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2015年11月03日

観光案内用ピクトグラム使用許諾契約事件−著作権 著作権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

観光案内用ピクトグラム使用許諾契約事件

大阪地裁平成27.9.24平成25(ワ)1074著作権侵害差止等請求事件PDF
別紙1
別紙2
別紙3
別紙4

大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官 高松宏之
裁判官      田原美奈子
裁判官      中山 知

*裁判所サイト公表 2015.10.22
*キーワード:案内図、地図、ピクトグラム、著作物性、応用美術論、複製、翻案、使用許諾契約、著作権登録

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■事案

ピクトグラムの著作物性や大阪市観光案内図の類否を巡って争われた事案

原告:アートディレクション会社
被告:大阪市、財団法人

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、2条2項、10条1項6号、22条、27条、民法613条、商法512条

1 被告らは本件各使用許諾契約における有効期間の満了により有効期間内に作成した本件ピクトグラム等についての原状回復義務を負うか
2 原告は被告らに対し板倉デザイン研究所から本件各使用許諾契約の許諾者たる地位を承継したとして同契約上の権利を主張し得るか
3 被告大阪市による有効期間満了後に作成された本件ピクトラムの使用による著作権侵害の有無及び原状回復義務及び著作権に基づく本件ピクトグラムの抹消・消除の必要性
4 本件ピクトグラムの著作物性
5 本件冊子において本件ピクトグラムが「複製」されているか
6 本件冊子における本件ピクトグラムの掲載が「引用」に当たるか
7 本件冊子の頒布及びPDFファイルのホームページへの掲載は本件使用許諾契約1により許諾されたものか
8 被告らは共同不法行為責任を負うか
9 原告は本件ピクトグラムの著作権を取得したとしてその著作権を被告らに対して主張し得るか
10 損害額
11 被告大阪市の商法512条に基づく報酬支払義務の有無
12 相当報酬額
13 本件地図デザインの著作物性
14 別紙4案内図は本件地図デザインの複製又は翻案か

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■事案の概要

『本件は,別紙1及び2のピクトグラム(以下「本件ピクトグラム」という。)及び別紙5の地図デザイン(以下「本件地図デザイン」という。)の著作権者であると主張する原告が,各被告に対し,次のとおりの請求をしている事案である。
(1)請求の趣旨1項
ア(1)被告財団法人大阪市都市工学情報センター(以下「被告都市センター」という。)については,本件ピクトグラムについての使用許諾契約及び本件地図デザインに本件ピクトグラムを配した大阪市観光案内図(以下「本件案内図」といい,「本件ピクトグラム」と「本件案内図」とをあわせて「本件ピクトグラム等」という。)についての使用許諾契約の各期間満了による原状回復義務として,(2)被告大阪市については,被告都市センターから許諾を受けた者である以上同様の原状回復義務を負うとして民法613条を類推して,被告らに対し,各使用許諾期間内に作成した大阪市内の案内表示に用いている本件ピクトグラムの撤去・抹消請求。
イ 被告らに対し,被告大阪市が前記アの各使用許諾期間満了後に新たな本件ピクトグラムを複製したとして,著作権法112条1項に基づく本件ピクトグラムの抹消・消除請求。
(2)請求の趣旨2項
被告らに対し,上記(1)アの各使用許諾期間内に作成した案内表示に用いている本件ピクトグラムについての原状回復義務違反,及び上記(1)イの各使用許諾期間満了後の本件ピクトグラムの著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求として,以下の金員の支払請求。
ア 本件ピクトグラムに関し,使用許諾期間満了の平成22年3月31日から平成26年3月31日までの4年分の使用料相当損害金400万円,及びうち258万円に対する不法行為日後の訴状送達の日の翌日から,うち142万円に対する訴えの変更申立書送達の日の翌日から,各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金。
イ 本件ピクトグラムに関し,平成26年4月1日以後の使用料相当損害金として月額8万3333円。
ウ 本件ピクトグラムを配した本件案内図に関し,使用期間満了後の平成22年8月31日から撤去終了日である平成24年7月31日までの使用料相当損害金として86万円及びこれに対する不法行為日後である訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金。
(3)請求の趣旨3項
公益社団法人大阪観光コンベンション協会(以下「コンベンション協会」という。)が無断で本件ピクトグラムの複製使用及び公衆送信を行った不法行為につき,被告大阪市は本件ピクトグラムを使用するように指示し,被告都市センターは本件ピクトグラムのデータをコンベンション協会に送信して教唆又は幇助したと主張し,共同不法行為に基づく損害賠償請求として,698万2500円の損害賠償及びこれに対する不法行為日後である訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定年5分の割合による金員の支払請求。
(4)請求の趣旨4項
被告大阪市に対し,被告大阪市が原告に依頼した本件ピクトグラムの一部の修正につき,原告の営業の範囲内の行為を行ったものであるとして,商法512条に基づく相当額40万5000円の報酬及びこれに対する催告の日である訴状送達の日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払請求。
(5)請求の趣旨5項ないし7項
被告大阪市が,遅くとも平成24年8月1日以降,本件地図デザインを用いた別紙4の案内図(以下「別紙4案内図」という。)を複製又は翻案して使用し,原告の本件地図デザインにかかる複製権又は翻案権を侵害しているとして,(1)本件地図デザインを用いた別紙4案内図を複製することの差止め(請求の趣旨5項),(2)同案内図の抹消・消除(請求の趣旨6項),(3)(ア)同日から平成26年3月31日までの使用料相当額として75万2500円の損害賠償及びこれに対する不法行為日後である訴えの変更申立書送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金並びに(イ)同年4月1日から前記案内図が抹消・消除されるまでの使用料相当損害金として月額3万7625円の支払請求。』
(2頁以下)

