最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

任天堂マリカー事件

東京地裁平成30.9.27平成29(ワ)6293不正競争行為差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 柴田義明
裁判官    安岡美香子
裁判官    佐藤雅浩

*裁判所サイト公表 2018.10.24
*キーワード:コスプレ衣装、マリオ、キャラクター、ドメイン、不正競争行為、権利の濫用

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■事案

公道カートでマリオのコスチュームを提供するなどした点の不正競争行為性が争点となった事案

原告:任天堂
被告:自動車レンタル会社、代表者

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 不正競争防止法2条1項1号、13号、3条、5条

1 被告会社が平成28年6月24日以降、本件各行為を行ったか否か
2 被告標章第1の営業上の使用行為及び商号としての使用行為が不競法2条1項1号又は2号の不正競争に該当するか否か
3 登録商標の抗弁の成否
4 使用差止及び抹消請求の可否及び範囲
5 被告標章第2を使用する本件宣伝行為が不競法2条1項1号又は2号の不正競争に該当するか否か
6 使用差止及び抹消・廃棄請求の可否及び範囲
7 本件ドメイン名の使用行為が不競法2条1項13号の不正競争に該当するか否か
8 使用差止及び登録抹消請求の可否及び範囲
9 複製又は翻案の差止請求の可否及び範囲
10 本件各写真及び本件各動画が原告表現物の複製物又は翻案物に当たるか否か
11 本件各コスチュームが原告表現物の複製物又は翻案物に当たるか否か
12 損害論

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■事案の概要

『本件は,原告が,被告会社による(1)原告の周知又は著名な商品等表示である文字表示である「マリオカート」及び「マリカー」(以下,これらを併せて「原告文字表示」という。)と類似する別紙被告標章目録第1記載の各標章(以下「被告標章第1」という。)の営業上の使用行為及び商号としての使用行為が不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項1号又は2号の不正競争に,(2)原告が著作権を有する別紙原告表現物目録記載の各表現物(以下「原告表現物」という。)と類似する部分を含む別紙掲載写真目録記載の各写真(以下「本件各写真」という。)及び同投稿動画目録記載の各動画(以下「本件各動画」という。)を作成(以下「本件制作行為」という。)してインターネット上のサイトへアップロードする行為(以下,この掲載及びアップロード行為を「本件掲載行為」という。)が原告の著作権(複製権又は翻案権,公衆送信権等)侵害に,(3)原告の周知又は著名な商品等表示である原告表現物又は別紙原告商品等表示目録記載の商品等表示(以下「原告立体像」という。)と類似する表示である別紙被告標章目録第2記載の各標章(コスチューム及び人形,以下「被告標章第2」といい,同目録記載の標章を「被告標章第2のい1」等と特定する。)を使用する行為である本件掲載行為,従業員のコスチューム着用行為及び店舗における人形の設置行為(以下,併せて「本件宣伝行為」という。)が不競法2条1項1号及び2号の不正競争に,(4)原告の特定商品等表示である原告文字表示と類似する別紙ドメイン名目録記載の各ドメイン名(以下「本件各ドメイン名」という。)の使用が同項13号の不正競争に,(5)原告表現物の複製物又は翻案物である別紙貸与物目録記載の各コスチューム(以下「本件各コスチューム」という。)を貸与する行為(以下「本件貸与行為」という。)が原告の著作権(貸与権)侵害に,各該当すると主張して,被告会社に対し,前記各不正競争該当行為(前記(1),(3)及び(4))につき不競法3条1項及び2項に基づき,著作権侵害該当行為(前記(2)及び(5))につき著作権法112条1項及び2項に基づき,前記(1)につき被告標章第1の使用差止め,同抹消及び商号登記の抹消を(請求の趣旨第1ないし3項),前記(2)につき原告表現物の複製又は翻案及び複製物等の自動公衆送信等の各差止め並びに本件各写真及び本件各動画の削除及びデータ廃棄を(請求の趣旨第4,5,7及び8項),前記(3)につき被告標章第2の使用差止め並びに本件各写真及び本件各動画の削除及びデータ廃棄を(請求の趣旨第6ないし8項),前記(4)につき本件各ドメイン名の使用差止め及び同ドメイン名の一部の登録抹消を(請求の趣旨第9及び10項),前記(5)につき本件貸与行為の差止めを(請求の趣旨第11項),被告らに対し,前記各不正競争該当行為(前記(1),(3)及び(4))につき不競法4条,5条3項1号及び4号に基づき,著作権侵害行為(前記(2)及び(5))につき民法709条及び著作権法114条3項に基づき,損害賠償として1000万円(一部請求)及びこれに対する不法行為後の日である平成29年3月18日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。』
(3頁以下)

<経緯>

H04.08 原告が「スーパーマリオカート」発売
H27.06 被告会社が公道カートレンタル事業開始
H28.06 被告会社が「マリカー」商標登録(5860284)
H30.03 被告会社が商号「株式会社マリカー」を変更

