最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「サンダーストーム」ゲームソフト原盤使用許諾契約事件

東京地裁平成27.6.26平成26(ワ)9738損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 東海林 保
裁判官      今井弘晃
裁判官      勝又来未子

*裁判所サイト公表 2015.7.8
*キーワード:ゲーム音楽、原盤譲渡契約、原盤制作契約、原盤使用許諾契約

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■事案

ゲームソフトBGM楽曲使用許諾契約に基づく販売状況等が争点となった事案

原告:作曲家
被告:アニメ制作会社

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法

1 被告に本件契約の債務不履行があるか
2 被告に争点1以外の債務不履行ないし著作権法違反行為があるか

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■事案の概要

『本件は,原告が,被告に対し,原告と被告とは,昭和60年4月10日付けで,原告が作曲し,原盤に録音した別紙著作物目録記載の4曲の楽曲(以下「本件楽曲」という。)について,被告がホームユースゲーム用VHDソフト「サンダーストーム」のバック・グラウンド・ミュージックとして使用することを許諾する旨の使用許諾契約(以下「本件契約」という。)を締結したが,(1)本件契約においては出庫枚数を3000枚に限定して著作権使用料15万円が支払われたところ,被告は,この枚数を7000枚超えて販売し,その債務不履行に基づき原告に損害を与え,さらに,(2)ホームユース用でない,ゲームセンター用アーケード方式の「サンダーストーム」としても8000台が販売され,(3)「サンダーストーム」の海外版である「Cobra Command」としての販売もされ,(4)さらにレーザーディスク用ゲームにも複製されて販売され,(5)「サンダーストーム」及び「Cobra Command」として多数の違法ダウンロードもされたところ,これら(2)ないし(5)につき,被告には原告との本件契約以外の契約関係に基づく債務不履行,あるいは,著作権ないし著作隣接権侵害行為等があるところ,これら(1)ないし(5)に基づく原告の損害につき,一部請求分を含む原告の請求額はそれぞれ,(1)35万円,(2)2500万円,(3)2500万円,(4)1000万円,(5)500万円であり,これに弁護士費用100万円を加えた合計6635万円及びこれに対する平成26年5月31日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。』
(1頁以下)

<経緯>

S58.06 原告を代表者とするミュージックメイカーズ、原告を実演家代表者とするTAO、ワーナーで原盤譲渡契約(本件原盤譲渡契約)締結
S58.12 被告とデータイーストがビデオディスクゲームソフト基本契約締結
S59.02 ワーナーと被告がTAO原盤使用(アーケード用ボックスゲーム向け)覚書締結
       ミュージックメイカーズ設立登記
       ミュージックメイカーズと被告が原盤制作契約(ビデオディスクゲーム向け)締結
S60.02 被告とデータイーストが「サンダーストーム」覚書(ビデオディスクゲーム向け)締結
       原告がワーナーに対し本件原盤譲渡契約終了通知
S60.04 原被告間で「サンダーストーム」BGM楽曲使用許諾契約(本件契約)締結
H01.12 ミュージックメイカーズ解散
H15    データイースト破産。原告がデータイースト保有知的財産権一式を破産管財人から取得
H22.10 原告が被告に問い合わせ
H22.12 被告が原告に回答
H24.01 原告が被告に通知
H24.08 原告が被告に通知
H24.10 被告が原告に質問通知
H26.04 原告が本訴提起

【楽曲】
(1)サンダーストーム
(2)ビル街
(3)ジャングル
(4)要塞

【ゲーム名称】
「サンダーストーム」
海外版名「Cobra Command」

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■判決内容

<争点>

1 被告に本件契約の債務不履行があるか

原告は、被告が本件契約4条に定められたVHD方式カートリッジ「サンダーストーム」出庫枚数である3000枚を超えて、さらに7000枚を販売したことについて被告には債務不履行が存すると主張しました(22頁以下)。
この点について、裁判所は、原告は被告により3000枚を超えて出庫されたことについて、何らの証拠を提出しておらず、本件記録を精査してもこれを認めるべき証拠は見当たらないと判断。被告による本件契約の債務不履行に係る原告の主張には理由がないと判断しています。

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2 被告に争点1以外の債務不履行ないし著作権法違反行為があるか

(1)著作権侵害等の成否

原告は、アーケード方式によるサンダーストームの販売やサンダーストームの海外版名「Cobra Command」としての販売、ホームユースゲーム用サンダーストームのレーザーディスクゲーム等への複製、移植、サンダーストームないし「Cobra Command」の違法なダウンロードについて、被告には著作権ないし著作隣接権侵害の不法行為が存すると主張しました(22頁以下)。
この点について、裁判所は、これらの原告の主張する行為については、被告によりそれら著作権ないし著作隣接権侵害が行われたことを認めるに足る証拠が原告から何ら提出されていないとして、原告の主張を認めていません。
また、これら行為の債務不履行の成否についても、これらの行為につき被告が原告との間で契約上の責任を負うとする何らの根拠もないとして、裁判所は原告の主張を認めていません。

(2)その他の契約関係

原告は、ワーナーとミュージックメイカーズとの間の本件原盤譲渡契約のほか、被告とミュージックメイカーズとの間の原盤制作契約等、本件楽曲に関する契約関係が原告に承継されたとして、これによれば被告は本件楽曲やその原盤について、他の媒体等に使用されないように管理、把握、是正すべき義務を負う旨主張しました。
この点についても、裁判所は、本件原盤譲渡契約、原盤制作契約等、本件楽曲に関する契約について、これら契約上の地位が原告に承継されるとする根拠を欠くとして、原告の主張を認めていません。

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■コメント

アーケードゲーム(ゲームセンター向け業務用機器)からPC向け、家庭用VHDソフト用、レーザーディスク(LD)用にと動画が転用されたゲームソフトで、動画部分を被告が、音を原告が制作しています。
たとえば、「LDゲーム サンダーストーム  Cobra Command (Thunder Storm)」でネット検索すると、LD版、PC版の動画を視聴することができますが、内容としては戦闘ヘリコプターによるゲームとなります。

原被告間で締結された「サンダーストーム」ゲームソフトBGM楽曲使用許諾契約(本件契約)の履行状況が主争点となり、超過販売数について原告側の立証が尽くされていない結果となっています。
また、ワーナーとの関係は原告の契約終了通知によっても不明であり、また原告が代表者だった解散したミュージックメイカーズの契約上の地位は、その事後処置をしていないため、原告が当然に当事者となるわけでもなく、使用媒体違反等の点についても原告の主張が認められていません。