最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

アダルト動画P2P共同不法行為事件

東京地裁令和3.8.27令和2(ワ)1573債務不存在確認請求事件PDF
別紙PDF

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 佐藤達文
裁判官    吉野俊太郎
裁判官    小田誉太郎

*裁判所サイト公表 2021.12.28
*キーワード:P2P、BitTorrent、共同不法行為、損害論

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■事案

アダルト動画を違法配信したとしてP2Pファイル共有ソフト「BitTorrent」利用者らの共同不法行為性などが争点となった事案

原告:P2Pファイル共有ソフト利用者ら11名
被告:アダルトビデオ製造販売会社

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■結論

一部認容

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■争点

条文 著作権法23条、民法719条1項前段

1 著作権侵害及び共同不法行為性
2 共同不法行為に基づく損害の範囲
3 減免責の可否

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■事案の概要

『原告らは,いずれも,BitTorrentと呼ばれるファイル共有ソフトを利用していたところ,別紙著作物目録記載のアダルト動画(以下「本件著作物」という。)の著作権者である被告から,原告らが本件著作物の動画ファイルをBitTorrentにアップロードしたことにより,本件著作物に係る被告の著作権が侵害されたとして,損害賠償請求を受けた。
 本件は,以上の事実関係をもとに,原告らが,それぞれ,被告に対し,本件著作物に係る著作権侵害に基づく損害賠償債務が存在しないことの確認を求める債務不存在確認請求訴訟である。』
(5頁)

<経緯>

H30 被告が調査実施、プロバイダに対する発信者情報開示請求
   プロバイダ各社が氏名等を開示
R01 被告が原告らに損害賠償請求通知

被告著作物:
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■判決内容

<争点>

1 著作権侵害及び共同不法行為性

原告らによる著作権侵害及び共同不法行為性について、裁判所は、原告X5及びX11を除いて、

「原告X1らは,BitTorrentの本質的な特徴,すなわち動画ファイルを分割したピースをユーザー間で共有し,これをインターネットを通じて相互にアップロード可能な状態に置くことにより,ネットワークを通じて一体的かつ継続的に完全なファイルを取得することが可能になることを十分に理解した上で,これを利用し,他のユーザーと共同して,本件著作物の完全なファイルを送信可能化したと評価することができる。
 したがって,原告X1らは,いずれも,他のユーザーとの共同不法行為により,本件著作物に係る被告の送信可能化権を侵害したものと認められる。」

と判断しています(20頁以下)。

なお、原告らは、アップロード可能な状態に置いたファイルが全体のごく一部であり、個々のピースは著作物として価値があるものではないから、原告らの行為は著作権侵害に当たらないと主張しました。
この点について、裁判所は、原告らによる行為は他のユーザーと共同して本件著作物を送信可能化したものと評価できるとして、原告らの主張を認めていません(23頁)。

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2 共同不法行為に基づく損害の範囲

被告は、本件著作物の侵害は本件各ファイルの最初のアップロード以降継続しており、社会的にも実質的にも密接な関連を持つ一体の行為であることなどを理由として、原告らがBitTorrentを利用する以前に生じた損害も含めて、令和2年4月2日当時のダウンロード回数について原告らは賠償義務を負う旨主張しました(24頁以下)。
この点について、裁判所は、

「民法719条1項前段に基づき共同不法行為責任を負う場合であっても,自らが本件各ファイルをダウンロードし又はアップロード可能な状態に置く前に他の参加者が行い,既に損害が発生しているダウンロード行為についてまで責任を負うと解すべき根拠は存在しないから,被告の上記主張は採用することはできない。」

として、被告の主張を認めていません。
そして、原告X1らがBitTorrentを通じて自ら本件各ファイルを他のユーザーに送信することができる間に限り、不法行為が継続していると解すべきであるとして、各自のアップロードの始期と終期を検討。
ダウンロード回数、基礎とすべき販売価格を勘案して各自の損害賠償額を算定しています。

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3 減免責の可否

原告らは、原告らにおいて複製物を作成しようという意思が希薄であり、客観的にも本件著作物の流通に軽微な寄与をしたにすぎないことなどを理由に損害額につき大幅な減免責を求めましたが、裁判所は認めていません(28頁以下)。

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■コメント

発信者情報開示請求の後に動画著作権者による具体的な損害賠償請求が行われることになりますが、これに対して違法配信者側から債務不存在確認訴訟を提起した事案となります。
BitTorrentの特性に着目して、複数利用者による共同不法行為性が議論されている点が参考になります。