエの真正腕時計などにあとからダイヤを加工して
販売した業者が商標権侵害で訴えられた事案。



■結論


請求一部認容(原告勝訴)


なお、当初より被告側は事実関係を認め和解を求めていました。
しかし、被告が弁論準備期日に無断欠席を重ねるなどの経緯もあり、
和解期日は取り消されました。


■争点


条文 商標法第25条、36条、民法709条

真正製品への後付け装飾加工が商標権侵害となるか



■判決内容


被告製品は,原告製品を加工したものであるが,以下のとおり,原告製品の品質にも影響を及ぼす改変を施したものであり,原告商標の出所表示機能及び品質保証機能を害するものといわざるを得ない。
   ア 原告製品は,原告独自の品質管理に関する基準に基づき,製造されている(弁論の全趣旨)。
   イ 上記(1)イの部品には,いずれもダイヤモンドが付されているが,このダイヤモンドは,原告製品よりも小さいものである(甲16の1ないし25及び甲37)。
   ウ 上記イのダイヤモンドには,一見して傷が見られることから,品質が良くないものである(甲37)。
    よって,被告製品の譲渡等の行為は,原告製品を加工したことをもって違法性を欠くことにはならない。
    また,被告製品の広告には,「アフターダイヤ」などの表示があるが(甲10の1ないし21),真正な原告製品として,ダイヤモンドを付したものが販売されており,被告製品がこれと混同を生じるおそれのある形態であること(甲11)に照らせば,上記表示があるとしても,原告商標の出所表示機能及び品質保証機能を害することに変わりはない。



被告の改変行為は、原告商標の出所表示機能や
品質保証機能を害するものと判断されました。



なお、損害額は被告が利益を受けた額であるとして(商標法第38条2項)、


売上金額ー変動費(仕入原価+広告費用+加工費用)=販売利益

として計算されました。



■コメント


純正品にあとから装飾加工して販売する商品は
よく見かけます。

腕時計でも、大柄のロレックスなどでは
とても真正製品とは思われないような、
べゼルや文字盤にダイヤのちりばめられた
ものがあったりします。

ロレックス社が特注でそうした製品を
製作した場合や個人的なレベルで加工業者に
特注したのであれば問題はないかもしれませんが、
個別受注以前に加工業者が加工製造したうえで
一般販売した場合はどうなるのか。

今回のカルティエの事案は、
加工されたダイヤが粗悪品であったことから
特に問題となったものと思われます。
真正製品の価値を倍化させるような加工であれば、
あるいは目をつぶってもらえたのかもしれませんが、
今回はそうはいきませんでした。


たとえば、「タンクフランセーズ」のべゼルに
加工されたダイヤは1個1600円程度。
石留め加工料が590円(1個あたり)ですから
とても安い印象です。
(24個のダイヤ加工費用は5万円程度。そのほかに文字盤に同数加工。)



パシャ、タンク、サントス・・・
カルティエは宝飾品、皮革製品とともに
腕時計でも歴史のあるブランドです。

なかでも「サントス」は、アルベルト・サントス・デュモンが
単翼飛行機設計をしていた当時、友人のルイ・カルティエに
腕時計の製作を依頼。
行動的なサントス・デュモンにマッチしたデザインの腕時計が
完成(1904年)、1911年には「サントス」として
一般にも販売されています。


こうした一個の腕時計の誕生にも物語のある
歴史ある会社(ブランド)の商品を汚す行為は
決して許されません。

海賊版製作はもちろんですが、
真正商品の改変はもっと始末が悪い行為とさえ
思われます。



■参考判例

[ゴルフクラブ販売差止商標権侵害事件]

東京地裁平成10年12月25日判決 平成6年(ワ)第5563号 商標権侵害差止等請求事件(日本ユニ著作権センター/判例全文・1998-12-25)

ゴルフクラブのヘッド(原告会社の真正構成部品)に被告がシャフトを結合加工して販売した行為が商標権侵害とされた事案です。


■追記(05.12.25)

知人の工芸作家に小粒ダイヤモンドの値段について聞いてみました。
この工芸作家さんも判決文中にあるアサオ工芸
利用しており、値段については4C判断でピンキリだということでした。

ちなみに、アサオ工芸のサイトで「上質」のものは1個1522円(1.7mmI1ブリリアントカット)と
なっています。

透明度(クラリティー)はI1だと11段階の下から3つ目。
内包物などが肉眼で容易に発見できるレベルのようです。

カルティエの宝飾品として用いるダイヤモンドの品質として
どうなんでしょうか。
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2005年12月24日

「工業所有権ライセンス契約代行業務契約保証金返還請求」事件〜保証金返還等請求判決(知財判決速報)〜

知財判決速報より

H17.12.19 大阪地裁 平成16(ワ)13057 その他 民事訴訟事件



■事案
工業所有権(産業財産権)やノウハウに関する
ライセンス(譲渡や実施許諾)代行業務を行う原告が、
ライセンサーたる立場に立つ被告との間の
業務代行契約上の保証金返還等を巡って争われた事案。

知的財産権取引仲介業務を行う原告側が被告に対して
保証金名目で1000万円を代行契約締結時に
支払っていました。



■結論

請求棄却

(保証金返還不要、不法行為も成立していない。

契約は有効に成立しており、保証金の返還時期は
契約規定から契約終了後2年経過してからである。
返還期限は未到来であるから返還は不要。)


■争点

条文 民法90条 709条

1 契約の有効性

2 保証金支払いを巡る法律関係等



■判決内容

1 契約の有効性

ライセンス業務代行契約の有効性について、
原告側は被告による「詐欺まがいの契約」、
契約の対象となる被告保有の工業所有権等の
情報について原告に「開示」しなかった
などとして民法90条により契約は
無効と主張していました。


裁判所は、被告側のライセンスに向けた
契約意思の内容を詳細に検討。


そして情報の「開示」については

原告は、被告が、本件契約の対象となる工業所有権等を原告に開示しなかったために、技術の譲渡等の契約に至ることができなかったと主張する。
   この、原告への「開示」とは、原告代表者本人尋問の結果に照らせば、技術内容そのものの開示ではなく、代行業務の対象となる工業所有権やノウハウの特定の意味で主張しているものと解されるところ、原告代表者及び被告の各本人尋問の結果によれば、確かに、被告が、これを出願番号等を用いて明確に特定して原告に伝えたことがないことは認められる。
   しかしながら、そのこと自体の当否は別として、この事実のみによって、このことが、技術の譲渡等の契約に至らなかった原因であると認めることはできず、また、これを認めるに足りる証拠もない。そして、上記のとおり、被告が原告代表者や原告従業員に伴われて企業を訪問し、説明やサンプルの材料提供を行ったり、その後の契約に向けた協議を行っていることに照らせば、やはり、被告が代行業務の対象となる工業所有権やノウハウの明確な特定をしなかったからといって、被告において、本件契約に基づく原告を介しての技術の譲渡等をする意思がなかったと認めることはできない。


