最高裁判所HPより

チェブラーシカぬいぐるみライセンス事件

東京地裁令和2.6.25平成30(ワ)18151損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 田中孝一
裁判官    横山真通
裁判官    奥 俊彦

*裁判所サイト公表 2020.−−−−
*キーワード:キャラクター商品化許諾契約、二重ライセンス、独占的利用権侵害

   --------------------

■事案

ロシア児童文学のキャラクター「チェブラーシカ」のライセンス契約を巡ってライセンシー間で独占的利用権限の侵害の有無が争われた事案

原告:アニメ製作会社(アメリカ法人)
被告:キャラクター商品企画有限責任事業組合(LLP)

   --------------------

■結論

請求棄却

   --------------------

■争点

条文 著作権法

1 原告の被告に対する損害賠償請求の成否

   --------------------

■事案の概要

『本件は,原告が,被告において「チェブラーシカ」等の劇場用アニメ映画で描写された登場人物としてのキャラクターを利用したぬいぐるみ,トートバック等多数の商品を販売する行為が,原告の上記キャラクターに関する著作物に係る独占的利用権を侵害すると主張して,被告に対し,民法709条,著作権法114条3項に基づき損害賠償金1億1000万円(うち1000万円は弁護士費用)及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。』(2頁)

<経緯>

H17 訴外テレビ東京ブロードバンド株式会社(TXBB)がロシア企業(SMF)と契約
H24 被告組合設立
H25 被告とSMFが条件の協議
H26 SMFが香港法人とライセンス契約
H27 SMFがTXBBに対して更新拒絶、TXBBが被告組合を脱退
H28 原告とSMFがライセンス契約

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 原告の被告に対する損害賠償請求の成否

キャラクター商品化許諾契約におけるライセンシーである独占的利用権者が、契約外の第三者に対して損害賠償請求をすることができる場合に関して、裁判所は、独占的利用権者が商品市場における販売利益を独占的に享受し得る地位にあるといった事実状態に基づいて享受する利益について、一定の法的保護が与えられるべきである、と示したした上で、

「現に商品化権の権利者から唯一許諾を受けた者として当該キャラクター商品を市場において販売しているか,そうでないとしても,商品化権の権利者において,利用権者の利用権の専有を確保したと評価されるに足りる行為を行うことによりこれに準じる客観的状況を創出しているなど,当該利用権者が契約上の地位に基づいて上記商品化権を専有しているという事実状態が存在するといえることが必要」であると判断。そして、

・原告は、本件原告ライセンス契約に基づいて本件キャラクターを付すなどにより本件キャラクターを利用した商品を日本において独占的に販売するなど、自ら当該商品化権を専有しているという事実状態を生じさせていない

・SMFは、被告ないしTXBB等に対して権利侵害に係る警告、利用行為の差止請求や損害賠償請求、原告からサブライセンスを受けるよう求める通告等をいずれも行っていない

・SMFは、本件訴訟提起の前後を通じて、原告が被告とサブライセンス契約の締結交渉を企図する中で原告から求めがあったにもかかわらず、原告が本件キャラクターの独占的利用権を有することを書面などにより明確にする等の具体的な対応を一切とっていない

・SMFは、被告に対して利用権を被告と原告の双方に設定した、いわば二重譲渡の状態にあることを認めつつ、被告の利用権を優先させるかのような姿勢を見せていた

・SMFは、契約更新期前の時期に、被告との間で被告への利用権設定に向けての交渉や被告映画の販売交渉等に係る合意を行い、また、訴外香港法人に対し本件キャラクターの利用権を付与するなどの状態があった

こうした諸事情を踏まえ、裁判所は、ライセンサーであるSMFによって利用権者である原告の利用権の専有を確保したと評価されるに足りる行為が行われたとはいえず、SMFによって原告が現にSMFから唯一許諾を受けた者として当該キャラクター商品を市場において販売している状況に準じるような客観的状況が創出されているなど、原告が契約上の地位に基づいて上記商品化権を専有しているという事実状態が存在しているということはできないと判断。

結論として、原告は被告に対して独占的利用権が侵害されたとして損害賠償請求をすることはできないと裁判所は判断しています(16頁以下)。

   --------------------

■コメント

チェブラーシカは、1966年、ロシアの児童文学家エドゥアルド・ウスペンスキーの『わにのゲーナ』で初登場したロシアの国民的キャラクターだそうです(被告サイトより https://www.cheburashka.jp/about)。
愛くるしいぬいぐるみなどは日本でも良く知られているのではないでしょうか。

原作者からライセンスを受けたロシア企業との間で(サブ)ライセンス契約を締結したライセンシーが複数あり、いわば二重ライセンスの状態の中で、ライセンシー間での損害賠償請求の肯否が争われた事案となります。

判決文を読む限りでは、早々のTXBB社の撤退、ロシア企業の対応などから、契約交渉も難しい事情が色々とあったのではないかと推察されるところです。

特許法と違って、物権的効果を持つ専用実施権のようなものが出版権のほかは著作権法にはないわけですが、本事例はライセンス契約上の独占的利用権が衝突する場合の裁判所の判断として参考になります。
なお、令和2年の著作権法改正で、当然対抗制度が導入されました(10月1日施行)。

   --------------------

■参考判例

漫画原作作品の独占的利用許諾契約に関連して紛争となった事案として
「子連れ狼」独占的利用許諾契約事件(控訴審)
知財高裁平成29.9.28平成27(ネ)10057等損害賠償請求控訴事件 記事

   --------------------

■参考文献

中山信弘『著作権法第三版』(2020)528頁以下


*最高裁判所のサイトの知財判例の掲載ですが、コロナ禍の影響で4月以降停滞、再開はしたものの、特許権や商標権に関する審決取消請求事件などがアップされてはいますが、著作権事件については滞っている状況が続いています。