被告標章目録第1
1 マリカー
2 MariCar
3 MARICAR
4 maricar

被告標章目録第2
「マリオ」「ルイージ」「ヨッシー」「クッパ」のコスチューム等

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■判決内容

<争点>

1 被告会社が平成28年6月24日以降、本件各行為を行ったか否か

被告会社が平成28年6月24日以降、被告標章第1の4の使用、本件制作行為、本件掲載行為を含めた本件宣伝行為、本件ドメイン名1、3及び4の使用並びに本件貸与行為(併せて「本件各行為」という)を行ったかどうかについて、裁判所は、被告会社は平成28年6月24日以降も引き続き、自らが全国に本件レンタル事業に係るサービスを提供する店舗を拡大し、同店舗を運営する有限責任事業者組合を立ち上げるなどして各店舗において自社の定めた規約に従ったサービスを提供させているということができるとして、その関与の程度の強さから本件レンタル事業に主体的に関与し、少なくとも関係団体と共同して本件レンタル事業を実施していると認めるのが相当であると認定しています(39頁以下)。

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2 被告標章第1の営業上の使用行為及び商号としての使用行為が不競法2条1項1号又は2号の不正競争に該当するか否か

(1)本件レンタル事業の需要者

本件レンタル事業の需要者は、観光の体験等として公道カートを運転してみたい一般人であり、海外から日本を訪れる者と日本国内に住んでいる者が含まれ、日本語を解しない者も含まれるが、日本語を解する者も当然に含まれると認定されています(44頁以下)。

(2)原告文字表示の周知性

「マリカー」は、遅くとも平成8年12月13日発行のゲーム雑誌「ファミマガ64」において、「マリオカート」の略称として「今や遅しと手ぐすね引いて『マリカー』を待っているファンに贈る徹底ガイド。」、「プレイに必要な『マリカー』のすべてを解説するぞ。」という形で使用された等から、原告文字表示マリカーは、広く知られていたゲームシリーズである「マリオカート」を意味する原告の商品等表示であると認定されています。

なお、原告文字表示マリカーは「マリカー」という日本語の表示であり、日本語を解しない者の間では原告の商品等表示として広く知られていたとは認められていません。

(3)被告標章第1と原告文字表示との類否

被告標章第1のうち被告標章第1の1(マリカー)は、原告文字表示マリカーと外観、称呼が同一であるとして、同一の標章と判断されています。
また、被告標章第1のうち被告標章第1の2ないし4( MariCar、MARICAR、maricar)は、いずれも大文字と小文字のアルファベットから構成されており、原告文字表示マリカーとは外観において異なるものの、称呼はどちらも「マリカー」であり同一であるなどと判断。
結論として、裁判所は、被告標章第1は原告文字表示マリカーと同一若しくは類似の標章と判断しています。

(4)混同を生じさせるおそれの有無

本件レンタル事業において使用された場合、被告標章第1は周知性が認められる原告文字表示マリカーと類似している上、両者の商品ないし役務の間には強い関連性が認められることから、これに接した日本全国の需要者に対して原告文字表示マリカーを連想させ、その営業が原告又は原告と関係があると誤信させると裁判所は判断しています。

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3 登録商標の抗弁の成否

被告らは、被告会社は「マリカー」の標準文字からなる本件商標を有しており、「マリカー」という標章を使用する正当な権限を有するから、不競法3条1項に基づく差止請求は認められない旨主張しました(55頁以下)。
この点について、裁判所は、被告標章第1を使用する被告会社の行為は不正競争行為となるところ、諸事情を考えると、原告に対して被告会社が本件商標に係る権利を有すると主張することは権利の濫用として許されないというべきであると判断しています。
結論として、裁判所は、被告の商標登録の抗弁を認めていません。

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4 使用差止及び抹消請求の可否及び範囲

(1)被告標章第1の使用差止及び抹消請求

被告会社は、被告標章第1の使用行為を継続する可能性があり、原告は被告会社の使用行為により事業活動に対する信用等の営業上の利益が侵害され、又は侵害されるおそれがあると裁判所は判断。
結論として、裁判所は、原告は被告会社に対して不競法3条1項に基づいて営業上の施設及び活動において被告標章第1を使用してはならないことを求めることができ、また、原告は同条2項に基づいて侵害行為の停止又は予防に必要な行為として営業上の施設、ウェブサイトを含む広告宣伝物及びカート車両から被告標章第1を抹消することを求めることができると判断しています(56頁以下)。

なお、原告文字表示マリカーは、日本語を解しない者の間では周知性が認められないとの判断を前提に、裁判所は、外国語のみで記載されたウェブサイト及びチラシにおける被告標章第1の使用についての差止及び抹消請求は認めていません。