として、結論的には原告側の無効主張を容れませんでした。


2 保証金支払いを巡る法律関係等


ライセンス代行業務を行う原告が、
工業所有権やノウハウ等を保持する被告側に
保証金1000万円を支払っています。


この保証金の目的について裁判所は、

本件契約の特記事項(4)は、本件保証金の返還時期を第12条の有効期間満了後と定め、第12条は、本件契約終了後も第10条及び第11条の規定は契約終了後2年間有効に存続すると定め、第10条及び第11条は原告の守秘義務とその例外を規定している。
    これらの規定の内容及び体裁に照らせば、本件契約第4条の保証金(本件保証金)は、少なくとも、本件契約の第10条が規定する原告の守秘義務の履行を確保するためのものであると解するのが相当である。


と認定しています。


その上で、保証金支払いを巡る事実関係を検討、
保証金返還時期が既に到来しているとする
原告側の主張を裁判所は結論として
容れませんでした。




■コメント

知的財産権取引仲介を行う者と
ライセンサーとのあいだでの契約関係が
裁判上で問われるという珍しい事案。

仲介者側が保証金を1000万円支払っている
という点でも注目されます。

また、代行業務ついての報酬については
別に定めてあるようですが
(別表1・2 判決には不掲載)、
判決内容からすると契約締結に当たって
着手金や一時金の支払いはなく仲介諸経費等は
成功報酬、あるいは特許等実施許諾契約
継続期間中の手数料報酬によるところであった
ことから、スジの良い工業所有権、ノウハウ等に
ついてのライセンス業務代行契約だったのかも
しれません。

ただ、業務代行契約書の概要が判決文中に
掲載されていますが、保証金額の高さに較べると
契約書の体裁が貧弱な印象を持ちます。


原告側が契約を急いだのか
いずれにしても契約がたった2ヶ月で解消されています。
このままでは仲介業務にかかった経費は出ませんし
1000万円も塩漬け状態。仲介者としては
きついところです。


契約書の点についていえば
原告側としては、もう少し開示する情報の範囲や
保証金の目的などを契約上で明示するなど
詰めることができたのではないかと
思われるところです。



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2005年12月18日

「クルマの110番」商標権侵害事件〜商標権損害賠償等請求判決(知財判決速報)〜

知財判決速報より

★H17.12. 8 大阪地裁 平成16(ワ)12032 商標権 民事訴訟事件


■事案
「クルマの110番」「自動車の119番」などの商標権を
保持する原告がネット上で類似の標章を使用した
同業他社に対して商標権侵害に基づく損害賠償請求を
行った事案。



■結論

請求認容(原告側勝訴 ただし、損害額は約8%認定)



■争点

条文 商標法第32条、37条、38条3項等

1 登録商標と被告標章の類否(商標権侵害該当性)
2 先使用権の成否
3 商標登録の無効事由の有無
4 商標法38条3項に基づく損害額の算定



■判決内容

1 登録商標と被告標章の類否(商標権侵害該当性)

→ 類似性を肯定。

2 先使用権の成否

→ 成立を否定。

3 商標登録の無効事由の有無

→ 「110番」などの使用が無効事由とはならないと判断。

4 商標法38条3項に基づく損害額の算定

→ 侵害された商標の価値、取引実態、侵害行為の内容等から
  総合判断。
  侵害期間29ヶ月・月額25000円と算定(計73万円)。
  弁護士・弁理士費用は7万円のみ認定。




■コメント

本事案では、被告の自社サイト上では原告の登録商標は
表示されておらず、トップページのHTMLファイルに
メタタグとして記載されているに過ぎず、MSNサーチで
検索すると被告サイトの説明として商標が使用、表示
されていたという状況でした。

こうした形式での表示と商標の出所識別機能との関係に
ついても判断されており、ネットを利用した商標権
侵害事案として興味深いものだといえます。




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2005年12月17日

「NOVAうさぎ商品化契約」事件〜損害賠償請求判決(知財判決速報)〜

知財判決速報より


★H17.12. 8 大阪地裁 平成15(ワ)10873 著作権 民事訴訟事件

http://courtdomino2.courts.go.jp/chizai.nsf/caa027de696a3bd349256795007fb825/a6b58b96c1bd6e0a492570d500202da9?OpenDocument


■事案
英会話教室を運営しているノバのキャラクター「NOVAうさぎ」の
商品化をめぐって商品化権許諾契約
(3年間の包括的継続的商品化権許諾契約)が成立しているのか
どうかが争われた事案。



■結論

請求棄却(原告の衣料品販売業者らの敗訴)


■争点

1 包括的継続的商品化権許諾契約は成立していたか
2 契約が成立していない場合の損害賠償の範囲



■判決内容


1 包括的継続的商品化権許諾契約の成否

ノバと衣料品販売業者とのあいだで契約交渉が重ねられ、
NOVAうさぎ「商品化権許諾契約書案」のやり取りが
続いていました。

そうした中で契約書への正式調印がないまま、
原告は商機を逃さないためTシャツやトートバッグなどを製造。
被告ノバ側も製造販売を認めた上で契約案の規定に沿った
著作権使用料(ロイヤリティー)相当額を請求。
原告はこれに応じて著作権使用料(ロイヤリティー)を
支払っていたという状況でした。



裁判所は、

原告サクラと被告は,電子メール等のやりとりにより,平成15年5月中旬には,被告が,原告サクラに対して本件キャラクターの商品化を許諾すること,指定商品はTシャツ等のアパレル関連の商品とすること(ただし,原告サクラは独占的な商品化権被許諾権者ではない。),サブライセンシーは原告アウトバーンのみとすること,年間最低保証使用料は500万円で,ロイヤリティーは上代の5%とすること,契約期間は3年とすることといった,商品化権許諾契約の主要な点について口頭で実質的に合意され,それ以降,約3か月弱の間,その実質的合意に沿う形で,現実に本件キャラクター商品が販売され,年間最低保証使用料が授受され,さらに実際販売量に応じたロイヤリティーも授受されたことが認められる。これらの原告サクラ及び被告の行動には,前記のような実質的合意に沿った本件許諾契約が正式にも成立していたのではないかと思わせる側面があることは否定できない。

としつつも、契約書作成・調印に向けた
当事者の意思・行動を重視し、

当事者が,契約書を作成し調印することによって契約を締結することを予定している場合においては,調印に至る過程での当事者間の口頭あるいは文書によるやりとりは,いかに主要部分について実質的に合意がなされ,一部それに則った行動がとられていようと,未だ契約交渉の一環にとどまるのであって,契約の正式な締結には至っていない,と解するのが相当である。

