最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

フラダンス振付事件

大阪地裁平成30.9.20平成27(ワ)2570著作権侵害差止等請求事件PDF
別紙1
別紙2

大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官 高松宏之
裁判官    野上誠一
裁判官    大門宏一郎

*裁判所サイト公表 2018.10.03
*キーワード:フラダンス、振付、舞踏、著作物性、使用許諾

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■事案

フラダンスの振付の著作物性などが争点となった事案

原告:フラダンス指導者
被告:フラダンス教室運営会社

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、10条1項3号、民法651条2項

1 本件振付け6等の著作物性
2 本件各振付けの著作権の譲渡又は永久使用許諾の有無
3 被告が本件各楽曲を演奏し本件各振付けを上演し又は上演させるおそれの有無
4 被告による本件各楽曲及び本件振付け1等に係る著作権侵害行為の有無
5 被告の故意又は過失の有無
6 原告の損害の有無及び額
7 本件解除が原告にとって不利な時期にされたものか及び本件解除についてやむを得ない事由があったか

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■事案の概要

『ハワイに在住するクムフラ(フラダンスの師匠ないし指導者)である原告は,従前,フラダンス教室事業を営む被告と契約を締結し,被告ないし被告が実質的に運営する九州ハワイアン協会(以下「KHA」という。)やその会員に対するフラダンス等の指導助言を行っていたが,両者の契約関係は解消された。本件は,原告が,被告に対して,以下の請求をする事案である。』

『(1)原告は,被告が,被告の会員に対してフラダンスを指導し,又はフラダンスを上演する各施設において,別紙振付け目録記載の各振付け(以下,番号に従って「本件振付け1」のようにいい,これらを総称して「本件各振付け」という。)を被告代表者自らが上演し,会員等に上演させる行為が,原告が有する本件各振付けについての著作権(上演権)を侵害すると主張して,被告に対し,著作権法112条1項に基づき,本件各振付けの上演の差止めを請求する(第1の1項)。』

『(2)原告は,被告が,被告の会員に対してフラダンスを指導し,又はフラダンスを上演する各施設において,別紙楽曲目録記載の各楽曲(以下,番号に従って「本件楽曲1」のようにいい,これらを総称して「本件各楽曲」という。)を演奏する行為が,原告が有する本件各楽曲についての著作権を侵害すると主張して,被告に対し,著作権法112条1項に基づき,本件各楽曲の演奏の差止めを請求する(第1の2項)。』

『(3)原告は,被告が,本件各振付けを上演し又は被告の会員等に上演させた行為(上記(1))及び本件各楽曲を演奏した行為(上記(2))が,原告の著作権を侵害すると主張して,被告に対し,不法行為に基づき,平成26年11月から平成29年10月までの損害賠償金642万2464円(使用許諾料相当額409万2120円及び弁護士費用233万0344円)の一部として250万3440円及びこれに対する不法行為の後の日である平成29年11月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求する(第1の3項)。』

『(4)原告は,被告との間で,KHA等が平成26年秋に開催するワークショップ等において被告ないしKHAの会員に対してフラダンス等の指導を行うことを内容とする準委任契約(以下「本件準委任契約」という。)を締結していたところ,被告が同契約を原告に不利な時期に解除したと主張して,被告に対し,民法656条,651条2項本文に基づき,損害賠償金385万1910円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成27年3月26日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を請求する(第1の4項)。』
(2頁以下)

別紙1:振付け目録6 E Pili Mai(エ・ピリ・マイ)の振付けについて
別紙2:楽曲目録/本件振付け6に関する主張対比表

<経緯>

S63 原告と被告前代表が指導契約(本件コンサルティング契約)締結
H26 本件コンサルティング契約終了

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■判決内容

<争点>

1 本件振付け6等の著作物性

(1)フラダンスの著作物性

ハワイの民族舞踊であるフラダンスの現代フラの著作物性について、人の身体の動作の型を振付けとして表現するフラが、著作権法10条1項3号の「舞踊の著作物」にあたるかどうかに関して、裁判所は、まず、

・既定のハンドモーションを歌詞に合わせて当てはめたにすぎない場合
・同じ楽曲又は他の楽曲での同様の歌詞部分について他の振付けでとられている動作と同じものである場合
・既定のハンドモーションや他の類例と差異が動作の細かな部分や目立たない部分での差異にすぎない場合

には、作者の個性が表れていると認めることはできないと説示。

その上で、フラダンスのハンドモーションが歌詞を表現するものであり、歌詞に動作を振り付けるに当たっては歌詞の意味を解釈することが前提になり、普通は言葉の通常の意味に従って解釈することになるものの、あくまで著作権法は具体的な表現の創作性を保護するものであるとして、具体的な表現に作者の個性が表れているかどうかを検討すると裁判所は言及。

また、裁判所は、リズムをとりながら流れを作るステップに関して、ステップ自体あるいはハンドモーションと一体として捉えて、当該振付けの動作に作者の個性が表れている場合の可能性に言及。

そして、ひとまとまりの流れの全体について舞踊の著作物性を認めるのが相当であり、また、本件では、原告が楽曲に対する振付けの全体としての著作物性を主張しているとして、振付け全体を対象として検討すべきであると裁判所は説示。
フラダンスに舞踊の著作物性が認められる場合において、その侵害が認められるためには、侵害対象とされたひとまとまりの上演内容に作者の個性が認められる特定の歌詞対応部分の振付けの動作が含まれることが必要なことは当然ではあるものの、それだけでは足りず、作者の個性が表れているとはいえない部分も含めて、当該ひとまとまりの上演内容について、当該フラダンスの一連の流れの動作たる舞踊としての特徴が感得されることを要すると解するのが相当であると判断。

