最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
綿麻刺繍アンサンブルデザイン事件
大阪地裁平成29.1.19平成27(ワ)9648等不正競争行為差止等請求事件PDF
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 森崎英二
裁判官 田原美奈子
裁判官 大川潤子
*裁判所サイト公表 2017.03.06
*キーワード:形態模倣、応用美術、一般不法行為論
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■事案
婦人用被服のデザインの形態模倣性、著作権侵害性などが争点となった事案
原告:婦人用高級服飾品製造販売会社
被告:婦人服等製造販売会社
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■結論
請求一部認容
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■争点
条文 不正競争防止法2条1項3号、著作権法2条1項1号、2条2項、民法709条
1 被告商品1ないし同3は原告商品を模倣した商品であるか
2 著作権侵害の成否
3 被告商品2、同3の販売行為が一般不法行為を構成するか
4 損害論
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■事案の概要
『本件のうち甲事件は,別紙原告商品目録記載1,同2の各商品(以下「原告商品1」,「原告商品2」という。)を製造,販売していた原告が,別紙被告商品目録記載1,同2の各商品(以下「被告商品1」,「被告商品2」という。)を製造販売する被告に対し,下記1,2の請求をした事案であり,乙事件は,別紙原告商品目録記載3の商品(以下「原告商品3」という。)を製造,販売していた原告が,別紙被告商品目録記載3の商品(以下「被告商品3」という。)を製造販売する被告に対し,下記3の請求をした事案である。
記 (略)』(2頁以下)
<経緯>
H26 原告が原告商品1、2、3を販売
H27 被告が被告商品1、2、3を販売
原告商品1:丸首刺繍レース生地使用七部袖ブラウス
原告商品2:丸首オリジナル刺繍レース使いランニング
原告商品3:胸部リンゴモチ−フ付きボーダー柄長袖チュニックTシャツ
被告商品1:綿麻刺繍アンサンブルのうちのブラウス
被告商品2:綿麻刺繍アンサンブルのうちのランニングシャツ
被告商品3:半袖Tシャツ
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■判決内容
<争点>
1 被告商品1ないし同3は原告商品を模倣した商品であるか
(1)被告商品1
裁判所は、原告商品1と被告商品1を正面視した形態の共通点、相違点を検討。
『両商品は,(1)丸首襟の形状をしていること,(2)前身頃のボタン部の左右部分に,縦方向に一定幅で区切られた範囲においてハシゴ状柄のレース生地が用いられ上下にわたって一定間隔で水平方向の開口部がある部分が設けられていること,(3)その外側部分及び袖口部分には二種類の花柄の刺繍が交互に施されているのに袖部分及び裾部分には刺繍が施されていないという組み合わせとなっているという,両商品の特徴をなす点で正面視した形態が共通している。そして,両商品を背面視した形態はほぼ同一であるから,両商品は商品全体の形態が酷似し,その形態が実質的に同一であるものと認められる。』(16頁)
として、依拠性の点も含め、結論として被告商品1は原告商品1を模倣した商品と判断しています。
(2)被告商品2
裁判所は、原告商品2と被告商品2を正面視した形態の共通点、相違点を検討。
『原告商品2と被告商品2の正面視した形態は,いずれもノースリーブであり,その胸部分に花柄の刺繍が施されている点で形態全体が似ており,とりわけ花柄の刺繍部分などは同一であって被告商品2の形態が原告商品2に依拠して作られたことを容易にうかがわせるものであるが,商品正面の目立つ場所に集中している,ネックラインの形状,前身頃と後身頃の縫い合わせの仕上げの仕方,さらには襟首直下のレース生地による切り替え部分の有無で相違している。
そして,これらの相違点は,ありふれた形態であるノースリーブのランニングシャツの全体的形態に変化を与えており,およそ両商品を対比してみたときに商品全体から見てささいな相違にとどまるものとは認められないから,両商品を背面視した形態が同一であることを考慮したとしても,被告商品2の形態は原告商品2の形態に酷似しているとはいえず,両商品の形態は実質的に同一であるということはできない。』(17頁以下)
として、模倣性を否定しています。
(3)被告商品3
裁判所は、原告商品3と被告商品3を正面視した形態の共通点、相違点を検討。
