最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

WEB版顧客・販売管理システム事件

東京地裁平成28.8.3平成28(ワ)29129損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 嶋末和秀
裁判官    笹本哲朗
裁判官    天野研司

*裁判所サイト公表 2016.8.18
*キーワード:譲渡権、貸与権、プログラム

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■事案

納品されたソフトウェアの利用関係を巡って争われた事案

原告:ソフト制作会社
被告:通信機器販売会社

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法26条の2、26条の3

1 譲渡権の侵害行為性
2 貸与権の侵害行為性

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■事案の概要

『第2 請求原因(原告の主張)
1 原告の有する著作権(プログラムの著作権)
原告の代表者及び従業員は,原告の発意に基づき,原告の職務上,別紙プログラム目録記載の各ソフトウェアプログラム(以下,同目録の番号に対応して「本件プログラム1」などといい,本件プログラム1ないし同3を併せて「本件各プログラム」という。)を作成した。
2 被告による著作権侵害行為
(1) 譲渡権(著作権法26条の2)の侵害行為
ア 被告は,平成26年9月18日から平成27年9月30日までの間に,次のとおり,本件各プログラムを改変して被告の顧客のコンピュータやサーバーにインストールした。
 番号  顧客名  提供したプログラム
(1)高齢者住宅タウンカワサキ 本件プログラム3
(2)株式会社ヒューテック  本件プログラム1,同3
(3)フジ建材リース株式会社 本件プログラム1
(4)荒畑園 本件プログラム3
 なお,上記番号(3)及び(4)に関し,被告は,平成28年4月11日の本件第2回弁論準備手続において陳述した同年3月30日付け準備書面1により,「フジ建材リース向けソフトウェア及び荒畑園向けソフトウェアは,平成26年9月の時点では完成しておらず,その後,被告自身がこれを完成させて納品したものである。」として,譲渡の事実を認めている。
イ 上記アの行為は,本件各プログラムをその原作品又は複製物の譲渡により公衆に提供するものであり,原告が有する本件各プログラムの譲渡権を侵害する行為に当たる。
(2) 貸与権(著作権法26条の3)の侵害行為
ア 被告は,平成26年9月18日から平成27年9月30日までの間に,次のとおり,本件各プログラムをレンタルサーバ上に設置した上,被告の顧客にインターネットを通じて本件各プログラムを使用させた。
 番号 顧客名 提供したプログラム
(5)有限会社チア 本件プログラム2
(6)アセットフィルド株式会社 本件プログラム3
(7)時空間 本件プログラム1
(8)株式会社オフィスオパ 本件プログラム3
(9)有限会社DFI 本件プログラム1
(10)株式会社サティスファクション 本件プログラム1
 なお,上記番号(9)に関し,被告は,平成28年4月11日の本件第2回弁論準備手続において陳述した同年3月30日付け準備書面1により,「平成26年9月時点で実際に使用されていたのは,・・・DFI向けソフトウェアの2点だけであり,しかも後者(判決注:DFI向けソフトウェアを指す。)については遅くとも平成26年12月までに全く使用されなくなった。」として,少なくとも平成26年12月までの貸与の事実を認めている。
 また,上記番号(5)に関し,甲第1号証によれば,現在も,有限会社チアが本件プログラム2を使用していることが認められるから,被告による貸与の事実が推認されるというべきである。
イ 上記アの行為は,本件各プログラムをその複製物の貸与により公衆に提供するものであり,原告が有する本件各プログラムの貸与権を侵害する行為である。なお,ここにいう「複製物」とは,被告の顧客のパソコンを指すものである。
3 被告の故意又は過失
 被告は,原告の有する本件各プログラムの譲渡権又は貸与権を侵害することにつき,故意又は過失があった。
4 原告が受けた損害の額
 本件各プログラムの著作権の行使につき原告が受けるべき金銭の額は,プログラムの個数,譲渡又は貸与先の数を問わず,1か月につき16万2000円(消費税を含む。)である。
 したがって,平成26年9月18日から平成27年9月30日までの被告の行為により原告が受けた損害の額は,201万4200円と計算される。
5 よって,原告は,著作権(譲渡権又は貸与権)侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき,被告に対し,損害賠償金201万4200円の支払を求める。』(1頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 譲渡権の侵害行為性

原告は、被告が平成26年9月18日から平成27年9月30日までの間に本件各プログラムを改変して被告の顧客のコンピュータやサーバーにインストールした行為が、原告が有する本件各プログラムの譲渡権を侵害する行為に当たると主張しました。
この点について、裁判所は、
『著作権法上,譲渡権とは,「その著作物・・・をその原作品又は複製物・・・の譲渡により公衆に提供する権利」(同法26条の2)とされ,ここにいう「譲渡」とは,目的物の所有権を移転させる行為をいうものと解されるところ,被告が本件各プログラムを改変して被告の顧客のコンピュータやサーバーにインストールする行為は,本件各プログラムの「原作品」や「複製物」の所有権を移転させるものではなく,そもそも上記意味における「譲渡」に当たらないから,同行為が,原告の有する本件各プログラムの譲渡権を侵害するということはできない』と判断。原告の主張を認めていません(4頁以下)。

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2 貸与権の侵害行為性

原告は、被告が平成26年9月18日から平成27年9月30日までの間に本件各プログラムをレンタルサーバ上に設置した上で、被告の顧客にインターネットを通じて本件各プログラムを使用させた行為が原告が有する本件各プログラムの貸与権を侵害する行為に当たると主張しました。
この点について、裁判所は、
『著作権法上,貸与権とは,「著作物・・・をその複製物・・・の貸与により公衆に提供する権利」(同法26条の3)とされ,「貸与」とは,使用期間を限った上で複製物を占有して使用する権原を取得させる行為をいうものと解されるところ(同法2条8項参照),被告が本件各プログラムをレンタルサーバ上に設置した上,被告の顧客にインターネットを通じて本件各プログラムを使用させる行為は,使用期間を限った上で本件各プログラムの「複製物」を占有して使用する権原を取得させるものではなく(原告は,被告の顧客のパソコンを「複製物」と主張するところ,被告が同パソコンを顧客に「貸与」していないことは明らかである。仮に,本件各プログラムが設置されたレンタルサーバを「複製物」と解したとしても,インターネットを通じてレンタルサーバ上のプログラムを提供する行為は,同レンタルサーバを顧客の占有下に置くものではないから,やはり複製物を「貸与」するものと解することはできない。),そもそも上記意味における「貸与」に当たらないから,同行為が,原告の有する本件各プログラムの貸与権を侵害するということはできない。』と判断。原告の主張を認めていません(5頁)。

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■コメント

本人訴訟ということもあって、争点が整理されていません。
被告の反論内容からすると、原被告間で被告の顧客向けにカスタマイズされたソフトの制作・利用に関する事案のようですが、原被告間の契約上そもそもどうなっていたのかが判然としません。