最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「生命の實相」収録論文事件(控訴審)

知財高裁平成28.2.24平成27(ネ)10062著作権侵害差止等請求控訴事件、同附帯控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 高部眞規子
裁判官      柵木澄子
裁判官      鈴木わかな

*裁判所サイト公表 2016.3.4
*キーワード:出版許諾、信頼関係破壊、出版権

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■事案

聖典「生命の實相」等に関連する出版許諾契約関係の解消にあたって信頼関係が破壊されているかどうかなどが争点となった事案の控訴審

控訴人(1審被告):出版社
控訴人兼附帯被控訴人(1審被告):宗教法人
被控訴人兼附帯控訴人(1審原告):公益財団法人、出版社

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■結論

原判決一部変更、附帯控訴棄却

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■争点

条文 民法540条

1 本件著作物1の素材である論文の著作権の帰属
2 控訴人書籍の出版に関する許諾の終了
3 被控訴人事業団の損害額
4 控訴人経本に関する本件覚書に係る合意の終了

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■事案の概要

『1 本件は,(1)被控訴人事業団が,言語の著作物である「生命の實相」(本件著作物1)及び「聖経 甘露の法雨」(本件著作物2)につき,著作権を有するところ,控訴人教文社による原判決別紙書籍目録1記載の書籍(以下「控訴人書籍」という。)の出版及び控訴人生長の家による同目録2記載の経本(以下「控訴人経本」という。)の出版は,上記各著作物に係る被控訴人事業団の著作権(複製権,譲渡権)を侵害する旨主張して,(1)控訴人教文社に対し,本件著作物1の著作権に基づき,控訴人書籍の複製,頒布又は販売の申出の差止め及び廃棄,(2)控訴人教文社に対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,50万円(弁護士費用相当額)及びこれに対する不法行為の後の日である平成25年11月23日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払,(3)控訴人生長の家に対し,本件著作物2の著作権に基づき,控訴人経本の複製又は頒布の差止め,(4)控訴人生長の家に対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,50万円(弁護士費用相当額)及びこれに対する不法行為の後の日である平成25年11月25日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,(2)被控訴人光明思想社が,本件著作物1及び2につき,出版権を有するところ,控訴人教文社による控訴人書籍の出版及び控訴人生長の家による控訴人経本の出版は,上記各著作物に係る被控訴人光明思想社の出版権を侵害する旨主張して,(1)控訴人教文社に対し,本件著作物1の出版権に基づき,控訴人書籍の複製の差止め,(2)控訴人教文社に対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,50万円(弁護士費用相当額)及びこれに対する不法行為の後の日である平成25年11月23日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払,(3)控訴人生長の家に対し,本件著作物2の出版権に基づき,控訴人経本の複製の差止め,(4)控訴人生長の家に対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,50万円(弁護士費用相当額)及びこれに対する不法行為の後の日である平成25年11月25日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。』

『2 原判決は,(1)被控訴人事業団は,素材である論文の著作権を含む本件著作物1の著作権を取得したものと解されるところ,本件著作物1に含まれる論文を素材とし,これを選択及び配列した編集著作物である控訴人書籍に係る被控訴人事業団と控訴人教文社との間の著作物使用許諾契約(本件許諾)は,被控訴人事業団の解約により,平成26年7月24日終了したから,控訴人書籍の出版は,被控訴人事業団の本件著作物1に係る著作権(複製権,譲渡権)を侵害する行為であり,また,昭和34年11月22日付け「聖経 甘露の法雨の複製承認に関する覚書」(本件覚書)に係る合意による本件著作物2の使用許諾は,被控訴人事業団の解約により,平成24年3月31日限り終了したから,控訴人経本の出版は,被控訴人事業団の本件著作物2に係る著作権(複製権,譲渡権)を侵害する行為であるなどとして,被控訴人事業団の控訴人らに対する請求を,(1)控訴人教文社に対し,控訴人書籍の複製,頒布又は販売の申出の差止め及び廃棄,(2)控訴人教文社に対し,20万円及びこれに対する平成26年7月24日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払,(3)控訴人生長の家に対し,控訴人経本の複製又は頒布の差止め,(4)控訴人生長の家に対し,20万円及びこれに対する平成25年11月25日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で認容し,その余をいずれも棄却した。(2)また,被控訴人光明思想社が控訴人書籍に係る出版権を取得したとは認められないが,本件著作物2の出版権を有するところ,控訴人生長の家による控訴人経本の出版は,被控訴人光明思想社の出版権を侵害するなどとして,被控訴人光明思想社の請求を,(1)控訴人生長の家に対し,控訴人経本の複製の差止め,(2)控訴人生長の家に対し,20万円及びこれに対する平成25年11月25日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で認容し,その余の控訴人生長の家に対する請求及び控訴人教文社に対する請求をいずれも棄却した。』

