最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「Yahoo!地図」類否事件

東京地裁令和5.4.14令和3(ワ)17636損害賠償請求事件PDF
別紙

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 國分隆文
裁判官    バヒスバラン薫
裁判官    小川 暁

*裁判所サイト公表 2023.4.22
*キーワード:地図、著作物性、複製、翻案

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■事案

沖縄県糸満市周辺の地図の類否が争点となった事案

原告:個人発明家
被告:ヤフー

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、10条1項6号、27条、19条、20条

1 原告地図1に関する著作権侵害の成否
2 原告地図1に関する著作者人格権侵害の成否
3 原告地図2に関する著作権侵害の成否
4 原告地図2に関する著作者人格権侵害の成否

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■事案の概要

『本件は、原告が、Zホールディングス株式会社(以下「Zホールディングス」という。)及び株式会社アルプス社(以下「アルプス社」という。)を承継した被告に対し、Zホールディングス及び被告による被告地図目録記載1の地図(以下「Yahoo!地図」という。)の作成及びインターネット上での地図閲覧サービスにおける提供によって、原告が平成8年頃に作成した沖縄県糸満市周辺の地図(以下「原告地図1」という。)並びに原告地図1に基づき作成して特許出願(特願平8−271986号)の願書に添付した【図2】、【図3】及び【図5】の各図面(以下、「原告地図2(図2)」、「原告地図2(図3)」及び「原告地図2(図5 5)」といい、これらを総称して「原告地図2」という。また、原告地図1及び原告地図2を併せて「原告各地図」という。)に係る原告の著作権(公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)が侵害され、アルプス社による別紙被告地図目録記載2の各地図(以下、これらを総称して「プロアトラスSV」という。)の作成及び販売並びにZホールディングス及び被告による上記サービスにおけるプロアトラスSVの提供によって、原告各地図に係る原告の著作権(複製権、翻案権、譲渡権及び公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)が侵害されたと主張して、Yahoo!地図の作成及び提供について、不法行為又は不当利得に基づき、損害金合計92億7000万円又は不当利得金合計92億4000万円のうち1億円及びこれに対する訴状送達日の翌日である令和3年7月27日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求め、プロアトラスSVの作成、販売及び提供について、不法行為に基づき、損害金合計1億0300万円のうち1000万円及びこれに対する不法行為後の日である平成25年10月1日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。』
(1頁以下)

<経緯>

H08 原告が原告地図1作成
H08 原告が原告地図2を添付して特許出願
H18 特許権設定登録(特許3799107)
H19 アルプス社がプロアトラスSV販売
H22 被告がYahoo!地図を送信
H28 年金不納による抹消、権利消滅
H30 被告が無効審判請求
H30 ゼンリンが無効審判請求

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■判決内容

<争点>

1 原告地図1に関する著作権侵害の成否

(1)複製及び翻案の判断方法

プロアトラスSV及びYahoo!地図が原告地図1を複製又は翻案しているかどうかについて、裁判所は、まず複製及び翻案の意義や判断方法(江差追分事件最高裁平成13年6月28日判決)について言及。また、地図の著作物性についても、地図に記載すべき情報の取捨選択及びその表示の方法を総合して判断するべきであると説示しています(53頁以下)。

(2)プロアトラスSVが原告地図1を複製又は翻案したものであるか

裁判所は、原告が主張する原告地図1とプロアトラスSVの7つの共通部分について検討。
結論として、原告地図1とプロアトラスSVの共通部分は、創作的表現において同一性を有するとは認められず、プロアトラスSVが原告地図1を複製又は翻案したとは認められていません(54頁以下)。

(3)Yahoo!地図が原告地図1を複製又は翻案したものであるか

結論として、裁判所は、原告地図1とYahoo!地図の共通部分は、創作的表現において同一性を有するとは認められず、Yahoo!地図が原告地図1を複製又は翻案したとは認められていません(67頁以下)。

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2 原告地図1に関する著作者人格権侵害の成否

結論として、裁判所は、原告が主張する原告地図1に関する著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権)侵害性を否定しています(77頁以下)。

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3 原告地図2に関する著作権侵害の成否

結論として、裁判所は、原告地図2に関する著作権侵害性を否定しています(78頁以下)。

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4 原告地図2に関する著作者人格権侵害の成否

結論として、裁判所は、原告地図2に関する著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権)侵害性を否定しています(87頁以下)。

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■コメント

特許3799107を見てみると、まさにアイデアを保護しようとするのが特許権で、本判決で示されているように具体的な創作的表現を対象とする著作権とは保護の対象が違うことがよくわかります。

【請求項1】
住宅地図において、
検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略し住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載すると共に、
縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた地図を構成し、
該地図を記載した各ページを適宜に分割して区画化し、付属として索引欄を設け、該索引欄に前記地図に記載の全ての住宅建物の所在する番地を前記地図上における前記住宅建物の記載ページ及び記載区画の記号番号と一覧的に対応させて掲載した、
ことを特徴とする住宅地図。