最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
Facebook「埋め込み投稿」機能事件
大阪地裁令和2.10.6令和1(ワ)7252発信者情報開示請求事件PDF
別紙1
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 谷 有恒
裁判官 杉浦一輝
裁判官 島村陽子
*裁判所サイト公表 2020.11.02
*キーワード:発信者情報開示請求、フェイスブック、埋め込み投稿機能、黙示の同意、引用
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■事案
Facebookに掲載した記事が無断転載されたとして発信者情報開示請求がされた事案
原告:NPO法人代表理事
被告:プロバイダ
--------------------
■結論
請求認容
--------------------
■争点
条文 著作権法21条、23条、32条、20条、プロバイダ責任制限法4条1項
1 著作権侵害性
2 権利侵害の明白性
3 開示を受けるべき正当な理由の存否
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■事案の概要
『本件は,原告が,氏名不詳者(以下「本件投稿者」という。)によりインターネット上のブログ記事として投稿された別紙投稿記事目録記載第1ないし7の投稿記事(以下,同目録の番号に合わせて「本件記事1」などといい,本件記事1ないし7を総称して「本件各記事」という。)は,原告が著作権を有する別紙原告投稿内容目録記載第1ないし7の投稿内容(以下,同目録の番号に合わせて「原告投稿1」などといい,原告投稿1ないし7を総称して「原告各投稿」という。)の全部もしくは一部を転載したものであり,本件投稿者の行為は,原告各投稿に係る原告の著作権(複製権,送信可能化権)及び著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権等)を侵害することは明らかであると主張して,本件各記事が投稿されたウェブサイト(以下「本件ウェブサイト」という。)が設置されていたウェブサーバーの管理者である被告に対し,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき,別紙発信者情報目録記載の情報の開示を求める事案である。』
(2頁)
<経緯>
H30.12 原告が原告投稿1を投稿
H30.12 本件投稿者が本件記事1を投稿
R01.06 原告が投稿記事削除等仮処分命令申立て
本件投稿者が本件各記事及び本件ウェブサイトを削除
R02.01 本件投稿者が上申書提出
R02.04 本件投稿者が上申書(2)提出
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■判決内容
<争点>
1 著作権侵害性
(1)複製権、公衆送信権侵害性
氏名不詳者による本件各記事は、いずれも独自のタイトルを付したり、原告各投稿との区別が不明瞭な形で本件コメント部分を付け加えたり、一部の文章を削除し写真を付け加えたり、行間を広げたり、一部の文字を太くしたものであるとして、裁判所は本件各記事は原告各投稿を改変したものと認定しています(20頁以下)。
(2)原告の承諾の有無
本件投稿者は、フェイスブック上の「埋め込み投稿」の機能を用いて本件ウェブサイトに転載していたことから、被告は、フェイスブックの利用者の一般的な目的が投稿を広めることにあり、他の利用者が「埋め込み投稿」の機能を利用して外部のウェブサイトに投稿を転載することを許容する設定になっている投稿記事については、当該投稿記事が外部に広く転載されることについて、投稿者の黙示の承諾があるとみなすことができる、と主張しました(27頁以下)。
この点について、裁判所は、本訴訟において原告が問題としているのは原告各投稿を埋め込み表示したことではなくて、原告各投稿の一部又は全部を本件各記事に転載した点であると判断。
そして、原告がフェイスブック上で「埋め込み投稿」を許容する設定にしていたからといって、原告各投稿の内容をいかなる形で利用することをも承諾していたと解することはできず、「埋め込み投稿」の利用を超える転載については、公表された著作物の引用(著作権法32条1項)の法理によってその適否を判断すべきであると判断しています。
(3)引用の成否
本件投稿者は、原告各投稿を本件各記事に転載するに当たって、本件投稿者が記載した本件コメント部分との区別を明確にしておらず、また、本件転載部分の出所を明示しないことによってタイトル、本件コメント部分及び本件転載部分を一つのまとまりとして記載させるようにしており、原告各投稿を改変したと裁判所は判断。
公正な慣行に合致した正当な範囲内での引用(32条1項)に当たるということはできず、また、このような態様で原告各投稿を利用することについて、原告の承諾があるということもできないと判断しています(28頁以下)。
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2 権利侵害の明白性
(1)著作権、著作者人格権の侵害の明白性
裁判所は、著作権侵害(複製権侵害、公衆送信権侵害)の成立は明白であると判断しています(29頁以下)。
