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2015年05月18日

「子連れ狼」独占的利用許諾契約事件−著作権 損害賠償請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「子連れ狼」独占的利用許諾契約事件

東京地裁平成27.3.25平成24(ワ)19125損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 嶋末和秀
裁判官      鈴木千帆
裁判官      西村康夫

*裁判所サイト公表 2015.5.8
*キーワード:漫画、独占的利用許諾契約、公序良俗、一部無効、信頼関係破壊、解除

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■事案

漫画原作作品の独占的利用許諾契約の内容について公序良俗違反により一部無効が認定された事案

原告:コンテンツマネジメント会社
被告:漫画原作者ら

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 民法90条、651条、703条

1 被告A1及び被告A2の共同不法行為に基づく請求
2 被告A1及び被告A3の共同不法行為に基づく請求
3 被告A2、被告A3、被告A4及び被告A5の共同不法行為に基づく請求
4 被告A2の債務不履行に基づく請求
5 被告A2に対する金銭消費貸借契約に基づく請求
6 被告A2に対する不当利得返還請求

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■事案の概要

『本件は,漫画原作者である被告A2から著作物独占的利用権の設定を受けたと主張する原告(旧商号:平成19年6月5日まで「ウクソンジャパン株式会社」,平成21年1月29日まで「被告A6株式会社」,同年3月30日まで「劇画村塾株式会社」。同日以降現商号。甲1,25)が,被告らに対し,不法行為(独占的利用権の侵害)に基づく損害賠償を求める(請求の趣旨第1項〜第5項)とともに,被告A2に対し,貸金の返還を求め(請求の趣旨第6項),さらに,被告A2に対し,請求の趣旨第1項〜第5項の予備的請求として不当利得の返還を求める(請求の趣旨第7項)事案である。』(4頁以下)

〈経緯〉

H16.08 被告A2が大成商事有限会社と商品化許諾契約締結
       被告A2が発起人のPTSが大成商事の契約上の地位を承継
H19.02 PTSが平和とパチンコ遊技機利用許諾契約締結
H20.01 原告と被告A2が本件独占的利用許諾契約を締結
H20.04 被告A2がKK TRIBEに7作品の著作権譲渡
H20.05 被告A2がKADOKAWAに7作品を含む211作品の著作権譲渡
H20.12 原告がCSデヴコとハリウッド映画化に関する取引基本合意書締結
H23.04 被告A2が米国法人1212と実写映画化権許諾オプション契約締結
H23.04 米国法人1212が米国法人ラッキー17にオプション契約上の地位を譲渡
H23.05 7作品の著作権が、KK TRIBEから被告A2を経て被告A4に譲渡
H23.09 被告A2が本件独占的利用許諾契約を解除
H24.01 被告A4が米国法人ラッキー17に翻案権の一部を譲渡
H24.07 平和のPTSに対する支払済み許諾料1億6600万円返還請求認容(東京地裁平成23年(ワ)第35541号)
H25.01 ラッキー17の原告に対する「子連れ狼」実写映画化権等確認の訴え認容(東京地裁平成24年(ワ)第16442号、知財高裁平成25年(ネ)第10094号)

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■判決内容

<争点>

1 被告A1及び被告A2の共同不法行為に基づく請求

(1)本件独占的利用許諾契約の成否

本件独占的利用許諾契約の成否について、本件著作物利用契約書の成立の真否や本件公正証書の成立の真否も含め争点となりましたが、いずれも真正に成立したものと認められています。
そして、本件著作物利用契約書により成立した契約の内容については、過去の作品1843点のほか、被告A2が将来制作する著作物も含め原告に対して独占的な利用許諾をしていることが認められています(57頁以下)。

【認定された契約の骨子】

1.被告A2は、原告に対し、「本著作物」を利用させることを許諾し、日本あるいは海外において次の各事項を独占的に実施することを許諾する(2条)。

(1)原告が「本著作物」の全部又は一部を複製し、譲渡し、展示し、あるいは「本著作物」の全部又は一部を翻訳・翻案して著作物を作成して利用すること(著作権法21条、25条、26条の2、27条、28条に示す権利の許諾を含む。)。
(2)「本著作物」の全部又は一部を、あるいは「本著作物」の全部又は一部を翻訳・翻案して作成された著作物を、インタラクティブ配信、コンテンツ配信等送信あるいは送信可能化事業を行うこと。
(3)「本著作物」の全部又は一部を、あるいは「本著作物」の全部又は一部を翻訳・翻案して作成された著作物を、ゲーム、パチンコ、パチスロ及びこれらの周辺機器等、アミューズメント事業において利用すること(送信あるいは送信可能化事業も含む。)。
(4)「本著作物」の全部又は一部を、あるいは「本著作物」の全部又は一部を翻訳・翻案して作成された著作物を、商品化、商業化するマーチャンダイジング事業を実施すること。

