最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「FC2動画」アダルトビデオ無断配信発信者情報開示請求事件(対プレステージ)

東京地裁平成29.6.26平成29(ワ)9799発信者情報開示請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 嶋末和秀
裁判官    伊藤清隆
裁判官    天野研司

*裁判所サイト公表 2017.6.30
*キーワード:動画、無断配信、発信者情報開示請求

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■事案

アダルトビデオを「FC2動画」サイトで無断配信した者の情報開示請求をプロバイダに求めた事案

原告:アダルトビデオ制作販売会社
被告:プロバイダ

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■結論

請求認容

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■争点

条文 著作権法14条、17条1項、プロバイダ責任制限法4条

1 原告は本件著作物の著作権者であるか
2 本件動画は本件著作物の複製物であるか
3 被告は「開示関係役務提供者」に当たるか
4 本件発信者情報の開示を受ける必要性は認められるか

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■事案の概要

『本件は,別紙2著作物目録記載の映画の著作物(以下「本件著作物」という。)の著作権者であると主張する原告が,氏名不詳者(以下「本件投稿者」という。)が被告の提供するインターネット接続サービスを経由してインターネット上のウェブサイト「FC2動画」(以下「本件サイト」という。)にアップロードした別紙3動画目録記載の動画(以下「本件動画」という。)は本件著作物の複製物であるから,本件投稿者による上記アップロード行為により原告の有する本件著作物の著作権(公衆送信権)が侵害されたことが明らかであり,本件投稿者に対する損害賠償請求権の行使のために本件動画に係る別紙1発信者情報目録記載の情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を受ける必要があると主張して,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下,単に「法」という。)4条1項に基づき,被告に対し,本件発信者情報の開示を求める事案である。』
(2頁)

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■判決内容

<争点>

1 原告は本件著作物の著作権者であるか

裁判所は、本件著作物が公衆に提供されるに際して、DVDパッケージに原告商標が付されているとか、サイトのトップバナーに原告商標が表示されているなど、原告の名称が本件著作物の著作者名として通常の方法により表示されているということができるとして、原告は本件著作物の著作者と推定され(著作権法14条)、同推定を覆すに足りる事情はうかがわれないと判断。
原告は、本件著作物の著作者と認められ、その後著作権が移転した等の事情もうかがわれないとして、原告は本件著作物の著作権者である(17条1項)と認定しています(4頁以下)。

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2 本件動画は本件著作物の複製物であるか

本件著作物は収録時間2時間1分5秒の動画であること、本件動画の総再生時間は48分42秒であること、本件サイトにアップロードされていた本件動画の再生前サムネイル画像と本件著作物の再生時間27分3秒付近のスクリーンショットとが一致すること、本件動画の再生中のスクリーンショットと本件著作物の再生時間2分44秒付近のスクリーンショットとが一致すること、本件動画は本件著作物の再生時間3分頃から51分頃までと一致すると裁判所は判断。
結論として、本件動画は本件著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものとして再製されたもの、すなわち本件著作物の複製物であると認定しています(5頁)。

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3 被告は「開示関係役務提供者」に当たるか

被告がプロバイダ責任制限法2条3号にいう「特定電気通信役務提供者」に当たり、また、同4条1項にいう「開示関係役務提供者」に当たると裁判所は認定しています(5頁以下)。

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4 本件発信者情報の開示を受ける必要性は認められるか

原告は、原告が有する本件著作物の著作権(公衆送信権)が侵害されたことを原因として、本件投稿者に対して不法行為による損害賠償請求権を行使するために本件発信者情報の開示を求めているものと認められ、損害賠償請求権を行使するためには本件投稿者を特定する必要があることから、原告には同特定のために本件発信者情報の開示を受ける必要があると裁判所は判断しています(6頁)。

結論として、本件投稿者に関する氏名又は名称、住所、電子メールアドレスの情報開示が認められています。

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■コメント

違法にコンテンツが配信された場合、配信者を特定するためにプロバイダに情報開示を求めるステップがありますが、その際、裁判が必要になれば権利者(被害者)は、プロバイダと無断配信者の2回、裁判をする必要があり得、たいへんな手間と労力が掛かることになります。
プロバイダが現状、発信者の情報開示に対してどの程度の事案の場合に訴訟対応しているのか、不明でしたが、先日2017年6月30日開催の第17期文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会第2回を傍聴していた際に、リーチサイトに関する事業者からのヒアリングがあり、その配布資料の中に参考になる数字がありました(「ニフティ株式会社におけるリーチサイトへの対応について」(一社)テレコムサービス協会サービス倫理委員会委員長 丸橋透氏 資料)。
そこでは、ニフティの2016年度権利侵害対応件数として、
訴訟・仮処分17件
任意の請求 382件(ガイドライン書式119件、通報フォーム263件)
合計 399件(発信者情報開示 49件 送信防止措置352件)

また、399件の内訳としては、
著作権侵害 26件(約12%)
名誉毀損などその他 353件(約88%)

とのことでした。

発信者情報開示請求49件のうちの著作権侵害事案での訴訟・仮処分の割合がどの程度か知りたいところですが、著作権侵害事案の割合も勘案すると、さほどの数ではないかとは推察されます。
ただ、そうすると、(いちおう他社案件とはなりますが同じ富士通系列)本事案のように、争点の内容を見る限り、どうして訴訟をしないと開示しないのかいまひとつ判然としないところもあって、発信者情報開示請求訴訟の事案がいつも請求認容をもらっているのをみるにつけ、できるだけ早く社内ガイドラインを精緻化して被害者側に訴訟の手間を掛けさせない対応が求められるのではないかと思うところです。

なお、本事案の裁判所サイト公開と同時に、同種事案となる後掲の対MAXING事件も公開されています。

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■関連判例

「FC2動画」アダルトビデオ無断配信事件(対MAXING)
東京地裁平成29.6.26平成29(ワ)5388発信者情報開示請求事件
判決文PDF

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■追記(2017.07.03)

2017年7月3日公表

ビッグローブ対プレステージ事件(別件)
東京地裁平成29.6.22平成28(ワ)35208発信者情報開示請求事件

動画作品「素人AV体験撮影493」

判決文PDF