として、契約は締結されていないと判断しました。


さらに、標記契約が成立していないにもかかわらず
著作権使用料(ロイヤリティー)が支払われていた点について、

平成15年5月16日の実質的合意以後の当事者の行動は,契約の正式締結を見越して,商機を逃さないために前倒しで商品販売を行い,使用料の支払を行ったものといえ,これを法的に見れば,将来,3年間の継続的商品化権許諾契約が成立することを前提として,個別的単発的な商品化権許諾契約が個々の取引ごとに成立していたと認めるのが相当である。

として、個別的単発的な商品化権許諾契約が
個々の取引ごとに成立しているに過ぎないと判断しました。



2 契約が成立していない場合の損害賠償の範囲

原告は、仮に包括的継続的契約が成立していない場合であっても
被告が契約交渉の熟度が増した段階で正当な理由もなく
契約の締結を拒絶したことは契約締結上の過失又は
信義則上の付随義務違反、あるいは不法行為にあたる。
そしてこの場合の損害賠償額は向こう3年間にわたる
逸失利益であると主張しました。


しかし裁判所は、被告による契約締結の拒絶が、
契約締結上の過失又は信義則上の付随義務違反、あるいは不法行為に
あたるとして、被告が何らかの損害賠償責任を負うとしても
その範囲は原則として信頼利益の範囲に止まるものである。
その点について原告側は主張立証を尽くしていない
としてこの点の主張も退けました。





■コメント

「NOVAうさぎ」キャラクターの爆発的なヒットがあって
双方の思惑にずれが生じてしまったようです。
ノバ側としては、3年間も包括的な許諾契約に拘束されるのは
不利益が大きいと判断したのでしょうし、
衣料品販売業者も商機を逃したくないし長期的独占的な
キャラクター利用権を確保したいと考えるところです。


結論からすれば、双方が包括的継続的許諾契約書にハンコを
ついてない以上、個別契約成立の認定に止まるざるを得ない
と思われます。

商品化許諾、サブライセンシーの特定、年間最低保証使用料、
ロイヤリティー、契約期間など商品化許諾契約の主要部分に
ついては口頭で実質的に合意され、その合意以降3ヶ月間で
実際に合意に沿った形で販売、ロイヤリティー支払いが
行われてはいました。

しかし、契約交渉最終段階でロイヤリティー条項についての修正事項、
他社との競合に関する条件も出ていますし、こうした詰め切れていない
最重要事項もいくつかある以上交渉実態を重視して包括的継続的契約の
締結を肯定するのは微妙なところでした。


結果論ですが、最大限の利益追求を図った原告側の契約交渉に
判断ミスがあったといえるかもしれません。
商品化権を保持している側が強い立場にあります。

本判決は、キャラクター商品化契約交渉場面を伝える素材として
示唆に富む事案といえます。



■参考文献

1 トッパンキャラクター商品化権研究会編著
  「キャラクター・商品化権実務ガイド」(2004)

  ・・・26頁以下に契約書ひな型があります。

2 土井輝生著「キャラクター・マーチャンダイジング
  ー法的基礎と契約実務」(1990)

  ・・・本書は少し古くなりますが、81頁以下に
    日本商品化権協会標準契約書ひな型の解説が掲載されています。




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2005年12月15日

「レンタルポジ無断使用著作権侵害」事件  〜著作権侵害損害賠償等請求判決(知財判決速報より)〜

知財判決速報より


H17.12.8 大阪地裁 平成17(ワ)1311 著作権 民事訴訟事件

http://courtdomino2.courts.go.jp/chizai.nsf/caa027de696a3bd349256795007fb825/68cc456c8440bc20492570d50009a2cc?OpenDocument


■事案

広告業者とのあいだで写真の著作権使用について原告は委託契約を締結していたが、
契約合意解除後に無断で写真が使用されてしまったという事案。

デュープポジが回収されずに残されていました。



■結論

原告勝訴(ただし、損害額300万円を請求したが、3万円だけ認容)



■争点

条文 著作権法第112条、第114条3項等 

契約合意解除後の裁判管轄
顧客(レンタルポジ利用者)の注意義務
損害額の算定



■判決内容

 レンタルポジ受委託契約書には契約に関して紛争が生じた場合の裁判管轄として、
東京地裁が専属的合意管轄裁判所とされていました。
そこで被告側は本件紛争も契約解除後とはいえ契約に関するものであり、東京地裁に管轄があるから
大阪地裁への提訴は却下されるべきであると主張しました。


しかし、裁判所は、

被告JALブランドに対する本件訴えは、本件契約の終了後に生じた著作権侵害の不法行為による損害賠償の請求である。
     そして、本件契約の第18条は、「本契約に関して訴訟の必要が生じた場合に東京裁判所のみを管轄裁判所とします。」との条項となっている。
     そこで検討するに、確かに、本件契約の合意解除により、本件契約による上記管轄合意の効力が失われるとは解されないものの、本件訴えに係る著作権侵害の不法行為は、本件契約の終了後に生じたものである。
     したがって、このような紛争についてまで、上記「本契約に関して訴訟の必要が生じた場合」に該当すると解することはできず、上記管轄合意の効力は本件訴えには及ばないものと解するのが相当である。


ここで、原告の住所地は肩書地である大阪市である。したがって、各被告に対する損害賠償請求に係る、不法行為による損害賠償債務の履行地はいずれも大阪市となり、民事訴訟法5条1号により、それぞれ当裁判所が土地管轄権を有するものである。


として、結論としては大阪地裁への提訴は問題なしとしています。



 写真の著作権を保有する原告は、広告業者とのあいだで写真著作権の使用について受託契約を締結していますが、
貸出業務についてはレンタルポジ業者である代理店に委託しています。
パンフレットなどで写真を使う顧客に対してこの代理店が現実には貸し出し業務を行っています。
その末端の顧客の注意義務、過失の有無が問題となりました。



被告ドトールは、コーヒーの焙煎加工及び販売その他を目的とする株式会社であり、宣伝広告の広告主となることはあっても、自ら広告を制作することを業とする会社ではない。
     このような会社が、少なくとも、顧客として、パンフレット製作会社にパンフレットの製作を依頼して、完成したパンフレットの納入を受けてこれを頒布するにあたっては、そのパンフレットに使用された写真について、別に著作権者が存在し、使用についてその許諾が得られていないことを知っているか、又は知り得べき特別の事情がある場合はともかく、その写真の使用に当たって別途著作権者の許諾が必要であれば、パンフレット製作会社からその旨指摘されるであろうことを信頼することが許され、逐一、その写真の使用のために別途第三者の許諾が必要か否かをパンフレット製作会社に対して確認し、あるいは、自らこれを調査するまでの注意義務を負うものではないと解すべきである。
     なぜならば、一般に、パンフレット製作会社がパンフレットの製作にあたって使用した写真が、誰の撮影に係るものであるか、顧客には直ちに知り得ないものであり、その著作権についても、当該撮影者が有していたり、第三者に譲渡されていたり、あるいは既に消滅していたりと、様々な状況があり得るのであって、これも顧客には直ちに知り得ないものであるからである。
     したがって、特段の事情のない限り、顧客としては、パンフレットに使用される写真の著作権については、パンフレット製作会社において適切な対応がされていると信じ、その写真を使用することが他者の著作権を侵害するものではないものと考えたとしても、注意義務に違反するものとはいえない。



