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2015年02月20日

ログハウス調木造住宅事件−著作権 不正競争行為差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

ログハウス調木造住宅事件

東京地裁平成26.10.17平成25(ワ)22468不正競争行為差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 東海林保
裁判官      実本 滋
裁判官      足立拓人

*裁判所サイト公表 2015.2.13
*キーワード:建築の著作物、著作物性、写真、翻案、形態、商品等表示

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■事案

ログハウス調木造住宅の著作物性や不競法上の形態の商品等表示性が争点となった事案

原告:一般建築工事請負業及び設計監理等会社
被告:住宅用建築物新築工事及びリフォーム等個人事業者

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法10条1項5号、2条1項1号、不正競争防止法2条1項1号

1 原告表示の建物の形態の商品等表示性の有無
2 原告表現建物の著作物性
3 原告各写真につき被告による著作権侵害の成否

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■事案の概要

『本件は,別紙1原告表示目録記載の表示(以下「原告表示」という。)を付加したログハウス調木造住宅(以下「原告表示の建物」という。)を販売する原告が,別紙2被告表示目録記載の表示を付加したログハウス調木造住宅(以下「被告建物」という。)を販売する被告に対し,(1)原告表示の建物はその形態が周知な商品等表示であり,被告建物はその形態が類似するから,被告による被告建物の販売は,不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項1号の不正競争行為に該当する,(2)後記第3.4〔原告の主張〕において原告が主張する六つの表現上の特徴を有する建物(以下「原告表現建物」という。)は「建築の著作物」(著作権法10条1項5号)に該当し,職務著作として原告がその著作者となるところ,(顱鉾鏐陲砲茲詒鏐襍物の建築は,原告表現建物について原告が有する著作権(翻案権)を侵害する,(髻鉾鏐襍物の写真は原告表現建物の二次的著作物であるとして,被告による別紙4被告写真目録記載の各写真(以下「被告各写真」という。)を被告のホームページ(以下「被告ホームページ」という。)に掲載することは,原著作者である原告の著作権(公衆送信権)を侵害する,(鵝鉾鏐陲砲茲詒鏐雎銅命燭魴悩椶靴織僖鵐侫譽奪函憤焚次嵌鏐陬僖鵐侫譽奪函廚箸いΑ)の配布は,原著作者である原告の著作権(譲渡権)を侵害する,さらに,(3)別紙3原告写真目録記載の各写真(以下「原告各写真」という。)は,原告がその著作権を有するところ,(顱鉾鏐陲砲茲詒鏐雎銅命燭鯣鏐陬曄璽爛據璽犬坊悩椶垢襪海箸蓮じ狭陲原告各写真について有する著作権(公衆送信権)を侵害する,(髻鉾鏐陲砲茲詒鏐雎銅命燭魴悩椶靴織僖鵐侫譽奪箸稜柯曚蓮じ狭陲原告各写真について有する著作権(譲渡権)を侵害すると主張して,被告に対し,不競法3条1項,2項,著作権法112条1項,2項に基づき,被告建物の販売等の差止め,被告パンフレット等の配布の差止め,同写真及び同パンフレット等の廃棄,被告写真等の印刷等の差止め,同写真及び同写真を掲載したパンフレット等の廃棄,並びに被告ホームページから同写真の削除を求めるとともに,上記不正競争行為につき不競法4条に基づいて,また上記著作権侵害行為について民法709条に基づいて,損害賠償金及びこれに対する平成25年10月4日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。』(2頁以下)

<経緯>

H16 原告建物の展示、販売
H23 被告建物の設計、建築

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■判決内容

<争点>

1 原告表示の建物の形態の商品等表示性の有無

原告は、原告のログハウス調木造住宅はその形態が周知な商品等表示であり、被告建物はその形態が類似することから、被告による被告建物の販売は不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に該当する旨主張しました。

不正競争防止法2条1項1号「商品等表示」の意義について、裁判所は、「人の業務に係る氏名,商号,商標,標章,商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいい,商品の形態は,商標等と異なり,本来的には商品の出所を表示する目的を有するものではないから,商品の形態自体が不競法2条1項1号の「商品等表示」に該当するためには,(1)商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性),かつ,(2)その形態が特定の事業者によって長期間独占的に使用され,又は短期間であっても極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により,需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっていること(周知性)を要するものと解するのが相当である。」と説示した上で、原告ログハウス調木造住宅の商品等表示性について検討を加えています(30頁以下)。

(1)特別顕著性について

まず、特別顕著性については、一般住宅において客観的にみて他の住宅と異なる顕著な特徴を有するというためには、何らかの具体的に特定された形態であることが、「商品等表示」に該当する前提として必要とされるべきであるとし、原告が主張する6つの特徴は、いずれもその形態を特定するのに必要とされる建物全体の形状並びに屋根、柱、壁、窓、バルコニー、玄関等の具体的な形状、寸法及び位置関係といった構成要素が何ら具体的に特定されておらず、建物の抽象的かつ観念的な構成を示すにとどまると裁判所は判断。
原告表示の建物は、商品の形態の特定に欠けるとして、その形態が客観的にみて他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有していると認めることはできないと判断しています。

また、「仮に」として、原告が主張する6つの特徴を全て備えた建物が、原告表示目録記載の写真に具現された原告建物の特徴と相まって「商品の形態」に該当すると認められるとしても、原告表示の建物はその形態が客観的にみて他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しているとは認めることはできないと判断しています。