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5 被告標章第2を使用する本件宣伝行為が不競法2条1項1号又は2号の不正競争に該当するか否か

(1)原告表現物の周知性

原告表現物マリオ等は、日本全国の者の間で、また、外国に在住して日本を訪問する者の間でも原告の商品等表示として広く認識されていたと裁判所は認定しています(57頁以下)。

(2)原告表現物と本件宣伝行為との類否

結論としては、被告会社が被告標章第2を使用して行った本件宣伝行為(本件写真1の表示を除く)は、原告の周知の商品等表示と類似する標章を商品等表示として使用しているものであり、これに接した需要者に対して被告会社と原告との間に原告と同一の商品化事業を営むグループに属する関係又は原告から使用許諾を受けている関係が存するものと誤信させるものと裁判所は判断。
被告標章第2を使用する本件宣伝行為が不競法2条1項1号の不正競争に該当すると判断しています。

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6 使用差止及び抹消・廃棄請求の可否及び範囲

被告会社に対する被告標章第2を営業上の施設及び活動において使用することの差止めを裁判所は認めています。被告会社は、

・標章が使用された本件写真2及び3を同社が運営するウェブサイトに掲載すること
・本件各動画を動画共有サービスに掲載すること
・従業員に被告標章第2の1ないし10のコスチュームを着用させること
・店舗内に同目録記載11の人形を設置すること
・営業活動において上記標章である各コスチュームを貸与という形で使用すること

など、被告標章第2の各標章を営業上の施設及び活動において使用することが禁止されています(74頁以下)。

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7 本件ドメイン名の使用行為が不競法2条1項13号の不正競争に該当するか否か

被告会社は、本件レンタル事業の宣伝行為のために不正の利益を得る目的をもって原告の特定商品等表示である原告文字表示マリカーと類似する本件各ドメイン名を使用したと認められるとして、同行為は不競法2条1項13号所定の不正競争行為に該当すると裁判所は判断しています(76頁以下)。

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8 使用差止及び登録抹消請求の可否及び範囲

被告会社は、本件各ドメイン名の使用行為を継続する可能性が高いというべきであり、原告は使用行為により事業活動に対する信用等の営業上の利益が侵害され、又は侵害されるおそれがあると認められると裁判所は判断。
結論として、原告は被告会社に対して不競法3条1項に基づき、本件各ドメイン名の使用の差止めを求めることができると判断されています(78頁以下)。

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9 複製又は翻案の差止請求の可否及び範囲

著作権法に基づく原告表現物の複製又は翻案の差止請求並びに本件写真等の抹消及び廃棄請求の可否について、裁判所は、差止めの対象となる行為が具体的に特定されておらず、差止めの必要性を認めるに足りる立証がないとして、この点についての原告の請求を認めていません(79頁以下)。

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10 本件各写真及び本件各動画が原告表現物の複製物又は翻案物に当たるか否か

本件各写真及び本件各動画が原告表現物の複製物又は翻案物に当たるか否かについては、「これらが複製物又は翻案物に当たることを前提とする請求である請求の趣旨第4項,第5項に係る請求が前記3(1)の理由により認められないため,判断するに及ばない。」とされています(80頁)。

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11 本件各コスチュームが原告表現物の複製物又は翻案物に当たるか否か

不競法に基づく請求の趣旨第6項に係る請求には被告会社がこれらのコスチュームを使用(貸与)することの禁止を求める請求が含まれると解され、この部分は請求の趣旨第11項に係る請求と選択的併合の関係に立つと裁判所は判断。
不競法に基づき被告会社がこれらのコスチュームの貸与をすることが禁止されることによって請求の趣旨第11項に係る請求について判断をするに及ばなくなるとして、本件各コスチュームが原告表現物の複製物又は翻案物に当たるか否か(争点11)は判断するには及ばないとしています(80頁)。

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12 損害論

被告会社について、不競法5条3項1号、4号に基づく損害として、1026万4609円を認定。
原告の請求額全額(1000万円)が認容されています(80頁以下)。

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■コメント

2015年10月に渋谷109のそばで見かけた際のマリオ風のコスプレは、3年後の2018年10月に原宿で見かけた公道カートの様子のものとほぼ同じものでした。
今年10月のカートの車体には、「MariCar.com MariCarは任天堂ゲーム「マリオカート」とは無関係です」との記載があることが読み取れます。
20151030マリカー任天堂マリオ

20181006マリカーマリオカート原宿

ファンやメディアの間から自然発生的に生じた愛称などで、企業側としては商品化、商品での使用を考えていない場合、企業が商標権を取得していないことがあるわけで、こうした場合は、行為規制法である不正競争防止法の出番となります。

キャラクターコスチュームの著作物性については、不正競争防止法上の請求との選択的併合関係などを理由に裁判所は判断を回避しています。

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弁護士ドットコム 2018年11月01日10時11分