この事案での顧客(パンフレット広告製作委託主)はドトールでしたが、
結論としてドトールに過失はないと判断されました。



 損害額の算定

損害額の算定について、原告は無断使用の場合は、(社)日本写真家協会の例にならい
通常使用料の10倍の損害金となる等主張しましたが認められませんでした。

原告提出の証拠だけではそのような業界慣行が認められるものではないと判断されました。
この点は商業写真と作品性の高い写真との差異も事実認定上あるいは影響したかもしれません。


財産的損害について、ほぼ使用料額相当額の損害金の認定にとどまりました。
慰藉料請求は認められませんでした。



■コメント

損害額で折り合いが付かず提訴となったのでしょうが、
先例をみても損害額算定では一般的に低くなってしまいます。
それでも提訴したのですから原告は、被告らの対応によほど不信、不満を
持っていたのでしょう。

訴訟になることで被告側の社会的な信用、ブランドイメージがどうなるか。
そのあたりも含めて被告側は対応を迫られることになります。
今回の事件はドトールにとってはいい迷惑でした。



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2005年12月12日

「スタビライゼーション」運動法商標権侵害事件(知財判決速報より)

★控訴審
H17.11.24 知財高裁 平成17(ネ)10082 商標権 民事訴訟事件

★原審
H17. 3.30 東京地裁 平成16(ワ)25661 商標権 民事訴訟事件


■事案

「スタビライゼーション\フィジカル・コントロール・テクニック\(PC)」という登録商標
(登録番号49739 指定役務41 「運動法の教授」)をもつ原告が、
「スタビライゼーション」などの標章を書籍やDVDなどで使用した被告に対して、
商標権侵害を理由として標章の使用差止、書籍等の廃棄を求めた事案。


■結論

控訴棄却(一審同様原告側敗訴)



■争点

原告の商標と被告の標章の類似性



■判決内容

控訴審でも原判決の「事実及び理由」を引用して原告側の主張を退けました。

以下は原審の判断部分です。


原告の商標について、

本件商標は,別紙商標目録記載のとおり,「スタビライゼーション」,「フィジカル・コントロール・テクニック」及び「(PC)」の文字並びにこれらの文字の間に挿入されている記号「\」により構成されて おり,「スタビライゼーション,フィジカルコントロールテクニック,ピイシイ」の称呼を生じるものと認められる(なお,簡易迅速が尊重される当該役務の実際の取引の場においては,上記称呼のほかに,「スタビライゼーション,フィジカルコントロールテクニック」,あるいは「スタビライゼーション,ピイシイ」と称呼されることも想定されるが,後記説示のとおり,「スタビライゼーション」部分が普通名称であり,「フィジカル・コントロール・テクニック\(PC)」部分も一般的な文字を組み合わせたものであって,いずれも自他識別力を欠くことを考慮すると,それ以上に「スタビライゼーション」を含む簡略な称呼は生じないものと解するのが相当である。)。


として、「スタビライゼーション」部分は普通名称であるとしました。そして、


本件商標のうち,「スタビライゼーション」部分は,英単語である「stabilization」の読みをカタカナ文字で表記したものであり,一般的には「固定」又は「安定」という意味を有する。この表示が運動法の教授という指定役務について使用された場合,需要者は,当該表示を,主動筋のみならず,主動筋を補助する補助筋を刺激し,バランス能力や姿勢反射の改善を図り,四肢の安定性を高めることを目的とした特定のトレーニング方法を表す普通名称である旨理解すると認めることができる(甲2〜11,乙1〜10)。また,「フィジカル・コントロール・テクニック」部分は,いずれも一般的な文字である,「身体の」を意味する「フィジカル」,「管理」を意味する「コントロール」,「技術」を意味する「テクニック」を組み合わせたものであり,全体として,身体を管理する技術という観念を生じ,「(PC)」部分は,「フィジカル」と「コントロール」を英文字で表記した「physical」と「control」の頭文字を結合して括弧を付したものであると認められる。
    そうすると,本件商標からは,その文字の意味に即応して,「スタビライゼーションのトレーニング方法を用いて身体を管理する技術」という観念が生じるものと認められる。
    そして,本件商標が運動法の教授という指定役務について使用された場合に, 屮好織咼薀ぅ次璽轡腑鵝徂分は,特定のトレーニング方法を表す普通名称であるから,独立して自他識別力を有するものではないこと(原告も,第1回口頭弁論期日において,そのことを認める旨の陳述をしている。),◆屮侫ジカル・コントロール・テクニック\(PC)」部分は,一般的な文字を組み合わせたものであって,運動法の教授という指定役務について自他識別力を有するものではないことに照らせば,本件商標は,いずれかの部分が要部ということはいえず,商標全体としてのみ自他識別力を持つものであるということができる。



として、原告の商標は全体としてのみ自他識別力を持つものとしました。
その上で被告の標章を検討、原告商標と被告標章との比較をしています。



被告標章は,単に「スタビライゼーション」,「スタビリティトレーニング」のみから構成されるか,あるいは,これらに「研究会」,「専門家」等の文字を組み合わせたものであって,前記認定の称呼と,当該文字の意味に即応した観念が生じるものと認められるから,本件商標と被告標章とは,称呼,観念のいずれにおいても相違するものといわなければならない(なお,本件商標と被告標章とが,外観において類似するか否かについては,原告による主張立証がなく,本件全証拠によっても,両者は外観上類似するものとは認められない。)。
    したがって,被告標章が本件商標に類似すると認めることはできない。



このように両者の類似性を否定し、結論的に商標権侵害はないと判断しました。



■コメント

被告側が原告よりも6年も早い時期から書籍などで「スタビライゼーショントレーニング」を
紹介しており、「スタビライゼーション」は商標登録出願時には運動法として需要者間では
普通名称といえる状況でした。

こうした事実のもとでは商標の類似性の問題もそうですが、先使用権の問題もありますし
原告の主張は苦しいものがあります。


今回の事件で思うことは、被告側も早い時期に商標登録など予防法務に注意を払って
いれば無用な争いを防げたということです。



トレーニング方法の命名とその保護については、先に「初動負荷」理論について
著作権の成否が争われた事案があります。

H17. 7.12 大阪地裁 平成16(ワ)5130 著作権 民事訴訟事件

トレーニング方法・理論の命名について、著作権法での保護には限界があります。
できうれば商標登録をしたいところです。

■参考
NPO法人 日本スタビライゼーション協会


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2005年12月11日

「カットソー事件」不正競争控訴審判決(知財判決速報より)