『3 そこで,控訴人らが,原判決中の敗訴部分の取消しを求めて本件控訴を提起した。
 また,(1)被控訴人事業団が,控訴人生長の家を附帯被控訴人として附帯控訴して,控訴人生長の家に対する不法行為による損害賠償請求に係る部分について請求を拡張し,2281万2000円(著作権法114条3項に基づく損害額2031万2000円,弁護士費用相当額250万円の合計額)及びうち50万円に対する平成25年11月25日から,うち2231万2000円に対する平成27年7月11日(附帯控訴状送達の日の翌日)から,各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,(2)被控訴人光明思想社が,控訴人生長の家を附帯被控訴人として附帯控訴して,控訴人生長の家に対する不法行為による損害賠償請求に係る部分について請求を拡張し,5030万3560円(同条1項に基づく損害額4580万3560円,弁護士費用相当額450万円の合計額)及びうち50万円に対する平成25年11月25日から,うち4980万3560円に対する平成27年7月11日(附帯控訴状送達の日の翌日)から,各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。』(3頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 本件著作物1の素材である論文の著作権の帰属

原審同様、控訴審も被控訴人事業団が昭和21年1月8日以降、本件著作物1を構成する各論文の著作権を有しているものと判断しています(20頁以下)。

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2 控訴人書籍の出版に関する許諾の終了

原審同様、控訴審も控訴人書籍の出版に関する許諾は、被控訴人事業団の解約により平成26年7月24日終了し、控訴人教文社が控訴人書籍を複製、頒布をする行為は被控訴人事業団の本件著作物1の素材である論文に係る著作権(複製権、譲渡権)を侵害するものであると判断しています(26頁以下)。

また、控訴人教文社は、情を知って控訴人書籍の販売の申出をしているとして、この行為は著作権を侵害するものとみなされ(著作権法113条1項2号)、被控訴人事業団の控訴人教文社に対する控訴人書籍の複製、頒布及び販売の申出の差止め並びに廃棄請求は理由があると判断されています。

なお、一般財団法人世界聖典普及協会が控訴人書籍を保管しているとしても、これが控訴人教文社の所有及び占有に係るものと認めるに足りる証拠はないとして、一般財団法人世界聖典普及協会において保管する控訴人書籍の廃棄請求については、理由がないと判断されています。

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3 被控訴人事業団の損害額

控訴人教文社の不法行為について、原審同様、その不法行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は20万円と判断されています(31頁以下)。

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4 控訴人経本に関する本件覚書に係る合意の終了

原審の判断に反し、控訴審は、控訴人長の家が別件訴訟を提起したことは、著作権者である被控訴人事業団と同人から使用許諾を受けた控訴人生長の家との間の信頼関係に影響を与えるものであったといえるものの、本件覚書に係る合意を締結するに至る経緯、本件覚書の内容、本件覚書に係る合意に基づき控訴人生長の家が頒布するのは、肌守り用や霊牌用としてのものに限られ、被控訴人事業団はこれらとは別に本件著作物2を出版することが可能であり、実際にも従前は控訴人教文社との間で現在は被控訴人光明思想社との間で本件著作物2に係る出版使用許諾契約や出版契約を締結してきたこと等を総合考慮すると、被控訴人事業団と控訴人生長の家との間の信頼関係が破壊されたものということはできないと判断。

そうすると、被控訴人事業団が行った本件解約通知による解約には正当な理由があるということはできないとして、本件覚書に係る合意が解約により終了したということはできないと認定。

結論として、控訴人生長の家が控訴人経本を複製又は頒布する行為は、本件覚書に係る合意に基づくものであって、被控訴人事業団の本件著作物2に係る著作権(複製権、譲渡権)を侵害する行為ではないとして、被控訴人事業団の控訴人生長の家に対する請求を認めていません。

また、控訴人生長の家が控訴人経本を複製する行為も、同様に出版権を侵害する行為であるとはいえないことから、被控訴人光明思想社の控訴人生長の家に対する請求についても理由がないと判断されています(32頁以下)。

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■コメント

1審被告宗教法人に対する1審原告らの請求については、原審の判断が覆って合意の効力が維持されて出版について著作権侵害性否定の判断となりました。

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■過去のブログ記事

2015年04月06日
原審記事