最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

乳幼児用浮き輪取扱説明書事件

東京地裁平成28.7.27平成27(ワ)13258著作権侵害差止等請求事件PDF
別紙1(説明文対比表1)
別紙2(説明文対比表2)
別紙3(挿絵対比表)

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 嶋末和秀
裁判官    鈴木千帆
裁判官    笹本哲朗

*裁判所サイト公表 2016.8.18
*キーワード:取扱説明書、著作物性、二次的著作物、複製、テクニカルライター

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■事案

乳幼児用浮き輪の取扱説明書の挿絵や文言の流用の著作権侵害性が争点となった事案

原告:玩具、ベビー用品輸入販売会社
被告:直輸入品卸売販売会社

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、21条

1 著作権及び著作者人格権侵害の成否
2 差止請求及び廃棄・消去請求の当否
3 損害賠償請求について

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■事案の概要

『1 本件は,「スイマーバ」という商品名の乳幼児用浮き輪(以下「本件商品」という。)の日本における総代理店である原告が,自らが日本国内において本件商品を販売する際に同封している説明書(以下「原告説明書」という。)中の別紙原告説明文目録記載(1)ないし(11)の説明文(以下,それぞれ「原告説明文1」ないし「原告説明文11」といい,これらを併せて「原告説明文」という。)及び別紙原告挿絵目録記載(1)ないし(6)の挿絵(以下,それぞれ「原告挿絵1」ないし「原告挿絵6」といい,これらを併せて「原告挿絵」という。)は,職務著作として原告が著作者となるところ,直輸入品の販売等を営む被告が,平成26年12月5日から平成27年3月16日までの間,日本国内において本件商品を販売する際に同封した説明書(以下「被告説明書」という。)中の別紙被告説明文目録記載(1)ないし(11)の説明文(以下,それぞれ「被告説明文1」ないし「被告説明文11」といい,これらを併せて「被告説明文」という。)及び別紙被告挿絵目録記載(1)ないし(6)の挿絵(以下,それぞれ「被告挿絵1」ないし「被告挿絵6」といい,これらを併せて「被告挿絵」という。)は,原告説明文及び原告挿絵を複製したものであり,被告は原告の複製権及び譲渡権並びに著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)を侵害した旨主張して,被告に対し,(1)著作権法112条1項に基づき,上記著作権の侵害の停止又は予防として,被告説明文及び被告挿絵が記載された説明書の複製及び譲渡の差止めを求めるとともに,(2)同条2項に基づき,上記著作権の侵害の停止又は予防に必要な措置として,被告説明書の廃棄並びに被告説明文及び被告挿絵の電磁的記録の消去を求め,併せて,(3)民法709条に基づき,損害賠償金127万円(著作権侵害による著作権法114条2項に基づく損害50万円,著作者人格権の侵害による慰謝料50万円及び弁護士費用相当損害27万円の合計額)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成27年5月31日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。』(2頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 著作権及び著作者人格権侵害の成否

(1)被告説明文について

被告説明文による原告説明文に係る著作権侵害の成否について、まず、原告説明文1乃至11と被告説明文1乃至11及び原告説明文に関し、裁判所は説明文の性質上、表現方法・表現形式の選択の幅は限られていること(創作性判断)、また、原告説明文は商品製作者であるモントリー社が作成した英文の取扱説明書(モントリー説明書)を原告が日本語に翻訳した上でこれを修正して作成されたものであることから、原告説明文において新たに追加・変更された部分についてのみ、侵害性判断の対象となる(二次的著作物の著作権判断)と説示。その上で、個々的に検討がされています。

・本件商品の取扱説明書において本件商品の用途や使用上の注意事項等を通常の仕方で表現したものは、全く個性の発揮が見られず創作性がない
・「強制」や「禁止」を示す記号の用い方について、製品の取扱説明書においてありふれたものであるから創作性は認められない
・モントリー説明書において言及がある部分については、原告説明文において新たに付与された部分とはいえない
・空気入れビニールおもちゃに関する一般社団法人日本玩具協会によるガイドライン(本件ガイドライン)に依拠して作成された部分には原告の創作性は認められない

