最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

沖国大ヘリ墜落事故映像無断使用事件(控訴審)

知財高裁平成30.8.23平成30(ネ)10023著作権侵害差止等本訴請求、損害賠償反訴請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 鶴岡稔彦
裁判官    寺田利彦
裁判官    間明宏充

*裁判所サイト公表 2018.8.24
*キーワード:引用、出所明示、権利濫用

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■事案

沖縄国際大学に米軍ヘリコプターが墜落した事故に関する映像を無断で映画に使用した事案の控訴審

控訴人(1審本訴被告・反訴原告) :映像制作会社
被控訴人(1審本訴原告・反訴被告):テレビ放送会社

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法32条、48条1項、114条3項、民法1条3項

(原審争点)
1 差止め及び削除を求める請求は特定されているか
2 本件部分は「まだ公表されていないもの」(著作権法18条)に当たるか
3 本件映画に原告の名称を表示していないことは「その著作物につきすでに著作者が表示しているところに従って」(19条2項)されたものといえるか
4 著作権の行使に対する引用(32条1項)の抗弁は成立するか
5 原告による著作権及び著作者人格権の行使は権利の濫用に当たり許されないか
6 原告が受けた損害の額
7 差止め、本件各映像の削除及び謝罪広告の掲載の各必要性が認められるか
8 原告が被告からの本件各映像の利用許諾申請を拒絶した上で本訴事件を提起した一連の行為は被告に対する不法行為を構成するか
9 原告が被告との交渉内容を秘匿したまま本件事件を提起した事実を自社の放送波で放送すると共に自社のウェブサイトに掲載しマスコミ各社に同内容のリリースを配布した行為は被告に対する不法行為を構成するか


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■事案の概要

1 本訴
『本訴事件は,原判決別紙1著作物目録記載1ないし4の各映像(本件映像1ないし4,併せて本件各映像)の著作者及び著作権者である被控訴人が,控訴人が被控訴人の許諾なく本件各映像を使用して製作した原判決別紙3映画目録記載の映画(本件映画)につき,(1)控訴人が本件映画を上映する行為は本件各映像につき被控訴人が有する上映権(著作権法22条の2)を侵害する,(2)控訴人が本件映画を記録したDVDを販売する行為は本件各映像につき被控訴人が有する頒布権(著作権法26条1項)を侵害する,(3)控訴人が本件映画の上映に際して被控訴人の名称を表示しなかったことは本件各映像につき被控訴人が有する氏名表示権(著作権法19条1項)を侵害する,(4)本件映像2のうち原判決別紙2−2「著作物目録の著作物2」の(11)ないし(16)の部分(約8秒。同別紙に「未公表部分」との記載のあるもの)及び本件映像4のうち原判決別紙2−4「著作物目録の著作物4」の(1)ないし(4)の部分(約5秒。同別紙に「未公表部分」との記載のあるもの)は,公表されていない著作物であったから,控訴人が上記各部分の映像を使用した本件映画を上映したことは,上記各部分につき被控訴人が有する公表権(著作権法18条1項)を侵害するなどと主張して,控訴人に対し,(1)著作権法112条1項に基づき,本件各映像を含む本件映画の上映,公衆送信及び送信可能化並びに本件映画の複製物の頒布の差止めを,(2)同条2項に基づき,本件映画を記録した媒体及び本件各映像を記録した媒体からの本件各映像の削除を,(3)著作権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき,損害賠償金111万0160円及びこれに対する不法行為の日以後である平成27年6月21日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を,(4)著作者人格権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき,損害賠償金300万円及びこれに対する不法行為の日以後である平成27年6月21日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を,(5)著作権法115条に基づき,原判決別紙4謝罪広告要領記載の要領による原判決別紙5謝罪広告内容記載の謝罪広告の掲載を,それぞれ求める事案である。』

2 反訴
『反訴事件は,控訴人が,(1)本件映画での本件各映像の使用につき,被控訴人が,控訴人による二度の許諾申請を拒絶した上で本訴事件を提起した一連の行為は,共同の取引拒絶又は単独の取引拒絶として私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)に違反し,控訴人に対する不法行為を構成するとして,被控訴人に対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,損害賠償金1392万円及びこれに対する不法行為の日以後である平成28年4月5日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を,(2)被控訴人が,本件各映像に係る控訴人との交渉内容を秘匿したまま,本訴事件を提起した旨を自社の放送波を通じて放送し,ウェブサイトに同内容を掲載し,マスコミにリリースした行為は,控訴人に対する不法行為を構成するとして,被控訴人に対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,損害賠償金558万円及びこれに対する不法行為の日以後である平成28年4月5日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を,それぞれ求める事案である。』

『原判決は,本訴請求については,差止請求及び削除請求の全部と,損害賠償請求の一部を認容し,その余(損害賠償請求の残部と謝罪広告掲載請求)をいずれも棄却し,反訴請求については,その請求を全部棄却した。
 これに対し,自己の敗訴部分に不服のある控訴人が本件控訴をした。』
(2頁以下)

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■判決内容

<争点>

控訴審は、本訴請求について原判決が認容した限度で認容し、その余をいずれも棄却。また、反訴請求についてもその請求を全部棄却するのが相当であるとしています(20頁以下)。
(控訴審で控訴人が付加した主張の点についても、いずれも裁判所は容れていません。)

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■コメント

原審の判断が控訴審でも維持されています。
なお、著作権の行使に対する引用の抗弁の争点について、出所明示義務(48条1項1号)と32条の関係に関して、控訴審でも絶対音感事件控訴審の判断を是認しています。

『控訴人が何ら出所を明示することなく被控訴人が著作権を有する本件各映像を本件映画に引用して利用したことについては,(単に著作権法48条1項1号違反になるというにとどまらず)その方法や態様において「公正な慣行」に合致しないとみるのが相当であり,かかる引用は著作権法32条1項が規定する適法な引用には当たらない。よって,これと同旨をいう原判決の認定判断に誤りがあるとは認められない。』(25頁)

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■過去のブログ記事

2018年03月08日記事 原審記事