最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

IKEA製品写真事件

東京地裁平成27.1.29著作権侵害差止等請求事件PDF
別紙1
別紙2

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 高野輝久
裁判官      藤田 壮
裁判官      宇野遥子

*裁判所サイト公表 2015.2.25
*キーワード:商品写真、著作物性、ドメイン、タグ、商標的使用、商品等表示、損害論

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■事案

家具製品などの広告写真や宣伝文章を無断でECサイトで使用した事案

原告:家具製造販売会社
被告:ECサイト運営者

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、不正競争防止法2条1項1号、2号、商標法36条

1 被告は平成22年11月9日以降の被告サイトの運営に関する責任を負うか
2 被告が本件写真等を被告サイトに掲載したことは原告の著作権を侵害するか
3 被告が被告各標章をタイトルタグ及びメタタグとして使用したことは原告の商標権を侵害し又は不正競争に該当するか
4 原告の損害額

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■事案の概要

『本件は,原告が,(1)被告が別表1「被告サイト」「製品写真」欄の製品写真(別紙6の対応する番号の製品写真。以下「被告各写真」といい,個別の製品写真をその番号に従い「被告写真A1」のようにいう。)及び別表2「被告サイト」欄の文章,写真(別紙6の対応する番号の文章,写真。以下「被告各文章等」といい,被告各写真と併せて「本件写真等」という。)をドメイン名「IKEA-TORE.JP」(以下「旧ドメイン名」という。)又は「STORE051.COM」(以下「新ドメイン名」という。)を使用したウェブサイト(以下「被告サイト」という。)に掲載したことは原告の著作権を侵害し,(2)被告が別紙3被告標章目録記載1ないし4の標章(以下「被告各標章」という。)を被告サイトのhtmlファイルのタイトルタグ,メタタグとして使用したことは,原告の商標権を侵害し,また,不正競争に当たると主張して,被告に対し,(1)著作権法112条1項,2項に基づき,別紙1製品写真目録1記載の製品写真データ(被告各写真の一部)及び別紙2文章写真目録1記載の文章,写真データ(被告各文章等)のウェブサイトへの掲載の差止め,これらの自動公衆送信及び送信可能化の差止め並びにこれらの廃棄,(2)商標法36条1項,2項,不正競争防止法3条1項,2項,2条1項1号,2号に基づき,被告サイトにおける被告各標章のタイトルタグ及びメタタグとしての使用の差止め並びに除去,(3)著作権侵害及び商標権侵害の不法行為又は不正競争による損害賠償金5572万6759円の一部である1373万7000円及びこれに対する平成26年11月22日(同月17日付け訴えの変更申立書送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める事案である。』(2頁以下)

原告商標
1 IKEA
2 イケア

被告標章
1 【IKEA STORE】
2 イケア通販
3 IKEA【STORE】
4 IKEA通販

<経緯>

H22.02 原告が被告に被告サイトの運営中止を通知
H22.05 被告が原告と侵害行為を行わないことを約束
H22.11 被告がクラシック社に事業譲渡
H23.06 原告がドメイン名紛争処理手続
H23.09 被告が旧ドメイン名を使用する権利を有することの確認を求める訴訟を提起、請求放棄

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■判決内容

<争点>

1 被告は平成22年11月9日以降の被告サイトの運営に関する責任を負うか

被告は、事業譲渡契約により被告サイトの運営権や旧ドメイン名をクラシック社に譲渡しており、被告サイトの運営主体ではなくなったと反論しました(12頁以下)。
この点について、裁判所は、クラシック社が被告サイト事業を実際に行っていることを示す客観的証拠が全くなく、かつ、被告が本件事業譲渡契約後も被告サイト事業に深く関わってきたことに鑑みれば、被告の供述はにわかに採用することができないと判断。少なくとも被告は原告に対して、信義則上、クラシック社との間の本件事業譲渡契約があることを主張することができず、本件サイトに関する法的責任を免れることはできないと判断しています。
結論として、被告は平成22年11月9日以降の被告サイトの運営に関する責任を負うと判断されています。

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2 被告が本件写真等を被告サイトに掲載したことは原告の著作権を侵害するか

(1)原告各写真の著作物性

被告は、原告各写真はオリジナリティーや創造性に欠け、背景が白であれば誰でも同じ画像が撮影可能であって、著作物性を欠くと反論しました(15頁以下)。
この点について、裁判所は、原告各写真は原告製品の広告写真であり、いずれも、被写体の影がなく背景が白であるなどの特徴がある。また、被写体の配置や構図、カメラアングルは製品に応じて異なるものの、同種製品を色が虹を想起せしめるグラデーションとなるように整然と並べるなどの工夫が凝らされているものや、マット等をほぼ真上から撮影したもので、生地の質感が看取できるよう撮影方法に工夫が凝らされているものであること。そして、これらの工夫によって原告各写真は、原色を多用した色彩豊かな製品を白い背景とのコントラストの中で鮮やかに浮かび上がらせる効果を生み、原告製品の広告写真としての統一感を出し、商品の特性を消費者に視覚的に伝えるものとなっていると判断。
結論として、原告各写真について創作性を認めることができ、いずれも著作物であると認定しています。