控訴審
H17.12.5 知財高裁 平成17(ネ)10083 不正競争 民事訴訟事件

原審
H17.3.30 東京地裁 平成16(ワ)12793 不正競争 民事訴訟事件



■事案

丸首ネック、4段フリル、ノースリーブ型カットソーの服飾デザインについて、
商品を模倣したかどうかが争われた事案。


■結論

原審一部変更(原告側逆転勝訴)


■争点

不正競争防止法第2条1項3号

形態模倣性の有無
通常有する形態かどうか


■控訴審内容

1 「形態の実質的同一性ならびに模倣性
   肯定

2 「通常有する形態」か
   否定

以下では「通常有する形態」かどうかの判示部分について触れたいと思います。


(1) 上記2記載のA”ないしJ”の形状からなる原告商品の形態は,ノースリーブ型のカットソーであることから必然的に導かれる形態ということはできないし,何らかの特定の効果を奏するために必須の技術的形態ということもできない。
そして,原告商品と同様の,前身頃にフリルの配されたノースリーブ型のカットソーで,原告商品の販売以前において市場で販売されていたものについて見ても,丸首ネック(A”)とホルターネック(B”)を組み合わせた商品は見当たらないのであって,この点からも,A”ないしJ”の形状からなる原告商品の形態が個性を有しないものということはできない。
したがって,原告商品の形態は,「同種の商品が通常有する形態」であるとは認められない。



なお、形態判断について全体判断か個別判断かという点について、

被控訴人は,原告商品の形態中のA”ないしJ”の各形状は,その一つ又はいくつかの形状を備えたノースリーブ型のカットソーが原告商品販売以前から存在するのであって,いずれも極めてありふれたものであり,A”ないしJ”のすべてを組み合わせることは極めて容易に想到することができるから,原告商品の形態は,全体としてもありふれたものであり,「同種の商品が通常有する形態」に該当すると主張する。
しかし,不正競争防止法2条1項3号は,商品形態についての先行者の開発利益を模倣者から保護することを目的とする規定であるところ,同号の規定によって保護される商品の形態とは,商品全体の形態であり,また,必ずしも独創的な形態である必要はない。そうすると,商品の形態が同号の規定にいう「同種の商品が通常有する形態」に該当するかどうかは,商品を全体として観察して判断すべきであって,被控訴人の主張するように,全体としての形態を構成する個々の部分的形状を取り出して個別にそれがありふれたものかどうかを判断した上で,各形状を組み合わせることが容易かどうかを問題にするというような手法により判断すべきものではない。
したがって,本件において,原告商品の形態中のA”ないしJ”の各形状につき,これを個別に見た場合に,これらのうち一つ又はいくつかの形状を備えたノースリーブ型のカットソーが原告商品販売以前から存在したとしても,そのことから,原告商品の形態が「同種の商品が通常有する形態」に該当するということはできず,被控訴人の上記主張は,採用することができない。


と、判示しています。



■コメント

ここのところ服飾デザインにかかわる裁判例が目に付く印象です。

本判決の前にもノースリーブ型ワンピースなどのデザインの模倣性に関する判断が
出ています。

H17.11.10 知財高裁 平成17(ネ)10088 不正競争 民事訴訟事件

原審
H17. 4.27 東京地裁 平成16(ワ)12723 不正競争 民事訴訟事件


日本繊維新聞社編「ファッション業界と知的財産権」(2005.8.31刊)を読むと
アパレル産業における知財保護の現状が垣間見えます。

短命のアパレルデザインを意匠登録することはほとんどなく、また大量生産する
工業製品として著作権法の保護の外にある以上、アパレルデザインの模倣に対しては
不正競争防止法による擬律が必要となります。


ところで本件カットソー事件では原審と控訴審とで判断が分かれました。

原審では
既に市場に存在するありふれた形態であるA”ないしJ”を単に組み合わせたにすぎない原告商品は,前身頃にフリルの配されたノースリーブ型のカットソーとしてありふれた形態であって,原告商品の形態は,同種商品が通常有する形態であるといわなければならない。

と判断され原告敗訴となっていました。

ところが控訴審では一転して上記のように機能・効用の不可避的形態性を否定、
さらに新規性・個性があるものとして結論的にありふれた形態ではないと
しています。

判断の相違は事実認定上の違いで微妙なものと思われます。


■平成17年改正について

なお、平成17年不正競争防止法改正(平成17年11月1日施行)で第2条1項3号「通常有する形態」との
法文が、「機能を確保するために不可欠な形態」と改められました。
3年間の権利行使制限の文言は適用除外規定の19条1項5項イに移動しています。

そして「商品の形態」「模倣する」の定義規定の新設(法第2条4項5項)によって
形態模倣行為は外観と内部構造の組み合わせにから判断されうることとなります。

たとえば、外観上はありふれた形態であっても、内部構造が実質的に同一であれば
商品形態模倣行為となり得ます(詳しくは下記PDF15ページ図表参照)。

「知的財産政策/不正競争防止」経済産業政策局 知的財産政策室

不正競争防止法改正の概要PDF

■参考文献

弁理士クラブ知財判決研究会編「実務家のための知的財産権判例70選(2005年度版)
282頁以下(カットソー事件一審判決)

大渕哲也ほか編「知的財産法判例集」(2005)228頁以下
(ピアス孔保護具事件:東京地判H9.3.7)



■追記(05.12.15)

いつも拝見させていただいている「企業法務戦士の雑感」さんのブログ記事。
攻守ところを代えた仁義なきアパレル業界での戦い。


■[企業法務][知財] アパレル業界の“仁義なき戦い(知財編)


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2005年12月01日

「録画ネット」サービス保全抗告事件決定(知財判決速報より)

H17.11.15 知財高裁 平成17(ラ)10007 著作権 民事仮処分事件


★原決定となる東京地裁H17.5.31異議審決定(H16(モ)15793)について抗告人のサイトからPDFで見ることができます。

東京地裁H17.5.31異議審決定PDF


★基本事件となる東京地裁H16.10.7著作隣接権侵害差止仮処分命令申立事件決定(H16(ヨ)22093)についてもPDFで見ることができます。

東京地裁H16.10.7仮処分決定PDF


録画ネット」有限会社 エフエービジョン


■事案

海外赴任している人でも日本の放送番組を見ることができるシステム。このサービスを提供している会社がNHKから著作隣接権侵害として番組の複製等の禁止の仮処分を求められていました。

■結論

抗告棄却(サービス会社側敗訴)

