最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

構造詳細設計用3DCADソフト不正使用事件

大阪地裁平成27.6.18平成26(ワ)7351等債務不存在確認請求本訴事件、損害賠償請求反訴事件PDF

大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 森崎英二
裁判官      田原美奈子
裁判官      中山 知

*裁判所サイト公表 2015.6.24
*キーワード:確認の利益

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■事案

構造詳細設計用3DCADソフトの海賊版使用の際の損害賠償債務に関して確認の利益の有無が争点となった事案

原告:鋼構造物製品製作会社
被告:建築建設業界向けソフト開発会社

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■結論

本訴請求却下、反訴請求棄却

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■争点

1 本訴における確認の利益の有無
2 原告代表者による本訴の提起及び訴訟追行が不法行為といえるか

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■事案の概要

『本件の本訴事件は,原告が被告に対し,原告と被告との間で本件損害賠償債務が存在しないことの確認を求めた事案であり,本件の反訴事件は,原告の本訴事件の訴え提起及び訴訟追行は,原告代表者による不法行為であるとして,会社法600条に基づき損害賠償として100万円及びこれに対する不法行為の日の後である平成27年4月7日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。』(2頁)

<経緯>

H24.08 原告がの不正コピー品であるインストール用DVDを購入
H26.06 被告担当者が原告に連絡
H26.08 原告が本訴提起
H26.11 原告が訴えの変更

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■判決内容

<争点>

1 本訴における確認の利益の有無

原告は、被告がフィンランド法人であるテクラコーポレーションの100%子会社の日本法人であり、本件ソフトウェアの著作権者であるとの理解のもと、原告の行為が被告に対する不法行為を構成し本件損害賠償債務を負うことを自認した上で、その額が15万1433円を超えて存在しないことの確認を求めて被告に対して本訴を提起しました。

これに対して、被告は、本件損害賠償債務について原告に対する損害賠償請求権を有するのは被告ではなくテクラコーポレーションであるから、本訴請求に係る訴えには確認の利益がない旨の主張をしました。
この点について、裁判所は、『確認の訴えは,その対象が無限定であること等から,原告の権利又は法律的地位に危険や不安定が現存し,これを解消するために,原告と被告間で当該請求について確認判決をすることが必要かつ適切であることが認められる場合に許容される。』(8頁)と説示。

その上で、本訴については、本件ソフトウェアの著作権者がテクラコーポレーションである以上、原告が確認対象としている本件ソフトウェアの不正利用を巡る損害賠償請求権は、テクラコーポレーションに帰属すべきものとなるが、ただ、原告と被告との間では被告が上記損害賠償請求権の行使主体となって本件ソフトウェアの不正利用を巡る損害賠償債務の額について交渉がされており、しかも、上記交渉の間において上記損害賠償請求権は本来テクラコーポレーションに帰属する旨が必ずしも明確に認識されていなかった様子があった。
そして、本訴提起段階においては、被告に対する関係で本件ソフトウェアの不正利用を理由とする損害賠償債務の有無に係る原告の地位について、危険ないし不安定が存していたということができると判断。

もっとも、被告は、原告が本件損害賠償債務を負わないことを一貫して認めており、そのことは反訴提起後も確認されていることから、現在においては、原告において被告から本件ソフトウェアの不正利用に関する本件損害賠償を求められるという危険や不安定が存すると認めることはできない。

また、本件ソフトウェアの著作権者はテクラコーポレーションであり、したがって、原告はその自認する本件ソフトウェアの不正利用を理由とする損害賠償をテクラコーポレーションにしなければならないことが明らかにされている以上、原告と被告との間であえて原告が本件損害賠償債務全部を負わない旨の確認をすることが必要かつ適切であるとも認められないと判断。結論として、原告が被告に対して本件損害賠償債務の不存在の確認を求める本訴請求に係る訴えは、確認の利益がなく不適法であって却下を免れないと判断しています。

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2 原告代表者による本訴の提起及び訴訟追行が不法行為といえるか

被告は、原告代表者が本件ソフトウェアの著作権を被告が有していないことを当然承知していた、また、容易に調査可能であったとして、本訴を提起したのは不当訴訟であり、少なくとも過失責任を負う旨主張しました(9頁以下)。

この点について、裁判所は、『訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは,当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものであるうえ,提訴者が,そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起したなど,訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である(最高裁判所第三小法廷昭和60年(オ)第122号損害賠償請求事件昭和63年1月26日判決・民集42巻1号1頁参照)。』(9頁)と説示。

そして、損賠賠償の交渉において当該損害賠償請求はテクラコーポレーションが原告に対して有する損害賠償請求権に基づくものである旨の積極的説明が被告からなされなかったこと等を考慮すれば、原告が自らの損害賠償請求権を行使していると理解される被告との間で、本件損害賠償債務の額を確定する必要性を認めて本訴を提起したことが裁判制度の趣旨に照らして著しく相当性を欠くとは認められないことは明らかであると裁判所は判断。

原告の本訴の提起及び訴訟追行が、不法行為を構成するとはいえず、そのことを理由とする損害賠償請求には理由がなく棄却すべきであると判断しています。

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■コメント

確認の利益を欠くとの判断で却下の結論となった事案となります。