<経緯>

H03.01 被告財団法人設立
H11.11 被告財団法人と板倉デザイン研究所が業務委託契約締結
H12.03 被告財団法人と板倉デザイン研究所がローカルピクトグラム使用契約締結
H12.08 被告財団法人と板倉デザイン研究所が大阪市観光案内図使用契約締結
       被告財団法人が被告大阪市へピクトグラムと案内図の使用を許諾
H19.06 板倉デザイン研究所が原告へ統合。板倉デザイン研究所解散
H23.05 被告らと原告が協議
H24.04 譲渡協議不調、使用中止
H25.02 原告が本訴提起
H25.04 被告財団法人解散 

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■判決内容

<争点>

1 被告らは本件各使用許諾契約における有効期間の満了により有効期間内に作成した本件ピクトグラム等についての原状回復義務を負うか

本件各使用許諾契約では本件ピクトグラムを大阪市各局の案内表示等に本件案内図を大阪市が設置する観光案内表示板等に使用することができるとした内容で使用権の有効期間を10年とする旨定められていました。
裁判所は、有効期間満了にあたり再契約や使用権の開放等がない以上、使用権は本件各使用許諾契約に定められた10年で消滅すると解するのが相当であると判断。
被告都市センターについては、本件各許諾契約において有効期間が満了した以上、少なくとも案内表示での本件ピクトグラム等の使用を中止し、原状に復するという合意までが含まれていると認めるのが相当であり、原状回復義務として既に複製された本件ピクトグラム等の抹消・消除の義務が生じると解するのが相当であると判断。
被告大阪市については、本件各使用許諾契約の当事者ではないものの、民法613条を類推適用した上で、本件ピクトグラム等の抹消・消除義務を直接負うものと判断しています(65頁以下)。

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2 原告は被告らに対し板倉デザイン研究所から本件各使用許諾契約の許諾者たる地位を承継したとして同契約上の権利を主張し得るか

板倉デザイン研究所から原告に本件各使用許諾契約上の地位が譲渡されており、本件各使用許諾契約における許諾者の義務は許諾者からの権利不行使を主とするものであり、本件ピクトグラムの著作権者が誰であるかによって履行方法が特に変わるものではないことからすれば、本件ピクトグラムの著作権の譲渡と共に被許諾者たる被告都市センターの承諾なくして本件各使用許諾契約の許諾者たる地位が有効に移転されたと認めるのが相当であると裁判所は判断。

もっとも、著作物の使用許諾契約の許諾者たる地位の譲受人が使用料の請求等、契約に基づく権利を積極的に行使する場合にはこれを対抗関係というかは別として、賃貸人たる地位の移転の場合に必要となる権利保護要件としての登記と同様、著作権の登録を備えることが必要であると裁判所は判断。
原告は、被告らに対して著作権の登録なくして本件各使用許諾契約上の地位を主張することはできないと判断しています。

