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2015年10月23日

地域おこしイベント黒猫イラスト翻案事件−著作権 著作権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

地域おこしイベント黒猫イラスト翻案事件

大阪地裁平成27.9.10平成26(ワ)5080著作権侵害差止等請求事件PDF
別紙

大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官 高松宏之
裁判官      田原美奈子
裁判官      中山 知
*裁判所サイト公表 2015.10.19
*キーワード:地域おこしイベント、イラスト、注意義務、翻案権、同一性保持権

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■事案

地域活性化イベントで猫イラストを無断で改変使用した場合の実行委員の注意義務の有無などが争点となった事案

原告:イラストレーター
被告:イラスト制作者、地域活性化イベント実行委員会委員長

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法19条、20条、23条、30条1項、114条3項、115条

1 被告P3に被告適格があるか
2 被告各イラストの侵害性
3 被告P2に著作権侵害及び著作者人格権侵害に関して故意又は過失が認められるか
4 被告P2の行為につき私的使用目的が認められるか
5 被告P3に著作権侵害及び著作者人格権侵害に関して故意又は過失が認められるか
6 原告の損害額
7 被告らが今後侵害行為を行うおそれがあるか
8 謝罪広告の適否

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■事案の概要

『本件は,原告が,(1)被告P2に対して,原告が作成した別紙原告イラスト目録記載のイラスト(以下「原告イラスト」という。)を無断で改変して別紙被告イラスト目録1記載のイラスト(以下「被告イラスト1」という。)を作成し,被告イラスト1をインターネット上にアップロードして原告の著作権(複製権又は翻案権,公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権)を侵害したと主張し,不法行為に基づく損害賠償請求として合計20万円(附帯請求として訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払を求め,(2)被告P2及び被告P3(以下「被告ら」という。)に対して,被告イラスト1を基に別紙被告イラスト目録2ないし17記載のイラスト(以下,それぞれのイラストを「被告イラスト2」,「被告イラスト3」などといい,被告イラスト1ないし17を総称して「被告各イラスト」という。)を作成し,被告イラスト2ないし17をガイドブック等として印刷して譲渡し,若しくはウェブページ上にアップロードするなどして,原告の著作権(被告らにつき複製権又は翻案権,被告P3につき譲渡権及び公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権)を侵害したと主張し,連帯して,不法行為に基づく損害賠償請求として合計310万円(附帯請求として訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払を求め,(3)被告らに対し,被告らの各行為により本件訴訟提起を余儀なくされ弁護士費用を支出したと主張し,連帯して,不法行為に基づく損害賠償請求として50万円(附帯請求として訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払を求めるとともに,(4)被告らに対し,上記の著作権侵害による差止めとして,著作権法112条1項及び2項に基づき,被告らに対して,被告各イラストの複製,翻案及び公衆送信の差止め並びに被告各イラストを用いた物品の廃棄及び被告各イラストに関する画像データの削除を求め,加えて被告P3に対して,被告各イラスト複製物の譲渡の差止めを求め,(5)被告らに対し,著作者人格権侵害による名誉回復措置として,著作権法115条に基づき,謝罪広告の掲載を求めた事案である。』
(2頁以下)

〈経緯〉

H15 原告がHPを開設
H17 原告イラストを原告がHPで公開
H20 いわき市湯本温泉郷で「いわきフラオンパク」開催
    実行委員P4が被告P2に黒猫縫いぐるみ下絵制作依頼
    被告P2が被告イラスト1を作成
    被告P2がブログに写真をアップロード
    被告各イラストをガイドブックなどで使用

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■判決内容

<争点>

1 被告P3に被告適格があるか

地域活性化イベント実行委員会委員長である被告P3は、本件で被告とされるべきは実行委員会であり、被告P3に被告適格はない旨主張しました(14頁以下)。
この点について、裁判所は、原告は本件において被告P3自身が行った著作権及び著作者人格権侵害の(共同)不法行為に基づいて、被告P3に対して損害賠償請求権を有する旨及び差止請求権等を有する旨を主張しており、原告は実行委員会に対して有する損害賠償請求権や差止請求権等を被告P3に対して行使すると主張しているわけではなく、実行委員会が権利能力なき社団であるか否かを判断するまでもなく被告P3には被告適格が認められると判断しています。

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2 被告各イラストの侵害性

(1)被告イラスト1について

被告P2は、イベント実行委員P4から黒猫縫いぐるみ下絵の制作依頼を受けて、原告イラストの頭部を切り取り、同頭部にフラダンスの衣装等を組み合わせて被告イラスト1を作成しました。

この点について、裁判所は、被告イラスト1は首より下の部分は原告イラストと異なるものの、頭部の描画が原告イラストとほぼ同一であることから、原告イラストの本質的特徴を感得し得るものであり類似性があると判断。
また、被告P2が被告イラスト1を作成した経緯からすると、被告P2は原告のホームページにアクセスして原告イラストに依拠して被告イラスト1を作成したと推認されると判断。
したがって、被告イラスト1は、原告イラストを翻案したものであり、被告P2は、原告の翻案権、氏名表示権及び同一性保持権を侵害したと認定されています。
さらに、被告P2が被告イラスト1が写った写真をブログにアップロードした行為は、原告の公衆送信権を侵害すると判断されています。

(2)被告イラスト2乃至17について

被告イラスト1を基に作成された被告イラスト2乃至17のイラストのガイドブック等での使用について、裁判所は、被告P2、被告P3の各人の関与の態様はそれぞれで異なるものの、原告の原告イラストに関する翻案権を侵害するとともに、氏名表示権及び同一性保持権を侵害する行為(各人単独あるいは共同)であると認定されています(但し、被告イラスト11、13は侵害性否定、12は公衆送信権侵害性、氏名表示権侵害性のみ肯定)。