■争点

複製行為の主体性など

■決定内容

前記認定事実によれば, )楫錺機璽咼垢蓮す街霓夕身が本件サイトにおいて宣伝しているとおり,海外に居住する利用者を対象に,日本の放送番組をその複製物によって視聴させることのみを目的としたサービスである,◆)楫錺機璽咼垢砲いては,抗告人事務所内に抗告人が設置したテレビパソコン,テレビアンテナ,ブースター,分配機,本件サーバー,ルーター,監視サーバー等多くの機器類並びにソフトウェアが,有機的に結合して1つの本件録画システムを構成しており,これらの機器類及びソフトウエアはすべて抗告人が調達した抗告人の所有物であって,抗告人は,上記システムが常時作動するように監視し,これを一体として管理している, 本件サービスで録画可能な放送は,抗告人が設定した範囲内の放送(抗告人事務所の所在する千葉県松戸市で受信されたアナログ地上波放送)に限定されている,ぁ〕用者は,本件サービスを利用する場合,手元にあるパソコンから,抗告人が運営する本件サイトにアクセスし,そこで認証を受けなければ,割り当てられたテレビパソコンにアクセスすることができず,アクセスした後も,本件サイト上で指示説明された手順に従って,番組の録画や録画データのダウンロードを行うものであり,抗告人は,利用者からの問い合わせに対し個別に回答するなどのサポートを行っている,というのである。これらの事情によれば,抗告人が相手方の放送に係る本件放送についての複製行為を管理していることは明らかである。
 また,抗告人は,本件サイトにおいて,本件サービスが,海外に居住する利用者を対象に日本の放送番組をその複製物によって視聴させることを目的としたサービスであることを宣伝し,利用者をして本件サービスを利用させて,毎月の保守費用の名目で利益を得ているものである。
 上記各事情を総合すれば,抗告人が相手方の放送に係る本件放送についての複製行為を行っているものというべきであり,抗告人の上記複製行為は,相手方が本件放送に係る音又は影像について有する著作隣接権としての複製権(著作権法98条)を侵害するものである。




侵害主体性については従来の「支配・管理性」と「利益」の観点からの判断となっています。
その上でサービス会社の侵害主体性を明確に認めました。


録画ネット事件についての裁判の経過については、上記抗告人会社のサイトに詳しく掲載されています。
またブログとしては「言いたい放題」さんの記事(全12回)に詳しいのでそちらを参照していただければと思います。

言いたい放題


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2005年11月26日

岩波新書出版差止等請求事件控訴審判決(知財判決速報より)

今年7月10日にブログ記事で取り上げた事件の控訴審判決が出ました。

2005.7.10「岩波新書出版差止等請求事件判決=知財判決速報=」

7月1日の原審判決に対して、控訴審判決が11月21日ですから5ヶ月あまりで二審判決が出たことになります。


H17.11.21 知財高裁 平成17(ネ)10102 著作権 民事訴訟事件

原審
H17.7.1 東京地裁 平成16(ワ)12242 著作権 民事訴訟事件



事案は文集(「鉄石と千草 京城三坂小学校記念文集」)を取り上げた岩波新書「植民地朝鮮の日本人」が編集著作物としての文集著作者の著作者人格権を侵害する、名誉を毀損するとして文集編集者らが差止、損害賠償請求等を行ったものです。


原審では、著作権侵害、名誉毀損いずれも認めず原告敗訴でした。
控訴審でも、控訴棄却。控訴人の主張は容れられませんでした。


編集著作物の著作者の権利について、控訴人

もともと編集著作物において保護の対象となる「素材の選択又は配列の創作性」は,「具体的な素材についての具体的な編集者の特定の思想・目的に基づく選択・配列の独自性」である。すなわち,具体的な編集物における具体的な選択・配列等に,当該編集者の特定の思想・目的に基づく創作活動が表れているからこそ保護されるのであり,保護の対象はその「当該編集者の独特の思想・目的」にこそある。そして,当該編集物につき保護されるべき著作者人格権もまた,当該編集者の独特の思想・目的に起因するものであることも明らかである。
したがって,編集著作物の部分を構成する著作物が個別に利用されたにすぎない場合でも,その利用の態様が個別の著作物のみならず,編集者の上記「独特の思想・目的」に反し又はこれを侵害するような態様ならば,編集著作物の著作者自身がその侵害を排除できることはむしろ当然である。


と、控訴審で主張しました。


しかし、この点について控訴審裁判所

控訴人X1は,編集著作物においては,編集者の特定の思想・目的に基づく素材の選択・配列の独自性が保護されるのであり,当該編集物につき保護されるべき著作者人格権もまた,編集者の独特の思想・目的に起因するものであるから,編集著作物の部分を構成する著作物が個別に利用されたにすぎない場合でも,その利用の態様が個別の著作物のみならず,編集者の独特の思想・目的に反し又はこれを侵害するような態様ならば,編集者自身が著作者人格権に基づいて侵害を排除できる旨を主張する。
 しかしながら,編集著作物は,素材の選択又は配列に創作性を有することを理由に,著作物として著作権法上の保護の対象とされるものであるから,編集者の思想・目的も素材の選択・配列に表れた限りにおいて保護されるものというべきである。したがって,編集著作物を構成する素材たる個別の著作物が利用されたにとどまる場合には,いまだ素材の選択・配列に表れた編集者の思想・目的が害されたとはいえないから,編集著作物の著作者が著作者人格権に基づいて当該利用行為を差し止めることはできない。
 本件においては,被告書籍中における本件文集の利用態様は,あくまで本件文集を構成する個々の著作物の一部のみを個別に取り出して引用するというものであるから,素材の選択・配列に表れた編集者の思想・目的を侵害するものとはいえない。したがって,控訴人X1の主張するその余の点につき判断するまでもなく,同控訴人の編集著作物の著作者の権利に基づく請求は,理由がない。
』(知財判決速報より)

として、認めませんでした。


不法行為責任の成立(名誉毀損、名誉感情侵害)についても結論的には認めませんでした。


原告の著作権法上の主張については、原審でもそうでしたが、なかなか難しい立論で結論的には裁判所の判断が是認できるところです。


   ----------------------------------------

■追記08.11.23

参考文献
松川実「『植民地朝鮮の日本人』編集著作物事件」『著作権研究33号
   (2008)157頁以下


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2005年11月24日

技術的知見に関する図表の著作物性(知財判決速報より)

H17.11.17 東京地裁 平成16(ワ)19816 著作権 民事訴訟事件


事案は、英国法人の蒸気システム制御機器メーカーが作成した技術的知見を表した図表と説明文について、バルブメーカーが無断でこれら著作物を雑誌に掲載したとして著作権の確認と複写等の差止、謝罪文掲載を請求したというもの。

結論的には一部認容
図表の著作物性は否定説明文についてのみ著作物性を肯定しました。
ただ、それ以外の請求は否定されています。


図表(チャート)は知財判決速報に添付されていないので文章からイメージするのが難しいのですが、ドレン滞留時の負荷率、外気温度の計測を簡便にするチャートで設計段階でドレン滞留による弊害を防止することができるというもの。