結論として、本件各使用許諾契約の有効期間内に作成された本件ピクトグラム等について、原告の被告らに対する本件各使用許諾契約による原状回復義務及びその違反に基づく請求は認められていません(75頁以下)。

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3 被告大阪市による有効期間満了後に作成された本件ピクトラムの使用による著作権侵害の有無及び原状回復義務及び著作権に基づく本件ピクトグラムの抹消・消除の必要性

原告は、本件使用許諾契約1の有効期間満了後に被告大阪市が本件ピクトグラム等を用いた案内板等を新たに作成している旨主張しましたが、これを認めるに足る証拠はなく、そのおそれがあると認めるに足りる証拠もないと裁判所は判断。原告の主張を認めていません(76頁以下)。

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4 本件ピクトグラムの著作物性

本件ピクトグラムは、実在する施設をグラフィックデザインの技法で描き、これを四隅を丸めた四角で囲い下部に施設名を記載したものでした。

本件ピクトグラムの著作物性について、本件ピクトグラムはこれが掲載された観光案内図等を見る者に視覚的に対象施設を認識させることを目的に制作され実際にも相当数の観光案内図等に記載されて実用に供されているものであり、いわゆる応用美術の範囲に属するものであると裁判所は判断。
応用美術の著作物性について、最高裁判所平成12年9月7日判決(民集54巻7号2481頁)に言及した上で、それが実用的機能を離れて美的鑑賞の対象となり得るような美的特性を備えている場合には、美術の著作物として保護の対象となると解するのが相当である旨説示。

そして、それぞれの施設の特徴を拾い上げどこを強調するのか、そのためにもどの角度からみた施設を描くのか、また、どの程度どのように簡略化して描くのか、どこにどのような色を配するか等の美的表現において、実用的機能を離れた創作性の幅は十分に認められる。
このような図柄としての美的表現において制作者の思想、個性が表現された結果、それ自体が実用的機能を離れて美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えている場合には、その著作物性を肯定し得るものといえると説示。

こうした観点から、大阪城など19点のそれぞれの本件ピクトグラムは、その美的表現において制作者であるP1の個性が表現されており、その結果、実用的機能を離れて美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えているといえるとして、それぞれの本件ピクトグラムは著作物であると認められると裁判所は判断しています(77頁以下)。

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5 本件冊子において本件ピクトグラムが「複製」されているか

コンベンション協会が発行した「大阪街歩きガイド」と題する冊子(本件冊子)では、本件ピクトグラムがそのまま掲載されていることから、複製に当たると認められています(86頁以下)。

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6 本件冊子における本件ピクトグラムの掲載が「引用」に当たるか

被告らは、本件冊子における本件ピクトグラムの絵の部分の利用は、引用(32条1項)に該当する旨主張しました。
しかし、裁判所は、本件冊子における本件ピクトグラムの掲載は、本件ピクトグラムが有する価値を、本来の予定された方法によってそのまま利用するものであるということができ、他の表現目的のために本件ピクトグラムを利用しているものではないとして、引用には当たらないと判断しています(86頁以下)。

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7 本件冊子の頒布及びPDFファイルのホームページへの掲載は本件使用許諾契約1により許諾されたものか

コンベンション協会による本件冊子の頒布及びPDFファイルのホームページへの掲載が本件使用許諾契約1により許諾されたものかどうかについて、観光パンフレットの案内図に本件ピクトグラムを使用することは、本件使用許諾契約1の予定する範囲内で許諾されたものであると裁判所は判断。頒布も許諾されていると判断されています(87頁以下)。
これに対して、コンベンション協会のホームページに本件冊子がPDFファイルにしてダウンロード可能な状態に置かれたことについて、使用許諾の範囲内にあるとはいえないこと、また、本件使用許諾契約1の有効期間経過後にされたものであるとして、原告の著作権(公衆送信権)を侵害する行為であると認定されています。

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8 被告らは共同不法行為責任を負うか

被告大阪市は本件冊子をホームページに掲載した侵害行為について、コンベンション協会と共同不法行為責任を負うと判断されたものの、被告都市センターは本件冊子のホームページへの掲載について共同不法行為責任を問うことはできないと判断されています(89頁以下)。

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9 原告は本件ピクトグラムの著作権を取得したとしてその著作権を被告らに対して主張し得るか