2.同契約は、「本著作物」に係る全ての著作物の著作権の存続期間が満了するまでの間存続する(6条)。
3.「本著作物」は、被告A2が将来制作する著作物を含む。

(2)本件独占的利用許諾契約の公序良俗違反性

本件独占的利用許諾契約の内容が広範囲かつ期間も長期に亘るものであることから、その公序良俗性が争点となりました(64頁以下)。

この点について、裁判所は、
「一般に,専属実演家契約などにおいては,当該専属契約期間中に制作される著作物の著作権を事前にかつ包括的に芸能事務所に帰属させることもしばしば行われており,将来制作される著作物について,事前にかつ包括的に独占的利用権を設定したとしても,そのことをもって直ちに対象著作物の特定性に欠けるとか,公序良俗に違反するとかいうことはできない。
 また,著作物の利用形態がほぼ全ての態様にわたっており,利用期間が極めて長期であるという点も,そのことは著作権譲渡契約においても同様であるから,直ちに公序良俗に違反するとはいえない。」(67頁)
と一般論についてまず言及しています。

もっとも、
「専属実演家契約において上記のような事前かつ包括的な著作権譲渡が許容されているのは,同契約が更新があるとしても有期の契約であり,同契約の終了とともに(将来に向かって)効力を失うこと,同契約継続中は,芸能事務所から実演家に実演家報酬が支払われていること等の事情によるものと解される(東京高裁平成5年6月30日判決・判時1467号48頁,東京地裁平成13年7月18日判決・判時1788号64頁,東京地裁平成15年3月28日判決・判時1836号89頁,東京地裁平成25年3月8日判決・労判1075号77頁等参照)。」
として、(1)契約が有期であること、(2)契約期間中報酬が支払われること、といった事情が許諾者側の利益保護のために考慮すべき事情であると判断。

本事案では、本件独占的利用許諾契約では被告A2の死後50年まで存続するもので当事者からの解除は一定の事由が発生したときに限られており、当事者が契約の拘束力から離脱する道は閉ざされていること、また、本件著作物利用契約書により本件独占的利用許諾契約が締結された平成20年1月25日頃以降、平成22年6月30日までの約2年半の間は、被告A2はいくら著作物を創作してもそれを他社に利用させて印税を得ることができず自己の著作物から利益を得る可能性を閉ざされていたといった事情があると認定。

「これらの事情を総合考慮すると,本件独占的利用許諾契約のうち,「今後制作される著作物」を除いた部分については公序良俗に違反するとはいえないが,「今後制作される著作物」につき,原告が印税配分義務を負わずに独占的利用権を取得することを内容とする部分については,公序良俗に違反し無効であると認めるのが相当である。
 もっとも,本件独占的利用許諾契約締結後に創作された著作物であっても,原告と被告A2との間の本件印税合意により,原告が受領した印税の6割が被告A2に支払われるものについては,上記のように被告A2が自己の著作物から利益を受ける可能性を閉ざされるものではないので,公序良俗に違反するとまではいえない。」
と判断しています。

(3)本件独占的利用許諾契約の解除の成否

結論として、原告の行為に原告と被告A2との間の信頼関係を破壊するに十分なものが認められ、本件独占的利用許諾契約にいう「本契約を継続しがたい重大な背信行為」に当たると裁判所は判断。被告A2の平成23年9月15日付け本件解除通知による本件解除は有効であるとしています(69頁以下)。
そして、平成23年9月18日をもって原告の本件独占的利用権は消滅したと判断されています。

(4)被告A1による本件書籍1の出版について

被告法人A1による本件書籍1(99点)の出版について、裁判所は各書籍を個別に検討。契約の対象外のものなどを除き、原告に無断で出版したとして、原告はこれにより本件独占的利用権を侵害されたものと認めています(72頁以下)。

(5)被告A1の故意

本件書籍1が出版された平成20年1月25日から平成22年6月30日までの間、被告法人A1の代表取締役は被告A2であり、被告A2は自らの意思に基づいて本件独占的利用許諾契約を締結し、その内容を認識していたものと認められることから、原告に無断で本件書籍1を出版することが原告の本件独占的利用権を侵害することを認識していたものと認められると判断。被告法人A1の故意が認定されています(75頁以下)。

(6)原告の得べかりし印税相当額

被告法人A1の本件独占的利用権を侵害する本件書籍1の無断出版によって、原告は被告法人A1から得べかりし印税相当額の損害を被ったと裁判所は判断。
本件書籍1について原告の得べかりし印税相当額として合計2777万5208円(1円未満四捨五入)を認定しています(76頁以下)。

(7)被告A2の責任

被告A2は、被告法人A1の代表取締役として本件書籍1の出版を決定し、その職務を行うにつき不法行為をして原告に損害を加えたため、被告法人A1がその賠償責任を負うものであるから、代表取締役である被告A2は被告法人A1と連帯して共同不法行為責任を負うと判断されています(77頁)。