以上の考え方を踏まえ、本件振付け6等の著作物性について個別に検討を加えた結果、裁判所は、本件振付けには、完全に独自な振付けが見られるだけでなく、他の振付けとは異なるアレンジが見られる、として、全体として見た場合に原告の個性が表現されており、全体としての著作物性を認めるのが相当である、などとして、振付け6、11、13、15、17の各振付けの著作物性を肯定しています(15頁以下)。

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2 本件各振付けの著作権の譲渡又は永久使用許諾の有無

本件各振付けについて、被告に対して著作権が譲渡ないし永久使用許諾がされたと認めるに足りる証拠はないと認定されています(111頁)。

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3 被告が本件各楽曲を演奏し本件各振付けを上演し又は上演させるおそれの有無

被告には本件振付け6等を自ら上演し又は会員等に上演させることにより、原告の著作権を侵害するおそれがあると認められています。
これに対して、本件各楽曲及び本件振付け1等については、認められていません。
結論として、原告の本件各振付けの上演等の差止請求及び本件各楽曲の演奏の差止請求は、本件振付け6等の上演等の差止めを求める限度で認められています(111頁以下)。

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4 被告による本件各楽曲及び本件振付け1等に係る著作権侵害行為の有無

本件コンサルティング契約が終了した翌日である平成26年11月1日以降の被告による著作権侵害行為として認められるのは、本件振付け6等(又はその間奏等以外の部分)を自ら上演し又は会員等に上演させた部分であると裁判所は判断しています(113頁以下)。

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5 被告の故意又は過失の有無

振付けに係る著作権侵害行為について、被告に少なくとも過失があると認められています(113頁以下)。

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6 原告の損害の有無及び額

本件振付け6等の使用許諾料相当額について、裁判所は、700ドル(被告が原告の創作した振付け及び作曲した楽曲全般の使用を行う場合の月額使用許諾料相当額)に侵害期間35か月間を乗じた上で原告が創作した振付け及び作曲した楽曲が上演・演奏された回数(726回)に占める本件振付け6等が上演された回数(90回)の割合を乗じた3037ドル(1ドル未満切捨て)と認定しています(114頁以下)。

700×35×(90÷726)≒3,037

そして、1ドル109.7円で日本円に換算して、33万3158円(1円未満切捨て)を認定しています。

3,037×109.7≒333,158

そのほか、弁護士費用相当額損害として10万円が認定されています。

結論として、原告の著作権侵害に基づく損害賠償請求は43万3158円と判断されています。

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7 本件解除が原告にとって不利な時期にされたものか及び本件解除についてやむを得ない事由があったか

被告による本件解除は「不利な時期」にされたものであるものの、「やむを得ない事由」があったと認めるのが相当であると裁判所は判断。
原告の民法651条2項本文に基づく損害賠償請求は認められていません(122頁以下)。

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■コメント

バレエにしろ日本舞踊にしろ、型のあるものについては既存の型と切り離せない部分があり(型自体の表現であっても細かくみれば千差万別でしょうし)、新作の舞踏に創作性を広く認めれば、反面として先人のアイデアなどの特定個人による独占に繋がりかねず、他人の新しい創作の幅を狭めることにもなるので、裁判所も政策的価値判断からより良いバランスを求めて苦心していることが判決文から伺えます(16頁以下参照)。

フラでのハンドモーションがいわば手話のようなものとすれば、手話自体に著作物性を認めないのと同じ思考になるかと考えられますが、動作に選択の幅があり、また舞踏全体の表現として見た結果として創作者の個性が表れていれば、著作物性を認めると裁判所は示しています。

書面よりもビデオ、録画ビデオよりも生の実演のほうが感銘力がありますが、法廷で検証として原告の教え子が踊る中、原告が解説を行ったそうです。
フラダンス振付けに「著作権」、判決読んだら色々画期的。「歌詞と動作の連動」も評価ー弁護士ドットコム(2018年09月24日 13時02分記事)

原告側弁護活動が効果的だったと思われるところです。

なお、舞踏の著作物性に関する過去の判例としては、以下のようなものがあります。

(1)ファッションショー映像事件(控訴審)
知財高裁平成26.8.28平成25(ネ)10068損害賠償請求控訴事件
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(2)「Shall we ダンス?」振付事件
東京地裁平成24.2.28平成20(ワ)9300損害賠償請求事件
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社交ダンスの振付の著作物性などが争点となった事案

(3)手あそび歌出版差止事件
東京地裁平成21.8.28平成20(ワ)4692出版差止等請求事件
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(4)日本舞踊家元事件
福岡高裁平成14.12.26平成11(ネ)358著作権確認等請求控訴事件
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福岡地裁小倉支部平成11.3.23平成7(ワ)240、1126

日本舞踊の振付の著作物性が争点となった事案

(5)バレエ作品振付事件(ベジャール「アダージェット」事件)
東京地裁平成10.11.20平成8(ワ)19539損害賠償等請求事件

バレエの振付の著作物性が争点となった事案