『原告商品3と被告商品3は,(1)商品全体に黒色と白色の横縞が繰り返されているだけでなく,第1横縞部分,第2横縞部分,第3横縞部分という特徴的な繰り返しパターンがほぼ同様に施されている点,(2)前身頃に類似するデザインの大きなりんごの柄がほぼ同じ手法で施されている点,(3)そのりんご部分を縁取りするようにラインストーンが同じパターンで配されている点で形態が共通しており,これらの特徴的部分で正面視した形態がほぼ同一である。そして,両商品を背面視した形態もほぼ同一であるから,両商品は商品全体の形態が酷似し,その形態が実質的に同一であるものと認められる』
として、被告商品3は原告商品3を模倣した商品であると判断しています(18頁以下)。
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2 著作権侵害の成否
原告は、原告商品2の花柄刺繍部分及び同部分を含む原告商品2全体のデザインは著作物であり、被告商品2は原告商品2を複製ないし翻案したものであるとして、著作権(複製権ないし翻案権)侵害が認められると主張しました(21頁以下)。
この点について、裁判所は、
『原告商品2の花柄刺繍部分のデザインは,衣服に刺繍の装飾を付加するために制作された図案に由来するものと認められ,また同部分を含む原告商品2全体のデザインも,衣服向けに制作された図案に由来することは明らかであるから,これらは美的創作物として見た場合,いわゆる応用美術と位置付けられるものである。』
とした上で、応用美術の意義について言及。そして、
『原告商品2の花柄刺繍部分の花柄のデザインは,それ自体,美的創作物といえるが,5輪の花及び花の周辺に配置された13枚の葉からなるそのデザインは婦人向けの衣服に頻用される花柄模様の一つのデザインという以上の印象を与えるものではなく,少なくとも衣服に付加されるデザインであることを離れ,独立して美的鑑賞の対象となり得るような創作性を備えたものとは認められない』
『また,同部分を含む原告商品2全体のデザインについて見ても,その形状が創作活動の結果生み出されたことは肯定できるとしても,両脇にダーツがとられ,スクエア型のネックラインを有し,襟首直下にレース生地の刺繍を有するというランニングシャツの形状は,専ら衣服という実用的機能に即してなされたデザインそのものというべきであり,前記のような花柄刺繍部分を含め,原告商品2を全体としてみても,実用的機能を離れて独立した美的鑑賞の対象となり得るような創作性を備えたものとは認められない。』
としてデザインの著作物性(著作権法2条1項1号、2条2項)を否定。原告の主張を認めていません。
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3 被告商品2、同3の販売行為が一般不法行為を構成するか
一般不法行為論(民法709条)の肯否について、裁判所は、原告は、被告が原告商品2のデザインをコピーして酷似した商品を製造販売したことを主張するものの、不正競争防止法又は著作権の保護法益とは異なる法益侵害の事実を主張するものではないとして、原告の主張を認めていません(22頁以下)。
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4 損害論
(1)被告商品1の販売による損害(24頁以下)
原告の受ける利益額5834円×販売1232着=718万7488円(不正競争防止法5条1項)
弁護士費用相当額損害 71万円
合計789万7488円
(2)被告商品3の販売による損害
原告の受ける利益額6901円×販売389枚=268万4489円
弁護士費用相当額損害 26万円
合計294万4489円
結論として、被告商品1、同3の製造販売行為の差止め、これら商品の廃棄及び損害賠償として合計1084万1977円が認定されています。
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■コメント
別紙に商品画像が掲載されているため、どのような商品かよくわかります。
過去の婦人服デザインの裁判例としては、丸首ネック、4段フリル、ノースリーブ型カットソーの服飾デザインについて、商品を模倣したかどうかが争われた事案がありました(知財高裁平成17.12.5平成17(ネ)10083、東京地裁平成17.3.30平成16(ワ)12793。)また、ノースリーブ型ワンピースについては、知財高裁平成17.11.10平成17(ネ)10088、東京地裁平成17. 4.27平成16(ワ)12723参照。
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■参考判例
カットソー事件
知財高裁平成17.12.5平成17(ネ)10083
ノースリーブワンピース事件
