最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

新冷蔵庫システム開発契約事件

東京地裁平成30.6.21平成29(ワ)32433損害賠償等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 柴田義明
裁判官    佐藤雅浩
裁判官    大下良仁

*裁判所サイト公表 2018.7.17
*キーワード:ソフトウェア開発委託契約

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■事案

ソフトウェア開発業務委託契約の条項の解釈を巡る紛争

原告:物流倉庫等システムソフトウェア開発会社
被告:食品類卸売会社、システム開発会社、原告元従業員

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■結論

請求棄却

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■争点

1 本件共通環境設定プログラムの著作権侵害の有無
2 被告マルイチ産商の本件共通環境設定プログラムの使用を停止し廃棄する債務の有無
3 不当利得返還請求権の有無

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■事案の概要

『本件は,原告が,被告マルイチ産商に対してソフトウェア開発委託契約に基づき原告が著作権を有するプログラムの使用を許諾していたところ,被告らが違法に同プログラムの複製又は翻案を行い,また,上記委託契約が終了したにもかかわらず,被告マルイチ産商がプログラムの使用を継続し,複製又は翻案していると主張して,被告らに対し,次の請求をする事案である。』
(3頁)

<経緯>

H20 原告と被告マルイチ産商がソフトウェア開発委託基本契約締結
   被告マルイチ産商が原告に「新冷蔵庫・社内受発注システム」発注
H21 原告が本件新冷蔵庫等システム及び本件共通環境設定プログラムを納入
   原告と被告マルイチ産商が本件新冷蔵庫等システムに関する保守管理契約締結
H25 本件保守契約解約
H26 本件基本契約終了

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■判決内容

<争点>

1 本件共通環境設定プログラムの著作権侵害の有無

(1)本件新冷蔵庫等システムの移行に伴う本件共通環境設定プログラムの複製権又は翻案権侵害の有無

本件新冷蔵庫等システムを使用する際に必要となるデータベース接続等のプログラム一般に共通する機能をまとめたプログラム(本件共通環境設定プログラム)について、裁判所は、そのEXEファイル及びDLLファイルは、本件新冷蔵庫等システムに実装されて一体として機能するプログラムであり、原告が本件基本契約及び本件個別契約に基づいて被告マルイチ産商から委託され、作成したコンピュータプログラムであるから、本件基本契約2条における「成果物」であると認定。
そして、当該プログラムが従前から原告が有し、その著作権が原告に帰属するものであっても必要な範囲で複製又は翻案をすることが本件基本契約21条3項(2)で許諾されており、サーバの老朽化等の理由により新サーバにコンピュータプログラムを移行することは必要な事項であると判断。
被告らは本件新冷蔵庫等システムのサーバ移行の際に本件共通環境設定プログラムのEXEファイル及びDLLファイルを複製したと認められるものの、本件新冷蔵庫等システムのサーバ移行のために同システムに実装され一体として機能する本件共通環境設定プログラムのEXEファイル及びDLLファイルを複製することは、本件基本契約の条項によって許諾されていると裁判所は判断。
結論として、本件共通環境設定プログラムの複製権侵害は成立しないと判断しています(22頁以下)。

(2)本件基本契約終了後の本件共通環境設定プログラムの保守管理業務に伴う複製権又は翻案権侵害

原告は、被告マルイチ産商と被告テクニカルパートナーがコンピュータ保守管理のための人材派遣契約を締結し、被告テクニカルパートナーらが保守管理業務を実施し、本件基本契約が終了後も保守管理業務の一環として本件共通環境設定プログラムの複製又は翻案を行ったと主張しました(26頁以下)。
この点について、裁判所は、保守管理業務の一環として本件共通環境設定プログラムの複製又は翻案が行われた事実を認めるに足りる証拠はなく、また、本件基本契約26条(契約終了後の権利義務)の解釈から、原告の主張を認めていません。

(3)本件基本契約終了後の本件共通環境設定プログラムの使用によるみなし侵害

本件共通環境設定プログラムのソースコード、EXEファイル及びDLLファイルは、いずれも「成果物」であり、被告マルイチ産商はこれらのデータファイルの複製物の所有権を取得しており、本件共通環境設定プログラムの複製物を本件基本契約19条により使用することができると裁判所は判断。
本件について、みなし侵害(著作権法113条2項)は成立しないと判断しています(28頁)。

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2 被告マルイチ産商の本件共通環境設定プログラムの使用を停止し廃棄する債務の有無

被告マルイチ産商は、本件基本契約終了後も本件共通環境設定プログラムを使用することができることから、被告マルイチ産商が本件共通環境設定プログラムの使用を停止し、廃棄する債務を負うことはなく、その使用が債務不履行となることはないと裁判所は判断しています(28頁以下)。

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3 不当利得返還請求権の有無

被告マルイチ産商が、法律上の原因なくして本件共通環境設定プログラムの使用料相当額の利得を得て、原告に同額の損失を与えたとはいえず、被告マルイチ産商の使用について不当利得が成立することはないと裁判所は判断しています(28頁以下)。

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■コメント

ソフトウェア開発業務委託基本契約書の条項については、判決文5頁以下に記載があります。
成果物の著作権の帰属について、例えば、新規成果物は共有だが持分の処分以外は自由に使える規定になっています(21条)。また、本契約が合意の解約により終了した場合や解除により終了した場合も著作権の帰属に関する規定は効力が存続するものとされています(26条)。
ソフトウェア開発業務委託契約に基づいて納品されたシステムの保守管理契約が解約された後に、保守管理を担当したのが別会社に在籍する開発会社の元従業員ということも紛争の背景に、もしかしたらあったのかもしれません。ただ、この点については営業秘密に関する不正競争防止法の論点や一般不法行為論が争点にはなっていないので、なんとも言えないところです。