最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

アニメ音響効果音データ事件(控訴審)

知財高裁令和5.3.14令和4(ネ)10049不当利得返還、同反訴、損害賠償請求控訴事件PDF
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 菅野雅之
裁判官    本吉弘行
裁判官    中村 恭

*裁判所サイト公表 2023.3.23
*キーワード:退職時合意書、錯誤無効、再委託業務、債務不履行、音響効果、著作権譲渡、著作物性、セッションデータ

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■事案

退職後に制作したアニメの音響データの取扱いなどが争点となった事案

控訴人兼被控訴人(第1事件本訴原告兼第1事件反訴被告兼第2事件被告):被告会社元従業員
被控訴人兼控訴人(第1事件本訴被告兼第1事件反訴原告兼第2事件原告):音響効果制作会社

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、21条、27条

1 本件合意締結時の不法行為の成否(第1事件本訴請求)
2 退職後の委託業務の債務不履行の成否(第1事件反訴請求)
3 1審原告の音データ持ち出しによる債務不履行の成否(第2事件請求)

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■事案の概要

『本件は、一審被告の従業員であった一審原告が、一審被告に対し、本訴として、(1)一審被告からの退職の際に一審被告との間で締結した退職及び業務委託に係る合意(本件合意)の締結過程における一審被告の行為は一審原告に対する不法行為である、又は公序良俗等に反して無効である旨主張して、主位的には不法行為に基づく損害賠償請求として、予備的には不当利得返還請求として、損害賠償金又は不当利得金646万4500円の支払又は返還並びにこれらに対する不法行為後の日で一審被告に訴状が送達された日の翌日である令和元年5月9日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法(以下、単に「民法」という。)所定の年5分の割合による遅延損害金又は法定利息の支払を求めたところ(第1事件本訴請求)、一審被告が、一審原告に対し、(2)反訴として、一審原告に本件合意が定める委託業務の債務不履行がある旨主張して、債務不履行に基づく給付請求又は損害賠償請求として、)原判決別紙委託案件目録2記載のプロツールスセッションデータ(音編集ソフトウェア「プロツ−ルス」を使用して作成された、複数の音データで構成されるファイル)が記録されているCD−ROM、ハードディスク等の記録媒体の引渡し、)違約金412万円及びうち156万円に対する反訴状送達の日の翌日である令和2年1月15日から、うち256万円に対する訴えの変更申立書の送達の日の翌日である令和3年2月16日から、各支払済みまでそれぞれ平成29年法律第45号による改正前の商法所定の商事法定利率(以下、単に「商事法定利率」という。)年6分の割合による遅延損害金の支払を求め(第1事件反訴請求)、さらに、(3)一審被告が、一審原告に対し、別訴として、一審被告の業務上使用に係る音データを一審原告が持ち出し、使用するなど、本件合意に定める音データの返還義務、無断使用禁止義務の不履行がある旨主張して、)主位的には債務不履行に基づく損害賠償請求として、予備的には不法行為に基づく損害賠償請求権として、損害金1億円のうち2000万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和2年2月8日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払、)債務不履行又は不法行為に基づく差止請求として、音源データの使用等の差止め及び廃棄を求めた(第2事件請求)各事件が併合審理された事案である。』

『原審は、第1事件反訴請求について、一審原告が一審被告に対して違約金412万円及び遅延損害金を支払うことを(原判決主文第1項)、第2事件請求について、主位的請求に基づく違約金550万円及び遅延損害金を支払うことを命じ(原判決主文第2項)、一審原告の第1事件本訴請求(原判決主文第3項)並びに一審被告のその他の第1事件反訴請求及びその他の第2事件請求(原判決主文第4項)をいずれも棄却した。』

『ア 不服申立て
 一審原告は、第1事件本訴請求が棄却された部分全部と一審被告の第1事件反訴請求及び第2事件請求の各一部が認容された部分全部について控訴を提起し、一審被告は、第1事件反訴請求及び第2事件請求の各一部が棄却された部分全部について控訴を提起した。
イ 当審における追加請求
 一審被告は、第1事件反訴請求中のプロツールスセッションデータが記録されているCD−ROM、ハードディスク等の記録媒体の引渡請求について、同引渡しの執行不能に備えた代償請求として、代償金369万4000円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である令和2年1月15日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める請求を追加した上で、両請求を主位的請求とし、さらに、債務不履行に基づく損害賠償請求として上記同額の損害賠償金及び遅延損害金の支払を求める請求を予備的請求として追加した。』
(3頁以下)

<経緯>

H28.12 原告が被告を退職

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■判決内容

<争点>

1 本件合意締結時の不法行為の成否(第1事件本訴請求)
2 退職後の委託業務の債務不履行の成否(第1事件反訴請求)
3 1審原告の音データ持ち出しによる債務不履行の成否(第2事件請求)

結論としては、原判決の判断が維持されており、1審原告の請求は全部理由がなく、1審被告の請求は、原判決主文第1項及び第2項の限度で理由があり、その他は控訴審における追加請求も含めて、全て理由がないものと判断されています(16頁以下)。

ちなみに、第1事件反訴に係る本件セッションデータの引渡請求については、結論として1審原告に本件合意に基づく引渡義務はない、と判断されています(21頁以下)。

なお、環境音、ワンショット効果音、生音、シンセサイザー効果音などを含む被告音源データの著作物性について、控訴審が以下のように言及しています。

「被告音源データの中の個々の音のみであっても、幅のある表現の中から選択され、その表現に個性の発露を認め得る音も決して少なくないものと認められ、そのようにして制作された音には創作性を認める余地があるといえ、一律に効果音の著作物性を否定できるものではないし、著作物性のある音がごくわずかであるともいい得ない。」
「そして、一審原告は、一審被告在職中に被告音源データを用いて音響効果業務を行っていたのであるから、被告音源データに含まれる音と同一の音あるいは類似の音を制作した場合には、明らかに依拠性が認められ、あるいは容易に依拠性を認め得るのであるから、被告音源データに含まれるいずれかの音と同一の音を利用し、あるいは類似の音を制作して利用した場合でも、一審被告の被告音源データについて一審原告による少なくとも複製権又は翻案権の侵害が成立する可能性は否定できないといえる。」(20頁以下)

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■コメント

原審を確認できていませんので各争点の詳細が分かりませんが、アニメなどの効果音を制作する会社での退職従業員と当該会社との間での契約関係上の紛争です。退職後に改めて会社から業務委託をして音響効果音の制作を原告は受託していましたが、その際の音源データの取扱いを巡って紛争となった事案となります。
判決文末尾に別紙として退職時の合意書が掲載されていますので、退職時の事務処理は細かくやり取りがされていたことが分かります。

音源データとしては、シンセサイザーで合成した音、人の手で音を創り出した生音のほか、自然に存在する音をマイクで収録した音である環境音や爆発音といった0.1秒から数秒程度の単発の音などが多く含まれていて、著作物として特定をするとなると手間の掛かる作業になること、また、作品ごとの音源構成を示すセッションデータの取扱いも重要であることが判決文から伺えます。

一般論としては、著作権譲渡をすれば、同一又は類似の範囲の著作物を無断で制作することができなくなるので、クリエーターとしては、自分の将来的な創作活動の幅を徒に狭めないように、そもそも対象となる著作物とは何を示すのかについて、譲渡契約時に注意が必要なるかとは思われます。