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2015年03月05日

資格試験予備校不動産登記法テキスト事件−著作権 著作権侵害停止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

資格試験予備校不動産登記法テキスト事件

東京地裁平成27.1.30平成25(ワ)22400著作権侵害停止等請求事件PDF
別紙2

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 嶋末和秀
裁判官      鈴木千帆
裁判官      西村康夫

*裁判所サイト公表 2015.3.2
*キーワード:訴えの適法性、複製、翻案、一般不法行為論

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■事案

資格試験予備校の司法書士試験対策用の不動産登記法テキストを巡って著作権侵害性が争点となった事案

原告:資格試験受験予備校
被告:講師

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、21条、27条、民法709条

1 本件訴えの適法性
2 著作権侵害性
3 一般不法行為論

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■事案の概要

『本件は,別紙1「原告書籍目録」記載の書籍(以下「原告書籍」という。)の著作権を有するとする原告が,別紙2「被告書籍目録」記載の書籍(以下「被告書籍」という。)を販売するなどしている被告に対し,被告が被告書籍を販売・頒布する行為は,原告の複製権(著作権法21条)及び譲渡権(同法26条の2)を侵害し(なお,「頒布」には,複製物を公衆に貸与することが含まれるが〔同法2条1項19号〕,原告は貸与権〔同法26条の3〕の侵害には言及していない。),また,被告がその管理するインターネットサイト上で被告書籍を表示・配信する行為は,原告の複製権(同法21条),自動公衆送信権及び送信可能化権(同法23条)を侵害すると主張して,著作権法112条1項に基づき,被告書籍の販売・頒布,並びに上記サイト上における被告書籍の複製,自動公衆送信及び送信可能化の差止めを求めるとともに,侵害の停止又は予防に必要な措置(同条2項)として,被告書籍の廃棄を求め,さらに,不法行為(著作権侵害に基づく請求と一般不法行為に基づく請求の選択的併合)に基づく損害賠償金210万円(被告書籍の販売に対する使用料相当の損害10万円と弁護士費用200万円の合計)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成25年9月7日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。』(2頁)

原告書籍:「2011年A一発合格塾 本論編 不動産登記法(1)」
被告書籍:「極 kiwami text INPUT編 不動産登記法1」

<経緯>

H06.08 被告が原告従業員として稼働
H21.10 業務委託規約締結
H23.03 被告がネットに「A司法書士予備校」開設

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■判決内容

<争点>

1 本件訴えの適法性

被告は、本件訴えは実質的にみて前訴(後掲の資格試験予備校講師競業避止義務事件)の蒸し返しであって、不適法である旨主張しました(21頁以下)。
しかし、裁判所は、原告が本訴において著作権侵害を主張する対象(不動産登記法のテキスト)と前訴において著作権侵害を主張した対象(民法のテキスト)とは、形式的にも実質的にも異なるものであって、著作物性の有無や複製の成否など裁判所の審理判断すべき事項も当然に異なるとして、前訴の判決の確定は、被告が本訴に係る請求についてまで紛争が解決されたとの期待を抱くべき事情となり得ないことが明らかであって、原告の本訴における請求及び主張について前訴における請求及び主張の蒸し返しに当たると認める余地はないと判断。
本件訴えは適法であるとされています。

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2 著作権侵害性

原告は、原告書籍が司法書士試験の合格に必要な不動産登記法の知識を分かりやすく解説したものであり、言語の著作物に該当するものであるが、法律の解説という作業には不可避的に創作性の幅に限界があることから原告書籍中の個々の記載について著作物性が低いと判断されるおそれがあるとしても被告書籍は一定以上のまとまりをもって原告書籍と具体的表現を共通にし、また、記述の順序も原告書籍と同一であるとして複製権侵害が成立する旨主張しました(22頁以下)。
この点について、裁判所は、複製及び翻案(著作権法21条,2条1項15号、27条)の意義について言及した上で、法令や判決、決定等が著作権の目的とならないこと(13条1号ないし3号)やそこから当然に導かれる事項は思想又は感情を創作的に表現した部分とはいえないこと、さらに、一つの手続について法令の規定や実務の手続に従って記述することはアイデアであり、一定の工夫が必要ではあるものの、これを独自の観点から分類し整理要約したなどの個性的表現がされている場合は格別、法令等の内容や手続の流れに従って整理したにすぎない場合は誰が作成しても同じような表現にならざるを得ないから、手続について実務の手続の流れに沿って説明するにすぎないものである場合は思想又は感情を創作的に表現した部分において同一性を有するとはいえないと説示。
加えて、法律問題に関する筆者の見解又は一般的な見解であったり、当該手続における一般的な留意事項である場合についても、一般の解説書等に記載されていない独自の観点からそれを説明する上で普通に用いられる表現にとらわれずに論じているような場合は格別、そうでない限りは思想ないしアイデアにおいて同一性を有するにすぎないと説示しています。
その上で「対比表」記載の各部分などについて検討をしています。
結論として、原告の主張する点について、いずれも筆者の個性を感得することはできず、表現上の創作性は認められず、複製又は翻案に関する著作権侵害性は成立しないと判断されています。

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3 一般不法行為論

原告は、被告が原告書籍に依拠して被告書籍を作成、発行した行為は、著作権法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる原告の営業上の利益という法的に保護された利益を侵害しているという特段の事情が存すること、そして、原告の成果物を不正に利用して利益を得たものであるとして、公正な自由競争として社会的に許容される限度を超えるものとして一般不法行為を構成すると主張しました(35頁以下)。
しかし、裁判所は、著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益とは認められないこと、また、自由競争の範囲を逸脱し原告に対する営業妨害等の不法行為を構成するとみられる事情も認められないとして、原告の主張を容れていません。

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■コメント

資格試験受験予備校のテキストの類否に関する紛争となります。前訴では司法書士試験対策用の民法のテキストが対象となっていましたが、本事案では不動産登記法のテキストが対象となっています。
別紙2にあるように、一定のまとまりで捉えての複製性などを原告は主張していますが、この点についても、筆者の個性が表れていないと判断されています(32頁以下参照)。
法律書籍(通勤大学法律コース)事件(知財高裁平成18.3.15平成17(ネ)10095損害賠償等請求控訴事件)や過払い金回収マニュアル本事件(名古屋地裁平成23.9.15平成21(ワ)4998著作権侵害等に基づく損害賠償等請求事件 名古屋高裁控訴棄却)からみても平易な実務解説を内容とする法律書籍については、デッドコピーに近いものでないとなかなか著作権侵害性とは判断されません。

そもそも論になりますが、資料の著作権を全部譲渡する内容で、仮に例外的な取り扱いの余地すらないような業務委託契約のもとで講師業務を行うということ自体が、どれほどの(まともな)資料が提供できるのか疑問が残ります。
予備校側にしても一流の講師から良い資料の提供を受けるのであれば著作権譲渡に拘らない柔軟な対応が必要で、「なんでも譲渡を受ければ安心」、では、講師側としても死活問題で、出せる資料も出せなくなる、躊躇する懸念があります。

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■過去のブログ記事

前訴 資格試験予備校講師競業避止義務事件

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■参考判例

資格試験予備校講師競業避止義務事件
東京地裁平成24.9.28平成23(ワ)14347著作権侵害停止等請求事件
判決文PDF
written by ootsukahoumu at 08:12│TrackBack(0)知財判決速報2015 

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