最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

タイ式ヨガ指導書監修事件(控訴審)

知財高裁平成31.1.31平成30(ネ)10066損害賠償等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官 森 義之
裁判官    森岡礼子
裁判官    古庄 研

*裁判所サイト公表 2019.02.15
*キーワード:著作者、推定、監修、時機に後れた攻撃防御方法

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■事案

タイ式ヨガ(ルーシーダットン)指導書の監修者の著作者性が争点となった事案

控訴人(1審原告) :個人
被控訴人(1審被告):フィットネスプログラム開発会社

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法2条2項、14条、19条、民訴法157条1項

1 時機に後れた攻撃防御方法の却下の申立てについて
2 被侵害利益を「インターネット上で自己の書籍著作物について第三者の著者であると偽られない利益」とする不法行為に基づく損害賠償請求権の主張について

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■事案の概要

『本件は,控訴人が,被控訴人に対し,被控訴人が,その管理しているウェブサイトにおいて,書籍2冊(以下「本件各書籍」と総称する。)を控訴人以外の者の著作物である旨表示したことは,本件各書籍の著作者である控訴人の著作者人格権(氏名表示権)の侵害に当たると主張し,民法709条に基づく損害賠償請求として,慰謝料100万円及びこれに対する不法行為の日の後である平成30年1月16日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
 原判決は,氏名表示権は,著作者が原作品に,又は著作物の公衆への提供,提示に際し,著作者名を表示するか否か,表示するとすれば実名を表示するか変名を表示するかを決定する権利であるところ,被控訴人のホームページにおいて,本件各書籍の公衆への提供,提示がされているとはいえないから,その余の点を判断するまでもなく,控訴人の請求には理由がないとして,控訴人の請求を棄却したため,控訴人は,これを不服として本件控訴を提起した。』
(2頁)

<経緯>

H18 原告が本件書籍1の出版をビッグスに持ちかける
H19 原告が本件書籍2の出版契約を山海堂と行う
H20 山海堂破産
H29 東京簡裁に本件提起
H30 東京地裁に移送

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■判決内容

<争点>

1 時機に後れた攻撃防御方法の却下の申立てについて

被侵害利益を「インターネット上で自己の書籍著作物について第三者の著者であると偽られない利益」として控訴審において初めて主張することは「時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法」(民訴法157条1項)に該当すると裁判所は判断。
もっとも、訴訟の完結を遅延させることとなると認めるに足りる事情があったとはいえないとして、時機に後れた攻撃防御方法の却下の申立てを認めていません(15頁以下)。

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2 被侵害利益を「インターネット上で自己の書籍著作物について第三者の著者であると偽られない利益」とする不法行為に基づく損害賠償請求権の主張について

(1)本件書籍1

奥書に「監修 控訴人」とあるが、「著(者)」又は「著作(者)」の記載はない本件書籍1について、裁判所は、

・本件書籍1の奥付には控訴人以外の多くの個人又は団体の名が様々な立場から本件書籍1の成立に関与したものとして記載されている
・「監修」が「書籍の著述や編集を監督すること」(広辞苑第7版)を意味することからすると、本件書籍1が編集著作物であるとしても、その編集著作物の著作者が控訴人であると推定すること(著作権法14条)はできない
・控訴人が本件書籍1について素材の選択又は配列によって創作性を発揮したものと認めるに足りる主張・立証はない

などとして、著作者が控訴人であると認めていません(16頁以下)。

(2)本件書籍2

奥書に「監修者 控訴人」とあるが、「著(者)」又は「著作(者)」若しくは「編(者)」又は「編集
(者)」の記載はない本件書籍2についても、裁判所は、著作者が控訴人であると認めていません。

結論として、控訴人の主張する被侵害利益はその根拠を欠くとして、控訴人の主張を認めていません。

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■コメント

監修者としての表記のある人物が著作者かどうかが争点となりました。
監修者は、著者、執筆者、編著者といった表記と違い、14条の著作者推定の外にあるということで、本件は先例として参考になります。