金魚電話ボックス事件

奈良地裁令和元年7月11日平成30(ワ)466著作権に基づく差止等請求事件
裁判長裁判官 島岡大雄
裁判官    井上直樹
裁判官    植原美也子

*裁判所サイト未公表/個人サイト掲載 2019.7.11
*キーワード:著作物性

金魚電話ボックス問題と「メッセージ」
(ならまち通信社 2019年7月11日更新 作成:松永洋介)
判決文PDF
訴状PDF

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■事案

電話ボックスを金魚水槽にした作品の著作物性が争点となった事案

原告:美術作家
被告:商店街協同組合、地域振興団体代表者

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、21条

1 原告作品の著作物性
2 著作権侵害の有無

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■事案の概要

『本件は,原告が,被告組合及び「K−Pool Project」代表者である被告●●が制作し,又は展示した別紙被告作品目録記載の美術作品(以下「被告作品」という。)について,被告作品は別紙原告作品目録記載の美術作品(以下「原告作品」という。)を複製したものであって,原告の複製権,同一性保持権及び氏名表示権を侵害している旨主張して,(1)被告組合及び被告●●に対し,著作権法114条1項に基づき,被告作品の制作の差止めを求めるとともに,(2)被告組合に対し,同条2項に基づき,被告作品を構成する水槽及び公衆電話機の廃棄を求め,また,(3)被告組合及び被告●●に対し,不法行為に基づく損害賠償請求として330万円(同条3項による使用料相当額100万円,同一性保持権及び氏名表示権の各侵害による慰謝料100万円ずつと弁護士費用30万円との合計)及びこれに対する被告作品の設置日である平成26年2月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。』(2頁)

<経緯>

H12.12 原告が原告作品制作
H23.10 京都造形芸大の学生らが被告作品制作
H26.02 被告らが被告作品設置、管理

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■判決内容

<争点>

1 原告作品の著作物性

裁判所は、まず著作物性の意義(著作権法2条1項1号)に言及した上で、原告作品の基本的な特徴を検討。

(1)公衆電話ボックス様の造形物を水槽に仕立て、金魚を泳がせている点
(2)受話器部分を利用して気泡を出す仕組みの点

が特徴点であるが、いずれもアイデアの範疇であると判断しています(8頁以下)。
これに対して、公衆電話ボックス様の造形物の色・形状、内部に設置された公衆電話機の種類・色・配置等の具体的な表現においては創作性を認め得るとして、争点2において原告作品と被告作品の対比において検討をしています(9頁以下)。

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2 著作権侵害の有無

原告作品と被告作品の共通点としては、

(1)造作物内部に二段の棚板が設置され、その上段に公衆電話機が設置されている点
(2)同受話器が水中に浮かんでいる点

が認められるが、(1)は一般的なもので創作性がなく、(2)の点のみでは被告作品から原告作品を直接感得することができない、として、結論として被告作品による原告作品の著作権侵害性が否定されています。

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■コメント

個人が開設しているサイトに本事案の経緯や訴訟資料が掲載されています。
訴状に掲載されている画像を見るとカラーであるため、作品の相違が良くわかります。
原告ボックス

(訴状より 原告作品)
被告ボックス

(被告作品)



個人的には、政策的価値判断として、既製品(レディメイド)の転用作品についてはデッドコピーに限って保護を検討していくということで(あるいは、調整弁として依拠性を厳密に判断するなど)、地裁の棄却の結論は(理論構成はともかくとして)理解できます。

原告作品がパブリックアートとして設置される環境と密接に関係することもあるでしょうし、環境保全のメッセージが含まれているとすれば、こうした点が作品性を考える際の視点になるとしても、そうした関係性や思想は著作権での保護を超えたところにあります。
マルセル・デュシャンのレディ・メイドを想起する時、著作権で保護する具体的な表現を越えたところに真の意味、価値があると思われ、そこで作家さんがどう社会にインパクトを与えるか、が勝負なのかな、と思います(その意味では充分、本作品はインパクトがあったのではないでしょうか)。


----------------------追記------------------------

大阪高裁令和3.1.14令和1(ネ)1735著作権に基づく差止等請求控訴事件
判決文