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2018年07月17日

一竹辻が花美術館グッズ事件−著作権 著作権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

一竹辻が花美術館グッズ事件

東京地裁平成30.6.19平成28(ワ)32742著作権侵害差止等請求事件PDF
別紙1
別紙2
別紙3
別紙4

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 沖中康人
裁判官    高櫻慎平
裁判官    広鹵人

*裁判所サイト公表 2018.7.12
*キーワード:写真、著作物性、事業譲渡、美術館グッズ、権利濫用

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■事案

故久保田一竹の着物作品の著作権承継者らが美術館で販売する商品等の複製権侵害性などを争点とした事案

原告:遺族、辻が花染制作会社
被告:美術館運営会社

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、21条、47条、32条1項、民法1条3項、112条、114条

1 著作物性の有無(制作工程写真、美術館写真、制作工程文章及び旧HPコンテンツについて)
2 著作権及び著作者人格権の主体
3 複製等の成否
4 明示又は黙示による利用許諾の有無
5 権利濫用の有無
6 著作権法47条の抗弁の成否
7 著作権法32条1項の抗弁の成否
8 損害額等
9 消滅時効の成否
10 差止めの必要性

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■事案の概要

『本件は,原告らが,故久保田一竹(以下「故一竹」という。)が開発した「一竹辻が花」という独自の染色技術を用いた創作着物作品や,その制作工程に関する文章及び写真等について著作権及び著作者人格権を有している(具体的には,原告Aが,後記一竹作品,制作工程写真及び美術館写真の著作権を有するとともに,後記制作工程文章及び旧HPコンテンツの著作権及び著作者人格権を有し,原告工房が,後記工房作品の著作権及び著作者人格権を有する。)ところ,久保田一竹美術館(以下「一竹美術館」という。)を経営する被告が,同美術館において販売している商品等に原告らに無断で上記着物作品等を複製等したことにより,原告らの著作権(複製権,譲渡権,公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権等)を侵害したと主張して,(1)原告Aにおいて,被告に対し,著作権法112条1項に基づき,別紙「被告配布物目録」1ないし5,7,8,10ないし12記載の各配布物の複製・頒布の差止め,及び被告のウェブサイトにおける別紙「被告HP目録」記載の各文章の自動公衆送信等の差止めを求めるとともに,民法709条及び著作権法114条1項ないし3項に基づき,損害賠償金2765万4034円及びこれに対する不法行為後である平成28年9月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,また,(2)原告工房において,被告に対し,著作権法112条1項に基づき,別紙「被告配布物目録」6及び9記載の各配布物の複製・頒布の差止めを求めるとともに,民法709条及び著作権法114条1項ないし3項に基づき,損害賠償金125万6783円及びこれに対する不法行為後である平成28年9月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。』
(2頁以下)

<経緯>

S35 久保田一竹が「一竹辻が花」染色技術で着物作品創作
H06 原告工房が主体となり一竹美術館設立
H15 一竹死去、原告Aが着物作品の著作権を単独相続
H22 原告工房が民事再生手続開始決定
H24 訴外ICFが一竹美術館の土地等を取得

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■判決内容

<争点>

1 著作物性の有無(制作工程写真、美術館写真、制作工程文章及び旧HPコンテンツについて)

(1)制作工程写真及び美術館写真の著作物性

故一竹による「辻が花染」の制作工程の各場面を撮影した制作工程写真12点について、いずれも個性が表れないものであるとして、その著作物性を否定しています。
また、一竹美術館の外観又は内部を撮影した美術館写真2点についても、個性が表れないものであるとして、その著作物性を否定しています(43頁以下)。

(2)制作工程文章の著作物性

「辻が花染」の各制作工程を説明した文章について、その著作物性が肯定されています(44頁以下)。

(3)旧HPコンテンツの著作物性

旧HPコンテンツについて、その著作物性が肯定されています(45頁)。

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2 著作権及び著作者人格権の主体

(1)制作工程文章の著作権及び著作者人格権の主体

制作工程文章は原告Aが作成したものであり、原告Aが著作権及び著作者人格権を有していると裁判所は認定しています(45頁以下)。

(2)旧HPコンテンツの著作権及び著作者人格権の主体

旧HPコンテンツは原告Aが作成したものであり、原告Aが著作権及び著作者人格権を有していると裁判所は認定しています(46頁以下)。

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3 複製等の成否

(1)制作工程文章について

裁判所は、まず、複製及び翻案の意義について言及した上で、被告作品集の制作工程に関する文章と制作工程文章の表現上の本質的な特徴の同一性について検討。
両者を比較対照した結論として、被告作品集の当該部分は、全体として制作工程文章の表現上の本質的な特徴を直接感得することができると裁判所は判断。
複製ないし翻案にあたるとして、複製権ないし翻案権侵害、また、同一性保持権侵害を認めています(47頁以下)。

(2)旧HPコンテンツについて

被告作品集、被告パンフレット、被告特別割引券、被告HPの各文章と旧HPコンテンツの同一性について検討。
複製権ないし翻案権を侵害し、また、同一性保持権の侵害が認められるもの、あるいは、翻案権及び同一性保持権侵害が認められるもの、さらには、複製権及び公衆送信権を侵害するものがそれぞれ認められています(48頁以下)。

(3)著作権法113条6項所定の著作者人格権侵害について

原告Aは、「わさび」「石鹸」という日常品に一竹作品を縮小してラベルとして貼り付けるという被告の行為について、故一竹の名誉・声望を害するとして、著作者人格権侵害とみなされる旨主張しましたが、原告Aは一竹作品の著作者ではなく著作者人格権を有しないとして、裁判所は原告Aの主張を認めていません(50頁)。