知人の空調設備CAD使い手に今回の事案のチャートのことを聞いてみると、蒸気のようなものを取扱う場合空気や液体と違って圧力、加熱といろいろ難しい問題があり、蒸気に限らないことですがチャートは設計上便利なツールだといいます。
原告としては、手間暇かけて作成したチャート等のフリーライドが許せなかった、というところでしょうか。

さて、図表(チャート)についての著作物性の判断ですが、



原告チャートを作成するに至った技術的知見ないしアイデア自体に独自性や新規性があるとしても,その技術的知見ないしアイデア自体は,著作権法により保護されるべきものということはできず,著作権法は,その技術的知見ないしアイデアに基づいて個性的な表現方法が可能である場合に,個性的に具体的に表現されたものについてこれを保護するものであり,原告チャートについては,その技術的知見ないしアイデアそのものがそのまま表現されているものといわざるを得ない。

なお,原告は,原告チャートについて,思想を単純な線によって簡素化した形にし,かつ視覚的に容易に認識できる形で表現したところに創作性があるとも主張する。しかし,原告チャートは,両縦軸と横軸に温度,圧力及び負荷率を設定し,ドレン滞留が発生するポイントを予測するための一定の技術的知見ないしアイデアに基づいて,そのグラフ内に一定のラインを引き,これによってストールポイント等を表示するというものであり,原告のいう創作性とは,かかる図表化を可能とするために,いかなる変数を採用するか,いかなる目盛り付けを用いるかという点についての工夫をいうものであり,これは技術的知見ないしアイデアにほかならず,創作的な表現の保護を旨とする著作権法の保護が及ぶものということはできない。』(知財判決速報より)




このように創作的な表現がなされているわけではないとして図表の著作物性が否定されています。

自然法則や科学技術に関する図表についてはまた、誰が作成しても同じようなものになってしまいますのでその創作性、著作物性が認められる範囲はかなり狭いと思われます(著作権法第2条1項1号、第10条1項6号)。


なお、図表を具体的に解説した説明文については著作物性が認められましたが、被告の著作物とは類似性がないとして著作権侵害は認めていません。
重要な用語について異なる用語を利用している、チャートの引き方をはじめとした説明内容、説明の順序、表現方法の点から全体としてかなりの程度相違していると判断されました。



ところで、著作権法第10条1項6号関係の判例では、設計図(「図面」)についてはいくつかありますが、本件のような学術的な性質を有する「図表」に関するものは珍しいかもしれません。
工業製品の設計図について、大阪地裁H4.4.30判決(丸棒矯正機事件)、東京地裁H9.4.25判決(スモーキングスタンド事件)参照。


H 4. 4.30 大阪地裁 昭和61(ワ)4752 著作権 民事訴訟事件(丸棒矯正機事件)


■追記(05.12.14)

学術的知見に関する図表について、
H17. 5.25 知財高裁 平成17(ネ)10038 著作権 民事訴訟事件参照。

5月31日にブログで取り上げています。


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2005年11月07日

パチスロ機「メタルスラッグ」不正競争民事訴訟事件(知財判決速報)

知財判決速報より

H17.10.31 大阪地裁 平成16(ワ)9743 不正競争 民事訴訟事件



事案は、特許権侵害をめぐるパチスロ機販売差止仮処分申立に関してその経緯などを一方当事者がネットで公表したことについて、不法行為不正競争行為不正競争防止法第2条1項14号)にあたるかどうかが争点となったものです。

原告甲会社敗訴
結論的には不法行為の違法性を欠くものであること、また不正競争防止法違反の点については請求原因の追加自体を訴訟遅延となるとして民訴法143条4項により不許としました。


先行する特許権侵害事件の裁判については乙会社敗訴(侵害なし)となっています。

H17.7.7 東京地裁 平成16(ワ)3905 特許権 民事訴訟事件

この判断を受けて、原告甲は審理の終盤に不正競争防止法違反を請求原因として追加しましたが、許されませんでした。


原告甲は、被告乙らがしっかり調べもせずに特許権侵害との憶測をサイトに掲載し、また特許権侵害裁判でも侵害の無いことが明らかとなったことから、被告乙のサイトでの公表行為は加害目的販売妨害目的とする不法行為であり、また営業上の信用を害する虚偽の事実を流布するものである(不正競争防止法第2条1項14号)と主張したわけです。

ここでは一般不法行為の成否についてだけ触れたいと思います。

☆違法性の判断について

一般に、ある者が仮処分を申し立てた場合に、その事実と申立ての理由となった見解を公表すること自体は、仮処分を申し立てることが市民の正当な権利である以上、直ちにこれをもって違法な行為ということはできない。
 もっとも、その仮処分申立て自体が、仮処分によって裁判手続による救済を受けようとする目的ではなく、仮処分申立ては口実にすぎず、真実は専ら加害目的で相手方の信用を害する事実を公表する目的であったなどの特段の事情がある場合には、仮処分を申し立てた事実等の公表行為も、違法性を帯び得るものと解される。
   ウ もし、原告らが主張するように、被告アルゼにおいて、本件パチスロ機の製造販売が本件特許権の侵害にあたることの調査を十分にせず、その根拠が薄弱なまま、別件仮処分申立てに及んだのであれば、そのような仮処分申立ては、仮処分によって裁判手続による救済を受けようとする目的ではなかったものと疑う余地があるので、検討する。
』(判決より)

検討の結果、加害目的等特段の事情を認めるに足りる証拠は無いとして結論的には公表行為の違法性を否定しました。


いずれにしましても、企業法務としては紛争事実を公表する際には表現内容の吟味が求めらるというわけです。



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2005年11月05日

ダスキン取締役会議事録等著作権侵害事件(知財判決速報)

知財判決速報より

H17.10.25 大阪高裁 平成17(ネ)1300


事案は、平成12年に「ミスタードーナッツ」で発覚した法定外添加物使用肉まん事件(食品衛生法違反事件)をめぐって「ダスキンオンブズマン」を名乗るダスキンの株主がネットで取締役会議事録などの文書を公開したというものです。

ダスキンは名誉毀損、信用毀損、また役会議事録の著作権(複製権、公衆送信権)侵害や営業秘密の開示行為として不正競争防止法(法第2条1項7号)違反を理由とする損害賠償や差止を請求しました。

結論として、原審、控訴審ともに無形的損害に対する賠償請求を認めましたが、著作権法違反と不正競争防止法違反は認めませんでした。


★著作権法違反について

取締役会議事録謄写許可申請事件の際の弁護士作成名義の意見書の著作物性

→著作物性を否定

著作権法は,「思想又は感情」自体を保護するものではなく,その「創作的な表現」を保護するものであるところ(著作権法2条1項1号参照),既にみたとおり,本件文書1は,1審被告の申請理由に対する簡略な認否及び1審被告の申請に係る取締役会議事録のうち1審被告の権利行使に必要と考えられる期間,範囲を簡単に記載するなどしたものであって,その文言,言い回し,配列等も,法律的文書としてはごくありふれた表現,配列を用いて記述したものにすぎず,作成者の個性が表れているとまでは認められず,創作性があるとは認められないから,その点でも,本件文書1の著作権に基づく1審原告ダスキンの主張は認められない。』(控訴審判決より)


