最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

自動接触角計プログラム事件(控訴審)

知財高裁平成28.4.27平成26(ネ)10059損害賠償等、著作権侵害差止等、損害賠償(反訴)請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 高部眞規子
裁判官    柵木澄子
裁判官    鈴木わかな

*裁判所サイト公表 2016.6.28
*キーワード:プログラム、著作物性、複製、翻案、営業秘密、営業誹謗行為

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■事案

接触角計測装置のプログラムを巡って退職従業員らと著作権侵害性や営業秘密管理性が争点になった事案の控訴審

控訴人兼附帯被控訴人(一審原告):測定機器企画設計製造会社、各種機械装置開発製造会社、原告退職従業員
被控訴人兼附帯控訴人(一審被告):理化学機器の開発設計製造会社

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■結論

控訴棄却、附帯控訴変更

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、21条、27条、不正競争防止法2条6項、2条1項7号、8号、14号

1 著作権に基づく請求
2 営業秘密に係る不正競争防止法に基づく請求
3 不法行為に基づく請求
4 労働契約上の債務不履行に基づく請求
5 損害額
6 不当利得(退職金)返還請求
7 不当訴訟による損害賠償請求
8 虚偽事実の告知に係る不正競争防止法に基づく請求

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■事案の概要

『(1)原審の事案の概要(略)
(2)原判決の内容
ア 原審A事件
原判決は,被告旧接触角計算(液滴法)プログラムは,プログラムの著作物である原告接触角計算(液滴法)プログラムを複製又は翻案したものと認められる旨を判示して,被控訴人のA事件請求を,控訴人ニック及び控訴人Xに対し,損害賠償として,連帯して190万1258円及びこれに対する平成23年12月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で一部認容し,その余はいずれも棄却した。
イ 原審B事件
原判決は,(1)被告新接触角計算(液滴法)プログラムは,原告接触角計算(液滴法)プログラムを翻案したものであるとは認められない,(2)原告ソースコード及び原告アルゴリズムは,不正競争防止法2条6項の「営業秘密」に該当せず,また,控訴人Xが,原告ソースコードを被控訴人から持ち出し,控訴人ニックに開示したとも認められない,(3)原告ソースコード及び原告アルゴリズムは,「秘密保持に関する誓約書」にいう秘密情報に該当するとは認められず,また,控訴人Xが,原告ソースコードを被控訴人から持ち出したとも認められない,(4)控訴人Xに非違行為があったとは認められない旨を判示して,被控訴人のB事件請求をいずれも棄却した。
ウ 原審C事件
原判決は,(1)被控訴人のB事件の訴訟提起は,不法行為には当たらない,(2)被控訴人の本件告知1及び2の掲載,本件告知文書A及びBの送付は,不正競争防止法2条1項15号には該当しない旨を判示して,控訴人ニック及び控訴人あすみ技研のC事件請求をいずれも棄却した。

(3)控訴及び附帯控訴の内容
控訴人らは,原判決中の敗訴部分を不服として,その取消しを求めて本件控訴を提起し,請求の一部を減縮した。また,被控訴人は,附帯控訴して,原判決中の敗訴部分の取消しを求め,請求の一部を減縮した。』(7頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 著作権に基づく請求

原審同様、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムは、原告接触角計算(液滴法)プログラムを複製又は翻案したものであると判断。また、被告新接触角計算(液滴法)プログラムが原告接触角計算(液滴法)プログラムを翻案したものではないと控訴審は判断。
結論として、原審A事件について、控訴人ニック及び控訴人Xには、著作権侵害について故意又は過失があるとして、被控訴人に対して著作権侵害による損害賠償責任を負い、原審B事件について、著作権侵害に基づく差止め及び廃棄請求並びに損害賠償請求は、いずれも理由がないと判断しています(51頁以下)。

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2 営業秘密に係る不正競争防止法に基づく請求

(1)被告旧バージョンに係る請求(原審A事件)

(ア)控訴人Xの不正競争
営業秘密の不正使用、不正開示の肯否について、控訴人Xの行為は、被控訴人の営業秘密に該当する原告ソースコードに関して不正競争防止法2条1項7号に該当すると判断しています。

(イ)控訴人ニックの不正競争
控訴人ニックは、原告ソースコードについて不正開示行為であることを知ってこれを取得又は使用したものと認めることができるとして、控訴人ニックの行為は不正競争防止法2条1項8号の不正競争に該当すると判断しています。

(2)被告新バージョンに係る請求(原審B事件)

控訴人Xの行為や控訴人ニックの行為、ひいては、控訴人あすみ技研の行為は、不正競争によって被控訴人の営業上の利益を侵害する行為に該当するということはできないとして、被控訴人の被告新バージョンに係る差止め及び廃棄請求並びに損害賠償請求はいずれも理由がないと判断しています(72頁以下)。

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3 不法行為に基づく請求

被告旧バージョンに係る請求(原審A事件)について、民法709条にも該当すると判断。被告新バージョンに係る請求(原審B事件)については、不法行為に基づく損害賠償請求はいずれも理由がないと判断しています(90頁以下)。

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4 労働契約上の債務不履行に基づく請求

控訴人Xが、被控訴人を退職するに際して被控訴人の機密及び秘密情報に該当する原告ソースコードを廃棄せず、退職後も保有して被控訴人に返還しなかったことは、労働契約上の秘密保持義務違反の債務不履行に該当すると控訴審は判断。
被告旧バージョンに係る請求(原審A事件)について、控訴人Xには被控訴人の機密及び秘密情報に該当する原告ソースコードに関して、労働契約上の秘密保持義務違反の債務不履行を認定。これに対して、被告新バージョンに係る請求(原審B事件)については、債務不履行による損害賠償請求は認められていません(92頁以下)。

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5 損害額

調査費用84万円、弁護士費用額30万円の合計304万9890円が認定されています(93頁以下)。

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6 不当利得(退職金)返還請求

受領した退職金の返還請求について、被控訴人の原審B事件請求は、控訴人Xに対して不当利得返還請求権に基づき44万3131円及び平成24年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があると判断されています(98頁以下)。

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7 不当訴訟による損害賠償請求

B事件に係る訴訟提起が不法行為を構成するか否かについて、控訴人ニック及び控訴人あすみ技研の不当訴訟に基づく損害賠償請求はいずれも理由がないと判断されています(100頁以下)。

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8 虚偽事実の告知に係る不正競争防止法に基づく請求

本件各告知行為が虚偽の事実の告知又は流布に当たるか否かについて、控訴人ニック及び控訴人あすみ技研の不正競争防止法に基づく損害賠償請求は、いずれも理由がないと判断されています(103頁以下)。

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■コメント

控訴人Xらによる営業秘密の不正使用等が原審に反し控訴審では肯定されており、控訴人Xの労働契約上の債務不履行も認められて損害額が増額の方向で変更されています。また、それに伴い控訴人Xの退職金の返還請求も控訴審では認められています。

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■過去のブログ記事

2014年06月10日 原審記事

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■参考サイト

協和界面科学株式会社 平成28年5月10日プレスリリース
株式会社ニックに対する訴訟(地裁・高裁)に関するお知らせ