(8)被告A2による相殺について

被告A2は、相殺を主張しましたが、請求の趣旨第1項で請求されているのは不法行為に基づく損害賠償債務であるとして、相殺をもって対抗することはできないと判断されています(民法509条 77頁)。

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2 被告A1及び被告A3の共同不法行為に基づく請求

被告法人A1による本件書籍2(104点)の出版について、原告は、平成23年9月13日から平成24年9月10日までの間の本件書籍2の出版が本件独占的利用権を侵害すると主張しました。
しかし、本件解除通知による解除は(将来に向かって)有効であることから、本件解除通知が原告に到達した平成23年9月18日以降の本著作物の出版は本件独占的利用権を侵害するものではないと裁判所は判断。
もっとも、本件書籍2のうち、平成23年9月18日までに発行されたもので7点の出版については原告の独占的利用権を侵害すると認められています(78頁以下)。
結論として、被告法人A1及び被告A3(平成23年9月13日から平成24年9月10日までの間、被告法人A1の代表取締役であった者)の共同不法行為責任に基づく原告の得べかりし印税相当額の損害金80万9280円の請求が認められています(78頁以下)。

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3 被告A2、被告A3、被告A4及び被告A5の共同不法行為に基づく請求

被告A2からKK TRIBEに対する本件7作品の著作権譲渡がなされた平成20年4月9日時点、及び、被告A2から被告A4に対する本件7作品の著作権譲渡がなされた平成23年5月10日時点においては、原告は本件7作品に対し本件独占的利用権を有していたとして、上記各譲渡は、原告の本件独占的利用権を侵害し、また被告らに故意があると裁判所は判断しています。
しかし、原告主張の損害(CSデヴコから得べかりし100万米ドルの損害やフジテレビから得べかりし170万円の損害など)は、いずれも不法行為との間に相当因果関係が認められないとして、被告A2、被告A3、被告A4及び被告A5の共同不法行為に基づく請求の趣旨第3、4項の請求はいずれも理由がなく、被告A5に対する任務懈怠責任に基づく請求の趣旨第3項の予備的請求も理由がないと判断されています(83頁以下)。

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4 被告A2の債務不履行に基づく請求

原告は、被告A2のPTSに対する利用許諾期間延長が、旧公正証書契約に基づく義務の債務不履行に当たる旨主張しました(92頁以下)。
結論としては、被告A2が原告に対して、PTSに対する利用許諾期間を延長させない義務を負ったとは認められず、被告A2の債務不履行に基づく請求を裁判所は認めていません。

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5 被告A2に対する金銭消費貸借契約に基づく請求

金銭消費貸借契約に基づき、貸金合計5000万円の支払について請求が認められています(97頁以下)

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6 被告A2に対する不当利得返還請求

被告A2は、原告から合計2億円の資金提供を受けた点について、
(1)原告が被告A2の名前を冠したマンガ家養成塾を開業するための承諾料・名称使用料
(2)原告が3年間の独占的利用許諾で被告A2の著作物の著作権の利用許諾を受け二次使用等の権利許諾ビジネスを行うことの許諾料・契約金
(3)原告代表者の被告A2及び関係会社の窮状に対する個人的なパトロネージ(=芸術活動に対する精神的・経済的支援)
(4)役員報酬、劇画村塾の講師料などの役務提供に対する包括的な前払金
という複合的な性格を有する資金提供であり、法律上の原因があり、被告A2が返還義務を負う理由はないと反論しました。
結論としては、原告が被告A2に対して本件独占的利用権の対価として合計2億円を支払ったことが認定されており、解除に伴い被告A2は原状回復義務を負い、原告の被告A2に対する原状回復請求権に基づき、被告A2が受領した2億円のうち1億6440万1672円(原告が既に本件独占的利用権によって得た利益を控除した額)の支払の請求が認められています(108頁以下)。

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■コメント

劇画原作家小池一夫さんらを被告とする訴訟で、原告法人は小池さんが当初塾長、取締役を務めていた旧劇画村塾となります。
小池さんが原告に作品のライセンスしている状況下で作品の著作権を小池さんが複数他社に譲渡するなどしており、権利関係が錯綜した結果としての一連の紛争となっています。
著作物の独占的利用許諾契約において、過去の作品だけでなく将来の著作物までを包括的に取り扱う場合に、契約期間自体が長期で、解除などによる契約終了の余地が狭く、かつ、印税の支払いなどにも不均衡がある場合は公序良俗違反として契約の一部が無効となると判断された点が実務上重要です。

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■過去のブログ記事

2013年10月22日記事
「子連れ狼」実写版映画契約事件

2014年04月03日記事
「子連れ狼」実写版映画契約事件(控訴審)

2012年07月31日記事
漫画「子連れ狼」パチンコ遊技機ライセンス事件
written by ootsukahoumu at 06:54│TrackBack(0)知財判決速報2015 

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