取締役会議事録の著作物性

→著作物性を否定

本件文書2ないし11に記載された文章は,取締役会議事録のモデル文集の文例に取締役の名称等を記入しただけのものではないものの,使用されている文言,言い回し等は,モデル文集の文例に用いられているものと同じ程度にありふれており,いずれも,日常的によく用いられる表現,ありふれた表現によって議案や質疑の内容を要約したものであると認められ,作成者の個性が表れているとは認められず,創作性があるとは認められない。また,開催日時,場所,出席者の記載等を含めた全体の態様をみても,ありふれたものにとどまっており,作成者の個性が表れているとは認められず,創作性があるとは認められない。』(控訴審判決より)


不正競争防止法違反について

控訴審では原審判決を「引用する」と判示しました。

→営業秘密性の要件(不正競争防止法第2条4項)を欠くと判断

(1) 不正競争防止法2条4項の秘密管理性の要件を充足するためには,アクセスした者が営業秘密であることを認識し得ること,アクセスできる者が限られていることなどが必要である。
(2) 原告ダスキンは,取締役会議事録は典型的な秘密文書であるから,アクセスした者はだれでも,それが会社の秘密に該当するものであると認識し得ること,原告ダスキンにおいては,取締役会議事録を閲覧することができるのは,役員ほか一部の従業員に限られており,従業員に対してアクセスを制限しており,秘密として管理されていることを主張する。
前記1(2)のとおり,取締役会議事録は,商法260条の4第6項により,株主等がその権利を行使する必要があるときに,裁判所の許可を得て閲覧又は謄写の請求をすることができるにとどまる。しかし,そのことから直ちに,取締役会議事録が常に営業秘密に該当すること,アクセスした者がだれでも営業秘密であると認識し得ることは認められず,その他に,本件文書2ないし11について,アクセスした者がだれでも営業秘密であると認識し得たことを認めるに足りる証拠はない。また,本件では,原告ダスキンにおいて,取締役会議事録を閲覧することができるのが,役員ほか一部の従業員に限られていたこと,及び従業員に対してアクセスを制限していたことを認めるに足りる証拠はない。
したがって,本件文書2ないし11が営業秘密として管理されていたことを認めるに足りる証拠はなく,不正競争防止法2条4項所定の営業秘密に当たらないか,原告ダスキンの不正競争防止法に基づく請求は,理由がない。
』(原審判決より)


原審H17. 3.17 大阪地裁 平成16(ワ)6804



なお、被告側弁護人の名前の中に壇俊光先生を見つけることができます。
壇先生の今回の判決に関するブログ記事はこちらです。

壇弁護士の事務室


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2005年11月04日

「マクロス」アニメタイトル不正競争防止法民事訴訟事件(知財判決速報)

H17.10.27 知財高裁 平成17(ネ)10013


竜の子プロダクションとビックウエストらとの間ではテレビアニメ「超時空要塞マクロス」に関する著作権の帰属をめぐって今までにいくつか訴訟が提起されています。いわばアニメ共同制作会社間での内紛です。

はじめの原画(設定画、アニメカット)裁判についてスタジオぬえ、ビックウエストが原告となり、次のアニメ動画(テレビアニメ映画)裁判は竜の子プロダクションが原告となっています。
今回の不正競争事件では、原告は竜の子プロです。争点としては不正競争防止法第2条1項1号、2号の成否。「商品等表示の該当性」「商品等表示の使用」などが問題となりました。



★「超時空要塞マクロス」の原画設定画、アニメカット)の著作権帰属をめぐる裁判(著作権法第15条1項等)

H14.10. 2 東京高裁 平成14(ネ)1911

原審H14. 2.25 東京地裁 平成13(ワ)1844
(原審について、判例時報1788号129頁以下2002 判例タイムズ1105号239頁以下2003)

→竜の子プロ敗訴

★テレビアニメ映画の著作権帰属をめぐる裁判(著作権法第15条1項、第29条1項等)

H15. 9.25 東京高裁 平成15(ネ)1107

原審H15. 1.20 東京地裁 平成13(ワ)6447
(原審について、判例時報1823号146頁以下2003)

→竜の子プロ一部勝訴(映画製作者として著作権が認められました。)

★アニメの「タイトル」をめぐる不正競争事件(今回の事件)

H17.10.27 知財高裁 平成17(ネ)10013

原審H16. 7. 1 東京地裁 平成15(ワ)19435

仮処分事件 H15.11.11 東京地裁 平成14(ヨ)22155


→控訴審でも原審と同様原告(竜の子プロ)敗訴
竜の子プロは、「マクロス」という表示は自己の商品等表示として需要者の間に広く認識されているものであり、「マクロス」表示によるアニメの製作・販売は不正競争行為にあたると主張しましたが、認められませんでした。



商品等表示の「該当性」

『「マクロス」という本件表示は,本件テレビアニメ,本件劇場版アニメ等により,映画を特定する題名の一部として社会一般に広く知られるようになったことは認められるものの,それ以上に,本件証拠によっても本件表示が事業者たる控訴人の商品又は営業を表示するものとして周知ないし著名になったとまで認めることができず,本件表示は控訴人の商品等表示に該当しないというべきであるから,被控訴人らが「超時空要塞マクロス供廖ぁ屮泪ロスプラス」等の題名の映画を製作・販売する行為が不正競争防止法2条1項1号・2号に該当するとする控訴人の主張は失当である。』(控訴審判決より)

商品等表示の「使用」

『原判決も認定するように,「マクロス」を含むタイトル(被告表示)はいずれも当該映画ないし当該媒体に収録された映画を特定する映画の題名として表示されているものであるから,被控訴人らによって本件表示が商品等表示として使用されているものではないというべきであり,控訴人の上記主張は採用することができない。』(控訴審判決より)



なお、著作物のタイトルと不正競争防止法上の保護、さらにタイトルと商標法の適否など、タイトルと著作権法、標識法についての論考として、立命館大学宮脇正晴助教授による研究資料「アニメーション映画のタイトルの不正競争防止法による保護の可否」をウエブサイトからPDFで読むことができます。

アニメーション映画のタイトルの不正競争防止法による保護の可否(PDF)

この資料は、財団法人比較法研究センターで開催されている知的財産判例研究会の研究成果として公表されています。

比較法研究センター


■追記(06.6.11)

茶園成樹アニメーション映画の題号と不正競争防止法
コピライト542号2006.6 14頁以下)


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