最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

陶製傘立てデザイン事件

大阪地裁平成30.10.18平成28(ワ)6539意匠権侵害差止等請求事件PDF
別紙1(原告傘立て1と被告傘立て1の形態対比表)
別紙2(原告傘立て2と被告傘立て2の形態対比表)

大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官 高松宏之
裁判官    野上誠一
裁判官    大門宏一郎

*裁判所サイト公表 2018.10.30
*キーワード:ゴミ箱、傘立て、応用美術、著作物性、形態模倣、一般不法行為論

   --------------------

■事案

陶製傘立てのデザインの著作物性などが争点となった事案

原告:家庭日用品製造販売会社
被告:雑貨品製造販売会社

   --------------------

■結論

請求一部認容

   --------------------

■争点

条文 著作権法2条1項1号、2条2項、不正競争防止法2条1項3号、意匠法37条

1 被告ごみ箱関係
2 被告傘立て1関係
3 被告傘立て2関係

   --------------------

■事案の概要

『本件は,家庭日用品の企画,製造,販売等を目的とする株式会社である原告が,雑貨品等の輸入,販売等を目的とする株式会社である被告が,別紙被告製品目録1記載のごみ箱(以下「被告ごみ箱」という。)並びに同目録2記載の傘立て(以下「被告傘立て1」という。)及び同目録3記載の傘立て(以下「被告傘立て2」という。)を輸入,販売したことに関し,以下の各請求をする事案である。』

<経緯>

H17.01 原告傘立て2販売
H19.12 原告傘立て1販売
H20.10 被告傘立て2販売
H24.01 原告ごみ箱販売開始
H24.05 本件意匠設定登録(秘密意匠)
H24.10 被告傘立て1販売
H26.07 被告が被告ごみ箱を輸入、販売
H27.06 意匠公報掲載
H27.10 原告が被告に侵害警告

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 被告ごみ箱関係

(1)本件意匠権侵害行為

被告ごみ箱の意匠は本件意匠に類似する(争いがない)ものであり、被告ごみ箱を販売する行為については、本件意匠権を侵害する行為であると裁判所は判断しています(9頁以下)。
なお、図面が意匠公報に掲載された平成27年6月15日以前に被告ごみ箱を販売した行為(被告ごみ箱販売1、2)に関しては、本件意匠権侵害について過失があったと認定されていません。

(2)形態模倣の不正競争行為

被告ごみ箱の形態が原告ごみ箱のそれと実質的に同一であり(争いがない)、この形態同一性は依拠の事実も推認させるところ、この推認を覆す事情は認められないとして、被告ごみ箱は原告ごみ箱の形態を模倣した商品であると裁判所は判断。
被告が平成27年1月31日までに被告ごみ箱を販売した行為(被告ごみ箱販売1)については、不正競争防止法2条1項3号所定の不正競争行為に当たると裁判所は判断しています
(10頁以下)。
他方、被告が同年2月1日以降に被告ごみ箱を販売した行為(被告ごみ箱販売2及び3)については、原告ごみ箱が最初に販売された日から3年が経過していることから、同号所定の不正競争行為に当たらないと判断されています(同法19条1項5号イ)。

(3)一般不法行為の成否

被告が平成27年2月1日から同年6月14日までの間に被告ごみ箱を販売した行為(被告ごみ箱販売2)については、不正競争行為に当たらず、また、本件意匠権侵害について過失があったとは認められないことから、原告は被告ごみ箱販売2については、公正な自由競争秩序を著しく害するものであるから一般不法行為を構成すると主張しました。
結論として、裁判所は、原告の主張を認めていません。

(4) 差止請求及び廃棄請求並びに謝罪広告請求の可否

被告が被告ごみ箱を販売するおそれを否定することはできないとして、被告ごみ箱の差止請求については、その販売及び広告宣伝の差止めの限りで裁判所は認めています。
また、被告は被告ごみ箱の在庫を保有していると考えられることから、その廃棄請求が認められています。
なお、謝罪広告請求は認められていません。

(5)損害論

・本件意匠権侵害(被告ごみ箱販売3)による損害額 2万3488円
・不正競争行為(被告ごみ箱販売1)による損害額 2万3028円
・弁護士費用相当損害額 各5000円(合計1万円)

   --------------------

2 被告傘立て1関係

(1)不正競争行為による損害の発生の有無

原告傘立て1は平成19年12月に販売が開始されており、原告は不正競争防止法19条1項5号イの規定を踏まえて、3年間である平成22年12月までの間に被告が被告傘立て1を販売したと主張しました。
しかし、被告が平成22年12月までの間に被告傘立て1を販売したとは認められないと裁判所は判断、この点についての原告の損害の発生を認めていません(15頁以下)。

(2)著作物性の有無

原告傘立て1の美術の著作物性(著作権法2条2項)について、裁判所は、基本的形状が実用的機能に基づく形態であること、また、タイルが壁面に格子状に貼付されたデザインは、壁状のものによく見られる形状であって、それ自体が美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えているとはいえない、としてこれを否定しています(16頁以下)。

(3)一般不法行為論

被告が被告傘立て1を販売した行為については、不正競争行為に当たらず、また、著作権侵害行為にも当たらないことから、原告は被告傘立て1を販売する行為についても公正な自由競争秩序を著しく害するものであるから、一般不法行為を構成すると主張しました。
結論としては、裁判所は原告の主張を認めていません。

   --------------------

3 被告傘立て2関係

(1) 不正競争行為による損害の発生の有無

原告傘立て2は平成17年1月に販売が開始されており、原告は不正競争防止法19条1項5号イの規定を踏まえて被告が平成20年1月までの間に被告傘立て2を販売したと主張しました。
しかし、被告が平成20年1月までの間に被告傘立て2を販売したとは認められないとして、裁判所は原告の損害の発生を認めていません(17頁以下)。

(2)著作物性の有無

原告傘立て2についても、円弧状に凹没する環状凹条が多数かつ水平にわたって上下方向に等間隔に連続して形成され、全体として略蛇腹形状とされている外周面のデザインについて、筒状ないし管状のものによく見られる形状であって、それ自体が美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えているとはいえないなどとして、美術の著作物としての著作物性を裁判所は認めていません(18頁)。

(3)一般不法行為論

原告傘立て2に関する一般不法行為論も認められていません。

   --------------------

■コメント

工業デザインの範疇になる傘立てのデザインの著作物性が争点の1つとなった事案ですが、1点ものの陶製製品でもない限り、円筒、あるいは長方形の一般的な形状の傘立てで、著作権法での保護は難しい印象です。