最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「月刊文藝春秋」投稿文改変事件

知財高裁令和3.10.7令和3(ネ)10034損害賠償請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官 本多知成
裁判官    中島朋宏
裁判官    勝又来未子

*裁判所サイト公表 2021.10.13
*キーワード:同一性保持権、改変、投稿、出版社、編集、慰謝料

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■事案

月刊紙へ投稿した文章が編集者によって改変された事案

控訴人(1審原告) :個人
被控訴人(1審被告):出版社

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■結論

原判決一部変更

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■争点

条文 著作権法20条

1 同一性保持権侵害性
2 損害論

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■事案の概要

『控訴人は,月刊誌「文藝春秋」(本件月刊誌)を発行する被控訴人に対し,原判決別紙控訴人投稿文記載の題号及び文章(本件控訴人投稿文)を投稿したが,被控訴人は,本件控訴人投稿文を,原判決別紙被控訴人掲載文記載の題号及び文章(本件被控訴人掲載文)のとおり変更した上で,本件月刊誌の令和元年10月号(本件掲載紙)に掲載して頒布した。』

『本件は,控訴人が,被控訴人に対し,被控訴人が本件控訴人投稿文を上記のとおり変更したこと(本件変更)が控訴人の著作者人格権(同一性保持権)を侵害するとともに,被控訴人が本件掲載紙を頒布したこと(本件頒布。以下,本件変更と併せて「本件変更等」ということがある。)が著作権法113条1項2号に定める行為に該当し著作者人格権を侵害する行為とみなされると主張して,不法行為(民法709条)に基づく損害賠償として,慰謝料60万円(本件変更について40万円,本件頒布について20万円)及びこれに対する本件掲載紙の発行日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。』

『原審は,不法行為の成立は認めた上で,後に本件月刊誌に謝罪文が掲載されたこと等により損害は既に填補されたとして,控訴人の請求を棄却したことから,控訴人が控訴を提起した。』(2頁)

<経緯>

R01.09 本件掲載誌(令和元年10月号)発行
R01.09 原告が編集者宛てに和解についてメール送信
R01.11 令和元年12月号に謝罪文掲載
R02.02 川口簡易裁判所に提訴、さいたま地裁に移送

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■判決内容

<争点>

1 同一性保持権侵害性

原審では、本件変更箇所(投稿文と題号部分の7か所)について、投稿者の同意の範囲外であるなどとして本件変更と本件頒布について、同一性保持権を侵害する不法行為の成立を認めていました。
控訴審では、本件変更箇所5が同意の範囲内であるとの判断をしていますが、結論として、本件変更が控訴人の同意の範囲を超えるもので被控訴人に重過失があったと判断。被控訴人による本件変更をしての本件頒布が、本件控訴人投稿文に係る控訴人の著作者人格権を侵害する不法行為に当たると判断しています(10頁以下)。

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2 損害論

原審では、本件月刊誌に謝罪文が掲載されたことなどで損害は既に填補されたとして損害の発生を認めませんでした。
これに対して、控訴審では、10万円の慰謝料が認定されています(16頁以下)。

結論として、原審の全部棄却の判断が一部変更されています。

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■コメント

月刊紙の投稿応募規定には編集者側で一定の手直しが加わることがアナウンスされていましたが、それを超える内容の変更だったとして、慰謝料まで認められた事案となります。
雑誌投稿企画の内容によってケースバイケースかと思いますが、編集手直し規定があったとしても、さすがに投稿者の意見が逆になるような変更は、同意の範囲外で認められないものとなります。本件では、投稿者の意見の主旨に反する変更がされたようです(14頁以下)。
月刊紙に掲載された謝罪文が、「10月号当欄にX氏の寄稿を掲載する際,編集上の不手際があり,本来の文意を損ねてしまいました。X氏にお詫び申し上げます」(3頁)といったことからも、単純な校正のレベルでもないし、要約でもなかったかと思われます。