また、著作者人格権侵害(同一性保持権侵害)の明白性も肯定しています。
(2)故意、過失の立証責任
被告は、開示請求者である原告には責任阻却事由の不存在を含む権利侵害の明白性を主張、立証する責任があり、本件投稿者には原告による転載の承諾があったと誤認してもやむを得ない状況にあったことから、本件各記事による権利侵害について故意、過失がなかった、と主張しました(30頁以下)。
この点について、裁判所は、プロバイダ責任制限法4条1項1号の「明らか」の意義について、法律の趣旨などから、不法行為の成立を阻却する事由の存在をうかがわせるような事情が存在しないことまでを意味するものと説示。
そのうえで、民法709条の規定と比較して、同号の規定には「故意又は過失により」との不法行為の主観的要件が定められていなこと、また、発信者が特定されていない段階において、主観的要件に係る阻却事由についてまでも原告にその不存在についての主張、立証の負担を負わせることは相当ではないとして、原告はその不存在についての主張、立証をするまでの必要性はないと判断しています。
結論として、原告は、本件投稿者が本件各記事が原告の著作権及び著作者人格権を侵害するものであることについて、故意、過失があったことの主張、立証をすることを要しないと裁判所は判断しています。
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3 開示を受けるべき正当な理由の存否
本件投稿者は、令和2年1月24日付けの上申書においては全面的に原告の主張を争っていること、また、本件各記事を公開するに至った目的や経緯の詳細を明らかにしていないことなどから、今後再び同様の投稿を行うおそれが一定程度存在すると裁判所は判断。
原告は、本件投稿者に対して将来の差止めを請求する意向であるところ、その前提として本件投稿者を特定することは必要不可欠であり、原告には差止請求権等の行使のために本件投稿者の発信者情報の開示を受けるべき正当な理由が認められると裁判所は判断しています(31頁以下)。
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■コメント
フェイスブック以外の外部のウェブサイトに記事へのリンクを貼る形で転載することができる機能である「埋め込み投稿」機能の設定と原告の黙示の承諾論、引用の肯否などの議論は、先般のTwitterリツイート最高裁判決(最高裁判所令和2.7.21平成30(受)1412発信者情報開示請求事件)もあって、SNSのプラットフォームの機能と表現の自由との関係を考える上で参考になるところです。
Facebook「埋め込み投稿」機能事件
大阪地裁令和2.10.6令和1(ワ)7252発信者情報開示請求事件PDF
別紙1
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 谷 有恒
裁判官 杉浦一輝
裁判官 島村陽子
*裁判所サイト公表 2020.11.02
*キーワード:発信者情報開示請求、フェイスブック、埋め込み投稿機能、黙示の同意、引用
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■事案
Facebookに掲載した記事が無断転載されたとして発信者情報開示請求がされた事案
原告:NPO法人代表理事
被告:プロバイダ
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■結論
請求認容
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■争点
条文 著作権法21条、23条、32条、20条、プロバイダ責任制限法4条1項
1 著作権侵害性
2 権利侵害の明白性
3 開示を受けるべき正当な理由の存否
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■事案の概要
『本件は,原告が,氏名不詳者(以下「本件投稿者」という。)によりインターネット上のブログ記事として投稿された別紙投稿記事目録記載第1ないし7の投稿記事(以下,同目録の番号に合わせて「本件記事1」などといい,本件記事1ないし7を総称して「本件各記事」という。)は,原告が著作権を有する別紙原告投稿内容目録記載第1ないし7の投稿内容(以下,同目録の番号に合わせて「原告投稿1」などといい,原告投稿1ないし7を総称して「原告各投稿」という。)の全部もしくは一部を転載したものであり,本件投稿者の行為は,原告各投稿に係る原告の著作権(複製権,送信可能化権)及び著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権等)を侵害することは明らかであると主張して,本件各記事が投稿されたウェブサイト(以下「本件ウェブサイト」という。)が設置されていたウェブサーバーの管理者である被告に対し,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき,別紙発信者情報目録記載の情報の開示を求める事案である。』
(2頁)
<経緯>
H30.12 原告が原告投稿1を投稿
H30.12 本件投稿者が本件記事1を投稿
R01.06 原告が投稿記事削除等仮処分命令申立て