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3 被告P2に著作権侵害及び著作者人格権侵害に関して故意又は過失が認められるか

被告P2は、原告は自らの著作権を厳格に管理していたわけではなく、特に著作権の表示をせずに自由に使用することも認めていたとして、被告P2がウェブ検索の結果探した画像をコピーして使用したとしても、その行為には過失は認められないと主張しました。
しかし、裁判所は、原告のホームページ上の表示として、個人が非営利目的でブログの背景に使用するもの等について包括的な使用許諾をする旨、その場合でも原寸より拡大したり修正を加えること等を禁止する記載からすれば、原告は著作権放棄の表示をしているわけではないと判断。そして、被告P2は実行委員会に提供するための改変行為が原告の著作権及び著作者人格権に牴触するものであることを容易に認識し得たというべきであると判断。
被告イラスト1を作成し、当該イラストが写った写真をブログにアップした行為が原告の著作権及び著作者人格権を侵害することについて、被告P2には過失があると認定されています(17頁以下)。

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4 被告P2の行為につき私的使用目的が認められるか

被告P2は、記者会見まで行った第2回いわきフラオンパクのイベントに供するために被告イラスト1を作成したものであり、その行為は「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲において使用すること」(著作権法30条1項柱書き)を目的とするものであるとは認められず、また、被告イラスト1を実行委員会のメンバーでなくとも誰でもアクセスできるブログにアップする行為についても上記の私的使用を目的とするものであるとは認められないと裁判所は判断しています(18頁)。

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5 被告P3に著作権侵害及び著作者人格権侵害に関して故意又は過失が認められるか

被告P3は、被告P2が作成した被告イラスト1に基づいて作成された被告イラスト2を第3回いわきフラオンパクのガイドブックに掲載する際、その著作権の所在、著作権違反がないか否かについて、厳格に確認する注意義務はなかった旨主張しました(19頁以下)。
しかし、裁判所は、町おこし目的のボランティアベースの活動だからといって、何らの調査義務も課されないということはできないと判断しています。

そして、被告P3は、被告イラスト1の作成経緯等について特に被告P2に確認することなく、同イラストを掲載することに問題はないと考え、被告イラスト1に基づいた被告イラスト2を表紙に用いたガイドブックの印刷を印刷業者に依頼した被告P3は、実行委員会の代表者として第3回いわきフラオンパクのガイドブックに被告イラスト2を使用することを決め、被告P2は、少なくとも第1稿の段階でそのことを知りつつ、受容したと認められると判断。
被告P3は、被告P2に対する確認を怠っており、過失があったと認定しています。

そのほか、被告イラスト3以下のイラストについては、被告P3の関与の有無によって結論が分かれています。

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6 原告の損害額

(1)著作権侵害に関する損害額

広報媒体への被告各イラストの使用態様、それらの広報媒体の印刷部数、いわきフラオンパクの趣旨と性質、いわきフラオンパクは、第3回のガイドブックの売上げが15万5900円にとどまったこと、地域外からの来場者数はさほど多くなく、比較的小規模なものであったと推認されること、第5回以降は印刷部数も少なく、規模も大きく縮小されたこと、さらに、原告や原告イラストが社会的に周知であるとは認められないこと等の本件に表れた事情を総合考慮の上、本件で相当な損害額としては、被告らの共同不法行為分につき50万円、被告P2独自の不法行為分につき5万円、被告P3独自の不法行為分につき10万円と認めるのが相当であると認定されています(33頁以下)。

(2)著作者人格権侵害に関する損害額

発端となった被告P2の被告イラスト1の作成等に関して原告に生じた精神的損害の額は5万円、それに続く被告らの被告イラスト2ないし17(ただし11、13及び16を除く。)の翻案使用に関して原告に生じた精神的損害の額は、被告らの共同不法行為分につき15万円、被告P2及び被告P3独自の不法行為分につき各5万円とそれぞれ認めるのが相当であると認定されています。

(3)弁護士費用相当額損害

弁護士費用相当額の損害として、10万円が認定されています。

結論として、被告P2、P3それぞれ90万円(連帯部分は75万円)が損害額として認定されています。

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7 被告らが今後侵害行為を行うおそれがあるか

いわきフラオンパクは、平成25年6月23日から同年7月15日まで開催された第6回いわきフラオンパクを最後に、以後開催されていないことが認められるとして、今後開催される見込みは低く、被告イラストが今後、いわきフラオンパクにおいて使用される可能性は低いとして被告らが今後侵害行為を行うおそれがあるとは認められないと判断。原告の差止請求及びデータ廃棄請求は否定されています(35頁以下)。

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8 謝罪広告の適否

本件では、被告各イラストの内容及び使用態様が原告の社会的声望名誉を毀損するものとは認められない上、他にそのような事情が存するとも認めるに足りないとして、原告の謝罪広告請求(115条)は認められていません(36頁以下)。

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■コメント

地域おこしイベントで他人のイラストを無断改変して使用した事案となります。
添付別紙を見ると、ネコのデザインの胴体部分がフラダンスをしているような態様に改変されていることがわかります。
実行委員会は、町おこしのための任意団体で不定期に集まる商工業者の集まりでしたが、イベント実行者は、ボランティアであってもイラスト外注先の著作権侵害について相応の注意(調査)義務を負担することになることが確認されている点が参考になります。

なお、地域おこしイベントの「オンパク」は、「温泉泊覧会」の略語だそうです。

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■参考サイト

いわきフラオンパク実行委員会
ジャパン・オンパク 公式ホームページ 団体データ一覧2

written by ootsukahoumu at 05:22│TrackBack(0)知財判決速報2015 

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