知財高裁平成17.11.10平成17(ネ)10088
綿麻刺繍アンサンブルデザイン事件
大阪地裁平成29.1.19平成27(ワ)9648等不正競争行為差止等請求事件PDF
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 森崎英二
裁判官 田原美奈子
裁判官 大川潤子
*裁判所サイト公表 2017.03.06
*キーワード:形態模倣、応用美術、一般不法行為論
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■事案
婦人用被服のデザインの形態模倣性、著作権侵害性などが争点となった事案
原告:婦人用高級服飾品製造販売会社
被告:婦人服等製造販売会社
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■結論
請求一部認容
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■争点
条文 不正競争防止法2条1項3号、著作権法2条1項1号、2条2項、民法709条
1 被告商品1ないし同3は原告商品を模倣した商品であるか
2 著作権侵害の成否
3 被告商品2、同3の販売行為が一般不法行為を構成するか
4 損害論
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■事案の概要
『本件のうち甲事件は,別紙原告商品目録記載1,同2の各商品(以下「原告商品1」,「原告商品2」という。)を製造,販売していた原告が,別紙被告商品目録記載1,同2の各商品(以下「被告商品1」,「被告商品2」という。)を製造販売する被告に対し,下記1,2の請求をした事案であり,乙事件は,別紙原告商品目録記載3の商品(以下「原告商品3」という。)を製造,販売していた原告が,別紙被告商品目録記載3の商品(以下「被告商品3」という。)を製造販売する被告に対し,下記3の請求をした事案である。
記 (略)』(2頁以下)
<経緯>
H26 原告が原告商品1、2、3を販売
H27 被告が被告商品1、2、3を販売
原告商品1:丸首刺繍レース生地使用七部袖ブラウス
原告商品2:丸首オリジナル刺繍レース使いランニング
原告商品3:胸部リンゴモチ−フ付きボーダー柄長袖チュニックTシャツ
被告商品1:綿麻刺繍アンサンブルのうちのブラウス
被告商品2:綿麻刺繍アンサンブルのうちのランニングシャツ
被告商品3:半袖Tシャツ
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■判決内容
<争点>
1 被告商品1ないし同3は原告商品を模倣した商品であるか
(1)被告商品1
裁判所は、原告商品1と被告商品1を正面視した形態の共通点、相違点を検討。
『両商品は,(1)丸首襟の形状をしていること,(2)前身頃のボタン部の左右部分に,縦方向に一定幅で区切られた範囲においてハシゴ状柄のレース生地が用いられ上下にわたって一定間隔で水平方向の開口部がある部分が設けられていること,(3)その外側部分及び袖口部分には二種類の花柄の刺繍が交互に施されているのに袖部分及び裾部分には刺繍が施されていないという組み合わせとなっているという,両商品の特徴をなす点で正面視した形態が共通している。そして,両商品を背面視した形態はほぼ同一であるから,両商品は商品全体の形態が酷似し,その形態が実質的に同一であるものと認められる。』(16頁)
として、依拠性の点も含め、結論として被告商品1は原告商品1を模倣した商品と判断しています。
(2)被告商品2
裁判所は、原告商品2と被告商品2を正面視した形態の共通点、相違点を検討。
『原告商品2と被告商品2の正面視した形態は,いずれもノースリーブであり,その胸部分に花柄の刺繍が施されている点で形態全体が似ており,とりわけ花柄の刺繍部分などは同一であって被告商品2の形態が原告商品2に依拠して作られたことを容易にうかがわせるものであるが,商品正面の目立つ場所に集中している,ネックラインの形状,前身頃と後身頃の縫い合わせの仕上げの仕方,さらには襟首直下のレース生地による切り替え部分の有無で相違している。
そして,これらの相違点は,ありふれた形態であるノースリーブのランニングシャツの全体的形態に変化を与えており,およそ両商品を対比してみたときに商品全体から見てささいな相違にとどまるものとは認められないから,両商品を背面視した形態が同一であることを考慮したとしても,被告商品2の形態は原告商品2の形態に酷似しているとはいえず,両商品の形態は実質的に同一であるということはできない。』(17頁以下)
として、模倣性を否定しています。
(3)被告商品3
裁判所は、原告商品3と被告商品3を正面視した形態の共通点、相違点を検討。