(2)周知性について

次に、原告表示の建物について、その周知性を認めることができるかについて検討しています(37頁以下)。

この点に関して原告は、展示場での展示・カタログの配布、広告・特集記事の掲載、グッドデザイン賞の受賞、原告の営業実績、東海地方での重点的な宣伝広告などを理由として、原告表示の建物は遅くとも平成23年3月頃には需要者の間で全国的に広く知られており、特に東海地方では他の地域以上に需要者から原告表示の建物が広く認識されるに至っており、商品等表示性を獲得していた旨主張しました。
しかし、裁判所は、原告の主張する平成23年3月の時点で原告表示の建物について周知性を獲得したと認めることはできないと判断しています。

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2 原告表現建物の著作物性

原告表現建物の著作物性に当たって、建築の著作物(著作権法10条1項5号)の意義に関して裁判所は以下のように説示しています(41頁以下)。

「建築物について,著作権法10条1項5号の「建築の著作物」に当たるとして同法によって保護されるには,同法2条1項1号の定める著作物の定義に照らして,知的・文化的精神活動の所産であって,美的な表現における創作性,すなわち造形美術としての美術性を有するものであることを要すると解するのが相当である。」
「そして,一般住宅の場合についてみると,通常,その全体構成や屋根,柱,壁,窓,玄関等及びこれらの配置関係等において,実用性や機能性(住み心地,使い勝手や経済性等)のみならず,美的要素(外観や見栄えの良さ)も加味された上で,設計,建築されるのであり,そのことに照らすと,一般住宅が「建築の著作物」に当たるということができるのは,客観的,外形的に見て,それが一般住宅の建築において通常加味される程度の美的創作性を上回り,居住用建物としての実用性や機能性とは別に,独立して美的鑑賞の対象となり,建築家・設計者の思想又は感情といった文化的精神性を感得せしめるような造形美術としての美術性を備えた場合と解することが相当である。」

その上で、原告が主張する6つの表現上の特徴は、主に機能性の観点から採用されたものと認められ、いずれも建物の抽象的なコンセプトそのもの、若しくはその実用性・機能性を抽象的に表現したものにすぎず、さらにそれら全てを組み合わせたものとしてみてもその内容をもってアイデアと離れた具体的な表現と認めるのは困難であるというべきであると裁判所は判断。

また、「仮に」として、原告が主張する6つの表現上の特徴が別紙1原告表示目録の写真に具現された原告建物の特徴と相まって具体的な表現であると認められるとしても、それらが一般住宅の建築において通常加味される程度の美的創作性を上回り、居住用建物としての実用性や機能性とは別に独立して美的鑑賞の対象となるものとは認められないというべきである、と判断しています。

結論として、原告表現建物の著作物性は否定されています。

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3 原告各写真につき被告による著作権侵害の成否

原告は、被告各写真は原告が著作権を有する原告各写真を被告が翻案したものであり、これらの被告各写真を被告のホームページに掲載することで自動公衆送信を行い、また、被告各写真を掲載したパンフレットを配布することで譲渡を行っており、原告の原告各写真の公衆送信権及び譲渡権を侵害すると主張しました(48頁以下)。

この点について、裁判所は、翻案(著作権法27条)の意義に関する江差追分事件最高裁判決(最高裁平成13年6月28日第一小法廷判決)に言及した上で、被写体が違うことや原告表現建物の著作物性が否定されていることを前提に、「被告各写真が原告各写真に依拠することを前提に,撮影時期,撮影角度,色合い,両角等の表現手法において,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えたものと認められるか」について検討するのが相当であると説示。
そして、

(1)被写体を玄関面左斜め下から玄関面と左側面側の全体が見えるようにしたもの(斜め写真)

構図において原告斜め写真と近似するとしても、そもそも撮影対象自体が異なること、その撮影時期や光量の調整、陰影の付け方において原告斜め写真と違いがあり、被告斜め写真が原告斜め写真に依拠し、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持していると認めることができない。

(2)玄関面を真正面から玄関面全体が大きく見えるようにしたもの(正面写真)

構図や撮影時期において原告正面写真と近似するとしても、そもそも撮影対象自体が異なること、その陰影の付け方や背景においても違いがあり、被告正面写真が原告正面写真に依拠し、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持していると認めることができない。

結論として、被告各写真が原告各写真を翻案したものではないとして、著作権侵害性を否定しています。

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■コメント

ログハウス調木造住宅の著作物性などが争点となった事案です。判決文に別紙が添付されているので、どのような建築物であるかがよくわかります。
一般住宅の建築物の著作物性判断の先例としては、積水ハウス事件(大阪地裁平成15年10月30日)がありますが、そこでは、不正競争防止法2条1項3号商品形態模倣性の論点のほか、写真の複製性が検討されています(写真の複製性肯定)。
原告の建物は平成16年度のグッドデザイン賞を受賞していますが、積水ハウス事件で判示されているのと同様に、グッドデザイン賞自体から建物に美術性、芸術性が具備されていると認めることはできない旨本事案でも言及されています。
原告は丁寧に建物の独創性を主張しましたが、著作権法で保護される一般住宅における造形美術としての美術性のハードルは高く、不正競争行為論によっても裁判所の理解を得ることは出来ませんでした。

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■参考判例

積水ハウス事件 大阪地裁平成15.10.30判決
判決PDF

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■参考文献

大森文彦『建築の著作権入門』(2006)52頁以下

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■参考サイト

三浦正広「建築の著作物における著作物性−積水ハウス事件−」『発明』101号(2004)
判例評釈
written by ootsukahoumu at 08:55│TrackBack(0)知財判決速報2014 

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