(2)著作権侵害性

被告各写真は原告各写真と同一であり、また、被告各文章等は原告各文章等と同一ないし類似するものであるとして、本件写真等を被告サイトに掲載することは原告の複製権、翻案権及び公衆送信権を侵害することになると裁判所は判断。
著作権法112条1項、2項に従い、原告は被告に対して本件写真等の使用を差止め及びこれに係るデータの廃棄を請求することができると判断しています。

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3 被告が被告各標章をタイトルタグ及びメタタグとして使用したことは原告の商標権を侵害し又は不正競争に該当するか

(1)類否

被告各標章の要部は「IKEA」ないし「イケア」の部分であると認められ、本件各商標と少なくとも外観及び称呼が同一ないし類似するとして、被告各標章は本件各商標に類似すると判断されています(17頁以下)。

(2)商標的使用ないし商品等表示としての営業的使用

インターネットの検索エンジンの検索結果において表示されるウェブページの説明は、ウェブサイトの概要等を示す広告であるということができるから、これが表示されるようにhtmlファイルにメタタグないしタイトルタグを記載することは、役務に関する広告を内容とする情報を電磁的方法により提供する行為に当たると裁判所は判断。
そして、被告各標章は、htmlファイルにメタタグないしタイトルタグとして記載された結果として、検索エンジンの検索結果において、被告サイトの内容の説明文ないし概要やホームページタイトルとして表示され、これらが被告サイトにおける家具等の小売業務の出所等を表示し、インターネットユーザーの目に触れることによって顧客が被告サイトにアクセスするよう誘引するのであるから、メタタグないしタイトルタグとしての使用は商標的使用に当たるということができると判断しています。

(3)混同のおそれ

被告各標章は、原告の商品等表示である「IKEA」ないし「イケア」に類似し、また、両者とも家具等の小売を目的とするウェブサイトで使用され、現に被告サイトを原告サイトと勘違いした旨の意見が複数原告のもとに寄せられていることが認められることから、被告各標章を使用する行為は原告の営業等と混同を生じさせるものであると判断されています。

結論として、被告が被告各標章をタイトルタグ及びメタタグとして使用することは、本件各商標権を侵害し、かつ、不正競争に該当することから、商標法36条1項、2項、不正競争防止法3条1項、2項に従い、原告は被告に対して被告各標章の使用を差止め及びデータの除去を請求することができると判断されています。

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4 原告の損害額

(1)著作物使用料相当額

原告各写真の著作物使用料相当額について、裁判所は、「原告各写真は被告サイト事業において極めて重要なものであるとは考えられるものの,広告写真としての原告各写真の創作性の程度が比較的低いことや原告の請求額に加え,ウェブサイトにおけるデータ変更の容易性等に鑑みれば,掲載期間に関わらず,一著作物当たり1000円と認めるのが相当である」と判断。
また、原告各文章等の著作物使用料相当額については、「原告各文章等は,これにより被告サイトが原告の公式サイトであるかのような外観を作出することができるという点において極めて重要なものであると考えられること,原告各文章等の創作性の程度が比較的高いことや原告の請求額に加え,ウェブサイトにおけるデータ変更の容易性等に鑑みれば,証拠上認定できる掲載期間に関わらず,一著作物当たり3000円と認めるのが相当である」と判断。
結論として、各著作物使用料相当額の合計は14万円と認定されています(18頁以下)。

(2)被告各標章、被告の商品等表示の使用による損害

被告サイト事業は、原告製品の注文を受けるとイケアストアで原告製品を仕入れてこれを梱包し発送するというものであり、被告サイトに誘引された顧客の購入した原告製品は、イケアストアで購入されることにより原告のフランチャイジーを通して原告の利益となっているのであるから、原告については被告サイトによる侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情等損害の発生の基礎となる事情があると認めることはできないと裁判所は判断。
結論として、商標法38条2項、不正競争防止法5条2項の損害の額は認められないとしています。

(3)弁護士費用

被告の不法行為等と相当因果関係のある弁護士費用10万円が認定されています。

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■コメント

イケアの標章をサイトのタグなどで使用してフリーライドする業者に対する訴訟ですが、経緯を見ると業者の居直るような対応は理解に苦しむところです。
別紙1には本事案で対象となった写真が掲載されていますが、商品カタログなどでよく見るマットや椅子、机などの商品写真です。
商品写真の著作物性については、スメルゲット事件(知財高裁平成18.3.29平成17(ネ)10094請負代金請求控訴事件)が先例としてありますが、ライティングを考えレタッチもされたブツ撮り写真については、著作物性がより認められ易いと考えられます。