『原告商品3と被告商品3は,(1)商品全体に黒色と白色の横縞が繰り返されているだけでなく,第1横縞部分,第2横縞部分,第3横縞部分という特徴的な繰り返しパターンがほぼ同様に施されている点,(2)前身頃に類似するデザインの大きなりんごの柄がほぼ同じ手法で施されている点,(3)そのりんご部分を縁取りするようにラインストーンが同じパターンで配されている点で形態が共通しており,これらの特徴的部分で正面視した形態がほぼ同一である。そして,両商品を背面視した形態もほぼ同一であるから,両商品は商品全体の形態が酷似し,その形態が実質的に同一であるものと認められる』
として、被告商品3は原告商品3を模倣した商品であると判断しています(18頁以下)。
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2 著作権侵害の成否
原告は、原告商品2の花柄刺繍部分及び同部分を含む原告商品2全体のデザインは著作物であり、被告商品2は原告商品2を複製ないし翻案したものであるとして、著作権(複製権ないし翻案権)侵害が認められると主張しました(21頁以下)。
この点について、裁判所は、
『原告商品2の花柄刺繍部分のデザインは,衣服に刺繍の装飾を付加するために制作された図案に由来するものと認められ,また同部分を含む原告商品2全体のデザインも,衣服向けに制作された図案に由来することは明らかであるから,これらは美的創作物として見た場合,いわゆる応用美術と位置付けられるものである。』
とした上で、応用美術の意義について言及。そして、
『原告商品2の花柄刺繍部分の花柄のデザインは,それ自体,美的創作物といえるが,5輪の花及び花の周辺に配置された13枚の葉からなるそのデザインは婦人向けの衣服に頻用される花柄模様の一つのデザインという以上の印象を与えるものではなく,少なくとも衣服に付加されるデザインであることを離れ,独立して美的鑑賞の対象となり得るような創作性を備えたものとは認められない』
『また,同部分を含む原告商品2全体のデザインについて見ても,その形状が創作活動の結果生み出されたことは肯定できるとしても,両脇にダーツがとられ,スクエア型のネックラインを有し,襟首直下にレース生地の刺繍を有するというランニングシャツの形状は,専ら衣服という実用的機能に即してなされたデザインそのものというべきであり,前記のような花柄刺繍部分を含め,原告商品2を全体としてみても,実用的機能を離れて独立した美的鑑賞の対象となり得るような創作性を備えたものとは認められない。』
としてデザインの著作物性(著作権法2条1項1号、2条2項)を否定。原告の主張を認めていません。
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3 被告商品2、同3の販売行為が一般不法行為を構成するか
一般不法行為論(民法709条)の肯否について、裁判所は、原告は、被告が原告商品2のデザインをコピーして酷似した商品を製造販売したことを主張するものの、不正競争防止法又は著作権の保護法益とは異なる法益侵害の事実を主張するものではないとして、原告の主張を認めていません(22頁以下)。
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4 損害論
(1)被告商品1の販売による損害(24頁以下)
原告の受ける利益額5834円×販売1232着=718万7488円(不正競争防止法5条1項)
弁護士費用相当額損害 71万円
合計789万7488円
(2)被告商品3の販売による損害
原告の受ける利益額6901円×販売389枚=268万4489円
弁護士費用相当額損害 26万円
合計294万4489円
結論として、被告商品1、同3の製造販売行為の差止め、これら商品の廃棄及び損害賠償として合計1084万1977円が認定されています。
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■コメント
別紙に商品画像が掲載されているため、どのような商品かよくわかります。
過去の婦人服デザインの裁判例としては、丸首ネック、4段フリル、ノースリーブ型カットソーの服飾デザインについて、商品を模倣したかどうかが争われた事案がありました(知財高裁平成17.12.5平成17(ネ)10083、東京地裁平成17.3.30平成16(ワ)12793。)また、ノースリーブ型ワンピースについては、知財高裁平成17.11.10平成17(ネ)10088、東京地裁平成17. 4.27平成16(ワ)12723参照。
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■参考判例
カットソー事件
知財高裁平成17.12.5平成17(ネ)10083
ノースリーブワンピース事件
知財高裁平成17.11.10平成17(ネ)10088