最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「トスカーナの女」彫刻作品無断複製事件

大阪地裁令和2.1.14平成30(ワ)7538損害賠償請求事件PDF

大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 谷 有恒
裁判官    野上誠一
裁判官    島村陽子

*裁判所サイト公表 2020.1.31
*キーワード:美術品、贋作、損害論

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■事案

彫刻家富永直樹のブロンズ像を無許諾複製販売した事案

原告:彫刻家遺族長男
被告:美術工芸品販売業者

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法114条3項

1 被告が「トスカーナの女」を複製したか否か及びその数
2 訴外直樹及び原告の損害の額

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■事案の概要

『本件は,著名な彫刻家である故富永直樹(以下「訴外直樹」という。)の単独相続人である原告が,被告において訴外直樹の作品を複製した行為が,訴外直樹の著作権(複製権)の侵害行為に当たるとして,被告に対し,著作権法114条3項,民法709条に基づく損害賠償(原告が相続した訴外直樹の損害賠償請求権及び相続後の原告固有の損害賠償請求権)として,1億2580万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成30年9月14日(本件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。』
(1頁以下)

<経緯>

H16  被告が作品を無許諾複製
H18.4 富永直樹死去、原告が相続
H29.3 被告が刑事訴追。罰金刑確定

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■判決内容

<争点>

1 被告が「トスカーナの女」を複製したか否か及びその数

被告は富永直樹の彫刻作品である「トスカーナの女」を製造したことを否認しましたが、結論として、裁判所は、複製を認め、その複製数は5体であると認定しています(7頁以下)。

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2 訴外直樹及び原告の損害の額

結論として、裁判所は、6作品について、許諾料相当額として合計6290万円の損害額を認定しています。

「クリスマス・イブ」(小)30万円 39体
「パリ祭」75万円 20体
「初舞台」40万円 16体
「大将の椅子」90万円 17体
「トルコの貴婦人」75万円 11体
「トスカーナの女」125万円 5体

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■コメント

作家が制作した原型を鋳物としてロウで型をとって鋳型を製造し、原型と同じものをブロンズで複製する鋳造法(ロストワックス鋳造法)で無断複製、販売を繰り返していた業者の事案です。
刑事事件にもなっている事案ですが、物故作家の美術品贋作販売の際の損害額の算定について裁判所の判断が参考になる事案です。

過去の報道によると、岡本太郎、佐藤忠良の作品の贋作製造も行っていたようです。
故富永直樹氏のブロンズ像を無断で複製と販売、2億円賠償請求(2018.10.15 18:51サンスポ)
鋳造、着色をしていたのは、富山県高岡市(高岡銅器)の製造業者らのようで、高岡銅器のブランド毀損にもなります。

なお、彫刻家富永直樹の作品が出身地の長崎の県立美術館に収蔵されています。
長崎県美術館 富永直樹
長崎県美術館収蔵123件のうち、本事案で対象になった作品としては、「大将の椅子」(1984年)、「クリスマス・イヴ」(1989年)、「初舞台」(1995年)が収蔵されていることが分かります。