最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

サイト制作業務権利濫用事件

大阪地裁令和1.10.3平成30(ワ)5427著作権侵害差止等請求事件PDF
別紙1

大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 谷 有恒
裁判官    野上誠一
裁判官    島村陽子

*裁判所サイト公表 2019.10.11
*キーワード:サイト制作業務、保守管理業務、権利濫用

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■事案

ウェブサイトのリニューアル業務に関連して著作権の帰属や権利濫用の抗弁の成否が争点となった事案

原告:映像製作事業者
被告:研修教材販売会社ら

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法21条、27条、20条、民法1条3項、709条

1 複製権、翻案権侵害の成否
2 著作者人格権侵害の成否
3 一般不法行為論など

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■事案の概要

『本件は,原告が,「ライズ株式スクール」を運営していた被告ピー・エム・エー,その代表者である被告P3及びその取締役である被告P4,並びに被告P4が新たに設立した会社である被告インターステラー及びその取締役である被告P5に対し,原告が被告ピー・エム・エーから依頼を受けて作成した,同被告のウェブサイト
(1risekabu.com/ 以下「原告ウェブサイト」という。)を,被告らが無断で複製し,新たなウェブサイト(risekabu.com/ 別紙被告著作物目録記載1。以下「被告ウェブサイト」という。)及びこれと一体となった動画配信用のウェブサイト(https://plusone.socialcast.jp/ 別紙被告著作物目録記載2。以下「本件動画ウェブサイト」という。)を制作してインターネット上に公開したことが,原告の著作権及び著作者人格権の侵害並びにその他不法行為に当たると主張し,著作権法112条1項,2項に基づき,(1)被告ウェブサイト及び本件動画ウェブサイトの複製,翻案又は公衆送信の差止め,(2)被告ウェブサイト及び本件動画サイトの削除,並びに,(3)民法709条,719条,会社法429条1項に基づく損害賠償請求又は原告と被告ピー・エム・エーとの契約に基づく請求として,1260万円及びこれに対する不法行為の後の日又は請求日の翌日である平成30年7月14日(被告らに対する最終の訴状送達の日の翌日)から支払済みまでの遅延損害金の支払を請求する事案である。』
(1頁以下)

<経緯>

H27.10 被告が原告にサーバ移管業務発注
H28.04 被告が原告にサイト制作業務発注
H28.10 サイト公開
H29.12 サーバ更新費用未払いでサイト閲覧不可
H30.01 被告が新たにサイト制作、公開

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■判決内容

<争点>

1 複製権、翻案権侵害の成否

(1)原告ウェブサイトの制作による著作権の帰属

(ア)契約内容の合理解釈

裁判所は、ウェブサイトの制作について、原被告間で本件制作業務委託契約を締結し、例えば原告ウェブサイトの権利を原告に留保して原告が被告に使用を許諾し使用料を収受するといった形式をとっておらず、また、ウェブサイトの制作に対して対価324万円を支払う旨を約しており、原告がウェブサイトを制作して被告のウェブサイトとして公開された時点でその引渡しがあったものとして、ウェブサイトに係る権利は原告が制作したり購入したりした部分を含めて全体として被告(被告ピー・エム・エー)に帰属したと解するのが相当であると判断しています(30頁以下)。

(イ)保守業務委託契約の規定

本件保守業務委託契約には同契約に基づいて原告が制作したウェブサイトの著作権その他の権利が原告に帰属する旨の規定(14条2項)がありました。
この点について、裁判所は、同条項がその後に締結された本件制作業務委託契約に当然に適用されるわけではないと判断しています(32頁以下)。
また、本件制作業務委託契約に関連して、注文書の仕様欄には、全面リニューアル後の成果物の著作権その他の権利は制作者の原告に帰属するものとする旨の記載がありましたが、その点についての合意があったと認定されていません。

(ウ)権利濫用

裁判所は、仮にウェブサイトの一部に原告の著作物と認めるべき部分が存在する場合であったとしても、原告がその部分の著作権を理由に被告ウェブサイトに対する権利行使をすることは権利の濫用に当たり許されないと判断しています(33頁以下)。

結論として、被告ピー・エム・エーがウェブサイトを本件サーバから別のサーバに移転して被告ウェブサイトとして公開することや業務内容の変更等に応じてウェブサイトの記載内容を変更することについて、裁判所は、原告は著作権を主張することはできないものと解すべきであり、被告らに対する原告の著作権侵害に基づく請求は理由がないと判断しています。

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2 著作者人格権侵害の成否

原告は、被告らがウェブサイトの著作権を侵害する行為及び原告の同意を得ずに被告ウェブサイトを公表したこと、また、被告ウェブサイトに原告の氏名を表示しなかったこと、さらには被告ウェブサイトの「ログイン」ボタンを押すと本件動画ウェブサイトに遷移するようウェブサイトを改変したことが原告の著作者人格権を侵害すると主張しましたが、裁判所は認めていません(36頁)。

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3 一般不法行為論など

原告は、被告らの行為が一般不法行為及び不正競争防止法違反(営業秘密の不正使用)に当たると主張しましたが、裁判所は、具体的事実の主張はなされておらず、当該不法行為と本件における差止め・削除請求及び損害賠償請求との関係は判然とせず、また、営業秘密性についての立証もないとして、原告の主張を認めていません(36頁以下)。

そのほか、本件保守業務委託契約の未払報酬、本件制作業務委託契約の違約金又は未払金に関する損害賠償請求も認められていません。

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■コメント

契約書や注文書の規定には、受注側に著作権が留保されている内容の体裁となっていましたが、サイト制作の経緯やサイトの性質、また受注側である原告の不適切な対応などから、裁判所は書面の文言よりも取引実態に即した解釈を行って著作権の発注側への移転、あるいは、権利濫用の抗弁を肯定しています。
(なお、サイト制作による納品物の著作物性は判断されていません。)

ドメイン失効、サーバの更新費用の支払いを徒過しても一定期間内であれば復旧は可能ですが、通常、サイト制作業者は元データを納品後もある程度の期間は保持していると推察され、復旧作業にサイト制作と同額以上の報酬(434万円)を改めて要求するのは不合理な態度であると判断されても仕方がないと思われます。