最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

ジャスラック対音楽教室事件(控訴審)

知財高裁令和3.3.18令和2(ネ)10022音楽教室における著作物使用にかかわる請求権不存在確認請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 菅野雅之
裁判官    本吉弘行
裁判官    中村 恭

*裁判所サイト公表 2021.4.8
*キーワード:演奏権、音楽教室、ジャスラック

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■事案

音楽教室における演奏権使用料の徴収を巡るジャスラックとの紛争事案(控訴審)

控訴人(1審原告) :音楽教室ら
被控訴人(1審被告):ジャスラック

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■結論

原判決一部変更

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■争点

条文 著作権法22条

1 確認の利益の有無
2 「公衆」性
3 「聞かせることを目的」性
4 2小節以内の演奏と演奏権の関係
5 演奏権の消尽の成否
6 録音物再生に係る実質的違法性阻却事由の有無
7 権利濫用の成否

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■事案の概要

『本件は,教室又は生徒の居宅において音楽の基本や楽器の演奏技術・歌唱技術(以下「演奏技術等」という。)を教授する音楽教室を運営する控訴人ら(法人又は個人の事業者)が,著作権等管理事業法(平成12年法律第131号)に基づく文化庁長官の登録を受けた著作権管理事業者である被控訴人に対し,被控訴人が本件口頭弁論終結時に管理する全楽曲(被告管理楽曲)に関して,各控訴人が生徒との間で締結した音楽の教授及び演奏(歌唱を含む。)技術の教授に係る契約(本件受講契約)に基づき行われるレッスンにおける,控訴人らの教室又は生徒の居宅内においてした被告管理楽曲の演奏又は歌唱(以下,単に「演奏」という。)について,本件口頭弁論終結時,被控訴人が控訴人らに対して著作権(演奏権)侵害に基づく損害賠償請求権又は著作物利用料相当額の不当利得返還請求権をいずれも有していないことの確認を求める事案である。』

『原判決は,個人教室を運営する各控訴人(別紙C)らについても確認の利益があることを認めた上で,全ての控訴人らとの関係で,(1)音楽教室事業者である控訴人らは,音楽著作物である被告管理楽曲の利用主体である,(2)教室内にいる生徒は「公衆」である,(3)教師は,著作権法22条にいう「公衆」である生徒に対し,生徒は,「公衆」である他の生徒又は演奏している自分自身に対し,「直接(中略)聞かせることを目的」として演奏をしている,(4)2小節以内の演奏であっても音楽著作物の利用であるとし,(5)控訴人らの,演奏権の消尽,実質的違法性阻却事由及び権利濫用の主張をいずれも排斥し,被控訴人の控訴人らに対する著作権侵害に基づく損害賠償請求権及び不当利得返還請求権のいずれの存在も認めて,控訴人らの請求をいずれも棄却した。控訴人らは,原判決を不服として,本件控訴を提起した。』
(2頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 確認の利益の有無

原審同様、確認の利益が認められています(27頁)。

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2 「公衆」性

控訴審は、著作権法第22条の演奏の意義や同条の立法経緯について言及したうえで、著作物の利用主体の判断基準に関してロクラク2最高裁判決(最判平成23年1月20日最高裁平成21年(受)788)に触れて「音楽教室における演奏の主体の判断に当たっては,演奏の対象,方法,演奏への関与の内容,程度等の諸要素を考慮し,誰が当該音楽著作物の演奏をしているかを判断するのが相当である」とあると説示しています(27頁以下)。

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3 「聞かせることを目的」性

著作権法22条「聞かせることを目的」について、控訴審は、「演奏が行われる外形的・客観的な状況に照らし,演奏者に「公衆」に演奏を聞かせる目的意思があったと認められる場合をいい,かつ,それを超える要件を求めるものではないと解するのが相当である」と判断しています(30頁)。

そして、公衆性及び「聞かせることを目的」性の判断から、演奏権の行使となるのは演奏者が、

(1)面前にいる個人的な人的結合関係のない者に対して、又は面前にいる個人的な結合関係のある多数の者に対して
(2)演奏が行われる外形的・客観的な状況に照らして演奏者に上記(1)の者に演奏を聞かせる目的意思があったと認められる状況で演奏をした場合であると判断。
本件においては一つの教室における演奏行為があった時点の教師又は生徒をとらえて「公衆」であるか否かを論じる必要があるとしたうえで、

