最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「トムとジェリー」格安DVD事件

東京地裁平成27.8.28平成26(ワ)3539著作権侵害差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 東海林 保
裁判官      廣瀬 孝
裁判官      勝又来未子

*裁判所サイト公表 2015.9.11
*キーワード:共同事業契約、合意、損害論

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■事案

保護期間が満了したアニメ映画「トムとジェリー」に日本語吹き替え音声を付したDVDの制作を巡って共同事業契約の成否が争われた事案

原告:映像ソフト企画制作会社
被告:記録媒体企画製造販売会社、同社代表取締役

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法114条2項

1 共同事業の合意の成否
2 被告Aに対する請求の可否
3 原告の損害額

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■事案の概要

『本件は,原告が,被告らは被告商品を輸入,複製及び頒布し,もって原告の著作権(複製権及び譲渡権)を侵害していると主張して,被告らに対し,著作権法112条1項に基づき,被告商品の輸入,複製及び頒布の差止めを求めるとともに,民法709条に基づき,連帯して損害金405万円及びこれに対する平成26年3月14日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
被告らは,原告と被告会社との間では「トムとジェリー」30作品に関する共同事業の合意が成立しており,本件著作物の著作権は両者の共有となっているなどと主張して,これを争っている。』(3頁)

<経緯>

H22.08 原告が被告に共同事業を提案

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■判決内容

<争点>

1 共同事業の合意の成否

原告は、著作権の保護期間を満了した外国の映画作品である「トムとジェリー」30作品について、日本語音声を収録し直してDVD商品(原告商品)を製作販売していました。被告会社は、原告商品と同一の日本語音声が収録されているDVD商品(被告商品)を販売していました。

被告は、原告会社代表者Bが被告会社代表者Aに対して「ミッキーマウス」16作品及び「トムとジェリー」30作品に関する共同事業への出資を求め、原告と被告会社との間で本件共同事業のうち「トムとジェリー」30作品に関する部分について合意が成立し、また、原告商品に収録されている日本語音声の台詞(本件著作物)の著作権は被告会社も共有しており、被告会社による被告商品の輸入、複製、頒布行為は原告の著作権の侵害行為には当たらない旨、主張しました。

この点について、裁判所は、本件合意書には原告と被告会社の共同事業についての記載があるものの、原告及び被告会社のいずれも本件合意書に押印していないこと、また、本件証拠上、他に本件共同事業の合意が原告と被告会社との間でされたことを直接裏付ける契約書、合意書その他の書面は提出されていないことを認定。原告から被告会社への支払金額90万5000円もおよそ本件共同事業の合意の成立を推認させるに足りないなどとして、共同事業の合意の成立を否定しています(5頁以下)。

結論として、被告会社による被告商品の輸入、複製、頒布行為は、原告の著作権の侵害行為に該当すると判断されています。

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2 被告Aに対する請求の可否

原告は、本件の首謀者は被告Aであり、被告会社は税務対策上の名義会社にすぎないのであって被告A個人の責任を追及するのは当然であるとして、被告Aに対しても差止め及び損害賠償の請求を求めましたが、裁判所は、本件証拠上、被告A自身が被告商品を輸入、複製、頒布した事実はこれを認めるに足りず、被告会社の法人格を否認すべきほどの事情も見当たらないとして原告の主張を認めていません(8頁以下)。

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3 原告の損害額

原告は、被告らが被告商品を計1万5000枚販売し、小売販売価格1枚500円、卸価格325円(小売販売価格の65%)、製造・販売に要する経費額55円(1枚あたり)として、被告商品1枚あたりの利益額は270円と算定。
被告らの著作権侵害行為により原告の被った損害の額は、405万円(270円×1万5000枚)を下回らないと主張しました(著作権法114条2項)。
この点について、裁判所は、原告は主張を裏付ける客観的資料を何ら提出しておらず、本件証拠上も被告会社の具体的な利益額及び販売数量をうかがわせる証拠は見当たらないとして、被告会社の自認する利益額及び販売数量から15万3000円(利益額17円×販売数量9000枚)と認定しています(9頁)。

結論として、被告会社に対する112条1項に基づく被告商品の複製及び販売の差止めと民法709条に基づく15万3000円の限度で認容されています。

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■コメント

原告と被告会社との間では、「三人の騎士」作品についても判決が出ていています(後掲ブログ記事参照)。また、本件と同日に裁判所サイトで公開された「白雪姫」作品に関する事案(平成26(ワ)4972、平成25(ワ)32465 )も両社が関連するものです。

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■過去のブログ記事

2015年03月30日記事
アニメ映画「三人の騎士」DVD事件

2015年04月13日記事
アニメ「三人の騎士」DVD事件(対コスミック出版)