最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

ヘアデザインコンテスト写真無断転載事件

東京地裁平成27.12.9平成27(ワ)14747損害賠償請求事件PDF
別紙

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 東海林 保
裁判官      今井弘晃
裁判官      廣瀬 孝

*裁判所サイト公表 2015.12.15
*キーワード:写真、出版、ヘアデザイナー、ヘアドレッサー、美容師、共同著作物

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■事案

ビューティー業界向け雑誌に無断利用された写真について、ヘアドレッサー(美容師)とカメラマンとの共同著作物性などが争点となった事案

原告:美容専門雑誌出版社
被告:美容専門雑誌出版社

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■結論

請求認容

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■争点

条文 著作権法10条1項8号、2条1項12号、114条3項

1 原告は原告各写真の著作権者か
2 被告の故意ないし過失の有無
3 原告の損害額

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■事案の概要

『本件は,別紙原告写真目録記載1ないし12の各写真(以下,それぞれ「原告写真1」ないし「原告写真12」といい,併せて「原告各写真」という。)につき,これらを撮影したカメラマンから譲渡を受けて著作権を有するとする原告が,被告の出版する雑誌「SNIP STYLE No.348」(以下「被告雑誌」という。甲7)にこれを複製して掲載した行為は著作権(複製権)侵害に当たると主張し,写真掲載許諾料相当額18万円(1万5000円×12枚)及び弁護士費用3万6000円の合計21万6000円が原告の損害であるとして,著作権法114条3項,民法709条に基づき,同額及びこれに対する平成26年10月1日(被告雑誌の出版の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。』
(1頁以下)

<経緯>

H25.08 Aが原告写真1撮影
H25.09 原告が原告雑誌1出版
H25.12 Bが原告写真2〜8撮影
H26.01 原告が原告雑誌2出版
H26.04 Cが原告写真9〜12撮影
H26.05 原告が原告雑誌3出版
H26.10 被告が被告各写真を掲載した被告雑誌出版
H26.10 原告が被告に対して販売差止め通知
H26.10 被告が被告雑誌発送停止
H26.12 被告が原告に謝罪の通知

原告雑誌:「SNIP STYLE」
被告雑誌:「TOKYO FASHION EDGE」

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■判決内容

<争点>

1 原告は原告各写真の著作権者か

原告各写真の著作権者について、裁判所は、写真の著作物の創作性の意義について言及した上で、女性モデル等を被写体とした原告各写真に検討を加えています(9頁以下)。
結論としては、原告各写真は被写体の組み合わせや配置、構図やカメラアングル、光線・印影、背景の設定や選択等に独自性が表れているということができるとして、これらは原告各写真を撮影したカメラマンにより創作されたものであると認められることから、これらの著作者は撮影したカメラマンであるA、B及びCであると判断しています。
そして、原告は上記各カメラマンから原告各写真の著作権の譲渡を受けていることから、原告各写真の著作権者は原告であると認められています。

この点、被告は、原告写真の著作者はヘアドレッサー(美容師)であるか、仮にヘアドレッサーが単独の著作者となり得ないとしても、少なくとも共同著作者の一人である旨主張しました。

(1)ヘアドレッサーの著作者性

裁判所は、原告各写真について、被写体の組み合わせや配置、構図やカメラアングル、光線・印影、背景等に創作性があるというべきであり、原告各写真の被写体のうちの、独特のヘアスタイルや化粧等を施されたモデルに関連して、別途何らかの著作物として成立する余地があるものとしても、原告各写真の内容によれば、原告各写真は、被写体を機械的に撮影し複製したものではなく、カメラマンにより創作されたものというべきであると判断。原告各写真の著作者はカメラマンであって、ヘアドレッサーではないと判断しています。

(2)カメラマンとヘアドレッサーとの共同著作物性

被告は、原告各写真の具体的な創作過程に基づいてヘアドレッサーとカメラマンとの共同制作意思等について主張立証をするわけではなく、原告各写真の創作性は被写体の組み合わせや配置、構図やカメラアングル、光線・印影、背景等に創作性があるものの、こうした点について、ヘアドレッサーとカメラマンとの間には原告各写真について共同著作物となるための要件である共同創作の意思が存するものとは認められないと裁判所は判断。
カメラマンとヘアドレッサーとの原告各写真の共同著作物性が否定されています。

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2 被告の故意ないし過失の有無

被告は、原告が著作権を有する原告各写真について、原告の許諾を得る必要があることを認識しながら、許諾を得ることなく被告雑誌にこれを複製して掲載しているとして、原告の著作権(複製権)侵害について、少なくとも過失があると認定されています(14頁以下)。

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3 原告の損害額

被告各写真を掲載した被告雑誌における使用サイズと対応する条件で原告各写真を使用するための許諾料は、1枚当たり1万5000円であることから、原告各写真を複製するため著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額は合計18万円(1枚当たり1万5000円の12枚分)であると認定。
また、弁護士費用相当額損害として、3万6000円が認定されています(合計21万6000円)(15頁)。

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■コメント

「Japan Hairdressing Awards 最終ノミネート作品」の画像の無断流用が問題となった事案です。
無断流用自体は争点となっていないため、過失の有無、損害論が主な争点となっています。
もっとも、写真の著作者性について、美容師(ヘアドレッサー)さんも写真の被写体の創作物への一定の関与があることを踏まえて、写真自体の共同著作物性などが争点とされている点が注目されます。
結論としては、ヘアドレッサーがカメラマンにライティングや構図を指示したり、レタッチに関与するといった、写真の制作自体に深く関与している事実が立証されていないため、写真著作物の共同著作物性否定の判断は、本事案では理解できるところです。

ところで、日本レップエージェンシー協会では、2011年に桑野雄一郎先生ご指導のもと、ヘアデザイナーやメイク、スタイリスト等とフォトグラファーとの写真著作物の共同著作物性の可能性について公表をしていますが(「写真におけるスタイリスト及びヘアメイクの著作権について」http://jraa.jp/about_royalty.pdf)、写真の制作現場を正確に踏まえた写真著作物の権利帰属のあり方について、一石を投じた意見書として重要かと思われます。

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■参考サイト

「JHA」Japan Hairdressing Awards

日本レップエージェンシー協会
ガイドライン

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