最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「トムとジェリー」DVD無許諾販売事件

東京地裁平成30.5.31平成28(ワ)20852著作権侵害差止等請求事件PDF
別紙1

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 沖中康人
裁判官    高桜慎平
裁判官    広鹵人

*裁判所サイト公表 2018.6.12
*キーワード:共同事業合意書、過失、限界利益、侵害者利益相当額、著作権使用料相当額

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■事案

アニメDVDに関する共同事業合意書の確認に関して過失の有無などが争点になった事案

原告:映像ソフト販売会社ら
被告:映像制作会社

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法113条1項1号、114条2項

1 著作権侵害の有無
2 過失の有無
3 損害額(著作権法114条2項)
4 不当利得額(著作権使用料相当額)

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■事案の概要

『本件は,別紙原告ら著作物目録記載の「トムとジェリー」の各アニメーション作品(以下「本件アニメーション作品」という。)の日本語台詞原稿(以下「本件著作物」という。)の著作権を各2分の1の割合で共有する原告らが,本件著作物(台詞原稿)を実演した音声を収録した別紙被告商品目録記載の各DVD商品(以下,まとめて「被告商品」という。)を製造,販売,輸入する被告の行為が著作権侵害(製造につき複製権侵害,販売につき譲渡権侵害,輸入につき著作権法113条1項1号の著作権侵害とみなされる行為)に当たると主張して,被告に対し,(1)著作権法112条1項に基づき,被告商品の輸入,製造及び販売の差止めを求めるとともに,(2)提訴の3年前の日である平成25年6月24日以降の販売分につき民法709条,著作権法114条2項に基づき,損害賠償金4179万6000円及びこれに対する平成28年7月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,また,(3)それより前である平成25年6月23日までの販売分につき民法703条に基づき,不当利得金(著作権使用料相当額)715万9228円及びこれに対する平成28年10月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,それぞれ求める事案である。』
(3頁)

<経緯>

H22 原告らがコンテンツ提供契約締結
   原告アートステーションが台詞原稿、日本語字幕及び日本語音声収録原盤を制作
H23 被告商品販売
H24 原告らが被告に対して警告書通知
H24 被告代理人が原告ら代理人にFAX送信
   被告代理人が原告ら代理人と面談し共同事業合意書等を説明
H27 原被告らが別作品の許諾合意(使用料率10%)
H28 原告らが本訴提起

被告商品目録
1 「15のおはなし トムとジェリー ドタバタ大作戦」
2 「15のおはなし トムとジェリー わくわくランド」
3 「たのしいアニメ 100本立て DVD3枚組」

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■判決内容

<争点>

1 著作権侵害の有無

被告は、原告らに無断で韓国において原告商品に収録された本件アニメーション作品の日本語音声をその映像とともに複製して被告商品を製造し、日本国内で頒布する目的で輸入して、これを販売していると裁判所は認定。
原告商品に収録された本件アニメーション作品の日本語音声を複製することは本件著作物(台詞原稿)を複製にあたり、被告は国内において頒布する目的をもって、輸入の時において国内で作成したとしたならば複製権侵害となるべき行為によって作成された物である被告商品を輸入していることから、上記輸入行為は原告らの著作権を侵害する行為とみなされる(著作権法113条1項1号)と判断。
また、被告商品を国内で販売する行為は原告らの譲渡権(同法26条の2)を侵害すると判断。
結論として、被告は本件被告行為により原告らの著作権を侵害していると判断されています(20頁)。

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2 過失の有無

被告は、平成24年10月に原告らから被告商品1及び2の製造・販売について原告らの著作権を侵害する旨の警告を受けていましたが、被告代理人から同年12月に原告ら代理人に対して、被告商品1及び2の製造・販売は訴外メディアジャパンの有効な使用許諾に基づくもので著作権侵害に当たらない旨の説明を訴外メディアジャパンから受けており、その説明内容が概ね信用できると認識していることを一方的に説明しているのみで、原告らないし原告ら代理人が被告の説明に納得して上記警告を撤回したとか、あるいは、被告商品1及び2の製造・販売が著作権侵害に当たらないことを確認したなどといった事情はなく、単に本訴提起に至るまで被告に対して著作権侵害を更に主張しなかったというにすぎないと裁判所は経緯等を認定。
さらに、共同事業合意書には両代表者の記名のみで押印がないことや原告アートステーション代表者の訴外A宛てメールでは共同事業合意書が未締結である旨記載されている点も認定。
被告がビデオ・映画等の制作・配給・販売・賃貸並びに輸出入業務等を業としており、被告商品の輸入・販売に際して高度の注意義務を負担していることも勘案して、被告商品の輸入・販売を継続した被告には著作権侵害について過失があると認めています(20頁以下)。

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3 損害額(著作権法114条2項)

著作権侵害に基づく著作権法114条2項(侵害者の利益に相当する損害)による原告らの損害は、各原告につき、62万4357円と認定されています(23頁以下)。

ア 被告商品1及び2
(929枚+889枚)×248.53円=45万1827円
各原告につき,22万5913円
イ 被告商品3
8572枚×332.91円×0.24=68万4889円
各原告につき、34万2444円
ウ 弁護士費用
各原告につき、5万6000円
エ 合計
各原告につき、62万4357円

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4 不当利得額(著作権使用料相当額)

原告らの不当利得額(使用料相当損害額)は、各原告につき、52万5938円と認定されています(27頁以下)。

ア 被告商品1及び2
(2678枚+2619枚)×50円=26万4850円
イ 被告商品3
3万3462枚×98円×0.24=78万7026円
ウ 合計 105万1876円
各原告につき、52万5938円

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■コメント

株式会社メディアジャパンと有限会社アートステーションとの間の共同事業合意書の成立は別訴で否定されていますが、共同事業合意書の成否が定かではない時期の販売部分が、結果として無許諾利用となった事案となります。

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■過去のブログ記事

保護期間が満了したアニメ映画「トムとジェリー」に日本語吹き替え音声を付したDVDの制作を巡って共同事業契約の成否が争われた事案の控訴審

知財高裁平成28.2.17平成27(ネ)10115著作権侵害差止等請求控訴事件、同附帯控訴事件
控訴人兼附帯被控訴人 株式会社メディアジャパン
被控訴人兼附帯控訴人 有限会社アートステーションら

2016年02月26日記事
「トムとジェリー」格安DVD事件(控訴審)