最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

音楽雑貨商品写真事件

東京地裁令和1.9.18平成30(ワ)14843著作権侵害差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 山田真紀
裁判官    矢野紀夫
裁判官    西山芳樹

*裁判所サイト公表 2019.−−
*キーワード:写真、著作物性、損害論

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■事案

音楽雑貨の商品写真の著作物性などが争点となった事案

原告:音楽雑貨販売会社
被告:楽器等販売会社

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、23条、112条2項、114条3項

1 本件各写真の著作物性
2 著作権侵害性
3 データの廃棄に係る報告、紙媒体による侵害の有無に係る調査及び報告の必要性
4 損害論
5 返還すべき果実又は不当利得の存否及びその額
6 謝罪広告の必要性

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■事案の概要

『本件は,原告が,原告代表者によりその職務上撮影された別紙2原告写真目録記載1ないし61の各写真(以下,番号順に「本件写真1」などといい,これらを一括して「本件各写真」という。)は著作物であり,被告において,本件各写真を複製し,その複製物である別紙3被告写真目録記載1ないし156の各写真(以下,番号順に「被告写真1」などといい,これらを一括して「被告各写真」という。また,本件各写真と被告各写真を併せて「本件各写真等」という。)を運営するウェブサイトに掲載して公衆送信して原告の著作権(複製権又は翻案権,公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権)を侵害したなどと主張して,被告に対し,(1)著作権法112条1項に基づき,本件各写真等の複製,改変,公衆送信の差止め(請求の趣旨1項),(2)同条2項に基づき,本件各写真等のデータの廃棄,その実態の報告,紙媒体による著作権侵害の調査,報告(請求の趣旨2項,3項),(3)民法709条(対象期間は平成28年7月26日から平成30年1月25日までである。)に基づき,損害金51万0600円(著作権侵害につき46万3800円,著作者人格権侵害につき4万6800円の各損害金の合計額)及びこれに対する平成30年2月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払(請求の趣旨5項),(4)主位的に民法190条1項に基づき,予備的に同法703条,704条(いずれの請求も対象期間は上記(3)と同じである。)に基づき,73万9497円及びこれに対する平成30年1月31日から支払済みまで商事法定利率である年6分の割合による遅延損害金又は民法704条前段所定の利息の支払(請求の趣旨6項),(5)著作権法115条に基づき,被告の運営するウェブサイトへの謝罪広告の掲載(請求の趣旨4項)を求める事案である。』
(2頁以下)

<経緯>

H20.08 本件各写真を原告代表者が制作
H30.01 原告が被告に内容証明郵便通知

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■判決内容

<争点>

1 本件各写真の著作物性

ネクタイ、コインケース、動物等の置物、フロアマットといった商品を撮影した本件各写真の著作物性について、裁判所は、「いずれも,商品の特性に応じて,被写体の配置,構図・カメラアングルの設定,被写体と光線との関係,陰影の付け方,背景等の写真の表現上の諸要素につき相応の工夫がされており,撮影者の思想又は感情が創作的に表現されているということができる。」(8頁)としてそれらの著作物性(著作権法2条1項1号)を肯定しています。

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2 著作権侵害性

裁判所は、被告による被告ウェブサイトでの画像の掲載について、原告の本件各写真に関する複製権、公衆送信権、氏名表示権を侵害すると判断。また、今後の被告による侵害のおそれもあると認定しています(10頁以下)。

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3 データの廃棄に係る報告、紙媒体による侵害の有無に係る調査及び報告の必要性

原告は、112条2項に定める著作権等の侵害の予防に必要な措置として本件各写真等のデータの廃棄に加えて、その実態の報告、紙媒体による侵害の有無に係る調査及び報告を求めました。
この点について、裁判所は、本件各写真等のデータの廃棄を超えて被告にそのような調査及び報告をさせることが本件各写真等の複製及び公衆送信に係る差止請求権の実現のために必要な範囲内のものであるとはいえないとして、調査及び報告の必要性を認めていません(13頁)。

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4 損害論

裁判所は、写真1枚あたり5000円として使用料相当額の損害額を算定しています(114条3項)。
5000円×61枚=30万5000円

なお、氏名表示権侵害の部分については、原告主張の限りで損害を認めていません(13頁以下)。

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5 返還すべき果実又は不当利得の存否及びその額

原告は、被告は原告の著作物である本件各写真を悪意によって占有し、これを被告各写真として被告ウェブサイトで公開したことによって本件各商品の受注利益を得たとして、主位的に民法190条1項に基づいて、予備的に同法703条、704条に基づいて73万9497円等の支払を求めました。
この点について、裁判所は、本件各写真の占有又は利用によって被告が受注利益に相当する果実又は利得を得たと認めることはできないと判断。原告の主張を認めていません(15頁)。

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6 謝罪広告の必要性

原告は、被告の行為により原告の名誉感情が侵害されたなどとして、115条所定の名誉回復等の措置として被告ウェブサイトへの謝罪広告の掲載の必要を求めましたが、裁判所は認めていません(15頁)。

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■コメント

原告の(運営と思われる)サイトを拝見すると、音楽に関連する雑貨、バッグであるとか文具、爪切りまで、豊富な商品取扱いラインナップです。
商品検索が「音楽モチーフ」でも可能で、例えば「ト音記号」だと、ト音記号のついたご祝儀袋まで出てきます。
ウェブ広告での商品写真の著作物性については、先例としてスメルゲット事件(知財高裁平成18年3月29日判決平成17年(ネ)第10094号請負代金請求控訴事件)があり、今回の事件では本件各写真61点の画像の添付が判決文にはないのではっきりとはしませんが、原告サイトの商品画像を見る限り、スメルゲット事件の商品画像よりは、ライティングや背景にも配慮がされているため、著作物性を肯定して問題ないと考えられるところです。
なお、すでに大手物販会社では半自動でこうした商品を流れ作業で撮影しており、また、社内での商品自動撮影システムがパッケージとして販売されており、特に一定の目的・形式・条件等がある写真の著作物性については、AI技術の進展との兼ね合いもあって、今後どう考えていくべきか、現状の判例のように低めで認めていって良いのか、考えさせられる部分です。