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2015年03月09日

歴史小説テレビ番組事件−著作権 著作権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

歴史小説テレビ番組事件

東京地裁平成27.2.25平成25(ワ)15362著作権侵害差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 東海林保
裁判官      今井弘晃
裁判官      実本 滋

*裁判所サイト公表 2015.3.4
*キーワード:歴史小説、テレビ、著作物性、翻案、複製、氏名表示権、同一性保持権

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■事案

歴史小説を無断でBSテレビ番組として制作したかどうかが争点となった事案

原告:歴史小説作家(直木賞受賞作家)
被告:テレビ・ラジオ番組企画制作会社

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、21条、27条、19条、20条

1 著作権(翻案権、複製権)侵害の成否
2 著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権)侵害の成否
3 許諾の有無
4 差止請求の可否
5 損害発生の有無及びその額

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■事案の概要

『本件は,原告が,被告が原告各小説を無断で翻案ないし複製して被告各番組を制作して,原告各小説について原告が有する著作権(翻案権,複製権)及び著作者人格権(同一性保持権,氏名表示権)を侵害したと主張して,被告に対し,著作権法112条1項に基づき,被告各番組の公衆送信及び被告各番組を収録したDVDの複製,頒布の差止めを求めるとともに,民法709条に基づく損害賠償金3200万円及びこれに対する平成25年6月26日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。』(4頁)

原告小説:
「田沼意次 主殿の税」(株式会社学陽書房)
「開国 愚直の宰相・堀田正睦」(株式会社講談社)
「調所笑左衛門 薩摩藩経済官僚」(株式会社学陽書房)

放送番組:
「THE ナンバー2〜歴史を動かした陰の主役たち〜」
20、48、67、69、75

<経緯>

H09.11 原告小説2発行
H13.07 原告小説3発行
H15.05 原告小説1発行
H23.08 被告番組1放映
H24.03 被告番組3放映
H24.07 被告番組2放映
H24.08 被告番組4放映
H24.09 被告番組5放映

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■判決内容

<争点>

1 著作権(翻案権、複製権)侵害の成否

裁判所は、著作物(著作権法2条1項1号)の意義に触れた上で、歴史上の事実等に関する記述の著作物性について、「その事実の選択や配列,あるいは歴史上の位置付け等において創作性が発揮されているものや,歴史上の事実又はそれについての見解や歴史観を具体的に記述して表現したものについては,その表現方法につき表現の選択の幅があり,かつその選択された具体的表現が平凡かつありふれた表現ではなく,そこに作者の個性が表れていれば,創作的な表現として,著作権法の保護が及ぶ場合があるというべきである。」と説示し、併せて複製(21条、2条1項15号)と翻案(27条)の意義について言及しています(12頁以下)。
そして、原告各小説の記述部分にかかる創作性等に関して、個別に複製権若しく翻案権侵害の成否を検討しています。

結論としては、5つの番組の以下の表現部分について著作権(複製権、翻案権)侵害性が肯定されています。

■被告番組1:被告番組1−3−1(被告番組4)

「あるとき,田沼が庭をぼんやり眺めていると,突然目の前に少年だったころの意知が現れました。
『あれは意知。いや,幻か。私に会いにきてくれたんだろうか』。すると少年は言いました。『おじいちゃん。』
そう,少年は,孫の龍助だったのです。」

■被告番組2:被告番組2−5−6

「このまま伊勢守に交易反対の旗を振らせておくわけにはいかない。振らせておくと国を誤る。清国のように,西洋諸国の大艦巨砲にものを言わされてしまう」

■被告番組3:被告番組3−4−6(被告番組5)

「そのほうに気づかなかったのはわしの一生の不覚だった。おろかなことに,そのほうを最後の最後まで使えぬとみた。ゆるせ」

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2 著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権)侵害の成否

被告各番組における同一性保持権侵害の成否について、裁判所はこれを否定しています。また、氏名表示権侵害性についても、被告各番組のエンドロールで参考文献として実名と書籍名が表示されおり、各表示は「その著作物を原著作物とする二次的著作物の公衆への提供又は提示に際しての原著作物の著作者名の表示」(19条1項後段)に該当するなどとして、侵害性が否定されています(15頁以下)。

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3 許諾の有無

被告は、被告各番組の制作に当たって原告に出演を求め、あるいは原告各小説を参考文献とすることについて同意を求め、原告から同意を得た上で被告各番組を制作したものであって、原告から許諾を得て被告各番組を制作、放送しており、原告の著作権を侵害しないと主張しました(17頁以下)。
この点について、裁判所は、被告は原告から事前はもとより、事後的にも原告各小説が参考文献として具体的にはどのように記述内容が用いられるのかについて理解を得ないまま被告各番組を制作、放送したものと認められるとして、被告が原告から原告各小説の記述内容を用いることについて許諾があったと認めることはできないと判断しています。

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4 差止請求の可否

裁判所は、侵害認定表現部分を含む被告各番組の公衆送信及び被告各番組を収録したDVDの複製、頒布の差止めを認めています(19頁以下)。

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5 損害発生の有無及びその額

(1)財産的損害(20頁以下)

原告各小説についての使用料相当額:
 ・小説ごとに150万円
 ・二次的著作物については、その半額の75万円
侵害認定表現部分の分量による(頁数の割合に応じて算定)
合計額8659円

(2)慰謝料(21頁以下) 否定

(3)弁護士費用相当額 30万円
 
上記の合計30万8659円が損害額として認定されています。

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■コメント

原告側代理人には柳原敏夫先生が就かれておいでです。
翻案権侵害性を肯定しつつも同一性保持権侵害性を否定した判断となっており、裁判所の判断を示した別紙の添付がないため、原作の本質に触れない細部の問題だったのかどうか、同一性保持権侵害性判断部分の正確なところが分かりません。
歴史的事実を取り扱った事案で、しかも侵害表現部分は全体としてごくわずかであること、また、別紙侵害認定表現目録部分を見ると、原審と上級審とで判断の分かれた箱根富士屋ホテル物語事件や、あるいは翻案の意義を示した最高裁判決(江差追分事件)を想起するところです。本事案でも控訴審の判断を注視したいと思います。

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■参考判例

江差追分事件
最高裁平成13.6.28平成11(受)922損害賠償等請求事件

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■参考サイト

「佐藤雅美さんが勝訴、著作権侵害 歴史教養番組で」(2015/02/26 11:50【共同通信】)
47NEWS 共同ニュース
written by ootsukahoumu at 07:17│TrackBack(0)知財判決速報2015 

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