最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

催眠術DVD事件

東京地裁平成28.1.22平成27(ワ)9469損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 東海林 保
裁判官      広瀬  孝
裁判官      勝又来未子

*裁判所サイト公表 2016.2.16
*キーワード:損害論、みなし侵害行為

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■事案

催眠術DVDを無断複製してヤフオクで販売してた個人に対する損害額が争点となった事案

原告:グラフィックデザイン会社、会社代表者
被告:個人

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法113条6項

1 原告会社の損害の発生及びその額
2 被告の行為が原告Aの著作者人格権のみなし侵害行為に当たるか

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■事案の概要

『本件は,原告らが,被告に対し,原告Aが創作し,原告会社が著作権を有する著作物(DVD)について,被告が無断で複製・販売して,原告会社の著作権(複製権,頒布権)を侵害し,また,原告Aの名誉・声望を害する方法で利用したことを理由に著作者人格権を侵害したとみなされると主張して,不法行為に基づく損害賠償金(原告会社につき103万0448円,原告Aにつき60万円)及びこれらに対する不法行為の後の日である平成27年4月16日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,併せて,原告Aが被告に対し,著作権法115条に基づき,謝罪広告の掲載を求めた事案である。』(2頁)

<経緯>

H16.08 原告会社が原告著作物を販売
H26.03 原告らが被告が販売している無断複製品を調査購入
H26.04 原告会社が告訴
H26.12 被告不起訴処分、被告が原告側に謝罪
H27.01 被告が20万円の和解案提示

原告著作物:「催眠術の掛け方〔専門版〕自己催眠編」DVD

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■判決内容

<争点>

1 原告会社の損害の発生及びその額

原告会社は、被告が許可なく複製した原告著作物の複製物を入手するために3万0448円を支払っており、被告が著作権侵害行為をしたことを原告会社が認識し、また、原告会社が被告に対して損害賠償請求をするための証拠を入手するために必要な出費であったということができるとして、裁判所は、3万0448円は被告の不法行為と相当因果関係がある原告会社の損失であると認定しています(8頁)。

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2 被告の行為が原告Aの著作者人格権のみなし侵害行為に当たるか

原告著作物を作成した原告会社代表者は、被告が原告著作物を許可なく複製し、オークションサイトに『★☆オマケとしてご希望の方には 精神工学研究所の【DB法】のPDFファイルとAさんの【催眠術の掛け方〔専門版〕自己催眠編】のデータをお付けします。』などと記載して、原告著作物を「オマケ」として頒布したことが著作者である原告会社代表者の名誉や声望が毀損したとして、被告の上記行為は著作権法113条6項の著作者人格権のみなし侵害行為に当たる旨主張しました(8頁以下)。

この点について、裁判所は、同条項の「著作者の名誉又は声望」の意義について、「著作者がその品性,徳行,名声,信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価,すなわち社会的名誉声望を指すものであって,人が自己自身の人格的価値について有する主観的な評価,すなわち名誉感情は含まれないものと解すべきである」として、パロディモンタージュ写真事件最高裁判決に言及(最高裁判所昭和61年5月30日第二小法廷判決 民集40巻4号725頁参照)。

その上で、本件について、原告会社代表者が、原告著作物を「オマケとして」「お付けします」などと記述されたことによって名誉感情を害されたことは理解できるものの、上記記述を付して原告著作物の複製の頒布が一度申し出されたことによって、それを見た通常人が原告著作物の内容が上記第三者の発行したDVDに付加価値を与えるものであると考えることはあっても、原告著作物には価値がないと認識することが通常であるとまではいえないと判断。
被告が、上記記述をしたことや無断で原告著作物を複製、頒布をした行為が原告会社代表者の社会的評価を低下させる行為であるということはできず、被告が原告Aの名誉又は声望を害する方法により原告著作物を利用したと認めることはできないと判断しています。

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■コメント

刑事事件として公訴提起にまでは至らなかったものの、著作権侵害については争いが無く、専ら損害論が争点となった事案です。
1点のみの複製・販売しか確認されておらず、調査のために侵害品を購入した代金だけが実損害として認定されたにとどまり、被告側が提示していた和解案の20万円にも及ばない結果となっています。

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■参考判例

パロディモンタージュ写真事件
最高裁昭和61年5月30日昭和58(オ)516判決