最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

パン切断装置取扱説明書事件

大阪地裁平成28.7.7平成26(ワ)2468特許権侵害差止等請求事件PDF
別紙1(特許公報)
別紙2(被告製品1説明書)
別紙3(乙7図面)
別紙4(原告スライサー及び原告プログラムの内容)

大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官 高松宏之
裁判官    田原美奈子
裁判官    林啓治郎

*裁判所サイト公表 2016.08.09
*キーワード:プログラム、創作性、取扱説明書、写真、図面

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■事案

パン切断装置の制御プログラムや取扱説明書の著作物性が争点となった事案

原告:パン切断装置製造販売会社
被告:食品機械、省力機器製造販売会社

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、114条3項

1 公然実施発明を主引例とする進歩性欠如について
2 原告プログラムの著作者及び著作物性の有無
3 原告取扱説明書の著作者及び著作物性の有無
4 被告が原告取扱説明書について複製、翻案、複製物の譲渡をしたか
5 原告取扱説明書の著作権侵害に基づく損害賠償請求に係る損害額

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■事案の概要

『原告は,被告に対し,下記の請求をした。
(1)特許権に基づく請求
原告は,発明の名称を「パン切断装置」とする特許権を有するところ,被告の製造,販売した製品が当該発明の技術的範囲に属すると主張して,被告に対し,当該特許権に基づき,当該製品の製造,販売等の差止め及び廃棄を求めた。
(2)プログラムに係る著作権に基づく請求
原告は,自ら製造,販売するパン切断装置にインストールされたプログラムにつき著作権を有するところ,被告が同じ内容のプログラムをインストールして製品を製造,販売して上記の著作権を侵害したと主張し,被告に対し,著作権法112条により,当該製品の製造,販売等の差止め及び廃棄を求めた。
(3)取扱説明書に係る著作権に基づく請求
原告は,自ら製造,販売するパン切断装置に添付していた取扱説明書につき著作権を有するところ,被告が同じ内容の取扱説明書を作成,頒布して上記の著作権を侵害したと主張し,被告に対し,著作権法112条により,当該取扱説明書の作成,頒布の差止め及び廃棄を求めた。
(4)不法行為による損害賠償請求
原告は,上記の特許権又は著作権の侵害を原因とする不法行為による損害賠償請求として,損害合計額の一部である8000万円及びこれに対する不法行為後であり,訴状送達の日の翌日である平成26年4月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。』
(2頁以下)

本件特許:特許番号第4148929号
発明の名称:「パン切断装置」
原告スライサー:「縦横切りスライサー」(型式 L7A型)
原告取扱説明書1:製品名「バーチカルカッター」(型式BVC6)取扱説明書
原告取扱説明書2:原告スライサー取扱説明書
被告製品1:型式SS03 製品名「シートケーキ 縦・横切りスライサー」
被告製品2:製品名「縦横切りスライサー」(型式 TL−7A)
被告取扱説明書1:被告製品1取扱説明書
被告取扱説明書2:被告製品2取扱説明書

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■判決内容

<争点>

1 公然実施発明を主引例とする進歩性欠如について

本件特許発明は、当業者が原告旧製品の構成等に基づいて容易に発明することができたものであり、進歩性を欠くとして、本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものであると判断されています(52頁以下)。

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2 原告プログラムの著作者及び著作物性の有無

原告プログラムの内部リレーの規定方法の創作性(著作権法2条1項1号、10号の2)について、裁判所は、選択の余地が広いとはいえないとして、創作性を否定しています(62頁以下)。
また、原告プログラムの各回路の記述の順序の創作性についてもありふれたものであるなどとして否定しています(72頁以下)。
さらに、原告プログラムのコメントの内容(原告プログラムが入力される回路等の記号の下に記載されたコメント)の創作性についても、ありふれた表現であるとしてその創作性を否定しています(73頁)。

結論として、原告プログラムの著作権に係る請求はいずれも認められていません。

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3 原告取扱説明書の著作者及び著作物性の有無

(1)著作者について

原告取扱説明書の表紙に作成名義の記載として原告の商号の記載があることから、原告取扱説明書は、原告の発意に基づきその業務に従事する者が職務上作成した著作物に当たるとして、原告の著作者性が認定されています(73頁以下)。

(2)原告取扱説明書1

通常の図面とは異なる描画方法があり、その程度は低いものの、図面作成者の個性が表れていると認められるとして、著作物としての創作性を有すると裁判所は判断しています。

(3)原告取扱説明書2

(ア)図面について

ありふれたものとして図面に著作物としての創作性が認められていません。

(イ)写真について

「原告製品」欄の写真1、2は、刃物の取り外し及び取り付けを視覚的に伝えるために撮影されたものであり、定められた作業手順をそのまま撮影したものであるから、その性質上、図面作成者の個性が表れる余地が乏しいものであると裁判所は説示した上で、これら6点の写真について、『機械を中央に配し,作業をする者の横側の,やや斜め上の角度から,作業工程を撮影したものであり,機械と共に,作業をする者の両腕が写り込んでいるところ,作業内容を分かりやすく示すために,機械の配置,構図,カメラアングル,作業をする者のどの部分を撮影するかなどといった点に,その程度は低いものの,それなりの工夫がされており,個性が表れている』と判断。
結論として、創作性を肯定しています。

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4 被告が原告取扱説明書について複製、翻案、複製物の譲渡をしたか

被告取扱説明書1の図面及び被告取扱説明書2の写真は、原告取扱説明書1の図面及び原告取扱説明書2の写真と同一であり、被告に故意又は過失も認められるとして、被告は本件図面等(図面と写真)の複製権侵害の責任を負うと裁判所は判断。

結論として、差止請求としては、本件図面等を掲載した被告取扱説明書の作成、頒布の差止めの限度で、また、廃棄請求は、本件図面等の部分の廃棄の限度で認容しています(76頁)。

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5 原告取扱説明書の著作権侵害に基づく損害賠償請求に係る損害額

(1)原告取扱説明書に係る著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額

(ア)図面
1点につき7500円 3点 2万2500円

(イ)写真
1点につき5000円 4点 2万円

(2)弁護士・弁理士費用相当額損害
2万円

以上、損害合計額6万2500円(76頁以下)

結論として、原告の請求は、原告取扱説明書1、2中の本件図面等に係る著作権に基づく本件図面等を掲載した被告取扱説明書1、2の作成及び頒布の差止請求及び被告取扱説明書1、2中の本件図面等の廃棄請求、並びに本件図面等の著作権侵害の不法行為による損害賠償として6万2500円の範囲で認容されています。

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■コメント

シートケーキを縦・横に切断するスライサー切断装置の特許権や装置に実装されているプログラム、また、装置の操作方法やメンテナンス方法についての取扱説明書に関する著作権が争点になっています。
被告代表者のほか少なくとも4名が原告に在籍していたという経緯があった事案となります。
取扱説明書の著作物性については、過去、風呂バンス浴湯保温器取扱説明書事件やウェブサイト入力フォームアシスト機能説明資料事件などがありますが、本件では、取扱説明書のなかの写真と図面について、デッドコピーであった点が創作性判断の結論に大きく影響しているものと考えられます。

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■参考判例

・風呂バンス浴湯保温器取扱説明書事件
大阪高裁H17.12.15平成17(ネ)742不正競争行為差止等請求控訴事件
控訴審
大阪地裁H17.2.8平成15(ワ)12778不正競争行為差止等請求事件
原審

・ウェブサイト入力フォームアシスト機能説明資料事件
東京地裁平成25.9.12平成24(ワ)36678著作権侵害差止等請求事件
判決文