本件投稿者が本件各記事及び本件ウェブサイトを削除
R02.01 本件投稿者が上申書提出
R02.04 本件投稿者が上申書(2)提出
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■判決内容
<争点>
1 著作権侵害性
(1)複製権、公衆送信権侵害性
氏名不詳者による本件各記事は、いずれも独自のタイトルを付したり、原告各投稿との区別が不明瞭な形で本件コメント部分を付け加えたり、一部の文章を削除し写真を付け加えたり、行間を広げたり、一部の文字を太くしたものであるとして、裁判所は本件各記事は原告各投稿を改変したものと認定しています(20頁以下)。
(2)原告の承諾の有無
本件投稿者は、フェイスブック上の「埋め込み投稿」の機能を用いて本件ウェブサイトに転載していたことから、被告は、フェイスブックの利用者の一般的な目的が投稿を広めることにあり、他の利用者が「埋め込み投稿」の機能を利用して外部のウェブサイトに投稿を転載することを許容する設定になっている投稿記事については、当該投稿記事が外部に広く転載されることについて、投稿者の黙示の承諾があるとみなすことができる、と主張しました(27頁以下)。
この点について、裁判所は、本訴訟において原告が問題としているのは原告各投稿を埋め込み表示したことではなくて、原告各投稿の一部又は全部を本件各記事に転載した点であると判断。
そして、原告がフェイスブック上で「埋め込み投稿」を許容する設定にしていたからといって、原告各投稿の内容をいかなる形で利用することをも承諾していたと解することはできず、「埋め込み投稿」の利用を超える転載については、公表された著作物の引用(著作権法32条1項)の法理によってその適否を判断すべきであると判断しています。
(3)引用の成否
本件投稿者は、原告各投稿を本件各記事に転載するに当たって、本件投稿者が記載した本件コメント部分との区別を明確にしておらず、また、本件転載部分の出所を明示しないことによってタイトル、本件コメント部分及び本件転載部分を一つのまとまりとして記載させるようにしており、原告各投稿を改変したと裁判所は判断。
公正な慣行に合致した正当な範囲内での引用(32条1項)に当たるということはできず、また、このような態様で原告各投稿を利用することについて、原告の承諾があるということもできないと判断しています(28頁以下)。
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2 権利侵害の明白性
(1)著作権、著作者人格権の侵害の明白性
裁判所は、著作権侵害(複製権侵害、公衆送信権侵害)の成立は明白であると判断しています(29頁以下)。
また、著作者人格権侵害(同一性保持権侵害)の明白性も肯定しています。
(2)故意、過失の立証責任
被告は、開示請求者である原告には責任阻却事由の不存在を含む権利侵害の明白性を主張、立証する責任があり、本件投稿者には原告による転載の承諾があったと誤認してもやむを得ない状況にあったことから、本件各記事による権利侵害について故意、過失がなかった、と主張しました(30頁以下)。
この点について、裁判所は、プロバイダ責任制限法4条1項1号の「明らか」の意義について、法律の趣旨などから、不法行為の成立を阻却する事由の存在をうかがわせるような事情が存在しないことまでを意味するものと説示。
そのうえで、民法709条の規定と比較して、同号の規定には「故意又は過失により」との不法行為の主観的要件が定められていなこと、また、発信者が特定されていない段階において、主観的要件に係る阻却事由についてまでも原告にその不存在についての主張、立証の負担を負わせることは相当ではないとして、原告はその不存在についての主張、立証をするまでの必要性はないと判断しています。
結論として、原告は、本件投稿者が本件各記事が原告の著作権及び著作者人格権を侵害するものであることについて、故意、過失があったことの主張、立証をすることを要しないと裁判所は判断しています。
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3 開示を受けるべき正当な理由の存否
本件投稿者は、令和2年1月24日付けの上申書においては全面的に原告の主張を争っていること、また、本件各記事を公開するに至った目的や経緯の詳細を明らかにしていないことなどから、今後再び同様の投稿を行うおそれが一定程度存在すると裁判所は判断。
原告は、本件投稿者に対して将来の差止めを請求する意向であるところ、その前提として本件投稿者を特定することは必要不可欠であり、原告には差止請求権等の行使のために本件投稿者の発信者情報の開示を受けるべき正当な理由が認められると裁判所は判断しています(31頁以下)。
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■コメント
フェイスブック以外の外部のウェブサイトに記事へのリンクを貼る形で転載することができる機能である「埋め込み投稿」機能の設定と原告の黙示の承諾論、引用の肯否などの議論は、先般のTwitterリツイート最高裁判決(最高裁判所令和2.7.21平成30(受)1412発信者情報開示請求事件)もあって、SNSのプラットフォームの機能と表現の自由との関係を考える上で参考になるところです。