原告は、本件ピクトグラムの著作権を取得したと認められるところ、著作権を取得した者は、著作権を侵害する不法行為者に対し、何ら対抗要件を要することなく自己の権利を対抗することができると解されるから、原告は、被告大阪市に対し、著作権侵害に基づく損害賠償を請求することができると判断されています(90頁)。

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10 損害額

本件冊子のPDFファイルデータのホームページへの掲載に対する損害について、多く見積もっても70万円を超えることはないと判断されています。
そして、和解したコンベンション協会が解決金として原告に対して既に70万円を支払っており、共同不法行為に基づく損害は、既に共同不法行為者であるコンベンション協会の支払により消滅しており、被告大阪市において、支払うべき損害はないと判断。
原告の被告大阪市に対する本件冊子関係での著作権侵害に基づく損害賠償請求は理由がないと判断されています(90頁以下)。

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11 被告大阪市の商法512条に基づく報酬支払義務の有無

被告大阪市が、原告に対して本件ピクトグラムのうち2つの表記の変更及びOCATの飛行機図柄を削除する依頼を行い、原告がこれを受けて上記ピクトグラム3つの修正を行い、データを引き渡したことについて、無償での合意が成立していたか否かが争点となっています。
結論としては、原告の商機拡大の提案のなかで新たなローカルピクトグラムを請け負うことができることを条件として必要な修正が行われたものであり、被告大阪市との間で上記条件が成就されなかった以上、商人である原告が、本件ピクトグラムの修正という営業の範囲内の行為を行ったのであるから、被告大阪市は、商法512条に基づいて原告に対して報酬を支払う義務を負うと裁判所は判断しています(91頁以下)。

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12 相当報酬額

OCATの本件ピクトグラムから飛行機の部分を削除し、建物部分を四角枠の中の中央にくるように修正する作業やカンプの制作と最終的な仕上げなどをした作業料金相当報酬額について、原告の被告大阪市に対する相当報酬額は合計22万6500円と認定されています(93頁以下)。

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13 本件地図デザインの著作物性

別紙5の本件地図デザインは、大阪市の地図に電車の路線図を組み合わせたものでしたが、そのシンプルな直線及び曲線の具体的表現及び取捨選択にP1の個性が表れており、創作性が認められると裁判所は判断しています(94頁以下)。

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14 別紙4案内図は本件地図デザインの複製又は翻案か

観光案内を目的とする地図ではその創作性の幅は狭く、その複製又は翻案と認められるためには、地図全体にわたって、ほぼ同一のシンプルな直線及び曲線の具体的表現及び取捨選択が行われることが必要であると解するのが相当であると裁判所は説示した上で、本件地図デザインと別紙4案内図の相違点を検討しています。

咲洲や淀川の形状などを検討した上で、別紙4案内図と本件地図デザインとは淀川や木津川の川筋は似ているものの、これは他の公社地図及び大阪市全図においてもほぼ同様であり、地形的に存在する川筋を客観的に記載したためにすぎず、これを形状において共通すると評価することはできない。むしろ、その余の点については両者は異なっていると判断。
結論として、本件地図デザインの表現において認められるP1の個性が、別紙4案内図においてこれを感得することはできないと判断。
別紙4案内図が、本件地図デザインの複製又は翻案ということはできないとして、原告の本件地図デザインの著作権及び著作権侵害に基づく請求は理由がないと裁判所は判断しています(96頁以下)。

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■コメント

デザイン制作業務委託契約の内容、標識や観光案内地図のなかで使用するために建築物などをシンボライズしたデザイン(ピクトグラム)の著作物性、地図の類否が主な争点となった事案です。
平成23年に大阪市長選挙があり、当時、大阪府知事の橋下徹氏が鞍替えして市長当選しており、市政が混乱した背景もあるようです。

なお、ピクトグラムなどはアートディレクターの板倉忠則氏(http://www.itakurad.com/)が手がけた著作物となります。

本事案の詳しい分析については、後掲の企業法務戦士の雑感さんの記事をご覧いただけたらと思います。

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■参考サイト

企業法務戦士の雑感(2015-10-27記事)
[企業法務][知財]もって他山の石とせよ〜著作権利用許諾をめぐる落とし穴

written by ootsukahoumu at 23:58│TrackBack(0)知財判決速報2015 

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