最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

会員情報管理システム開発事件

東京地裁平成28.10.21平成27(ワ)20841損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 東海林 保
裁判官    広瀬 孝
裁判官    勝又来未子

*裁判所サイト公表 2016.11.16
*キーワード:職務著作

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■事案

ソフトウェアの著作者性が争点となった事案

原告:被告元従業員
被告:コンピュータ関連機器販売会社

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法15条2項

1 システム開発に関する不当利得返還請求の可否
2 被告の安全配慮義務違反に基づく請求の可否
3 「会員情報管理システム」の著作者は原告か被告か
4 保険金に関する請求の可否
5 原告による訴え提起前の照会に対する開示拒否が不法行為に当たるか

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■事案の概要

『本件は,平成19年9月3日から平成22年5月31日までの間,被告に雇用されていた原告が,被告に対し,(1)原告が被告の従業員として開発に従事したコンピュータシステムないしプログラムである別紙プログラム目録記載2の「知らせますケン」(以下,単に「しらせますケン」という。)及び「会員情報管理システム」について,被告が納入先から得た請負代金及び保守代金を原告に分配していないことが不当利得に当たると主張して,不当利得返還請求権に基づき,(1)主位的に,被告が得た請負代金及び保守費用のうちの原告の寄与分相当額から原告が受領済みの賃金額を控除した額合計1938万6607円及びうち558万3703円に対する平成21年4月1日(被告が「知らせますケン」の報酬金の支払を受けた日の翌日)から,うち1380万2904円に対する平成22年4月2日(被告が「会員情報管理システム」の報酬金の支払を受けた日の翌日)から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,(2)予備的に,上記合計額から「会員働者災害補償保険の「神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準」第14級の9に当たる後遺障害を生じたことから,退職及び退職後2年間の休業を余儀なくされたと主張して,債務不履行に基づく損害賠償請求として休業損害,後遺障害逸失利益及び慰謝料相当額(主位的に合計6286万2435円,予備的に合計4912万0445円)並びにこれに対する催告の後の日である平成27年8月8日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め(請求の趣旨第2項),また,(3)被告の業務として原告が制作したプログラムである「会員情報管理システム」について,その制作時,被告が安全配慮義務を怠っていたために原告に重大な労働災害(過労死)が発生する蓋然性が高い状況にあったこと等に照らすと,著作権法15条2項の適用は権利濫用ないし公序良俗違反に当たるから,職務著作とは認められないと主張して,(1)原告が著作者であり,被告が著作者ではないことの確認を求めるとともに(請求の趣旨第3項),(2)著作者人格権に基づいて別紙「技術目録」記載の文言の使用禁止を求め(請求の趣旨第4項),(4)原告が受領すべき保険金(平成21年2月20日発生の通勤時の事故に関するもの)を被告が取得していると主張して,不当利得返還請求権として被告が得た保険金のうち少なくとも8万1000円及びこれにする平成21年5月28日(被告が保険金を受領した日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め(請求の趣旨第5項),(5)原告の訴え提起前の照会に対し,被告が契約書等の書面の開示を拒否したことが不法行為に当たると主張して,不法行為に基づく損害賠償請求として被告及び第三者らに対する照会書等の郵送費用6866円及びこれに対する不法行為の後の日である平成28年4月5日(平成28年3月22日付け請求拡張申立書送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である』(2頁以下)

<経緯>

H20.05 原告が「知らせますケン」開発に従事
H20.09 原告が「会員情報管理システム」開発に従事
H21.02 原告が交通事故で負傷
H22.05 原告退職
H22.06 原告が被告に対して未払賃金等支払を求める訴えを提起(別件訴訟)
H26.08 原告が被告に訴えの提訴予告通知書通知

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■判決内容

<争点>

1 システム開発に関する不当利得返還請求の可否

原告は、被告が取引先から受領した報酬金額に原告の寄与度を乗じた額を原告に返還しなければならないなどとして、システム開発に関する不当利得の返還を主張しました。
この点について、裁判所は、原告は雇用契約(民法623条)に基づいて労働に従事することによって雇用契約の相手方である被告に対する報酬請求権を取得し、被告は原告から労務提供を受けることと引き換えに原告に対する報酬支払債務を負うのであって、労務の提供が雇用契約に基づくものである以上、原告が被告に労務を提供したとしても原告には損失がなく、被告には利得がないとして、原告の主張を認めていません(22頁以下)。

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2 被告の安全配慮義務違反に基づく請求の可否

(略)

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3 「会員情報管理システム」の著作者は原告か被告か

「会員情報管理システム」の著作者について、裁判所は、法人である被告の従業員である原告が被告の発意に基づいてプログラムである「会員情報管理システム」を創作したことについては当事者間に争いがないこと、また、「会員情報管理システム」の著作者に関して、作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがあることはうかがえないと認定。
結論として、「会員情報管理システム」は、著作権法15条2項所定の職務著作に該当し、上記プログラムの著作者は被告であると判断しています。

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4 保険金に関する請求の可否

(略)

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5 原告による訴え提起前の照会に対する開示拒否が不法行為に当たるか

(略)

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■コメント

本人訴訟ということもあって、原告側の主張が整理されていない印象です。