(A)教師による演奏行為

教師がした演奏の主体は、規範的観点に立てば音楽教室運営者である控訴人らであるとしたうえで、音楽教室事業者である控訴人らからみて、その生徒は、その人数に関わりなくいずれも「不特定」の者に当たり、「公衆」になるというべきであると判断。
そして、控訴人らの音楽教室におけるレッスンは、公衆である生徒に対し聞かせる目的で行われていることは明らかであると判断。
結論として、教師による演奏については、その行為の本質に照らして本件受講契約に基づき教授義務を負う音楽行為事業者が行為主体となり、不特定の者として「公衆」に該当する生徒に対して「聞かせることを目的」として行われるものと判断されています。

(B)生徒による演奏行為

控訴審は、「生徒は,専ら自らの演奏技術等の向上のために任意かつ自主的に演奏を行っており,控訴人らは,その演奏の対象,方法について一定の準備行為や環境整備をしているとはいえても,教授を受けるための演奏行為の本質からみて,生徒がした演奏を控訴人らがした演奏とみることは困難といわざるを得ず,生徒がした演奏の主体は,生徒であるというべきである」として、生徒の演奏によっては、控訴人らは被控訴人に対して演奏権侵害に基づく損害賠償債務又は不当利得返還債務のいずれも負わないと判断されています(39頁以下)。

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4 2小節以内の演奏と演奏権の関係

控訴人らは、音楽教室における2小節以内の演奏については、短すぎるため、どの楽曲を演奏しているかを特定することができず、著作者の個性が発揮されているということはできないから著作物に当たらず、このような演奏については演奏権が行使されたとはいえない旨主張しましたが、控訴審は認めていません(45頁)。

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5 演奏権の消尽の成否

結論として、原審同様、控訴人らがレッスンで用いる楽曲について演奏権は消尽していないと控訴審でも判断されています(45頁以下)。

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6 録音物再生に係る実質的違法性阻却事由の有無

原審同様、音楽教室における音楽著作物の録音物の再生については、演奏権侵害の実質的違法性が阻却されるものではないと控訴審でも判断されています(47頁以下)。

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7 権利濫用の成否

結論として、原審同様、被控訴人が音楽教室における演奏について著作物使用料を徴収することは権利の濫用には当たらないと控訴審でも判断されています(48頁以下)。

結論として、主位的請求については、被控訴人は控訴人らに対して音楽教室におけるレッスン中の教師による被告管理楽曲の演奏について、著作権侵害に基づく損害賠償請求権又は不当利得返還請求権を有すること、予備的請求については、被控訴人は控訴人らに対して音楽教室におけるレッスン中の生徒による被告管理楽曲の演奏について、著作権侵害に基づく損害賠償請求権又は不当利得返還請求権のいずれも有しないとして、主位的請求に係る本件控訴は棄却、予備的請求の一部について理由があるとして、原判決一部変更とされています。

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■コメント

原判決が一部変更となりました。理論的な判断部分はともかくとして、控訴審と原審での判断の異なる部分がジャスラックの徴収現場にどのように影響するか、実務に影響しない運用が求められます。

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■過去のブログ記事

東京地裁令和2.2.28平成29(ワ)20502等
原審記事

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■参考サイト

音楽教育を守る会
声明文、判決文

ジャスラックプレスリリース
「音楽教室における請求権不存在確認訴訟(控訴審)の判決について」
記事
2021/3/18

「音楽教室における請求権不存在確認訴訟に関する上告等について」
記事
2021/3/31

「カラオケ法理の拡張傾向に一石投じた? JASRAC「一部敗訴」の控訴審判決を読み解く」
記事
2021/3/25 10:30 ヤフーニュース/弁護士ドットコムニュース

小倉秀夫「音楽教室事件高裁判決について」
2021/03/22 21:23
前編
2021/03/25 12:37
後編

「音楽教室vsJASRACの訴訟から考える…「生徒による演奏」は教育か、それとも商売か」
記事
2021.03.19 18:21 アメーバタイムズ(ABEMA/『ABEMA Prime』)

栗原潔「音楽教室対JASRAC控訴審の判決について(追記あり)」
記事
2021/3/18 14:03 ヤフーニュース

企業法務戦士の雑感〜Season2「知財高裁の緻密さが引き出したロクラク極〕の正しい使い方〜音楽教室 vs JASRAC 控訴審判決当日の読後感。」
記事
2021/3/18