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4 明示又は黙示による利用許諾の有無

(1)明示の利用許諾の有無

被告は、原告工房の再生計画案、原告工房及び訴外一竹辻が花と被告との不動産等売買等契約書及び附属合意書の内容に照らせば、原告らは着物(一竹作品及び工房作品)の引渡し日以降に、訴外ICFが着物を撮影する方法によって、着物の著作物を複製することを許諾し、かつ、美術館の運営に必要な範囲で利用することを明示的に許諾したと主張しました(50頁以下)。
この点について、裁判所は、契約締結の主体は訴外ICFであり、訴外ICFから一竹美術館を買い受けた被告が当然に利用許諾を受けることにはならないと判断。また、条項を検討しても、原告らが訴外ICFに対して一竹作品及び工房作品の著作権について明示的に利用許諾したことを認めるに足りないと判断。
明示の利用許諾の存在が否定されています。

(2)黙示の利用許諾の有無

原告らが被告による著作権利用を黙示的に許諾していたとは認められていません(53頁以下)。

(3)旧HPコンテンツの利用許諾の有無

旧HPコンテンツに関する明示的又は黙示的な利用許諾があったことを認めるに足りる証拠はないと判断されています(53頁以下)。

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5 権利濫用の有無

被告は、原告らは訴外Cによる美術館と展示品等の一括購入により十二分に利益を受けており、また、訴外Cが継続的に美術館への資金援助を行っているにもかかわらず、原告らは付属合意書において約した美術館経営等への協力を行わず、著作権侵害を主張して本訴による差止請求及び損害賠償請求を行っているおり、本訴請求は利益の実質的な二重取りであって、権利濫用に当たる旨主張しましたが、裁判所は被告の主張を認めていません(54頁以下)。

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6 著作権法47条の抗弁の成否

被告は、被告小冊子、被告パンフレット及び被告特別割引券が著作権法47条の「小冊子」に当たると主張しましたが、結論としては、いずれも小冊子に当たらないと判断されています(55頁以下)。

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7 著作権法32条1項の抗弁の成否

被告は、被告小冊子、被告パンフレット、被告特別割引券、被告展示案内チラシ、被告イベント案内チラシ及び被告Facebookへの投稿における一竹作品等の複製は、著作権法32条1項の「引用」に当たると主張しました(56頁以下)。
この点について、裁判所は、いずれも一竹美術館の顧客誘引目的に作成されたものであり、それらにおける一竹作品等の利用は引用にあたらないと判断しています。

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8 損害額等

裁判所は、被告の過失を認定した上で、以下のように被告による各商品の販売等に関して原告らの損害額を認定しています(57頁以下)。

(1)被告作品集(114条1項、慰謝料)

原告A 547万5421円
原告工房 40万5465円

(2)被告小冊子(114条1項)

原告A 104万7623円

(3)被告絵葉書(114条2項)

原告A 462万2203円

(4)被告一筆箋(114条2項)

原告A 合計126万8600円

(5)被告ハンカチ(114条2項)

原告A 合計15万5240円

(6)被告カレンダー(114条3項)

原告A 34万9807円
原告工房 6万3291円

(7)被告クリアファイル(114条3項)

原告A 24万5744円

(8)被告わさびチューブ(114条3項)

原告A 5万3462円

(9)被告石鹸(114条3項)

原告A 6万8040円
原告工房  8424円

(10)被告シール(114条3項)

原告工房 5000円

(11)被告入場券(114条3項)

原告A 3万5700円

(12)被告しおり(114条3項)

原告A 8500円

(13)被告ポスター(114条3項)

原告A 3万7500円

(14)被告パンフレット(114条3項、慰謝料)

原告A 7万6214円
原告工房  6485円

(15)被告特別割引券(114条3項、慰謝料)

原告A 17万0800円

(16)被告展示案内チラシ(114条3項)

原告A 12万2400円

(17)被告イベント案内チラシ(114条3項)

原告A  7万1400円
原告工房 3万5700円

(18)被告 Facebook への投稿(114条3項)

原告A 18万7500円
原告工房 6万3750円

(19)被告HPへの掲載(114条3項)

原告A 15万9000円

(20)弁護士費用相当額損害

原告A 140万円
原告工房 10万円

(合計)
原告A 合計1555万5154円
原告工房合計  68万8115円

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9 消滅時効の成否

平成28年3月28日、原告Aから被告への通知より3年前の平成25年3月28日以前の損害賠償請求権について、時効消滅していると被告は主張しましたが、裁判所は認めていません(79頁)。

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10 差止めの必要性

主文第1項ないし第3項掲記の差止めの必要が認められています(79頁以下)。

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■コメント

山梨県南都留郡富士河口湖町に所在する久保田一竹美術館が舞台の事案。
久保田一竹美術館 ITCHIKU KUBOTA ART MUSEUM

美術館の運営会社が経営難となり、美術館の不動産や着物作品などの所有権を第三者に譲渡したものの、美術館の展示作品の著作権利用について、著作権者と事前に明確な取り決めがされていなかった(51頁以下参照)ことから紛争になった事案となります。
そもそも、譲渡の対象に美術館の「事業」が含まれていたのかどうかという点で、両者の認識に齟齬があります(33頁参照)。
損害額算定の対象となった著作権の利用態様をみてもわかるように、美術館運営引き継ぎにあたっては、権利処理について十分な事前協議が必要になることが分かります。

いずれにしても、本当に当初から作品の著作権の取扱いに関して、黙示的にでも何らかの取り決めが認定できなかったのかどうか、原審の判断の行方について知財高裁の判断を注視したいと思います。

なお、制作過程や美術館を撮影した写真について、その著作物性が否定されており、別紙2に掲載されています。スナップ写真のレベルですが、著作物性を否定した原審の判断については、疑問が残ります。
written by ootsukahoumu at 06:17│知財判決速報2018