最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

宇多田ヒカル「First Love」事件

東京地裁平成28.4.21平成27(ワ)28086損害賠償等請求事件PDF
別紙1(原告請求目録)

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 長谷川浩二
裁判官    萩原孝基
裁判官    中嶋邦人

*裁判所サイト公表 2016.5.16
*キーワード:著作者性

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■事案

宇多田ヒカルの楽曲について、原告の共同著作者性が争点となった事案

原告:個人
被告:宇多田ヒカル

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、2号

1 請求の特定
2 通知の合意の成否
3 著作者性

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■事案の概要

『本件は,原告が,宇多田ヒカル名義の編集著作物であるCDアルバム「First Love」(以下「本件アルバム」という。)及び「誰かの願いが叶うころ」と題する楽曲の歌詞(以下,これと本件アルバムを併せて「原告著作権主張作品」という。)の共同著作者であり,「B&C」,「はやとちり」及び「Wait&See〜リスク〜」と題する各楽曲の歌詞(以下「原告関与主張歌詞」と総称する。)の被告による創作に関与したが,被告が原告の氏名を表示せず,被告のみが著作者として利益を得ており,これにより原告が損害を被ったと主張して,被告に対し,(1)著作権法2条,12条1項,19条1項及び115条に基づきウェブサイト上に原告の氏名及び謝辞を表示すること(第1請求),(2)民法1条,90条及び91条に基づき被告が原告と合意した上で著作物を発表する前に原告に通知等を行うこと(第2請求),(3)民法709条,著作権法114条3項に基づき原告著作権主張作品及び原告関与主張歌詞から受領すべき金員を支払うこと(第3請求),(4)民法709条,710条に基づき損害賠償金1339万1000円を支払うこと(第4請求),(5)著作権法115条及び民法723条に基づき原告著作権主張作品及び原告関与主張歌詞の創作に原告が関わった事実を公表すること(第5請求)並びに(6)著作権法112条に基づき本件の裁判が確定するまで被告による新たな著作物の販売を差し止めること(第6請求)を求める事案である。』
(1頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 請求の特定

被告は、本案前の主張として原告の請求が特定されていないことを理由に本件訴えの却下を求めましたが、裁判所は、いずれも請求として特定されていないとはいえないとして、本案について判断がされています(2頁)。

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2 通知の合意の成否

原告は、「原告が表意する文言ならびに発案などを被告が創作また実演する営利を目的とした著作物に用いる場合は、その長短、程度に係らず、その著作物を発表する以前に原告に通知し、双方協議の上、双方の合意を持って発表すること」(別紙1参照)等を民法1条、90条及び91条に基づき被告に対して求めました。

この点について、裁判所は、上記各条によっても、こうした合意を形成して通知等を求める法律上の請求権が生じるとはいえないとして、原告の主張を認めていません(2頁)。

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3 著作者性

原告は、本件アルバムにおける本件アルバム名と同名の楽曲の曲順やテンポ等が原告が被告に伝えた内容を反映したものとなっていること、また、「誰かの願いが叶うころ」と題する歌の歌詞のうち、「みんなに必要とされる君を癒せるたった一人になりたくて少し我慢し過ぎたな」の部分が、被告宛の投稿を受け付けるウェブサイトに原告が投稿した文章に依拠した結果として、ほぼ同一のものとなっていることから、原告著作権主張作品については原告が共同著作者の一人であり、また、原告関与主張歌詞については被告による創作に関与したと主張しました(2頁以下)。

この点について、裁判所は、

「本件の関係各証拠を総合しても原告が主張する伝達内容が被告に伝えられたとは認め難い上,仮にそのような事実が認められるとしても,ある作品の著作者であるというためには,その者が思想又は感情を創作的に表現したものであることを要する(著作権法2条1項1号,2号)。ところが,原告が主張する伝達内容は,楽曲のテンポその他の素材の内容及び配列の順序のいずれの点においても,創作のための着想にすぎず,具体的な表現であるということはできない。」と判断。

また、原告がウェブサイトに上記歌詞と表現上符合するような投稿をしたことをうかがわせる証拠はなく、さらに、原告関与主張歌詞についての原告の主張についてみても、原告は具体的な関与経過について何ら主張立証していないとして、原告の主張を認めていません。

結論として、原告の請求1乃至6について、いずれも認められていません。

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■コメント

原告の主張を見ると宇多田ヒカルの創作現場に近い関係者の印象ではありますが、原告の経歴や経緯は不明です。
なお、本件は本人訴訟で、被告側代理人として前田哲男先生がご担当です。