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2016年02月12日

「ツェッペリン飛行船と黙想」事件(控訴審)−著作権 損害賠償等請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「ツェッペリン飛行船と黙想」事件(控訴審)

知財高裁平成28.1.27平成27(ネ)10022損害賠償等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 高部眞規子
裁判官      柵木澄子
裁判官      鈴木わかな

*裁判所サイト公表 2016.02.04
*キーワード:編集著作物、編集著作者、編集契約

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■事案

故人の作品125編などを収録した書籍の編集著作者性などが争点となった事案

控訴人 :私小説作家の遺族(故人作家の長女の子)
被控訴人:出版社

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法12条1項

1 控訴人は本件書籍の編集著作者であるか否か
2 本件書籍が編集著作物ではない場合における差止請求等の可否

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■事案の概要

『1 本件は,控訴人が,別紙書籍目録記載の書籍(以下「本件書籍」という。)は編集著作物であり,控訴人がその編集著作者であるところ,被控訴人による本件書籍の複製及び販売は,控訴人の有する編集著作物に係る著作権(複製権,譲渡権)及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害する行為である旨主張して,被控訴人に対し,(1)著作権法112条1項に基づき,本件書籍の複製及び販売の差止め,(2)同条2項に基づき,本件書籍の廃棄及びその版下データの消去,(3)著作権及び著作者人格権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき,損害金238万円(印税相当額の損害38万円及び慰謝料200万円の合計額)及びこれに対する不法行為の後の日である平成25年9月14日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,(4)同法115条に基づき,編集著作者としての名誉及び声望の回復措置として謝罪広告等の掲載を求めた事案である。
2 原判決は,控訴人が本件書籍の編集著作者であるとは認められないとして,控訴人の請求をいずれも棄却した。
 そこで,控訴人が,原判決を不服として控訴したものである。』(2頁以下)

<経緯>

S55.08 作家死亡、長女と次女が著作権を取得
H22.06 被控訴人が本件書籍の刊行を企画
H23.06 被控訴人が保存会と連絡
H24.05 被控訴人が控訴人と打ち合わせ開始
H24.12 被控訴人が本件書籍を刊行
H25.03 被控訴人が長女らに印税、また、控訴人に原稿料を支払

本件書籍:「ツェッペリン飛行船と黙想」

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■判決内容

<争点>

1 控訴人は本件書籍の編集著作者であるか否か

本件書籍は、題号「ツェッペリン飛行船と黙想」とするもので、目次、故人作家の作品合計125編、控訴人が著述した「解題」、作家略年譜、著作目録及び初出一覧から構成されているものでした。

(1)本件書籍が編集著作物か否か

まず、本件書籍の編集著作物性(著作権法12条1項)について検討が加えられています(20頁以下)。
作品125編の選択については、判読不能なもの、未完成のもの、一部しかなく完全でないもの、全集と重複するものや対談等の記事を除くという基準によるものであり、作品の収録及び除外基準はありふれたものであるとして、素材の選択に編者の個性が表れているとまでいうことはできないと裁判所は判断しています。
もっとも、6つの分類項目に従って配列した点には編者の個性が表れているとして、本件書籍は、素材の配列において創作性を有する編集著作物に該当すると判断しています。

(2)控訴人は本件書籍の編集著作者であるか否か

次に、本件書籍における素材の配列に関して、創作性を有する行為を行った者が控訴人であるか否かについて、裁判所は、結論としては、分類項目を設けるなどして、選択された作品をこれらの分類項目に従って配列することを決定したのは被控訴人であると認定。控訴人の本件書籍の編集著作者性を否定しています(22頁以下)。

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2 本件書籍が編集著作物ではない場合における差止請求等の可否

控訴人は、本件書籍が編集著作物ではないとされた場合に備えて予備的に、(1)編集契約違反、(2)著作物利用許諾契約の錯誤無効を主張しました(25頁以下)。
しかし、裁判所は、編集契約が締結された事実が認定できないこと、また、控訴人が故人作家の著作権承継者ではないことから著作物利用許諾契約に関する錯誤無効の主張も理由がないとして、控訴人の主張を認めていません。

結論として、控訴人の請求をいずれも棄却した原判決は相当であるとして、本件控訴を棄却しています。

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■コメント

作品は、上林曉のもので、ウィキペディアによると、上林曉は尾崎一雄と並び戦後期を代表する私小説作家。本件書籍の内容紹介には、「同人誌時代の創作から晩年の随筆まで、新たに発見された未発表原稿を含む、貴重な全集未収録作品125篇を、初めて一冊に」とあります。
遺族代表として本件書籍の刊行に尽力した控訴人としては、解説を寄せただけではなく、編集についても多くの労力を提供しており、編集著作者としての氏名表示がないことに不満をもったことが判決文から伺えます。
原被告間でのメールでのやりとりなどが残っており、控訴人が希望や意見を積極的に提供していたことが分かりますが、控訴人が作品の配列に関する最終的な決定に深く関与したとの裁判所の心証を得ることはできませんでした。

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■追記(2016.03.01)

控訴人のかたからメールを頂きまして、以下の文章を寄せて頂きました。
転載させていただきます。

「 二審判決は、本件書籍が編集著作物であることを否定している、つまり自らの編集行為の創作性を否定している被控訴人を編集著作者と認めています。これは弁論主義違反です。一審判決では創作性の有無について判断が示されませんでした。そのため控訴人は争点整理をやり直し、「本件書籍は編集著作物である、
従って控訴人が編集著作者である」と主張しました。被控訴人から異論は出されず、創作性の有無のみが二審の争点となりました。高裁は本件書籍を編集著作物と認めた以上、控訴人を編集著作者としなければならなかったのに、誰が編集したかという無用な争点を付け加えました。そして一審判決と同様の理由で控訴人を敗訴させました。これは不意打ちと言うべき行為です。
 編集著作者とは選択と配列を行なった者です。他人のなした選択と配列を決定することに創作性はありません。従って裁判所の解釈は誤っています。しかもゲラの目次等を作成した者が決定者である、著作権者の親族の決定はなかったものとするという特別ルールを、つまり事実がどうあれ絶対に出版社が勝訴し、著作権者の親族が敗訴するルールを使っています。
 また、「控訴人は希望や意見を述べたのみである」と言っていますが、高村光太郎は希望や意見を述べたのみで『智惠子抄』の編集著作者と認められました。
龍星閣は第一次案から第三次案まですべて作成した上、被控訴人と同様、相手方の決定を受け入れる決定をしましたが敗訴しました。
 二審判決が日本国憲法に違反しているか否か、最高裁判例に違反しているか否か、専門家の間で活発に議論が交わされることを期待します。
 なお、控訴人の専門が西洋史であるので自由詩を巻頭に配置したこと、控訴人の趣味が将棋であるので観戦記を巻末に配置したこと、被控訴人が故甲気瞭記を不適法に収集し出版しようとしたこと、控訴人が甲犬鯤埆原力者と見て「解題」で謝辞を贈っていること、乙19の●が未決定であることを示すこと、被控訴人が再校ゲラの目次作成を怠ったこと、及び再校ゲラを提出せよとの文書提出命令を被控訴人が遵守しなかったことが判決に書かれていませんので付け加えます。」


原審:
東京地裁平成27.1.22平成25(ワ)22541損害賠償等請求事件
民事47部
裁判長 高野輝久
裁判官 三井大有
裁判官 藤田 壮

(原審判決文PDFは2016.3.16公開)
平成25年(ワ)第22541号 損害賠償等請求事件PDF
written by ootsukahoumu at 08:22│TrackBack(0)知財判決速報2016 

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