等として、結論として、共通する部分に創作性を認めることは困難である、あるいは、少なくとも原告説明文において新たに付与された創作的部分であるとは認められないなどとして、被告説明文による11点すべての著作権侵害性を否定しています(12頁以下)。

次に、被告説明文の記載順序について、裁判所は、原告説明文と被告説明文とは、原告説明文2ないし10と被告説明文2ないし10の記載順序が共通しているものの、この順序は説明書を読む順序や本件商品を使用する際の手順に沿ったものであるとして、創作性を否定しています(28頁)。

(2)被告挿絵について

本件挿絵1ないし3は著作物には当たらないが、本件挿絵4ないし6は著作物に当たると裁判所は判断。被告挿絵4ないし6は、それぞれ、著作物たる原告挿絵4ないし6を複製したと判断しています(28頁以下)。

(3)原告挿絵の著作者・著作権者について

原告挿絵は、株式会社プリモパッソが原告からの委託に基づき作成したものであるところ、その著作権はプリモパッソから原告に譲渡されたことが認められ、原告挿絵を創作した著作者はプリモパッソであり、著作権者は原告であると裁判所は認定しています(34頁以下)。

(4)著作権侵害の成否

被告が被告挿絵4ないし6を含む被告説明書を作成し、これを同封して本件商品を販売したことは、原告挿絵4ないし6に係る原告の複製権及び譲渡権を侵害すると裁判所は判断しています(34頁)。

(5)著作者人格権侵害の成否

被告説明文について、原告説明文に係る著作者人格権侵害を認めることはできず、また、原告挿絵については、プリモパッソが著作者であることから、原告の著作者人格権を侵害したものとは認められないと裁判所は判断しています(34頁)。

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2 差止請求及び廃棄・消去請求の当否

現時点においても、被告が、被告挿絵4ないし6を含む被告説明書を複製、頒布して、これにより原告挿絵4ないし6に係る原告の複製権及び譲渡権を侵害するおそれがあると認められると裁判所は判断。
上記侵害のおそれを理由とする原告の被告に対する著作権法112条1項に基づく差止請求には理由があり、また、同条2項に基づく侵害の停止又は予防に必要な措置として、被告の占有に係る被告説明書のうち被告挿絵4ないし6の記載部分の廃棄又は抹消を求める請求及び被告挿絵4ないし6の電磁的記録の記録媒体からの消去を求める請求にも理由があると判断しています(34頁以下)。

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3 損害賠償請求について

(1)著作権侵害による著作権法114条2項に基づく損害 3万円
(2)弁護士費用相当額損害 10万円

合計13万円(35頁以下)

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■コメント

対照表が別紙として添付されており、比較しやすいです。説明文も挿絵もほぼ、デッドコピーです。挿絵4、5、6ともなるとイラストの著作物性も肯定されやすく、裁判所の侵害性肯定の判断は納得できるところです。
原文が英語文でその部分については日本代理店に著作権がなく、日本語説明文で新たに創作された部分もわずかであることも相まって、原告制作の説明文部分での著作権侵害性は判断が難しいところでした。これが、原文部分も原告制作の説明文であれば、デッドコピー事案ということもあり、あるいは結論は違っていたかもしれません。
日本の販売総代理店としては、独自イラストのほか、創作性のある説明文をある程度の分量で原文に追加するなどすれば、取扱説明書流用対策に一層効果的だったかと考えられます。
なお、取扱説明書の著作物性については、先日、パン切断装置取扱説明書事件(大阪地裁平成28.7.7平成26(ワ)2468特許権侵害差止等請求事件)が公表されたばかりです。

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■過去のブログ記事

パン切断装置取扱説明書事件
2016年08月16日記事