最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

スピードラーニング販促DVD事件

東京地裁平成31.2.28平成29(ワ)16958損害賠償請求事件PDF
別紙1

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 柴田義明
裁判官    安岡美香子
裁判官    佐藤雅浩

*裁判所サイト公表 2019.3.11
*キーワード:販促用DVD、映画、複製、翻案、編集著作物、同一性保持権

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■事案

英会話教材用販促DVDの内容の複製、翻案などが争点となった事案

原告:英会話教材製造販売会社
被告:英会話教材製造販売会社

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法21条、27条、12条、20条、114条3項

1 映画の著作物としての複製権、翻案権侵害の有無
2 編集著作物としての複製権、翻案権侵害の有無
3 言語の著作物としての複製権、翻案権及び譲渡権侵害の有無
4 同一性保持権侵害の有無
5 損害の有無及び額
6 原告の請求の権利濫用該当性

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■事案の概要

『本件は,原告が,被告による別紙被告DVD目録記載のパッケージ内のDVD(以下「被告DVD」という。)の作成,配布等が,主位的には,映画の著作物又は編集著作物である,別紙原告DVD目録記載のパッケージ内のDVD(以下「原告DVD」という。)に関して原告が有する複製権及び翻案権並びに同一性保持権を侵害すると主張し,予備的には,言語の著作物である,原告DVDのスクリプト部分(音声で流れる言語の部分)に関して原告が有する複製権,翻案権及び譲渡権並びに同一性保持権を侵害すると主張して,被告に対し,民法709条に基づく損害賠償金及び遅延損害金の支払を求める事案である。』
(2頁)

<経緯>

H20.09 原告が原告DVDを配布
H26.06 被告が被告教材「スピードイングリッシュ」を販売、被告DVD配布
H27.03 原被告間キャッチフレーズ事件訴訟棄却判決
H29.05 原告が本件提訴

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■判決内容

<争点>

1 映画の著作物としての複製権、翻案権侵害の有無

裁判所は、まず複製(著作権法21条、2条1項15号)、翻案(27条)の意義について言及した上で、被告DVDの内容と原告DVDの内容を検討(24頁以下)。

(1)イントロダクション
(2)受講者インタビュー
(3)商品紹介
(4)商品特徴
(5)開発者等インタビュー
(6)エンディング
(7)上記事項の全体的な構成

(1)ないし(6)の要素の一部について、原告DVDの表現上の本質的特徴を被告DVDから直接感得することができるとして複製性を肯定。
依拠性、翻案性も肯定しています。

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2 編集著作物としての複製権、翻案権侵害の有無

原告は、イントロダクションなどの標題によって区切られた部分を一つの素材として、その選択と配列について創作性を有するとして、編集著作物(12条1項)に関する侵害を主張しましたが、裁判所は認めていません(38頁以下)。

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3 言語の著作物としての複製権、翻案権及び譲渡権侵害の有無

原告は、予備的に原告DVDに含まれるスクリプト部分の言語の著作物を侵害する旨主張しました。
この点について、裁判所は、共通するスクリプトは事実を述べるものか、英会話教材の宣伝、紹介用の動画においてありふれたものということができ、その順序にも表現上の創作性があるとは認められないとして、原告の主張を認めていません(39頁)。

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4 同一性保持権侵害の有無

被告DVDは原告DVDの複数の項目について、原告DVDの表現に改変を加えて制作されたものと認められ、その制作は原告DVDについて、その著作者が有する著作者人格権(同一性保持権)を侵害したと認められると裁判所は判断しています(39頁)。

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5 損害の有無及び額

(1)翻案権の侵害による損害額(著作権法114条3項)

裁判所は、被告DVDを制作した被告の故意又は過失を認定した上で、まず、翻案権の侵害による損害額(114条3項)を検討しています(39頁以下)。
被告DVDのみが販売された事実は認められないものの、被告DVDは被告商品を顧客が継続的に購入するための重要な役割を果たすことが期待されており、このような性質、被告DVDが原告商品と競合する被告商品の宣伝であること、広告のためのものであること、原告DVDと被告DVDで共通する創作的な表現の内容や量その他の諸般の事情に照らして、原告が受けるべき金員の額は被告DVD1枚当たり1000円であると認めることが相当であると判断。

1000(円)×215(枚)×=21万5000円

上記計算式で損害額を認定しています。

(2)同一性保持権の侵害による損害額

同一性保持権の侵害が問題となる被告の改変の内容及び程度、本件訴訟に表れたその他一切の事情を総合的に勘案して、同一性保持権の侵害によって原告に生じた無形的損害に係る損害額は、10万円と認めるのが相当であると裁判所は判断しています(41頁)。

(3)弁護士費用相当損害額

5万円。

合計36万5000円

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6 原告の請求の権利濫用該当性

被告は、原告が平成29年5月まで被告DVDの製造、販売の差止めを求めず、同月、本件訴訟を提起して損害賠償を請求することは、権利の濫用に該当すると主張しましたが、裁判所は認めていません(42頁以下)。

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■コメント

英会話教材の購入を検討している顧客に対して頒布される販促用DVD(映画の著作物、言語の著作物)の内容の構成が類似し、また画像の一部は同一であったりと(別紙1参照)、著作権侵害の可能性は否定できないものの、同じ英会話教材販促用といった目的のDVDとして、どこまでの類似が認められるか、参考になる事例です。
ウェブサイト上のタブメニュー配置や広告用文章の無断複製等が争点となったデータSOS事件(知財高裁平成23.5.26平成23(ネ)10006損害賠償等請求控訴事件)とともに広告営業活動上の表現の在り方について参考になります。

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■過去のブログ記事

英会話教材広告キャッチフレーズ事件(控訴審)
知財高裁平成27.11.10平成27(ネ)10049著作権侵害差止等請求控訴事件
控訴審
東京地裁平成27.3.20平成26(ワ)21237著作権侵害差止等請求事件
原審